ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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最近のこの気温差…
最低気温が1桁で、最高が20℃以上って…どうかしてるぜッ!


3話

「…いやぁ、立派な扉ですなぁ」

 

 今、ジョセフはグレンに連れられグレンが担当している2年次2組の教室の前にいる。

 

「やっぱ軍学校と比べると派手に見えるよな。だいたいの軍施設は質素なもんだからな。そこは連邦軍も帝国軍も変同じか」

 

「お偉いさんの執務室ぐらいですよ、派手なのは」

 

「んじゃあ、そろそろ入るとしますか。グズグズすると白猫がうるさいからな」

 

 ?猫でも飼っているのか?

 

 ぼやくグレンの口から「白猫」という言葉を聞き、ジョセフは首を傾げた。

 

 これだけ広い敷地なら猫とかいてもおかしくないが、教室にいるというのはさすがに聞いたことがない。

 

 多分、世界中の学院とかに行っても、そういうことはないだろう。

 

「白猫って、猫が教室にいるんですか?」

 

「ああ、いや猫のことじゃないんだがな…いや、あれは猫以上にうるさいな。」

 

「…やかましい白猫さんなんですね、ご苦労様です」

 

「じゃあ、入るぞー」

 

 そういって、グレンは教室のドアを開け、ジョセフはグレンに続くように入っていく。

 

 「ちわーす、三河屋でーす!」みたいに行こうと思ったが、さすがに初日でふざけるのはどうかと思い、やめた。

 

 

 

 

 

 

 そして、入ってグレンがジョセフを紹介しようとしたところ、話は今に至る。

 

 

 

 

 

「え、何?お前、ウェンディの知り合いなの?」

 

「えーっと、幼馴染というか…まあそんな感じです」

 

 ジョセフは話がついてこれないのか、目を白黒しているグレンにそう答える。

 

 グレンだけではない、他のクラスの人たちもざわざわと騒ぎ始めている。

 

「ウェンディの幼馴染って、マ、マジかよ……」

 

「そういや、さっきスペンサーって言ってたよな。まさか、あのスペンサーじゃないのか」

 

 それぞれあれこれ言っている中、グレンはジョセフを見てみる。

 

 男子としてはきれいな茶髪、そして、左は金色がかった瞳と青色の瞳のオッドアイ。

 

「なぁ、ジョセフ。お前もしかして…」

 

 スペンサーという家名とオッドアイ――グレンは心当たりがあるらしく、ジョセフに問う。

 

「はい、そのまさかです」

 

 そう言い、ハァと嘆息して、取り敢えず収拾つけないと先に進まないと思い。

 

「まあ、このままだと情報がわちゃわちゃしとるから、取り敢えず自己紹介させてくれないかな?」

 

 ジョセフがそう言うと、全員静まり、こっちに注目する。

 

(ワオ、皆、すごい注目している~)

 

 自分で呼びかけておきながらあまりの注目されっぷりにそう思ってしまうジョセフ。

 

「OK、まずは名前からやけど、ジョセフ・スペンサーです。さっきの話でまさかと考えている人おると思うけど、スペンサー伯爵家…まあ今は伯爵家ではないんやけど、そのスペンサーやな。10年前に連邦に移って、ニューヨークの軍学校に通っていたんやけど、今日付けでこちらに編入されることになったというわけや」

 

 一通り自己紹介したジョセフは、これから学友となる(……多分)クラスメイトを見回す。

 

 ―――何であのスペンサーがこの学院に…?

 

 そう疑問に思っている人も何人かいた。

 

 スペンサー家が何故、伯爵位を返上してまで連邦に移ったのか、当時、帝国内ではその話題が賑わっていた。

 

 というのも、スペンサー家は何かをやらかしてしまい失脚してしまった訳でも何かやらかした訳ではなかった。

 

 もちろん、没落なんてしていない。

 

 それどころか当時は政界では台頭し始めている最中だった。

 

 その時にまさかの連邦の移住。

 

 当時の当主であり、ジョセフの母親であるエヴァ=スペンサーのこの謎の行動は誰も理解ができなかった。

 

 唯一心当たりがあるとすれば、この時、エヴァの夫が事故死したこと…それによって精神的に疲弊してしまったのが原因ではないのか…確たる原因はなかったが、そういう認識が帝国内では一般的だった。

 

「というわけだ。連邦と帝国では枝分かれしていて全然違う魔術があるかもしれん。それがお前達が魔術師を目指すときに何かの役に立つかもしれん。まあ、仲良くしてやってくれ」

 

「というわけで、よろしくな~。」

 

「一つだけ、質問よろしくって?」

 

 生徒達の一人が手を挙げる。

 

 ツインテールのお嬢様で、そして、ジョセフの幼馴染である、ウェンディ=ナーブレスだ。

 

「ええよええよ~、何でも聞いてや」

 

「差し障りなけれ…「ノーコメント」まだ何も言ってませんわよ!?」

 

 質問しようとしたウェンディの言葉を、出鼻を挫くようにジョセフは言った。

 

「いや~何や、向こうに長くいるとな、ついやっちゃうんだ♪」

 

「ついやっちゃうんだ♪っじゃないですわよ!!あと何笑ってらっしゃるの!?」

 

 ウェンディが立ち上がり、笑うジョセフにまるで子犬のようにまくしたてる。

 

 グレンやクラスの人達は、まさか留学生が初日からクラスメイトをいじるとは思わなかったらしく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして硬直している。

 

 普通ここはどうしても緊張してしまうのが相場なのだが、アメリカ人だからね、仕方がないね。

 

「いや、悪かった。ただお前の反応がおもろくて、ついいじってしもうたわ。気悪くしたら、ゴメンな」

 

 ジョセフは笑いながらそう言い…

 

「まあ、とにかく元気そうで良かったわ」

 

 今度は悪戯っぽい顔ではなく、本当に安心したような顔をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さっきまで子供っぽいことしていたのに、途端にああいう表情を見せてくるなんて反則ですわ…)

 

「あ、あなたこそ、その…元気そうで何よりですわ。」

 

 急に大人っぽい表情を見たせいか、ウェンディはおもわず顔をそらし、そう答える。

 

 ―――連邦から留学生が来る。

 

 その話を聞いた時、ウェンディはあまり良い気分になれなかった。

 

 実際、帝国内では貴族層は特に連邦に対してあまり良い印象をもってなかった。

 

 それは、歴史的な背景もあるし、連邦の大量生産・大量消費文化、物質主義、そして、多分最も貴族層が不快に感じているのが、拝金主義…つまり金の力を使って物事を進めていこうとするところが高潔さや誇りなどを持とうとする貴族層は嫌っていた。

 

 ナーブレス家はその中では珍しく嫌っていたわけではなかったが、同時に好いていたというわけでもなかった。

 

 ウェンディも連邦の話を周りから聞く限り、良い印象をもてないのも無理はない。

 

 因みに商人等、中産階級層や下層階級層は全員ではないものの、そこまで悪印象を持っていない。

 

 商人達はむしろ連邦から最先端の商品等が入ってくることがあるため、上手くいけば儲けて富を築きやすくなるし、それ以外の中産階級層や特に下層階級層は、底辺な自分でも上に行ける連邦の社会に憧れをもっている人は少なくない。

 

 そしたら、その連邦からの留学生がかつての幼馴染なのは驚いていた。

 

 最初は人違いだと思っていたが、何度か見ているうちにあのオッドアイを見てからまさかと思い声を掛けたら、そのまさかなのだから突然の再会に内心穏やかではなかった。

 

「んで、聞きたいことは何や?」

 

「……さっき聞こうとしたのに、話の腰を折った方はどなたでしたっけ?」

 

「う~ん…誰やろ?」

 

「あなたでしょうが!!」

 

 多分、クラス全員の思いも同じ思っている。そしてそれをウェンディが代弁するようにツッコむ。

 

 もう、質問していいのか、よくないのか…ウェンディが少し苛立ながらそう思うとジョセフが口を開いた。

 

「あはは、まあお前が何を言いたいのかはわかるけどな。多分、こう聞きたいんだろう?『なんでいなくなったんや?』って」

 

「――ッ!?」

 

 見事に言い当てられる。

 

「……図星やな。お前のことやから絶対それは聞いてくるだろうからな。…まあ、まさかここで再会するとは思わんかったけど……」

 

「………。」

 

 ウェンディが聞きたかったのはまさにそれだった。

 

 小さい頃、よく遊び、時には喧嘩をしたり悪戯をして親を困らせたりしていた。

 

 それなのに突然いなくなった。

 

 ジョセフが連邦に移住した――後からそれを聞かされた時、何で?と聞いても両親は曖昧にしか答えなかったため、ずっとモヤモヤしていた。

 

 だから、今彼がいるならと聞いてみたいと思って質問しようとした。

 

 本当はここで聞くよりも別のところで聞いたほうがいいかもしれない…しかし、今、聞かずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで笑っていたジョセフも、一転真面目な顔をしている。

 

「とはいえ、一体どう言えばいいのやら…」

 

 そう呟くとどう言えばいいのかしばらく考える。

 

(…ここは正直に言うしかないな。)

 

 頭を掻きながらそう思うと、口を開いた。

 

「まあ…結論を言うと俺も分からん」

 

「…は?」

 

 まさかの答えにウェンディをはじめ全員が硬直する。

 

「…正確に言うと、それを知っている人はもういないんや」

 

 それを知っている人はいない?

 

「どういうことですの?」

 

 ウェンディが訝しむように聞く。

 

「おい、ジョセフ…それってまさか……」

 

 ただ一人、グレンはピンときたようだが、あまりいい顔ではなかった。

 

「謎の行動を起こした張本人…母さんは亡くなったんや、ウェンディ。9.11でな」

 

「え…」

 

 これまで問い詰めようとしていた雰囲気がジョセフの言葉で一気に薄れていく。

 

 特に『9.11』というワードを聞いてからは場がぎこちなくなる。

 

 9.11は帝国内でも知れ渡っていた。

 

 ニューヨークで起きた史上最悪の無差別テロ…そして、その数か月後にアメリカ連邦とレザリア王国が戦争状態に突入していった。

 

 当時、アルザーノ帝国は中立を保っていたが、大洋を挟んで位置している新興国と隣国である巨大宗教国家の間で起きた戦争が凄惨を極めたのは帝国政府も知っているし、帝国内でも周知のとおりである。

 

「だから、今はもう死人に口なしやから、ホンマに分からへんのや。悪いな」

 

 ジョセフは申し訳なさそうにウェンディに謝罪する。

 

 その顔はものすごく悲しそうで、思い出したくもなかったのか、辛そうな表情だった。

 

「いえ、その…こちらこそ申し訳御座いませんわ、私ったら何も知らなくて……」

 

 ウェンディも恐縮したように目を伏せ、謝罪する。

 

 クラスの人達も相次いで両親を失い、今や一人だけになったかつての名家の姿に同情するしかなかった。

 

「まあほら、本来は知らせとくべきやったんやろうけどな、こっちもバタバタしてたからな~。知らんのも当然や。それよりもこんな重苦しいになってもうたから、何か別の話題にすっか。そうやそういえば―――」

 

 何とか雰囲気変えようと、白猫さんって誰?という話題から始まり(白猫っていうのは真ん中の最前列にいる、システィーナ=フィーベルという女子生徒のグレンからの呼び名だった)、そこから連邦の魔術はどうな感じなのか?とか、連邦はどういうところなのか?とか、あと黒髪で前髪がモップみたいな男子生徒、アレフ=モップスからやけにウェンディのことを根掘り葉掘り聞かれたり(お前、絶対ウェンディのこと好きやろ!?)と、そうこうしているうちにさっきまであった重苦しい雰囲気はなくなった。

 

(まあ何というか…悪くないクラスだな)

 

 2組の印象を、ジョセフはそう思いながら、グレンがシスティーナを紹介している時に余計な事を言ってしまったためか、説教を受けているという、これまた珍百景な光景を笑いながら見ていた。

 

 こうして、ジョセフと2組の顔合わせは無事に終わった。

 

 

 

 

 

 




今は11月のはずだ…なのに昼は暑い…何故だ!?

というわけで、今回も州の紹介をしていきたいと思います。

今回はバーモントカレー…とは関係ないバーモント州です。

人口63万人。州都はモントピリア。主な都市にバーリントン、モントピリアがあります。
愛称は緑の山の州です。

ニューイングランド地方の内陸に位置しており、ニューイングランド地方では最も人口が少ない州であります。また、合衆国内ではワイオミング州に次いで2番目に少ないです。

植民地化初期にはフランスが領有を主張していましたが、七年戦争で敗れたため、イギリスに割譲します。それからニューハンプシャー植民地とニューヨーク植民地との間で領有を争っています。結果、ニューハンプシャー認定地として1777年まで存在します。

1777年、独立戦争中にバーモント共和国を建国。以降、14年間続きます。

これは13植民地以外では合衆国加入以前に主権国家だった4州のうちの1つとなります。(他の州は、テキサス、ハワイ、カリフォルニア)

そして、1791年に、13植民地以外としては初の14番目の州として合衆国に加入しました。

また、共和国時代から奴隷制度を廃止していたため、奴隷制度を最初に廃止した州です。

森と泉に囲まれた田舎州で、雪もよく降り積もります。

ケベックに近く、最初はフランスの植民地だったため、ニューハンプシャー州とは対照的にフランスの文化が色濃ゆく残り、観光地として人気があります。



次回は、ニューイングランドの中心地であのハーバード大学があるマサチューセッツ州です。

それでは、以上!!


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