ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


192話

 次の日。

 

 ついに、アルザーノ帝国代表選手団の試合の時がやって来る。

 

 初戦の相手は、砂漠の国ハラサ――占星天文塔の学士生アディル=アルハザッドが、メイン・ウィザードを務めるチームである。

 

 セリカ=エリエーテ大競技場の観客席は、すでに満席御礼状態。

 

 試合開始まで、まだ一時間もあるというのに、相変わらず熱狂ぶりであった。

 

 そんな観客達の熱気と歓声を少し遠くに感じる、大競技場の選手待機室の通路にて。

 

(確か、帝国の相手はアディル率いるハラサだったよな……あの国の選手か……)

 

 ジョセフは通路を歩きながら、システィーナ達が相手するアディルのことを思い出していた。

 

(あの国の国柄なのか、彼、俺ほどではないが実戦慣れしているはず……)

 

 学生らしからぬ実戦慣れをしているのは、実はシスティーナも同じなのだが。

 

(そして、今回の試合内容はメイン・ウィザードを戦闘不能にするという極めて単純な試合……)

 

 今回の試合、勝率は五分五分といったところか。

 

(まぁ、油断せずに堅実にいけば勝てない相手ではないわけで。……さて、目下の問題は……)

 

 第十三聖伐実行隊がシスティーナ達に何かしでかそうという問題なのだが。

 

(試合中にはまず仕掛けてくることは考えられない。試合中は外部から魔術を行使することは不可能なのだから、この間は安全や。……皮肉にもな)

 

 つまり、帝国が試合を勝ち進めば勝ち進むほど、連中は直接手を出しにくくなる。

 

 試合外の時は、グレン、イヴ、そして、ジョセフとアリッサで援護して対処するしかない。

 

 なにはともあれ、今は帝国代表選手団を第十三聖伐実行隊から守ることである。

 

(とりま、あいつらの様子を見てみるか)

 

 そして、ジョセフはシスティーナ達が待機している選手待機室の前に立ち、扉を開けると――

 

「どうもー、帝国代表選手団の皆さん、お疲れ様……です?」

 

 いつものように入っていくと、そこには談笑に興じていた生徒達と、それを見ているグレンとイヴがいた。

 

 まぁ、これだけなら”試合前なのにまぁリラックスしているこって”っと、思うだけなのだが。

 

 ジョセフがなぜ固まっているのかというと。

 

 そこには、カッシュ、セシル、リンと――

 

「――んー、っと……」

 

 一回目をこすり、もう一回見ると、そこに二人の少女がいた。

 

「あら、ジョセフ」

 

「あらあら、ジョセフ。ふふ、お疲れ様です」

 

 なんで、お前らがいるんですかね?

 

 決して表に出さないが、そう思うと同時に、冷や汗をかくジョセフ。

 

 ここにアリッサがいなくて良かった。

 

 最近のこの三人のジョセフを巡っての三人の様子を見て、ジョセフは冷や汗をかきながら、そう思うのであった。

 

「えーと、なんで、ウェンディ達がここにいるんですかね?」

 

「ちょっと休学届を出して、先生達の応援しに来たんですわ」

 

「……さいで」

 

 まぁ、それはそうと、っと。ジョセフは切り替え、グレン達のところに向かう。

 

「先生、イヴさん」

 

 そして、誰にも聞かれないように、グレンとイヴに囁くように言った。

 

「一応、俺とアリッサも連中が何かしてこないか見ときますんで。んで、もし、何らかの不穏な動きがあったら、先生達にも知らせますので、これ、つけといてください」

 

 そう言うと、ジョセフは二つの通信機をグレンとイヴに差し出す。

 

 それを受け取るグレンとイヴ。

 

「それと、二人に聞きたいことがあるのですが」

 

「聞きたいこと?なんだ?」

 

 グレンが怪訝そうにジョセフを見ると、ジョセフは生徒達をちらりと見て。

 

「……マリアのことなんですが、先生達は何か知っていることありますか?」

 

「マリア?どうして、マリアが……?」

 

 なぜ、マリアのことを聞くのか?イヴが首を傾げる。

 

 グレンはしばらく考え――

 

「――いや、俺が知っているのは、昨日、お前らも知っている通り、レザリア王国の実家から帝国の旧教系の修道院に送られて過ごしてきたことしか知らねえよ。なんだ、マリアがどうかしたのか?」

 

「いえ……ならいいのですが……」

 

 何か歯切れの悪いジョセフ。

 

「……?まぁ、いい。とりま、俺達も警戒しとくわ」

 

「ええ、お願いします。じゃあ、俺はこれで失礼します。この試合、帝国が勝つことを願っています」

 

 さてと、とジョセフは踵を返し、システィーナのところに向かう。

 

「システィーナ、調子は?」

 

「あ、ジョセフ。ええ、まぁ、いいけど……ねぇ、ジョセフ」

 

「ん?」

 

「あのね、ついさっきまで、その……私、おかしくなったんじゃないかと思ってね」

 

「おかしくなったぁ?」

 

 なんか意味不明なことを言うシスティーナに、ジョセフは目を点にする。

 

「えっと、なんていえばいいのかしら。その、これから相手するのに、あんな凄い人と競い合えることを、楽しみにしている私がいるし……」

 

「…………」

 

「極度に集中力が高まっていて……とでもいうのかしら?ぼんやりと別の事に耽っていたのに、先生が説明した内容はしっかり頭の中に入っていて……」

 

「…………」

 

「なんか研ぎ澄まされ過ぎて、私自身も戸惑っていて……さっきなんてカッシュ達が来ているのを足音だけでわかって……ねぇ、ジョセフ、私っておかしくなってしまったの?」

 

 そう不安そうな顔で見るシスティーナに。

 

「……まぁ、お前が今までの騒動でかなり実戦慣れしているっていうのもあるのかもしれないな」

 

「実戦慣れで、こうなっているの?」

 

 ん、と。ジョセフは頷く。

 

「今までの相手が相手だったからな。それで、研ぎ澄まされているのかもしれない。実際、俺もアリッサも最初はそんなもんだったよ」

 

 そう言って、ジョセフはシスティーナを流し見る。

 

「まぁ、今はそれだけや。お前は人を殺していないからな。だから、そこまで深刻に物事を取らなくてもいい」

 

「そう、ならいいんだけど……」

 

「ほら、世界に名高き魔導大国のメイン・ウィザードがそんな調子じゃ、勝てる試合も落としてしまうで?心配すんな。お前はお前が思っている以上に、力がついているんだから」

 

「……ジョセフ、ありがとう」

 

 すると、先程までの不安はなくなり、普段通りの状態に戻っていくシスティーナ。

 

「あと、もう一つ。作戦を立てる時、決してその作戦に固執したらあかんで?実戦は不確定要素が多いからな。作戦を立てたら、後は臨機応変に、な」

 

「固執するな……臨機応変に、か」

 

 ジョセフがシスティーナにアドバイスを言うと。

 

「そろそろ時間です。本日の試合に挑むアルザーノ帝国代表選手団の皆様、試合会場への移動をお願いします」

 

 係の者が待機室にやって来て、移動を促してくる。

 

 いよいよ、世界を舞台にした戦い……その第一戦が始まろうとしていた。

 

 そして、係員に従って部屋を出ようとするシスティーナの背中に。

 

「システィーナ」

 

 グレンが、力強く声をかけ、システィーナが振り返る。

 

「……頑張れよ。お前の力、見せてやれ」

 

「はいっ!行ってきます、お師匠様!なぁんてね♪」

 

 システィーナはにやりと不敵に笑って、グレンへおどけたように敬礼し、部屋を後にするのであった。

 

 因みに――

 

「ジョセフ、これからどこへ行くんですの?」

 

「……これから、連邦代表選手団のところに戻るけど。今、あそこは監督さんとアリッサが面倒を――」

 

「あらあら。なら、連邦の方は大丈夫ですね。今から私達とシスティーナ達の試合を観ませんか?」

 

「いや、だから、あのな――」

 

「いいですわよね?」

 

「…………」

 

 ジョセフは部屋を後にしようとした時、ウェンディとテレサに両腕を掴まれている状態になっていた。

 

 これ、アリッサから剣飛んでくんじゃないかな……?

 

 最近の三人の少女のジョセフを巡る争奪戦は激しさを増すばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 フィールドへと続く長い通路を通って、門を潜る。

 

 すると、そこには赤茶けた岩肌の、広大な山や渓谷が複雑に広がっていた。

 

「……す、凄いです!?なんなんです、ここ!?本当にあの、セリカ=エリエーテ大競技場なんですか!?」

 

 見る者全てを圧倒する厳しい大自然の偉容に、マリアが素っ頓狂な声を上げた。

 

「確かに、アルザーノ帝国魔術学院の魔術競技場にも、環境操作機能はありますが……」

 

「ここの会場の機能は、それを圧倒的に上回っているな」

 

 恐らく、魔術で空間も歪めているのだろう。このフィールドは明らかに、本来の面積を大きく超えている。

 

 リゼも、ギイブルも、想像を絶する大競技場の機能に感嘆するしかない。

 

「ルールを確認するわよ?」

 

 システィーナが一同を振り返りながら、言った。

 

「と、言っても、ルール自体は凄く単純。今回は、互いのチームの主将……要は、メイン・ウィザードを戦闘不能にした方が勝ち」

 

「けど、このフィールド内には、召喚術で支配召喚された多くの魔獣が放し飼いにされているわ。彼らは人を見たら、襲うように命令されている……殺さない程度にね」

 

 と、リゼが補足する。

 

 一同が周囲の気配を探れば、危険な魔獣がうようよしているのがわかった。

 

「要は、魔獣を撃退、もしくは、やり過ごしながら、いかに相手のメイン・ウィザードを撃破するか……いかに、自分らのメイン・ウィザードを守るか……なるほど」

 

 レヴィンが髪をかき上げながら、スカしたように言った。

 

「で、どうする?システィーナ。どう動く?」

 

 ギイブルの問いに、システィーナはしばらく押し黙り……

 

「……二手に分かれましょう」

 

 冷静にそう分析した。

 

「どうせ、向こうにも腕利きの使い手がいるわ。隠れたって意味ない。そんなことよりも、自分達に有利な戦場を積極的に確保しましょう。とにかく、向こうより先にこっちが仕掛けるの」

 

「!」

 

「索敵班と掃討班に分かれるわ。互いに通信魔術で連携を取り合いつつ、索敵班は敵チームや魔獣の動きを探る。掃討班は、索敵班からの情報に従って、魔獣を掃討して陣地を確保。有利なポジションを取ったら合流。一気に仕掛けるわ」

 

 そして、システィーナは一同を振り返って、堂々と指示を出す。

 

「索敵班は、レヴィンをリーダーに、ハインケル、ギイブル、ジニー……貴方達四人に頼むわ。掃討班は、私をリーダーに、リゼ先輩、ジャイル君、コレット、フランシーヌ、マリア……この六人でいく」

 

 その迷いのない、自信に満ちた采配に、自然と頷く。

 

 もう誰もが認めていた。

 

 この大舞台を前に、微塵も気負いも緊張の欠片もなく、ただその戦乙女のように凛とした瞳の先に、鋭く勝利を見据えているシスティーナこそが、自分達のリーダー……帝国のメイン・ウィザードなのだと。

 

「へっ……てっきり、消極的な穴熊でもやるかと思ってたがよ……成る程、アンタ、女のくせに、度胸のいい采配をするじゃねえか……気に入ったぜ?」

 

 ジャイルが獰猛に笑ってみせる。

 

 システィーナは、それに不敵に笑い返して。

 

 その瞬間、試合開始を告げる花火が、フィールドの空に上がった。

 

「――行くわよ、皆!私に力を貸して!」

 

「おうよッ!」

 

「任せろですの!」

 

 こうして、システィーナ達は、自身の身体に刻んである身体能力強化術式に魔力を通して、疾風のように散開するのであった――

 

 

 

 

 

「……始まったな」

 

「ええ、そうね」

 

「……頑張って、システィ……」

 

 ――観客席にて。

 

 グレン、イヴ、ルミア、エレン、ジョセフがフィールドの様子を見守っていた。

 

 とはいっても今回、フィールドは空間を歪めて敷地を広げているので、グレン達から見下ろすフィールドの光景は、まるでミニチュアだ。

 

 ゆえに、会場の空に、まるで窓のような映像が、光の魔術で無数に投射されている。

 

 それらは、選手達視点の映像だったり、フィールド視点の映像だったりと、あらゆる種類の映像があって、試合や全体の流れを誰もが把握できるようになっている。

 

 観客席の誰もが、空の映像を見上げ、動き始めた試合に沸き立ち始めていた。

 

「……とりあえずは安心ね。第十三聖伐実行隊の連中が、いつ、どんな妨害をしかけてくるかとずっと構えていたけど……」

 

「ですね。フィールドには、観客席から干渉されないよう、断絶結界が敷かれていますし。干渉は不可能だし、しようとすれば、ウチ達にも筒抜けですしね。皮肉な話ですけど、あの危険極まりない試合中は安全ってわけです」

 

 複雑な気分でそんなことを言い合うイヴとジョセフであった。

 

「……ジョセフ。お前、顔がすげーやつれているぞ?」

 

「そりゃ、最近、暴走気味のWさんとTさんとAさんに振り回されていますからね。……ここにいるのも、Tさんの【サイ・テレキネシス】でここまで強制的に連れてこられましたからね」

 

「……さいで」

 

 システィーナ達が選手待機室を出た後、ジョセフは脱出を図ろうとするが、モデル体型の少女Tさんの【サイ・テレキネシス】に捕まり、ずるずると引きずられてきたのだ。

 

 もう、アリッサと二人きりにさせるのを阻止するためならば、手段も問わなくなっているんですが。

 

「まぁ、それはそうと、だ。それにしても白猫のやつ、良い判断だ」

 頭上の映像の中、システィーナが襲いかかってくる魔獣シャドウ・ウルフをもの凄い手際で処理していく様子を見ながら、グレンは言った。

 

「魔獣は、自分の領域を守るものだ。どこにどんな魔獣が縄張りを張っているのか、安全地帯はどこなのか、早々にそれを知るのが重要だ。一塊になって自分の身の守りを固めず、大胆に索敵班と掃討班に分かれたのは好判断だ」

 

「そうね。あの子……案外、将才もあるのかもしれないわね」

 

 グレンの言葉に、珍しくイヴもどこか誇らしそうに応じていた。

 

「ぅおおおおおおおお――ッ!行けぇ!システィーナ!」

 

「皆、凄い……あんなにたくさんの魔獣に全然怯んでなくて……」

 

 グレンの背後では、カッシュ、ウェンディ、テレサ、セシル、リンが歓声を上げて、システィーナ達の戦いを見守っている。

 

「……ふむ。なかなか良いペースで、陣地を確保していってるな。魔術狙撃に適した高所を押さえて……これを魔導兵団戦と見るなら、実にセオリー通りだぜ」

 

 グレンはシスティーナ達の侵攻ルートと、手元のフィールドの地図を見比べながら、そう判断した。

 

「しっかし、意外だな。ハラサの連中はどうにも、陣地確保がもたついてやがる……」

 

 ちらりと見ると、ハラサ側のチームは、あまり後世に積極的でないようだ。

 

 かと言って、メイン・ウィザードを大事に守る穴熊作戦というわけでもない。

 

 実に、どっちつかずの中途半端な立ち回りだ。

 

「このまま行けば、白猫達、高所からの十字砲火をしつつ、挟撃できる……へっ、案外、こりゃ簡単に圧勝しちまうかもな」

 

 グレンが、からからと楽観的に笑う。

 

 だが、イヴとジョセフは鋭く空の状況を見据え、やがてイヴが難しそうに呟いた。

 

「……なるほど」

 

「なるほどって……何がだよ?」

 

「いえ、確かに、システィーナはこの手の戦いにおいては、実にセオリーな定石を綺麗に打ってるわ。見事だと言って良い。開始三十分、早くもこの戦場アドバンデージ……普通なら、もう帝国側の勝利がほぼ確定しているところだわ。……普通ならね」

 

「なんだよ?何かやけに含みがある言い方だな?」

 

「先生、常識的なセオリーだからといって、勝てるとは限らないんです。特に――非常識で”大”がつくほどの馬鹿相手には」

 

「……は?そりゃどういう――」

 

 と、その時だった。

 

 ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!?

 

 観客席が一斉にどよめいていた。

 

 

 

 

 

 







今回はユタ州です。

人口300万人。州都はソルトレークシティ。主な都市にソルトレークシティ、オグデン、プロボです。

愛称はミツバチの巣の州で、45番目に加入しました。

「ユタ」の名は、この地に先住するインディアン部族、ユテ族(「山の民」の意)に因んでいます。

カリフォルニア、ニューメキシコ、ネバダなどと同じく、当初はアルタ・カリフォルニアの一部で、1821年にスペインから独立を果たしたメキシコの領土でした(因みに、メキシコは1810年に独立を宣言し、1821年に国際社会から承認されました)。

そして、米墨戦争でアメリカがメキシコに勝利したため、1850年9月9日にユタ準州としてアメリカの領土になり、1896年1月4日に45番目の州として合衆国に加入。現在に至っています。

ロシアに茶番と言わしめた冬季オリンピックの開催都市であり(開催年は2002年。ロシアが茶番と言ったのはなんのことなのか、開催の前年に何があったのか知っている方はわかるはず)、モルモン教徒の拠点でもあるソルトレークシティがある州です。

地図で見るとイメージほどグレートソルトレークは大きくないが、それでも面積は滋賀県より広いです。

他にモニュメントバレーやアーチーズ、ザイオンなど見所が多い所です。


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