ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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ラストなんだにゃあ



21話

 

 ほぼ、同時刻。

 

 混乱の渦と化した魔術学院から離れた、南地区にて。

 

 夕闇の帳が辺りを包み始める閑散とした裏通りを、ひっそりと人影が歩を進めていた。

 

「まさか、失敗してしまうとは思いませんでしたわ……」

 

 だが、その声色に落胆はない。

 

 予定調和の遊びに想定外のことが起こって、やっぱり楽しかった、そんな響きだ。

 

「せっかく陛下を人質に、セリカ=アルフォネアという規格外の動きを封じることができましたのに…流石は第七階梯、中々の狸ですわね。それにグレン=レーダスとジョセフ=スペンサー…まったく、とんだジョーカーがいたものですわ」

 

 くすくすと楽しげに笑いながら歩いていた女が、ふと、足を止めた。

 

「なるほど…どうやら帝国もぼんくらばかりではないようですね……」

 

 いつの間にか。

 

 女の前方に二つの人影が現れていた。

 

「……俺達に与えられた任務は二つあった。一つは最近、過激な動向が目立つ王室親衛隊の監視。そしてもう一つは…女王陛下側近の内偵調査」

 

 現れた人影の片割れが、淡々と告げる。

 

「最近、どうにも俺達の動きが読まれていると思った。まさか、一番可能性が低いと思われていた貴女だったとはな。女王陛下付き侍女長、兼秘書官…いや、天の智慧研究会所属の外道魔術師、エレノア=シャーレット」

 

 その瞬間、辺りを包み始めた闇がより一層濃くなったような気がした。

 

「はっきりとした出自、あまりにも優れた経歴、卓越した能力…今、思えば、その素性に何一つ傷がないからこそ怪しいと疑うべきだった」

 

 アルベルトの淡々として摘発に女――エレノアは薄ら寒い笑みを浮かべていた。

 

「考えてみれば、今回、王室親衛隊が動き始めたのは、女王陛下がエルミアナ王女に接触するために席を離れた後、お前がゼーロスとセリカに接触してからだ。当初は王室親衛隊が暴走したと先入観があったから不覚にも気付かなかったが……」

 

「あらあら、遠見の魔術で覗き見ですか?趣味が悪いですわ」

 

「答えろ、天の智慧研究会。お前達は一体、何が目的だ?ルミアが本当にあのエルミアナ王女だと言うならば…以前、学院で起きたテロ事件、そして今回の騒動…常に事件の中心に王女が居た事になる。しかも、以前は誘拐しようとしたが、今回は殺害しようとした…行動原理に一貫性が無い。お前の組織は一体、何を企んでいる?」

 

「……『禁忌教典』」

 

 意味不明のエレノアの返しに、アルベルトの眉が微かに吊り上がる。

 

「そう、我々が目指すは大いなる天空の智慧『禁忌教典』…そのための王女…とでも言っておきましょうかしら?…くすくすくす」

 

 大手を広げて空を仰ぎ、陶酔したように語るエレノア。

 

 そんなエレノアを前に、言葉尻に凍てつくものを忍ばせながら、アルベルトが凄む。

 

「理解に苦しむな。その『禁忌教典』という謎の代物もそうだが、お前達の目的に王女の生死は問わない…そういう事か?」

 

「もちろん生きていらっしゃる方が良いのですが、急進派とでもいいましょうか…組織の中にはせっかちな方もいますので…ふふっ、今回、せっかく綿密な遺体回収ルートを苦労して用意したのですが、全部無駄になってしまいましたわ」

 

「成る程。今回、自分達が直接手を下すのではなく、わざわざ王室親衛隊にやらせようとしたのは…その回収ルートの関係という事か」

 

「ご想像にお任せしますわ」

 

 艶然と微笑むエレノアへ、アルベルトの隣にたたずむリィエルが、もう御託はいらぬと言わんばかりに錬成済みの大剣を無愛想に向けた。

 

「もういい。斬る」

 

「待て、殺すな。捕らえて組織の情報を吐かせるべきだ」

 

「要らない。斬る。悪者の言葉に耳を貸す必要なんかない」

 

「………………」

 

 アルベルトが表情を微塵も揺るがさず押し黙り、リィエルは大剣を構えた。

 

 たちまち場に、戦場特有の張り詰めたような殺気が満ちていく。

 

「あらあら、怖いですわね」

 

 だが、エレノアは動じず、余裕の表情で笑った。

 

「流石に特務分室のエース二人を同時に相手取るのは分が悪いですわね…ここは一つ、逃げの一手を打たせてもらしますわ」

 

「逃がさない、斬る!」

 

 リィエルが激風をまとい、弾丸のように突進する。

 

 アルベルトが指を構えて呪文を唱え始める。

 

 同時にエレノアも舞うような身振り手振りと共に呪文を唱え始め――

 

 フェジテの人知れぬ路地裏で、魔力と魔力が激突し、衝撃が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、騒ぎは大事なく収まった。

 

 ゼーロスの投降宣言に伴い、暴走する王室親衛隊は沈静化。

 

 そして、アリシアが身に降りかかった事件を学院生徒達の前で演説した。

 

 帝国政府に敵対するテロ組織の卑怯な罠に陥ったこと。そして、勇敢な魔術講師と学院生徒、帝国と友好国である連邦の軍人の活躍で事なきを得たこと。

 

 セリカの結界のおかげで女王達の会話が漏れなかったのも幸いしたのだろう。国難に関わる危険な部分はさりげなくぼかし、華々しい部分はあえて美化して強調する――世界を相手取る一国の女王の巧みな話術が、場にいた全ての者達を見事に欺いた。

 

 一時、居合わせた者達を不安と動揺が支配するが、それもすぐに落ち着いた。

 

 最後に一騒動あったものの、魔術競技祭はここに無事、終了する運びとなった。

 

 そして――

 

「あ~、疲れた~」

 

 ジョセフは今、魔術学院の生徒、御用達の飲食店にいる。北地区学生街では結構名の知れた店で、よく生徒同士の宴会などに利用されたりするらしい。生徒達の中には貴族階級や富裕層出身の者も多いが、そんな彼らでもそこそこ満足できるそれなりの風格を備えた店のようだった。

 

 今、二組は優勝の打ち上げをやっていた。というのも、優勝したことによって特別賞与とハーレイから三ヶ月分の給料を分捕って気を良くしたグレンが、俺が奢ってやるからお前らで好きに打ち上げパーティでもやれ、と通達されたのだ。

 

 磨き抜かれたオーク材がふんだんに使われた、品の良い内装の店内だ。木造の丸テーブルが所狭しと並び、奥に据えられた渋い趣向のカウンター席の向こうには、グラスや酒瓶が整然と並ぶ棚が見える。キャンドルの炎が揺らめきながら煌々と燃え、店内は明るくも暗くもない、独特の雰囲気を醸しだしている。

 

 グレンの生徒達はそんな店を貸し切り、食えや騒げやの大宴会を繰り広げていた。

 

 最後にあんなことがあったとはいえ、やはり魔術競技祭に優勝した興奮は冷めやらぬものらしい。誰もが料理や飲み物を片手に、口々に今日の大会について語り合っていた。

 

 そんな中、ジョセフはカウンター席で今回の騒動を振り返っていた。

 

 結局、今回、不手際をした王室親衛隊に大きな咎めはなさそうだ。女王陛下直々の御裁定ならば仕方ない。そもそも、騒動の黒幕――エレノアを抜擢した人事院の失態もあるし、王室親衛隊の衛士達はゼーロスの命令に従っていただけということもある。

 

 総隊長であるゼーロスにはやはり建前上、厳しい懲戒処分が下されざるをえないが、全て女王陛下を守るために行ったこと、酌量の余地は充分にあるとのことだった。

 

(それと、今後は特務分室の連中ともお付き合いしていかないとな)

 

 この騒動の顛末を報告したところ、国防総省から、今後は特務分室と協同で当たることを許可するという命令が下された。これにより、情報はお互い共有することになるし、有事の際、共同で任務にあたることができる。

 

(ま、今回は特務分室だけっていうことなんだけどな)

 

 国防総省は当初、帝国政府との全面協力を視野に入れていた。しかし、今回の騒動の黒幕が女王陛下の侍女長兼秘書官たるエレノア=シャーレットということが判明したことにより、特務分室に限定されたのだ。因みに、アルベルトとリィエルが彼女を追っていたそうだが、結局、逃げられてしまったらしい。

 

 女王陛下付きの侍女長…しかも四位下の官位を持つレベルにまで天の智慧研究会が入り込んでいたという事実は、今後、帝国政府に大きな波乱を呼びそうであるし、連邦政府も慎重に行動しなければいけないようである。

 

(一体連中、どこまで手を広げているんや?かなり規模がでかいぞ)

 

 今回の一件だけで想像するのもそら恐ろしい。

 

(しかし…今回もまたティンジェル…か)

 

 今回の騒動の標的もルミアである。

 

 感応増幅者。ルミアの異能。

 

 触れた相手の魔力と魔術を超強化する生きた魔導回路。

 

 確かに珍しい。破格の力ではある。

 

 だが――

 

(天の智慧研究会ほどの魔術結社が、そこまでして掌握したい存在だとは思えない)

 

 詳細はアルベルトから聞いた。どうも、天の智慧研究会は何がなんでもルミアの身柄を確保したいらしい。それも、生死を問わずに、だ。

 

(……確かに感応増幅者は希有な能力だが、別にティンジェルに限った能力ではない。探せばいくらでもあるはずや。あの組織が別の感応増幅者を見つけ出すのは難しくはないだろう。だが、連中はあくまでもティンジェルに拘っている。何故だ?理解できない)

 

 元々、理解できない連中ではあるが、今回は特にそうだった。

 

 おまけに生死を問わない、っていうのも理解に苦しむ。死んでしまったら、能力の行使はできなくなってしまう。そんなの当たり前のことではないか。

 

(いずれにせよ、彼女は何かがある。連中が喉から手がでるほど欲しい何かを)

 

 やはり、連邦政府、特に中央情報局には彼女の素性は伏せたほうがいい。

 

(知ったら何するかわからへんからな。あの連中は)

 

 とりあえず、今日は何とかなった。

 

 と思った、その時である。

 

 ムギュッ。

 

 ジョセフの後ろから誰かが抱きついてきたのだ。

 

「…………」

 

 ジョセフはすごい無表情で自分の腹部あたりにある白く、ほっそりとした腕を見る。このまま投げ飛ばそうかと思ったが、どうやらそれはできないようである。

 

 まず確実に言えることは男子ではなく、女子だということである。そして、後ろから身体が密着しているせいか二つの柔らかいものがあたっている。

 

 そして、ちらちら見える茶髪のツインテールらしき髪。もう誰なのかわかった。

 

「……お前な……」

 

 ジョセフが呆れたように振り返ると、そこには顔が真っ赤になっているウェンディがいた。

 

「あぁ…やぁっとぉ…振り向いてぇ…ふふ…くれましたわぁ…ジョセフぅ……」

 

(こいつ、完全に酔っていやがる)

 

 かなり酒気が入っているのか…青い目は潤んでおり、顔は真っ赤、足腰に力が入っていないらしく、完全にジョセフに体重を預ける形になっていた。

 

 そして、もう一人、ウェンディ並みに酔っている女子生徒がいる。

 

 その周りにはワインボトルらしき物がゴロゴロ転がっている。ちょうど自分の目の前に転がっているボトルのラベルには見覚えがあった。

 

 リュ=サフィーレ。サフィーレ地方の厳選された特級葡萄棚からとれる高級ワイン。その味は上品で濃厚、かつ清純。お高くとまった貴族達も絶賛するほどで、まぁ、要するに高い。物凄く高い。連邦でもカリフォルニア州で醸造されているオーパス・ワンと並び、富裕層や政治家などからの人気が高いワインである。

 

「………」

 

 ジョセフは今度こそ固まった。これが一本ならともかく、無数に転がっているのである。これを、ウェンディと銀髪の女子生徒――システィーナが飲んでいた。

 

 ジョセフは、辺りを見回す、どうやら酒気が入っているのはこの二人だけらしい。

 

 その時、グレンとルミアが入ってきてグレンがボトルを取った瞬間、固まり。

 

「……おい、これ、なんでこんなアホなことになってる?」

 

 血の気が引いていきながら、グレンが絞り出すようにうめく。

 

 生徒達が全員、さっと視線をあさっての方向にそらした。

 

「あ、あはは…きっと、誰かが間違って頼んじゃったのを、誰かが葡萄ジュースか何かと間違って飲んじゃって、それで気分が高揚して、次々と…空けちゃったのかな?」

 

「あの、逃げていいですか?ねぇ、ボク逃げていいですか?」

 

「どうしてこうなった……」

 

 ジョセフは、後ろに抱きついていているウェンディを見ながら頭を抱えた。ウェンディはそんなことも露知らず、甘える一方だ。

 

 その後、システィーナがグレンに飛びついている。

 

 グレンは、真犯人がシスティーナとこっちをみてジョセフに抱きついているウェンディを見て、確定する。なんとも、まさかの事実である。

 

「ねぇ…ジョセフぅ…」

 

「……どうした?」

 

 もう諦めるしかない。

 

「わらくしぃ…今日ぉ…ふふふ…ジョセフがぁ…うふふふふ……」

 

「駄目だ…早くコイツを何とかしないと…てっ、ウェンディ、苦しい、苦しい!?」

 

 さらにギュウウっとしてきたので、ギブ、ギブと手をカウンターに叩く。

 

(しかも、あたっとる、あたっとる!)

 

 正直、ジョセフはウェンディの体形を侮っていた。しかし、今、背中のほうにそれがあたっている。しかも制服からはわからなかったが、意外とある。

 

「うふふふふ…ジョセフぅ~」

 

「ちょッ!?ホンマに苦しいから!誰か助けて!HELP!HELP!」

 

 ジョセフの悲鳴が、店内に響く。

 

 その瞬間、不意に、抱きつく力が緩められ、離れていく。

 

 ジョセフはほっと、安堵する。

 

(やっと解放され――)

 

 ――なかった。

 

 ジョセフが振り返り、カウンター席から離れようとした瞬間、ウェンディは何を思ったのか、ジョセフの頭を自分の胸に埋めるように押しつける。しかも後頭部をがっしりとホールドして。

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 ジョセフは一瞬、何が起きたのか理解できず、固まる。

 

「うふふふふふ~♪」

 

「んーんーんんんんんん――ッ!(ちーがーうぅうううう――ッ!)」

 

 我に返ったジョセフは必死に手足をばたつかせながら、声を出そうとするが、埋められているため、言葉になっていない。

 

(アカンて、アカンて!?これは流石にアカンって!?)

 

 顔に二つの柔らかい丘陵がもろにあたっているのである。

 

 いくらジョセフでも、年頃の少年である。幼馴染とはいえ、これは流石に精神的にキツイものだった。

 

 とりあえずなんとか引き剥がそうと、ジョセフはもがくが後頭部をかっちりとホールドされているため、中々抜け出せない。

 

 そして、周りでは――

 

「ぐわぁああああッ!酔っているとはいえ、うらやまけしからん、うらやまけしからんぞぉおおおおお――ッ!?」

 

「うわぁあああッ!ウェンディ様ぁあああああッ!?その男から離れてくださいぃいいいい――ッ!」

 

「ジョセフさんよ~、お前のことは良い奴だと思っていたけどよぉ…キレちまったよ…久々になぁ…表出ろやぁあああああ――ッ!?」

 

「夜道、背中に気をつけろやぁああああ――ッ!?」

 

「リア充死すべしッ!異論は認めんッ!」

 

 など男子生徒の怨嗟の渦が、声となって響き渡る。

 

(だぁあああああッ!?なんでこんなことになるんやぁあああああ――ッ!?ウェンディ、頼むから離して!苦しい、めっちゃ苦しいから離してぇえええええ――ッ!?)

 

「うふふふふふ~♪可愛いですわねぇ~、ジョセフはぁ~♪」

 

(可愛いですわねぇ~♪じゃねぇええええええ――ッ!?)

 

 さっきよりも精神的に地獄の展開になってしまったこの事態に、ジョセフは心底泣き叫びたくなってきた。

 

 

 

 

 宴会の席のエネルギーはある瞬間を境にぱたりと尽きる。

 

 それはグレンのクラスの生徒達も例外ではなかったようだ。

 

 宴の後で。

 

「はぁ…やっと、大人しくなった……」

 

「あ、あはは……」

 

「お疲れ様です……」

 

 げんなりとやつれた表情のジョセフは酔ったウェンディをおぶって彼女を家に送っていた。

 

 グレンは生徒達にはグループを組ませて適当に帰らせていた。ジョセフとウェンディはそれぞれ家が違う方向にあるので、本来は別のグループなのだが。

 

「嫌ですわ!わらくしはジョセフとぉ…一緒に帰るんれすぅううッ!」

 

 酔っぱらっているウェンディがジョセフと一緒に帰るとゴネてしまい、結局こうなってしまったのである。

 

 おかげで男子からの殺意がとてつもなかったのだか。

 

「あ、私達はこっちだから…おやすみなさい」

 

「はーい、おやすみ~」

 

 途中で一緒に帰っていたリンとテレサと別れ、再びウェンディの家路にむかう。

 

 後ろではウェンディが寝息を立てている。時折、寝息が首筋にあたる。

 

「まったく、フィーベルと飲み比べしていたなんて…飲み比べるもん間違っとるで」

 

 どうやら、システィーナとウェンディは飲み比べをしており、べろんべろんに酔っぱらってしまったらしく、そして、ジョセフに抱きついたというのだから。

 

 おかげで、男子からは凄い殺意を感じたのだが。

 

「ねぇ、ジョセフ……」

 

「ありゃ、起こしちまったか」

 

 と、思っていたが、どうやら寝言らしい。

 

「今日の『殲滅戦』、流石わたくしの幼馴染ですわ……」

 

 ウェンディが寝言ではあるものの、ジョセフのことを褒めていた。

 

「……そういうウェンディも凄かったけどな」

 

 ジョセフも聞いているかわからないが、褒めてみた。

 

 しばらくの沈黙の後、しばらく道を歩いていると、ウェンディがギュっと力を入れて抱きしめる。

 

「ウェンディ?」

 

 ジョセフが歩みを止めると。

 

「……もうどこにも行かないでくださいまし」

 

「え?」

 

 思わず振り返る。

 

「何も言わずにどこにも行かないでくださいまし……」

 

「ウェンディ……」

 

 自分はもうアメリカ人だ。そうずっと思ってきたし、言い続けた。しかし、今、それが揺らいでいる。

 

 本当は、帝国に戻りたいのではないのか。今、わからなくなっている。

 

「ホンマ、どうしたいんやろ」

 

 どちらにしろ、今は無理だ。状況がそれを許さない。ただでさえ、人手が少ないのだ。易々と軍を辞めるのはできない。

 

 再び少女の静かな吐息が首筋にあたる。柔らかな体温も服越しに伝わってくる。

 

 今はわからない。しかし、いつかは答えをださなければいけない。

 

 ジョセフは、再び歩き出す。

 

 

 

 

 

 こうして。

 

 その夜は静かに、緩やかに更けていくのであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から三巻に突入だにゃあ!

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