ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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連投ですが、どうぞ。


194話

「――いかさまだッ!?試合を止めろッ!」

 

 この予想外の展開に、観客達が騒然とする中。

 

 グレンが声を荒げて立ち上がり、叫んでいた。

 

「……落ち着きなさい」

 

「これが落ち着いていられるかよ!?」

 

 イヴの冷静な言葉に、グレンが吠えるように返す。

 

「あの銀の飛竜が、縄張りを出て、結界の守手を竜の咆哮で打ち倒し、白猫だけを狙うなんて、どこをどう考えてもいかさまじゃねーか!?」

 

「これが敵チームの魔術戦略という可能性があるわ。ひょっとしたら精神支配系か召喚系の魔術で、銀の飛竜を支配下にして……」

 

「ンなわけねえだろ!?ハラサの連中を見ろよ!?どう考えても予想外ですってツラじゃねえか!?」

 

「だから落ち着きなさいって、それもわかってるから」

 

 教え子の危機にひたすら動揺するグレンへ、イヴが冷や水を浴びせるように言った。

 

「私だって、これが十中八九、第三者の悪意ある干渉だって思ってるわ。でも、フィールドは外部からの干渉を完全に遮断する、強固な断絶結界で仕切られている。

 特に、魔術に関しては厳しい。第三者が、精神支配系や召喚術で、悪意ある干渉をできるはずがない。

 少なくとも、運営側はそれを確信しているから、ハラサ側が仕掛けた何らかの作戦と判断するしかない。試合を止めるわけにはいかないわ」

 

「銀の飛竜の魔術耐性のアホみてえな高さは知ってるだろ?学生レベルでそんな――」

 

「昨日の試合、それを日輪の国のサクヤ=コノハがやったばかりでしょう?」

 

「……あの規格外は例外だろうが……ッ!?」

 

 グレンは歯噛みするしかない。

 

 その規格外が居るかもしれないから、止められないのだ、と。

 

「まぁ、とにかく。……ようやくって感じね」

 

 そして、イヴも忌々しげに髪をかき上げ、その額に冷や汗を滲ませて言った。

 

「第十三聖伐実行隊……一体、何を、どうやって仕掛けてきたっていうの……?」

 

 姿形も見せぬ、得体の知れない敵の仕掛けに。

 

 グレンとイヴは焦燥のまま、試合の行方を追うしかなかった。

 

 

 

 

 

「アリッサ、そっちからなにかわかることはあるか?」

 

 観客席の通路にて、ジョセフは通信機でアリッサに今、フィールドで起きている予想外の展開のことについて問いかけていた。

 

 あれから、こっそりと抜け出そうとするたびに、テレサの【サイ・テレキネシス】に捕まり、引きずり込まれていたが、銀の飛竜が突然、システィーナを襲うというハプニングに気を取られた隙になんとか抜け出せたのだ。

 

 とはいえ、この異常事態に対処するために再び戻らなきゃいけないのだが。

 

『……いえ、今のところはまだ……システィーナが不自然な行動を起こし始めた銀の飛竜に追いかけ回されていること以外はわからないわ』

 

「ハラサが仕掛けているということは……あの様子ではあり得ない。ということは、システィーナを戦闘不能にし、帝国代表を脱落させることで益を得る連中と言えば――」

 

『――ええ。教皇庁の強硬派――第十三聖伐実行隊が動いたのは確かよ』

 

 通信機ごしに溜め息を吐くアリッサ。

 

 連中が一体、何をしたのかわからない以上、下手に動くことはできない。

 

 試合を中止させることはできない。

 

 外部から魔術を行使しての妨害はできない仕組みになっているから、運営に訴えたとしても取り合うはずがない。

 

 ならば、今できることは――

 

「アリッサ、システィーナと飛竜の動きを見るんだ。今できることはそれしかない」

 

『了解』

 

 アリッサにそう言って通信を切るジョセフ。

 

「システィーナがああなっている以上、形勢は明らかにハラサに傾いた筈だ。システィーナを殺すまではいかなくとも、追いかけ回すことによって疲弊させる。その内に会長らを潰せば確実にハラサの勝ちだ。つまり、帝国は脱落。第十三聖伐実行隊の思惑通りになるということだ」

 

 とはいえ、連中の目的は何なのか?

 

 第十三聖伐実行隊――バックにいる教皇庁強硬派の思惑がわからない。

 

 なぜそこまで帝国代表を脱落させたがる?

 

 自国の代表が仮に帝国と当たる場合、勝てる自信がないからなのか?

 

 だが、そんな理由であの化け物部隊を脅しに使うか?

 

 いや、今はそれよりも――

 

「あの銀の飛竜をなんとかしないとな……ったく、本当に連中はどこかと喧嘩売らなきゃ気が済まないんかねぇ……?」

 

 溜め息を吐いて、再び観客席に向かうのであった――

 

 

 

 

 

 ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!

 

 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!

 

 会場を包む熱狂は、時間が経つごとに高騰していく。

 

「きゃああああああああ――ッ!?システィ!?危ない!?」

 

 観客席では、エレンが真っ青になって悲鳴を上げて。

 

「くそぉおおお――ッ!なんなんだよ、あのドラゴン!?ズルいだろ!?」

 

 憤りも露にカッシュが吠える。

 

「くっ……皆、押されてますわ……ッ!」

 

「こっちのメイン・ウィザードが事実上、戦闘不能だからね……ッ!」

 

「な、なんとかならないの……ッ!?」

 

「このままでは……いけませんね」

 

 ウェンディ、セシル、リン、テレサもおろおろと狼狽えながら、見守るしかない。

 

「せ、先生……」

 

「ちっ……ッ!」

 

 不安げに見てくるルミアに、グレンは何も返せない。

 

 銀の飛竜に狙われ、戦線離脱せざるを得なかったシスティーナ。

 

 そのため、敵のメイン・ウィザード、アディルがフリーになってしまった。

 

 ハラサ側は、アディルを前面に押し出し、帝国側を完全に圧倒している。

 

 そして、頭上のとある投射映像では、竜に追われるシスティーナの映像があった。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 アリッサは投射映像を見る。

 

 身を捻って横転、急失速、墜落などの機動で逃げるシスティーナの背後をぴったりと追いかける銀の飛竜。

 

 アリッサはその銀の飛竜の行動を凝視していた。

 

 一見すると、銀の飛竜は自らの意思でシスティーナを追いかけているように見えるが――

 

「……やっぱりおかしい」

 

 アリッサは、銀の飛竜の動きが不自然でやけに規則的な動きに気付いていた。

 

「常にシスティーナを真っ直ぐ追っていたみたいけど……時折、奇妙なタイミングで見失ったように動きが鈍ることが何度かあったわ……最初はシスティーナが死角に隠れてしまったからだと思っていたけど、追われている立場からしてみたら、明らかにあり得ないタイミングで見失っているのが何度も……」

 

 すると、投射映像の中ではシスティーナが銀の飛竜を連れて、フィールド上のあちこちに駆け回り始めた。

 

 まるで、システィーナがもっとも信頼している人が検証してくれるのを信じているかのように、だ。

 

 アリッサはそれを黙って見る。

 

 ――やがて。

 

 銀の飛竜の動きの不自然さが完全に浮かび上がった。

 

「……そういうこと」

 

 それは、起伏の多いフィールドに存在する遮蔽物の、すぐ北西付近にのみ銀の飛竜は不自然な動きをするのである。偶然では片付けられないほどに。

 

「当然、連中はフィールド内にいるわけではない。となると、仕掛けている場所は……観客席の南東側」

 

 そこで第十三聖伐実行隊は銀の飛竜に対し、なにかしている。

 

 とはいえ、問題がある。それは――

 

「あそこを捜すにも、何千人もいる。一人一人捜していたらシスティーナは完全に保たない……ッ!」

 

 そう、とにかく人数が多過ぎるのだ。

 

「それに、連中が何かやっている節があるとしても、魔術で仕掛けているわけじゃない。フィールドに断絶結界があるからそれは無理よ。そして、それを敵が魔術を使っていない以上、魔力の逆探知は不可能。つまり、敵を捜すのは不可能」

 

 舌打ちするアリッサ。

 

「くっ……第十三聖伐実行隊……聖堂騎士団の中でもヤバい連中だって聞いたことあるけど、ここまで――」

 

 投射映像を見ながら、歯噛みしていた……その時。

 

「――そういえば……」

 

 ふと、何か思い出したように物思うアリッサ。

 

 それは、まだレザリア王国にいた頃、あの優しい両親がまだ生きていた頃、父親から聞かされた話を思い出す。

 

「…………」

 

 アリッサは押し黙る。

 

 もし、父の話が本当ならば――

 

「――そうね、お父様。それならば、不可能でもないわ……」

 

 そう呟いて。

 

 アリッサは人知れず南東の観客席に向かうのであった。

 

 

 

 

「どうやら、からくりが見えてきたぜ……ッ!?」

 

 一方、グレンも銀の飛竜が、実際に奇妙なタイミングでシスティーナを見失う瞬間の地点を、地図上に一つずつプロッとしていき、そのプロットが必ず、起伏の多いフィールドに存在する遮蔽物の、すぐ北西付近にのみ存在していることに気が付いた。

 

「つまり……観客席の南東側から見て、死角に入った時、銀の飛竜の動きに異変が生じるってことっすか?」

 

「ああ、つまり、敵さんは、この大競技場の南東側のどっかから、何かをやってるってこった」

 

 そう確信したグレンは立ち上がった。

 

「イヴ!南東の観客席を捜すぞ!手伝ってくれ!」

 

「無理よ!?バカなの!?」

 

 あまりにも非現実的なグレンの提案に、イヴが突っぱねた。

 

「敵の大まかな位置を割り出せたのは、確かにお手柄だわ!それでも何千人いると思っているのよ!?いちいち一人一人捜していたら日が暮れるわ!」

 

「…………」

 

「確かに、何かやっている節はあるわ!でも、魔術で仕掛けているんじゃない!だって、フィールドには断絶結界がある!そして、敵が魔術を使っていない以上、魔力の逆探知すら出来ない!敵を捜すことなんて不可能よ!」

 

 だが。

 

「……へっ。今、ここにいるのが、イヴとルミアとジョセフ……お前らで良かったぜ」

 

「……は?」

 

「え?先生?」

 

「そして、フィールドに観客からは絶対に魔術で干渉不可能な断絶結界が張ってあって良かったわぁ~、これがなかったら……魔術じゃないって確定してなかったら、完全に詰んでたわ~~」

 

 グレンがおどけたように、ニヤニヤ笑いながらそんなことを言う。

 

 切羽詰まりすぎて、頭でもおかしくなったのだろうか?

 

「さて、行くぜ、ルミア、イヴ。連中、好き勝手にしくさりやがって……目にもの見せてるぜ!さぁ、こっちのターンだ!ジョセフ、アリッサに南東側の観客席に来るように連絡しろ!」

 

「了解。……アリッサ、競技場南東側の観客席に来てくれ」

 

 グレンに言われた通りに、ジョセフは通信機でアリッサに呼びかけるが――

 

「……アリッサ?どうした?返事をしてくれ」

 

 ジョセフの呼びかけにアリッサが応答することはなかった――

 

 

 

 

 ――――。

 

 ――死闘は続く。

 

 銀の飛竜から、逃げ続けるシスティーナ。

 

 レヴィン、リゼ、ジャイルを圧倒的な力で押さえ続けるアディル。

 

 泥沼化した魔術戦を展開する、ギイブルやエルシード達。

 

 だが、死闘が進む内に、観客達の誰もが、この戦いの趨勢を感じていた。

 

 このまま行けば、ハラサの勝利――

 

 最早、会場内の誰もが、それを確信しつつあった。

 

 ――――。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 恰幅の良い老人がいた。

 

 通路から立ち見で、試合を観戦している。

 

 だが、頭上の投射映像を見上げる周囲の観客席の人達とは違い、彼の目はフィールドそのものを直接見下ろしているようでもあった。

 

 と、そんな老人の背中へ。

 

 すっ。

 

 いつの間にか現れた少女が、無数の剣を突き立てていた。

 

「……ずっと下を見ているけど、投射映像を見ないの?随分と目に来るでしょう?」

 

 アリッサだ。

 

 アリッサは無数の剣を召喚し、老人を今からでも串刺しにしようと言わんばかしに突き立てていた。

 

「……この僕に、気配をまったく掴ませず、こうも接近するなんて」

 

 老人が微同だにせず、ぼそりと呟く。

 

「一体、どんな手品を使ったんだい?」

 

「別に?そこまで特別なことはしてないわ」

 

「なら、もう一つ聞いていいかな?」

 

 老人の姿が色を失い、徐々に真っ黒に染まっていく。

 

 まるで影そのもののような存在へと変質し……ぐにゃりとそれが蠢き……

 

 ……やがて、影は一人の青年の姿を再結像する。

 

 現れたその青年は――チェイス=フォスターであった。

 

「なぜ、僕だと分かったんだい?手前味噌だが、僕の変身術は、世界最強クラスだと言っていい。気配や身体の構造すら変えたんだけどな……」

 

「思い出したの」

 

 アリッサはこともなげに言った。

 

「聖堂騎士団の中でとりわけ強い集団がいたってことをお父様から聞いたことあるの。剣聖ヨハネス。聖堂騎士団随一の神速を誇ったシルディン――」

 

「!」

 

 思わず目を見開くチェイスを気にかけることもなく、アリッサは続ける。

 

「――怪力無双のギルダー。シェリル……そして、ルナと貴方。……そう、貴方とルナがもっとも信頼していたと思われる聖堂騎士団の仲間達よ……皆、()()()()()()()()()

 

「…………」

 

「そして、チェイス。貴方のことに関してはこんな噂話を聞いたわ。貴方……”吸血鬼”でしょ?」

 

「………」

 

「聖堂騎士団で吸血鬼がいるなんてその時は信じられなかったし、吸血鬼が吸血衝動を克服し、人の理性を保っていられるのかもわからない。

 でも、銀の飛竜の不自然な動きを見て、吸血鬼にはある能力があるっていうことを思い出したの」

 

「…………」

 

「吸血鬼なら、支配や魅了の魔眼がある。これは魔術じゃない、能力よ。そもそも、空に投射される映像のように、光は通ってるんですもの。なら、視線を通すことは可能でしょうよ……それを差し引いても規格外の能力でしょうけど」

 

「それで、君はここに……」

 

「それに、貴方の相方――ルナの言葉を聞いていたからね」

 

「……ルナの言葉?彼女が一体、何を……?彼女は何も――」

 

「彼女、貴方のことを”血を啜るのが大好きな変態”って言ってたわよね?冗談や脅しにしては、ちょっと表現が具体的じゃない?まったく事実に掠らない言葉って、咄嗟にはなかなか出てこないものよ」

 

 そんなアリッサの言葉に、チェイスは眼を見開いて驚愕する。

 

「たった、それだけで……君の父の話と、この状況と、ルナがつい零した、情報とも呼べない情報だけで、君はここに辿り着いたのか……?君は一体、何者なんだい?」

 

「アリッサ……アリッサ=レノよ。レノ家の人間っていえば、貴方でもわかるでしょう?」

 

 チェイスはその言葉を聞いて、真紅に輝く魔眼を、そっと閉じ、肩の力を抜いて溜め息を吐いた。

 

 途端、眼から遠くに向かって放たれていた何らかの力が消え失せた感覚があった。

 

「レノ家……そうか、君があのレノ家の……なるほど。まさか、聖堂騎士団の中でも有力な名家の人間が連邦軍にいたとは……予想外だったよ」

 

「うるさい、黙りなさい!」

 

 アリッサがチェイスの背中に、剣を突き立てる。

 

「今度はこっちが聞く番よ!なんで貴方とルナが生きているの!?貴方達は四年前に戦死しているはずよ!なんで生きているのよ!?それに、貴方達の目的は?こんなことをしてまで帝国代表を脱落させる理由は何!?一体、誰に命じられたの!?答えなさい!」

 

 アリッサが声を荒げ、矢継ぎ早に詰問する。

 

「……それには答えられない。それに、言っておくが君はその剣に銀を仕込んでいるらしいが……僕にはその程度では効かない。曲がりなりにも真祖だからね」

 

「……真祖……?」

 

「おっと、君は下手に情報を与えない方がいいんだった」

 

 チェイスが、そう苦笑いすると。

 

 次の瞬間、チェイスの身体が一瞬で、黒い霧状になって霧散していった。

 

「待ちなさい!逃げる気なの!?」

 

『ああ、そうだ。僕の負けだ。ここで騒ぎを起こすつもりは毛頭ない』

 

 霧散していく黒い霧を、悔しげに睨むアリッサの脳内に、直接チェイスの声が響く。

 

『グレン=レーダス。彼を一番警戒していたが、まさか、連邦軍にかつて聖堂騎士団の名家の人間がいたとは……君達はどうしても、退く気はないというわけかい?ならば、小細工は抜きだね。全力を以て君達と戦わせてもらうよ』

 

「ちっ……二度と私達の前に姿を現わさないで、目障りよ」

 

 やがて、チェイスの気配が完全に消えたことでを確信し、アリッサは剣を召還する。

 

「アリッサッ!」

 

「ジョセフ?」

 

 通路から駆けつけて来たジョセフとグレン達に振り返るアリッサ。

 

「お前、通信に呼びかけても応答がなかったから……怪我は?」

 

「大丈夫よ。逃がしたけど、今はこれでいいはずよ」

 

 心配そうなジョセフを、安心させるようにアリッサが微笑んで。

 

 そして、遥か遠きフィールドを見据える。

 

「……とにかく、先生。これで状況が動くはずです。後は、システィーナ次第です」

 

「ああ、連中の邪魔がなくなった今……この試合の勝負は白猫次第だ」

 

 アリッサがグレンに振り返りながら、そう言うと。

 

 グレンの表情にはすでに不安はなく、最早、確信じみたものが浮かんでいるのであった。

 

 

 

 







今回は、ここまで。
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