番外編の続きです。それでは、どうぞ。
今日一日の授業が終わった放課後。ジョセフの部屋にて。
「…………」
ウェンディは腕を組み、むっすぅ~と不機嫌さMaxで中々丁度良いソファに座っていた。
別にジョセフがどうのこうのというわけではない。じゃあ、なぜここまで不機嫌なのかというと……
「はぁ……休まりますね~……」
ウェンディの右側には金髪の少女が紅茶を飲んでくつろいでいる。
左側には、紫色の髪の少女が紅茶を飲んでゆっくりくつろいでいる。
なんで、二人がここにいるんですの……?
ジョセフが淹れた紅茶を飲んでいる二人の女学生――アリッサとテレサをジトーっと交互に見ていた。
放課後にジョセフをぐいぐいと引っ張りながらジョセフが住む東地区寄りの北地区にアパートに向かうまでは順調だった。
だが――
「……入るのはええけど、あんましいいおもてなしは出来ひんで?それでもいいなら――」
なんか様子がおかしい幼馴染に戸惑いながらも、ジョセフがそう言い、鍵を開けようとするのだが――
「……開いてる?おかしいな、行く時は閉めていたのに……」
まさか、敵が?
と、ジョセフが警戒態勢を取り、ウェンディを下がらせホルスターから拳銃を取り出し、中に入ったら――
「あら、ジョセフ。遅かったわね」
――アリッサとテレサがなぜかくつろいでいました。
「……なんで君達がいるんですかね?ていうか、アリッサ、お前、どうやって鍵開けた?」
「合鍵」
「作った覚えないんですけど?」
「何言ってるの?私が貴方の予備の鍵をこっそり持ち出して合鍵をあだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ――ッ!?」
鍵を盗み出し、勝手に合鍵を作ったとのたまうアリッサに、ぐりぐりぐりっと、こめかみに両拳を挟んで抉るジョセフ。
”合鍵”っという言葉を聞いた瞬間のウェンディとテレサからの黒いオーラの濃度は、もう……ジョセフの部屋から溢れ出し、アパート全体を包み込むんじゃないかと思うくらい濃かった。
と、まぁ、こんな感じで。
一応、ジョセフはこの三人の来客に対応するため、紅茶を淹れて出し、今に至るのである。
(こ、これでは……探せないじゃありませんの……うぅ、この女ぁ……ッ!)
金髪巨乳肉食美少女の横槍に、動きたくても動けないウェンディ。
この二人を前に、あんな本を探すような素振りをしたら、さぞかし挙動不審に見えるだろう。
(な、なんとか……なんとか隙を見つけて探さないと……)
もう、この状態だと諦めた方が最善なのだが、もう気になって気になってしょうがないウェンディにそんな考えはない。
だが、今は動くとなんか怪しまれる。
どうしようかと、考えている内にも時間が過ぎていく。そうなったら、ジョセフが台所から戻ってくるかもしれない。
どうしようかと、ウェンディが無駄に頭をフル回転していた、その時。
「……ねぇ、ジョセフ」
「はーい?」
アリッサがふとウェンディの方を向き……そして、台所にいるジョセフに声かける。
ジョセフは何かを冷蔵庫から取り出し、三人娘がいるリビングに戻ってくる。
「おぉッ!私の大好きなプリンではありませんか~。いやぁ、流石はジョセフ、やっぱり持つべきは相棒ね」
「……そうは言ってるが、程々にな?お前、それで、虫歯になって治療する羽目になったんだろうが」
「気にしない、気にしない」
「もう嫌だぞ……お前とリィエルがカーチェイスしてそれを追っかけ回すのは……あれ、マジで疲れたんだからな」
「あら、これは美味しいですね。ジョセフ、これ、どこのお店で買ったのですか?」
「ん?それ?それ、ウチが作ったやつよ?」
「そうなのですね。ふふ、美味しいですね。好きです、このプリン」
「お口に合うようで何よりです」
大好きなプリンが出てきて歓喜するアリッサと、それを美味しそうに食べるテレサ。
「で、ウェンディはどう……ですか?」
そして、ジョセフがウェンディに感想を求めようと振り向くと。
「…………」
ごごごごごごごごごごごご。
ジトーっと、ジョセフを見るウェンディ。因みに口にはスプーンを咥えている辺り、食べてくれてはいるのだが、むっすぅ~っと不機嫌になりながら食べているあたりがなんかもう……
「え、ええと、ウェンディさん?……あの、なにかお口に合わなかったでしょうか?」
幼馴染から放たれるオーラに、気圧され、脂汗を垂らしながら顔を引きつらせるジョセフ。
「いえ……美味しいですわよ。……美味しいですけど……」
確かに美味しいのだが。
「う、うぅううううう……ううううううぅ……ふぅ~~~~~ッ!」
「……いや、マジでどうしたん?怖いんやけど?」
段々涙目になり、某白猫如く威嚇する幼馴染に、ジョセフは戸惑う。なんか、もう、色々な感情がウェンディの中で渦巻き、収拾がつかなくなっていた。
なんか、色々と悔しい。だって、幼馴染の手料理やお菓子なんて食べたことがない。今、初めて食べた。
なのに、アリッサは今までジョセフの手料理やお菓子まで食べていたのだから、なんか悔しい。
いろいろな感情が脳内で大渋滞を引き起こし、涙目になるウェンディ。
(なんなんですの!?手料理にも先に食べられて……ッ!お胸の大きさにも負けて……ッ!この二人に追い越されているんじゃないですの……ッ!?胸とか、胸とか、胸とか……胸とかッ!)
幼馴染というアドバンデージがあると高を括っていたばかしに、いつの間にか距離を詰められていたという衝撃の事実に、ウェンディが頭を抱えていると。
アリッサはそんなウェンディの――本人は無意識に自身の胸を見下ろしているその姿を見て、にっこりと微笑み。
「ねぇ、ジョセフ。私、今日の晩御飯、ジョセフの手料理が食べたーい」
まるで追い打ちをかけるかのように、そう言うアリッサ。
しかも、アリッサは、ウェンディ(主に)見せつけるようにどんっ!と。自身の豊満な二つの丘陵をテーブルに乗せたのだ。
「なっ――ッ!?」
あからさまに見せつけられたウェンディは、顔を引きつらせる。
「~~♪」
一方のアリッサは、胸をテーブルに乗せたまま、上機嫌に鼻歌を歌い始める。
もうわかる。アリッサの胸の大きさが。そしてくっきりとする形の良い形状が。
脂汗を垂らしながら顔を引きつらせるウェンディはぎぎぎっ、と、今度はテレサの方へ顔を向ける。
そのテレサは――
「はぁ……ふふっ、ジョセフが淹れた紅茶、とても美味しいですね」
ゆったりと、紅茶を飲んでくつろいでいた……
……彼女の、二年次生二組一の大きさを誇る二つの丘陵をテーブルに乗せて。
「…………」
汝が深淵(他の女子生徒のお胸)を覗き込む時、深淵(他の女子生徒のお胸)もまた汝を覗き込んでいる。
という、迷言がウェンディの脳裏に深く刻み込まれた瞬間であった。
しかもテレサの場合、アリッサとは違い、彼女はあからさまではなくごく自然に乗せているからなんとも言えない。だが、アリッサよりも大きく、形のよいテレサの丘陵に、ウェンディは隔絶とした差を思い知らされる。
と、ウェンディがそんなことを脂汗を垂らしながら引きつっている中、そんなこと知らないジョセフが。
「ん?マジで?……まぁ、別に構わんけど……それだと、食材買いに行かんといかへんな~」
台所にいるジョセフが魔導式の冷蔵庫(メイドイン連邦)を開け、中身を確認してそう言う。
「あら、そうなのね。でも、この二人も食べたいだろうし……ね、お二方さん?」
「あら、いいんですか?ふふっ、私も一回はジョセフの手料理を食べてみたかったんです」
アリッサが二人にそう切り返し、聖母のように微笑むテレサ。
「ね、ウェンディ?」
「……え?」
そして、今まで二人の少女の圧倒的な丘陵を見比べていたウェンディがここでようやく我に返る。
そして、何かを考え込むように間を空けて。
「え、えーと、そうですね……ま、まぁ、元とはいえ、貴族が作る料理は一回は食してみたいですわね!う、うんっ!」
と、なぜか顔を真っ赤にして、そうまくし立てるウェンディ。
そして、ウェンディも自身の程よい形をしている丘陵をテーブルに乗せるのであった。
「了解、了解。んじゃあ、あんまり待たせるのもアレだから、今、買い出しに行きましょうかね……おい、アリッサ」
頭を掻きながら立ち上がったジョセフが、アリッサに声かける。
これはもしかして、と。アリッサはガバッ!と立ち上がる。同時にウェンディとテレサはジョセフを見る。
(ま、まさか……ッ!アリッサと一緒に行くんじゃ……ッ!?)
なんかそれは不味いと、ウェンディの女の本能が警鐘を鳴らしていた。
アリッサと一緒に行ったら、なんか……とにかくヤバい気がするのだ。
(い、いいいいややややややや、そ、そそそれは、絶対にあり得ませんわ。まさか、そんなことは……って、連れ去る気満々のお顔をしていらっしゃるじゃないですの!?)
さすがに間違いを犯す気はないだろうと、希望的観測を出していた矢先のアリッサの獲物を見るような目を見て心の中で突っ込む。
じゃあ、自分も行けばなんとかなるのか?なんとかはなるだろう。
だが――
(いやいやいや、それでは外に出なければなりませんわ!そうなったら、アレを探せない……)
そう。ジョセフの部屋に押しかけた目的は、アレを探すことでジョセフが好きな女性のタイプを知るということであった。
もし、一緒に買い出しに行くとなると、アレが探せない。もちろん、ジョセフに直接聞くなんざ、アリッサのように図太くないウェンディにはそういう勇気がない。
では、ここは親友のテレサをつけさせるべきなのか?それも一つの手かもしれない。
……テレサがジョセフに何も想いを抱いていなかったらの話なのだが。
(……い、いえ、確かにアリッサに比べたら間違いは犯さなさそうですが……この子、普段はおっとりしているのに、ここぞという時はぐいぐい行く子ですから、それはそれで危ないですわ……ッ!)
かと言って、自分がいくとなるとアレが探せない。
ここまで八方塞がりだと、後はアリッサの良心(これも望みがない)があることを祈るしかない。と、ウェンディが心の中で祈り始めると。
「アリッサ、俺がいない間、留守頼むわ」
「……え?」
誰も予想していない、その言葉に固まるアリッサ。
「というわけで、全速前進で行ってまいります」
「あ……えと……ちょ、待っ……」
まさかの言葉に、あたふたするアリッサ。
そして、それを尻目に動いたのは――
「あ、ジョセフ。それでしたら、私も行きますわ」
「ん?いいの?さすがに申し訳ないような」
「ふふっ、構いませんわ。私がそうしたいのですから」
動いたのは……テレサだった。
アリッサとウェンディが呆気に取られて動けない中、テレサがそう言って立ち上がり、ジョセフと一緒に玄関に向かう。
「あ……」
パタン。
二人が我に返った時は、時すでに遅し。
パタンと閉まる玄関のドアが無慈悲に部屋に響き渡る。
「…………」
ウェンディは形のよい丘陵を。アリッサは自慢の丘陵を、テーブルに乗せたまま固まり――
やがて、ウェンディは自身の丘陵とアリッサの丘陵を見比べて、そして――
ガタン。
「……屈辱ですわ……」
そのあまりにも隔絶した差に、ウェンディは頭を机に突っ伏すのであった。
この話を終わらせて、ジョセフが甘えん坊になるのも進めて、ジョセフが幼児化して三人娘が暴走する話も進めて、そして、本編も進める……
ふっ、どうやら私は風呂敷を広げ過ぎたようだ……
ゆっくり、一つ一つ進めていきます、はい