ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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どうぞ、どうぞ~


204話

 

 

 

 

 

 午前の試合が終了し、休憩時間となる。

 

 試合開始までの時間を、帝国代表選手団の面々は、セリカ=エリエーテ大競技場内の一角に設けられた特別食堂で、食事も兼ねて過ごすことになった。

 

 この特別食堂は、魔術祭典出場関係者のみが特別に利用できる施設であり、魔術祭典運営委員会が、外部の第三者監査機関の監視の下、厳重な安全保障と品質管理を徹底して行っているため、選手達が安心して食事をできる施設だ。

 

 魔術的な防御結界などもあり、この中において毒物混入や不正行為は不可能。

 

 しかも、バイキング形式で、出場関係者はタダで食べ放題。

 

 そういうわけで――

 

「ぅおおおおおお――ッ!ここは天国かぁああああああああああああ――ッ!?」

 

「世界中の人達が見ている前で、みっともない真似はやめてくださいッ!」

 

 グレンが、山のように料理が積み上がった大皿を何枚も抱えながら感嘆に噎び、システィーナがいつものように説教をぶつけるのであった。

 

「だって、白猫、お前!?世界中の料理が食べ放題なんだぞ!?しかも、タダなんだぞ!?ええい、ここの食いもんは全部、俺のもんじゃあああああ――ッ!?」

 

「ぁあああ、もぉおおおおお――ッ!?これだから先生はぁ――ッ!」

 

「はい、先生っ!向こうの七面鳥、大皿ごと全部持って来ましたッッッ!この忠誠心溢れる可愛いマリアちゃんを褒めてください!」

 

「おお、でかしたマリア!」

 

「そこ!ロクでなしを助長さすなぁあああああああああああ――ッ!」

 

「ねぇねぇ、システィ、見て?私、午後からの試合、システィに頑張って欲しくて……栄養つけて欲しくて、たくさんお食事取ってきたよ?」

 

「って、エレン、貴女、何そのケーキタワーッ!?私の身長くらいあるんだけど!?」

 

「ほら、甘い物はエネルギーになるっていうから、きっと、システィたきさん動けるようになるよ?……はい、あーん」

 

「逆に動けなくなるわよ!?むしろ、殺す気!?」

 

 いつでもどこでも、うるさい連中であった。

 

 とまぁ、そんなカオスな食事風景もやがて落ち着いて。

 

 マネージャーのエレンは、イヴと共に事務手続きへ。護衛のエルザは、食後に活力たくましく行動を開始した聖リリィ組や聖堂へお祈りに行くマリアに同行して。

 

「こうして、私達が四人きりで顔をつきあわせるのは、本当に久しぶりね」

 

「ふふ、そうだね、システィ」

 

「ん」

 

 システィーナ、ルミア、リィエルの三人娘とグレンが、食堂のテーブルの一角で、まったりとした時間を過ごしていた。

 

「まぁ、俺達お互い、色んな仕事で忙しかったからなぁ……」

 

「この魔術祭典の一件が始まって以来、本当にね……色々あり過ぎて、毎日、夢を見ている気分だわ。思えば、私達、色んな意味で遠くまで来ちゃったのよね……」

 

 疲れたようなグレンの言葉に、システィーナが感慨深く言った。

 

「ごめんね、ルミア、リィエル……代表選手選抜会からこっち、本当にゆっくりと話す機会があまりなくて……」

 

「ううん、いいの。システィは夢に向けて一生懸命だったもの。私達にできるのは、システィが頑張りやすいように、支えるだけだから」

 

「ん。わたしも問題ない。システィーナは自分のことをがんばるべき」

 

「二人とも、ありがとう……」

 

 そんな理解ある優しい友人達に、システィーナはただただ感謝するしかない。

 

「それに……ジョセフやアリッサにもお礼、ちゃんと言わないと……もちろん、先生も」

 

「んあ?」

 

「第十三聖伐実行隊でしたよね?先生、また、戦ってくれようとしたんですよね……私達のために……それに、ルミアも……」

 

 あまり選手達を動揺させても良くないが、誰も知らないのではいざという時に困る。

 

 そういうわけで、システィーナやリゼといった一部の生徒達だけには、ジョセフとアリッサがルナとチェイスを撃退した後、裏の事情を話してある。

 

 今のシスティーナならば、大丈夫だというグレンの判断であった。

 

「気にすんな。俺はただ、あの卑怯で自分勝手なクソ狂信者どもが、気に入らなかったから、ブン殴ろうと思っただけだし?ジョセフも、”あの頑固アホバカ女に鉄拳制裁した。反省も後悔もしてない(ドヤァ)”と言っていたし?ははん、ザマアミロってんだ」

 

 そんな風に、偽悪ぶってみせるグレンもいつも通り。

 

 そのいつも通りさが、この非日常のお祭りの渦中で、かつての日常を感じさせてくれるようで、システィーナは嬉しかった。

 

「大丈夫。システィーナ達は、わたしが守る。もうその、えーと……その第十三変な人達は、わたしが追い払う」

 

「私も皆の力になりたいの。具体的な道はまだ見つからないけど……今は、ただ、誰かのために……その中には当然、システィも入ってるよ。だから、システィは全然、気に病むことなんてないの。私がそうしたいだけなんだから……」

 

 そんな風に打算なく言ってくれる人達、自分を支えてくれる人たちの言葉に、システィーナは胸が熱くなるのを抑えきれない。

 

「先生、ルミア、リィエル……私、やるわ!」

 

 昂揚する気分のまま、システィーナは立ち上がり、グレン達に宣言する。

 

「どこまでやれるかわからないけど……でも、精一杯、頑張る!この大会を悔いないものにしてみせる!皆、見てて!私の戦いを!」

 

「ああ、やりたいようにうやりな。見届けてやるさ、教師としてな」

 

「応援してるよ、システィ」

 

「ん。がんばって」

 

 そんな風に、それぞれの言葉でシスティーナに激励を送っていた……その時だった。

 

「あんたら、アルザーノ帝国代表の選手と監督さん達だろ?」

 

 不意に、馴れ馴れしい声が、グレン達へかけられる。

 

 グレンが振り返ると、そこには胸に下げられた十字の聖印に、黒い詰め襟型の僧服に身を包んだ、旧教の信者らしい少年が立っていた。外側が青色で内側が赤と白の縞模様というめちゃくちゃ珍しい色の配分の髪で僧服を着崩すというその姿は、明らかに熱心な信者ではないということが一目でわかる。しかも、頭にはバンダナを巻いてそこに野鳥の羽を二本差している辺り、レザリア王国代表――ファルネリア統一神学校の連中ではないことは確かであった。

 

 しかし、その見た目とは裏腹に、どこか知性が感じられる。どうやら見た目通りだけの人物ではなさそうだ。

 

「……お前は?」

 

「あー、名前言ってませんでしたね。俺はクスコ帝国、帝国魔術学校のメイン・ウィザード……アルフォンソ=カスティーヤ。以後、お見知りおきを、先生(エル・マエストロ)

 

「カスティーヤ……?もしかして、クスコ帝国皇族と縁戚関係がある、あのカスティーヤ家の?その名はアルザーノ帝国でも有名――」

 

「あー、それ言わないで。なにせ、今日の朝市にガルツにボコられて、早々に敗退してしまった負け犬なんで……あー、帰りたくねぇ。こりゃ、説教72時間コース確定だわ」

 

 どーうせ、俺達クスコ帝国は四大国の中でも最弱ですよ~っと、誰も何も言ってないのに、いじけだすアルフォンソ少年。

 

 なんかネガティブそうな印象があるっぽいが、まったく嫌いになれない人物であった。

 

「え、えーと?それで、私達に何か?」

 

「いや、別にどうこうするつもりはないですよ?美人だからナンパしようとか、特にそこの金髪の女の子の胸に目がいってしまい、お持ち帰りしようとか、そんな邪な考えはありませんからね?」

 

「めちゃくちゃあるじゃねえかよ!?」

 

 さらっと邪な考えを暴露するアルフォンソに、グレンが突っ込む。

 

「え、えぇ……?」

 

 曖昧な反応しか返せないシスティーナと苦笑いするルミア。

 

 なんか、聖エリサレス教の信者だからアルザーノ帝国を目の敵にしているマルコフとは違い、同じ旧教信者でもこのアルフォンソはマルコフとはえらく正反対な少年であった。

 

「と、まぁ、冗談はこの辺にして……お宅ら、今日の午後、連邦と対戦するでしょ?そんなお宅らに、連邦の隣国でなにか~っと、付き合いが長いウチ達からの忠告をね、しに来たんですよ」

 

「忠告?」

 

 今までのどこか陽気な雰囲気とは一変したアルフォンソに、グレンは怪訝そうな顔をする。

 

「忠告って、なんだよ?まさか、棄権しろ、とかか?」

 

 棄権。

 

 それについて、つい最近トラブルがあったこともあり、身構えてしまうが……このアルフォンソという少年は、純粋にこちらの身を案じての発言だということはわかった。

 

「んにゃ、まぁ、本当はそれも手だよ、とは言いたいんですけどね。でも、そう言っても、棄権はしないでしょ?だから、連邦と相手する時の忠告をお宅らに伝えたいんですよ」

 

「…………」

 

「と言っても、ぶっちゃけると、連中には気をつけろ。ということなんですけどね」

 

 気をつけろ?

 

「いや、気をつけろ、って言われても……少なくとも、連邦を格下に見ているとか、そう言った感情はないわ。いつも通り、全力で――」

 

「それは知ってる。俺が言いたいのは、連中はレザリア代表並みにイカレているから、律儀に相手するなって言うことさ。マジで相手すると……お宅ら、何人か死ぬよ?冗談抜きで」

 

 イカレてる?冗談抜きで?

 

 先日、システィーナはフレンドリーに挨拶してきたアレックスとルーシーの姿を思い出す。あの時の二人の姿とアルフォンソが言っている言葉とは、明らかに乖離している。

 

 でも、この少年が嘘を言っているのかというと……そうでもない気がする。

 

 一体、どういうことなのかとアルフォンソに問い合わせようとした、その時。

 

「いや、アルフォンソさんの言う通りです。彼らは……普通じゃない」

 

 システィーナの後ろから少女の声がした。

 

「あ、貴女はサクヤさん!?」

 

「一昨日の開会式以来ですね、システィーナさん」

 

 システィーナの後方から、しゃなりと現れたのは、日輪の国の天帝陰陽寮のメイン・ウィザード、サクヤ=コノハであった。

 

 連邦との試合後に法医処置を受けたらしい。顔色の悪さや癒えていない傷は多々見られたが、こうして歩いて話す程度には、回復したようだ。

 

「で、イカレてるって、どういう意味だ?普通じゃない?、まぁ、確かに後半の突然の反撃にはビビったけどよ、いざという時まで爪を隠すことはあるだろ?」

 

 そんなグレンの問いに、アルフォンソは手を顎にあてて考え込み、そしてこう言った。

 

「それはね、先生……お宅にアメリカ人の知り合いとかいるかどうかわからんけどな、連邦の魔術師はな、だいたいが帝国のことをよく見てないんよ」

 

「…………」

 

「なんというか、劣等感、というか。……アルザーノ帝国の魔術師に対する劣等感がめちゃくちゃあるというか、強いというか……とにかく、あんまり良い目では見とらんし、面白くはないという感じかな?わかる?」

 

「そうか?俺にも連邦の知り合いというか教え子がいるが、そんなものは感じなかったぞ」

 

「その連邦の知り合い……()()()()()()()()()()か?」

 

「んにゃ。アルザーノ帝国生まれの連邦育ちだな。もう一人はレザリア王国生まれのレザリア育ちだ。この前の連邦と王国との戦争で亡命という形で連邦に移ったらしいが」

 

「あー、だからか……」

 

 アルフォンソが頭を掻きながら、周りを見渡すと、少し小声になってグレンとシスティーナにこう言った。

 

「いいか、先生、システィーナさん。……これだけは言っとく。ぶっちゃけ、連中はお宅らアルザーノ帝国を倒しにきたようなもんや。連中の夢は帝国に打ち勝ってこそ、果たされる」

 

「え?」

 

「だから、システィーナさん。アンタに譲れないものがあるならば……心を鬼にして戦いな。でないと、負ける。冗談抜きでな」

 

「私も言いたいことが同じです」

 

 いつにもなく真剣な表情で言うアルフォンソに、サクヤが言葉を引き継ぐように厳かに言った。

 

「システィーナさん。魔術師が己の威信を賭けて戦いの場に出る以上、相手の事情なんて関係ありません」

 

「…………」

 

「私も、譲れない何かのために戦い、そして、負けました。貴女にも譲れない何かのために戦う……そうでしょう?」

 

「……う、うん……そうだけど……」

 

「ならば、その譲れない何かを守るためにも、覚悟を決めな。それこそ命を賭ける気でな。連中は、その気で来ていやがる。恐らくこの魔術祭典に参加しているどの連中よりも、な……」

 

 そんな、二人の忠告に。

 

「ええ、当然よ!わかってるわ、そんなこと!絶対に勝ってみせるわ!悔いのない、良い試合にしてみせる!」

 

 システィーナは、明るくそう応じるのであった。

 

 そして、その時、その様子を見守っていたルミアが気付く……グレンが、やや険しい顔をしていたことに。

 

「……先生?どうしたんですか?」

 

「いや、別に……なんでもねーよ」

 

 グレンは言葉を濁すが……その時、はっきりと一抹の不安を覚えていた。

 

 ――彼女……ちょっと、成長し過ぎじゃないかと思ってね――

 

 実は、連邦が日輪の国を蹂躙した後、イヴの零した言葉の意味が、なんとなくわかりかけてきたのだ。

 

(白猫……お前……)

 

 だが、今はどうすることもできない。

 

 恐らく、言ってもシスティーナ自身理解できないだろうし、言ってどうこうなるものでもない。そもそも、それは欠点ではなく、彼女の美徳ですらあるのだ。

 

 グレンは、試合前にアルフォンソとサクヤと談笑を続けるシスティーナを、ただ黙って見守るしかないのであった――

 

 

 

 

「――以上が、午後の帝国との試合のルールや。何か質問は?」

 

 一方、自分達以外、誰もいない選手控室にて、ジョセフがアレックスら連邦代表選手達に試合のルールを説明していた。

 

 控室の扉の側には、フランシスがジョセフ達を見守るように椅子に座っている。

 

「中尉。一つ聞いていいっすか?」

 

 すると、席の後方から手が挙がる。手を挙げたのは、後ろにひっつめた金髪の、肌の白い少年であった。先の日輪の試合で、事実上の戦闘不能になっていたシグレに蹴りを入れまくっていた少年だ。

 

「なんだ?」

 

「その試合、ポイントを獲得しなくてもいいんすよね?」

 

 そんな意味不明なことを言い出す少年。

 

「……何が言いたい?ジル」

 

 なんとなくこのジルという少年の言いたいことは薄々わかっていたが、目を細めて敢えて問うジョセフ。

 

「いや、あのメイン・ウィザード潰していいかなと思いましてね」

 

 やはりか……ジルの口から予想通りの言葉が出てきて、ジョセフは溜め息を吐く。背を壁に預け腕組みしているアリッサも呆れ顔だ。どうもこのジルという少年、実力はあるのだが性格に問題があるらしい。これは選手達の資料を見ていたから知っているのだが、どうやら思った以上に難がある少年のようだ。

 

「……ありかなしかと言われたら、ありだ。だが、この試合はメイン・ウィザードの戦闘不能はイコール即試合終了とはならない。回復タイムがあるからな。この時間帯にメイン・ウィザードが行動可能となれば、試合は続行だ。つまり、何回も戦闘不能にさせて、回復できないようにしない限り、メイン・ウィザードを潰すのは非現実的だと言っておく」

 

 しばしの間を空けて、ジョセフは言葉を続ける。

 

「……次の試合、決勝ではないが、確かに連邦にとっては特別な試合になる。連邦対帝国……旧植民地対旧宗主国……魔導技術でも分家筋と本家筋の試合だ。あそこで観てる観客達もそれをわかっている。だから、この試合は最も注目を浴びる試合になるだろう。……だが、どんな特別な試合でも、やることは一つだ。それは勝つこと。今回の試合のルールを理解し、何が最重要目標なのかを理解し、それに向けて動き、勝つことだ」

 

「…………」

 

「俺の師であり、今回のお前らの監督でもある親父殿は俺に口酸っぱくこう言っていた。”目的を決して忘れるな。目的を忘れた者は、どんなに優位に立っても、最終的には負けるだろう”、っと。お前らが本土での軍学校の教官からどう教えられているか、俺にはわからんが、お前らにはこう言う。今回の目的は、防衛側のラインを突破し、1ポイントを取ること。そして、攻撃側に1ポイントも取らせないことだ。帝国の選手達を攻撃して、数を減らすのはありだが、あくまで目的は、”1ポイントを取る、そして、取らせない”ことだ。これは絶対に忘れるな。他の約束事を忘れても、これだけは忘れるな」

 

 そして、ジョセフは腕時計を見て、最後にこう言った。

 

「そろそろ時間だな。最後にもう一つだけ言っておく。お前らが持っている魔術はもう()()()()()()()のものではない。お前らの魔術はどこからどう見ても、れっきとした()()()()()()の魔術だ。次のレザリア対ガルツの試合の次に俺達の試合が来る。それまでには英気を養うように。以上、解散」

 

 そう言い、ジョセフとアリッサとフランシスは控室から出て行くのであった。

 

 

 

 

 ――こうして。

 

 様々な思いを、渦巻く混沌の渦中へと呑み込んで。

 

 世界中から集まる様々な人々が、様々な思いをもって戦う魔術祭典。

 

 午後の部の最初の試合、レザリア王国対工業国ガルツの試合が、レザリアの圧勝に終わり、次の試合。

 

 アルザーノ帝国代表と、アメリカ連邦代表――旧宗主国と旧植民地という、世界中の人々が最も注目する試合の開始時間が刻々と近づいていくのであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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