魔術競技場はいまだ衰えぬ熱気に包まれている。中央の競技フィールドでは一喜一憂のドラマが次から次へと生まれていき、そのたびに観客達は熱狂に包まれていく。
「……遅いなぁ」
そんな活気に満ちた周囲の観客達とは裏腹に、システィーナは不安げに呟いていた。
「ルミア、まだ見つからないのかな……?」
午後の部が始まってかなりの時間が経っていた。グレン不在の中でも二組の生徒達は奮闘し、総合順位は上がったり下がったりで現在四位。優勝を狙うならば少し厳しい状況になってきている。やはり地力の差がここで現れ始めたのだろう。
「やっぱり、先生がいないと……」
皆の士気が落ちてかけている。やっぱり、だめかも。いや、俺達にしては上出来じゃないか?……そんな弛緩した空気が流れ始めている。システィーナ自身も、もう充分楽しんだ、よく頑張った…そんな思いに囚われ始めている。
「本当にどこに行ったのかしら、あの二人…ジョセフも戻ってきてないし…まさか、あいつ、ルミアに何か邪なことしてるんじゃないでしょうね?」
システィーナが理由もわからない焦りと怒りに駆られた、その時だった。
背後にふと、覚えのある気配を感じ、システィーナは振り返った。
「やっと帰ってきたの!?遅いわよ、先せ――あ、あれ?」
つい、グレンとルミアかと思ったが、そこにいたのは見知らぬ男女だった。
長髪、鷹のように鋭い目つきの青年。
帝国では珍しい青髪、感情と表情の死滅した人形のような少女。
二人とも黒を基調とした上下のスーツにクラバット、白い手袋、帝国式の正装に身を包んでいる。この場においては少々堅い服装ではあるものの、別段珍しくもない出で立ちではあるが、なぜかどうにも違和感が拭えなかった。
そして――
「よ、遅れて悪ぃ、悪ぃ」
その後ろから、ジョセフが顔をだす。
「お前達が二組の連中だな?」
「そ、そうですけど…ジョセフ、この人達は一体……」
「俺は、グレン=レーダスの昔の友人、アルベルト。同じくこの女はリィエルだ」
「……」
システィーナの問いにアルベルトと名乗る青年が答え、リィエルと呼ばれた少女が無言で微かに頭の角度を下げた。挨拶のつもりらしい。
「今日は、魔術競技祭の後、旧交を温めようとグレンの奴にこの学院へ招待されてな。この通り、正式な入院許可証もある」
アルベルトは懐から、学院の校章たる梟の紋が銀で箔押しされたカードを取り出して見せた。それは学院の正式な来客への厳正な審査の下に発行され、結界で守られた学院への出入りを可能にする鍵となる魔術符だ。
「んで、今は先生はな、突然の用事で少々取り込んでいるんや」
ジョセフはグレンが取り込んでいることを伝える。
突然の来訪者に、ざわざわと顔を見合わせる二組の生徒達。
「……で、だ。唐突なことで戸惑うと思うが、あの男は今しばらく手が離せないらしい。ゆえに俺はこのクラスのことをグレンに頼まれた。今から俺が奴の代わりにこのクラスの指揮を執る。そして――」
ジョセフは先ほど、グレンが交わした言葉を思い出す。
『ルミアは感応増幅者だが、この状況を打破するために、ルミアの能力を使うことは絶対にできない』
『知っての通りだが、異能というのは人にバレたらただじゃ済まない。迫害され、忌み嫌われ、下手すりゃ殺される。もしくは帝国を出て、連邦に行くしかない。異能者と聞けば、神の名の下に粛清したがる非公式の狂信的な武装修道会があるの知ってるだろ?万が一、連中に目をつけられたら終わりだ』
『ルミアの素性は隠し通さなければならない前提がある以上、状況打破のための能力行使は厳禁だし、事情を誰にも説明できない。こんな詰んだ状況で、誰にも邪魔されず女王陛下に近づくには、まず俺のクラスが魔術競技祭で優勝する必要がある』
『優勝すれば、今回だけは女王陛下が表彰台に立ち、クラスを代表して担当講師が勲章を賜ることになっている。これが、現在、厳戒態勢で女王陛下の周辺を固めている王室親衛隊を出し抜いて、陛下に接触する唯一のチャンスだ』
『なぜなら、競技祭の終わりに陛下がこの表彰台に立つ瞬間だけは、王室親衛隊は陛下に対する徹底マークを一時的に外さざるをえないからだ。女王の名において下々の者に勲章を下賜するこの瞬間に、女王陛下を自身の監視下において拘束し、それを妨げるならば、それは女王陛下の威光と面子を潰すことになるからだ。右派筆頭たる王室親衛隊の誇りにかけて、そんなことできるはずがない』
『そして、その時、怪しまれずに俺が陛下の前に立つ方法を考えた。それは――』
――。
――正直、分の悪い賭けだと思う。
だが、この状況を打破しうる手はそれくらいしかないのも事実だ。
(あとは、祈るしかない)
――。
「監督を代わるって…そして、優勝してくれって…なんで?」
システィーナはもちろん二組の生徒達全員が、このアルベルトという、グレンの旧友を名乗る男のわけのわからない申し出に戸惑いを隠せなかった。
そもそも、この男はなんなのだろう?学院には部外者や招かれざる客を排除する結界が張ってある。ゆえに、この男が学院の正式な許可証を持って学院内に立ち入っている以上、まず信頼のおける人物であることは間違いないはずなのだが……ジョセフはどうやら事情を知っているらしいが。
どう判断したら良いかわからずシスティーナが戸惑っていると、アルベルトと名乗る青年の隣にいた小柄な少女がシスティーナの前に出て、その手を取った。
「……お願い。信じて」
システィーナは、互いの吐息も感じられる距離で、その少女の瞳を深く覗き込んだ。
そして、隣の青年と少女を交互に見比べる。
「貴方達は……」
システィーナはジョセフを見る。ジョセフはそういうことだと言わんばかりにシスティーナに目配せをする。
システィーナはしばらくの間、何かを考え込むように押し黙り、そして言った。
「……わかったわ。うちのクラスの指揮監督をお願いするわ、アルベルトさん」
そんなシスティーナに、クラス中の困惑の視線が集まった。
「大丈夫よ、この人達は多分、信頼できるわ。それに誰が総指揮を執ろうが、どうせ私達のやることは変わらないでしょ?皆で優勝するんだって」
そりゃそうだ、と生徒達が顔を見合わせる。
「グレン先生がいま、どこで何やってるのか知らないけど……」
ちらりと、システィーナは意味ありげにアルベルトを一瞥し、そして仲間達を振り返って堂々と宣言した。
「せっかくだから、皆で勝とう!先生のおかげで皆、ここまで来れたのよ!?後、もう少しじゃない!?諦めるのはまだ早いわ!」
「そ、それは……」
「そうだけどさ、システィーナ……」
「やっぱ、先生がいないとさ…俺達……」
弱気なクラスメイト達に、システィーナは焚きつけるように言葉を放つ。
「あのさ…先生がいないときに私達が負けたらアイツ、『ぎゃははは!お前らって俺がついてないと全っ然ダメダメなんだなぁ!あっ、ゴメンねぇ、キミ達ぃ、途中でボク抜けちゃって~、てへぺろっ!』とか言うわよ、絶対……」
むかっ。いらっ。かちんっ。
そのいかにも『ありそうな』展開予想に、クラスの生徒達の心に火が点いたらしい。
「う、うざいですわ…それは、とてつもなくうざいですわ……」
「あのバカ講師に、んなこと言われるのだけは我慢ならないな……」
「ああ、もう、くそ!考えただけで腹立つ!わかったよ、やってやるよ!」
鎮火しかけていた雰囲気に再び熱気が戻ってくる。
「お前ら、単純すぎるやろ……」
「……こんなもんかしらね」
上手くクラスの皆を焚きつけることに成功したシスティーナがアルベルトへ再び意味ありげな視線を送る。
「さて、お手並み拝見させてもらおうかしら?ア ル べ ル ト さん?」
挑発するようなシスティーナの物言いに、男はしかめ面で頭を掻いた。
『さぁ、魔術競技祭もいよいよ酣!午前の部では大健闘を果たした二年次生二組、後半になって遂に失速か――ッ!?』
競技場に相変わらず威勢の良い実況の声が響き渡る。
『そして、この「変身」勝負――これを落としたら、まさかの二組優勝はもう絶望的でしょう!さぁ、どう出る二組――ッ!』
「おいおい、プレッシャーかけられてるけど、大丈夫か?ティティスは」
確かに今、二組は後がない。実況者の言うとおり、今行われる競技『変身』を落としたら優勝はないため、二組にしてみれば、かなり重要な競技になっている。
そして、この競技に出るのが、小動物で小柄な少女、リンなのだが。
「ありゃ、完全に固まってるな。」
待機用のテントに彼女はいるが、心なしか、緊張に震えているように見えた。
彼女は真面目でプレッシャーに弱い。ジョセフはそう認識していた。だからこそ、今落としてはならないこの競技に彼女が上手くやれそうなのか、心配していた。
(昼休みの時に、ああ言っちゃったからなぁ、気負い過ぎなきゃいいけど)
ジョセフは、昼休みに附属図書館での発言が軽率だったと少し後悔していた。
それは、グレンとルミアとジョセフが女王アリシアと会った後の話である。
ジョセフは静かな所で眠るため、今の時間なら誰も来ない附属図書館に寄っていた。そこで、静かに寝、午後の部に応援に行くという予定だった。
誰もいない図書館に入り、目立たない所で寝ようかとした、その時だった。
ジョセフの前方の右端のテーブルに、一人の女子生徒が本を眺めていた。
「あの子は?」
小動物的で、小柄な女子生徒は気づいたのかこちらを振り向いた。
「あー、邪魔したかな?ティティス」
「あ、ジョセフ君。ううん、大丈夫だよ…珍しいねここに来るなんて……」
「うーん、まぁ、誰もいない所で昼寝しようかなと思って…なんさん久々にはっちゃけたから、かなり眠くて……」
「あ、あはは…あれは…うん、皆びっくりしてたよ」
『殲滅戦』の時の、ジョセフの魔術師らしくないスタイルを思い出したのか、リンは曖昧に笑う。
「でしょうね。あんなん、魔術師らしくないって自分でもわかってるよ。んで?ティティスはここで何をやってるんだい?」
「えっと…その…聖画集を眺めてて、午後の部の『変身』でイメージがあやふやになっているからその……」
「あ~、まるほどね……」
ジョセフは、聖画集をリンの後ろから覗いてみた。ちょうど身長差があり見やすい。そこには、見とれてしまいそうなほど、現実に出てきたら、行動を止めてしまうほど、美しい天使が描かれていた。
「これは?」
「時の天使、『ラ=ティリカ』様」
「もしかして、これに変身するの?」
リンは頷いた。しかし、どこか自信がないように見える。
「……見てみたいかも」
「……え?」
「いや、多分、綺麗やろうなって」
ジョセフがそう言ってリンの方を向いたら、リンはフリーズしていた。しかも、さらに自信がなくなったような顔をして。
「ああ、いや、決してその…プレッシャーをかけるつもりはないんだけどな」
慌ててプレッシャーをかけるつもりはないと弁明するジョセフ。しかし、リンは動かない、喋らない。まるで、石像にされてしまったかのように完全に固まっている。いや、魂が飛んでいってるのかもしれない。
「ちょっと、ティティスさん!?おーい、魂が飛んでるで!悪かったから、戻ってきてぇえええ!、帰ってきてぇえええ!」
それからしばらくの間、ジョセフは、リンの意識を戻すのに必死になっていた。
そして今に至る。
『おおっ――とぉおおおおッ!?』
突然、張り上げられた実況の声と観客席の歓声に、競技フィールドに目を向ける。
『ハーレイ先生の一組、セタ選手!見事な竜に変身した―ッ!?これは凄い!』
そこには黒光りする鱗、雄々しく広がる翼、凶悪に光る爪牙に、見る者を圧殺せんばかりの巨躯――本物と見紛うほどの迫力に満ちた竜が出現していた。
「うわぁ、これはエグいなぁ」
何も知らずにこれを見てしまった人は確実にパニックになって逃げ惑う――それくらいの再現度だった。
『これは各審査員の先生方も高評価!9、9、10、9点…合計37点!これはいきなり決まってしまったか――ッ!?』
(あぁ、ティティスが頭を抱えてるよ……)
大丈夫なのだろうか。と、心配していたら、アルベルトがリンの肩を叩き、何か言葉をかけている。
『さぁ、次は変身魔術なら学院内でもちょっと有名人、二組のリンちゃんの登場だ!さて、彼女はどんな変身を見せてくれるのか――ッ!』
実況のアナウンスが流れ、リンは舞台に向かって歩いて行く。その頃には落ち着いていた。
そして――
『て、天使様だぁあああ――ッ!?魔術学院に聖画から抜け出てきたような天使様が降臨したぁあああ――ッ!?これは美しい!二組のリンちゃん、なんとも見事な変身を見せましたぁ――ッ!さぁ、注目の評価点は――ッ!?』
「……綺麗」
思わず、そう口をだしてしまうその天使は、時計の文字盤を模した光輪を背に、純白の三対六翼、揺れ流れる純銀の髪、ふわりとたなびく薄絹の衣。その華奢な身体にはゆるりと無数の金色の鎖が巻き付き、その細腕には時の天使を象徴する巨大な黄金の鍵が携えられ、自身の鎖と繋がっている。
その全造形がまるで彫像のように精緻かつ美麗。
時の天使ラ=ティリカ。
宗教神話上の存在に過ぎない天使の実在を証明するかのような、その神々しい御姿。
滝のように轟く拍手と大歓声の渦巻く中心に、敬虔なる者ならば思わず跪いて聖印を切ってしまわんばかりに荘厳なる天使が降臨していた――
「くそ、ちょこまかと……ッ!?」
王室親衛隊のベテラン衛士、クロス=ファールスは焦っていた。
今回、崇高なる女王陛下のフェジテ行幸における護衛任務に駆り出され、誇りと共に職務へ専心していたら、なんの前触れもなく、いきなりとある少女の抹殺命令がゼーロスから下った。ご丁寧にその少女の姿を射影機で撮像したモノクロ写像画すら用意してあった。
ゼーロスはいつの間にそんな物を用意していたのだろうか?おまけに少女を捕獲次第、その場で討てというのもおかしい。いくら少女が不敬を犯した国家反逆者だったとしても、その不自然さは際立ち過ぎている。
おまけに、この事は最初に撃ち漏らした時に遭遇した『黒い悪魔』、つまり連邦軍に知られてしまっている。この事が連邦政府に知られたら連中は必ず首を突っ込んでくる可能性すらある。
どうにも後味の悪い任務に、それでも己が責務を果たそうと、クロスがその少女と少女と共に逃亡する男を追い始めて、すでにかなりの時間が経過している。因みに、学院に『黒い悪魔』が目撃されたがそれ以降、目撃情報はない。
今、クロス達は数名を一単位とする何十単位もの班に分かれ、フェジテの市街を駆けている。そして、クロスの指揮する班が駆けるその前方には、件の少女を抱えて逃亡する男の姿があった。
すでに各管区の警備官に通達が届き、フェジテの東西南北の市壁門は封鎖されている。
それに、官庁街に位置している在アルザーノ帝国アメリカ連邦領事館の方にも王室親衛隊、警備官が向かい、少女と男が連邦に保護されないように周囲を包囲するように封鎖している。
あの二人組はフェジテという大きな籠の中に囚われた小鳥に過ぎない。
実際、クロス達はその姿をすでに現在進行形で捕捉している。
捕らえるのは時間の問題。
そう、時間の問題だったはずなのだが――
捕まらない。捕まえられそうで、さっきから全然、捕まえることができない。
通信の魔導器にでフェジテ中に散らばる各班と連絡を取り合いながら、包囲網を敷きつつ追っているのに、あの二人は包囲網の弱い所を的確に突き、突破して、北地区、東地区、中央区、南地区、西地区――縦横無尽に駆け回り、自分達を引っかき回している。
まるで、空からフェジテの都市を見下ろし、都市構造と自分達の挙動を完全に掌握しているかのような的確さだ。そもそも、こちらの連携のための通信連絡すら、なんらかの手段で傍受されているかのように筒抜けな気がしてくる。
さらに不可解なことに――こちらが連中の姿を見失いそうになると、あの二人は自分達の前にひょっこり現れるのだ。まるで遊ばれているかのようだった。
「くそっ…なめやがって……ッ!」
同僚共々、クロスは躍起になって数十足歩を駆ける男の背中を追い続ける――
――。
―――。
『さぁ、「変身」の競技で最高得点を叩き出し、勢いを盛り返した二組!続く「使い魔操作」、「探査&解錠」でも結果を出し、現在三位!再び優勝が射程に入りました!いやぁ!今回の魔術競技祭は本当に面白い!』
大番狂わせはやはり勝負事の華なのだろう。観客席の人々も勢いを取り戻し始めた二組の姿に、再び熱狂に火が点き、沸き立ち始めていた。
『そして、今、魔術師の伝統遊戯「グランツィア」の試合の真っ最中!今、ハーレイ先生の一組チームとグレン先生の二組チームの、血を血で洗うような陣取り合戦が行われております!』
『グランツィア』が行われている最中、ジョセフは女王陛下がいる貴賓席を見つめていた。
因みに、『変身』が終わった後、リンが出来はどうだったか、と聞いてきたので、すごく綺麗だったっと言ったら微笑みながら「ありがとう」と、言われた。可愛いすぎるでしょ。
(やはり、警備は厳重になっているな)
アリシアの後ろには、王室親衛隊が蟻の入る隙もなく固めている。
(仮に俺の考えていることが真だとしよう)
ジョセフは今回の騒動を推察する。
(今回、ルミアの殺害を命じたのは王室親衛隊総隊長、ゼーロスの独断だ。そして、彼も真相を知っている)
恐らく経緯はこうだろう。ゼーロスは何者かにルミア殺害を唆され、ルミア殺害を部下に指示。それと同時に女王アリシア七世を軟禁状態にする。
そして、ルミアが女王陛下を暗殺し、国家転覆を図った大罪人に仕立て上げ、殺害しようとしている。
(女王陛下を軟禁状態にしたのは恐らく陛下が止めるかもしれないからだろう。母親としてな)
競技フィールドでは、一組が膠着状態にしびれを切らしたのか、アブソリュート・フィールドの構築をしている。
(裁判なしの即、処刑。それも証拠も見せずに、だ。やはりどう考えてもおかしい)
法治国家なら、どんな大罪人だろうが拘束、そして裁判で裁かれ、罪を償うのが一般的だ。
だから、今回のように一方的に処刑を言い渡されるのは例えアリシアの勅命だろうが(そもそもそういう勅命を出しているかすら怪しいが)、どう考えてもおかしい。
しかも、今、グレンとルミアはフェジテ市内を逃走中だ。もう騒ぎになっているだろう。
もし、逃走に成功したら、王室親衛隊が裁判も、証拠も見せることなく一方的に身に覚えのない罪状を告げ、処刑しようとしたという蛮行が知れ渡るかもしれない。
王室親衛隊は火消しに躍起になるが、前回の学院爆破テロ未遂とは事情が違う。目撃者が多過ぎるのだ。
そうなってしまったら、王室親衛隊のイメージダウンは避けられないし、下手したら女王陛下にまで飛び火しかねない。
(それに、政治的にも影響が出てくる。このような失態を他の派閥が見逃すはずがないだろう。右派の影響力の低下は避けられない)
今回の行動はあまりにもリスクが大きすぎる。
(何よりもこれが連邦に知れ渡ったら、かなり面倒なことになるぞ)
連邦はこういう人権問題にはかなり敏感だ。現在、帝国は連邦と将来、レザリア王国に対抗するための同盟締結に向けて両国間の外交が活発になっているが、それに水を差しかねない状態にもなりえる。
(一見、女王陛下、帝国のためにやっているこの行為は、実は女王陛下の顔に泥を塗りかねない行為であり、帝国の外交の足を引っ張りかねない行為なんだけどなー。ゼーロスのおっさんもわかるはずなんだけどなー)
やっぱりボケているんじゃないのか。っとジョセフは思い、貴賓席を見る。よく見えないが後ろでは親衛隊が慌ただしく動いている。
『こ、これはぁあああああああああああああああ――ッ!?』
実況の声と共に会場は割れんばかりの怒号に満たされる。
競技フィールドに目を向けると、一組の赤いフィールドが成立するのと同時に、それを切欠として突如、それを大きく取り囲むように黄色の光のフィールドが出現したのだ。
『サイレント・フィールド・カウンターだ――ッ!?なんと一組のアブソリュート・フィールド成立を条件にしたサイレント・フィールドを二組が仕込んでいた――ッ!?』
グランツィアのルール上、完全に囲まれてしまったフィールドには得点価値がなく、最も外側のフィールドを構築したチームの得点に加算されてしまう。つまり――
「せやから、やり方エグいって、先生……」
一組は二組に大量に得点差がつけられてしまったのだ。
一組は慌ててフィールドを潰そうとするが、審判の無情な笛が響き渡り、勝負は決した。見たら、ハーレイは頭を抱えている。
あの人、真っ白になったり、頭を抱えたり、今日は忙しいな。
『ああっと、ここで時間切れ――ッ!まさかの大逆転だぁあああッ!これで二組は現在首位を走る一組に大きく追いついた――ッ!わからなくなってきた!確実だと思っていた一組の総合一位が、これは、わからなくなって来たぁ――ッ!?』
「それにしても、条件起動式ね。まぁ、よくあんな大胆なことを――」
条件起動式?
ジョセフはその言葉に何か引っかかった。
(確か、アルフォネア教授はグレン先生に何もできないし、何も言えないと言っていた。つまり、何かしたら、陛下の身に何かが起きるということだ)
そして、ゼーロス率いる王室親衛隊のなりふり構わない今回の行動。
(なるほど、そういうことか)
ようやく合点がついた。
「あとは『決闘戦』で勝てば…そこからが勝負だ」
ジョセフはそう呟いた。
今回はバージニア州です。
人口840万人。州都はリッチモンド。主な都市にリッチモンド、ハンプトンローズ(ノーフォーク、バージニアビーチ周辺一帯の都市をまとめた総称)、アーリントン(厳密には市ではなく郡だったり)、ロアノーク、シャーロッツビル、リンチバーグです。
愛称は、古き領地です。
独立13州の一つで10番目に加入しました。
南北戦争の時は、南部連合に加盟し、リッチモンドは南部連合の首都でした。因みにポトマック川を挟んで向かい側には当時、北軍側だったワシントンD.Cとメリーランド州があるという。(ちょっと近すぎじゃないですかね?)
他にも、アメリカ最大の海軍基地があるノーフォーク、ワシントンD.Cの近郊都市アーリントン(ペンタゴンがあるのもココ)など多彩な特色がみられる州です。
海岸線が美しい州でもあり、案外リゾート地が多いです。沿岸は漁場としても知られ、牡蠣の養殖でも知られています。
ノースカロライナと並び、タバコで有名でリッチモンドにはフィリップモリスの本社があります。
以上!