ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ。


暴走!!三人娘と大天使様

 

 アルザーノ帝国魔術学院にて。

 

「ああ……ちっくしょう……なんで、俺がこんな目に……?」

 

「せ、先生……気を確かに……私達がついていますから……」

 

 肩を落として廊下をトボトボと歩くグレンの傍らにルミアが寄り添い、その後ろをジョセフとシスティーナとリィエルが続いていた。

 

「まさか……あのオーウェル=シュウザー教授が、また新作発明品のテストを行うなんてね……」

 

 システィーナも半眼で肩を落としている。

 

 オーウェル=シュウザー。

 

 アルザーノ帝国魔術学院に籍を置く魔導工学教授であり、二十八歳という若さで第五階梯へと至った、若き天才魔術師である――

 

 ――のだが、その並外れた才能をいつも斜め上の方向へ空回りさせ、周囲に疾風怒濤阿鼻叫喚の大騒動を巻き起こす、生粋の変態マスター……人呼んで『天災教授』であった。下手に超がつく天才だから、クビにもできない……非常に困った人物である。

 

 そして、オーウェルは時折、魔術実験や魔術発明品のテストのための人員を学院側に要請することがあるが、それに応じて、実験の『助手』として彼の下へと赴くことになった者は、公然と『生贄』と呼ばれる。

 

「ちくしょう……あいつら、俺をオーウェル係か何かと勘違いしてるだろ……ッ!?」

 

 今回も開かれた緊急会議にて、満場一致で『生贄』に選ばれたグレンは、恨みがましく呻くしかなかった。

 

「あ、あはは……仕方ないかもしれませんね……先生ったら、シュウザー教授に、なぜか気に入られてしまってますし……」

 

「教授曰く、先生は”我が人生最大の好敵手にて心友”だものねぇ」

 

「こんなに全力でお断りしたい気分になったのは初めてだぜ……」

 

 システィーナの言葉に、グレンは重苦しくため息を吐くしかなかった。

 

「……で、なんで俺も巻き込まれているんですかね?」

 

 一方、なぜか巻き込まれてしまったことに不満たらたらなジョセフの言葉に、グレン達は全力で聞こえない振りをするのであった。

 

 

 

 

 

 

「ふっははははは――っ!よくぞ来てくれたッ!我が人生最大の好敵手にて心友のグレン先生!そして、その教え子の三人娘達よッ!そして、ふむ、今回は新しい教え子を連れて来たんだな。まぁ、いい!私は君達を心から歓迎するッッッ!」

 

 グレン達がその研究室に顔を出すと、一人の男が歓喜の表情で迎えた。

 

 ミディアムロングヘアを蛮族のように振り乱す、右目が眼帯の男だ。燻し銀の美男子と呼べる容姿ではあるが、妙にギラついた左目や、口元に浮かべた悪そうな笑みが狂気を感じさせる。

 

 彼こそオーウェル=シュウザー。

 

 アルザーノ帝国魔術学院が世界に誇る、天才――もとい、天災魔導工学教授であった。

 

「ったく……今度は一体、何作ったんだよ、テメェ」

 

「ふっ……そんなに私の発明品のお披露目が楽しみだったか……嬉しく思うぞ、心友ッ!」

 

「誰が心友だ、こら。いいから何こさえたか、早く吐け。な?」

 

 もちろん、グレンが発明品について聞くのは、その発明品に興味があるから……ではない。早々に被害対策を講じるためである。

 

(ったく、こいつアホのくせに、魔術品の研究開発だけは、セリカも認める掛け値なしの天才だからな……)

 

 ため息を吐くグレン。

 

(しかも、こいつ、魔導工学教授っていう肩書きも『響きが格好良いから』使ってるってだけで、実はあらゆる魔術分野にアホみてーに長けたオールラウンダーだからな……変態に才能と技術は与えてはいけない典型だぜ)

 

 そんなグレンの内心など露知らず。

 

「ふっ!諸君等が逸る気持ちは理解できるが、まぁ、落ち着きたまえ!なぜ、この私が今回の発明の着想に至ったかをまず説明しようっ!」

 

「ああ、始まるんだな、いつもの」

 

「何が始まるんです?」

 

「これから、長いうんちくが始まるのよ、ジョセフ」

 

「あはは……」

 

 ジト目で溜息を吐くグレンとシスティーナ、早く帰りたいジョセフ、苦笑いするルミア。

 

 一方、リィエルはオーウェルの雑多な研究室内を物珍しそうにきょろきょろしていた。

 

「さて、諸君!今や世界最先端の魔導技術を誇り、政治、経済、軍事……あらゆる分野において頂点を極め、世界中から一目置かれ、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの我等が魔導大国、アルザーノ帝国だが……近年、その勢いに陰りが見え始めていることに、諸君等は気付いているか!?」

 

「えっ?」

 

 システィーナとルミアが、オーウェルの意外な言葉に、目を瞬かせて顔を見合わせる。

 

「ほう?」

 

「……聞き捨てならねーな。何か根拠でもあるのかよ?」

 

「おお、グレン先生……我が人生、最大の好敵手よ……君ほどの男がこの程度の先見の明がないとは残念だ……いや、だがしかし!グレン先生は若手を導くことに命を懸け、魂を燃やす真の聖職者!なればこそ、灯台下暗しも当然か――」

 

「ええい!うっさい!やかましいっ!ただでさえ無駄な時間使ってやってんだから、さっさと続けい!」

 

 すると。

 

 ずばんっ!と、オーウェルが壁へバカデカい一枚のポスター資料を、突然、張り付けた。

 

「ふっ……これは、帝国内における十代から三十代の若者達の就職率に平均結婚年齢、出産率、年収に超過労働時間、その他諸々!この先、帝国の未来を担う若者達に関するありとあらゆるデータをまとめたものだ!……トイレタイムの暇潰しにな!」

 

「いやいや……ちょっと待ってくださいよ……この資料、帝国政策立案研究所より、精度高いんじゃないんですか?これをトイレの暇潰しに……?頭オカシイんじゃない?」

 

 ジト目で資料を眺め、ジョセフが目眩を覚えながら呻く。

 

 ざっと流し見ただけでもわかる。オーウェルが作った資料は、一体、何がここまでさせるんだと言わんばかりの変態染みた精度があった。

 

 ただ一個人がトイレの暇潰しでこれをやったと世間に知れたら、こういう事を専門に、莫大な国家予算を使って行っている帝国政策立案研究所(インペリアル・シンクタンク)の全職員が明日にはクビになるだろう。

 

「さて!この各種のデータを、高度な数秘術を応用して、魔導演算器で独自に予測解析した結果……判明してしまったのだよ!帝国の行く末に立ちこめる暗雲がッ!これを見よ!」

 

 ばんっ!と、オーウェルが叩いた場所を、グレン達が注視する。

 

 そこにグラフ付きで書かれていたデータは……

 

「ん?つまり……帝国は今後、数十年に亘り、出生率が低下し、平均寿命が上昇続ける……ってことか?」

 

「見たところ、それほど顕著な傾向じゃありませんけどね。でも、この資料だとそうなるみたいですね」

 

「その通りだッ!グレン先生ッ!白猫君ッ!」

 

 この世の終わりとばかりの絶望の表情でオーウェルが頭を抱え、天上を仰ぎ、叫んだ。

 

「ついに!ついに帝国は迎えてしまうのだよッ!高齢化社会をッ!このままでは帝国の国力は将来、確実に頭打ちとなり……後は下がる一方となるッ!国家存亡の危機なのだッ!」

 

「はぁ……」

 

「アルザーノ帝国は、世界最先端の文化文明を誇る先進国として、栄華を極め成熟しきってしまったッ!それが故に文明病とも呼べる帝国史上最大の苦難を迎えることになった!嗚呼、嘆かわしい!何とか……何とかしなければならないッッッ!」

 

「ったく、大袈裟な……ンなこと言ったって、社会に影響出るのはまだ何十年も先の話じゃねーか」

 

「そ、そうですよ、教授!まだ心配ありませんって!だから、落ち着いてくださ――」

 

 グレンとシスティーナが、ため息半分、呆れ顔でオーウェルを宥めようとするが……

 

「馬鹿野郎ッッッ!見損なったぞ、グレン先生ッ!白猫君ッッッ!」

 

 オーウェルの激しい一喝に、二人は気圧されてしまう。

 

「そうだッ!君達の言うとおり、確かに今はまだ大きな社会的影響はないかもしれないッ!だが、このままでは確実に近い将来、我等が愛する祖国に重大な悪影響を及ぼしてしまうのだぞッ!?そうなれば、その負担を担うのは他でもない、若者達だッ!わかっているのか!?」

 

「……ッ!?」

 

「それを知って、何も行動を起こさない……傍観し、現状で満足する……それで君達は誇れるのか!?胸を張れるのかッ!?君達の子孫にッ!?未来を生きるアルザーノ帝国の若者達にッッッ!?」

 

 熱っぽく語るオーウェル。

 

 その内容自体はまさにド正論で、何の反論もしようがなかった。

 

「く、悔しいが、お前の言うとおりだ……このままってのは確かに拙い」

 

「そ、そうよね……私達も未来のために何かできることをしないと……」

 

「わかってくれたか、二人とも!私はこの祖国たるアルザーノ帝国に、そして女王陛下に忠誠を誓う一魔術師として、この事態を座して看過することはできない……そして、何よりッ!未来の帝国を生きる若者達が、笑顔で誇りに思える国であって欲しい……それゆえに、私は今回の発明を、この帝国と女王陛下に捧げよう」

 

「オーウェル、お前……」

 

「教授……」

 

「うん、やっぱり、シュウザー教授って凄い人だったんですね……」

 

 すっかり感じ入ったような表情のグレン、システィーナ、ルミア。

 

 ちなみに。

 

「ふーん。まぁ、帝国も大変なこって」

 

 帝国が高齢化社会に突入するのとは対照的に、これから出生率も国力も増大し、十年後には経済的には完全に帝国を突き放し、軍事面でも完全に頂点に達し、自分達の時代が来ることを予測されているアメリカ連邦に住んでいるアメリカ人、ジョセフ(生まれはアルザーノ帝国)はさも他人事のように呟き。

 

「zzz……」

 

 リィエルは立ったまま寝ていた。

 

「……で、だ。お前の前置きが長いのはいつものことだが……結局、何を発明したんだよ?」

 

「そうですよね。教授が仰った問題を解決するなんて、並大抵の事では……」

 

「もう、大規模に移民導入した方がいいんじゃないですか?」

 

「……お前、絶対に他人事だと思っているだろ、アメリカ人め……」

 

「ふっ……それを即解決する方法を私は生み出してしまったのだよ。嗚呼……私は私自身の才能が恐ろしい……ッ!クックック……ッ!」

 

 自信満々な表情を浮かべ、ふんぞり返って笑うオーウェル。

 

「考えてもみたまえ。高齢化社会とは様々な要因で若者世代の晩婚化が進み、出生率が低下してしまうことに、その最大の原因がある……」

 

「他にも原因があるっちゃあるが……まぁ、てっとり早く大きいのはそれだな。で?それがどうした?」

 

「その解決策が――これだッ!」

 

 ずだんっ!と。オーウェルは、香水のような霧吹きがついた小瓶を、テーブルの上に叩き付けた。

 

「これぞ、高齢化社会を回避し、若者に輝かしい未来を約束する発明品――『超モテ薬』だッッッ!」

 

「「「…………」」」

 

「……アカン。それ、絶対にアカンやつや……」

 

 なんとも言えない沈黙と、ため息がグレン達の間に漂っていく。

 

「もう名前だけでなんとなく察しがつくが……一応、言ってみ?その発明品の効果と、その意図するところを」

 

「ふっ!この『超モテ薬』を一振りでもかけられた者は、全身から超モテオーラが発生し、それはもうモテる!どんなにモテないやつでもLOVE的な意味で、異性から確実に滅茶苦茶にモテまくる!傾国の美女など目ではないっ!まるで呪いか何かのようにモテると断言しようッ!一つの例外を除いて誰もがこの薬の効果からは逃れられんっ!まぁ、精神支配系の魔術をガッツリ応用した余裕で違法な薬だから当然だなぁッ!?フゥーハハハハハハハハハハハハ――ッ!?」

 

「「「「…………」」」」

 

「これを帝国全土に無差別散布して、さぁ若人達よッ!帝国の輝かしい未来のため、その若き衝動に任せて産めや増やせや――」

 

「馬鹿野郎か、お前はぁあああああああああああああああ――ッ!?」

 

 どぐしゃっ!

 

 グレンが、オーウェルの後頭部を引っ掴み、その顔面を壁に叩き付け、めり込ませる。

 

「……これはひどい発想だ……」

 

 もう、なんか連邦も真っ青になって裸足で逃げ出しそうな発想に、ジョセフは頭を抱える。

 

 輝かし未来どころか、カオスな未来が待っているような気がする。

 

「何考えてんだ、アホッ!ちょっとは倫理的な問題も考えろッ!」

 

「そ、そうですよっ!そんなことしたら、帝国中が大混乱ですっ!未来の前に、現在が滅茶苦茶になってしまいますよっ!?」

 

「くっくっく……このオーウェル=シュウザーが、大いなる未来の前に、倫理とか現在とか……そんなクソみたいなせせこましい事を考慮すると本気で思ったか……?私は未来さえ良ければよい……過程や方法など……どうでもよいのだぁあああああ――っ!?」

 

「死ねッ!」

 

 どぼごきゃっ!

 

 グレンの猛烈な膝蹴りがオーウェルの腹部に突き刺さり、オーウェルは床をのたうち回って悶絶する。

 

「ったく、こいつは……本末転倒にもほどがあるだろ……」

 

 床のオーウェルをゴミを見る目で眺めながら、グレンは嘆息した。

 

「なんかもう……発想が劇薬過ぎるでしょ、この人……」

 

 あまりの狂気な発想に、ジョセフは頬を引きつらせる。

 

「そ、それにしても……恐ろしい発明品ですよね……?人の恋愛感情をそこまで操作するなんて……」

 

 システィーナが戦々恐々と、テーブルの上の薬瓶を流し見ている。

 

「……異性の想いを……引き寄せられる薬……」

 

 ルミアも、どこかぼんやりとした表情で、薬瓶をじっと見つめている。

 

「あの……ルミアさん?なんか心ここに在らずだけど……?これ、絶対に使わない方が……」

 

 ジョセフは、そんなルミアを見てそう言う。

 

「あのシュウザー教授が、あれほど自信満々に、モテまくる、と断言してるんですもの……よっぽど凄い効果があるんでしょうね……」

 

 システィーナがそんなことを呟いた……その時だ。

 

「……ふぅ~ん?」

 

 グレンが、不意にその薬瓶へと、右手を伸ばした。

 

「待ちなさい」

 

 咄嗟に、嫌な予感を覚えたシスティーナが、そのグレンの右手を掴む。

 

「一体、どういうつもり?」

 

「どういうつもりって……」

 

 すると、グレンが軽快に一歩踏み込んで、小瓶へ左手を伸ばす。

 

 止める暇もない。

 

 グレンの左手がその薬瓶を掴んだ。

 

「あっ!?こらっ!一体、何をするつもりなのよ!?」

 

「いや、何……この危険なお薬は後で廃棄処分確定なわけだが……でも、一応、助手としての務めは果たさなければなって、思ってさ……」

 

 無駄にキリっとした顔で、グレンが言った。

 

「へぇ、てっきり”これを売って金儲けするんだZE☆”とか言いそうな気がしましたけど……」

 

「……ジョセフ、お前、俺のことなんだと思ってるの?泣くよ?さすがに泣いちゃうよ、ボクちん」

 

「流石にそんなこと企んでいたら本当にロクでなしよ、まったく……」

 

「いやぁ……でも、オーウェルのアホの発明品が一体、どれだけの危険な効能を持っているのか……オーウェル係となった俺としては、やっぱり報告のためにもキッチリと確認しておかねーとなぁ……くぅ……辛いわぁー、マジで辛いわぁー、やりたくねーわ!」(棒)

 

「ちょ……ッ!?何よその顔!先生ったら、今、絶対、ロクでもないこと考えてますよね!?ね!?」

 

「ふぁー?何のことだが俺にはサッパーリ……ぐっへっへっへ……」

 

 そう言って、グレンはシスティーナを振りほどこうとして――

 

「さ、させませんってばっ!」

 

 システィーナはグレンと正面から取っ組み合う。

 

「お、おい、二人とも。瓶を持った状態で取っ組み合ったら……」

 

「あ、あの……先生?システィ?ちょっと落ち着いて……」

 

 ジョセフとルミアが二人に近付き、宥めようとするが……

 

「ちょ……離せよ、白猫ッ!」

 

「離すわけないでしょ!?そんな邪な薬の力に頼ってまで、モテたいんですか!?恥を知りなさい!」

 

 二人はジョセフとルミアを無視して暴れ、とても収拾がつきそうになかった。

 

「ちょ、ちょっとだけだって!薬の効果をほんのちょっと試すだけ!な?ちょっとだけだからっ!」

 

「駄 目 で す ッ!」

 

「いいじゃねえか、別に!大体、この学院の女共、俺に優しくなさ過ぎるんだよっ!ジョセフだけはやたら優しいくせになっ!たまにはチヤホヤされたいんじゃ、コンチクショウ!」

 

「それは自業自得でしょッ!?」

 

 取っ組み合った二人が暴れ始める。

 

 その弾みで、グレンが持っている薬瓶から蓋が取れた。

 

「あっ!?やばっ!?」

 

「ちょっと、何やってるのよ!?それを早くこっちに渡しなさいっ!」

 

「こら、バカ!飛びつくな!?」

 

 システィーナが、グレンの薬瓶を持つ左手に飛びつき、その勢い余って、グレンの手から薬瓶が飛んでいく。

 

「あっ!?」

 

 薬瓶は放物線を描き……

 

 ばしゃっ!

 

「きゃっ!?冷たいっ!」

 

「ちょっ!?こっちにかかってきたってっ!?」

 

 ルミアとジョセフが、その薬瓶の中身の水薬を頭から全部被ってしまう。

 

「ちょ、おまッ!?だ、……大丈夫か!?ルミア、ジョセフッ!?」

 

 慌ててグレンが、ルミアとジョセフへ駆け寄り、二人の顔を覗き込む。被った水薬はあっという間に乾いており、外見的には異常は見当たらないが……

 

「す、すまん!ちょいと悪ふざけしすぎた!何ともないか!?」

 

「こっちは大丈夫ですよ。ったく、薬持った状態で暴れないでくださいよ。すぐ乾いたからよかったけど。……いや、ちょっと待てよ。先生……」

 

 ジョセフは真っ青になって言った。

 

「これ……薬の効能的に……先生達に何か起きるんちゃいます?しかも、俺とルミア、モロに被ってますよ……?」

 

「あっ!?そ、そうだった!?」

 

 オーウェルは言った。この『超モテ薬』をかけられた者は、超絶的に異性からモテるようになる……と。

 

 それは、つまり……

 

「やっ、やべぇええええ!?教師が生徒にマジになるとか、社会倫理的にアウトぉおおおおおお――ッ!?」

 

「馬鹿野郎ぉおおおおおお――ッ!?これ、どうすんの!?マジで!?え、システィーナとか大丈夫なん!?色んな意味でマズいで、これ!?うっわ、これどうしよ!?」

 

 グレンとジョセフが頭を抱えて喚くが……

 

 …………。

 

「「……あれ?」」

 

 ふと、それに気付いたグレンとジョセフが、目を瞬かせる。

 

「別に、何も起きないぞ?俺。ぶっちゃけ、フツー」

 

「……ですね。てっきり、サルみたいに発狂して踊り狂うんじゃないかと思いましたけど」

 

「なんでだよ!?本当にお前は俺のこと、なんだと思ってんの!?泣くよ!?」

 

 とはいえ、本当に何も起きない。

 

「ええと、システィーナ。お前は、何ともないん?」

 

「え、ええ……私も普通なんだけど……」

 

「いつも通りなん?」

 

「え、ええ、いつも通りよ……」

 

「つまり、だ。まさかオーウェルのやつ、失敗した……?今回の発明は失敗作……?」

 

 その意外な結界に、それこそ信じられん、とグレンが訝しむ。

 

「……でも、何も起きないですし、システィーナもリィエルもいつも通りだし、失敗ちゃうんですか?」

 

 そう呆れるジョセフ。

 

「ったく、オーウェルのやつ……散々ばらデカい口叩いといて、こんなオチかよ、人騒がせな……まぁ、いい、今回のノルマはこれで終わり……」

 

 グレンが呆れたように、肩を竦めた……まさに、その時だった。

 

 ばすっ!

 

「おえっ!?」

 

 ジョセフの背後から、きつく抱きつく者がいた。

 

「ジョセフ君……」

 

「……え?」

 

 ジョセフがぐぎぎっと、後ろを振り向くとそこにはルミアが抱きついていた。

 

「……え、えーと……?ルミアさん、どうしたんですか?どこか具合でも悪いのかなぁ……?」

 

 戸惑うジョセフが見れば、ルミアは、妙に艶っぽく頬を上気させ、吐息は熱く、表情は切なげ、目もとろんと潤んでいる……

 

 あるぇ~?なんか嫌な予感がするぞ~?

 

「……ごめんなさい、ジョセフ君……私……貴方が欲しい……もう我慢できない」

 

「はいっ!?って、ちょ――ッ!?」

 

 ルミアがジョセフの首筋を甘噛みする。

 

「ちょちょちょちょちょッ!?ルミアッ!?お前、正気――」

 

 ジョセフが慌てて、ルミアを振りほどこうとすると……

 

「ジョセフ君!」

 

「ぐへぇっ!?」

 

 不意にルミアが、ジョセフをその場で押し倒していた。

 

「もしもーし!?ルミアさぁ~ん!?アカーンッ!大天使様がご乱心なさったぁあああああ――ッ!?」

 

「はぁ……はぁ……ジョセフ君……ジョセフ君は私のものよ……」

 

「ちゃうでしょぉおおおおおおお――ッ!?俺じゃなくて、先生でしょぉおおおおおお――ッ!?俺、グレン先生じゃなぁあああああいッ!先生はあっち!あっちだから!ちょっと、誰か助けてぇえええええ――ッ!?」

 

 ジョセフを組み敷いたルミアが、暴れるジョセフの唇へ自分の唇をどんどんと近づけていき……

 

「≪身体に憩いを・心に安らぎを・その瞼は落ちよ≫!」

 

 グレンの唱えた、白魔【スリープ・サウンド】が効力を発揮し、ルミアは、ジョセフにしなだれかかるように昏睡するのであった。

 

「せ、先生!?」

 

「この野郎、ついに大天使様にも口説かれやがって……爆発しろ、この悪魔!」

 

「いてまうぞ!このアホ講師!」

 

 そう言い合う二人だが、その顔は真っ青になって脂汗を滝のように流している。

 

「……え、えーと……これって……え?どういうことなの……?」

 

 システィーナも真っ青になって脂汗を流し。

 

「……ルミア、どうしたの?なんか、変だった」

 

 さっき起きたばっかりのリィエルは、無表情で小首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 







大天使様を巻き込む作者さん(笑)
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