それでは、どうぞ。
そんなこんなで――二年次二組の教室にて。
「お、おい……リィエルちゃん、どうしたんだ……?」
「さぁ?何かあったのかなぁ?」
カッシュやセシルなど、二組の生徒達が、教室の隅にある掃除用具ロッカーを、ぽかぁんと眺めている。
「…………ッ!」
ガタガタガタガタガタガタガタ……
そのロッカーは固く閉ざされ、小刻みに震えている。
中に、リィエルが入っているのだ。
先ほど、この教室に猛然と駆け込んできたリィエルが、そのロッカーの中に入ったきり、さっぱり出てこない。
「あの、リィエルさん?一体、どうしたんですの?」
心配したウェンディが、ロッカー越しに声をかけるも、リィエルは何一つ反応を示さない。
生徒達が困ったように、そのリィエル入りロッカーを眺めていると。
「お前ら!どっかでリィエルを見なかったか!?」
今度は、教室内にグレン達が慌ただしく駆け込んでくる。
「おいおい、先生……今度は一体、何があったんだよ?」
「あ、ああ……実はな……」
リィエルの虫歯の件を、カッシュ達へ手短に説明するグレン。
「……なるほど、虫歯の治療かぁ……そりゃ大変だなぁ……」
苦い顔をするカッシュ。
「アレ、痛いんだよなぁ……」
「でも、虫歯は一刻も早く治療すべきですわ!放っておくと大事になりますわ!」
ウェンディの言葉に、周囲の生徒達も、うんうんと頷いた。
「そういうことなら、先生。リィエルならあのロッカーの中だぜ?」
カッシュがそう言った途端。
びくんっ!とロッカーが一際強く震えた。
「あ、あんなトコに……まぁいい、サンキュー。よし、早速、リィエルを引きずり出して連れて行くか」
グレンが礼を言って、ロッカーの取っ手に手をかける。
だが……
ガチャガチャガチャ……
開かない。どうやらリィエルが内側から引いているようである。
「おい、リィエル……おい、開けろ」
「やだ。絶対、やだ」
内側から、断固としたリィエルの声が、くぐもって聞こえてくる。
「ちょっと、リィエル!虫歯は早く治さないと大変なことになるのよ!」
「でも、やだ」
システィーナの説得も通用しない。
「だ、大丈夫だよ、リィエル。今度は大丈夫。次は痛くないから……」
「嘘。……痛かった」
ルミアの説得に、リィエルが涙声で応じた。
「すごく……痛かった。だからもう……絶対、やだ。歯、治さない」
どうやら、リィエルの中では『虫歯の治療=すごく痛い』の図式で、完全に固まってしまったらしい。もう頑なになってしまっていた。
「ええい!面倒臭ぇ!」
グレンが腕まくりをしながら、ロッカーに手をかける。
「こうなりゃ無理矢理こじ開けてやるぜ!うぉおおおおお――ッ!」
腕力差はあるが、外側から開けるのと、内側から引くのでは、力の入りやすい前者が有利に過ぎた。
「や、やだ!やだやだぁ!!」
中のリィエルが必死に暴れて引いても、ロッカーの扉には段々と隙間が開いていって……
「へっ、馬鹿め!もう少しで――」
完全に開くといったところで――
「やだ……絶対、やだぁあああああああああああああああああああああ――ッ!」
追い詰められたリィエルが、ロッカーから、自ら砲弾のように飛び出してきた。
「ぬわぁああああああ――ッ!?」
「ひぇえええええええええ――ッ!?」
「キャアアアアアアア――ッ!?」
そのまま、リィエルはグレンを吹き飛ばし、驚くクラスメート達をはね飛ばし、脱兎の如く教室から飛び出していってしまう。
まるで嵐のような出来事であった。
「あんの、お馬鹿ぁああああああああああああああああああ――ッ!!」
怒り心頭のグレンが、ぎりぎりと拳を握り固めて立ち上がった。
「ど、どうしますか、先生!?」
システィーナがおろおろしながらグレンに問う。
「追っかけて、とっ捕まえるしかねーだろ!?ええい、虫歯の治療が終わったら、お尻ペンペンの刑に処してやるわッ!」
「でも、ああなったリィエルを捕まえられるんですか!?ジョセフとアリッサじゃないと厳しいような気がするんですけど!?」
すると。
「先生!今回ばかりは、俺達も協力させてもらうぜ!!」
「そうですわ!虫歯は一刻も早い治療こそが肝要――わたくし達も、リィエルさんを捕まえるお手伝いをしますわ!」
カッシュやウェンディを筆頭に、生徒達が次々と協力を名乗り出る。
「「「「そうだそうだっ!」」」」
「「「「俺達でリィエルちゃんを助けるんだっ!」」」」
「お、お前ら……」
リィエルを思う生徒達の熱い友情に、グレンが思わず、じんとしていると。
バァンッ!
「フゥハハハハハハハ――ッ!!話は聞いたッッッ!」
「ここは私達にも協力させてくれたまえッッッ!」
二人の男が、教室の扉を盛大に開いて、姿を現わしていた。
「世紀の天才魔導工学教授!オーウェル=シュウザー、ここに推参ッ!」
「帝国が世界に誇る真の紳士!ツェスト=ノワール男爵!義によって助太刀致そう!」
「帰れ、馬鹿どもぉおおお――ッ!」
「「ズギャアアアアアア――ッ!?」」
現れた世界に誇る二人の変態に、グレンは猛ダッシュからのドロップキックを容赦なくかますのであった。
「そんなつれないことを言うな、我が最大の好敵手にて心友、グレン先生よッ!この私の新作発明品に任せれば、万事解決ッ!」
「然りッ!私の精神支配魔術にかかれば、どうということはないッ!」
「刮目するがいいッ!こんなこともあろうかと発明した、このオーウェル式『スーパーエキセントリックハイブリット入れ歯DX』をッ!歯を全部引っこ抜いて装着するこの入れ歯は顎の力を超強化!真銀をも噛み千切るパワーを常時発揮可能ッ!さらには口から破壊力抜群のレーザービームを放つ機能も――」
「ふひっ、ふひひひひっ……虫歯で涙目な少女……最高です……これは是非とも捕まえて、愛で……救ってさしあげなければ――帝国紳士としてッ!」
「だから嫌なんだよ、お前らが関わるのはさぁあああ――ッ!?」
頭をがりがり掻きむしって、不安を絶叫と共に吐き出すしかないグレンであった。
「ていうか、ジョセフとアリッサって確か、昼からここに来るんだったよな!?ええい、急かしちまうが今すぐに呼び戻すッ!」
グレンが宝石形の通信魔導器を取り出し、ジョセフにつなげる。
「早く出ろ、ジョセフッ!リィエル捕獲の最強の切り札ッ!」
しばらく待ち――やがてつながった……
……が。
『ちょ、ちょっと、姉さん、アリッサ!?二人ともやり過ぎ――』
ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおんっ!
『『ぎゃぁああああああああああああああああああああ――ッ!?』』
『貴方達二人って、本当にデリカシーがなさ過ぎるんだからッ!一回、死ねッ!』
『わ、悪かったってッ!あれは、悪かったからッ!』
『だ、だから、ダーシャ、アリッサ、二人とももう矛を収めて――』
『『問答無用ッ!』』
どかぁあああああああああああああああああんがらがらがらがらがっしゃぁあああああああああんっ!
『『うぎゃぁああああああああああああああああああああああ――ッ!?』』
『あーあーあーあーあーあーあーあ――ッ!?二人とも、アカンって!これ以上やったらここ潰れるって!』
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ――ッ!?
『うわぁ!?マジか!?警報なってもうたやないかい!?頼むから、二人とも止めてぇええええええええええ――ッ!?お兄さん二人が死んでまう!ていうか、建物潰れて、全員死んでまう!うわぁあああああああ――ッ!?とりあえず、近くにいるもんは避難してぇえええええええええ――ッ!?ホッチ、手伝ってぇえええええええ――ッ!?そして、あの暴走している女性陣を止めてぇええええええ――ッ!?』
ちゅっどぉおおおおおおおおおおおおおおんっ!
『無理に決まってるだろッ!?どうやってあの近接馬鹿の二人に――って!?』
『『ぎゃああああああああああああああああああああ――ッ!?』』
『『うわぁあああああああああああああああああああ――ッ!?』』
どっからがっしゃぁあああああああああああああああああああああんっ!
ザーザーザーザーザーザーザーザー……
「「「「………………」」」」
沈黙が漂う二組の教室。
そして――
「何があった、最強の切り札ぁあああああああ――ッ!?」
さらに頭を掻きむしって、盛大に天に向かって吠えるグレンなのであった。
通信魔導器から聞こえてきた限り、ジョセフとアリッサがすぐに戻って来そうには……ない。
「あの、先生……急がないと、リィエルが逃げちゃいますよ……?」
「ええい、わかってるよ!もうどうにでもなれいッ!」
ルミアの言葉に、グレンは覚悟を決めて叫ぶのであった。
「こうなったら、皆まとめて――『リィエル捕獲大作戦』ッ!スタートじゃぁああああああ――ッ!」
「「「「ぉおおおおおお――ッ!」」」」
一致団結した生徒達が、腕を振り上げて、この難事に臨むのであった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
所変わって、連邦領事館内にて。
そこには、息を切らして、立っているアリッサとダーシャがいた。
二人の目の前には、大柄な男と黒色の肌をした男が真っ黒クロスケの黒焦げになって気絶していた。
見れば、周囲も壁に穴が無数に空いているし、棚やら机やら無線機やらなんやらが散乱している。
フランクとティムがアリッサにセクハラ発言をし、それがきっかけで、ダーシャが始めた女性の扱いを教えるというお仕置きは、このフロアを完全に破壊し、セクハラ発言をした男二名を気絶させるという結果になった。
「「……やり過ぎた」」
我に返った二人は、辺りを見回して、無惨に破壊された光景を見てそう呟いた。
「お、お二人とも……これ、どうすんの……?」
そして、巻き込まれてボロボロになっていたジョセフとホッチンズが二人のもとにきて、周囲の惨状を見る。
「これ、どう見ても、二人だけに処分が下されるような状態じゃないんだけど……?」
ホッチンズは脂汗を垂らしながら、今後の処分に頭を抱える。
「これは……そうね……うん!フランクとティムが暴走して、私達が止めようとした結果、こうなったって報告しときましょう!」
「いや、どう見ても、それ通らないでしょ!?目撃者が多過ぎるわ!」
なにやら変なことをのたまうダーシャに、ジョセフが突っ込む。
「大丈夫よ。こちらにはあの二人がセクハラをしたんだから、問題なしよ。それに、目撃者にはそう口裏合わせるように脅――お願いするから」
「おい、今、脅すって言いかけなかった?姉さんよ」
「お願いよ……お ね が い……わかった?」
「「……イエス・マム」」
物騒なことを言いかけようとしていたダーシャにジョセフは突っ込もうとするが、ダーシャの謎の圧力により、ホッチンズと共に首を縦に振らざるを得なかったのであった。
そして、とりあえず、アリッサの虫歯を治療しなければいけないので、四人はそのまま医務室に向かうのであった(もちろん、医務官には口裏合わせるようにダーシャがお願い(圧力)していた)。
今回は、ここまでで(笑)