ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


195話

 

 

 

 

 

「なるほどね。そりゃ、運営側が外部からの妨害は出来ないと胸を張って言っても、何の意味もなさないわな」

 

 連邦代表選手団がいる観客席に戻る途中にて。

 

 ジョセフはアリッサからチェイスが吸血鬼であり、その能力を使って銀の飛竜を操っていたという話を聞いていた。

 

 本当はグレンはわかっていたのだが、アリッサと連絡がつかなくなったため、ジョセフが南東の観客席に向けて気付かれないように超小型のドローンを飛ばしたところ、アリッサがチェイスの背中に無数の剣を突き立てていたため、グレン、ジョセフ、イヴ、ルミアは急いでアリッサのもとへ駆けつけたのだ。

 

 結局、チェイスは撤退し、銀の飛竜はシスティーナを追うことを諦めたらしいが、その間にフィールドでは帝国はハラサに相当追い詰められてしまったのだが。

 

 まぁ、それもシスティーナがようやくフリーになった今、ギリギリなんとかなりそうだなとジョセフは思った。

 

「にしても、よくわかったな。チェイスが吸血鬼だったって。俺は先生に言われるまでわからなかったわ」

 

「昔、お父様からチェイスが吸血鬼だっていう噂話を聞いたことがあったの。お父様は”所詮、噂話だ”って全然気にしていなかったけど。まさか、本当だったなんて、私自身今でも信じられないわ」

 

「まぁ、まさか聖堂騎士団に――それも、エース格がまさかの吸血鬼だったなんてな」

 

 あの聖堂騎士団に吸血鬼が在籍したなんて、ジョセフ自身でも信じられなかった。

 

「でも、まだ一つ謎があるわ。それは――」

 

「――なんで、四年前に戦死したはずの二人が生きているのか。普通の攻撃じゃ死なない吸血鬼でも、浄銀弾とか銀とか使わないと倒せないし、ルナに至ってはかなり強くなっているからな」

 

「一人だけ生き返らせる方法は確かにあるけど、二人も生き返らせるなんてやっぱりどう考えてもあり得ないわ。でも、記録が捏造されているものではないし」

 

「……?一人だけ生き返らせる方法?なんだそれ――」

 

 アリッサの言葉に違和感を感じたのか、ジョセフがそれを聞こうとした、その時。

 

 大競技場の上空に、決着を告げる信号弾が盛大に上がった。

 

 会場は、空の底が抜けるような熱狂と大歓声に包まれる。

 

 ジョセフとアリッサが何事かと空に投射されている映像を見ると。

 

 そこには、倒れているアディルと――

 

 左腕が痛々しいほどに焼け焦げていたが、立っているシスティーナ。

 

 そして、そんなシスティーナの元に駆け寄る帝国代表選手達。

 

 この光景を見て、ジョセフとアリッサはアルザーノ帝国がハラサに奇跡の逆転勝ちをしたのだと理解した。

 

「……ま、とりあえずなんとかなったな」

 

「ええ、これで脱落せずに次に進むことができたわ。……まだ、安心できないけど」

 

 歓声の爆音が、高波のようにうねる観客席の中、ほっと胸を撫で下ろす二人。

 

 だが、まだ安心はできない。これはアリッサの言う通りである。

 

 根本的には何も解決していない。

 

 第十三聖伐実行隊。あの連中がいる限り、何も終わってはいないのだ。

 

 何故かはわからない。

 

 誰かに命令されての行動なのか、第十三聖伐実行隊が暴走しているだけなのか。

 

 どうしても帝国選手団を妨害したいらしい、あの二人組。

 

 これからも、こういう卑劣な介入があるだろうことを考えると、頭が痛くなってくる。

 

「……まぁ、なにはともあれ、アリッサ。お前のおかげでなんとかなったわ。あんがとな」

 

「……別に?」

 

 ジョセフがアリッサに礼を言うと、アリッサはなぜか頬を膨らませながらプイっとそっぽを向いていた。

 

「……アリッサ――」

 

 なんで、不機嫌になっているんですかね?ってジョセフは聞こうとしたが、途中でハッとする。

 

 まさか……?

 

「……わかってくれたかしら?」

 

 段々と顔を青ざめながら脂汗を垂らすジョセフに、アリッサはニッコリと微笑みながら振り返る――

 

 ――目は完全に笑っていなかったが。

 

「なーんで、システィーナ達の様子を見に行くのに、あんなに時間がかかったのかしら?それと、なんであの二人がここにいるのかしら?」

 

「……さ、さぁ……?システィーナ達の応援に来たらしいし……ね?」

 

「そう、システィーナ達の応援、ね。なら、私達は邪魔しちゃいけないから、連邦の方にいましょう?あそこでも、第十三聖伐実行隊の監視ができるし。それに私達、相棒でしょう?」

 

 背後からどす黒いオーラを出しながら、ニコニコしているアリッサは、そう言ってジョセフの腕に抱きついた。

 

 割と本気で抱きついているため、ジョセフの右腕に豊満で柔らかい感触が伝わってくる。

 

 そして、アリッサがジョセフに抱きついた瞬間、ジョセフの背後から二つの黒いオーラのようなものが纏い始めたのをジョセフは感じた。

 

 もしかしてもしなくても、あの二人である。

 

 もう、嫌な予感しかしない。

 

 ジョセフはこれから自分の身に何か起きるかもしれないと思い脂汗を流していた。

 

 一方、アリッサは二人の気配に気付き振り向くと、ニヤリと不敵に笑いさらに抱きつく。

 

「ほら、行きましょう、ジョセフ」

 

 そう言ってグイグイとジョセフを引っ張るように歩こうとしたその時。

 

 ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ――ッ!?

 

 突如、ジョセフが進行方向とは真逆に引きずられようとしていた。しかし、アリッサがきつく抱きしめているため、ジョセフは前後に引っ張られるような形になっていた。

 

「あだだだだだだだだだだだだだだ――ッ!?ちょ、お前ら、引っ張るな、引っ張るなッ!?」

 

 前後から絶対に真似してはいけない綱引き状態になっているジョセフが涙目になりながら叫ぶ。

 

 しかし、それも空しく、アリッサからジョセフを【サイ・テレキネシス】で自分達の元に引きずり込もうとするモデル体型の少女は緩めようとする気配も見せない。

 

「あかん、あかーんッ!?裂けちゃうッ!裂けるチーズになっちゃうッ!お前ら、危険領域に入っているからッ!?俺、死ぬからッ!死んじゃうからッ!だから、まずはアリッサ、離せッ!そして、テレサ!頼むから【サイ・テレキネシス】解いて!お願いします、死んじゃいますッ!ウェンディ、テレサを止めてッ!こっち、アリッサを止めるからッ!」

 

「……ジョセフがアリッサの物になるくらいなら、いっそ――」

 

「うぉおおおおおいッ!?何、ヤンデレ化しかけてんの!?このアホお嬢ぉおおおおおおおおおおお――ッ!?」

 

 空の向こうで、勝利の歓喜に震える生徒達。

 

 一方で、通路ではジョセフが涙目になりながら、とりあえずアリッサとテレサには離すように懇願し、なんかジョセフを独占したいがあまり、危険領域に入っているウェンディにテレサを止めるように、涙ながらに懇願するのであった。

 

 

 

 

 

 

 自由都市ミラーノに存在する帝国領事館の、執務室にて。

 

「どうやら……無事に、初戦を切り抜けたようですね……」

 

 秘書官から報告を受け、アリシア七世は、執務机で安堵の息を吐いていた。

 

 そして案の定、第三者――第十三聖伐実行隊の妨害工作があったことも聞いた。

 

(帝国との協調・融和路線を標榜するファイス司教枢機卿や、フューネラル教皇聖下の仕掛けとは思えない……恐らく強硬派――アーチボルト枢機卿かグラムド枢機卿が、彼らの背後にいるはず……)

 

 窓の外をちらりと見やり、アリシアが思索に耽る。

 

(やはりこれは、私に対する脅しでしょうか?子供達の命が惜しかったら、首脳会談を中止して帰れとの警告でしょうか?それとも……)

 

 未だ、黒幕からの声明は何もない。

 

 いまいち、誰が何を狙ってのことなのか、現時点では判別できない。

 

 ただ、間違いなく、魔術祭典と首脳会談を中心に、何かが裏で渦巻いているのだ。

 

(今は考えても仕方ありません。グレン……彼が子供達を守り切ってくれると信じて……私は和平を結ぶことに心血を注がねば……この命に代えても!)

 

 気を入れ直し、アリシアは机の上に積まれている資料に再び向き直る。

 

 それは、アルザーノ帝国・アメリカ連邦とレザリア王国・クスコ帝国が、協調・融和するにあたり、決して避けては通れない問題の数々と、その解決案だ。

 

 帝国と王国、連邦とクスコ帝国の間の領土問題、交易路問題、帝国は王国との、連邦は王国とクスコ帝国との間の過去の確執の清算問題、四ヶ国の保有戦力比問題、それらの解決案、妥協案、それらの条文化……

 

 アリシアは、その全てを暗記するレベルの勢いで何度も読み返し、どこかに隙がないか眼を光らせ、よりよい条件はないか、考えに考え抜いていく。

 

(……これら諸問題について、双方一定の納得ができない限り和平は成らない。そして、失敗は許されない。私の一世一代の大舞台です。気を引き締めないと……)

 

 だが、ここ連日の無理が祟ったのだろう。

 

 流石に、アリシアの顔には疲労が色濃く表れている。

 

 アリシアは眼鏡を外して、机に置き、そっと目元を拭った。

 

(時代は変わりました……”帝国が新教である”という理由だけで、話すらできなかった一昔前とは違う……奇跡的に、教皇庁のトップが替わり、話ができる状況となった。連邦も武力一辺倒だった歴代政権とは違い、話ができる今の政権だからこそ、クスコ帝国共々今回の会談に参加させることができた。

 この好機を逃すわけにはいきません。いずれにせよ、全ては明後日……明後日の首脳会談で決まります……そう、全ては――)

 

 アリシアが来るべき時に備え、静かに決意を燃やしていると。

 

「失礼します、女王陛下」

 

 ノックの後、一人の男が恭しく執務室内へと入室してくる。

 

 アゼル=ル=イグナイト公爵だ。

 

 今度の首脳会談の、帝国側参列者の一人である。

 

「どうかしましたか?イグナイト卿」

 

「僭越ですが、リーブルの領地問題の件について、円卓会で纏めた乙案・甲案よりも効果的だと思われる方策を思案致しましたので、此処に上申致します」

 

 イグナイト卿が差し出す書類を受け取るアリシア。

 

 そして、その文面にざっと目を通していく。

 

「……成る程、確かに。ここは割譲するよりも、補助金を出す方が有用かもしれませんね」

 

「ええ、現地を再調査したところ、そちらの方が現地民の感情的にも話が進みやすいかと」

 

「ありがとうございます。早速、これで件の案件を練り直してみます」

 

「……陛下。貴女は我等が帝国の柱です。あまり無理はなさらぬよう」

 

「ええ、重々承知していますわ」

 

 にっこりと微笑み、イグナイト卿を送り出すアリシア。

 

 だが、その内心は油断なくイグナイト卿の真意を探っているのであった。

 

(イグナイト卿……帝国政府上層部における、開戦派の筆頭であったはずなのに……こと此処に至り、融和策に非常に協力的……実に不気味ですね。己の派閥の一部反発を受けてまで、一体、なぜ……?)

 

 アリシアも、イグナイト卿が何か底知れぬ野心を抱いていることは、感づいていた。

 

 そして、いずれ取り返しのつかないことが起きるかもしれない可能性についても。

 

 だが、とにかく、イグナイト卿は尻尾を出さない。

 

 表向きは、帝国に多大なる貢献を果たした英雄のままだ。彼の支持者は多い。

 

(……貴方は一体、何を考えていますの……?)

 

 だが、答えは出ない。

 

 イグナイト卿の底を見極めるためには、今のアリシアにはあまりにも、時間も人材も何もかもが不足している。状況もそんな余力を許さない。

 

(くっ……私が……私が、御祖様達のように、もっと優れた施政者であったなら……我が身の至らなさが不甲斐ないです……)

 

 アリシアは歴代の女王達に懺悔するように、眼を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 その一方――

 

「いやぁ、それにしても、帝国は九死に一生を得ましたなぁ、長官。まさか、あそこまで追い詰められていたのに、一気に逆転してしもうたやないですか」

 

「ええ、私も思わず目を見張りました。一時、外部からの妨害があったらしいですが、それを切り抜けての逆転勝ち……帝国のメイン・ウィザード――システィーナ=フィーベルさん。中々の腕の持ち主だ」

 

「こりゃ、連邦代表もテレ~ってしたら、一気に足下掬われますな」

 

 ミラーノに存在する帝国領事館からそう遠くない所にある連邦領事館にて。

 

 二人の男が廊下を歩きながら、話していた。

 

 アレン=べデル=ヴァンデンバーグとルイス=サザーランドだ。

 

 二人とも今度の首脳会談の、連邦側参列者の一人である。

 

「妨害と言えば……連中、動きましたなぁ」

 

「第十三聖伐実行隊。そして、その背後にいる聖エリサレス教会教皇庁強硬派の筆頭、アーチボルト枢機卿。……ふむ、第十三聖伐実行隊の上司は確かアーチボルト卿ではなかったはずなんですが……なぜ、彼の言いなりになっているのか……?はてさて……」

 

「そう言いながら、融和派最強の切り札が強硬派側に付いている原因、知っていなはるんでしょう?いけずな性格してはるなぁ~」

 

 そう言うルイスに、ニコニコと微笑むアレン。

 

「それはそうと……明後日の首脳会談、アーチボルトは動くんでしょう?」

 

「ええ、動きますよ。アーチボルト卿はもう少し隠れて事を進めることを学んだほうがいい」

 

 途端、アレンとルイスの和気藹々とした雰囲気はなくなっていく。

 

「明後日の首脳会談の場で、強硬派筆頭であるアーチボルト枢機卿はファイス司教枢機卿とフューネラル教皇聖下を”暗殺”するつもりらしいです」

 

「暗殺ですか。それはそれはまぁ、味方を暗殺しちゃうんですか、あの宗教バカは」

 

 そんな恐るべき報告を受けても、アレンとルイスは微塵の動揺も困惑もない。

 

 むしろ、すでに知っていたかのような感じで苦笑いしている。

 

「まぁ、あの宗教バカのことなんでしょう。大統領や女王陛下ではなく、教皇庁の融和派である司教枢機卿と教皇を殺害することで、その下手人を帝国・連邦側へなすりつけるつもりなんでしょう?」

 

「ええ、まったくその通りです。帝国・連邦側の仕業という状況証拠が、結構、念入りに捏造されているあたり、そういうことなんでしょう」

 

「かぁ~~~、連中、あれほどウチらにボコボコにされておきながら懲りもせずまーた戦争しようってことなんですかい。いやぁ、信仰も程々にしといたほうがええですなぁ、アレン長官」

 

 今度の首脳会談には、アルザーノ帝国・アメリカ連邦とレザリア王国・クスコ帝国だけではなく、北大陸と新世界の多くの国家も立会人として参列し、四大国の動向を見守ることになっている。

 

 こんな世界の誰もが注目している大舞台で、教皇庁の二大主要人物……しかも、平和を願う両名の暗殺。さぞかし、国際世論は帝国・連邦批判に傾くだろう。

 

 そう、世知辛いが、世間は”真実”よりも、”どう見えるか”が重要なのだ。

 

 よって、レザリア王国がアルザーノ帝国に仕掛ける報復と義憤の戦争は、当然のように黙認されるどころか、”やはり、世界を乱す帝国は、地図から消さねばならぬ”と、レザリア王国に力を貸す国すら出てくるかもしれない。

 

 もちろん、そうなったら連邦も黙っているわけにはいかない。約四十年前から帝国に接近し、やっと得られた”橋頭堡”を失わないために帝国側に付いて参戦するだろう。

 

 だが、教皇庁強硬派も連邦を全力で帝国側に向けさせるような真似はしないはず。もしそうなった時のためにクスコ帝国に連邦と戦争するように仕向けるだろう。

 

 今まで”自由と民主主義のために”という錦の御旗の下、世界中でドンパチしまくっている連邦に、世界の多くの国家はあまり良い目で見ていない。それどころか、中には露骨に憎悪を向けてくる国家もある始末だ。

 

 ”連邦が帝国側に付いたからこの際、旧宗主国諸共地図から消す”と、却って多くの国がレザリア側に付くことも十分に考えられる。

 

 そんな時、王国のトップ……教皇庁の次期教皇に繰り上がるのは、アーチボルト枢機卿であることは確実。すでに即当選する工作まであるのは明白。

 

 そうなれば、開戦の流れは、止めようがない。

 

 そう、このまま首脳会談へと臨み、アーチボルト枢機卿の思惑通りに、ことが運べば……帝国と王国の戦争――第二次奉神戦争勃発……いや、連邦とクスコ帝国、世界各国を巻き込んだ戦争――世界大戦勃発は、必至の流れなのだ。

 

「……まぁ、そんなことはさせませんが」

 

 そう、せっかく面白くなっている物語を、たった一人の思い上がり狂信者の思惑通りにはさせない。

 

 確かに、連中が国内――南部諸州の扇動を防ぐための対策はすでに打ってある。

 

 対外でも、いずれあの男が帝国が王国を併合するための行動を起こすだろう。

 

 自分達は、帝国と王国を吸収併合するため、帝国に軍事支援をしていけばいい。帝国と王国で戦わせて後は連邦の出番というわけだ。だがそれは今ではない。

 

 ゆえに――

 

「大丈夫、すでに私の部下が動いていますから。すでに先手は打ってありますよ」

 

「さいですか……流石は、長官ですなぁ。まぁ、たまには黙ってもらわんと、彼も早死にするでしょうから、止めた方がええでしょうよ」

 

 そう、すでに手は打ってある。

 

 アレンとルイスは、そこから黙ったまま、廊下を歩くのであった――

 

 

 

 

 

「嘘……嘘よ……ッ!まさか、貴方の能力が看破されるなんて……ッ!?」

 

 ――ミラーノの某所。

 

 どこぞの聖堂の鐘楼の屋上にて。

 

 チェイスの報告を受けたルナは、動揺も露わに声を震わせていた。

 

「しかも、あのレノ家の小娘……アリッサ=レノに……ッ!?」

 

「ああ、事実だ。まさか、彼女が生きて連邦軍にいたとは……正直、予想外だったよ。最初にグレン=レーダスと対峙した時に、どこかで見た顔だと思っていたが、グレン=レーダスだけ警戒してしまったあまりにマークを外してしまった。それに、去り際にグレン=レーダス達が駆けつけて来たが、恐らく彼らにも看破されていると思ったほうがいい」

 

「そんなの嘘よッッッ!」

 

 機械的に事実を告げるチェイスの言葉を、ルナは駄々っ子のように突っぱねる。

 

「確かに、アリッサ=レノのように聖堂騎士団の事情を知っている人もいるし、”選ばれた人間”っているわ!でも、あいつは……グレン=レーダスはただの人間なのよ!?英雄でもなんでもない、ただの弱い人間!ただの人間が、私達を上回るなんて……そんなのあるわけないじゃない!あってはならないのよ!?」

 

「……ルナ」

 

「ただの弱い人間が、こうも簡単に、私達を上回ってしまうなら……だったら、私は、一体何のために……ッ!うぅ~~~~ッ!」

 

 傍からは与り知れない葛藤に、ルナが頭を抱えて苦悩する。

 

 チェイスはそんなルナを、ただ黙って見ていることしかできない。

 

 ……しばらくして。

 

「……私が、動くわ」

 

 どこか決意を秘めた、それでいて昏く据わった瞳で、ルナが顔を上げた。

 

「もう形振り構わない。……私が直接、この手で連中を脱落させる。多少、不自然な形でもいいわ。私がグレン=レーダスを……そして、連邦のあの二人組を直接、倒す。私は――」

 

「ルナ。……もういい。僕のことは気にするな。これ以上、君がアーチボルト枢機卿の言いなりになる必要なんて――」

 

「チェイスは黙ってて!黙っててよ!」

 

 何かを言いかけたチェイスを、ルナが鋭い拒絶と怒気で黙らせる。

 

「……さぁ、行くわよ……今夜で全てを終わらせる」

 

 そう言って。

 

 ルナは――

 

 

 

 

 錯綜する多くの思惑、忍び寄る無数の悪意。

 

 それが混沌と渦を巻いて絡み合い、今、一つの絵図面を形成しようとしていた――

 

 

 

 

 

 

 






段々と――いや、もうすでに危険領域に入っている三人娘……

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