次から次へと目の前に現れる神秘の数々、尽きぬ驚きの連続。将来何らかの形で魔術に関わる道を志す魔術学院の生徒達にとって、実に有意義な一時であった。
時間はあっという間に流れ、研究所見学が終わった時は、もうすでに夕方。
名残惜しい思いを抱きながらついた帰路、見学の興奮冷めやらぬ生徒達は悪路を踏破する疲労も忘れてひっきりなしに魔術議論に花を咲かせ、いつの間にか北東沿岸部の宿舎に到着した時には、もうすっかり日が落ちて暗くなっていた。
自由時間の開始である。元気のある者は町へ食事を取りに行ったり、露店を冷やかしに行ったり、疲れた者は宿舎の部屋へ休憩に戻ったりと、生徒達は幾つかのグループを作って思い思いに行動を開始し始めた。
「南原風のすげー美味い魚介料理を食べに行こう?」
「そうそう、新鮮な魚介類と、コメと野菜をスープで炊き込んだ料理。名前は、えーと……」
宿舎についた時、ジョセフはカッシュからそう誘われ、カッシュは食べに行く料理の名前を思い出そうとしていた。
「パエージャ、だよな?それ」
「そうそう、それそれ。ジョセフは食べたことあるのか?」
「まぁ、ニューヨークにそういう店うじゃうじゃあるからな。食べたことはあるで」
連邦は多民族国家であり帝国系の移民の他、レザリア王国、南原、東方、先住民、黒人など、最初から定着していた先住民を除き、とりあえず色んな方面から移住してきてできた国家である。
そのため、それぞれの文化や料理などが連邦内では出回っており、それが混ざって発展しているケースもある。
「そうだな、まぁいいけど、あとセシルとかウェンディとかも誘ってみるか?」
「それはいいな。じゃあ、俺はセシルとかリンとか誘ってみるわ」
「じゃあ、ウチはルミアとシスティ―ナと、あと……」
ジョセフは生徒達からぽつんと一人離れ、何をするでもなく、宿舎の建物の前に立ち尽くしていたリィエルを見る。
「リィエルも誘ってみるわ」
「……あぁ、じゃあ行ってくるわ」
カッシュはそう言ってウェンディ達の方へ誘いに行った。
ジョセフが動き出そうとしたその時、ルミアが既にリィエルの所にいた。
恐らく、食事に誘おうとしているのだろう。だが、リィエルは拒絶したのだろう、ルミアから逃げるように歩き去ろうとする。
それを悲しそうに背中を見つめるルミア。
微かな苛立ちを表情に浮かべ、その背中を睨みつけるシスティーナ。
「あの馬鹿……」
正直、このまま看過することはできなかった。いくらアルベルトが遠くからルミアを見守っているとはいえ、リィエルも護衛の任務に従事しているのだ。これ以上、リィエルがそんな態度を取り続けたら、護衛に支障が出る。
すると、そんなリィエルにずかずかと歩み寄る者がいた。
「おい、いい加減にしろよ、リィエル」
グレンだった。
グレンもジョセフと同じ思いを抱いていたのだろう、リィエルの肩を掴む。
「いつまで一人で拗ねて――」
「うるさい!」
だが、リィエルはグレンの手を振り払って、逃げるように駆け出した。道行く人を撥ね飛ばしながら、路地裏に飛び込み、そのまま、あっという間に姿を消してしまう。
グレンはどうしたものかと頭を悩ませていたが、ルミアが声をかけ、その後、リィエルを追いかけた。
(さて、どうしたものか……)
ジョセフも悩んでいた。
リィエルがああである以上、護衛は務まりそうにない。ルミアを丸裸にさせるわけにはいかない以上、ジョセフが代わりに護衛をするしかないだろう。
だが、リィエルとは違い、制限がある。どんな事情であれ、女子が止まっている本館にいるわけにはいかない。事情を知らない生徒に見つかる恐れがある。そうなったら面倒だ。
かといって、別館から監視していたら、いざという時にすぐに駆け付けられない。
「なぁ、ジョセフ……」
ジョセフはもう誘ったのだろうカッシュ達のほうを振り向き首を横に振る。
「本当にあの三人にの間に何があったんですの?」
おそらくこの場にいる全員が思っていることをウェンディが代弁するかのようにそう口にする。
無理もないだろう。昨日はあんな楽しそうにビーチバレーやらバーベキューやらを楽しんでいたのだ。それが今日になって突然の露骨な拒絶である。
「……わからへん。ただ……」
ジョセフは間を空け、言葉を選ぶように言葉を続ける。
「人には一つや二つ、言えない過去があるのさ。今は先生に任せといたほうがええ」
かつて学院爆破テロ未遂でシスティーナに言ったことをカッシュ達に言う。
今は見守るしかなかった。
めっちゃ、短いですけど、今回はここまでです。
次から、四巻に入ります。