それでは、どうぞ(笑)
「ぜはぁー……ぜはぁー……ッ!」
どれくらい時間が経っただろうか。
愛の亡者と化した三人娘に追われるまま、学院敷地内を、全力逃走し続けるジョセフ。
「クソったれ!しつこいやつらめ!アリッサはともかく、残りのお二方は疲れねーのかよッ!?ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ッ!」
「「「愛があれば問題ないのよッッッ!」」」
「マジかよ!万能すぎるだろ、愛ッ!?」
現役の軍人だが、流石に長時間全力疾走し過ぎたのだろう。
息も絶え絶えになっているジョセフに対し、三人娘はまるで疲れを見せない。
「くそっ……げほっ……このままじゃいずれ……ッ!」
酸欠で真っ青になっているジョセフ。しかし、足を止めれば……間違いなく三人娘との成人指定的な展開が待っている。
さすがに、それはマズい。
(マジでマズいな、こりゃ。どうするよ、ホントに)
とはいえ、打開策らしい打開策がまったく見えない現状に、ジョセフが焦りを覚えていると。
「あれ?ジョセフ君?」
「え?」
前方に、見覚えのある女子生徒がいた。
小柄で小動物的なポニーテールの少女、リンがいたのだ。
「リン?なんでこんなところに……?」
「え、ええと、その……なんか、ジョセフ君が……」
「まぁ、今はそんなことよりも――こっちっ!」
「え?きゃっ!?」
とにかく、後ろからヤバい三人が迫っているので、リンを抱きかかえて、ジョセフは残された気力を振り絞って猛ダッシュする。
「はぁ……はぁ……もう、ダメ……これ以上は……」
「あ、あはは……なんか、大変なことになっているね……」
それから、なんとか振り切ったジョセフはリンを降ろす。
しばらくは、追われまくるということはない。
とはいえ、すでに体力的に限界。
今までのように逃げ続けるのは到底、不可能である。
(……くそ……教授はまだできないのか?さすがに、これ以上はキツイって……)
ジョセフがこれからの逃走手段を考えるのだが……
「……ところで、リンさんよ?」
「ん?どうしたの?」
「あの……貴女はどうしてそんなに、俺に近いんでしょうか?」
見れば。
リンはジョセフのすぐ側に、寄り添うように立っていた。
「しょ、少々距離が近すぎやしませんかね?もちっと離れた方が……」
「………………」
引きつった表情のジョセフにそう指摘された途端、無言になるリン。
「……その……失礼しまーす……?」
ジョセフがそう言って、リンが離れようとすれば……
がしっ!その二の腕を、リンが据わった目で掴んでいた。
そんなリンの異様な様子に……
「……ねえ、リン、まさか……?」
猛烈に嫌な予感を覚えるジョセフ。
「ところで、ねえ、ジョセフ君……」
「な、なんでございましょうか?リンさん……?」
にこりと微笑むリンに、ジョセフが恐る恐る問い返すと……
「ジョセフ君……私と付き合ってくれませんか?」
「うっそでしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!?」
嫌な予感が的中したことにジョセフは、空に向かって吠えるしかなかった。
「リンさん、滅茶苦茶薬の影響を受けてるじゃんか!?お願いだから、目を覚ましてッ!?ていうか、なんでなの!?え、リンって、どちらかというと先生の方なんじゃないの!?なんで!?」
「え?薬?なんなの、それ?……あ、ジョセフ君、好きです」
「うっそ~ん……」
ぎゅぎゅぎゅ~っ!と普段の性格では想像できないほど抱きついてくるリンに、ジョセフは最早、抵抗する気力すら起こらなかった。
「あ、でも、ジョセフ君ってウェンディと仲が良さそうだし、テレサとアリッサとも仲が良いし……うーん、どうすれば……そうだ、ジョセフ君っ!いっそのこと愛人で――」
「色々と拗らせ過ぎだよ、リンさん!?」
そんなアホなやりとりをやっているうちに……
「「「ジョセフゥウウウウウウウウ――ッ!」」」
巧妙に隠れていたのに、暴走三人娘に見つかり、押し寄せてくる――
「ぎゃあああああ――ッ!?お前らマジかよ!?一体、どうやったら、見つけたの!?」
「「「愛があれば問題ないッッッ!」」」
「万能過ぎるだろ、愛!?」
そして――
「待ちなさいっ!ジョセフは私達のものよっ!」
「そうだよ!だからジョセフ君から離れてっ!」
「邪魔する人は、やっつける!」
ルミアと――あと、さっきまでは何ともなかったはずのシスティーナとリィエルまで、猛ダッシュでやってきて――
「あいぇえええええええええええ――ッ!?なんで!?ルミアには先生が【スリープ・サウンド】をあんなに仕掛けたのに――ッ!?ていうか、なんで、システィーナもリィエルも!?」
「愛があれば問題ないよっ!」
「愛があれば問題ないわっ!」
「ん!愛!」
「もう、わけわからんんわ!愛って!お前ら、バカの一丁覚えで愛の一言でなんでも済ますんな、この大馬鹿野郎ォオオオ――ッ!」
そして――
「ふんっ!このわたくしから、ジョセフを奪おうとするおバカはどこのどいつですの?」
「幼馴染だから?だから、何よ?ジョセフは、私を一人にしないんだから、私のものよ!」
「うふふ、さすがにこればかりは譲れないわ」
「違う、ジョセフ君は私のものなの」
「ジョセフ君は、私のものなの!誰にも渡さない!」
「いくら、相手がウェンディ達でも、ジョセフは渡さないわ!」
「ん!渡さない!」
「ならば――」
「誰かジョセフを手にするに相応しいか――」
「「「「「「「戦争よッ!」」」」」」」
全ては――愛故に。
愛に全てを。
「……もう、知らんわ。好きにして」
ジョセフの眼前で、激しく入り乱れ争い合う暴走少女達。
稲妻が、突風が、爆風が、大剣が、剣が、無数に飛び交うその場所は世界の終末――神々の黄昏の再来であった。
「これ、どうすんの……」
ジョセフは、ただただ呆然と目の前の混沌を眺めるしかなかった。
と、その時である。
「ふっ……ジョセフ君、待たせたな」
その場に、悠然とした足取りでオーウェルがやってくる。
「『反モテ薬』が出来たぞ」
「やっとですか、遅いですよ!早速、それ下さい――」
ジョセフが薬を受け取ろうとオーウェルに手を差し出すが……
「む?違うぞ。ぶっちゃけ、ジョセフ君の浴びたモテ薬を中和する薬は、今のところない」
「……は?」
オーウェルの言葉に、ジョセフが硬直する。
「だが、安心しろ、ジョセフ君。君が使ったモテ薬の効果は、時間経過で自然に切れる。今、私が作ってきた『反モテ薬』というのは、君の超モテオーラに影響された者達を正気に戻すもの……そう、彼女達に使うためのものだ」
カオスの極みで暴れ回る少女達を指さしながら、オーウェルが言う。
「アホですか!あんな大暴れしている連中に、どうやって、薬を使うんですかッ!?どう考えても不可能でしょうがッ!ていうか、グレン先生は!?」
「安心しろ、抜かりはないぞ、ジョセフ君!あの連中に、一気に薬を処方する手段も用意してあるッッッ!因みに、グレン先生は、白猫君に吹き飛ばされて気絶している」
「えぇ……ま、まぁ、方法があるなら、早くやってください」
「うむ」
すると。
オーウェルは懐から、ボールのようなものを取り出し、そのボールについている導火線のようなものに、オイルライターで火を点けた。
しゅしゅしゅ……
そんな音と共に、徐々に導火線が燃えて短くなっていく……
そんな不穏すぎる光景に。
「あの……一応、聞いていいすか?」
「なんだね?」
「猛烈に嫌な予感がするんですが……この場にいる全員に、一体どうやって『反モテ薬』を処方するんです?」
「決まってるだろう?」
ふっ……と、オーウェルがクールに笑って言った。
「この私特製の魔導爆弾を起爆し、その爆風で全てを吹き飛ばしつつ、薬を学院中へ一気に散布するのだッ!これぞ、もっとも効率のよい最適解ッッッ!ヒャーッハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハ――ッ!」
「………………」
しばらくの間。
ジョセフが、無表情で沈黙して……そして。
「マジでこの教授、後で覚えてろよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!」
そんなジョセフの魂の叫びと共に。
ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
オーウェルの爆弾が大爆発して。
猛烈に渦を巻いた爆風が、その場に居合わせた一同を、もれなく吹き飛ばすのであった――
――そして。
眼前に広がる光景は――死屍累々。
「う、うーん……」
「苺タルト……美味しい……」
「ジョセフ……わたくしと……う~~ん……」
「むにゃむにゃ……ジョセフ、私を一人に……」
誰も彼もが丸焦げとなって折り重なるように倒れ、気絶していた。
「ふっ……私特製の『魔導バリア』がなければ即死だった……」
やはり無傷のオーウェルが、全身を妙に拗くれさせた、意味不明のドヤ顔で決めポーズを取っていた。
「何はともあれ!ジョセフ君の『超モテ薬』は、じきに時間経過で効力は切れるっ!そして、ジョセフ君を追う者は全て殲滅した!つまり、これにて一件落着ッ!ふっははははははははははははははははは――ッ!」
そう言って、ばさり、と白衣を翻し、最高にクールな表情でオーウェルがその場を立ち去ろうとした……その時だ。
「教授ゥウウウウウウ……」
真っ黒クロスケになったジョセフが、片手に短機関銃を持って、地獄から這い上がってきたような声でオーウェルの肩を掴む。
そして。
「死ぬ覚悟はできてますかなぁ~~?」
短機関銃をオーウェルに向けて構え――
「まっ、待ちたまえ、ジョセフ君!こ、これは帝国の未来ぃぎゃああああああああああああああああああああ――ッ!?」
学院の敷地内で銃声と共に、オーウェルの悲鳴が響き渡るのであった。
この騒動の後、オーウェルはジョセフの短機関銃の乱射と、その後に正気に戻った少女達からの校内暴力事件で全身、包帯でぐるぐる巻きになり――
グレンは、ジョセフがハーレイを踏み台にし、暴走していたシスティーナら二組の主な女子生徒が引き起こした生徒・講師陣の吹き飛ばし、並びに、数々の器物損壊、生徒の監督不行き届きさに対する始末書の執筆と無慈悲な減俸が課され、シロッテ生活を強いられたのは、最早、言うまでもない。
ここまでで(笑)