ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


191話

 こうして、女王陛下との極秘会談は終了して。

 

 ジョセフ達は、グレン達に遅れて領事館の外へと向かい、館内を歩いていた。

 

「ところで、最近はどうだ?」

 

 ふと、マクシミリアンはジョセフとアリッサに振り返り、最近の学院生活のことを尋ねる。

 

「アリッサも長期休暇前――『裏学院』の件から入ってしばらく経つが、慣れたか?」

 

「ああ、最初は本当に苦労しましたよ。こいつの衣着せぬ物言いで、言い寄って来た男子どもが何人泣く羽目になったことか……そして、その怒りが俺に向かってきて、アリッサがホームランを打ちまくるという構図がしばらく続きましたよ……」

 

 アリッサが入って来た最初の頃を思い出したのか、げんなりとした顔で振り返るジョセフ。

 

 確かそれで一時、医務室が満員になって、セシリア先生が血を盛大にまき散らしてあの世一歩寸前まで行ったんじゃなかったっけ?

 

「うん、まぁ……いつも通りだったんだな?……それは何よりで……」

 

 最初から平常運転だったアリッサの様子に、マクシミリアンはそう言うしかなかった。

 

 ある意味、アリッサはメンタルが強いのかもしれない。

 

「で、お前の幼馴染さんは?お前とアリッサが仲良いから妬いてんじゃないのかい?うん?」

 

「…………」

 

 妬いている……というよりも、ジョセフを独占したいというレベルまでいってるんですが……

 

 もちろん、他の二人も程度の差はあれ、そのレベルに達しつつあるような……

 

「ジョセフ……女の子がシビレを切らすとな、向こうから強引に押し倒して、既成事実を作りにかかるからな……それも一回とは限らず何回も、な」

 

「……ははは、准将。いくらなんでもそんなことは――」

 

 ――ありそうな気がする。

 

 隣では獲物を狙っている目で見てくるアリッサと、にやにやしながらとんでもないことをのたまうマクシミリアンに、ジョセフは脂汗を垂らすのであった。

 

「……うん、とりあえず、まぁ、ヤバい領域に入っているのはわかった」

 

 それを見て、なんとなくジョセフ周辺の恋愛事情を察したマクシミリアンは、そう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 領事館の外にて、マクシミリアン達はシュタイナーと合流して、シュタイナーからある情報を三人はそれぞれ受け取った後、別れることになった。

 

「さぁて、明日から忙しくなるぞ」

 

 明日から悪い意味で忙しくなるであろうことに、ジョセフは溜め息を吐きながら、アリッサと一緒にホテルへ帰っていた。

 

 因みに、シュタイナーはマクシミリアンからガルシアに調べてほしいものがあるという旨を伝え、領事館に出た時に、気になる情報を得ることができた。

 

 そのため――

 

「明日、俺は帝国代表選手団の様子を見ながら競技場に怪しい動きはないか監視してみるから、お前は連邦代表選手団がいる観客席から怪しい動きはないか見てくれ」

 

「うん、わかった」

 

 明日、ジョセフとアリッサは試合中、別行動をとることになっていた。

 

 明日の行動を聞いたアリッサは、それをすんなりと了承し、頷いていた。

 

 ジョセフはそれを一瞬、意外そうに見たが、すぐにアリッサのこの余裕っぷりを察した。

 

 なぜなら、今、ツインテールお嬢とモデル顔負けの大人びた少女がいないのである。

 

 まぁ、要するにアリッサにしてみれば、自分の恋の二大障害がいないからこその余裕なのであった。

 

(……ほんと、こいつにはなんて言ったものか……)

 

 と、ジョセフが物思っていた、その時であった。

 

「ねぇ、ジョセフ。あれ……」

 

 ふいに、アリッサに袖を掴まれたジョセフは考え事を止めると。

 

「ん?あれ……?」

 

 視線を上げた先には、見覚えのある小柄な少女が、ある聖堂に入っていくのが見えた。

 

「さっきのマリアじゃん。なんで、一人で行動してんだ?てか、大丈夫なんか、一人で行動しちゃって」

 

「それよりもジョセフ。この聖堂……」

 

 ジョセフが不思議そうに首を傾げると、アリッサは聖堂を見る。

 

 ジョセフがその聖堂を見る。この聖堂は確か――

 

「聖ポーリィス聖堂?ていうか、この聖堂って……」

 

 なんとなくマリアの行動を察したジョセフとアリッサは、聖ポーリィス聖堂の中へと足を踏み入れていくのであった。

 

 

 

 

 

 外の賑わいとは裏腹に。

 

 聖堂の内部は、流石に清澄なる静寂で満たされていた。

 

 周囲には聖画やステンドグラスなどが張り巡らされ、やや薄暗い聖堂内を歩いているだけで、かつて信心深かったアリッサはもとより、信心浅いジョセフも、どこか厳かな気分となってくる。

 

 壁に等間隔に設けられた金の燭台の灯火を頼りに、ジョセフ達は赤絨毯の敷かれた身廊を真っ直ぐに進んでいく。

 

 側廊の交差点を過ぎり、さらに奥の内陣の方へ。

 

 やがて辿り着いた、礼拝堂。

 

 そこに設置された聖印の祭壇の前に――その目当ての人物はいた。

 

「――天にまします我等の神よ、願わくは御名が尊まれ、主の慈悲が我等を包み、御国の来たらんことを――」

 

 その一瞬、ジョセフは目の前の人物が誰なのか忘れていた。

 

 マリアだ。確かにその少女はマリアに違いない。

 

「主よ、ああ、主よ、汝が威光を遣わしたまえ。御心が天に行われる通りに、地にも行われんことを。我等をその絶えざる光を以て照らしたまえ。今日も朗らかに、健やかに過ごせるよう、導きたまえ……」

 

 だが、両膝をついて手を組んで、頭を垂れ、一心不乱に祈りを捧げ続けるその姿。

 

 普段の明朗快活でお茶目なあの少女の姿が、まるで重ならない。

 

「主よ、憐れみたまえ。いとも力ある……いとも堅忍なる主よ、我等を憐れみたまえ。我等の罪を赦したまえ。我等が我等の望むことのみならず、汝の望まれることを行い、隣人達を思って生きる喜びを、我等に見いださせたまえ……」

 

 天井のステンドグラスを通して、柔らかな光が、祈るマリアに降り注いでいる。

 

 まるで人生の全てを信仰に捧げた聖女――そんな姿に圧倒され、ジョセフ達はマリアの祈りを見守るしかなかった。

 

「そして、願わくは……我が祈りを聞き届けたまえ……真にかくあれかし(ファー・ラン)

 

 程なくして、マリアの祈りは終わり、胸元で二度十字を切る。

 

 しばらくの間、マリアは無言で残心して。

 

「……ふぅ」

 

 やがて、満足したように息を吐いて立ち上がり、その場を後にしようと振り返る。

 

「…………」

 

 当然、ばっちりと、ジョセフとアリッサもいたし、同じく後を追っていたグレンとルミアとも会ってしまった。

 

「は、はぅううううううううううううううう――ッ!?」

 

 途端、それまでの敬虔な様子はどこへやら、マリアは素っ頓狂な声を上げて飛び上がるのであった。

 

「せ、せ、せ、先生!?ルミア先輩!?ジョセフ先輩!?アリッサ先輩!?どうしてここに!?」

 

「そりゃ、こっちの台詞だ」

 

「ひょ、ひょひょひょ、ひょっとして見てました!?見ちゃいましたか!?」

 

「ああ、見た。ばっりちな。マリア……お前、実は――」

 

「じょ、ジョークでぇええええすッ!?ちょっと、敬虔なシスターキャラが先生に受けるかなと思いまして!?どうです!?ぐっと来ましたか!?あは、あははっ!」

 

「聖ポーリィス聖堂は、旧教……エリサレス教カノン派の聖堂よ」

 

「わーっ!わーっ!わぁーッ!アリッサ先輩、そうだったんですかぁ!?私、全然、知らなかったなぁ!?聖堂なんてどれも一緒に見えますしぃいいいいい――ッ!?」

 

「一週間に一度、適当に祈ればいい帝国国教会と連邦聖公会……新教とは違い、旧教は日に二度の礼拝は絶対よ。だから、一人でキョロキョロしながら、歩いていたわけね」

 

「いえ、その、わ、私は――」

 

「真にかくあれしのイントネーション、祈りの後に二度切った十字……元・信者だった私ならわかるわ。貴女、旧教信者だったのね……割と信心深い」

 

「う、ぅううぅ……ぅううううう……」

 

 もう言い逃れは出来ないと悟ったのか。

 

 マリアは顔を隠して、がっくりと項垂れるのであった。

 

「……ったく、別に隠すことはねーじゃねえか。確かに少数派だが、アルザーノ帝国内にだって、旧教信者はいるんだぜ?旧教を禁教にしている連邦聖公会ならともかく、帝国国教会は他宗派に寛大だしな」

 

 グレン、マリア、ジョセフ、ルミア、アリッサは、礼拝堂に並ぶ長いすに並んで腰掛け、マリアから話を聞いていた。

 

「う……その……あんまり可愛くないじゃないですか……せっかく、垢抜けた都会派の女の子を目指していたのに……実は、帝国と連邦じゃあんまり評判のよくない宗派の芋臭いガチ信者だったなんて。……先生も幻滅したでしょう?」

 

「別に?」

 

 マリアの心配を、グレンはあっさり切って捨てる。

 

「お前が目指す可愛い女の子像よりも、神サマへの祈りが大事だったんだろ?別に捨てるこたーねえよ。自分が自分自身の心を裏切ってどうする?お前はお前だ。もっと、胸を張りな」

 

 自分にそんなことを言う資格なんて何のは重々承知しながらも、グレンは言った。

 

「せ、先生……」

 

「”言葉は道具で、聖書は道具箱”って、よく言ってたやつがいてな……要は、新教・旧教問わず、良い奴がいれば、悪い奴もいる。だったらそりゃ、宗教や聖書が悪いんじゃなくて、それを奉ずる人間そのものの問題ってこった。……そうだろ?」

 

「う、うぅ……ありがとうございます、先生……やっぱり、私……小さい頃からの祈りと信仰は、どうしても捨てられなくて……」

 

「……まぁ、それでも勝手に単独行動すんのは勘弁して欲しいんだが」

 

「それはごめんなさいっ!引かれると思って、言い出せなかったんだすっ!」

 

 ようやくいつもの調子が戻って来るマリア。

 

「それにしても……小さい頃からっていうことは、やっぱり、マリアさんのご家族は皆、カノン派なんだ?」

 

 そんなルミアの問いに……

 

「……いえ、実は……私、捨て子なんです」

 

 マリアは少し寂しげに笑いながら、そんなことを言った。

 

「捨て子?」

 

「あっ、はい。もっと言えば……私、実はアルザーノ帝国出身じゃなくて、レザリア王国出身なんです。国籍は変更してますけど」

 

 なんと、マリアはレザリア人であったらしい。

 

「私が本当に小さかった頃……何かがあって、私は家から捨てられました。そして、遠い異国の地……アルザーノ帝国に送られ、旧教系の修道院でずっと……」

 

「……そんな……ごめんなさい、マリアさん。私、そんなつもりじゃ……」

 

「大丈夫ですよ。昔のことですし、もう乗り越えちゃいましたから」

 

 すまなそうに目を伏せるルミアに、マリアは力強く笑った。

 

「私のレザリア王国の実家は、教会でして……私はよく、さっきみたいに、お父さんと一緒に祈っていたんです。優しかったお父さん……もう顔も思い出せませんし……結局、私を捨ててしまった人だけど……あの優しさが嘘だったなんて、私には思えない……思いたくないんです」

 

「…………」

 

「だから……この祈りは、お父さんを感じていられる大切なもの……これだけはどうしても捨てられないんです……あはは、変ですよね?捨てられたのに」

 

「マリアさん。その……実家の場所は……?」

 

「残念ながら、小さい頃の話なので……実家の場所はもう思い出せませんし、手がかりもなくて……それに、場所はレザリア王国。今の帝国と王国の政情じゃ、おいそれと足を踏み入れられませんしね。故郷に帰ることは……実はもう諦めてるんです」

 

 あの天真爛漫で明朗快活な少女に、こんな過去があったとは。

 

 グレンはマリアの語りを黙って聞くしかない。

 

 だが――

 

「だから!私、今回の魔術祭典、一生懸命頑張ったんです!」

 

 ――マリアは元気一杯に立ち上がっていた。

 

「魔術祭典には、世界中の人が集まります!もちろん、レザリア王国からも!だったら……ひょっとしたら、お父さんも観戦しにやってくるかもしれません!」

 

「マリアさん……」

 

「魔術祭典の舞台で私が頑張れば、ひょっとしたら、私のことをお父さんが見てくれているかも……ひょっとしたら……お父さんにまた、会えるかも――ひょっとしたら……」

 

 すると、熱っぽく語るマリアは、茶目っ気たっぷりに笑って言った。

 

「あはは、ひょっとしたらばっかりで、やっぱり子供みたいですよね?それでも、私は……」

 

「そんなことはないよ!」

 

 語気強いルミアの言葉が、礼拝堂内に響いた。

 

 目を瞬かせるマリアの手を取り、ルミアは訴えるように言う。

 

「きっと……きっと、マリアのお父さんは、マリアのこと見ているよ」

 

「ルミア先輩……」

 

「だって、マリアのことを見ていれば、わかるの。マリアのお父さんは……きっと、マリアのことを愛してくれていたんだって。マリアを手放したことだって……きっと、何かやむにやまれぬ事情があったからだって……だから、マリアの祈りはきっと、お父さんに届いているよ。きっと、マリアのことをどこか見守っているよ」

 

 ルミアの言葉は、どこか確信に満ちていた。

 

(……ルミア。そうか、そうだよな……お前は……)

 

 そんなルミアの熱っぽい言葉を聞きながら、グレンは物思う。

 

 そう、似ているのだ。この二人は。

 

「先生」

 

 そんなルミアの熱っぽい言葉を聞いていた、その時だった。

 

「どうした?ジョセフ」

 

「俺達はお先に失礼します。その……アリッサが……」

 

 言葉を選ぶように言うジョセフが、アリッサの方を向くと。

 

 アリッサは、今まで黙っていたのだが全身をわなわなと震わせていた。

 

「どうしたんだ、アリッサは?」

 

「……先生、マリアは確かにレザリア王国のことを悪く思っていないと思いますが、アリッサの場合、両親を殺されているんです。……教皇庁――聖堂騎士団に」

 

「!」

 

「だから、マリアは悪気はなかったと俺がアリッサに言っておきます。とにかく、このままだと――」

 

「……ああ、わかった。アリッサのことはお前に任せるわ」

 

「すみません、先生。じゃ、また明日」

 

 そう言ってジョセフは、アリッサの元に向かい、先に聖堂を出て行く。

 

(そうだったな。わからんでもねえ。アリッサの場合は――)

 

 わなわなと震え、今にも怒りが爆発しそうなアリッサの姿を見て、グレンは頭をかいて溜め息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 一足先に聖堂から出たジョセフ達は、そのままホテルの帰路についていた。

 

 二人は並んで歩いているが、さっきまでとは違い、会話がない。

 

 いや、とてもではないが会話できるような状態じゃない。

 

(……無理もないよな)

 

 ジョセフは、顔を俯いたまま隣で歩いているアリッサを見て、物思った。

 

(マリアは悪気はなかったと思うし、嘘ではないと思う。けど、こいつの両親も王国の手によって裏切り者として殺されたのもまた事実なんだ。そう、これは理屈の問題じゃない)

 

 マリアの実家が教会っていうのも、アリッサの今まで封じ込めたかった忌々しいあの記憶を思い出してしまったのかもしれない。アリッサの両親は教会――聖エリサレス教会教皇庁の手によって、抹殺されたし、アリッサ自身もジョセフがもう少し遅かったら殺されていたのかもしれないのだから。

 

 落ち着いたら、後で話をしておこうとジョセフがそう思った、その時。

 

「……ジョセフ」

 

 ふいに、アリッサがぎゅっとジョセフの袖を掴み、寄りかかってきた。

 

「アリッサ……その、マリアは決して――」

 

「わかっているわ。教皇庁の連中の中に優しい人もいるっていうのも、わかっているわ。でも……」

 

 アリッサは、ジョセフの腕をぎゅうっと、力強く抱く。

 

「……ねぇ、ジョセフ。しばらく、このままでいさせて……ホテルの私の部屋まででいいから」

 

「……好きにしろ」

 

 そう言いいながら、二人はホテルまで無言を貫くのであった。

 

 そして、ホテルに帰り着き、ジョセフはアリッサを彼女の部屋まで送る。

 

「じゃあ、明日、あいつらの面倒よろしくな」

 

「うん、お休み」

 

「お休み。今日はさっさと寝とけ。んじゃ――」

 

 そう言ってジョセフが、アリッサの部屋を離れようとした、その時。

 

 突然、ぐいっと。アリッサに腕を掴まれる。

 

 突然のことに、ジョセフは驚く間もなく、アリッサの部屋の中に引きずり込まれる。

 

 そして、アリッサが鍵をかけ――

 

「――ちゅ……あむ……じゅる……はふっ……ジョセフぅ……んん……」

 

 ジョセフを壁に押し付け、唇を重ね、激しくキスをするアリッサ。

 

 ジョセフは、アリッサから離れようともがくが、やがて諦めのか、今のアリッサの心情を知っているせいなのか、流れるままに身を任せる。

 

 そして、それからジョセフとアリッサが身体を重ねるのは、そんなに時間はかからなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 





アリッサに性的に襲われるジョセフ。そして、再び修羅場の火種がまた一つ……

……うん、これはヤバい(笑)
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