ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


記憶を忘れた幼馴染2

 特にジョセフ自身そう意図したわけではないが……結果として、記憶を失ったウェンディは、ジョセフだけには気を許すようになった。

 

 当然の流れというか、元々、グレンはそう頼むつもりだったのだろうが、解毒儀式の準備が整うまで、ウェンディの面倒はジョセフが見ることになる。

 

 グレンとシスティーナ、ルミアとリィエルは先に教室に戻り、ジョセフは様々な魔術的応急処置を施したウェンディを連れて、学院内を歩く。少しでも記憶回復の一助となればと思ってのことだ。

 

 因みに、ジョセフはウェンディのことでかかりきりになるため、下手人のことはグレンが調べることになった。

 

 ウェンディはジョセフがどこに行こうが、まるで雛鳥が親鳥を追うようにトコトコとジョセフについていく。

 

 そして何かに驚く度、ウェンディは、さっとジョセフの背中に隠れたり、ひしとジョセフの腕にしがみつく。

 

 普段の二人を知る者から見れば、実に奇妙な光景がそこにあった。

 

(なんか……昔を思い出すな)

 

 ジョセフはそんなウェンディを見下ろし、昔、まだ帝国から連邦に移住する前の幼い記憶を思い出す。

 

 それは、ジョセフの両親がナーブレス領に訪れて、いつものように用事が終わるまでウェンディと遊んでいたある日のこと。

 

 この時、ウェンディとちょっとした冒険をしていて、その途中で迷子になって帰れなくなってしまった時があった。

 

 時分はすでに暗くなり始めており、人が誰もいないという状況。

 

 当然、帰れないとウェンディは大泣きである。

 

 ジョセフは、泣くのを堪えて大泣きするウェンディの手を引くように家に帰ろうとしていた記憶が今でも憶えている。

 

 結局、家に帰り着くことができ、二人が見つからなくて慌てて探していたそれぞれの両親に、二人は怒られたのだが。

 

 今となっては笑い話……そんな記憶がふと蘇った。

 

「……まぁ、何とかしてやるさ。……それよりも……ウェンディ。あんまりベタベタされると、その……困る」

 

 一通り学院を見て回り、最後に教室へと向かう最中、ジョセフの腕にしがみついて、おっかなびっくりしているウェンディへ、ジョセフは複雑な表情で言った。

 

「あ……その……ごめんなさい……」

 

 悲しそうに、名残り惜しそうに、ジョセフの腕をそっと放すウェンディ……放すだけで離れようとはしない。

 

「め、迷惑ですわよね……わたくしみたいな女に付きまとわれては……」

 

「えーと、そうじゃなくて。その……なんというか……」

 

 なんというか、すんごく調子が狂う。

 

 普段だったら、ジョセフがウェンディを弄りに弄りまくって、ウェンディがげしげしと蹴ったり、シェイクしたりなどが日常なのだが。

 

「そういえば、その……わたくしと貴方は確か、『幼馴染』……でしたよね……?」

 

「そう、ウチらは幼馴染で、俺がこの学院に来たから、十年ぶりに再会したんやけどな」

 

 ジョセフという精神的な支柱を手に入れ、ウェンディは徐々に、今の自分が『普段の自分とは違う、何らかの記憶をなくしてしまった状態である』という現実を受け入れ始めていた。

 

 そして、自分が何者かによって忘レナ草を吸わされた……何者かによって狙われている、ということも薄々理解し始めていた。

 

 一体、何で狙われているのかわからないが、少しでも記憶をも戻そうとウェンディはまずジョセフと自分の関係を聞くことにしたのだろう。

 

 だが、必死に思い出そうとしても、思い出せない。

 

 ジョセフはそんなウェンディを見ると、頭にポンと手を置き、撫でる。

 

「……大丈夫やで。そんなに無理に思い出さなくても、ゆっくり思い出していけばいいさ。俺もいるから、一緒に思い出していこうや」

 

「ありがとうございます。……その、優しいのですね、貴方は……」

 

「……お、おう……いや、そこまでは……」

 

 なんだろう。やりづらい。むちゃくちゃやりづらい。普段のウェンディを知っているだけに、こうしおらしく出られると、とてもやりづらくて調子が狂う。

 

 そうこうやりとりしているうちに、ジョセフとウェンディの二人は自分のクラスの教室の扉の前に立った。

 

「と、とにかく……解毒はまだだけど……なるべく、記憶を失う以前の環境に触れた方が、記憶の戻りも早くなると思うから。てなわけで、今から俺達のクラスで一緒に授業を受けようと思うんだけど……さっき、医務室でいた先生とシスティーナとルミアとリィエルの三人の女子もいるんやけどな……どう?大丈夫?」

 

「…………」

 

 まだ、微かに怖いらしい。無理もない。見知らぬ場所、見知らぬ人。頼れる人はジョセフだけ。

 

「もちろん、お前が嫌なら、やめる。……どうする?」

 

 ウェンディは再び、ジョセフの腕にぎゅっとしがみつき、しばらく迷ったように押し黙り……

 

「……わかりました、やってみます」

 

 表情を不安げに揺らしながら、それでも決意を込め、そう答えた。

 

「いつまでも貴方にご迷惑をかけるわけには……」

 

「ん、わかった……まぁ、俺がいるから、安心しとき」

 

 ジョセフはウェンディの頭を、くしゃりと撫でる。

 

 ウェンディはどこか嬉しそうに、気持ち良さそうに、表情を緩めた。

 

(……本当にやりづらいなぁ……調子狂いっぱなしだって)

 

 ため息交じりに苦笑するジョセフであった。

 

 

 

 

 

「ちわーす、三河屋でーす」

 

 そして、ジョセフとウェンディの二人が、教室に入ると。

 

「ジョセフ!先生達から話は聞いたぞぉおおお――っ!?」

 

「大丈夫か!?なぁ、ジョセフ!ウェンディ、大丈夫なのかよ!?」

 

 一斉に生徒達が、ジョセフとウェンディの周囲に、どっと集まってくる。

 

「……ッ!?」

 

「お、お前ら、ちょっと……ッ!?」

 

 たちまち怯えて、ジョセフの背中に隠れ、しがみつくウェンディ。

 

「うわ、なんていうレアな反応……」

 

「やっぱ、まだ記憶戻ってねーのかよ……」

 

「くそ!俺達の仲間をこんな目に遭わせたバカは、どこのどいつだ!?」

 

「絶ッ対!許さねえ!」

 

「そんなことより、ウェンディはどうすんだよ、ジョセフ!早く元に戻してあげないと!」

 

 ジョセフとウェンディを取り囲んだクラスメイト達は、心配のあまりかなり興奮気味に、次から次へと言葉をまくし立てていく。

 

「あ……あ、あぁ……」

 

 みるみるうちにウェンディの表情を恐怖と混乱が支配していって……

 

「い、嫌……ッ!た、助け……」

 

 今にも感情が暴発――その瞬間。

 

「ええ加減にせえよ、ぬしゃあ!いてまうぞ!?」

 

 普段のジョセフからは想像がつかないほどの鋭い一喝に、生徒達は一瞬で押し黙り、場がしんと静まり返る。

 

「……っと、久々に方言でキレてもうた。悪い、悪い」

 

 にっと、ジョセフがクラスメート達を安心させるように口元を歪める。

 

「ジョセフ、お前、マジで怖いから……方言でキレると怖いからな……だが、お前ら、忘レナ草の作用のことを知ってるだろ?なにせ、こないだの授業で俺が直々にお前らに教えてやったばかりだしな」

 

「あ……そ、それは、その……す、すんません……先生……」

 

 生徒達を代表して、カッシュがぺこりと謝った。

 

「お前らがウェンディのこと、心配なのはわかるよ。だが、心配だからこそ、普通に接してやれ。それが一番さ」

 

「そうっすね……その……すまん、ウェンディ……俺達もその……お前が何者かに毒かがされたって聞いて動揺しちゃってて……さ」

 

「い、いえ……わたくしは……」

 

 ウェンディはしっかりとジョセフの腕にしがみつきながら、徐々に落ち着きを取り戻していく。

 

「大丈夫、大丈夫だから、ウェンディ」

 

 ジョセフはそんなウェンディの頭を撫でながら、安心させるように優しく言う。

 

「こいつらも、お前のことが心配なだけなんさ。皆、大切なお前の仲間達なんや……信じられへん?」

 

「い、いえ……貴方がそう言うってことは……多分、そうなんだと思いますわ……わたくし、信じますわ……」

 

 そして。ウェンディは目を閉じて、何度か深呼吸をし、やがて意を決したかのようにジョセフの腕からそっと離れ、一歩前に出て、クラスメイト達に告げた。

 

「その……ごめんなさい。わたくし、皆さんのこと……誰一人知りません……忘れてしまったみたいで……本当にごめんなさい……」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「でも、わたくし、頑張って皆さんのこと、思い出しますわ。まだ、怖いけど……皆さんがとても良い人なんだってことは、なんとなくわかりますわ……だから……その……」

 

 そして……

 

「どうか、こんなわたくしを……よろしくお願いしますわね?」

 

 ウェンディは精一杯、微笑みを浮かべてみせて……その微かに憂いを帯びた笑みは、とても儚げで……

 

((((あ、あれ……?))))

 

 その瞬間、クラスメイト――特に男子生徒達――に衝撃が走った。

 

(う、ウェンディって……こんなに可愛い子だったっけ……?)

 

(ば、馬鹿な……俺、リィエルちゃん派だったのに……ッ!?)

 

(あ、あるぇ……何か、胸がどきどきするヨー?)

 

(美人だけど、高飛車でプライドが高くていつも強気なんだけど……)

 

(ま、守ってあげたい……ッ!ウェンディ様を守ってあげたい……ッ!)

 

 そんな男子生徒達を他所に。

 

「うん、大丈夫やな。よう頑張ったよ、ウェンディ」

 

「……貴方のおかげです、『ジョセフ』……貴方がわたくしに勇気をくれました」

 

「そう」

 

 ジョセフがウェンディの頭を撫でていて……ウェンディははにかむように目を細め、実に嬉しそうで……

 

 ぞくり。その刹那、ジョセフの背筋を嫌な悪寒が走った。

 

「……どうかしました?『ジョセフ』」

 

「いや、なんか俺……背中を刺されるような予感がしてきた……なぜに?」

 

 男子生徒達の敵意に満ちた――特にウェンディ派――冷ややかな視線が集まる中、ジョセフは滝のように冷や汗を流すのであった。

 

 

 

 

 

 

 こうして。

 

 魔術講師グレンによる、魔道具製造術の授業が始まった。

 

 お題は『宝石を加工して巻物を作る』である。具体的には、羊皮紙の上に魔導回路と簡易魔力炉を構築し、簡単な令呪で、羊皮紙上に構築した魔術を起動できる消費付呪型エンチャントを作製する。というものだ。

 

 すでに以前、やったことがある授業だが、復習とウェンディの記憶回復の補助も兼ねて、グレンはこの授業内容を再び選択したのである。

 

 グレンが簡単に要諦を講義した後、早速、生徒達は作業を開始する。

 

 羊皮紙上に呪文と法陣をかき、要所に宝石をツールでカットして埋め込み、呪文で魔力を吹き込む。各種魔術触媒を焼き鏝を使って銀と共に箔押しし、魔導回路を作っていく――実に手慣れたものだ。

 

 ところで、ウェンディは身に染みついたこと……根本的な魔術理論や知識は記憶に残っているようだが、比較的最近学習したことに関しては、ごっそりと抜け落ちているらしい。

 

 ゆえに、元々、手先が不器用なのもあってか、ウェンディの作業は上手くいかず、遅々として進まない。

 

「うぅ……難しい……」」

 

 ウェンディが困ったように視線を彷徨わせると。

 

「どれ。一緒に進めようか、ウェンディ」

 

 隣に座っているジョセフが、ウェンディの肩をちょんちょんと叩き、自分の手元を見るように促す。

 

 そういうジョセフも、普段はあらゆる課題をシスティーナと同じくらいに早く正確に片付けるのに、この時は珍しく遅々として進んでいなかった。

 

 というのも元々、不器用なのと、記憶を忘れていることを配慮して、あえてウェンディのペースに合わせているというだけであった。

 

「ここはな、宝石をカットする時はな、角度が重要なんや。こんな風にな……」

 

「銀の箔押しは、こういう風にな……」

 

「触媒固着の時に気をつけんといけないときはな……」

 

 ゆっくりと、ウェンディに見せるようにまずはジョセフがやり、ウェンディはそれを見ながら作業を進め……

 

「あっ……できました」

 

「そうそう。上手いじゃん、ウェンディ」

 

「ふふ、貴方が親切なおかげです……本当にありがとうございます」

 

 ウェンディは、ジョセフへ朗らかに微笑んで……それがまた普段の高飛車で強気で勝ち気な彼女からは想像もつかないほど、淑やかで儚げで、つい守ってあげたくなるような微笑みで……

 

((((……あ、あるぇ~?この二人、いつもはこんな感じだったっけ……?))))

 

 同時に、普段はこういう授業では、ジョセフがウェンディの不器用さから来るアクロバティックなやり方にツッコミをいれて、ウェンディが反応してぎゃーぎゃー騒ぐという日常とはかけ離れた姿に、グレン達は戸惑うのであった。

 

「うん、ここまでは上手くいっているな。いいよ、その調子」

 

 まるで自分の事のように、喜ぶジョセフ。

 

「『ジョセフ』……」

 

 そんなジョセフに、ウェンディは嬉しそうに顔を綻ばせ、その頬に薄く紅が差し……

 

 それを見た男子生徒達――特にウェンディ派は、互いに顔を見合わせて――

 

「「「「ぺっ」」」」

 

 男子生徒達はふて腐れたように、ジョセフからそっぽを向いた。

 

「どうしたお前ら?そんなリアクションをして……何かあったか?」

 

「自分の胸に聞いてみるんだな……」

 

「お前……夜の帰り道、背中に気を付けたほうがいいぜ……」

 

「つか、ジョセフと先生ばっか、ずりぃ」(泣)

 

「先生は、ルミアちゃんにリィエルちゃん――後はシスティーナもだけど――、ジョセフはテレサちゃんと……そして……くっ!また独り占めしたいのか、、アンタらはッ!?」(号泣)

 

「「はぁ!?」」

 

 なぜか巻き込まれるグレン。

 

 わいのわいのと、いつものように大騒ぎが始まる。

 

 そんな光景を前に、ウェンディがおろおろしながら、手近なモデル並の体形の女子生徒に尋ねる。

 

「え、ええと……すみません、貴女は……?」

 

「テレサ、です」

 

「あの……テレサさん……一つお聞きしてよろしいですか……?」

 

「ふふ、なんなりと」

 

「あ……ありがとうございます……その……『ジョセフ』は、あまり皆さんからよく思われていないのですか?」

 

 悲しげに問いかけてくる親友を安心させようと、テレサが苦笑いで応じる。

 

「心配には及びませんよ。先生とジョセフ含む彼らが、大騒ぎするのはいつものことですから。子供同士のじゃれ合い、とでも言いましょうか」

 

「そ、そうなんですか……?よかった……」

 

 ウェンディが心底安堵したように、ほっと息を吐き、微笑む。

 

「もし……あんなに優しくて頼りになる方が、皆から厭われているとしたら……わたくし、悲しくて……」

 

「……え、ええと……そ、そうですね……ふ、普段の貴女からは想像もつかない言葉ね……」

 

 テレサは額に脂汗を浮かべ、頬を引きつらせるのであった。

 

 その一方で。

 

「ええい!やっぱり、アンタらとは一度決着をつけなきゃなんねぇッ!」

 

「そうだそうだッ!全ては愛のためにッ!可愛い女の子を不当に搾取され、虐げられたる全ての持たざる者、モテざる者の嘆きと怨嗟を晴らし、正義を示すためにッ!」

 

「恋愛格差社会を破壊しろッ!」

 

「うらやま階級闘争上等ッ!彼女いない歴に終止符をッ!」

 

「「「「リア充に鉄槌をッ!」」」」

 

「「「「血の粛清だッ!」」」」

 

 打倒グレン(巻き込まれた)とジョセフの錦の御旗の下に、男子生徒達が、おおおおおおッ!と腕を振り上げて時の声を上げ、グレンとジョセフへ猛然と迫る――

 

「どうしてこうなるの!?安っぽい正義だな!?あと最後、段々本音出てるやないかい!」

 

「ちぃいいいいッ!?お前らッ!どうして俺達が戦わなければならないんだッ!?(今回は割とマジで)ていうか、俺、巻き込まれてるぅううううう――ッ!?被害者!」

 

 どたんばたんと始まる壮絶な魔術バトル。大混乱に陥る教室内。

 

 さらに、そんな混乱に拍車をかけるかのように――

 

「やかましいぞ、貴様ら!?何バカ騒ぎしとるかぁあああ――ッ!?」

 

 ハーレイが登場し――

 

「ツインテール美少女が記憶をなくしたと聞いてッ!フッハハハ――ッ!任せろ、この天才魔導士学教授オーウェル=シュウザーになぁあああ――ッ!」

 

 頭のネジが何本か外れている教授(オーウェル)が怪しげな魔導機械を両手に抱えて、参上し――

 

「記憶喪失で不安に揺れる少女とか、もう大好物ですッ!ぜひとも、治療はこの私に任せてくれたまえッ!私のぁ白魔術で見事、貴女の記憶を覗――取り戻してみせよう!」

 

 変態(ツェスト)男爵まで、湧いて出る。

 

「帰れ、この変態三バカぁああああ――ッ!マジでいてまうぞ!?」

 

「えぇええええええッ!なに、この言われよう!?ていうか、なぜ、私が勝手に変態扱いされているの!?」

 

「いざ目で見よッ!この記憶復元装置は脳髄に直接電気ショックを与え、爆薬を炸裂させてだなぁ――ッ!記憶と共に肩こりも爆☆殺ッ!その際、当人の意識が過去や未来へ一時的にタイムスリップするっぽいデータが出てるが――それはただのバク!後で直すから気にするな!」

 

「聞いた感じ、色々危険なんですけど!?ていうか、余計な機能はいらんわ!いや、その機械自体要らんわ!」

 

「ふひ、ふひひ……おいでおいでぇ、子猫ちゃん……怖くないよぉ……おじさんに子猫ちゃんの心の全てを曝け出してごらぁん……ハァハァ……」

 

「言い方が完全に不審者じゃねえか、この変態男爵!誰も近付きたくないわ!ていうか、マジで連邦のムショにぶち込みたいんですけど!?ぶち込んで良いですか!?いや、ぶち込まんと危険だわ!」

 

「「「「全軍抜刀・全軍突撃ッ!」」」」

 

「「「「たとえ我らが全滅しようとも、この戦争、先生とジョセフを倒して、モテない男と可愛い女の子が一人ずつ生き残れば我々の勝利だ!」」」」

 

「ツッコミキレネエ!」

 

 グレンが天を仰いだ――その時。

 

「≪死ね≫ッ!」

 

 ジョセフが呪文を唱えると、ハンコ先生と変態二人組、そして男子生徒達の頭上に稲妻が落ち――

 

 ビシャァァアアアアアアアアアンッ!

 

「「「「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば――ッ!?」」」」

 

「ギャアアアアアアアア――ッ!?」

 

「あぎゃあああああああ――っ!?」

 

「アーッ!イィイイイ――ッ!?」

 

 稲妻は暴徒と化した男子生徒達(セシルとギイブルを除く)と、変態二人組、そしてついでにハ先生に直撃。

 

 感電して気絶し、まるでビチビチと、釣られた魚があちこちで跳ねているかのような光景が教室でできあがっていた。

 

「……これで良し、と。んじゃ、先生、続けましょうか」

 

「……お、おう……」

 

 一瞬で静まり返った教室の中、ジョセフはやけにスッキリした顔でグレンにそう言い、グレンと感電を免れたセシルとギイブル、女子生徒達は脂汗を浮かべて頬を引きつらせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 学院の某所にて。

 

「よし、もう安心してええで。もうすぐ終わるから」

 

 ジョセフは、ベットの上に腰かける不安げなウェンディへ、そう告げた。

 

「もう解毒の儀式の準備は終わっとるからな。後は、お前にうっちゃらかしたアホは先生が動いているし、儀式もいつでも始められる。そして、お前の記憶は元に戻るし、犯人も先生に捕まる。全ては元通りって訳さ」

 

 実は、グレンはすでにあっさりと犯人を捕まえる算段がついていた。

 

 ここまで、何も仕掛けてこなかったのが気になるが、グレンはある人物に依頼し、その人物と共に犯人を捕まえに行っている。

 

 後は無事に解毒の儀式を行うだけ。

 

 だが、ウェンディの顔は浮かばない。

 

「……どうった?」

 

「『ジョセフ』……わたくし……記憶、取り戻したくありませんわ」

 

 意外なその言葉に、ジョセフが思わず絶句する。

 

「……記憶が戻ったら、今のわたくしはどうなるんですか?」

 

「えーと、そうだな……個人差はあるらしいげど……大体のケースにおいて、記憶を取り戻した瞬間、記憶を失っていた間のことを、綺麗に忘れちまうことが多い……と聞くな。もちろん、ばっちり覚えているケースもあるやろうけど、こればかりはやってみた後でないとわからんわ」

 

「貴方が優しくしてくれた……守ってくれた、支えてくれた……この記憶と想いも……わたくしは全て忘れてしまうんですか……?そんなの……嫌……」

 

「……へぇ?」

 

 調子が狂うジョセフ。

 

「色々聞きました。普段のわたくしは……貴方に対して、随分と無茶なこと言ったり振り回したりしていたみたいですね……」

 

「い、いや……別にそれほどじゃ……」

 

「どうして?どうして以前のわたくしは貴方のような優しい方に、そんな意地の悪いことばりするんですか!?」

 

 ウェンディが涙を浮かべながら、ジョセフを上目遣いで見上げる。

 

「わたくしが記憶を取り戻したら、きっと貴方はもう、わたくしに優しくしてくれない……わたくしが酷く意地悪な子だから……そんなの、嫌ですわ……わたくしは今のままがいい……ぐすっ……ひっく……」

 

「……落ち着け、ウェンディ」

 

 ジョセフがウェンディの肩に手を置いた。

 

「今のお前は薬の効果で、一時的に不安になっているだけや。それはお前の本当の感情じゃない」

 

「で、でも……」

 

「それに、だ。本当のお前の帰りを待っているやつもいる」

 

「……っ!」

 

「大丈夫、安心しろ。俺は何も変わらないから」

 

 にっ、とジョセフは力強く笑う。

 

「まぁ、確かに普段のお前は不器用でそのくせプライドが高いし、我が儘を言うことはあるけど……実は別にそれはそれでお前らしいなって思ってて……要は嫌いじゃないってこった……それに、本当に嫌いならこうまでしてお前の傍におらへんよ。だから、安心し」

 

「じょ……『ジョセフ』……ジョセフ……わ、わたくし……ひょっとしたら……」

 

 ぽう、と。熱に浮かされたような表情で、ウェンディはジョセフを見つめ上げて――

 

「おっと、そろそろ始まるな」

 

 その時、ジョセフは腕時計を見て立ち上がり、部屋の隅へ向かう。

 

「ジョセフ……」

 

 そして。

 

「……なぁ、ウェンディ」

 

 ジョセフはくるりと振り向き――

 

「お前は俺が守っちゃるけん。小さい頃の――あん時の約束やからな。例え普段のお前に戻ろうとも、何があろうとも。だから、安心しとき」

 

 そう言って微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 因みに。

 

 忘レナ草をウェンディのロッカーに仕掛け、記憶を失わせた犯人はグレンと依頼した人物――帝国宮廷魔導士団特務分室所属・ナンバー17≪星≫のアルベルト=フレイザーに捕まった。

 

 犯人は一年次生のアルシャ=クレジールという女子生徒だった。

 

 二つ結びのお下げが特徴的な、知的さと愛嬌を合わせ持った印象の少女は、セリカ曰く一年次生ではトップクラスの優等生で社交的で品行方正。友人も多く、講師陣達の受けも良いという、このような事件を起こすとは思えない生徒だった。

 

 そして、なんでこんな事件を起こしたのかというと――

 

「愛しているです!愛しているんです、お姉様ぁッ!」

 

「きゃっ!?」

 

 アルシャはある女子生徒に抱きついた。

 

 ――システィーナに。

 

「……どういうことなの?」

 

 こればかしはグレンも、ジョセフも、ルミアも目を点にする。

 

 え?なんでシスティーナなの?

 

 じゃあ、なんでウェンディのロッカーに忘レナ草を仕掛けたの?

 

 そんな疑問が、三人の顔にありありと浮かんでいる。

 

 ことの発端はこうだ。

 

 アルシャはシスティーナのことが好きなあまり、グレンのことを忘れさせるために忘レナ草をロッカーに仕掛けようとした。

 

 だが、仕掛ける途中、システィーナ達二組が予想よりも早く女子更衣室に来たのだ。

 

 アルシャは慌ててロッカーの中に忘レナ草を仕掛け、飛び出すように女子更衣室から出て行ったのだが。

 

 その時、アルシャは本来のターゲットであるシスティーナのロッカーではなく、なんとウェンディのロッカーに間違って仕掛けてしまったのだ。

 

 こうして忘レナ草を吸ってしまったウェンディは記憶をなくし、それを知ったアルシャは動けずにほとぼりが冷えるまで待ち、再びシスティーナにしかけようとしていたのであった。

 

 もちろん、それも阻止されてしまったのだが。

 

「ああんっ!お姉様ッ!お姉様ぁあああああんっ!クンカクンカ……ああ、お姉様とっても良い匂い……ハァハァハァハァ……髪モフモフ……」

 

「ちょ……どこ触って……ん……やめ……てぇ……」

 

 そんなアルシャに。

 

「……なぁ、アルシャさんよぉ」

 

 それを知ったジョセフは、システィーナと百合百合しい展開(一方的)をしているアルシャの肩を掴む。

 

「もぉ、なんですか?今は私とお姉様の邪魔をしないでくだ……さい……?」

 

 アルシャが不満げにジョセフに振り返った途端、顔を真っ青にしていく。

 

 ジョセフはにっこりと微笑んでいる――

 

 ――こめかみにいくつかの青筋を立てて。

 

 そして。

 

「≪ウチの幼馴染に・なんてことしてくれたんじゃ・ボケェ≫ッ!」

 

「あぎゃああああああああああああばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば――ッ!?」

 

 即興改変呪文を唱え、アルシャの頭上に稲妻が盛大に落ちる。

 

 感電したアルシャはビクンビクンと痙攣しながら。

 

「ああ……お姉様……お姉様……ガクン……」

 

 やがて、気絶するのであった。

 

 

 

 

 

 それから。

 

 解毒の儀式を受け、ほどなくしてウェンディの記憶が戻ってきた。

 

 アルシャは厳重注意の上に、大量の反省文を書かされることになった。

 

 だが、懲りず、あの日以来、ことあるごとに、システィーナへアプローチを続けている。

 

 この一件で、アルシャの中で何かが吹っ切れたらしい。品行方正な優等生の化けの皮ははがれたが……アルシャは生き生きとしていた。

 

 そして――

 

「だーかーらッ!なんでお前はあんなダイナミックな転倒をするわけ!?おかげでお前の頭が俺のみぞおちに直撃したんですけど!?」

 

「うるさいですわね!わたくしだって好きでこんなことしているんじゃなくってよ!?そもそも、貴方が前に――」

 

「俺は何回もそこは気ぃつけえよって言ってたわ、このアホお嬢ぉおおおおおおおおおおおおおお――ッ!?」

 

「アホアホ言わないでくださいまし!」

 

 結局、毎度お馴染みの光景が、学院某所で展開されていた。道行く生徒達も、そんな二人の様子に苦笑いだ。

 

「くぅうう……次こそは……次こそは、華麗に相手を――」

 

「はいはい、そうですね。華麗(笑)に転倒しないようにしてほしいですね」

 

「だから、華麗に転倒とはなんですの!?華麗に転倒とは!?」

 

「じゃあ、ダイナミック・ウェンディヘッドに名前変えとくよ。これで良いだろ?」

 

「誰も名称を変えろとは言ってませんわよ!ていうか、なんですのその名称は!?」

 

 盛大にため息を吐きながらそう言うジョセフに、ジョセフの腕をバシバシ叩くウェンディであった……。

 

 そんなこんなでジョセフと一緒に歩いている時。

 

(……上手く、誤魔化せましたわよね?)

 

 隣で歩くジョセフを、ウェンディは激しい胸の動悸を隠しながら見ていた。

 

(参りましたわ……あの時のことを思い出すと、未だに顔が熱くなっちゃう……表情に出てないといいんですけど……)

 

 これはジョセフ達全員に秘密のことだが……実は、ウェンディは忘レナ草で記憶を失っている間のことを全く覚えていた。ウェンディはそういう体質だったらしい。

 

 儀式の後、記憶が戻ってきた瞬間、ウェンディは、なぜか咄嗟に嘘を吐いて、演技をしてしまったのである。

 

(……不覚。薬のせいで不安だったとはいえ……このわたくしが……ジョセフに……あんな……いえ、嫌というわけじゃないですけど……それでも……うわぁ……)

 

 かぁ~~っと。再び頬が燃えるように熱を帯びてくる。胸が激しく高鳴り、破裂しそうだ。

 

 不安のままに、ジョセフにベタベタと猫みたいに甘えまくった自分。そんな自分を煙たがらず、最後まで一緒にいて、励まし、支えてくれたジョセフ。

 

 あの時のジョセフはとても優しくて……いつもよりも頼り甲斐があって……あの時のジョセフの一挙手一投足を思い浮かべるだけで……心臓が跳ね上がり、熱に浮かされたように頭がぼや~っとして、なんだかおかしくなりそうだ。

 

 この感情は一体、何なのだろう?

 

 いや、多分、わかっているとは思うのだが。

 

(……ま、まぁ、色々と不本意だし、なんかもやもやする事件だったけど……)

 

 ちらり、と。

 

 ウェンディはもう一度だけ、隣を歩くジョセフを流し見て。

 

(ありがとうございます、ジョセフ……)

 

 胸中で、そっと呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







長くなりましたが、ここまでで
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