ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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 さて、今年は一応、原作五巻まで進めたら、今年の執筆は終わりにして来年から原作六巻に突入する予定にしたいと思います。




40話

 そこはとにかく辺り一面真っ赤に染まっていた。まだ雪が降り積もっているがその雪は白ではなく、赤く染まっていく。

 

 その上に死体が転がっている。味方の兵士も、そして一般市民も、敵味方問わず転がっている。

 

 その中で一人ぽつんと立っていたジョセフは、今、自分の足元に横たわっている子供を見る。その子供から大量の血がでで雪を赤く染める。既に息はしていない。

 

 そう、自分たちはこの町を攻略するために来て、そしたら、一般市民に襲われ――

 

 その一般市民は虚ろな目で、操られているんじゃないかと、思わせる動きで――

 

 あまりにも運動能力がとても一般人ではない彼らに、味方は半数が戦死し、残りは負傷している。

 

 衛生兵がせわしなくジョセフの周りを動き回り、負傷した兵士の手当、野営地に搬送していく。

 

 この町の住民は聖エリサレス教会教皇庁に洗脳されていたのだ。

 

 自軍の態勢を立て直し、その間、一般市民を洗脳して、捨て駒同然に連邦軍にあたらせ、足止めをさせる。

 

 まさに外道。

 

 許さない、と思った、その時だ。

 

「ほう、彼がジョセフ=スペンサー三等軍曹か」

 

 ふと。

 

 ジョセフの後ろから男の声が聞こえた。

 

 ジョセフが振り向くと、二人の男がこちらを見て立っていた。

 

 服装はカーキ色の戦闘服ではなく、黒い軍服だったが。

 

(陸軍のお偉いさん?でもそれやったらカーキ色の制服やろ?でも、海軍も海兵隊でもない…まさか)

 

「なるほど、あの戦いぶり…こちらの一員になる資格はあるな、シュタイナー少佐?」

 

「ええ、多少、荒いところはありますが、資格はあります。マクシミリアン中佐」

 

 資格?何のことだ?

 

「サー、あの…グリーンベレー方が私に何か……」

 

「おっと、自己紹介がまだだったな」

 

 ジョセフが戸惑いながら尋ねると、まだ二十代半ばを少し過ぎていると思われるスラっとした長身の男、階級が中佐と思われる男が名乗りを上げる。

 

「私は連邦陸軍第一特殊部隊デルタ分遣隊のマクシミリアン=テルミドール、中佐だ。そしてこちらは同じくデルタ分遣隊に所属している、シュタイナー=アデナウアー少佐だ」

 

 かなり落ち着き払い、かつ、親しい口調で、マクシミリアンは、隣にいる――こちらは三十代前半の大柄な男を紹介する。

 

「デルタ分遣隊?」

 

 果たしてそんな部隊があったか?

 

 ジョセフが訝しむように見ていると。

 

「ははは、まぁそんな顔するのも無理はない。我々は連邦政府には公式には存在が認められない特殊部隊だ。いや正確には陸軍特殊部隊群にD部隊ならあるかもというシラを切っている状態だ」

 

「その部隊が私に何の用があるのです?」

 

「私の部隊に入らないか?」

 

 マクシミリアンはジョセフにそう提案をする。

 

「……え?」

 

 ジョセフはあまりに突然の提案に硬直する。

 

「君には資格がある。先の戦いぶりを見て、それは確信した。幸い、デルタには一つ空きがある。そこに君が入隊してほしい」

 

 マクシミリアンは一呼吸置いて、言葉を続ける。

 

「それに、君は私達が持っている能力を持っている」

 

「能力?それって魔術のことですか?」

 

「いや、違う」

 

 マクシミリアンは否定する。

 

「確かに、君は魔術は使える。だが、君が持っている能力はそれとは似て非なるものだ。無論、私もシュタイナーも持っている」

 

 マクシミリアンは真っ直ぐこちらを見る。

 

 一体何なんだ?

 

「君と私達が持っている能力とは――」

 

 その言葉にジョセフは驚愕のあまり目を見開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオス=クライトス。クライトス伯爵家の御曹司にて、クライトス魔術学院で噂の名講師、帝国総合魔術学会の期待の新星。

 

 そんな人物の到来に、アルザーノ帝国魔術学院の面々はとにかく沸きに沸いた。

 

 どんな授業をするのだろう、どんな魔術を教えてくれるのだろう。

 

 その華々しい肩書きに、レオスへの期待は否応なく高まり…そして、レオスはそれに完璧に応えた。

 

 ところで、アルザーノ帝国魔術学院で行われている授業には、二種類の授業がある。

 

 必修講座と専門講座だ。

 

 必修講座とは、文字通り生徒達の誰もが必ず単位を修得しなくてはならない授業だ。魔術基礎理論に始まり、黒魔術学や白魔術学、錬金術実験、数理や生化といった各種自然理学にルーン語学…等々、魔術の基礎を広く学ぶための授業で、これは各クラスの担当講師が授業を行う。出席は必須ではなく、学期末に行う試験にさえ合格すれば単位修得可能なので、他所のクラスの担当講師の授業に潜り込んで履修することも可能だが、基本は自分のクラスの担当講師から必修授業を受けることになる。

 

 一方、専門講座とは、学院の各講師が独自に開設する講座であり、講師自身の専門分野の魔術や研究成果についての授業を行うことになり、その内容は基礎的な必修授業と比べて、より深く掘り下げたものになる。生徒達も年次クラスを問わず、講義を受けたい者が自由に選択して、専門講座を受けることになる。

 

 レオスはアルザーノ帝国魔術学院にやってくるなり、病欠のグラドム先生の担当クラスの必修授業を受け持つ傍ら、早速この専門講座を開設した。

 

 その専門講座とは――

 

「――これまでのツァイザーの魔力エネルギー変換効率式を解説してきたわけですが…これで、なぜ、帝国で採用されている軍用の攻性呪文のほとんどが『炎熱』、『冷気』、『電撃』の三属で占められるのか、皆さんも理解できたかと思います」

 

 魔術学院校舎西館、集まった生徒達で満員御礼な大講義室にて。

 

 期待と尊敬の眼差しを一身に集めながら、教壇に立ったレオスが教鞭を執っている。

 

 しん、と静まり返ったこの大部屋に、レオスのよく通る声が朗々と響き渡る。その声は明快で流暢でありながら、どこか甘く柔らかで、コラールのようだ。

 

 いかにも貴族然としたレオスの卓越した容姿も相まって、講義に参加した女子生徒達は夢見るような表情で、その声に聞き惚れていた。

 

 凛と背筋を伸ばした威風堂々たる姿、常に余裕の微笑みを絶やさないレオスは、年頃の少女にとってはまさに、幼い頃に夢見た理想の王子様の具現だ。

 

「そう、魔力を物理的な作用エネルギー…すなわち、物理作用力へと変換する際、『炎熱』、『冷気』、『電撃』の三属がもっとも変換効率が良いのです。つまり、もっとも効率良く施術対象に損害を与えることができる魔力の使い方と言えるのです」

 

 一方、レオスの容姿や声に興味ない男子生徒達もレオスの話に夢中で聞き入っている。そんな彼らを強烈に惹きつけているのは、やはり、その講義内容だ。

 

「ではここで、実際に皆さんもツァイザーの魔力エネルギー変換効率式を利用して、各呪文の物理作用力を算出評価してみてください…どうでしょうか?同じ構成規格の呪文、同じ消費魔力量で計算しても…『炎熱』、『冷気』、『電撃』の三属呪文は他の系統の攻性呪文と比べ、頭一つ飛び抜けて物理作用力値が高くなるでしょう?」

 

 レオスの開設したこの専門講座――その名は『軍用魔術概論』。

 

 レオスの専門分野が軍用魔術に関する研究である必定、レオスの開講する専門講座も当然、軍用魔術に関わるものとなったのである。

 

「逆に…例えば風系の攻性呪文を同様に計算してみてください…同条件でも三属に比べてかなり物理作用力値が低いのがおわかりいただけるかと思います。それもそのはず、風を巻き起こすには、魔力を重力へと変換し、気圧差を引き起こして気流の流れを作り、それから物理作用力を生み出されなければいけません。つまり、エネルギー損失がとても大きいのです。これが一般的に『風の攻性呪文は弱い』と揶揄される最大の理由です」

 

 軍用魔術とはもっともわかりやすい『魔術師の力』の象徴だ。強さや力に憧れる年頃の少年が、この手の話に夢中になってしまうのは当然のことなのである。

 

「仮に、10の魔力を使用したとします。その際、物理作用力の三属変換の理論的な極大値は、炎熱:冷気:電撃=約8.5:7.9:8.2。ツァイザーの三属比と呼ばれるこの比を、皆さんも是非頭に入れておいてください」

 

 無論、レオスも本当に軍用魔術の呪文そのものを生徒達に教えたりはしない。学院の生徒達――つまり第二階梯以下の魔術師は軍用魔術の習得が禁止されている。

 

 だからレオスが教えるのは、なぜ、現在の帝国軍の戦力を支える軍用魔術が今のような形へと進化してきたのか、一体、どういうコンセプトの下、様々な軍用魔術が生まれたのか、その各軍用魔術を支える根本的な理屈と概念だ。

 

「貴方達が攻性呪文を使用する際、この変換効率式と三属比に対する理解は、確実に魔力効率の最適化と威力向上に繋がるでしょう…それがたとえ【ショック・ボルト】のような初等の呪文であっても、ね」

 

 だが、それでもレオスの講義を理解すれば、現在の手持ちの呪文で、最大限に自身の戦闘能力的な意味においての実力向上に繋がるようになっている。レオスの話を聞いているだけで、生徒達は確実に強くなった気分にさせられる。

 

「ぉおおお…な、なるほど……ッ!」

 

「れ、レオス先生…素敵……」

 

 もう色んな意味で、男子生徒達も女子生徒達もレオスの講義に夢中だった。

 

 ただ、一人の生徒は内心冷め切っていたのだが。

 

「さて、これまでの講義で、現在の軍用魔術において『風の呪文』は弱い、そんな結論になるかと思いますが…それでも『風の呪文』はれっきとして現在も存在していますし、状況や作戦に応じて適宜運用されています。それはなぜか?…論ずるまでもなく、風の呪文には風の呪文成りの利点があるからなのですが……」

 

 と、その時、本日の講義時間の終了を伝える鐘が、遠くで鳴り響いた。

 

「……時間ですね。それでは次回の講義では、風の魔術の利点と、それらの軍における運用法についての話から始めましょう…ご静聴、ありがとうございました」

 

 レオスが優雅に一礼すると、講義室中から聴講者達の割れんばかりの拍手が上がった。

 

 よく見ると、聴講者達は生徒達ばかりではない。その中には勉強熱心な若手講師の姿もちらほら見えるし……

 

「……完璧だ」

 

 大講義室の後方で、ぽつりと漏れた感嘆の声。席の背もたれに身を預けて腕を組み、珍しく真剣な表情で聴講者に紛れていたグレンの姿もあった。

 

「レオス=クライトス…噂にゃ聞いていたが、確かにヤツはすげえ」

 

 この大講義室は緩く段差がついており、後方の席ほど高い位置にある。グレンは教壇に立つレオスの姿を遠くから見下ろしながら呟いた。

 

「軍の一般魔導兵の半分以上が、イマイチ理解してない物理作用力理論を、ぺーぺーの生徒達に完璧に理解させやがった…こんなやつがいたのか……」

 

「はい、本当にすごい授業でした……」

 

 グレンの右隣に座るルミアも感じ入ったように、グレンの言葉に首肯する。

 

「難しい理論が、私達にも理解できるようにとてもよくかみ砕いてあって、説明も理路整然としていて、とてもわかりやすかったです…まるで先生の授業みたい」

 

「わたしも、すごくよくわかった」

 

 グレンの左隣にちょこんと座るリィエルも、心なしか胸を張って呟く。

 

「ま、マジかよ?お前すらもアレ、わかっちまったのかよ?」

 

 ぎょっとしたグレンが、リィエルの横顔を思わず凝視する。

 

 こくり、と微かに頷くリィエル。

 

「ん。あいつの言っていることが…わたしには何一つわからないということが、すごくよくわかった」

 

「……お前は実に平常運転だな」

 

 やれやれと肩を竦め、グレンは再び教壇の方へ目を向ける。

 

 レオスの周囲には生徒達が大勢集まり、本日の講義の質問や食事への誘い、はたまたなんでもない世間話まで、てんやわんやの大騒ぎだ。

 

 レオスは、自分の下に集まってきたそんな生徒達の対応に追われている。嫌な顔一つしない。紳士然とした微笑を浮かべ、一人一人丁寧に対処している。

 

「……レオス=クライトス、か」

 

 そう、ぽつりと呟くグレンの顔はどこか渋く、苦々しいものだ。

 

 そして、もう一人も――

 

「気に入らないですね」

 

 ジョセフはかなり冷め切った様子でそう言い放った。

 

「あぁ、イケメンのくせに金持ちで、かつ性格も紳士という時点で、すれに処刑確定の大重罪判決間違いなしだな」

 

「いや…容姿の話ちゃいますけど……」

 

「わーてるって。気に入らねえのは俺も同じだ。確かにスゲェ授業をする。だが…いくらなんでも、この内容はまだ早過ぎだろ…ガキどもに教えるには……」

 

 グレンとジョセフは本日の講義内容を反芻する。

 

 グレンが魔術師としての総合的な力量向上を目指し、ルーン語の文法や術式構築技術、自然理学の魔術的な応用と理解、その他、魔術師に必要な幅広い知識を深める授業を展開するのに対し…レオスは魔術師としての戦闘能力・戦闘技術を高める一辺倒の授業だ。同じ理論・実践主義でも根本がまるで違う。

 

 いかに、効率よく魔力を破壊力に変換するか。いかに、効率よく人を殺傷するか。それら人殺しに特化した術を、どう運用するか。レオスは血腥い部分を言葉巧みに美化し、強大な魔術の力に対する華々しい一面のみを高々と歌い上げる。

 

 魔術を志す者のほとんどが、大なり小なり自己顕示欲の塊だ。普通の人間とは一線を画した自分、他者が持ちえない強大な力を持った自分というものに憧れ、そんな自分にひとり悦に入る…どんなに聖人君子な魔術師にも、そういった一面は存在する。

 

 だから、今日のレオスの授業は――まだ新米の魔術師に過ぎない生徒達には、さぞ麻薬のように心へ深く染み入ったことだろう。

 

 出来の良い生徒ならば、たとえ【ショック・ボルト】のような初等呪文でも、やり方次第で人を殺せることに気付いてしまったはずだ。

 

「……こいつらはまだ大きな力を持つ意味も、その行使がもたらす結果も、知識として知っているだけで、何一つ実感が伴っていないんだぞ……?あいつほどの魔術師にそれがわからないはずがないだろうに……」

 

「教えるなら、血腥いところも言っておいた方がいいのに……」

 

 不機嫌そうに頬杖をつくグレンと、ジョセフは悶々としていた。

 

「やっぱり、先生はこういう授業、あまり認めたくありませんか?」

 

 そんなグレンを気遣うように、ルミアが曖昧な笑みを浮かべながら、囁いた。

 

「……私も思ったんです。まだ、私達には…過ぎた力だなって」

 

「………」

 

「気をつけないといけませんよね…大きな力には。先生は常日頃、力の意味と使い方をよく考えろ、力に使われるな、と口を酸っぱくして仰ってますけど…今はなんとなく意味がわかる気がします」

 

 グレンはちらりとルミアを横目で流し見た。

 

「大丈夫ですよ、先生。少なくとも先生の教えを受けた生徒で間違える人は、きっといません。ご不安になるのは分かりますが、もっと私達を信じてください。ジョセフ君も力を行使した結果を実感してるから、皆を心配するのはわかるけど、ね?」

 

 そう言うルミアは、花のような笑顔で……

 

「……そうじゃないと困るで。あいつらには、ウチのようなことしてほしくないからな」

 

「……別に?」

 

 ジョセフが当然だと言わんばかりに言い、グレンは頬杖をつきながら、ばりばり頭をかきながら、そっぽを向いた。

 

「なんかあの噂のイケメンが、俺の思った以上にやるようだから、嫉妬してるだけだし。くっそ、天は二物を与えずって格言はどこ行った…二物どころか、あいつ四、五物あるじゃねーか、卑怯だぞ……ッ!」

 

 ふて腐れたようにぶつぶつ呟くグレンを前に、ルミアは聞かん坊の弟を優しく見守る姉のように、くすくす笑った。

 

 そして、グレンはルミアから逃げるように大きく身体を捻って、後ろの席へ振り返る。

 

「おい、白猫、よかったな!お前の将来の婿殿は実際、大したやつだぜ。お前、マジでいい買い物したな?」

 

「だ、だから、違うって言ってるのに……ッ!」

 

 グレンのちょうど真後ろの席に座っていたシスティーナは握り固めた拳を震わせ、いかにも不機嫌そうにグレンを睨み返す。

 

「違うって…何がだよ?あいつはお前の婚約者なんだろ?」

 

「確かに形式上はそうかもしれませんけど!」

 

「形式上はそうかもって…形式もくそも、両親が決めた許嫁とかガチじゃねーか」

 

「だから違います!あれは――」

 

 と、その時だ。

 

「やぁ、システィーナ」

 

 何かを言いかけたシスティーナに、穏やかな声がかけられる。

 

「あっ…レオス……」

 

「私の講義、聞きにきてくれたのですね?」

 

 見れば、生徒達からようやく解放されたらしいレオスが、柔和な笑みを浮かべ、システィーナの下へと歩み寄ってきていた。

 

「私の講義はどうでしたか?貴女の忌憚のない意見が聞きたいですね」

 

「え?その…とても素晴らしい講義だったわ。正直、文句のつけどころがない……」

 

「そうですか、それは良かった」

 

 レオスは嬉しそうに相好を崩した。

 

「貴女にそう言っていただけるのはとても嬉しいことです。なにせ…貴女はこの学院では『講師泣かせ』として有名なようですから」

 

「そっ…それは、その…あぅ……」

 

 悪戯っぽく笑うレオスに見つめられ、顔を赤らめて俯いてしまうシスティーナ。

 

 レオスは本当に見てて惚れ惚れするような美貌の持ち主だ。好意を寄せられ、その甘いマスクに微笑みかけられて、まだ恋愛の『れ』の字も知らない年頃の少女が浮つかないわけがない。別にシスティーナが尻軽だとかそういう話ではなく、恋愛経験の浅い初心な少女なら誰だってそうなるだろう。

 

「まずは、第一関門突破…といったところでしょうか?将来の伴侶すら納得させられない授業しかできない者など、貴女の夫に相応しくないでしょうしね」

 

「だっ、だからッ!そ、そういうことを人前で言うのは…ああ、もう!どうして貴方はそう昔から……」

 

「ふふ、それは貴女のことを愛しているから。別い隠し立てする必要なんてありません」

 

 その涼しげな容貌とは裏腹に、どこまでも情熱的なレオス。

 

 対するシスティーナは、レオスに主導権を握られっぱなしで、だじだじだ。

 

 完全にかやの外の住人と化したルミアは、心配そうに二人の動向を見守っている。

 

 そんなルミアを見て、ジョセフはルミアに囁く。

 

「なぁ、ルミア。やっぱりあのレオスに何かあると思うか?」

 

「……うーん、よくわからない。でも…なんだろう何かあの時と――」

 

「システィーナ。少し、外を一緒に歩きませんか?貴女と話したいことがあります」

 

 ルミアが何か言いかけた、その時。

 

 レオスが真摯な目を、システィーナに向ける。

 

 ちなみに、リィエルはとても眠そうに船をこいでおり…グレンに到っては、鬱陶しそうにあさっての方向を向いて素知らぬ振りだ。

 

「うぅ…それは、今でないと駄目なことなの……?」

 

「別に今でなくても構いません。でも、いずれ話さなければならない重要なことです」

 

 及び腰になるシスティーナ。そのレオスの真剣な表情に、これから散歩先でどのような話題が出てくるのか…薄々予想がついてしまったのだろう。

 

 しばらくの間、システィーナは迷うように、ルミアとレオスを見比べて……

 

「あの…ルミア。ごめん、私…ちょっと行ってくるね?」

 

「う、うん……」

 

 やがて、逃げても無駄だと判断したらしい。

 

 システィーナはレオスに伴われ、ルミアの前から去って行った。

 

「はぁ~~、あのレオスとかいう野郎も物好きだねぇ……」

 

 二人が去った後、グレンが興味なさそうに、欠伸しながら言う。

 

 すると。

 

「先生……」

 

 ルミアがほんの少しだけ、思い詰めたような表情でグレンに訴えかける。

 

「ふぁ…眠…んあ?どうした、ルミア?」

 

「一つお願いがあるんです。その…申し訳ないことなんですが……」

 

 ルミアがグレンに縋るような目を向ける。

 

「……ん?なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 





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