ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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完全に連邦代表の印象が最悪になってもうとる……

それでは、どうぞ。

因みに、代表の衣装を変更しました。





203話

 

 

 

 今、セリカ=エリエーテ大競技場の中央競技場フィールドには、見渡す限りの地獄が広がっていた。そこは、辺り一面、なだらかな草原が広がっていたのが、今やクレーターが無数に穿っている。火が燻ぶり、あるいは残りの草木を求めるかのように燃え広がる。

 

 そんな地獄絵図の中に。

 

「ぁ……が、は……ぁ」

 

 一人の少年が地を這いつくばっていた。

 

 狩衣と呼ばれる東方の衣装を身に纏った糸目が特徴的な相貌を持つ少年が、前方に倒れ、意識を失っている我らがメイン・ウィザードの元へ這いつくばる。

 

 彼の相貌なら、平時はいかにも胡散臭げな愛想笑いを浮かべていそうだが、今はそんな愛想笑いを浮かべている余裕はなかった。

 

 身体は誰がどう見ても満身創痍だ。殴られ、足に銃弾を撃ち込まれ、傷のない部位がほとんどない。

 

 おまけに、この少年はある術を使っていたため、それが破れてしまった代償に舌が真っ二つに裂け、喉が潰れ、肺がひしゃげてしまっていた。

 

 もし、このままメイン・ウィザードが何かを呟いて手を触れていなかったら、呼吸が出来ずに窒息死していたことだろう。

 

 ……そのメイン・ウィザードも、直後の連中が繰り出す暴力的なまでの数多の攻撃に、力尽きてしまったのだが。

 

「あ……か……ぁ……さ、さ……くぁ……」

 

 他にも、自身以外のサブ・ウィザードも酷い有様であった。

 

 殴られ、撃たれ、切り刻まれ――相手は自分達に恨みでもあったのではないだろうかと思うぐらい、手ひどくやられている。皆、とうの昔に意識を失い、ダウンしていた。

 

 それでも、少年は地を這いつくばりながらメイン・ウィザードの元へ向かう。もう、完全にダウンしているのに。勝負はとうの昔についているのに。自分達の惨敗だということをわかっているのに。

 

 それでも。

 

「……さ、……くぁ……は、……ん……」

 

 日輪の国、天帝陰陽寮の選手団の一人、シグレ=ススキナはメイン・ウィザード、サクヤ=コノハの従者兼主治医として、彼女を治癒すべくずるずると這っていた。

 

(ア、アカン……アカンかったわ……まさか、連中がここまでやったとは……ッ!?完全に仇になってもうたわ……ッ!)

 

 シグレは、試合前に相手に刺した術が完全に裏目に出てしまったことに気付き、後悔していた。

 

 まさか、あの言葉を出しただけで……

 

(いや、今思えばわからんでもない……わいでも、サクヤはんでも、他の連中もそう言われたら……腹かくに決まっとる……せやけど……)

 

 あの言葉だけで、自分達の優位が一瞬にして崩れ、惨敗するなんて。

 

 いや、わかっていた。

 

 これが、アルザーノ帝国やハラサの連中ならこうはならかったかもしれない。レザリア王国でも……まぁ、苛烈な攻撃はしてくるだろう。

 

 だが、今回の相手には――シグレがつい口走ってしまった()()()()は……絶対に言ってはいけなかった。言ってしまったら、レザリア以上に恐ろしい相手になってしまうのだから。

 

 シグレが己の迂闊さを呪いながら、這いつくばっていると。

 

「まぁ、こんなもんか……なんだ、案外弱かったな、日輪の国は」

 

 シグレの前方、倒れているサクヤの前方から十人組の男女が出てきた。

 

 質実剛健な意匠を思わせるような、コートローブ姿で統一された一団。それは帝国代表選手団の衣装と同じように見える。

 

 だが、彼らはアルザーノ帝国代表選手団ではない。

 

 帝国代表選手団は()と白を基調としたコートローブ姿。

 

 だが、この選手団のコートローブは()と白を基調としている。

 

 そして、この選手団の特徴は……多種多様な民族出身の選手で構成されていること。

 

 帝国代表選手団と似た衣装で、多民族の選手で構成されているこの選手団は――

 

(まさか……連邦の魔術師が抱く劣等感がここまでやったとは……完全に甘く見てしもうたわ……)

 

 その選手団は……アメリカ連邦、陸海軍海兵隊の軍学校の生徒達による合同チーム。

 

 今回、数十年ぶりに開催される魔術祭典に、隣国であるクスコ帝国代表選手団と共に初めて参加する連邦代表。

 

 三日目となる魔術祭典の中で行われた、アメリカ連邦と日輪の国との対戦。

 

 試合ルールは、前回行われた帝国とハラサの時と同じようなルールだ。どちらかのメイン・ウィザードを先に戦闘不能にさせたチームが勝ちという前回のルールとは違い、今回のルールはこれにサブ・ウィザード全員を戦闘不能にさせなければならない。

 

 つまり、敵を先に全滅させたチームが勝ちという簡単なルールの下行われた試合で先に優位に立ったのは、日輪の国だった。

 

 試合開始当初、日輪の国は統率の取れた動きで先制攻撃。

 

 その後は、索敵しながら式神の召喚を繰り出しながら連邦を押しまくっていた。

 

 一方、連邦は十八番であるはずの集団戦が上手くいかず、序盤から劣勢に立たされていた。

 

 「連邦の弱兵」と世界からそう呼ばれているように、連邦軍兵士の一人当たりの戦闘力は実は高くない。その高くない戦闘力を補うために、学生時代から集団戦を徹底的に叩きこみ、世界最先端の装備を身に付けて戦うのが連邦の戦い方であった。

 

 その集団戦が全く機能しない。今まで訓練で徹底されていたはずなのに。

 

 空からは海軍の連中が戦闘騎鳥での空爆を行おうと試みるが、効果がまったくない。

 

 実は、これはシグレが試合開始前に仕掛けた術であった。

 

 試合開始前、シグレは連邦代表選手団のメイン・ウィザードであるアレックス=ジレットに接触。その時にシグレはサクヤの貧しい家の出自と生まれつき持っている病気『天恵祝呪』という、強い魔力や魔力制御を与えられたのと引き替えに、魔術行使すればするほど心臓に負担がかかり、寿命が削れてしまう重病があることを明かしてしまう。

 

 アレックスを始めとする連邦の代表選手団は、案の定というかなんというか、それがどうしたのかと鼻で笑っていたが、そんなのはシグレにとっては想定内だった。アメリカ人なんてそんな連中だ。他人がどういう事情を持っていようが、知ったことではない。己自身の望みを叶えるなら、他者の望みなぞいとも容易く踏みにじる連中だ。

 

 シグレの本当の狙いは、ほんの僅かに開いた心の隙に、ある術を刺すことであった。

 

 その術とは、呪言。

 

 チームのお荷物と自称している(まぁ、魔力容量的にも全選手ワーストに入るのは、確かだと思うが)彼には、サクヤの従者にして主治医というのが表の顔なのだが、もう一つ顔があった。日輪の国ですら最早、廃れて等しい魔術――呪言を操る呪言師としての一面があった。

 

 呪言とは、とある絶大なリスクを負うことを引き替えに、ただの言葉によって相手の行動を強制的に制限する、恐るべき呪いの術だ。これはサクヤ達ですらも知らない、シグレだけの秘密だった。

 

 と言っても、”動くな”と言えば、相手は動けず、”死ね”と言えば、相手が死ぬというような大層な術ではなく、”相手の心の声を借りて、とにかく麻薬のように強く、自分の言葉を心に響かせる”というオママゴト程度でリスクだけが高いという使い所に困る呪言なのだが。

 

 そして、射程が長いのが唯一の長所で、術を仕掛けても心が頑丈なやつには全然効かない。

 

 初めて対戦する相手だから、事前に調査する暇もなく、ダメもとのぶっつけ本番でやってみたのだが、これが案外連邦の選手達に効いていた。少し効きにくさは感じているが、まったくダメだったわけではない。

 

 そんなわけで、日輪の国が連邦をここまで押し込めているその裏では、シグレが連邦代表選手達に刺した呪言が猛威を振るっていたのである。

 

 このままでは、日輪の国の圧勝。

 

 誰もがそう思った、その時。シグレのある一言が、連邦代表を激怒させてしまった。その言葉を発した頃から、連邦は統制を取り戻し、猛烈に反撃を開始したのである。

 

 雷閃が、炎熱が、風が――

 

 銃弾が、砲弾が、空からは爆弾が――

 

 無数の、極めて暴力的な反撃が、優位を保ち、自身の勝利を半ば確信していた日輪の国の選手達に襲いかかったのである。

 

 突然の、豹変したかのような連邦の統制の取れた反撃は、日輪の国の一部の選手に動揺をもたらした。

 

 そして、その動揺は、日輪の国の優位を崩すには充分だった。

 

 連邦の暴力的な物量に物を言わせた反撃は、日輪の国の式神たちを消滅させ、地形も変えてしまい――

 

 日輪の国のサブ・ウィザード達を悉く粉砕し――

 

 そして……日輪の国は敗北し、現在に至るのである。

 

 小銃を装備し、倒れている日輪の国代表の選手達に銃口をあてて突いている連邦代表選手団。

 

 そんな連邦の選手達はどこか楽しげに談笑している。

 

 こんな地獄を作り出した本人達が、談笑しながら、日輪の国の選手達を銃口でつつき回しているその姿に、シグレは背筋が薄ら寒く感じるのと同時に、怒りがふつふつと沸き始めていた。

 

(この……アメリカ人どもがぁ……ッ!サクヤはんに、触れさせてたまるかぁ……ッ!)

 

 その思いで、ずりずりと這いつくばりながら身体を引きずるシグレ。

 

 満身創痍の中、身体を引きずる。

 

 そして、倒れているサクヤに近付き、ようやく手を伸ばせるところまできた、その時。

 

 がっ!

 

 シグレがサクヤへ伸ばした腕を誰かが踏みつけた。

 

「が……ぁ……ッ!」

 

 みしみしと、手の骨が軋み上げて、微かな、声にならない悲鳴を上げるシグレ。

 

 そして、次の瞬間、髪の毛を引っ掴まられ、顔を無理矢理上げさせられる。

 

「おい、アレックス。こいつ、まだ意識があるぞ」

 

 連邦の代表選手の一人がそう言うと、髪の毛から手を放し立ち上がり、そして――

 

「この、クソったれがッ!」

 

 怒りに任せてなのか、少年がシグレの腹へ蹴りを食らわせた。

 

「が……はぁ……ッ!」

 

「クソクソクソクソクソクソがッ!テメェ、散々俺達を侮辱しやがってッ!何が、()()()()()()()だッ!?ああッ!?このクソったれめッ!死ねッ!死ねよッ!死んじまえッ!」

 

 がすがすっと、シグレの腹に蹴りを入れまくる少年。

 

 そんな少年に――

 

「そこまでにしとけ。マジで死んだら洒落にならん」

 

 連邦代表のメイン・ウィザード、アレックスが止めに入る。

 

 少年は手を止めて、渋る素振りを見せるが……

 

「……命令だ。今すぐやめろ。でないと……45口径をお前の脳天にぶち抜く」

 

 底冷えするような声を出し、ホルスターから拳銃を取り出し、構える。

 

 すると、少年はようやく観念し、立ち上がった。

 

「……なんでだよ?これからお楽しみがあるってのによ?」

 

「必要ない、そんなお楽しみはな。それに……もう時間だ」

 

 アレックスが上空に向けて人差し指を差し向けると。

 

 その瞬間、大競技場の上空に、決着を告げる信号弾が盛大に上がった。

 

「もう試合も終わりや。これ以上やるもんなら、ジョセフ中尉が何言うかわからんし、運営も黙っちゃあいない。もし、失格になったら……倒せないぞ?帝国に。終わるぞ?俺達、()()()()()()()()()()()()が」

 

「――ッ!?」

 

「……?」

 

 独立戦争。アレックスの口からこの言葉が出た瞬間、少年はハッとし、シグレは首を微かに傾げる。

 

(独立戦争?こいつら、何言うとんのや?魔術師の独立戦争って言うても、こいつらのは……)

 

 アレックスの意味不明な言葉に、シグレが思考を巡らせようとするが、意識が遠のいていく。

 

 シグレの意識が失う中、アレックス達はフィールドから去って行く。

 

 意識が失う中、シグレはこいつらはヤバいと心底思っていた。

 

 だって、アレックスが独立戦争という意味不明な言葉を言った時。

 

 シグレの腹を蹴りまくっていた少年だけでなく、他の選手達の目が狂気じみたように爛々と輝いていたのだから。

 

 

 

 

 日輪の国のメイン・ウィザード、サクヤ=コノハ並びに、シグレ=ススキナを始めとするサブ・ウィザード全員。戦闘不能により脱落。

 

 一方のアメリカ連邦代表、戦闘不能、脱落者は……ゼロ。

 

 よって――

 

 この試合、アメリカ連邦の勝利。

 

 この奇跡の大逆転と、この後の、今まで行われた試合の中では最も残虐な連邦の掃討戦の様子は、観客、そして偵察がてら観戦していた他の代表選手団問わず、会場にいた者を震え上がらせるのであった。

 

 

 

 

 そんな様子を。

 

「…………」

 

 ジョセフは、険しそうな表情で見ていた。

 

 グレン、アリッサと共に、エルザとリィエル護衛組と合流した後、セリカ=エリエーテ大競技場にてグレン達と別れ、連邦代表選手団の関係者席から連邦と日輪の国の試合を観戦していた。

 

 だが、勝ったはずなのに、ジョセフとアリッサ、そして総監督であるフランシスの表情からは喜びという感情が浮かんでいなかった。

 

 むしろ、選手達の様子を危惧していた。

 

「……やはり、こうなってしまったか……」

 

「……はい」

 

 しばしの沈黙の後、フランシスが険しい表情を崩さずに言い、ジョセフは頷いた。

 

「儂は、魔術師でもない。剣と銃、そして馬の扱いが上手いだけの時代遅れの老兵でしかない。そんな儂でも、あやつらの中に闇が濃く淀んでいてるのは見抜いていた。お前とその娘からはそんなのは感じないのだがな」

 

「俺は曲がりなりにも、母から教わっていましたし、アリッサもレザリアとの戦争までは聖堂騎士団である父から教えられていましたからね。だが、こいつらは……」

 

「……連邦生まれの連邦育ち。そして、連邦生まれの連邦育ちの魔術師は総じて劣等感が強い。特に――」

 

「……アルザーノ帝国と比較されたら、もう……ね」

 

 そう言いながら、ジョセフは帝国代表選手団が陣取る観客席に目を向ける。

 

 アルザーノ帝国代表選手団の面々も、皆一様に絶句していた。

 

 リゼやレヴィンといった選手団の主力実力者も、今の一戦で垣間見た連邦の力と、その後の残虐性に額に浮かぶ冷や汗や動揺を抑えられないのが、ここからでもひしひしと感じていた。

 

 ただ、一人だけ。

 

 システィーナだけは、ぎゅっと拳を握り固め、アレックス達を見下ろしている。彼女の目からは穏やかではあるが情熱的に燃えていた。

 

「……親父殿」

 

「む?」

 

 そんなシスティーナを見たジョセフは、フランシスに振り返る。

 

「……午後の最後の試合、帝国と連邦の試合……この試合はどちらにとっても試練になるでしょう」

 

「……そうか」

 

 システィーナを見るジョセフのその言葉の意味を察したのか。

 

 フランシスは余計なことを言わずにそう返すのであった。

 

 

 

 

 

 






キリがいいのでここまで
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