ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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七巻に突入だにゃあ!


第7章
62話


 今から約一年前のこと…ジョセフがウェストポイントから休暇でボストンに帰省した時のこと。

 

「ただいまー。帰ってきたでー」

 

 ジョセフは家の玄関を開けるなり、リビングに入っていき空いている所に荷物を雑に置いた。

 

 木造の二階建ての、連邦ではごくごく普通の住宅。

 

 帝国にいた時の、スペンサー伯爵家の時のカントリー・ハウスとは規模は比べ物にならないが、ジョセフとしてはこちらの方が落ち着いていて好きだった。

 

 一階のリビングの窓も日光を多く取り入れるよう、大きくできており、快適な空間を提供していた。

 

「母さん?おらへんの?」

 

 一体どこに行ったのやら、ジョセフは母…エヴァを探す。

 

 鍵をかけずにどこに行ったのやら…と思った、その時。

 

「あら~帰ってきたのね、ジョセフ」

 

 隣の部屋からこの快適な空間をさらに快適になるような、陽気な声が聞こえてきたから振り返ると、腰にまで届く綺麗な茶髪にジョセフと同じ、左目が金色がかった目、右目が青目のオッドアイの美人な女性がいた。

 

「……あの、母上?なぜドレスを着ているんです?」

 

 ジョセフはその女性――母、エヴァ=スペンサーの着ている服装を見て、目を点にしながら、問い質した。

 

 エヴァは今、白を貴重とした美しいドレスだを着ていた。少女でも、エヴァのように妙齢な女性でも似合う、気品溢れるドレスだ。

 

「ん~?これはね、私がアルザーノ帝国魔術学院に通ってた頃に、『社交舞踏会』で着ていたのよ」

 

「さいで……」

 

 ジョセフはくるくると回るエヴァを見て、ソファに腰かける。

 

「……そういや、母さんは、そこで父さんと出会ったんだっけ?」

 

「うんうん、そうなのよ~。『社交舞踏会』でね、ダンス・コンペがあってね、そこであの人と組んでコンペに参加したのよ」

 

 エヴァは、当時のことを思い出しながら、どこか懐かしむように話していく。

 

「それでそのコンペに優勝したらね、その優勝したカップル女性は『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着用できるのよ」

 

「ローベ・デ・ラ・フェ?なんやねん、それ……?」

 

「ふふん、それはね、魔術学院の『社交舞踏会』に代々伝わる由緒正しきドレスで、同時開催されるダンス・コンペで優勝したカップルの女性が、一夜だけ着用を許される魔法のドレス…その年一番の淑女の証なの。あの時はそれに憧れて、かなり練習していたわ」

 

 ジョセフが問うと、エヴァはなぜか胸を張ってそう解説する。

 

「ふーん。母さんはそれを着たことあるの?」

 

「いえ、ないわよ」

 

「ないんかい」

 

 エヴァはこれまた何を誇っているのか、着たことないと堂々と告げ、ジョセフはかくん、と頭を傾けた。

 

「それでも、まだ私が学院に通う生徒だった頃に予選を突破して、本選であと一歩で着用できそうだったのよ。まぁ、その時はアリス…今のアリシア七世女王陛下とのカップルとの決勝で負けてしまったんだけど」

 

「へぇ~、女王陛下と?何で負けたん?」

 

「それはね、あの人と決勝で踊った時、最初は勝っていたんだけど、終盤だったかしら、あの人が盛大にこけちゃったのよ。それで優勝を逃したの。あの時、私はお腹を抱えながら爆笑してしまって……」

 

 在りし日に思いを馳せる母の顔は、とても穏やかだった。

 

 ていうか、爆笑してたんかい。

 

「その後は、『俺はもう踊らん!』ってあの人拗ねちゃってて、とても可愛かったわ。ふふっ、懐かしい」

 

「なんていうか、うん、父さんも母さんも凄いペアやったんやなぁ」

 

「まぁね。でも、不器用なあの人のあの一生懸命に練習してダンス・コンペで不器用ながらも、私を一生懸命にエスコートして…それに私は惹かれていって……」

 

 穏やかに父とのダンス・コンペのことを話す母。

 

「ふーん。ていうか、そのローベ・デ・ラ・フェって結構女性陣は憧れてたん?」

 

「それは、皆憧れるわよ。そのために女性陣は好きな男性を誘っていたんだから」

 

 ジョセフがなんとなく聞いてみたことをこれから力説せんとばかりに、言う。

 

「なんてったって、あのドレスにはある謂れがあるのよ」

 

「謂れ?どういう謂れなん?」

 

「ふふっ」

 

 うわぁ、これから力説が始まるぞ、とげんなりするジョセフに、エヴァは指を口に当てながら。

 

 ――それはね…あのドレスを着て、一緒に踊った男女は――

 

 

 

 

 

「ジョセフ?」

 

「……ん?」

 

 不意に名前を呼ばれ、一年前のことを彷徨っていたジョセフの意識が現実へと帰還する。

 

「どうしたんですの?ぼぉ~っと、外を眺めて」

 

 ジョセフが振り返れば、そこには綺麗な茶髪のツインテールのやや高飛車なお嬢様で、そして天才的なドジっ娘がいた。ジョセフの幼馴染であるウェンディがそこにいた。

 

「……一年前の母さんの会話を思い出していた」

 

「お母様の?」

 

「ほら、あと三日後に『社交舞踏会』があるやろ?それでな」

 

 ジョセフは、そう言いながら窓から中庭を見下ろす。

 

 実は、今、アルザーノ帝国魔術学院では、学院敷地内の南西にある学院会館、多目的ホールで、三日後に行われる伝統行事『社交舞踏会』の準備のため、魔術学院生徒会や社交舞踏会実行委員会、有志の協力者達など、大勢の生徒達が集まっており、広間の掃除や大道具やテーブルの運び入れ、調度品の設置、はたまた当日の料理当番や給仕の打ち合わせなど、皆一様に忙しく働いていた。

 

 学院校舎がかなり静かになっているのはそのためだ。

 

 因みに、ジョセフとウェンディは準備に参加していなかった。まぁ、実行委員でもないし、手伝いに行こうにしても、あんだけ人数がいればかえって手持無沙汰になってしまうだろうし。

 

「でな、母さんはその話で、父さんがダンス・コンペで盛大にコケて、大爆笑したっていう話をしてな」

 

「……大爆笑って、なんか、貴方のお母様らしいですわ」

 

「それが、ウチの母親よ……」

 

 大勢の人の目の前で大爆笑するっていうその度胸があるのがエヴァらしいと、ジョセフとウェンディは今までの行動を振り返ってそう思った。

 

 エヴァは普段はのんびりそうな性格なのだが、時には大胆なことをするときがあった。その大胆なことをするあまり、父はもちろん、主にナーブレス家を巻き込んだりしていたのだが。まぁ、父は疲れていたが、エヴァの行動をノリノリで付き合っていたナーブレス家もナーブレス家なのだが。おかげで父はさらに疲れるという……

 

「それにしても…まぁ、男性陣は忙しいもんで……」

 

 ジョセフは、中庭で男子生徒達が女子生徒達にそれぞれダンスの誘いをしては、悉く玉砕していく光景を、苦笑いしながら眺めていた。

 

「まったく、下心が見え見えなんですから……」

 

 その一部始終を見ていたウェンディが、深いためを吐く。

 

「まぁ、ダンス・コンペが同時開催されるからな」

 

 社交舞踏会。毎年、アルザーノ帝国魔術学院で行われている伝統行事の一つだ。

 

 何かと狭いコミュニティに納まりがちな生徒達のため、生徒同士で交流を深めることを目的として開催される行事であり、その来賓として、魔術学院の卒業生やクライトス魔術学院などの他校生徒、時には帝国政府の高官や地方貴族、女王陛下すら顔を出すこともある、意外と大規模なパーティーなのである。

 

「男女のカップルで参加して、社交ダンスの技量を競い合うんやったな?」

 

 興味なさそうに欠伸しながらそう言うジョセフに、ウェンディが辟易したような顔で頷く。

 

 どうやら、その様子だと彼女もかなり誘いの手が来ていたらしい。

 

「ええ、それでコンペの優勝カップルの女性には、特典として一夜だけ『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』っていう魔法のドレスの着用権が与えられるんですけど…それにまつわる噂が……」

 

「曰く″『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を勝ち取った男女は、将来、幸せに結ばれる″…だったっけ?」

 

 ジョセフの胸中に、かつて母親から聞かされた話が蘇る。

 

「ええ、そのジンクスのせいで、下心見え見えの男性達がこの頃、わたくしを誘ってくるものですから…ああもう!皆、作法もデリカシーもなく、強引にダンスへ誘ってくるのですから!淑女の扱いというものを心得てからお声をかけていただきたいですわ!」

 

「そうね、淑女(笑)の扱いを心得てからね」

 

「……その淑女(笑)っていうのはどういう意味で言ってるんですの……?」

 

「そのままの意味です」

 

 ジョセフがそう言った途端、ウェンディはジョセフの右足をゲシゲシと蹴り始めた。

 

「こーら、淑女(笑)がそんなことしてはいけませんよ(笑)」

 

「うるさいですわね!誰が淑女(笑)なんですか!?」

 

 さらにゲシゲシと蹴ってくるウェンディ。因みに、そんなに痛くない。

 

 やだこの娘やっぱり面白い。

 

 多分ウェンディがジョセフの傍に来たのも、あまりにも誘いが多過ぎて辟易し、こちらに逃げ込んだ形なのだろう。

 

 そう思いながら、ジョセフはちらっと辺りを見渡す(もちろんドジっ娘に蹴られながら)。

 

 すると、案の定、明らかにこのクラスの人間ではない男子生徒達が、不自然にこちらの周辺を行ったり来たりししている。

 

 恐らくウェンディを誘うタイミング――つまり、ジョセフがいなくなるタイミングを見計らってるのだ。

 

 ジョセフはその男子生徒達を一瞥すると、その男子生徒達は、ささっと視線を逸らして、さりげなく去っていく……

 

「ふむ……」

 

 因みに、ジョセフは『社交舞踏会』に参加しない。

 

 正確にいうと参加できない。

 

 別に連邦の留学生だからとか、そういう意味ではないのだが。

 

「ねぇ…ジョセフは誰かとダンス・コンペに参加するつもりはなくって?」

 

「ない」

 

「……即答ですわね……」

 

 ジョセフの超絶的即答にウェンディはジト目でジョセフを見る。

 

「ていうか、そもそも『社交舞踏会』に参加しないんねん」

 

「え?」

 

「外せない用事ができてな。それで」

 

「……軍の仕事なのですの……?」

 

 ジョセフが用事といった途端、ウェンディは心配そうな顔で誰にも聞かれないよう小声でそう問う。

 

「……まぁ、そんなとこ」

 

 ジョセフも小声でそう返す。

 

「……」

 

 心配そうに見つめるウェンディをジョセフは胸中で気まずそうな気分になった。

 

(そりゃそうだ。俺は一回死にかけたことがあるんや。彼女が心配そうな顔になるのも無理はない)

 

 ジョセフは頭をガリガリと掻き上げて、そしてウェンディの頭にポンッと載せ、優しく安心させるように撫でる。

 

「大丈夫や、今回はただの打ち合わせみたいなもんやさかい、死にはせん」

 

「……ならいいのですけど」

 

 ジョセフが安心させるように言う。

 

 だが、ウェンディは今度は心配そうな顔から、落ち込んだかのように顔を俯く。

 

「え、えっと…ウェンディ?」

 

 ジョセフはその反応にどうしたらいいかわからず、困惑しながら声をかける。

 

「……何でもありませんわ」

 

 口ではそう言っているが、顔は明らかに不機嫌なのだが。

 

「えぇ……」

 

 本当にどうすればいいのだろうか。

 

「……と、まぁそれはそうと……」

 

 ジョセフは切り替えるように、辺りを見回す。

 

 男子生徒達はこちらをちらちらと見ながら不自然に行ったり来たりしている。

 

 特に、ジョセフが参加しないと言ったことで尚更、ウェンディを誘おうと狙っている。

 

「……当日の放課後まで、傍にいてやろうか?」

 

「……え?」

 

 ウェンディはそんなデリカシーのない誘いに辟易してるからそんな状態で一人にしていたら、それを知らない男子生徒達が群がってきそうだし。

 

 それはそれでなんか困るだろうし、困ってる幼馴染を放っておくことはできないし。

 

「いや、なんていうか、そんなん誘いに辟易してるんなら、ウチが傍におればそうデリカシーのない男子達が群がることもないし、そうしたほうがええかなと……」

 

「……ふふっ」

 

 ジョセフがそう言うと、ウェンディはさっきまでの不機嫌が嘘のようになくなり。

 

「では、その日までわたくしをエスコートしてくださいな」

 

 そう言いながら、ジョセフの腕に絡みついた。

 

「……承知致しました、お嬢様」

 

 なんで絡みつくのかはわからないが、それを言ったらまた不機嫌になりかねないと思い、言わないことにした。

 

 こうして、ウェンディを誘おうとしていた男子生徒達の強い殺意をジョセフは集めながら当日の放課後までエスコートすることにした。

 

(それにしても……)

 

 ジョセフはそんな殺意を呆れながら受け止め、心の中で呟いた。

 

(ホンマに特務分室の連中は単独でやるのだろうか?)

 

 そう、ジョセフはさっきウェンディに軍の仕事だとしても、打ち合わせ程度とは言ったがそれは嘘だった。

 

 本当は、件の組織の企みを阻止するために、つまり、ルミア暗殺の阻止、そして敵の始末・捕縛という任務を行わなければいけなくなったから。

 

 本来は、帝国宮廷魔導士団特務分室と共同でこれにあたるはずだったのだが――

 

(手出し無用って……)

 

 特務分室から通告されたのはまさかのデルタは手出し無用、という通告だった。

 

(特務分室の室長さんは何を考えているのやら……)

 

 ジョセフは、釈然としない気持ちで約一時間前の出来事に思いを馳せていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ここいらでよかろう。
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