ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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それでは、どうぞ(笑)


虫歯がある帝国の脳筋少女と連邦の脳筋少女がぶつかるとこうなります(笑)

 とある穏やかな昼下がり――

 

 システィーナ、ルミア、リィエルの三人が、いきつけのオープンカフェのいつもの屋外席に陣取っていた。

 

 その丸いテーブルの中央には、ティーセット。

 

「だから、ここがこうで……つまりこの式をこう変換すると……」

 

「あ、本当だ。システィ、凄い」

 

 システーナとルミアは、テーブルの上に教科書やノートを広げ、今日の授業内容の復習をしている。

 

「…………」

 

 そんな二人を余所に、リィエルの意識は、とある物に注がれていた。

 

 苺タルトである。

 

 リィエルの前には、お皿に載った苺タルトがあったのだ。

 

 リィエルはそれを穴が開くほど、じぃ~っと見つめていた。

 

「…………」

 

 見れば見るほど、美味しそうな苺タルトであった。

 

 甘く香ばしい匂いを漂わせるさく咲くのタルト台は狐色。その中にはふわふわのカスタードクリームがたっぷり詰まっており、その上にナパージュで美しく化粧された苺が、瑞々しい光を放って輝きながら、贅沢に並んで載っている。そして、バニラエッセンスの甘い香りを、飾られたミントの香りが清々しく演出していた。

 

「……ん」

 

 そんな極上の苺タルトを前に、リィエルの眠たげな目が、どこか嬉しそうに細められた。

 

「あっ、ごめんね、リィエル」

 

 そんなリィエルの様子に気付いたシスティーナが、申し訳なさそうに声をかける。

 

「私達、まだちょっと時間かかるから……先に食べてていいよ?」

 

 システィーナの前にはチョコケーキ、ルミアの前にはシュークリームがあるのだが……まだまだ本日の勉強は終わらないようだ。

 

「……いいの?」

 

「うん、遠慮しないでね」

 

 リィエルに、にっこり笑って応じるルミア。

 

 二人の了承を得たリィエルは、待ってましたとばかりに、目をきらきらさせ、苺タルトを手に取る。

 

 そして、あーん、と小さく口を開き、さくり、と苺タルトを食べ始めた。

 

「……!」

 

 途端、口の中に一杯に広がる甘酸っぱさに、リィエルの能面が幸せそうに綻んでいく。

 

 サクサクサク……

 

 それからは、リィエルはまるで子リスが木の実を齧るかのように、黙々と苺タルトを食べた。

 

 リィエルは幸せだった。

 

 一口齧るごとに、リィエルの頭をふわふわした多幸感が包んでいく。何度味わってもまるで飽きない。ずっとこんな気持ちを味わっていたい。

 

(ん……やっぱり、わたし、苺タルト……好き)

 

 サクサクサク……

 

 ひたすら無言で、リィエルはその幸せな一時に浸っていく。

 

 だが。

 

 そんなリィエルの幸福の時間は――唐突に終わりを告げた。

 

 ――ズキッ!

 

 それまでリィエルの頭を甘く包んでいた幸福感を、一瞬で吹き飛ばす激痛が、リィエルの口の中を走った。

 

「――ッ!?!?!?!?」

 

 その刹那、リィエルの身体が石像のように硬直する。

 

 帝国宮廷魔導士団の一員として、今まで数多くの負傷を経験したが、そのどれも違う痛みに、リィエルは目を白黒させていた。

 

(……何?今の?気のせい?)

 

 しばらく硬直した後、リィエルが意を決して、再び苺タルトを齧ると……

 

 ――ズキィンッ!

 

「~~~~ッ!?!?!?!?」

 

 さっきよりも酷い痛みが、リィエルの口の中を襲った。まるで口の中を稲妻が貫いたかのようだ。

 

 全身から、だらだらと冷や汗を垂らし、青ざめていくリィエル。

 

「うーん、なるほど……だから、私、上手くいかなかったんだね……」

 

「そういうこと!あの魔術式の裏に潜む落とし穴は、所見の人は皆、引っかかっちゃうのよね~」

 

 ルミアとシスティーナは勉強に夢中で、リィエルの異変には気付かない。

 

「……………」

 

 リィエルは苺タルトを齧ったポーズのまま、完全に固まってしまう。

 

 その日――あのリィエルが、苺タルトを残すという、前代未聞の異常事態が発生するのであった。

 

 

 

 

 

 同じ頃――

 

「んじゃ、また明日な~、アリッサ」

 

「うん、また明日。……ん」

 

「ちょ、お前な~」

 

 今日の授業が終わり、一緒に帰っていたジョセフと別れ(別れ際にジョセフにキスをして)、アリッサは連邦政府が割り当てたアパートの部屋に帰宅する。

 

 部屋に帰った途端、鞄を投げ出し、制服のままベッドに身を投げる。

 

「ふぅ~~」

 

 しばらく仰向けに寝転がった後、学院の制服を脱ぐ。

 

 黒と赤の二色の上下の下着に包まれた豊満な双丘と、メリハリがきいたグラマーな身体が露わになる。

 

「……むぅ」

 

 服を脱いだ後、あの時ジョセフを部屋の中に引き込んで関係を深めた方が良かったと後悔する。

 

 そして――

 

「……あ、そうだ」

 

 ふと何か思い出したかのように、アリッサはベッドから起き上がり、下着姿のまま台所に向かう。

 

 因みに、アリッサ。一人で自室にいる場合、下着姿で過ごしている。

 

 そして、台所に設置している四角形の入れ物――中を冷気系の魔術である程度冷やした、謂わば冷蔵庫みたいにした入れ物を開けてあるお菓子を取り出す。

 

 取り出したものは、チーズタルトであった。

 

 苺タルトの代わりに、クリームチーズのムースに、小麦粉で作られたタルト台、最初にタルト台だけ焼き、次にムースを入れて二度焼したサクサク、フワフワとしたこのチーズタルトは、実はジョセフが(種類は少ないが、お菓子作りはできるジョセフ)アリッサのために作ったタルトであった。

 

 実は、アリッサはチーズタルトとかプリンなどのお菓子が大好きであった。

 

「……ふふ」

 

 程よく冷やしたチーズタルトを取り出したアリッサは、どこか嬉しそうに目を細めていた。

 

 そして、さくり、と。アリッサはチーズタルトを食べ始めた。

 

 途端、口の中にサクサクとした食感に、クリーミーな味わいと爽やかな酸味とほのかな塩味が広がっていく。

 

(ん~~……ジョセフが作ったチーズタルトは美味しいわ)

 

 サクサクと、一口齧るごとに、多幸感がアリッサの全身を包み込んでいく。

 

 このまま幸せが続いていけば、明日からもなんとか頑張れる。

 

 そんな、アリッサの至福なの一時は――

 

 唐突に、口の中で爆発するかのように走った激痛によって、終わりを迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして――次の日。

 

「うぉおおおおおお――ッ!久しぶりにマトモなメシが食えるぞぉおおおおおおおおおお――ッ!?」

 

 魔術学院の昼休み。昼食をとる生徒達で賑わう学生食堂に、一際うるさい叫びを上げる者がいた。

 

 言わずもがな、グレンである。

 

「もうっ!大騒ぎしないでくださいってば!恥ずかしい!」

 

「ばっか!白猫、これがはしゃがずにいられるかってんだ!やっと今月の給料が入ったんだぞ!?これで昨日までのシロッテ生活からオサラバできるんだぞ!?よっしゃ、今日の昼飯は豪勢にすっぞぉ――っ!?」

 

「まったくもう……無計画にお金を無駄遣いしった自業自得じゃない……」

 

「あはは、まぁまぁ……」

 

 呆れたように額を押さえて溜息を吐くシスティーナを、ルミアが曖昧に笑って宥める。

 

 そして、そんな彼らの後を、リィエルが、影のようについてくる。

 

「…………」

 

 無表情なのは相変わらずだが、今日のリィエルはどこか暗く、やや肩を落としていた。

 

 そして、食堂の一角を陣取ったグレン達は、それぞれ好きな料理を調達してきて、賑やかな昼食会を始めるのであった。

 

 一方――

 

「ふぅ、やっと終わったぁ~~っ!」

 

 フェジテにある在アルザーノ帝国アメリカ連邦領事館にて。

 

 今日はとある用事で魔術学院ではなく、領事館で仕事をしていたジョセフとアリッサが、昼食をとるため食堂に入ってきた。

 

 仕事はもう終わったため、昼から魔術学院に向かい、残りの授業を受ける予定であるジョセフとアリッサは食堂の席の一角を陣取る。

 

 ――アリッサはこの時、どこか暗く、やや肩を落としていた。

 

「んじゃ、いただきましょうかね」

 

 カウンターから今日のランチ――ロールパンにポテトサラダ、ローストビーフを調達し、食事を始める――

 

 

 

 

 

「いただきまぁはぐすはぐはぐッ!もぐもぐッ!がつがつがつッ!」

 

 一方、やせの大食いなグレンは、ローストビーフにフィッシュ&チップス、ミートパイ、チーズサラダ、ベイクドビーンズ、炒めパスタ……大量の料理をテーブルに並べ、ひたすら貪っていた。

 

「もう、行儀悪いわね!?」

 

「もぐもごもごッ――ごっくん!仕方ねえだろ!?だって、安くメシ作ってくれるセリカが、ここ数日、件の教員研修でいなかったんだからよ!こちとらマトモな食事をするのはマジで久しぶりで――」

 

「まったくもう……だから、私がお弁当を作ってあげようかって言ったのに見栄張っちゃって……」(ぼそぼそ)

 

「あん?何か言ったか、白猫?」

 

「何も言ってませんっ!」

 

 そんな風に姦しく昼食が進んでいく――

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 ローストビーフを口に運んでいたジョセフが、ふと、それに気付いた。

 

「どうったん?アリッサ」

 

「…………」

 

 見れば、アリッサの前には、ジョセフと同じメニューである。

 

 それ自体は特段、珍しくないのだが……なぜかアリッサは、それに手をつけようとはせず、どこか思い詰めたような表情で、じっと見つめている。

 

「そう言えば……朝から様子がおかしかったけど?普段大食いなのに、全然食べていなかったっていうか」

 

 さすがに不思議に思ったジョセフが、アリッサの顔を覗く。

 

「どうったん?具合悪いんか?」

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 魔術学院でも、ルミアがリィエルの異変に気付いた。

 

「どうしたの?リィエル」

 

「…………」

 

 アリッサ同様、こちらもお皿にちょこんと載っている苺タルトに手をつけていなかった。

 

「そう言えば……リィエルったら、昨日も苺タルト、残してたわよね?」

 

 こちらも不思議に思ったのか、システィーナがリィエルに顔を向ける。

 

「本当にどうしたの?まさか、どこか具合でも悪い?」

 

「そんなことない」

 

「うーん……ひょっとして、苺タルトばかりで飽きちゃった、とか?」

 

「……そんなことない」

 

 システィーナとルミアに口々に問われても、リィエルは素っ気なく返して……やはり、苺タルトをじっと見つめ続けるだけだった。

 

 

 

 

 

 

「……具合わるいんなら、今日の仕事は終わったし、先生に言っとくから、学院、休むか?」

 

 心配そうにするジョセフがそう言うが。

 

「……大丈夫」

 

 

 

「お?なんだ、リィエル!お前、腹減ってねーのか!?」

 

 久々の人間の食事に、ハイテンションになっていたグレンが、リィエルに声を投げかける。

 

「げへへへ!要らねえなら、それ、もぉ~~らいっとぉ!」

 

 そして空気も読まず、グレンがリィエルの苺タルトへと手を伸ばして――

 

「だめ!」

 

 さすがにそれには反応し、リィエルは慌てて苺タルトを手にとって、グレンの魔の手から守り――

 

 

 

 

 そして――

 

「「……はぐ!」」

 

 意を決したように、その苺タルトに――アリッサはロールパンに噛みついた――その瞬間。

 

 ズギギギィンッッ!

 

「「ぴぃいいいいいいい――ッ!?」」

 

 びくんっ!と、二人が身体を震わせて、奇妙な悲鳴を上げるのはほぼ同じタイミングであった。

 

「……な、なんだ?アリッサ……お前、どうした?」

 

 ジョセフは、目を丸くしてアリッサを見る。

 

 一方で、グレンもシスティーナもルミアも、目を丸くしてリィエルを見る。

 

「……な、なんでもない……」

 

「う……うぅ~、な、……なんでも……ない……」

 

 あの常に能面のリィエルが――普段は余裕のあるアリッサが涙目になって、右の頬を押さえている。

 

 そして、もう一度、今度は恐る恐る、齧りついて……

 

「「んんんんんんんんんんん~~ッ!?」」

 

 まったく同じ反応を繰り返す二人。

 

 二人のそんな姿に、ピンと閃くものが、グレンとジョセフにはあった。

 

 グレンが、ジョセフが手を伸ばし、頬を押さえるリィエルとアリッサの右手を掴んで引き剥がす。

 

 よく見たら、リィエルとアリッサの右頬は腫れていた。

 

「「お前……ちょっと口を開けてみろ」」

 

 確信をもって――違う場所で、同じタイミングで、グレンとジョセフはもう片手の手でリィエルの――アリッサの口を開けさせ、中を覗き込む。

 

 と、そこには――

 

 

 

 

 





今回は、ここまでで(笑)
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