ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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57話

「……ぅ…ぁ……」

 

 自分の首筋に感じる冷たい感覚に、セリカがおののく。

 

 指一本動かすことすら一苦労する今のセリカには、最早為す術がない。

 

『見込み違いだったか…今の汝に我が主たる資格無し…神妙に逝ね』

 

「………ッ!?」

 

 セリカは自分の首のすぐ側にある刃の刃を呆然と見る。

 

 この魔人がそっと刀を引くだけで、セリカの首はころりと綺麗に落ちるのだろう。

 

 ……終わる。

 

 長すぎる生に疲れ、あれだけ待ち望んだ終焉が眼前に迫っている。

 

 だが。

 

 死を前にして、セリカの脳裏に浮かぶのは――グレンと過ごした、このほんの十数年間の、他愛もない出来事ばかりだ。

 

「……あ」

 

 こんなこと、今までの四百年間の中で一度たりとも思ったことはなかった。その逆のことは散々思ったのに、事ここに至り、どうしてそんなことを思ってしまうのか。

 

 すなわち――

 

「……死にたく…ない……」

 

 はっきりと自覚した瞬間、セリカの目から涙が、ぼろぼろと零れ落ちる。

 

「……い、嫌だ…まだ…私は……」

 

 こんな所で、こんなとこで、死んでしまうなら。

 

 私は、一体、何のために――

 

『いと卑し』

 

 そんな無様なセリカの呟きを一蹴し、魔人が刃を引き始め――

 

(……助け、て…グレン……ッ!)

 

 思わず、そんな事を思ったセリカが固く目を瞑り――

 

 その冷たい刃が彼女の首筋に触れかけた――

 

 まさに、その瞬間。

 

「っざっけんな、クソがぁああああああああああああああああああああ――ッ!」

 

 咆哮する六連の銃声と共に、空間を過ぎる六閃の火線。

 

 グレンの拳銃早撃ちからの連続掃射だ。

 

『ぬ――ッ!?』

 

 不意打ちが効を奏し、最初の一発の弾丸が魔人の心臓部を射貫き――

 

 その刹那、神速旋回する双刀、躍る五条の剣線。

 

 それはまさに超反応、電光石火の絶技。魔人は飛来する残りの五発の弾丸を、瞬時に全て弾き返し――天井高く跳躍して、グレンから大きく跳び下がった。

 

「大丈夫か、セリカッ!」

 

 その隙に、グレンが倒れ伏せるセリカを背後に庇うように、魔人と相対する。

 

 セリカからは返事がない。どうやら気絶してしまったようだ。

 

『なんだ、その妙な武器は……?』

 

 そして、魔人がグレンを警戒し、注意深く刀を構える。

 

『爆裂の魔術で鉛玉を飛ばす魔導器か?猪口才な…二度はないと思え……』

 

 魔人は健在だった。なんのダメージもなかったような雰囲気だ。

 

「畜生、なんで倒れねえんだよ!?心臓をブチ抜いてやったってのにッ!」

 

 身を焦がす焦燥に急かされるように、グレンは弾切れの拳銃のバレルウェッジを引き抜き、グリップとバレルを分離、空のシリンダー落とし、予備のシリンダーを――

 

 だが、グレンの弾倉交換を大人しく待ってくれる筈もなく。

 

『よかろう!愚者の牙で何処まで抗えるか、存分に試すがいい!』

 

 真空すら引き裂く速度、ただの一足で魔人はグレンとの間合いを消し飛ばす――

 

(やべぇ……ッ!?)

 

 拳銃の再装填は余裕に間に合わない。

 

 すでに魔人は、グレンを二振りの魔刀の間合いへ捉えている。

 

 無残にも、グレンが幾つかの肉塊に解体されようとしていた――

 

 その瞬間。

 

「システィ!」

 

「≪集え暴風・戦鎚となりて・撃ち据えよ≫――ッ!」

 

 システィーナが矢継ぎ早に呪文を叫んでいた。

 

 その隣にはルミアが寄り添い、システィーナの左手に手を添えている。

 

 システィーナの黒魔【ブラスト・ブロウ】が、グレンへ肉薄する魔人を迎え撃った。

 

 ルミアの『感応増幅能力』を載せた風の戦鎚の威力は、もう壮絶だった。

 

 破滅的な衝撃波を周囲にまき散らしながら、風の戦鎚が猛然と魔人に迫る――

 

 が――

 

『……児戯』

 

 それすらも、魔人が振るう左手の刀に触れた瞬間、霧散してしまう――魔人のローブをバサバサとはためかせたのは、ただの強めのそよ風だ。

 

「嘘!?ルミアの力を載せても駄目なの!?」

 

 システィーナが絶望的な悲鳴を上げるが――

 

「問題ない――いいいいやぁあああああああああああああ――ッ!」

 

 その隙に、烈風のごとく魔人へ襲いかかったリィエル渾身の斬撃が、魔人に肉薄する。

 

 だが、魔人の反応は、天翔ける雷光よりも速い。

 

 魔人はその斬撃を左の魔刀で受け、返す右の魔刀でリィエルを斬り伏せようとして――

 

『ぬ――ッ!?』

 

 リィエルの剣が、急にボロボロと崩れて宙を舞い、一瞬、魔人の視界を遮った。

 

 リィエルの大剣は、錬金術によって遺跡の外の岩くれから錬成したものだ。

 

 魔人の持つ左手の刀が、触れた魔術を無効化する――

 

 なんとなくそれを察したリィエルは、直感的にそれを利用したのだ。

 

 宙を舞う岩くれで魔人の視界が塞がったのは――ほんの一瞬、されど一瞬。

 

 本命の一手は――

 

「でぇやぁあああああああああああ――ッ!」

 

 リィエルの背後から追い抜くように出てきたジョセフの大鎌だ。

 

 姿勢を低くしたまま、鎌の切っ先を魔人の右腰から入るように、直前で自身を竜巻の如く回転する勢いで、魔人の右腰から左肩にかけて――バッサリと。

 

『ぬぐ――ッ!?』

 

 半瞬遅れて巻き起こった剣圧が、ビュゴオと周囲を駆け抜ける。

 

 ……普通なら終わりだ。

 

 あんな猛烈な斬撃をモロに食らって、生きていられるわけがない。即死だ。

 

 だが――案の定――

 

『――見事なり』

 

 ふわり、と。

 

 グレン達から遠く離れた場所に、余裕の動作で降り立つその魔人。

 

『真逆、愚者の民草らに、二つ持って行かれるとは…未だ我も未熟、か……』

 

 魔人は再び双刀を油断無く構えながら、一歩一歩、グレン達の下へ……

 

 その挙措には、やはり何の影響もない。負傷がまったく見えない。

 

(ふーむ、手応えはあったんやけどな……)

 

「お前、ちょっと働き過ぎじゃね…?もう休んどけよ……」

 

 ようやく再装填を終えた拳銃を構えながら、グレンが虚勢の軽口を叩く。

 

 冷や汗を全身滝のように流しながら、グレンは脳内で魔人の情報をまとめ上げる。

 

 魔人の左手の魔刀は、触れただけであらゆる魔術を問答無用で無効化するらしい。それだけに、魔術的な手段では、まったく対策ができない。

 

 魔人の右手の魔刀は、微かに傷をつけられただけでも戦闘不能に追い込まれるようだ。恐らく、魂に干渉する魔力なのだろう。単純なだけに強力無比、厄介極まりない。

 

 そして、いくら致命傷を負っても死なない不死性と、魔人本人の圧倒的な武が、その二振りの刀の特性を最大限に引き出している。

 

(要するに…こいつは究極の魔術師殺しってことだ……ッ!)

 

 強過ぎる。攻守にはまったく隙がない。

 

 特にグレンとは相性最悪で、まるで勝てる気がしない。

 

『……行くぞ、愚者の子らよ。我が攻勢捌いて見せよ…≪■■■――≫……』

 

 さらに…それは、如何なる術式なのか。

 

 魔人が聞き慣れない響きの言葉を呟き始めると、頭上に、まるで太陽の如く燃え輝く球体が形成されていき、その場をまるで昼間のように明るく、眩く照らす――

 

 馬鹿げた熱量があの球体に封じられているのがわかる。それはまるで灼熱の太陽。セリカのお得意の火力呪文、黒魔【インフェルノ・フレア】程度の比ではない――

 

「うげッ!?マジかよ……ッ!?」

 

「う、嘘だろ…お前、どっからそんな魔力をひねり出した……ッ!?」

 

 唖然とするジョセフとグレン。確かに魔人は強敵だが、それでもその術は度が過ぎていた。

 

(あいつ自身も、得体の知れない魔術を使える――反則かよ!?このヤロウッ!)

 

 その刹那、グレンは愚者のアルカナを取り出しかけ――迷った。

 

 魔人のあの術は、まだ魔力を操作している段階…恐らく起動前だ。

 

 ならば、まだ間に合う。グレンの固有魔術【愚者の世界】で封殺できるはず。

 

(だが――今、アレを封殺してどうする?その後は!?)

 

 残る戦力は、グレンの拳闘と銃、リィエルの剣技、ジョセフの大鎌と銃とトマホーク、それだけだ。

 

 グレン達は全員、魔術を失い、その瞬間、ルミアの能力も意味も失う。

 

 この一瞬はしのげるが、こちらの戦力もガタ落ち――どの道、詰む。

 

 それが、グレンの【愚者の世界】の行使をほんの一瞬、躊躇わせ――

 

『≪――■■■■≫…逝ね』

 

 そのほんの一瞬で、魔人の謎の魔術が完成してしまった。

 

「しまっ――」

 

 カッ!魔人の頭上で一際強く輝き始める太陽。

 

 灼熱の極光が、グレン達の視界を灼き、全てを呑み込み、焼き尽くそうと――

 

 ………。

 

「……え?」

 

 焼き尽くそうとした、その時。

 

 ……いつの間にか、世界が音と色を失い、モノクロ調に染まっていた。

 

 魔人も、その頭上の太陽さえも…停止している。

 

 全てが灰色となった無音の世界で、音と色を失わずにいるのは、グレン達だけだ。

 

「これは……?」

 

「な、なんだこれ……?」

 

「先生…?こ、これは…?一体、何が起きて……?」

 

 あまりにも不可解な現象に、グレン達が戸惑っていると。

 

『……貴方達。こっちよ。早く来なさい』

 

 不意に背後から響いてきた声に、グレン達が一斉に振り返る。

 

 そして、一同は息を呑んだ。

 

「!」

 

「な――」

 

『この状態はそう長く保たないわ。急いでこの場を離れるわよ』

 

 そこにいたのは――少女だった。

 

 燃え尽きた灰のように真っ白な髪、暗く淀んだ赤珊瑚色の瞳、身に纏う極薄の衣。

 

 そして、その背中に生えている――この世に属するモノとは思えない。異形の翼。

 

『何をぼうっとしているの、早く。あいつはこの聖域に足を踏み入れた愚者の民を許さない。地獄の果てまで追ってくるわ。だから――』

 

「お、お前は――ッ!?」

 

 グレンはその少女に見覚えがあった。

 

「先生、知ってるのか?この人の事」

 

「第一祭儀場の、天空の双生児像の所にいた――幻覚じゃなかったのか!?」

 

『……ふん。人間って本当に蒙昧ね。辻妻の合わないことは、すぐ自分で自分を騙して流す、現実を現実のまま捉えようとしない…愚かなことだわ』

 

 蔑むような昏い目でグレンを睥睨し、鼻を鳴らす少女。

 

(天空の双生児像で見たって、先生が一人で中の様子を確認した時のことか?いや、それよりもこの女――)

 

「ね…ねぇ…貴女…なんなの……?」

 

 システィーナが震えながら、少女に問う。

 

「どういう…ことなの…?貴女、どうして…そんな姿を…ッ!?」

 

 その問いは、システィーナに限った話ではない。

 

 その場の誰もが等しく抱いた問だった。

 

「貴女…どうして…?どうして、ルミアと同じ顔なのよ……ッ!?」

 

 震えるシスティーナが指摘するとおり。

 

 その異形の少女の顔は――ルミアとうり二つであった。

 

 

 

 

『……私?そうね、今はナムルスとでも名乗るわ』

 

 ルミアそっくりの異形の少女の手引きによって、闘技場を脱したグレン達。

 

 焦燥に追い立てられるままに足を動かし、魔人からかなりの距離を稼ぎ、一安堵して。

 

 すると、当然、誰もが抱いていた疑問に、その少女はそんな風に答えていた。

 

「……名無し、ね」

 

 そのあらかさまな偽名に、グレンは呆れたように嘆息する。

 

 あの全てが停止した灰色の世界はいつの間にか元に戻り、辺りは魔術の光だけが頼りとなる相変わらずの暗黒の世界だ。

 

 グレンは気絶したセリカを背負い、一行を先導するナムルスに続く。

 

 ルミアがグレンに寄り添い、システィーナがグレンの後をおっかなびっくり追う。

 

 一行の殿を務めるリィエルは、油断なく背後に注意を払っていた…眠そうに。

 

 そして、ジョセフはそのリィエルを援護するようにシスティーナとリィエルの間に位置して、大鎌を解除し、短機関銃――アナイアレーターを構えながら、後方を警戒する。

 

 貴方達を助ける、ついてきなさい――そう語った異形の少女、ナムルス。

 

 信用できるかできないかで言えば、信用できるとは思う。

 

 グレン達を害するつもりならば、わざわざあの状況でグレン達を助けには入らない。それを得たいのしれない力を使ってまで助けに入るあたり、この少女が言葉通り、グレン達を助けようとしていることは…間違いないはずだ。

 

 だが――

 

「なぁ、…お前、何者なんだ?その変な翼はなんだ?お前、なんで俺達を助ける?さっきのヤバげな魔人と、俺達を救った灰色の世界はなんだ?お前、なんで俺達のこと知ってるんだ?なぁ?お前、なんでルミアとそっくりなんだよ?何か関係があんのか?」

 

(先生、質問しすぎや……)

 

『…………』

 

 ナムルスと名乗る少女は、グレンの問いに対し、頑なに完全沈黙を決め込んでいた。

 

 ただ、その鬱屈した目で、ちらりとグレンを一瞥するだけ。

 

 まさに、沼に杭を打っているような気分。

 

 何を尋ねても、少女に関する情報は、まったく得られそうになかった。

 

「ちっ…可愛げのないやつだな……」

 

 せなかの異形の翼を除けば、その見た目は本当にルミアそっくりだ。

 

 だが、その目つきと態度はまるで違う。世を儚み、失望し、擦れてしまったルミアというべきか…ナムルスは、どうにも鼻につく陰鬱で退廃的な空気を放っている。

 

「ったく、そっくりでも誰かさんとは大違いだぜ…そんなんじゃモテねえぞ?」

 

 すると、意外にもそれを不服と感じたらしいナムルスが反論した。

 

『随分な言葉ね。別に、私は意地悪で貴方達に何も語らないわけじゃないわ』

 

「……どーいうことだよ?」

 

「言わないんやなくて、言えないんやろ?ナムルスさん?」

 

『そう、彼の言うとおり、言わないんじゃなくて、言えないの。貴方達が今、抱いているであろう疑問にいちいち答えていたら、後々大変な事になるから』

 

「はぁ……?」

 

 

『時に知ることが最悪の事態を、知らないことが最良の結果を招くこともある。そもそも、私は本来、こうして貴方達の前に姿を現すつもりもなかった。私が貴方達へできるのは最低限の手助けだけ…理解した?』

 

 姿を現すつもりはなかった…と語るわりには。

 

 数日前、一人で行動するグレンの前に、姿を見せていたような気もするのだが。

 

(姿を現すつもりはないと言いながらそれでも出てきたというのは、先生がここで死ぬのは彼女にとって都合が悪い、ということなのか?)

 

「……ったく、まったくわけわからんぞ、この偽ルミアめ」

 

『そう。じゃあ、一つだけ教えてあげるわ。…この私について』

 

 すると、ナムルスが訥々と語り始めた。

 

『今の私は、世界各地の遺跡に通う霊脈に縋り付く残留思念みたいなもの。肉体は失って久しいわね。だから、この姿は実体のように見えて実体じゃないの。そうね…先ほど、貴方は私を幻覚と評したけど…思えば、それ、強ち間違いでもないわ』

 

 顔をしかめて、嘆息するしかないグレン。

 

 そうじゃない。知りたいことは、聞きたいことは、そうじゃないのだ。

 

『遺跡の霊脈に縋り付く思念体がゆえに、私はこの国の遺跡ならどこでも姿を現せるわ。これが私の正体。…どう?参考になった?』

 

「へーいへい、スッゲェ参考になったわー、もういいわ、ド畜生」

 

 まさに時間の無駄。グレンは忌々しそうに舌打ちするのであった。

 

「駄目ですよ、先生。ナムルスさんにそんな態度取っちゃ……」

 

「おいおい、ルミア。こんなクソ怪しいやつの肩なんか持たないでくれよ……」

 

 グレンは、相変わらずのルミアのお人好しぶりに、ため息を吐くしかない。

 

「大体、見ろよ、こいつのこのグロ羽。なんだこりゃ?見てて吐き気しねえか?」

 

 グレンが気味悪そうにナムルスの背中の異形の翼を一瞥するが――

 

「え、ええと?…ぐろい…ですか?確かにちょっと変わっていますが……」

 

「……蝶々みたいな翼やけど?」

 

「先生、気が立ち過ぎ。グロいは言い過ぎ。むしろ、蝶々みたいで綺麗じゃない」

 

 ルミアとジョセフが小首を傾げ、システィーナがジト目でグレンの物言いを非難した。

 

「はぁ!?綺麗!?この捻じれた深海魚みたいな翼が!?お前ら、頭大丈夫か!?」

 

「……先生こそ、何言ってるのよ…目、大丈夫?」

 

 なにやら、言い争いを始めるグレンとシスティーナを尻目に……

 

「ごめんなさい、ナムルスさん。今、先生は私達を助けるために必死で、余裕がないんです。普段の先生はもっと優しい人なんですよ?」

 

『知ってる』

 

 申し訳なさそうに言うルミアに、なぜか、ナムルスはそんな答えを返した。

 

「それよりも、お礼がまだでしたね…どうもありがとうございます、ナムルスさん。私達のことを助けてくれて」

 

 すると…ナムルスがふと、足を止め、ルミアへと振り向いた。

 

 一行もまた、それに釣られて足を止めた。

 

「ナムルスさんがどうして私と同じ姿をしているのかわからないけど…同じ姿をしているからかもしれないけど…私、なんだか貴女が他人のような気がしないんです」

 

『…………』

 

「ひょっとしたら、私達、前世で姉妹か何かだったのかもしれませんね?」

 

 それは、別に媚び売りでもお世辞でもなんもなかった。

 

 ルミアが心から感じたことを、そのまま伝えただけだった。

 

 ……だが、ナムルスはそんなルミアに、すっと身を寄せて……

 

『私はね…貴女のことが大嫌いよ、ルミア』

 

 敵意と憎悪に満ちた表情で、ルミアを睨みつけていた。

 

『姉妹だなんて反吐が出る。貴女だけ、さっき死ねば良かったのに……』

 

 突然、向けられた悪意に、流石のルミアも言葉を失って、硬直し……

 

 場に緊張が走った。システィーナが息を呑み、グレンが背中に隠した銃のグリップを握る。リィエルは真銀の剣を構え、今にも斬りかからんばかりの体勢だ。

 

 ジョセフは、そんな場の緊張を感じつつも、後方の警戒を怠らなかった。

 

『……大丈夫よ。彼女に危害を加えるつもりはないわ。…ていうか、この身体じゃ何もできないし…ただの愚痴よ』

 

 身構えるグレン達を投げやりに一瞥し、ナムルスは再び冷たい視線でルミアを射貫く。

 

『今の貴女にこんなこと言うのは筋違いだって、私もわかってるわ。…でも、言わずにはいられない…貴女さえいなければ……ッ!』

 

 一方的にそう言い捨てて。

 

 ナムルスはルミアから視線を外し、再び、一行を先導するように進み始める。

 

「貴女は…とても優しい人なんですね」

 

 だが、どこか寂しげなナムルスの背中に…ルミアは、そんな言葉をかけていた。

 

『……なんで、そうなるのよ……?』

 

「だって、貴女はそれほど私を憎んでいながら…私のことも助けてくれました」

 

『……そんなの…ついで、よ』

 

「私は…貴女が、どうして私を憎んでいるのかわかりません。だから、安易に謝ることはできません…嘘になるから」

 

 そして、ルミアはナムルスの背中を真っ直ぐ見つめて、はっきりと告げる。

 

「だから、せめてお礼を言わせてください……」

 

『………』

 

「私を、私達を助けてくれて、ありがとう」

 

 ……すると。

 

 不意に、ナムルスの姿が闇に溶けるように消えていった。

 

「お、おい!?」

 

『……しばらく消えるわ。頭冷やしてくる』

 

 慌てるグレンに、ナムルスが冷ややかに告げた。

 

『大丈夫よ。私は、貴方達が古代遺跡と呼ぶ物の、大体、何処にでもいるわ。このまま、私が教えた通りに進みなさい。じゃあね……』

 

 そんな声を周囲に反響させるように残し…ナムルスは完全に消えていった。

 

 




今回はこんなとこかな?

ジョセフの存在が薄くなってるけど、他に方法が思いつかない……




今回はインディアナ州です。

人口667万人。州都はインディアナポリス。主な都市にインディアナポリス、フォートウェイン、ゲーリー、エバンズビル、ラファイエット、サウスベンド、ブルーミントンです。

愛称は開拓民の州。

19番目に加入しました。

州名は、読んで字のごとく「インディアンの土地」を意味します。

この名前は少なくとも1760年代に遡りますが、北西部領土から分離してインディアナ準州が成立した1800年にアメリカ合衆国議会によって現在のインディアナ州、イリノイ州、ウィスコンシン州、ミネソタ州に当たる地域に適用されたのが最初であります。

インディアナ州住民は「フージャー」と呼ばれています。この言葉の語源は諸説ありますが、インディアナ州歴史局とインディアナ州歴史協会が提唱する有力な説としては、アップランドサウス地域で野卑な田舎者を指す蔑称から来ているというものです。

州都はインディ500で有名なインディアナポリスです。

かつてはフォードモーターやロールス・ロイスの生産拠点でもありました。

五大湖にも面しており、そこにはゲーリーという、マイケル・ジャクソンなどジャクソンファミリーの生誕地にして、全米屈指の犯罪都市(USスチールの製鉄所が残ってるだけまだマシ)があります。

そんな荒廃した市街地をロケにしたのが「エルム街の悪夢」です。


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