ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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55話

 話は、ジョセフが回廊を抜ける少し前に遡る。

 

 今にも落ちてきそうな星空の下で。

 

 ついに彼方に果てが見え始めた≪星の回廊≫を駆け抜けながら――私は、一人物思う。

 

 それは、現在の私について、だ。

 

 …………。

 

 ……グレンと過ごす幸福な日々が、私を生まれ変わらせた。

 

 おかげで人でなしだった私も、多少の人間らしさを取り戻せたと思う。

 

 紆余曲折はあったが…私はグレンと過ごす今の時間が、とても好きだ。

 

 だが。

 

 私の奥底から聞こえてくる『内なる声』…謎の使命は、私を苛み続けていた。

 

 ――そんな家族ごっこを、やっている場合か?

 

 ――貴女には、私には為さねばならないことがあっただろう?

 

 ――使命を果たせ――一刻も早く使命を果たせ――

 

 相変わらず、まったく思い出せない使命の正体。

 

 だが、それ以上に、幸せな時間が続けば続くほど――

 

 一滴、また一滴と…じわじわと私を蝕んでいく毒のようなものがあった。

 

 私は――いつの間にか『病気』を患っていたのだ。

 

 それは、私が孤独だった頃には、想像もつかなかったものだ。

 

 偽りの強さを気取っていたかつての私なら、一笑のもとに割り切っただろう。

 

 そもそも、こんな『病気』を患うことすらなかったに違いない。

 

 今となっては――その『病気』は、感覚が蘇った分だけ、とても苦しくて――

 

 ――だから。

 

「私は…この先に行かねばならないんだ……ッ!」

 

 私は駆けながら、俯き加減の顔を上げ、前を見る。

 

 遥か前方に、最初にこの空間に至った時と同じような光の扉が、小さく見えた。

 

「……グレン……」

 

 行くな、と。連れ戻してこい、と。先刻の愛弟子の叫びが不意に耳に蘇る。

 

「……すまない」

 

 光の扉が…この≪星の回廊≫の出口が…どんどん大きくなっていき……

 

 そして。

 

「それでも、私は――」

 

 最早、迷いなく、その光の扉をくぐり抜け――その懐かしき向こう側へ――

 

 

 

 

 ジョセフとセリカが回廊を抜けた、そのほぼ同時刻。

 

 タウムの天文神殿最深部、大天象儀場にて。

 

 グレンはルミアのアシストを受け、黒魔【ファンクション・アナライズ】を起動する。

 

(ちっ…なんだこりゃ…?何が、ただの天象儀装置…だよ!?)

 

 今までは欠片も見当たらなかった膨大な術式が、天象儀装置の裏側に通っているのを目の当たりにし、グレンが驚愕と共に脂汗を垂らす。

 

 グレン達が使う魔術言語とは、似て非なる魔術言語で構築されたその術式は――

 

(近代魔術の魔術言語を『下位ルーン』とするなら…こいつは『上位ルーン』ってところか……?)

 

 そんな雑感を抱くが、的を射ているような気がした。文法や語彙的に、どうにも『下位ルーン』に足りないものを、『上位ルーン』は持っているような気がするからだ。

 

 それはともかく、これは歴史的瞬間だ。術式がない不思議な『魔法』――古代魔術最大の謎が、今、ルミアの能力によって、ただの『魔術』に堕とされたのだ。

 

 論文にして発表すれば、魔術学会を震撼させる歴史的な大発見になるだろう。

 

(ま、そんなことする気は、さらっさら、ねーがな……)

 

 それをするには、ルミアの存在と能力を表沙汰にしなければならない。そんなの不可能である。やろうとすれば、帝国政府から口封じの暗殺者が送られてくるレベルの話だ。

 

 それにこれはジョセフから聞いた話だが、ルミアが天の智慧研究会が欲しがるような能力を持っていることが連邦政府、特に中央情報局に知れ渡ったら、ルミアをどんな手を使ってでも連邦に『招待』するだろうと、聞かされている。

 

 この場合の『招待』とは、いい意味ではないことはグレンは理解していた。

 

 さて。グレンがざっと術式を流し見たところ、この天象儀装置には得体の知れない機能が山と眠っているようだが…今、それをいちいち解析している暇はないし、解析しようとしても数年単位の時間が必要だろう。付き合ってられない。

 

 グレンはシスティーナとルミアの証言をもとに、機械的にモノリスを操作し、先ほどと同じように光の扉を開いた。

 

 扉の先で何が起きるのか、何が待ち構えているのかはわからない。ゆえに、グレン達は様々な道具や生活用品を詰めた背嚢を背負い、恐る恐る光の扉をくぐる。

 

 すると、その先にあったのは――深淵の闇に煌めく無限の星々。

 

 神秘的かつ幻想的な、果てしなき大宇宙空間であった。

 

 扉と同じく光で構成された回廊が、消失点に向かって、延々と真っ直ぐ続いている。

 

 万が一、回廊から足を踏み外せば、渺茫たる星の海へどこまでも落ちていきそうだ。

 

(なるほどな…あの時、確かセリカは≪星の回廊≫とか呟いていたが…こりゃまた、随分と相応しいネーミングじゃねーか……)

 

 グレン達も、先刻セリカとジョセフが通り抜けたであろう≪星の回廊≫を進んでいき――

 

 そして――

 

 

 グレン達が≪星の回廊≫を踏破し、光の扉をくぐり抜けた先にて。

 

「な……」

 

 眼前に広がる光景に、グレンはただ呆然とするしかなかった。

 

 一行の背後で消失する扉の傍らに、小型のモノリスがある。大天象儀場のものと酷似したそのモノリスを、グレンは退路確保のため、何よりも先に調べなければならない。

 

 だが、そんな重大なことをグレンに忘れさせるくらい――その場所は異常だった。

 

 そこには、そこかしこに干からびた死体――無数のミイラが転がっていたのだ。

 

 しかも、皆一様に恐怖と無念の形相に、その顔を歪ませて――

 

「ひ――ッ!?」

 

 ミイラの存在に気付いたシスティーナが小さく悲鳴を上げ、グレンの腕に取り縋る。

 

 だが、グレンにも怯えるシスティーナを気遣うだけの精神的余裕がない。

 

「……な…なんなんだ…ここは……?」

 

 激しく動悸する心臓を押さえつつ、グレンは周囲の様子を改めて確認する。

 

 そこは天井、床、壁、全てが石造りの丁字路の真ん中であった。石のブロックを積んで建築されているため、タウムの天文神殿内ではないことは間違いない。

 

 そして、グレンは足下のミイラを恐る恐る検分する。

 

 その朽ちかけた独特な衣装と、手にした杖から察するに……

 

「……こいつら…魔術師か…?しかも、全員…?だが、この傷は……?」

 

 謎のミイラ達は例外なく、焼け焦げていたり、身体の一部を欠損していたりと外的損傷が激しかった。恐らくは、それらの外傷が生前の彼らの命を刈り取ったのだ。

 

 つまり、これは明らかに……

 

(……殺された?…誰に?かつて、ここで一体、何があった?このミイラ化具合から察するに…殺されてから相当経っているみたいだが……?)

 

 と、その時だ。

 

「……くっ」

 

 不意に感じた目眩と吐き気に、グレンが片膝をついて頭を押さえる。

 

 気分が悪い。空気が悪い。漂う濃厚な『死』の匂い。こうして、ここにいるだけで背筋から熱が奪われていくような…正気が、命が削られていくような気配……

 

 この階層には、何か良くないモノが充満している――

 

「くそ……」

 

 駄目だ。正直、恐ろしい。震えが止まらない。

 

 ここは――地獄。怨嗟と死の穢れに満ちた、呪われた空間だ。

 

 きっと、生きている人間が足を踏み入れていい場所ではなかったのだ。

 

 ここはマジでヤバい…来るんじゃなかった。

 

 己が理性とは関係なく、否応なしに、グレンの中で激しい後悔が渦巻いていくが――

 

「せ、先生……」

 

(そうだ…こいつらの前で、教師の俺が動揺を見せるわけにはいかねえ……ッ!)

 

 不安げにこちらを見つめている生徒達(約一名はいつも通りだが)を前に、グレンは小さく震える拳を強引に握り固め、下腹に気合を入れた。

 

「さぁて、行くぞ、お前ら!さっさとセリカとジョセフを探して、こんな辛気臭ぇとこ、オサラバしようぜ?」

 

 グレンが空元気で、明るく言った…その時だ。

 

 ずる、…り…、と。後方から何かが這うような音が響いた。

 

「――ッ!?」

 

 音に反応し、一同が咄嗟に振り返る。

 

 グレンが指先に灯した魔術の光を、その音がした方向へ向ける。

 

 すると、後方にある曲がり角から、長い金髪の女が這い出してくるのが見えた。

 

「セリカか!?おい、どうした!?しっかり――」

 

 グレンがその女に向かって駆けだして――その足は数歩で止まった。

 

 違う。セリカじゃない。

 

 ずるり。

 

 その女には…左腕がなかった。

 

 ずるり、ずるり……

 

 もっと言えば、その女には下半身もなく、干からびた臓腑を引きずっていた。

 

 ずるり、ずるり、ずる…り……

 

 女はそのまま、石像のように固まったグレン達に這いずりながら近付いてきて…幽鬼のように振り乱した髪の隙間から、グレン達を恨めしそうに見上げ……

 

 その眼窩に眼球はなく、無限の闇色が湛えられていて……

 

「きゃあああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

 システィーナの悲鳴が上がったのを皮切りに。

 

 ガササササササササ――ッ!

 

 女が右腕一本を物凄い勢いで動かし、ゴキブリの如き挙動と素早さで這い寄ってくる。

 

 金縛りに遭ったように硬直するグレンへ、右腕一本で跳躍し――

 

『憎イ――憎イ――憎ィイイイイイイイ――ッ!ァアアアアアアアア――ッ!』

 

 古木の洞を抜けるような金切り声を上げ、グレンに掴みかかってきた。

 

「ぐ――ッ!?」

 

 女の髪がまるで生き物のように伸び、瞬時にグレンの口を塞ぎ、首を締め上げる。

 

 痩せこけ、干からびたその顔をグレンに向け――

 

『アノ女サエ居ナケレバ――ッ!アノ裏切リ者サエ居ナケレバ――ッ!』

 

 女は眼窩から血の涙を流しながら、意味不明なことを口走ってグレンへ取り縋る。

 

(や、ヤベェ…これじゃ呪文が…ッ!?それにこの力……ッ!?)

 

 首に絡みついてくる女の髪の力は凄まじかった。今にも首の骨が折れそうだ。

 

「グレンから――離れて!」

 

 リィエルが即座に大剣を振りかざし、その女を切り伏せようとするが――

 

 突如、傍の壁から無数の手が生え、リィエルの全身に絡みついて――

 

 そのまま、無数の手は凄まじい勢いでリィエルを引っ張り、壁に叩き付けた。

 

「あ――ぐぅ……ッ!?」

 

 手の凄まじい膂力が、リィエルを壁に押さえつける。

 

 そのあまりもの負荷に、リィエルの身体がみしみしと悲鳴を上げた。

 

「い、…痛い…ッ!離し、て……」

 

「先生ッ!?リィエルッ!?くっ…≪光在れ・穢れを祓い――≫」

 

 慌ててシスティーナが、祓魔の浄化呪文を唱えようとする。

 

 だが、突如、システィーナの足下のミイラ達が動き出し、素早く彼女の足に取り縋り、彼女の背中に組み付いて――

 

「――ッ!?きゃああああああああ――ッ!?」

 

 死者に絡まれるその生理的嫌悪感が、彼女の集中と詠唱を中断させてしまう。

 

「嫌ッ!嫌ぁあああ――ッ!離してッ!離してぇええええ――ッ!」

 

 パニックに陥ってしまうシスティーナ。

 

 こうなると繊細な精神集中と魔力操作を要する魔術の行使は不可能だ。

 

 こうしている間にも、周囲のミイラ達が次々と動きだし、身を起こし始めている――

 

(くっそ、やべぇ――ッ!?このままじゃ――だが、どうする――ッ!?)

 

 グレンの心を絶望感が支配しかけた――その時だった。

 

「≪光在れ・穢れを祓い給え・清め給え≫」

 

 凛と、高らかに謳われた、祓魔の浄化呪文――白魔【ピュアリファイ・ライト】。

 

(――ルミア!?)

 

 見れば、ルミアが祈るように手を組み、呪文を完成させていた。

 

 そんなルミアも、どこからともなく現れた死霊達に全身を取り縋れている。

 

(あ、あんな状況で、呪文を唱えきったのか!?なんていう胆力――)

 

 グレンが驚愕に目を剥いた、その瞬間。

 

 ルミアの掲げた左手から神々しい光が発生し、周囲を明るく照らし――

 

 ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!?

 

 今度はミイラや亡霊たちが目を背け、苦しみ始める。

 

 縋り付く亡霊達を振り払い、ルミアは懐から香油の小瓶を取り出し――

 

「≪送り火よ・彼等を黄泉に導け・その旅路も照らし賜え≫」

 

 少しずつ垂らすように振りまかれる香油に、不意に炎が引火し、明るい橙色の聖なる炎が、轟と渦巻いて燃え上がった。

 

 それは、死者・悪霊のみを祓い清める浄化の火。

 

 辺りを荒れ狂う炎嵐は、グレン達に火傷一つ負わせることなく……

 

 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!?

 

 ……ァアアアアアアアアアアア……

 

 死者達だけを焼き尽くし、浄化消滅させていく。

 

 そして…訪れる静寂。

 

 その場のミイラや亡霊達は残らず消滅し、辺りの呪われた瘴気が清められていた。

 

「皆…大丈夫?」

 

「……あ、ありがとう…ルミア……」

 

「ん。助かった」

 

 システィーナとリィエルが、ルミアにお礼を言う。

 

「お…驚いたな…白魔【セイント・ファイア】…お前、そんな高位司祭が使うような高等浄化呪文を使えたのか……?」

 

 グレンは目を丸くして、ルミアを見つめていた。

 

「はい…昔、王室教育の一環として、お母さんから習ったんです……」

 

 そして、ルミアは大切そうに握りしめた香油の小瓶をグレンへ見せる。

 

「もっとも、私の腕ではこの香油を触媒にしないと、とても唱えられませんけど……」

 

 アレンシアの香油。死者に手向ける白い葬送花から精製される貴重な香油だ。

 

「ルミア、その香油って…こないだ、女王陛下――貴女の本当のお母様から、お守り代わりに貰ったものじゃない…それを……」

 

「いいの。皆を助けるためだもの。お母さんもきっと納得してくれるよ」

 

 気遣うようなシスティーナへ、くすりとルミアが笑いかける。

 

 そして、グレンへ向き直り、力強く言った。

 

「さぁ、先生。早くアルフォネア教授とジョセフ君を探しましょう?」

 

「……頼もしいな」

 

 グレンはルミアの頭に手を載せ、くしゃくしゃ撫でた。

 

「すまん。正直、ここの異様な雰囲気に呑まれてたわ。だが、もうあんな無様はやらねえ…安心してくれ」

 

「はい。…信じてます」

 

 そんな風に、穏やかに微笑み合う二人を前に。

 

「私…なんか、立つ瀬がない…どんどん差をつけられてるような……」

 

「?」

 

 システィーナがジト目で脂汗を垂らし、リィエルが不思議そうに小首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、もうっ!どんだけおんねんっ!?」

 

 ジョセフは、ミイラの首筋から鎌を引き抜きながら新手に向けてそう叫ぶ。

 

 あれから、周囲のミイラたちを殲滅した後、セリカらしき足跡を辿りながら進んでいるが、部屋や通路のそこかしこに、ミイラ化した魔術師がたまに動き出して、それに連動して亡霊も湧きだし、ジョセフを襲うものだからたまったものではなかった。

 

「バーゲンセールか!?開店早々おばちゃん達が我先にとコーナーに向かって商品を奪い合うバーゲンセールか!?」

 

 こんな状況にも関わらずジョセフは、そんなことを一人で言っている。

 

「だぁああああああ――ッ!お客様、道を開けてくださいませーっ!」

 

 ジョセフはミイラ達にそう言いながら、鎌をブーメランみたいに投擲する。

 

 ブォンブォン、と。音を立てながら、鎌はミイラと亡霊の集団を右から左へ刈り取っていく。

 

 そして、ミイラや亡霊は消滅していく。

 

 この巨大鎌は、対象の魂を死神の如く『刈り取る』ので、ミイラのような実体はもちろん、亡霊や狂霊のような物理的な効果が薄い対象にも充分な効果がある。

 

 さらに見た目は巨大なので一見重そうな武器なのだが、実はこの巨大鎌は、質量という概念がないという不思議な魔力を帯びた鎌だった。

 

 そのため、ジョセフはこの鎌を軽々と振り回していた。

 

 因みに、どういう原理でそうなっているのか、ジョセフもわからない。というのもこれは母、エヴァが生前使っていた武器でそれをジョセフが受け継いだだけであり、ジョセフはいつか聞こうとしたが、エヴァがもうこの世にいない以上、知りようがなかった。

 

 鎌を自分の周囲を薙ぎ倒すように振り回し、斬り上げて、縦に回転させて切り刻んだり、ブーメランのように投擲したり……

 

 まるで、暴風の如くジョセフが大暴れしているため、数に任せたミイラや亡霊の行進も、その前では何の意味もなさなかった。

 

 死してなお現世に縋る彼等は、巨大鎌によって片端から埋葬されていった。

 

「ハァ…ハァ…もう、二度と出てくるな……」

 

 一通り殲滅したジョセフは、再び歩を進める。

 

 幸い、行く先は迷わなかった。埃の積もった通路にはセリカのものと思しき、新しい足跡が残されていたからだ。通路を進み、部屋らしき空間を通り抜け、迷路のように複雑に入り組んだ通路をいくつも抜けていき、やがて現れた階段を降りる…その繰り返し。

 

(……しかし、教授、どこに行こうとしているのだろう?)

 

 セリカの足跡を追いながら、ジョセフの頭に疑問が浮かぶ。

 

 どうも、セリカの歩の進め方に迷いがないのだ。

 

 まるで、ここをよく知っているかのような…そんな進み方だ。

 

 疑問はそれだけではない。

 

 今、ジョセフがいるこの構造物は、どうやら無数の円形階層が上下に積み重なった…まるでコインを積み上げて作ったような『塔』のような建造物らしいのだが……

 

 ジョセフが、ちょうど階層の外周部分にさしかかり、テラスから外の様子を拝むと。

 

 びゅごお、びゅごお、とテラスを吹き抜ける冷たい風。

 

 いつの間にか、日は落ちたらしい――眼前に広がる果てしなき夜空。

 

 見上げれば、髑髏のように大きく真っ白な月。

 

「ここは、どこや……?」

 

 遥か下方の地上は遠すぎて、深淵に沈んで見えない。

 

 どうも、自分はとんでもない場所に飛ばされてしまったらしい。

 

「……早く教授を見つけないと…戻り方は教授が知っていそうだから聞いて…はぁ」

 

 ジョセフは、一向に追いつかないセリカを連れ戻すため、再び歩を進めようとした、その時。

 

「ジョセフ?おい、ジョセフか!?」

 

 後方から聞きなれた声がした。

 

「へ?まさか、先生?」

 

 その聞き慣れた声がする方向に振り返ると、そこにはグレンとシスティーナ、ルミア、リィエルがこちらに向かってきていた。

 

「ジョセフ君、大丈夫?怪我はない?」

 

「ああ、大丈夫やで、お宅らは?」

 

「皆大丈夫だわ。まったく、皆心配してたわよ?貴方はもう少し自分の身を大事にしなさいよ」

 

 システィーナからそう言われ、ジョセフは気まずそうに顔を逸らす。

 

「ジョセフ。その鎌、重そう。けど、綺麗」

 

 リィエルがジョセフが担いでいる巨大鎌を見て、そう言う。

 

「そういや、お前にしては珍しい色合いだな。いつもは真っ黒クロスケなのにな」

 

「いや、だってこれ、母から受け継いだもんですし」

 

「マジかよ…それはそうとして……(ていうか、その巨大鎌ってまさか……)」

 

 グレンは本題に入ろうとする。

 

「ジョセフ。セリカは?」

 

「まだ見つかってません。多分、この足跡を辿っていったらそこに教授がいるかもしれません」

 

 そうか、と呟きながら、グレンはテラスから頭を出す。

 

「それにしても…どこだよ、ここ……?」

 

 グレンもジョセフと同じ感想を言う。

 

「そもそも、この『塔』は一体、どういう施設なんでしょうか……?」

 

 ルミアの素朴な疑問に、グレンとジョセフは答えられない。

 

 確かにこの『塔』は、訪れる者を拒むかのように、まるで迷宮のように複雑に入り組んだ構造になっているが…同時に住居のような部屋や区画も多々ある。少なくとも、かつてここに人が暮らしていたであろうことは…様々な痕跡から間違いないだろう。

 

 迷路であり、町でもある――相変わらず古代人の考えていることはよくわからない。

 

 そして――

 

「……うげ……」

 

「うっそだろ、おい……」

 

 相も変わらず、部屋や通路のそこかしこに、ミイラ化した魔術師の死体が折り重なっている。どれも外的原因で激しく損壊しているのは同じだ。

 

「しかも、また動き始めてるよー、もう……」

 

 ジョセフは頭を抱えて、やがて鎌を構える。

 

 姿勢も低くし、足に力を入れる。

 

「んじゃ、ちょっくら、バーゲンセール閉店のお知らせをしてきます」

 

「いや、バーゲンセールってお前……」

 

 そして、ジョセフは一気にミイラ・亡霊達に突っ込んでいく。

 

 ジョセフはまず、ミイラの首を刎ね飛ばし、回転しながら鎌でミイラ達を薙ぎ倒す。

 

「ふっ――」

 

 ジョセフは身体を捻り、鎌ごと縦回転し、目の前の亡霊とその後ろにいるミイラも真っ二つに切り裂く。

 

 それから、ジョセフは目の前のミイラ達を次々と薙ぎ倒していく。

 

「……敵に回したくねえ……」

 

「……なんか…教授もだけど、ジョセフもつくづく規格外ね……」

 

「う、うん…なんか、凄いね……」

 

 そんなジョセフの姿をグレンとシスティーナとルミアが頬を引きつらせながら、脂汗を垂らす。

 

 そして、リィエルは。

 

「ん。負けてられない」

 

 大剣を錬成し、ジョセフに続き、ミイラ達に突っ込んでいく。

 

 そして――

 

「いいいいいいいやぁああああああああああ――ッ!」

 

 リィエルの剣が――

 

「お客様、もう閉店でございまーすっ!」

 

 ジョセフの巨大鎌が――

 

「≪拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを≫――ルミア、今よ!」

 

 システィーナの魔術が――

 

「うん!≪送り火よ・彼等を黄泉に導け・その旅路を照らし賜え≫!」

 

 ルミアの浄化呪文が――ミイラ達を片端から蹴散らしていく。

 

 ジョセフが死神の如く、ミイラ達や亡霊の魂を刈り取っていく。

 

 リィエルの剣がミイラ達を文字通り吹き飛ばしている間に、システィーナが風の呪文でミイラ達の動きを封じ、ルミアがその風に香油を垂らし、浄化の焔をのせる。

 

 暴風に煽られた聖炎が燃え上がり、通路を埋め尽くすミイラ達を優しく包み込み、浄化して、浄化して、浄化し尽くす。

 

 数に任せたミイラや亡霊の行進も、これにはひとたまりもない。

 

 死してなお現世に縋る彼等は、彼女達の手によって片端から埋葬されていった。

 

「なんつーか…お前ら、すげぇな……」

 

 死神の如く魂を刈り取り、鬼神の如く暴れるジョセフはともかく、ルミア、システィーナ、リィエルの成長ぶりは凄いものだった。

 

 

 ルミアの胆力は本当に驚嘆の一言に尽きた。まだ技術は拙いが、たとえ死が目前に迫る状況でも、冷静に呪文を括れる強靭な精神力――軍でもこの境地の者は滅多にいない。

 

 反面、システィーナはまだ精神面では甘いが、状況に応じた柔軟な呪文行使は、一行の危機を何度も救った。技術面はやはり無二のセンスを感じる。

 

 そして、グレンが一番、驚いたのはリィエルだ。

 

 魔導士時代のリィエルは自分勝手に猪突猛進、全力全開で戦うだけだった。

 

 だが、今のリィエルはグレンと足並みを合わせ、ルミアやシスティーナを守り、その呪文行使の時間を稼ぎ…周囲との連携を意識しているような節がある。以前のリィエルからは考えられない進歩だ。

 

 この『塔』にやって来て以来、ジョセフと合流し、セリカを追って大分、奥まで進んでいる。

 

 グレン一人では、とてもここまで進めなかったのは…紛れもない事実だ。

 

(こりゃ、案外、俺がお役ご免になる日は近いのかもな……)

 

 微かに苦笑いしながら、グレンは生徒達を引きつれ、先へと進む……

 

 




今回はミシガン州です。

人口996万人。州都ランシング。主な都市にデトロイト、グランドラピッズ、アナーバー、ランシング、フリント、サギノー、カラマズー、マスキーゴン、バトルクリークです。

愛称は、五大湖の州、もしくはクズリの州です。

26番目に加入しました。
 
モーターシティと呼ばれたデトロイトのある州です。

日本では廃墟ビルや荒廃したスラムなどリアルロボコップ化しているイメージが強いです。

しかし、都市圏人口は増加しており、年間1600万人の観光客が訪れるなど世間のイメージほど実態が酷いわけではありません。しかし、肝心の市街地の空洞化は進む一方で、犯罪率は相変わらず高いです。

また、デトロイトは反日感情が強く、日本人が気軽に旅行すべき場所ではないかもしれません。日米貿易摩擦で打撃を被ったっていうのもあるのかもしれませんが。

一方、ミシガン州自体はミシガン湖とヒューロン湖に囲まれ、森林と湖沼が綺麗な州です。

州内第二の都市、グランドラピッズは伝統的に家具産業で有名で、特にスチールケース社などオフィス家具の大企業本社が4社もあります。

衰退の一途を辿るデトロイト市街とは裏腹に、こっちは治安も良く人口が増加しています。
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