ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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 今回は遠征学修ですよ~


27話

 アルザーノ帝国魔術学院、二年次生二組の教室にて。

 

「とまあ、そういうわけで……」

 

 放課後のホームルーム。

 

 グレンはさも面倒臭そうに、教壇に立っていた。

 

「これから、今度、お前らが受講する『遠征学修』についてガイダンスするわけだが…ったく、なーにが『遠征学修』だよ?…どう考えてもこれ、クラスの皆で一緒に遊びに行く、『お出かけ旅行』だろ……」

 

「もう、先生ったら!真面目にやってください!」

 

 グレンのやる気なさげな態度に、即反応したシスティーナが席を立ってわめき立てる。

 

「だいたい、『遠征学修』は遊びでも旅行でもありません!アルザーノ帝国が運営する各地の魔導研究所に赴き、研究所見学と最新の魔術研究に関する講義を受講することを目的とした、れっきとした必修講座の一つなわけで――」

 

「はいはい、そうでしたそうでした。ご丁寧な解説ありがとうございます」

 

 さっそく説教モードに入ったシスティーナに、グレンはうんざりしたように頭を掻いて項垂れた。

 

「でも、スケジュールを見たら確かに先生の言うこともわからなくはないかな~」

 

「ちょっと、ジョセフ!?貴方もそう言うの!?」

 

 システィーナがこちらを振り向く。

 

 システィーナの言うとおり『遠征学修』とはそういう目的で学院が開設している講座であり、システィーナ達二年次生の必修単位の一つとなっている。だが、グレンの言うとおり、講義と研究所見学以外には自由時間も多く、旅行という性質が見え隠れしているのも否定できない。とはいえ、普段、学院とフェジテに引きこもりがちな生徒達を、フェジテの外へ強制的に出して、見聞を深めさせる意味合いもある。

 

 因みに『遠征学修』講座は、各クラスごとに開設され、その時期も行き先も各クラスごとにバラバラである。これは各クラスごとの授業進行状況や、受け入れ先となる魔導研究所の業務予定、受け入れ先の受け入れ可能人数などの調整も考えれば当然のことだ。

 

 二年次生全員が、一斉に一つの研究所に押しかけるわけにはいかないのである。

 

「先方も忙しいところを私達のために予定を開けてくれるんですから、先生も私達の引率者としての自覚をきちんと持ってですね――」

 

「はいはいはいはい、わかりました、わかりました!もう勘弁してくれ!?」

 

 グレンがシスティーナの説教を受けている間も、クラスのあちこちで今回の『遠征学修』について、生徒達は雑談に花を咲かせていた。

 

「セシル。今回、俺達が行く所ってあれだよな?えーと、確か黄金魔導……」

 

「ははは、違うよ。それを言うなら白金魔導研究所だよ」

 

「ああ、そうそう、それそれ。それなんだけどさぁー、俺、やっぱ白金魔導研究所よりカンターレの軍事魔導研究所を見たかったなぁー」

 

「仕方ないさ、カッシュ。それを言うなら僕だってイテリアの魔導工学研究所の方がよかったんだから」

 

「せやで、カッシュ。ウチもバージニア州にある国防高等研究計画局の方がよかったんやで」

 

「それ、最早帝国じゃなくて連邦じゃねえか!?」

 

 学院側もクラスごとに大雑把な遠征先の希望調査をするものの、個々の要望に応える余裕はない。自分がどこの研究所へ『遠征学修』に行くことになるか…それはもう完全に運としか言いようがなかった。

 

 必然的に、やっぱりあっちが良かった、こっちが良かった…クラスのあちこちでそんな話が上がり始めた、その時である。

 

「ふっ…甘いな、そこの男子生徒諸君」

 

 行く先に関する不満を耳ざとく聞きつけたグレンが、不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「お前らは運が悪い、とか…別の方が良かった、とか…そんなことを思っている…だが、俺に言わせれば、お前らは幸運だ。間違いなく、絶対的に、圧倒的に幸運の女神様の寵愛を受けている……ッ!」

 

「えー……?」

 

「冷静になってよく考えてみろ、白金魔導研究所が一体、どこにあるのかを……」

 

「どこにもあらへん」

 

「そりゃ、お前が展開しているマップにはないわな!?っていうか、それ連邦のじゃねーか!?それとデカいな連邦は!?どんだけ広いんだよ!」

 

「突っ込みハットトリックおめでとうございます」

 

「今までの雰囲気をぶち壊すのやめてもらえませんかねぇ!?ジョセフさん!」

 

 今までの雰囲気をぶち壊すジョセフにグレンは抗議する。

 

「まぁ、いい。さぁお前ら一体どこにあると思う?」

 

 白金魔導研究所はその名の通り、白金術を研究する施設である。

 

 白金術とは、白魔術と錬金術を利用して生命神秘に関する研究を行う複合術のことで、その研究実験の展開には、大量の綺麗で上質な水が欠かせない。

 

 よって、地脈の関係で上質の水が容易に手に入る、サイネリア島にその白金魔導研究所は構えられているのだが……

 

「……はっ!サイネリア島はリゾートビーチとしても有名な……ッ!?」

 

「ま、まさか……ッ!?」

 

 セシルとジョセフは呆れたように苦笑いしていたが、カッシュやその他の男子達は目を輝かせて立ち上がった。

 

「ふっ…ようやく気付いたか、お前達。そして、この『遠征学修』は自由時間が結構、多めに取られており、まだ少々シーズンには早いが、サイネリア島周辺は霊脈の関係で年中通して気温が高く、海水浴は充分に可能…さらに、うちのクラスにはやたらレベルの高い美少女が多い…あとはわかるな?」

 

「「「「せ、先生……ッ!」」」」

 

「みなまで言うな。黙って俺についてこい」

 

「「「「はい!」」」」

 

 いま、クラスの担任講師たるグレンと生徒達(ごく一部の男子限定)との間に、奇妙な共感と友情が誕生していた。

 

「馬鹿の巣か、このクラスは……」

 

「あはは……」

 

「……?」

 

 システィーナは呆れてため息をつき、ルミアは苦笑い。

 

 二人の後ろに腰かけるリィエルは不思議そうに、微かに首をかしげていた。

 

「平和やな……」

 

 ジョセフは、そんな光景を苦笑いしながら見ていた。

 

(システィーナは馬鹿とか言ってるが、男は馬鹿でいいんだよ。少なくとも頭おかしいよりかはマシやろ)

 

 

 

 そして、そうこうしているうちに、いよいよ二組の『遠征学修』の日がやってくる。

 

 その当日、まだ日も昇りきらない、朝靄漂う薄暗い時間帯。

 

 制服に身を包み、旅行鞄を背負った生徒達は魔術学院の中庭に集合していた。

 

「ふっ、いよいよだぜ…なんかテンション上がってきたーッ!」

 

「ふん。君は相変わらずだね、カッシュ。僕らは遊びに行くわけじゃないんだけど?」

 

「ったく、お前も相変わらずつまんねーヤローだな、ギイブル……」

 

「なぁ…俺、この遠征学修中に憧れのウェンディ様に告白するんだ……」

 

「止めとけよ、アルフ。お前にゃ高嶺の花過ぎる…盛大に爆死する未来しか見えん。それに、見ろ」

 

「なぁ、ウェンディ。白金魔導研究所ってどんなところかわかるん?」

 

「生命関連の魔術研究を行っている、ということくらいはわかりますけど…こればかりは実際に行ってみないことにはなんとも言えませんわね」

 

「……どう考えても無理だ。あの二人の間に入る隙がない……」

 

「……ちくしょぉおおおお――ッ!ジョセフ!こうなったら決闘じゃーッ!」

 

「やめろぉおおお――ッ!どう考えても勝てる相手じゃねーッ!」

 

「ウチ、何もしてへんけどな……」

 

 早朝だというのに、ほとんどの生徒達は熱気と活力に満ち溢れ、浮き足立っている。

 

 グレンは生徒達と自分との温度差に眩暈を覚えながら、事務的に点呼を取った。

 

「全員、いるかー?いるなー?じゃ、出発するぞー?」

 

 その後、担任講師であるグレンの引率の下、生徒達は手配されていた駅馬車――都市間移動用の大型コーチ馬車数台に、いくつかの班に分かれて乗り、フェジテを出発した。

 

 生徒達が風景を楽しんだり、雑談に花を咲かせていたり、はたまたカードゲームなどに興じたり、うとうと居眠りなどをしているうちにも、馬車は黙々と街道を進んでいく。街道の一定区間ごとに設けられたステージと呼ばれる各停車駅で、馬を取り替えつつ、休憩を挟みつつ、街道を進み続ける。

 

 やがて、日が暮れ、夜となり、その日はごとごと揺れる馬車の中で睡眠を取り――

 

 生徒達が眠る間も、馬車は街道を進み続けて――

 

 そして、次の日の正午。

 

 馬車はフェジテ南西にある、港町シーホークへ到達した。

 

 磯の香り漂う港町シーホーク。帝国西海岸部の各主要都市や周辺列島を繋ぐ定期船が行き交う、アルザーノ帝国ヨクシャー地方の玄関口だ。さらに帝国沿岸部各地や、アメリカ連邦等の海外からの貨物船が常に出入りし、ここから南部ヨクシャー地方の各都市へ向かう物資が集まる重要な交易拠点の一つでもある。また時たまであるが、連邦海軍の艦艇が寄港することもあり、その時は白い軍服を来た海軍の兵士達が上陸することもある。

 

 シーホークに到着した二組の生徒達は、馬車の停車駅でいったん、解散。班行動で各自食事休憩をかねた小一時間の自由時間を取り、白金魔導研究所があるサイネリア島への定期船が発着する船着場へ集合することになった。

 

 その後、グレンはなぜか遅れ、その間に富裕層のボンボン軟派師みたいな人が――ジョセフは正体がわかったが――システィーナに絡み、その後、グレンが来てその軟派師の首根っこを掴んで、通りの向かい側の路地裏に消えた。

 

 

 

 

 二組の生徒達を乗せ、シーホークを出発した定期船は、四本仕立てのマストに張られた七つの大きな帆をいっぱいに広げ、西南西へ航路を取った。

 

 香る磯の香り。抜けるような青空。

 

 遥か遠く燦然と輝く、見渡す限りの広大な大海原。

 

 緩く流れる心地好い風が肌を、髪を優しく撫でていく――

 

「わぁ……」

 

 船に乗った経験の少ないシスティーナは、この大いなる海の雄大さにすっかり圧倒されてしまったようだ。船首楼の上に立って手すりから身を乗り出し、風に揺れる髪を手で押さえながら、いつまでもその光景を眺め続けている。

 

「船に乗るのは初めてなんか?システィーナ。あんま身を乗り出すと危ないで」

 

 ジョセフが笑いながら、システィーナに注意し、隣に立つ。

 

「初めて、というわけではないんだけど、やっぱこう、海は綺麗だなって見とれてしまうわ」

 

「これが夕方になると、陽が沈むときとかはかなり凄いで」

 

「貴方は結構乗る方なの?」

 

「そこまで頻繁に乗らへんけど、ニューヨークは海に面してるからな。夕日が沈むところとか、朝日が昇るとことかは休みの度に見に行ってたかな」

 

「ふーん、今度機会があったら行ってみたいわね、ニューヨークに」

 

「ははは、かなりデカい都市やで。なんせ『世界の首都』とか言われているからな。まぁ、色んな人達がいるから面白いけどな」

 

 そう言うと二人は海を再び見る。

 

 船首が荒波を力強く切り分けながら突き進むさまを横目に、こうしてじっと海を見つめていると、なぜだろう、人は不思議と敬虔な気分になってくる――のだが。

 

「おげぇええぇええぇぇ……ッ!」

 

「……台無しだわ」

 

「……落ち着け、システィーナ…気にしたら負けや」

 

 打ち立つ白波で飾られた美しい海原が吐瀉物で穢されるその光景に、システィーナは拳を握り固めて、こめかみをぴくぴくと震わせていた。ジョセフはそれを宥めようとするが。

 

「ちょっと、先生!私達の感慨を穢さないでくださいっ!」

 

 システィーナは、船首楼から少し離れた通常甲板で、船べりの手すりに洗濯物のようにだらしなくもたれかかっているグレンへと、非難の声を上げる。

 

「うっさいわ!こればっかりは仕方ないだろぉがっ!?うぷ……」

 

 顔を青ざめさせ、げっそりとしたグレンが恨めしそうな顔で、システィーナに抗議を飛ばす。だが、すぐに口元を押さえ、また身を乗り出して海面を覗き込んだ。

 

 そんなグレンをルミアが甲斐甲斐しく世話をする。

 

「他の場所の方が良かったんちゃうんか……」

 

 まぁ、恐らくグレンのことである。軍事魔導研究所は避けただろうが。

 

 グロッキーなグレンと、そのグレンを甲斐甲斐しく世話するルミアの姿に、システィーナはため息をつきながら眺めていた。

 

「でも、意外な弱点ね…似合わないっていうか…あんなに図太い性格なのに」

 

「人間、そんなもんやで」

 

「システィーナ、ジョセフ」

 

 呼ばれてシスティーナとジョセフが振り返ると、そこにはリィエルが立っている。

 

 見れば、リィエルは心なしか焦りの表情――一見、無表情だが最近はなんとなく心の機微が読み取れるようになった――で、二人に問いかける。

 

「……グレンはどうしたの?まさか…病気?」

 

「病気とは少し違うわ。何?先生が心配?」

 

 こくり、と。リィエルは注視していれば辛うじてわかる程度に頷く。

 

 システィーナはそんなリィエルを微笑ましく思いながら、安心させるように言った。

 

「大丈夫よ、リィエル。あれはね、船酔い」

 

「……船酔い?」

 

「せやで、船に乗ると人によっては発症するものだけど、心配いらへん。船から降りればすぐによくなるからな」

 

「……そう。よくわからないけど…船のせい?」

 

「ええ、まぁ、そういうことになるわね」

 

「そう…わかった」

 

 すると合点がいったとばかりに、リィエルはくるりと踵を返して……

 

「ちょっと、この船、沈めてくる」

 

「「……は?」」

 

 そのままスタスタと、甲板の一角に設置された船底へと続く階段を下りて行って……

 

「ちょ――ま、待ちなさぁいッ!?皆ッ!?リィエルを止めてぇええ――ッ!?」

 

 システィーナが叫び、ジョセフは猛ダッシュでリィエルに追いつき、後ろ髪を引っ張る。

 

「痛い。放して」

 

「お前はアホか!船沈めたら全員溺れ死ぬわ!」

 

「でも…グレンが……」

 

「その先生も死ぬんですけどッ!?」

 

 彼女はグレンを守りたいのか、殺したいのか、どっちなんだ。

 

 そんなこんなで、船の上も大騒ぎだった。

 

 

 

 シーホークを出航して数時間。

 

 やがて、船はサイネリア島に到着する。

 

「よっ、ほっ、着いたで~」

 

 船のタラップから切石を隙間なく並べて形作られた船着場の上に降り立ったジョセフは、軽く伸びをし、周囲を見渡した。

 

 潮風が強く、雄大な潮騒の音、空にはウミネコの声。水平線を見ると、ジョセフはタラップから降り立ったシスティーナに水平線の方に指を差し、見るよう促す。

 

「わぁ…これは…綺麗ね」

 

 システィーナが思わず見とれてしまうほど、それは綺麗なものだった。

 

 すでに時分は黄昏時、水平線に差し掛かった太陽が燃え上がり、世界を深い黄金色に染め上げている。

 

「こりゃ、夜景も凄いだろうな」

 

 島の中央部は、山なりになった島の中心部は複雑な渓谷を形成し、緑の自然で溢れている。

 

 帝国本土の主な植生態系は針葉樹が主だが、この島では独特の形をした広葉樹が主体のようだ。ジョセフは、連邦は多様な気候のため広葉樹も珍しくなく、他の生徒達とは違いそこまで新天地に来たという感覚はなかった。

 

 さらに海岸沿いには、緩く湾曲した白い砂浜のビーチラインが延々と続き、その果てに恐らく観光客用に発展したのだろう、小洒落た建物が乱立する町の姿が遠く仰げた。

 

 と、その時である。

 

「先生、しっかり……」

 

「あぁー…うぅー……」

 

 ルミアとリィエルに両脇を支えられたグレンが、ふらふらしながらタラップから船着場の上へと降り立った。そのグロッキーな姿に、感銘も感慨も何もかも、ぶち壊されたのか、システィーナは呆れてグレンを見る。

 

「もう…本当に浸らせてくれないっていうか、デリカシーないんだから……」

 

「う、うるせー…白猫め…お前にこの苦しみがわかるか…うぅ……」

 

 グレンのそのあまりにも情けない姿に、先に下りていた周囲の生徒達もくすくすと苦笑いを零すしかない。

 

「大体な!生来、人は大地と共に生きる生物なんだ!人間は大地の子なんだ!大いなる大地から離れては人は生きていけないんだッ!土に根を下ろし、土と共に生き、そして、やがて土に還るが人の定め…それこそが土を生み出す摂理の輪、生命の円環なんだッ!船などという薄っぺらい板切れに乗っかって大地を離れ、海に乗り出すなんて、人として、生命として根本的に間違っているんだぁ――ッ!」

 

「……船酔い一つで、なんかやけに壮大で大袈裟な話になるわね」

 

 よくもまぁ、こんな屁理屈がぺらぺら出てくるなと感心する。

 

「それなら、今、空を飛ぼうと目指している連邦は何なん?」

 

 ジョセフは呆れながらそう言った。

 

「先生…そんなに船がお辛いのでしたら、遠征学修先は別の場所にすればよかったんじゃ…例えば、イテリアの軍事魔導研究所なら、移動は全部、馬車でしたのに」

 

 ルミアが苦笑いで言うとおり、一ヶ月前、遠征学修の行き先に関する事前希望調査としてクラスで行き先候補の採決を取り、軍事魔導研究所と白金魔導研究所が同数の支持票で割れた時、最後の一押しの票を入れたのは、他でもないグレン自身だ。

 

 不思議そうに首をかしげるルミアに、グレンはかつてないほど真剣な顔でこう答えた。

 

「美少女達の水着姿はあらゆるものに優先する。決まっているだろう?」

 

 おおぉ…と周囲の男子生徒達から――ごく一部――感嘆の声が上がった。

 

 人間、馬鹿も突き抜けて極めると蔑みを超えて尊敬を集めるものだ。

 

(嘘つけ)

 

 苦笑いのジョセフとルミア、呆れ顔のシスティーナ、眠そうなリィエルをよそに、グレンは両袖に腕を通さず羽織ったローブをばさりと翻し、夕日に燃える水平線を愁いを含んだ遠い目で見つめた。

 

「たとえ、ここが三国間紛争の最前線だったとしても…俺はここを選んだよ」

 

 潮風がローブをはためかすその背中は、無駄に格好良かった。

 

 ……本当に、心底、無駄だが。

 

「せ、先生…アンタ、漢だよ……」

 

「俺、先生についていきます……ッ!」

 

 だが、そんなグレンの背中は、ごく一部の生徒達(主に男子)の涙腺を直撃したらしい。

 

 まるで信仰に殉ずる愚直な求道者のようなグレンの姿に、感極まった一部の生徒達が熱い涙をはらはらと流していた。

 

「もう!本っ当に馬鹿ばっかりなんだから!ていうか、うちのクラスの男子、先生が来てから、なんか段々ノリがおかしくなってきてない!?」

 

 システィーナはそんなクラスメイト達に一抹の不安を覚えざるを得ない。

 

「ほら、先生!馬鹿なこと言ってないで、さっさと宿泊予定の旅籠へ行きますよ!」

 

 すたすた、とシスティーナや生徒達はその場を移動し始める。

 

 ここから宿泊予定の旅籠までは海岸沿いを道なりに一直線だ。迷う心配はない。

 

「まったく、本当に先生を筆頭に男子って馬鹿ね……」

 

「まぁ、ウチは男は馬鹿がちょうどいいと思うで」

 

 ジョセフが苦笑いでそう言うと、システィーナは目を見開いてこっちを見ていた。

 

「何や?その『こいつ、頭をぶつけたんちゃうか』みたいな顔は?」

 

「貴方からそういう言葉がでるとは思わなかったわ」

 

「うーん、そうか?でも、まぁ、頭おかしいよりかはマシやろ?」

 

「それはそうだけど……」

 

「男子が女子のケツを追っかけることが、人が人を殺し合うことよりもどれだけ平和なことか……」

 

「ジョセフ……」

 

 ジョセフが儚い表情でそう呟くのを、システィーナは何て言葉をかけたらいいかわからず押し黙る。

 

 確かにそう考えたら馬鹿の方がマシなのかもしれない。

 

「んじゃ、さっさと旅籠に行きましょうかね」

 

「え、ええ……」

 

 いつの間にか、普段の表情に戻ったジョセフの言葉にシスティーナは我に返り、旅籠に向かった。

 

 

 

 

 




今回は、ノースカロライナ州です。

人口は1027万人。州都はローリー。主な都市にシャーロット、ローリー、ダーラム、ウィンストンセーラム、グリーンズボロ、フェイエットビル、ウィルミントン、アッシュビルです。

愛称は、タールのついた踵の州です。

自然と都市に恵まれた州です。金融都市シャーロットや、IT拠点のリサーチトライアングルパークで有名なローリー、ダーラムなどがあり、人口増加が特に著しい州の一つです。

人口1000万人を突破した9番目の州となりました。

バージニアと共にタバコでも知られ、セーラムなどがあるRJレイノルズ本社があります。


以上!

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