ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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連投ですが、どうぞ。


197話

 

 

 

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 

 マクシミリアンとシュタイナーと別れたジョセフ、アリッサの二人が、閑散とした夜のミラーノを駆ける。

 

 聞こえてくる【子守歌】を辿り、ただひたすら駆ける。

 

「こりゃまた、凄い射程距離で……」

 

 駆けながら、ジョセフが周囲を見渡す。

 

 夜といえど、まだ深夜というには少し早い。

 

 それでも、こんなお祭り中の大都市が、しんと静まりかえっているのは――

 

 道ばたに倒れている人、人、人……皆、死んだように眠っている。

 

「こりゃ、連中は本気だな。多少不自然でも構わないという感じで仕掛けてきていやがる」

 

「ええ、急ぎましょう」

 

 こうして、ジョセフ達は街中を駆け抜ける。

 

「にしても、この天使言語魔法。誰か術者なのかわかるか?」

 

「ええ、多分、ルナ=フレアーだわ。チェイスは考えられない」

 

「……天使言語は人間は扱えない。おい、まさかルナは――」

 

「彼女が四年前に戦死したという記録。あれは嘘じゃないわ、本当よ。となると、彼女が生きているのは何故かという話になるんだけど、実は方法は一つあるの」

 

 駆けながら、アリッサはルナの正体を確信じみた物言いで言う。

 

「聖エリサレス教会は、一度死んだ人間の魂を、その強大な概念存在たる≪戦天使≫へと生まれ変わらせ、復活させる――そんな外法すれすれの法術儀式を有しているの。

 【天使転生】――聖エリサレス教会教皇庁に伝わる秘中の秘で、最暗部だわ。転生の確率は極端に低いし、ネームドのユニーク天使であるがゆえに、≪戦天使≫復活できるのは、当代に一人のみよ。私が、ルナとチェイス二人が同時に復活するなんてあり得ないと思ったのはこれなの。

 けど、万が一、転生が成れば――それこそ一騎当()の最強戦士が降臨できるの」

 

「つまり、ルナ=フレアーは当代の≪戦天使≫だっていうのかよ――って、ちょっと待て。彼女が戦天使ぃ――ッ!?」

 

 アリッサのさらりと言った”戦天使”という言葉に、ジョセフは思わず目を剥く。

 

 ≪戦天使≫イシェル――それはエリサレス聖書の旧約神譚録にて語られる、人と天使と悪魔の最終戦争『炎の七日間』において、六魔王の≪黒剣の魔王≫メイヴェスや≪葬希姫≫アリシャールらと戦った、最強の天使――強大な概念存在の名だ。

 

「そんな≪戦天使≫と戦わなきゃいけないん!?今までの相手した中でヘヴィなんですけど!?」

 

「あら、貴方はラザールを倒したでしょう?」

 

「あれは、止めを刺しただけや……しかし、彼女を止めないと、帝国と連邦は脱落して終わりや」

 

「ええ、アーチボルトはそれを狙っている。とりあえず、急ぎましょう。連中はあそこにいるはず」

 

 そうこう話している内に、ジョセフ達の前に、一つの巨大な建築物が現れていた。

 

「……セリカ=エリエーテ大競技場……ッ!」

 

 アリッサの言う通り、間違いない。今も脳内をリフレインしている忌々しい歌の出所は……ここだ。

 

「なるほど……ここが連中の選んだ決戦場ってわけね。おそらく、グレン先生達を待ち構えているのでしょうね。……確かにここなら、互いに、気兼ねなく、全力でやれるわね」

 

「お客さんも本気で仕掛けてくるわけね。まったく……」

 

 それなら、本来はグレン達を待って合流して突入するのもいいが、なにせ時間がないし、グレン達が起きている保証がない以上、ジョセフとアリッサで突入するしかない。

 

 こうして。

 

 ジョセフ達は、重力操作の魔術を使って、大競技場の壁を蹴り上がっていくのであった。

 

 

 

 

 

 たんっ!ジョセフ達が、観客席のへりに降り立つ。

 

 そこから、中央にある競技フィールドを見下ろす。

 

 すると――競技場内の所々に配置されているガス灯の証明や、祭壇の聖火が、競技場内をそれなりに明るく照らし上げいて――

 

 照明が払う薄闇のヴェールの向こう側に――居た。

 

 ルナとチェイスだ。

 

 フィールドの中央に、ぽつんと寄り添うに並んで佇んでいる。

 

 チェイスは、腕組みしながら目を閉じていて。

 

 そして――ルナは、歌っていた。

 

 静かに目を閉じ、左手で胸を押さえ、右手を遠くへ差し出し、静謐に、真摯に。

 

 その可憐な口唇が、言霊の歌を紡いでいく。

 

 まるで見えない観客達へと届けるように――

 

 

 

 ――La...ALaLaLa,Lala...Ah,LaLaLa,Laha...♪

 

 

 

 

 

 そんなルナの姿は、その美しい旋律に恐るべき力を秘める背徳の呪歌を垂れ流しているとはとても思えない、どこまでも神々しく神聖不可侵な姿のように思えた。

 

 ――だが、不意にルナが歌うのをやめる。やめても【子守歌】は魂の中で、リフレインしているが……歌うことそのものはやめる。

 

 ルナ達が、ジョセフ達の到着に気付いたのだ。少々、予想外な気がしたような気もしたが。

 

 ジョセフは手信号でアリッサに合図し、観客席の最前列へと向かう階段を降りていく。

 

 やがて、その階段も尽きる。

 

 大競技場の観客席と競技フィールドを仕切る断絶結界は、切られていた。

 

 ジョセフ達は柵を乗り越えて、観客席から競技フィールドへと降り立った。

 

 そして――迷いなくルナ達を目掛けて歩いて行く。

 

 ゆっくりと。……ゆっくりと。

 

 徐々に大きくなっていくルナとチェイスの姿。

 

 互いに細かな表情や佇まいさえ窺える彼我の距離、約十五メトラ地点で、ジョセフ達は足を止めた。

 

「おい、お前ら。ええ加減にせえよ、こら」

 

 開口一番、ジョセフが苛立ったように台詞を吐いた。

 

「まさか、貴方達が最初に来るなんてね……まぁ、手間が省けたけど」

 

「…………」

 

「今さらだけどね……私達、貴方達を致命的に傷つける気はなかったの」

 

「へぇ……?」

 

「あの飛竜の件だってね……ああ見えて、あの銀髪の子を殺したり、傷つけたりするつもりはなかった。適当に追い込んで、疲弊させたり、降参させたり……それで帝国代表を負けさせるだけで充分だったの」

 

「……でしょうね」

 

 アリッサは不敵に、そして静かに応じる。

 

「……【葬送歌】。あるんでしょ?聴いた者を死に至らしめる必殺の天使言語魔法が」

 

「!」

 

 ルナが図星を突かれたように、はっと立ち尽くす。

 

「四年前の三流の騎士だった頃とは違い今の貴女なら、帝国代表や邪魔する者を殺したり害したりする気があるなら、色々とやりようがあるでしょう?」

 

 そんなルナへ、アリッサが肩を竦めて言う。

 

「まぁ、貴女達が誰の命令で動いているのかは大体想像がついているの。そして、貴方がこんな面倒臭い遠回りなことをしているのも何か事情があったというのも考えられるわ」

 

「ま、どんな事情があれ、知ったこっちゃないけど」

 

 すると、ルナは苦悩に満ちた表情をありありと浮かべ、二人を鋭く睨む。

 

「そう……退いてくれないのね?」

 

「逆になんで退いてくれると思ったん?あんたがどうしても退けない、譲れないのと同様に……帝国の連中だって、退けないし、譲れないんよ。向こうだって、そういうもんを背負って、この大舞台に立っている。今さら放り出せんでしょう。これはどっちの荷物が重いとか大事とか、そういう問題じゃない。ただ背負った責任の問題や。面倒臭いことこの上ないがな。因みに、うちら連邦もな」

 

「……そう。結局……こうするしかなかったのね……」

 

 しゃらり……

 

 ルナが剣を抜く。

 

 籠柄や十字鉤の豪奢な装飾、細く真っ直ぐ伸びる刀身。

 

 照明の淡い光を跳ね散らし、鮮烈な蒼白い光を纏う聖剣だ。

 

 そして、次の瞬間。

 

 不意に、光が――天より降り注いだ。

 

 ルナの背中から、極光が華咲いたのだ。

 

「なら――私は、貴方達を、倒す!」

 

 ばっ!ルナの背中に、三対六翼の白く輝く翼が展開され、煌めく無数の羽が周囲に大量にまき散らされ、散っていた。

 

 その刹那、ルナから膨れ上がる強大な存在感、圧倒的な法力――

 

 羽ばたく光の翼が巻き起こす嵐のような撃風が、ジョセフ達を正面から殴りつける。

 

 それは際限なく、際限なく、際限なく――

 

 ――それは人間に許される領域を遥かに超えている。

 

 かつて、グレンとジョセフが対峙した、≪節制≫のシャルロッテのような紛い物とは違う。

 

 まさしく、本物の天使――

 

「あー、アリッサ。お前の予想通り、ルナが≪戦天使≫だったわ」

 

「はぁ、これは面倒なことになりそうね」

 

 そんなルナの異様で強大な姿に、ジョセフとアリッサはうんざりしたように肩を竦める。

 

「知っているようで話が早いわ。そう、その通りよ。これが私の力――人を超えた、最強の力よ」

 

 ルナが最早、勝負はすでに決しているとばかりに言い捨てる。

 

「私は≪戦天使≫、そして、チェイスは真祖の吸血鬼――どっちも人間としての規格を大きく外れた怪物よ」

 

 見れば、チェイスもその全身から圧倒的な暗黒の魔力を漲らせ、立ち上らせている。

 

 その絶望的な圧力と闇の存在感は、性質は光のルナと対照的だが、規格としてはルナとまったく変わらない――

 

「もう一度、警告するわ。退きなさい!貴方達ただの人間なんて、万が一にもないわ!」

 

「はぁ?何言うとんねん、バカ女」

 

 ジョセフはルナ達の圧力を受け流しながら、淡々と言った。

 

「なんでお前ら人間辞めたやつってのは、借り物の力ですぐ粋がるんねん!?そんなん、たかが人間辞めた連中なんて、腐るほど見てきたわ!?」

 

 そして、傍らに佇むアリッサをちらりと見て言った。

 

「さっさと終わらせるっぞ、アリッサ」

 

「了解、了解」

 

 ジョセフが二振りのトマホークを引き抜き、アリッサは背後に無数の剣を召喚する。

 

「お前達も、さっさとこの退屈そうな歌を止めて、さっさと帰ってアーチボルトという宗教中毒者に伝えろ!頭おかしいから病院に行けってな!できないんだったら、俺達は魔術師だ。”汝、望まば、他者の望みを炉にくべよ”……要は実力行使や、この野郎!」

 

 そして、ジョセフとルナが、視線で火花を散らし合う。

 

「チェイス、お願い……私は負けるわけにはいかないの」

 

「……それが君の望みなら」

 

 ルナが政権を構え、チェイスもすらりと左右の手それぞれに長剣を構える。

 

 この誰もいない大競技場で、真夜中の大舞台が始まろうとしていた。

 

「裏魔術祭典・連邦vs王国の一戦や。お前はチェイスを頼む。俺はあのスーパー頑固バカ女の相手をするわ!」

 

「……了解。始めましょうかね」

 

 アリッサがしばらく間を置いて言った、その瞬間であった。

 

「はぁああああああああああああああ――ッ!」

 

 ルナが背中の翼を羽ばたかせ――爆発的な推進力を得て、ジョセフへ突進してくる。

 

「さぁて、戦争じゃぁああああああああああ――ッ!」

 

 それをトマホークを振りかざしたジョセフが迎え撃ち――

 

「ふ――ッ!」

 

 まるで霞に消える影のような挙動で、チェイスがアリッサの懐へ滑り込み――

 

「甘い――ッ!≪行け(アンダーレ)≫ッ!」

 

 アリッサが、チェイスに無数の剣を放ち、迎撃する。

 

 第十三聖伐実行隊(最強の処刑部隊)連邦陸軍第一特殊部隊デルタ分遣隊(最強の特殊部隊)

 

 二つの最強部隊の、夜の最強決戦が、今、ここに始まるのであった――

 

 

 

 





短いけど、キリがいいからここまでで。
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