ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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多分、これで今年最後になりますね


43話

「うわぁ…カッシュ…どうしよう……」

 

「け、結構、たくさん来たぜ…俺達より全然数が多い……」

 

 中央の平原ルートで、ロッドとカイは、先頭に立つカッシュに不安げに言った。

 

「俺達、本当にここを押さえられるのか……?」

 

「簡単に突破されちまうんじゃ……」

 

「ま、先生の言うとおりやれば、なんとかなんだろ。命まで取られるわけでもねーし、気楽に行こうぜ?」

 

 何の遮蔽物もない原っぱで、段々近づいてくる敵影を前に、カッシュは剛胆に笑った。

 

 もうすぐ、彼我の距離は近距離魔術戦の間合いに入る。

 

 そして、カッシュ達は一週間のグレン授業にもう一度思いを馳せる――

 

 

 

 

「いいか?魔術を導入した戦術・戦法ってのは、魔術が導入される以前の兵法の常識がまったく通用しない…連邦軍を除いてな」

 

 魔術の戦場に英雄はいない――そう宣言した後、グレンはそう続けていた。

 

「適当に火や雷の呪文を使うだけで馬は恐れおののき、騎兵はまったく機能しなくなる。隊伍を組んでの弓兵、銃兵の一斉掃射もごく簡単な対抗呪文一つで防がれる。重装歩兵を並べて密集陣形でも組めば、広範囲破壊呪文を打ち込まれて呆気なく全滅だ…但し、連邦軍の場合、その限りではないが……」

 

 かつかつと、グレンは戦場図を黒板に描きながら、解説を続ける。

 

「魔術を使えない兵士ってのは、今は本当に敵魔導兵掃討後の拠点制圧、兵站活動や後方支援くらいにしか役に立たねーんだ。敵の魔導兵を相手に一般兵が立ち向かわなければならない状況というのは、捨て駒か敗北が確定した状況ということになる…但し、連邦軍は例外だがな…俺がお前らに教えるのは、近代戦争においてもっとも重要な戦力兵種である『魔導兵』の戦い方だ」

 

「あの、先生、ちょっといいですか?」

 

 グレンがとつとうと『魔導兵』の戦法について語ろうとした時、ジョセフが手を挙げる。

 

「何だ?」

 

「何でさっきから解説の締めの部分に連邦軍を除くとか、例外とか言うてはるんですか?」

 

「いや、なんでって…そりゃ、お前んとこ、今の常識全然通用しねーじゃん」

 

「そうなんですか?」

 

「だって、お前んとこの銃弾、対抗呪文で全然防ぐことできねーし、その上、やたらめったら銃弾が飛んでくるし、地形が変わるほど砲撃ぶちかましてくるし…ホントお前んとこ何なの?ブッ飛び過ぎだろ!?火力ゴリ押し軍団か!?」

 

 グレンの言うとおり、魔導兵が主力となった近代の戦争の中で、なぜか連邦軍の場合、これが通用しないのである。

 

 アメリカ連邦とレザリア王国との戦争で、連邦軍が投入した次世代の銃火器や火砲は戦場にて猛威を振るった。

 

 今までの戦争ではなかった銃弾の雨、数キロス先からの砲弾の雨は戦争を通して、連邦軍がレザリア王国軍との戦闘で優位に進めることができ、半年ほどで巨大宗教国家が、百年前にアルザーノ帝国から独立戦争で勝ち取り、独立を果たした新興国家に屈服させられることになった。

 

 対抗呪文も効かず、空から砲弾の雨が降り注ぐという隣国で起きた戦争の情報は帝国にも衝撃を以て伝えられていた。

 

 そのため、帝国はこれらに対抗できる軍用魔術を研究・開発するのが急務となっている。

 

 グレンがブッ飛び過ぎるというのもあながち間違いではない。

 

 ――閑話休題

 

「魔術戦には基本的に『近距離戦』、そして『遠距離戦』の二つのレンジがある。『近距離戦』は相手を目視できる距離で呪文を撃ち合う――つまり最前線で戦うレンジだ。逆に『遠距離戦』は相手を目視できない距離で、超長距離射程魔術で『近距離戦』に従事する魔導兵を援護するレンジだ。ただし、今回の魔導兵団戦では『遠距離戦』については考えなくていい。お前らの中でそんな大それた呪文を使えるやつは…まぁ、一人除いていねーからな」

 

 グレンは黒板の左に三つ、右に三つ、凸印を書いた。左は凸印間の間隔が大きく離れているが、右は密集している。どうやら凸印一つは魔導兵一人を現しているようだ。

 

「それにあくまで『基本的に』だからな?このレンジの話もそうだが、俺が今から話すことは状況や戦術に応じて例外なぞいくらでもあることを忘れんなよ?例えば、連邦軍とか連邦軍とか火力ゴリ押し軍団とか相手の場合はな。さて…話を戻して、もっとも主要なレンジである『近距離戦』についてだが……」

 

 どんだけ、連邦軍を恐れているんだよ……

 

 誰もがそう思っている中、グレンは右に密集した三つの凸印を、グレンは△を描いて繋ぐ。

 

「『近距離戦』の一戦術単位は三人一組が基本であり、攻撃前衛、防御前衛、支援後衛と三つのポジションがある。それぞれのポジションには役割が決まっており、攻撃前衛は攻性呪文による攻撃を担当し、防御前衛は対抗呪文による防御を担当し、支援後衛はは状況に応じた呪文を行使して、前衛二人の補佐を担当する。この三人一組を一戦術単位としてより集め、部隊を構成していく…現代の魔導兵戦術と部隊編成法のド基礎だ」

 

 一通り、ポジションと役割を黒板に記載したグレンが生徒に振り返る。

 

「この三人一組・一戦術単位編成の、一体何が優れているかと言えば、簡単な話、単純に強い。敵兵撃破確率も味方損耗率も、統計的にあらゆるスコアが優れている――例えば、三人一組の魔導兵が、三人の散兵である魔導兵と対峙した状況を考えてくれ」

 

 グレンが再び、黒板にチョークを走らせる。

 

「呪文が間断なく応酬される戦場で、敵味方同時に呪文を撃った瞬間があったとしよう。この瞬間、三人の散兵側は合計三つの攻性呪文を飛ばすが、あら不思議、三人一組側に被害はゼロだ。なぜなら、三人一組側の防御前衛が対抗呪文を飛ばしてるからな。三つの攻性呪文は、防御前衛の対抗呪文によってまとめて防がれた、というわけだ」

 

 左に並ぶ凸型から右に引っ張ってきた三本の→線に、×を書いていく。

 

「一方、三人の散兵側は一人やられちまうんだ。そりゃそうだろ?三人一組側の攻撃前衛が散兵側に向かって一発攻性呪文を撃ってるのに、散兵側は誰も対抗呪文を撃ってないんだ。対抗呪文なしに命を拾えるほど、現在の軍用魔術は甘くない」

 

 右に固まっている凸印から左に一本←線を引っ張り、左の凸印の一つに×をつける。

 

「そして、こいつを見てくれ。三人一組側のこいつ、支援後衛だ」

 

 グレンは右側に固まっている三つの凸印の一つに〇を描く。

 

「こいつ一人だけ、この微少時間の呪文応酬で何もやってない。余ってるんだ。こいつは状況に応じて何をやってもいい。攻撃や防御に参加してもいい、法医呪文や補助呪文で援護してもいい…それこそ状況に応じて柔軟に、だ」

 

 おおお、と生徒達の感嘆と納得の声が、あちこちから漏れる。

 

「ここまで聞けば、三人一組が三人の散兵に対してどれだけのアドバンテージを稼ぎ出せるかわかっただろ?な、ギイブル?」

 

「くっ……」

 

 にやにやと笑うグレンに話を振られ、ギイブルは悔しげに呻く。

 

「そうですね…同じ頭数のはずなのに、結果として戦況はまるで違う…一人で攻撃・防御・支援の三つの役割をこなす魔導兵を三人用意するより、その三つの役割にそれぞれ専念する魔導兵で三人一組組ませた方が、同じ頭数でも圧倒的に強く立ち回れる…そういうことですか?」

 

「その通り、さすが優等生。これは机上の空論じゃねえ。戦場における生存率、撃破数その他もろもろのデータで統計的に証明されている事実だ。…これを『魔導戦力の比較優位性』っていう。魔術が戦場で使われなかった時代には、なかった概念だ」

 

 ここまで聞いたギイブルは苦々しく顔をしかめた。

 

 ギイブルのような魔術師こそ使えない、魔術師の戦場に英雄はいない…ようやくグレンの言った意味がわかってきたのだ。

 

 この三人一組は運命共同体だ。一人の立ち回りに三人全員の命がかかっている。ギイブルのように我が強く、他者と足並みが揃えられない魔術師はチーム全員の足を引っ張り、チームの命を危険にさらす。そして、単騎で一騎当千の活躍はありえないのである。

 

 ちなみに連邦軍は敵との戦闘では、必ず集団で当たるように徹底されている。帝国軍が連邦軍とやりあったら勝てないとグレンが言ったのは、個々の戦闘力は帝国、レザリア王国の兵士に比べれば劣っているが、集団戦になるとこの二ヶ国よりも頭が一つ抜けているからである。それと単純に物量差があるのも一つなのだが。

 

 なるほど…そうだったのか……

 

 グレンの解説に、クラス中が納得したかのように頷いていた。

 

「ふん…わかりましたよ」

 

 ギイブルがふて腐れたように言う。

 

「我を捨てて三人一組を組め…周りと足並みを揃えろっていうんですね?」

 

 ギイブルは確かに我が強い少年だが、自分が理論的に納得したこと、理解したことについては素直に改めるという美点もある。それに従い、忌々しそうに言うが……

 

「……は?何言ってんの?お前」

 

 グレンがきょとんとした顔でギイブルを見る。

 

「お前らに三人一組・一戦術単位編成なんか無理に決まってんだろ」

 

 がくん、と。

 

 このあまりにも酷い肩透かしに、クラス中の生徒達が首を傾げた。

 

 ジョセフはくっくっと、笑っていたが。

 

「だって、三人一組・一戦術単位編成なんてプロの魔導兵が長期的に十分な訓練を受けて初めてできるようになる代物なんだぜ?特に支援後衛の動きの難しさときたらもう…少なくとも、たった数日そこそこで、お前らを使い物になる三人一組・一戦術単位に仕立て上げられる自信は俺にはねえ。…レオスの野郎は知らんがな」

 

「じゃ、じゃあどうしろっていうんですか!?ここまで偉そうに説明しておいて、一体なんなんですか、もう!?」

 

 流石に苛立ったギイブルが声を荒らげて、グレンを睨みつける。

 

「そんなん簡単な話やん」

 

 すると、ジョセフはくすくすと笑いながら、ギイブルに言う。

 

「三人一組・一戦術単位が無理なら――」

 

 

 

「≪雷精の紫電よ≫――ッ!」

 

「≪大いなる風よ≫――ッ!」

 

「≪白き冬の嵐よ≫ッ!」

 

 中央の戦場に、生徒達の呪文の叫びが木霊する。

 

 レオスのクラスの生徒達――総兵力数十八名、レオスに指導されたとおり、三人一組を組み、合計六戦術単位を構成。対峙するグレンの生徒達に攻勢をかける。

 

 グレンのクラスの生徒達に向かって電気線が走り、突風が吹き荒ぶ。

 

 対するグレンのクラスの生徒達――総兵力数十二名。圧倒的に頭数が足りない状況。

 

 練度・武装・地形条件が同じ場合、絶対に勝てないとされる兵力差は三倍。

 

 兵力差一・五倍は絶対的ではないが、それでも相当苦しい状況だ。

 

 まともにぶつかれば、グレンのクラスの生徒達は真綿で首を絞められるかのように、一人、また一人と順番にやられていくだろう。

 

 だが――

 

「≪大気の壁よ≫――ッ!」

 

「≪大気の壁よ≫――ッ!」

 

 レオス陣営が撃ってきた攻性呪文に対し、グレン陣営の生徒達は次々と黒魔【エア・スクリーン】――もっとも基本的な対抗呪文を起動し、空気障壁を広く張り、迫り来る突風を受け止め、飛んでくる紫電をそらし……

 

「頼む、カッシュ!今だ!」

 

「おうっ!≪虚空に叫べ・残響為るは・風霊の咆哮≫――ッ!」

 

「≪雷精の紫電よ≫――ッ!」

 

「≪大いなる風よ≫――ッ!」

 

 対抗呪文を唱えていた生徒達の隣に待機していた生徒達が、カッシュを筆頭に、次々と攻性呪文を唱えていく。

 

 カッシュが投げ放った圧縮空気球――黒魔【スタン・ボール】が、その他の生徒達が放った紫電や突風が、なぜかレオス側のチームと同じくらいの頻度で飛んでいく。

 

「な――ッ!?く、くそ、≪大気の壁よ≫――ッ!」

 

 レオス陣営の生徒達が泡を食って対抗呪文を唱える。

 

 ばんっ!音を立てて破裂する【スタン・ボール】。大気が激しく震え、振動する。

 

 これは敵側の防御前衛が張った空気障壁で防がれてしまったようだが……

 

「くそ!攻撃の手を休めるな!」

 

「≪雷精の紫電よ≫――ッ!」

 

「≪雷精の紫電よ≫――ッ!」

 

 気を取り直し、レオス陣営の生徒達が再び攻性呪文を断続的に撃ち返す。

 

 カッシュ達も負けじと攻性呪文を撃ち返し――

 

 それらを互いの防御役が次々と、対抗呪文で防いでいき――

 

 あっという間に、その場は二十数メトラほどの距離を開けた白熱の魔術戦場と化す。

 

「≪雷精の紫電よ≫ッ!ひるむな!対抗呪文は全部、防御役に任せるんだ!」

 

 吹き乱れる突風の余波にローブをはためかせながら、先頭に立ったカッシュが紫電を撃ち返しつつ、味方を鼓舞する。

 

「先生が言ってたろ!?三人一組を相手に完全に守りに回ると、三人が全員、攻撃前衛になって一気に押し切られるって!怖ぇけど、守りは後衛に任せて、前衛の俺達はとにかく撃ち返せッ!やつらに少しでも防御に手数を割かせろッ!」

 

「≪雷精の紫電よ≫――ッ!ったく、無茶な要求だなぁ!」

 

 ほんの一、二メトラ先に張られた空気障壁にぶつかる冷気や、突風、紫電を見て青ざめながら、ロッドとカイがぼやく。

 

「た、≪大気の壁よ≫――ッ!で、でも俺達、なんとか戦えてないか!?」

 

「≪雷精の紫電よ≫――ッ!そ、そうだな!向こうの方が全然、人数が多いのにな!」

 

「なんでだ!?」

 

「よ、よくわかんね!」

 

「なんでもいい!とにかく先生の指示があるまで、ここを持ちこたえさせるぞ!」

 

 カッシュの叫びに、頷き、気を引き締め合う生徒達。

 

 戦争はまだ始まったばかりである……。

 

 その時、グレン側の拠点では、平原の戦況を見てジョセフがほくそ笑んでいた。

 

「そう、三人一組・一戦術単位が無理なら、二人一組・一戦術単位で組めばいい」

 

 グレン陣営の生徒達は魔導兵運用の超基本、三人一組・一戦術単位を誰も組んでいない。攻撃前衛と防御後衛、その二つのポジションで構成される、シンプルな二人一組・一戦術単位を組んで、レオス陣営に立ち向かっていたのだ。

 

 中央平原の戦場において、レオス陣営は十八人、グレン陣営は十二人。

 

 一見、レオス陣営の方が頭数が上だが…しかし、それぞれ戦術単位数に換算すると互いに六戦術単位…つまり、互角である。

 

(確かに三人一組・一戦術単位は強い。二人一組・一戦術単位よりも統計的に敵撃破率・味方損耗率共に、優れている。そもそも二人一組・一戦術単位なんて、味方が損耗した状況で、三人一組が組めなくなった時の『仕方なく』やる戦術だ。だが――)

 

 すぐに、たったの数日でその強さを発揮できるわけではない。

 

(二人三脚と三人四脚、どちらがやりやすいかといえば当然、二人三脚のほうがやりやすい。つまり、いかにチーム内で息を合わせるかが重要になる現代の魔導兵の戦いでは、息を合わせやすい編成をしなければならない。そして、三人一組・一戦術単位より、二人一組・一戦術単位の方が息を合わせやすいし、訓練も簡単だ。要はこれはチームの練度の問題なのさ)

 

 レオスのクラスである四組の生徒達は一応、形にはなっているが、二組は初めから二人一組・一戦術単位のみを訓練していた。

 

 もし、レオスのクラス――四組がグレンと同じ二人一組・一戦術単位で臨んでいたら、恐らくこの魔導兵団戦はレオスの勝ちだっただろう。

 

 だが、グレン陣営の生徒達が二人一組・一戦術単位で、よどみなく攻守を切り替え、繰り返し呪文行使しているのに対し――レオス陣営の生徒達は三人一組・一戦術単位ではあるが、要所でどん臭く、攻守の切り替えがもたついている様子が多々ある。もっとも重要なポジションである支援後衛が有効的に動いてなかったリ、はたまた何もできず、手持ち無沙汰な者すらいる。

 

(三人一組は練度が極めてから本来の強さを発揮する。だが、この短期間の訓練でモノになるならばやはり二人一組の方が強いのさ…至って単純で合理的な話だ。レオスは論文や統計データを丸呑みしてしまい、実際にやるのは素人の生徒…そこを失念しているあたり、しょせんは研究者だったっていうことか)

 

 どんなに最新の武器を持ってたとしても、使いこなせなければ本来の強さは発揮できない。

 

 今の四組はまさにその状態だった。

 

 グレンやジョセフは不利な状況でも、なんとしても勝利を拾う…その嗅覚に優れていたからこそ二人一組を選んだ。

 

 対するレオスはデータや論文を読みあさり、魔導兵の戦術に関する造詣はグレンを圧倒的に上回るが…実戦経験がないため、それに裏打ちされたものではなかった。その結果、魔導戦術の教科書どおり三人一組を選択。

 

 その結果がこれだ。ややレオス陣営が押してはいるが…この頭数差で、この一進一退の互角の状況――通常あり得ない戦況になってしまっているのだ。

 

「さて…そろそろ仕掛けますか、先生?」

 

「そうだな…よーし、お前ら!行けッ!」

 

 どのルートでも戦況が拮抗しているのを遠見の魔術で確認するや否や、グレンは根拠地に残した予備戦力の生徒達全員に号令をかけた。

 

「森ルートと平原ルートにそれぞれ、援護に行くんだッ!レオスの野郎が対応しきれない今だけがチャンスだ!一人でも多く討ち取れッ!」

 

「ふっ、お見事な戦術眼ですわ、先生。まずは褒めて差し上げましょう」

 

 グレンの号令に応じ、ウェンディが手の甲を頬に当て、颯爽と立ち上がる。

 

「そしてご覧遊ばせ、わたくしの華麗な戦いを!さ、皆様、部隊長のわたくしについてきてくださいまし!」

 

 そう高飛車に言って、ウェンディはジョセフ含む数名の生徒を引きつれ、森方面へ意気揚々と出撃しようとし…びたーん、と躓いて転んでいた。

 

「………」

 

 ジョセフはそんな二人一組を組むことになったウェンディをジト目で見て。

 

「ホンマお前は、アレだな、うん、クイーン・オブ・ザ・ドジ、やな」

 

 苦笑いでそう言いながら、転んで涙目になっているウェンディに手を差し出す。

 

「ほれ、大丈夫や?」

 

「うぅ…だ、大丈夫ですわ……」

 

 そう涙目で言いながらウェンディはジョセフの手を取って立ち上がった。

 

「はい、というわけで、華麗な転倒をしないように気楽に行きましょう」

 

「華麗な転倒って何ですの!?華麗な転倒とは!?」

 

 ジョセフが茶化し半分で他の生徒にそう言うと、ウェンディはジョセフを激しくシェイクしながら、きぃーっと、捲し立てた。

 

(お前ら、じゃれ合ってて、仲が良いな)

 

 最早、この二人の名物になっているこの光景を見て、他の生徒は皆一致してこう思った。

 

 ――もう二人共、付き合っちまえ、と。

 

 そして、根拠地に残された生徒達は丘ルートを除き、各方面の戦場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ここいらで良かろう。

 次回は多分年明けになると思います。

 それではよいお年を。

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