ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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これを初投稿して今月で一年が経ちました。いやぁ、早いですなー(笑)

まさか、ここまで続くとは思わなかった(笑)

それでは、どうぞ。


200話

 ――そんなジョセフの戦いを。

 

「…………」

 

 アリッサはチェイスと激戦を繰り広げながら、流し見ていた。

 

 今の所、互角で戦い合っている。が、一つ一つの行動によっては、何か致命的な負傷がジョセフを襲うんじゃないかというくらい、紙一重の戦いを繰り広げている。

 

 だが、それ以上に――アリッサは幸せだった。

 

 なぜなら――

 

(ジョセフが、私を信じてくれている……私を信じて、ああして戦ってくれている……)

 

 愛する人が、こんなにも信じてくれている――

 

 こんな幸せなことが他にあるのだろうか?

 

「……わかってる……わかってるわ……でも、ジョセフ……それでも、私……貴方のことが……」

 

 普段は溢れている想いを今は抑え、アリッサは自分の立ち位置を確認しながら、チェイスと交戦する。機を待つ。

 

 

 

 

 

 ――あの戦争以降、私は誰も信じられなかった。

 

 

 

 

 そう、裏切り者として国を追われ、両親を殺されたことが、彼女をそうさせた。

 

 今まで信じていたものが――それに従っていけば安寧の人生を謳歌できるはずだったのが、一家を裏切り者扱いにしたのだ。そのせいで、連邦に亡命して軍に入ってデルタに加わった後も、誰も信じることができずに皆に――特にジョセフとダーシャを散々、困らせていた。

 

 でも、あの時、ジョセフが言ってくれたのだ。

 

 もう、大丈夫だ、と。

 

 例え、他の連中がお前の味方でもなくても、俺は味方だから、と。

 

(あの言葉で……私は救われた……本当に救われた……)

 

 お前と俺は、相棒だ、と。

 

 何があってもお前を見捨てない、と。

 

 ジョセフは、そうアリッサに手をさしのべてくれたし、実際に今までそうしてきてくれた。

 

(それから、ずっと考えていた……これからどうするのか……これからの私が生きる道を……)

 

 今までは、なんやかんや言われながら皆に助けられて、守られてきた。

 

 だから、思ったのだ……これからは誰か守って生きようって。

 

(……まだ、具体的な道はわからない……わからないけど……)

 

 アリッサは、帝国でできた友人、幼馴染などのために、全身全霊をもって戦うジョセフを改めて流し見る。誰かのために戦い続ける相棒を流し見る。

 

 ああ、何て尊い姿なんだろう?

 

 私が愛してしまった人は、悪態を吐いているけど、普段は余裕そうに振る舞っているけど、どこか殆い人間だけど。

 

 でも、誰よりも気高くて、眩しくて――

 

 ウェンディもテレサも、彼を愛してしまうのも無理はないかもしれない。

 

 彼の力に――なりたい。

 

 そんな切なる願いや思いが、ジョセフを見る度に、アリッサの中に集っていくのだ。

 

(誰かのために生き、守っていく……その具体的な道は、まだ何も見えない……)

 

 多分、一生かかっても探し続ける命題なのかもしれない。

 

 だが。

 

 それでも、今、厳然とはっきりしていることがある。

 

 それは、嘘偽りのない心の真実。

 

(でも、今はただ――ジョセフのために、生きたい!)

 

 自分の心の奥底を覗き込むように、浚うように――強く願う。

 

(今は――皆のために戦うジョセフのために、ジョセフが行く道を守るために――私は生きたい!それが、私が私のために生きるということ!)

 

 そう強く願う。

 

 そして、再びジョセフを流し見て、自分の立ち位置を確かめる。

 

 丁度、ルナの背後に立つようにチェイスの攻撃を捌きながら、動く。

 

 これから仕掛ける攻撃は、アリッサがルナの背後に、ジョセフがチェイスを見えるような位置にいなければならない。

 

 ルナが【賛美歌】で自身を強化し続けている以上、タイミングは一瞬である。

 

 その一瞬で、ジョセフとアリッサは仕掛けなければならない。

 

 そのタイミングが来るまで、ひたすらチェイスに無数の剣を召喚し、飛ばしていく。爆発させる。

 

 一方、ジョセフも自分の視界にチェイスが見えるように立ち回る。ルナの攻撃を捌き続ける。

 

 ひたすら、ただひたすら機を待つ。待ち続ける。

 

 そして――

 

 丁度、ジョセフとアリッサの位置が一直線になっていた。

 

「――ッ!」

 

 機が――来たのだ。

 

 アリッサはすぐさま無数の剣を召喚し、チェイスを狙っていると見せかけて、ルナに狙いを定める。

 

 ジョセフも刀の柄に手をかけ、ルナを狙うように見せかけて、チェイスを狙う。

 

「――行け!」

 

 アリッサの号令の下、剣は回転しながらチェイスを通り過ぎ、ルナの背後に襲いかかるのであった。

 

 

 

 

 

(な――ッ!?)

 

 風切り音と共に無数の剣が背後から襲いかかってくる。

 

 その時、これが最後の一撃だと悟り、ジョセフを倒さんと翼を広げたルナが、愕然とした。

 

(く――ッ!?なんで!?彼女はチェイスを狙っていたんじゃ――ッ!?)

 

 慌てて回避行動をとるルナ。

 

 無数の剣がルナを捉え、追尾する。

 

(ちぃ――ッ!チェイスは?チェイスはどうしたの――)

 

 追尾する剣から逃れるように、回避行動するルナがチェイスの方を見やると――

 

(な――ッ!?)

 

 チェイスは衝撃波のようなものを喰らい、観客席の彼方へ吹き飛ばされていた。

 

 真祖の吸血鬼だし、炎以外の攻撃は効かないが、吹き飛ばされてしまったことによりアリッサがフリーになってしまった。

 

(ま、まさか、それぞれが私とチェイスを狙っていると見せかけて……?してやられた――ッ!)

 

 だが――

 

「甘いわ!この程度の攻撃でぇえええええええええええ――ッ!」

 

 ルナは、法力全開で翼を押し広げた。

 

 全身に漲る法力を、出し惜しみなく全解放して、爆発放出。

 

 四方八方に発散する法力が、アリッサが放った無数の剣を薙ぎ払う。

 

 ガシャンガシャンガシャンッ!

 

 力を失い、折り重なるように落ちる無数の剣。

 

「ちっ!」

 

 薙ぎ払われた剣を見て、舌打ちするアリッサ。

 

 そして、体勢を立て直したチェイスが、再びアリッサに襲いかかり、アリッサはチェイスの攻撃を捌く。捌き続ける。

 

「残念だったわね!私は天使よ!?人間如きの力で――ッ!」

 

 そう、誇らしげに勝利宣言をするルナであったが――

 

「……おい、いいのか?【賛美歌】を解いちゃってええんか?」

 

 そんなルナの下へ、不敵な笑みを浮かべたジョセフが、猛然と突進してきている――

 

(しまっ――これが本当の狙い!?)

 

 そう。

 

 アリッサが放った剣に不意討ちで追尾された一瞬、ルナの歌は完全に止まった。

 

 当然だ。突然背後から無数の剣が襲いかかってきたのだから。

 

 天使言語魔法【賛美歌】は歌い続けている間、常に自己強化効果を発揮し続ける。

 

 逆に言えば――歌をやめれば、効果は消える。

 

 今まで上乗せ強化していた力も、失われる。元に戻る。

 

 しかも、この一瞬、ルナは追尾してきた剣を落とすため、全法力を解放・放出してしまった。今、この瞬間、ルナを守る法力は()()()()してしまっている――

 

「くっ!?Ya――」

 

 ルナが慌てて、再び天使言語魔法【賛美歌】を紡ごうとするも――

 

「~~~~~~ッ!?~~~~~~~ッ!」

 

 突然、途中から【賛美歌】が紡げなくなってしまう。

 

(なんで!?なんで、口ずさめないの!?これじゃ効果を発揮する天使言語魔法が発動しない!)

 

「何、ボサッとしとんのじゃ、ワレェえええええええええええ――ッ!」

 

 ルナの動揺と逡巡の刹那に、ジョセフはルナの間合いへと跳び込んでいた。

 

「く――ッ!?」

 

 がり、と。歯噛みしてルナがジョセフを迎え撃つ。

 

「負けられない……負けられない負けられない負けられない負けられない!天使の私が人間の貴方に負けるわけにはいかない――ッ!」

 

「じゃかあしいわ、ボケェ――ッ!」

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああ――ッ!」

 

 全身全霊をもって、剣を振り下ろすルナ。

 

「いやぁあああああああああああああああああああああああ――ッ!」

 

 同じく刀の柄を掴み、刀を抜き放つジョセフ。

 

 ルナの振り下ろす剣は、ジョセフが抜き放った刀に弾き飛ばされ――

 

「いい加減、黙ってろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!?」

 

 その次の瞬間、ジョセフが回し蹴りで、ルナの頬を抉るように捉える。

 

 そして、そのまま――ジョセフは全力で足を振り抜いた。

 

「かは――ッ!?」

 

 弾いたボールのように、ルナが、水平逆方向へかっ飛んでいく。

 

 弾き飛ばされた聖剣。

 

 ルナの身体は、何度も地面をバウンドしながら、尚も止まらず吹き飛んでいく――

 

(か、身体が……動かない……ッ!?)

 

 脳がぐらぐら揺れて、意識が真っ白になっている。

 

 抗うことができない。息ができない。受け身も取れない。指先一つすら動かせない。

 

 ただ、ルナは自身を支配する圧倒的な物理エネルギーに翻弄されるまま、競技場のフィールドを吹き飛び、転がっていくのであった――

 

 

 

 

 ざっ!

 

 

 

 

 そんなルナの身体を受け止めたのは――チェイスであった。

 

「…………」

 

 切り刻まれ、全身が焼け焦げ、無惨な有様になったチェイスが、ボロボロになったルナの身体を横抱きに抱え、ジョセフを真っ直ぐ見据えている。

 

「ち――来やがったか、吸血鬼」

 

 身構えるジョセフ。

 

「まったく、ちょこまかと……いくら吸血鬼でもタフ過ぎるでしょ、嫌になっちゃうわ!」

 

 ジョセフの右隣に、無数の剣を召喚したアリッサが、空から降り立つ。

 

 今までの激闘を物語るかのように、剣がいつも以上に光輝き散っている。

 

「ジョセフ!アリッサ!」

 

「……やれやれ、ギリギリ間に合ったな」

 

 ジョセフの背後から、グレンとマクシミリアン達が遅れ馳せながら駆けつけてくる。

 

「……………………」

 

 チェイスは、帝国・連邦の合同組を油断なく、無言で見据えている。

 

「……チェ……イス……わ、私の剣を……」

 

 やがて、意識が朦朧となったルナが、呻くように呟いた。

 

「……ルナ」

 

「私は……まだ……戦える……戦わなきゃ……じゃないと……私……何の……何のために……天使になった……のか……ッ!?」

 

 ルナはチェイスの腕から逃れようとするも、弱々しく身をよじらせるだけだ。

 

 そんなルナへ、チェイスは諭すように言った。

 

「もう、いい。もういいんだ、ルナ」

 

「う、ぅ……」

 

「本当はわかってるんだろう?僕達の負けだ。もう、いいんだ、ルナ……」

 

「駄目よ……やだ、負けてない……そん、なの……負けたら……貴方がぁ……嫌ぁ……」

 

「……もう、いいんだ」

 

 すると、ルナは何かを諦めたように、がっくりと首を落として。

 

 やがて、憎々しげに、ジョセフを睨みつける。

 

「ずるい……ずるいわよ、貴方……ッ!何よそれ……ッ!?何なのよ、さっきのは……ッ!何が、≪黒い悪魔≫よ!?貴方の力じゃないじゃない……ッ!?結局、貴方も、グレン=レーダスも、おんぶに抱っこよ……ッ!周りに支えられて、いい気になっているだけだわ……ッ!なんで……なんでよ……なんで、私が、こんな、やつらに……ッ!?」

 

 そんな風に、涙目で、ぐずるルナへ。

 

「……お前、まだわかってないんか?」

 

 ジョセフが、呆れたように言った。

 

「……え?」

 

「いや、だから、おんぶに抱っこの何が悪いんやって聞いてんねん。一人で立つことがそんなに重要なんか?月並みやけど、皆で支え合う……それが人間じゃないの?」

 

「皆……で……?」

 

 ルナが呆けたように復唱する。

 

「……皆……ぁ……ぁ……」

 

 その時だった。

 

 ルナが、ボロボロと涙をこぼし始めたのだ――

 

「……ぁ、ぁああああああああああああああああああああああああああ――ッ!」

 

 やがて、ルナの吠えるような慟哭が競技場内に響き渡る。

 

「な、なんや……?」

 

「…………」

 

 さしものジョセフもアリッサも、そんなルナの号泣に戸惑うしかない。

 

「……本当に、すまない。君達に迷惑をかけてしまって」

 

 すると、泣き喚くルナを余所に、チェイスが淡々と言った。

 

「気にしないでくれ。こっちの事情だ。君達には一切関係ない」

 

 チェイスは、自分に縋り付きながら泣きじゃくるルナを見下ろす。

 

「そして、僕達の完敗だ。僕達はこの件から身を退くよ。もう君達帝国と連邦には手出ししないと約束する。……虫の良い話だとは思うが、見逃してくれないか?もっとも――」

 

 チェイスは眼を細めて言った。

 

「――見逃してくれないというなら、この身が灰の一片になるまで抵抗するだけだけど」

 

「ジョセフ。手負いと言っても吸血鬼よ。退いてくれるに越したことはないわ。それに、准将達が来たとしても、こっちがキツイ」

 

「わかってる」

 

 アリッサの言葉に、ジョセフも忌々しげに頷く。

 

 ああいう鮮烈な覚悟を決めた眼をする者を相手するのは、得策じゃない。こっちも消耗しているのだから尚更だ。

 

「それに……目的は果たしたからな」

 

 ルナを戦闘不能に追いやったためであろうか。

 

 脳内をリフレインしていた【子守歌】が、綺麗さっぱり消えていた。

 

「…………ありがとう。まだ、そんなに深く【子守歌】はかかってないはず。帝国と連邦の選手団は、明日の試合開始前には目覚めると思う。君達の栄光と武運を祈っているよ」

 

 最後にそう言い残して。

 

 ルナを抱えたチェイスが、天高く跳躍する。

 

 そのまま、もの凄い勢いで空を飛んでいき――消えていくのであった。

 

 

 

 

 

「ぐすっ……ひっく……チェイスぅ……ッ!」

 

「……わかってる、わかってるさ……」

 

 深い夜の空の上で。

 

 ルナを抱きかかえるチェイスが、ルナを宥めている。

 

 ルナは溢れる涙のまま、思いの丈を吐き出し続ける。

 

 そんなルナの脳裏に、まるで走馬燈のように浮かぶのは――

 

 ――父親代わりだった、剣聖ヨハネス。

 

 ――聖堂騎士団随一の神速を誇ったシルディン。

 

 ――怪力無双の兄貴分ギルダー。

 

 ――美人で優しい姉のような人だったシェリル。

 

 ――兄妹同然に育った幼馴染――()()()()

 

 今は懐かしい、聖堂騎士団の仲間達。

 

 天涯孤独だったルナにとって、家族同然だった人達――守りたかった大切な人達――

 

「……皆……なんで……()()()()()()()()()のよぉ……ッ!」

 

「――――ッ!」

 

 ルナの慟哭に、チェイスが辛そうに表情を歪める。

 

「皆……なんで、私を置いて逝っちゃったのよ……なんで……なんで……ッ!?ううん、わかってる……ッ!私が……私が弱かったから……ッ!」

 

「……ルナ」

 

「だから、私、天使になったのに……ッ!弱い私は、人間をやめないと誰も守れないから……だから……なのに、なんで……あの二人は……私……と同じ……なのに……なんで、こうも、あの二人と私で……違うのよぉ……ッ!?」

 

「…………」

 

「私は一人なのに……ッ!もう誰もいないのに……ッ!化け物だから、兵器だから、もう誰も私のことを認めてくれないのに……ッ!

 でも、あの二人は……皆に囲まれて幸せそうで、楽しそうで……ッ!酷いよ、ズルいよ……ッ!こんなの……あんまりだよ……ッ!」

 

「ルナ……大丈夫だ。……大丈夫。僕がいるから……偽物だけど……僕がいるから……」

 

 泣きじゃくるルナ。

 

 それをあやすように宥めるチェイス。

 

 人知れぬルナの慟哭が、宵闇の空に輝く月へ吸い込まれていくのであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。

次で十五章のラストになります。
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