いやー、ついに衝動的に始めてしまった今作品も、遂に原作七巻まで来ました。
ここまで、執筆を続けられたのも、文才がない作品であるにも関わらず、見ていてくださっているかたがいるからこそ、続けられているんだと思います。本当にありがとうございます。
さて、今日の深夜にですね、投稿しました、63話の後書きにも書いているとおりなのですが、第二章をですね修正するというか、改変しようかと思います。
具体的に言うとジョセフが出場する競技を変えたりとか、女王陛下、セリカ視点を入れたりとか、グレン、ルミアに変装していたアルベルト、リィエルを追う、王室親衛隊の視点を入れたりとか、この事件の黒幕、エレノアとアルベルト、リィエルの対峙を入れたりします。
そのため、第二章全編を改変する、大掛かりな改変になります。
なるべく早めに終わらせますが、途中、第二章を見ている時におかしいことになっているぞということがありますが、改変している途中だと思ってください。
終わったら、最新話の後書き、もしくは、こうやってお知らせをしていこうと思います。
何卒、ご了承してくださいますよう、よろしくお願いします。
以上!!
――時間は前後して。
ジョセフが学院校舎でたむろう一時間前。
「はぁ……」
ジョセフは疲れたような顔をしながら魔術学院敷地内の西、大講堂を通りかかろうとしていた。
なぜ、ジョセフがこんな疲れた顔をしているのかというと……
「ダンス・コンペの誘い多過ぎじゃね……?」
ジョセフは『社交舞踏会』と同時開催されるダンス・コンペのため、女子生徒の誘いから逃れている最中であった。
一人の女子生徒から誘いを受けては断っていたが、だんだんと断るのも億劫になり、かといって参加すると言うわけにもいかず、こうして女子生徒の誘いの手から逃げている状態だった。
「も、もうええわ……」
ジョセフがそう言いながら大講堂を通り過ぎようとすると、バイオリンやチェロなどの楽器の音色が聞こえてきた。
「ん~?」
ジョセフはその音色が気になり、大講堂の中に入る。
まぁ、逃げ疲れたし、ここなら今楽器を弾いている連中は(つまり女子は)誘ってこないはずだ。
中に入ると、奥の舞台上で、学院の楽奏クラブのメンバーで編成された楽奏団が半円状に並んでいるのが目に入った。楽奏団の面々は、バイオリンやチェロなど各々の楽器を構え、社交舞踏会当日に演奏する曲の音合わせを熱心に行っていた。
クラブにとっては数少ない腕の見せ所。演奏練習に熱が入るのも当然であった。
「……ふーん、これはなかなかええ演奏やな」
楽奏団の演奏を聞くなりジョセフは感服したように言った。
「これは、当日の舞踏会は成功するかもな。単純に素晴らしいわ」
「はっはっは!そう言っていただけると、私もクラブ顧問として嬉しいね!」
「うおっ!?」
ジョセフの賞賛に、いつの間にか隣にたたずむ男が満足げに返した。ジョセフは突然の男の当所にびっくりし、思わず声を出してしまう。
恰幅の良い中年紳士だ。中年特有の太鼓腹ではあるものの、だらしなさはあまり感じられず、むしろ貫禄たっぷりの男性である。
男の名はローレンス=タルタロス。学院に在籍する魔術教授の一人であり、楽奏クラブの顧問も兼任する文化人であった。
「びっくりした…って、うん?」
ジョセフは心臓に悪そうな顔をしたが、演奏する楽奏団の前で熱心に指揮棒を振るう男性をジョセフは気になるかのように見る。
「今回の指揮者は外部の方から招いたんですか?」
「ええ、いつも指揮者を務めていた生徒が腕を怪我しまして…それで、今回はその道でとても有名な御方に依頼することになりました」
「ふーん……」
それを聞いたジョセフは、何か嫌な予感がした。
このタイミングで指揮を務めていた生徒が負傷という言葉に何かを感じずにはいられなかった。
(件の組織の一部に不穏な動きがあるんや。それに学院爆破テロ未遂のように、一回連中に入られているからな…その中で生徒の負傷。そして、外部からの招聘…何とも思わないというわけにはいかないんだよな~、職業柄)
ジョセフは、敵対組織に動きがありそうな時、敵対組織の動きに関する情報を共有するのはもちろん、他人の話でも、こういう伝統行事とかのイベント、または暗殺対象にされている者の動きに関する情報も一言一句聞き漏らさないで聞くことにしている。
そして、気になるものがあればそれを聞いたり、資料などを見せてほしいと頼んだりする。
今までの経験上、凶器になり得るものはゴロゴロと転がっているものだとジョセフはそう思って行動している。
特に件の組織――天の智慧研究会などはとにかく手段は問わずになんでもかんでもやってくるから、どんなに些細な事でも、聞き逃さないようにしている。
(ましてや、魔術を使ってのテロや暗殺もあるんや、何が起きてもおかしくないからな)
普通では実行不可能なものでも魔術を使えばあら不思議、可能になってしまうものである。
「そういえば、今、皆が演奏しているこの曲…当日のダンス・コンペでも用いられる『交響曲シルフィード』のようですが…もしかして微妙に
「ああ、わかりますか!流石、御目が高い!いや、この場合、御耳が高い…ですかな?わっはっは!」
演奏に耳を傾けるジョセフに、ローレンスが豪快に笑った。
ジョセフは、傍に『交響曲シルフィード』の楽譜が置いてあったのでそれを手に取り見てみる。
「わお、これは……」
確かに普段聞いている『交響曲シルフィード』とは違い、所々編曲されている。
「残念ながら、交響曲シルフィード第八番のアレンジは間に合わなかったらしく、当日に使用されるのは第七番までですが……」
「第七番まで……」
ジョセフは、その言葉になにか妙な違和感を感じた。
「今回の演奏は元々、アレンジして演奏することになっていたんですか?」
「いえ、実はこの編曲を提案されたのは、今回、指揮者を務めてくださる方が提案なされたのですよ」
「そう、なんですね……」
ジョセフはなんか嫌な予感がさっきから頭の中で渦巻いていた。
(それにこの曲……)
舞台上で楽奏団が演奏している曲は、自然に心が高揚するのような感じがするのだが、ジョセフはこれにもかなり違和感を感じていた。
(確かに心が高揚するような感じはするのだが…まるで自分からではなく、有無を言わせずにそうされているような…そんな感じや……)
まぁ、要するに、かえって不快な、気味悪いような、そんな感じがするのだ。
「……もう少し、聞きたいところですが、これ以上いたら邪魔になっちゃうかもしれないので、これで失礼しますね。当日、成功することを願っています」
ジョセフはローレンスにそう言うと、一刻も早くここから出たいという気持ちを抑えて、傍にあった楽譜をこっそり手に取って、大講堂を出て行った。
そして、大講堂から少し離れた場所にある、学院の用具倉庫棟前にて。
「やっぱり嫌な予感がする……」
大講堂から出てきたジョセフは、先ほどの演奏の違和感を思い出しながら、そう呟いた。
大講堂から出てきた時には、心が強制的に高揚させられているような感覚はなくなっていた。
「なんか起きそうな気がするんだよなぁ……」
かといって社交舞踏会を中止させるわけにもいかない。
何かが起きるからでは中止にできるはずがないし、何もなかったら、楽しみにしている生徒達や関係者達に迷惑をかける恐れがある。
そもそも、何かが起きるその証拠がないのだから。
「ローレンス教授や提案した指揮者には悪いが、あの曲は元に戻したほうがええと思うけどな」
それにしてもアレンジを提案した指揮者は何のつもりなのだろうか?
ジョセフは、あの指揮者のことがどうしても気になって仕方がなかった。
「ん?」
釈然としない気持ちで倉庫の方を見ると、大勢の生徒達が協力して、倉庫内から会場に設置するテーブルやシャンデリア、調度品などを運び出している。
その中に、生徒達に混じって荷物運びを行っていた作業服姿の用務員をジョセフは見つけた。
「あれって、もしかして……」
ジョセフが用務員を見続けると、その用務員はこちらの視線に気づいたのか、こちらを見る。
「……はーん」
ジョセフはその用務員が誰なのか気付くと、用務員に小さく学院の裏庭の方に指を差す。
用務員はそれを見て、椅子を突然、地面に置き、学院の裏庭に向かおうとしていた。
ジョセフが向かった先には、学院の裏庭がある。
針葉樹林が生い茂り、やや薄暗いこの場所には、今は人っ子一人いない。
まぁ、今は準備とかで学院会館の方に大勢いるのだから無理もないが。
ジョセフは適当な木の幹に寄りかかるようにし、誰にともなく呟く。
「……件の組織…天の智慧研究会の一部に不穏な動きあり」
ジョセフは誰にともなくそう言う。
「恐らく、今回のターゲットは、ルミア=ティンジェル…彼女の暗殺」
「………」
「そして、決行されるのは…三日後に魔術学院で行われる伝統行事『社交舞踏会』の真っ最中」
ジョセフは言葉を一旦止める。後ろには用務員がいつの間にかいた。
「特務分室はその動きを察知、阻止するため今、貴方がここにいる。いや、貴方だけではなく、≪隠者≫、≪法皇≫もいるんでしょうけど」
ジョセフは用務員の方に振り向き――
「でしょ?≪星≫のアルベルトさん?」
ジョセフの前で、その作業服姿の男が目深に被っていた帽子を取る。
ばさりと広がる黒の長髪、露わになる鷹のように鋭い眼光。
その男の正体は――
「……ご名答だ」
帝国宮廷魔導士団特務分室、執行官ナンバー7≪星≫のアルベルトその人であった。
「やっぱり。まぁ、それはそうと……」
ジョセフはアルベルトの姿を見て、物思う。
「≪星≫さんって、今のその姿に何か疑問とかないんですか?」
「…………」
アルベルトは無言を貫く。
(あ、少しは気にしているのね……)
ジョセフは、そのアルベルトの無言をそう捉えた。
そして、しばしの沈黙の後、その口から『社交舞踏会』に乗じた『ルミア暗殺計画』を天の智慧研究会が計画していることをジョセフに告げた。
「……しかし、連中、確かルミアからしばらく手を引くはずじゃなかったんですかね?」
「状況が変わった」
ジョセフの疑問にアルベルトは淡々と答える。
「俺達、帝国政府側とお前達、連邦政府側が一枚岩ではないように、天の智慧研究会も一枚岩ではない」
「まぁ、一枚岩な組織なんてありませんしね。今、連中はどうなっているんです?」
「現在調査中だが…連中はどうも、組織の方針によって二派に分かれていたようだ。一つ、古参メンバーを中核とした『現状肯定派』…そしてもう一つ、新参メンバーを中核とした『急進派』…どうも『Project:Revive Life』への着手の前後の辺りから、そのような二派が生まれたらしい」
白金術『Project:Revive Life』。疑似的に死人を蘇らせる禁断の儀式魔術だ。今は亡き、稀代の天才錬金術師シオン=レイフォードの固有魔術であり、シオンがいなければ、儀式の再現性がない。絵に描いた餅だ。
だが、なぜか、ルミアの『異能』があれば、それを達成できてしまうのだが――
「天の智慧研究会が王女を狙っているのは既に周知の事実ではあるが…『現状肯定派』は、あくまで王女の身柄を『確保』することを目的としている。だが、『急進派』は王女の『殺害』を狙っている」
「……これまた…解釈の違いでそうなったんですか?」
「調査中だ」
忌々しそうに鼻を鳴らすアルベルト。
敵組織の底知れなさに、アルベルトは苛立っているようだ。
「兎に角、先の白金魔導研究所の一件以来、組織全体の方針として、しばらく王女から手を引くことが決定し、その二派の抗争は一時的に収束する事になったのだが……」
「当然、この方針に納得するはずもなく、『急進派』は暴走…今回の暗殺計画を企てることにし、あわよくば『現状肯定派』に対し、優位を得たいということですかね?」
「その通りだ」
「派閥抗争か。あの組織にもそれがあるなんてな……」
どんなにわけのわからない狂人共の集まりでも、所詮は人間が作った組織、そんなものか。ジョセフはそう思った。
と、それはそうと――
「ところで、≪星≫さん」
「何だ」
「なぜ『社交舞踏会』を中止にしないんです?」
「その件だが――」
「ねえ?特務分室の室長にて執行官ナンバー1≪魔術師≫のイヴ=イグナイトさん?」
アルベルトが何か言いかけているのをジョセフは遮るように、木陰に向かってそう声をかけた。
「……あら、バレてたのね」
ざっ。木陰から不意に、一人の女が、ジョセフの前に姿を現していた。
若い娘だ。歳の頃は二十歳前…ジョセフよりも年上だが、グレンとほぼ同じ年齢だろう。
激しく燃え上がるような真紅の髪を、三つ編みに束ねてサイドテールにしている。その相貌は非常に精緻で見目麗しいが…どこか、氷のような酷薄さを湛えている。昏く燃えるような紫炎色を湛えた切れ長の半眼も、口元に浮かべる薄い笑みも、どこか他者に対する嘲弄のような印象を拭えない。
帝国宮廷魔導士団の礼服を身に纏い、半身に立って余裕溢れた所作で腕を組み、冷たい流し目を送ってくるその姿は――
「いやぁ、お初にお目にかかります」
帝国宮廷魔導士団特務分室の室長にて執行官ナンバー1≪魔術師≫のイブ=イグナイト。帝国古参の大貴族、イグナイト公爵家の姫君だ。
「ふふ、はじめまして、ナンバー6≪マサチューセッツ≫、≪黒い悪魔≫ジョセフ=スペンサー。会えて嬉しいわ」
「ええ、こちらこそ会えて光栄です」
お互いに挨拶するイヴとジョセフ。
別にこの二人の間に何か因縁とかそういったものは存在しない。そもそも、今まで何かに関わったこともない。
イグナイト家もスペンサー家も何か確執があったわけではないのだから。嫌味とかそんなただならぬ雰囲気を発することもない。
そう、今のはただの挨拶だ。
「しかし、≪魔術師≫さんが自ら出向く程、ということは今回の連中、大物が入ってますね?例えば、第二団≪地位≫以上の敵が送り込まれる、もしくはそいつが首謀者とかね」
「ええ、貴方の言う通り、今回の敵組織の戦力には暗殺計画の首謀者である第二団≪地位≫が一名、いるわ」
「それならそれで、こっちにも教えてくれたらいいですのに…なんでまた教えてくれなかったんです?ひょっとしたら今からでも共同で阻止できるのに」
ジョセフは、おちゃらけたようにイヴにそう問う。
なぜなら、こうやって特務分室の連中が来てるなら、その旨をデルタに伝えればいいのにと思ってしまうし、なにより、作戦会議とかそういったものに来いというのをジョセフ含め、デルタにはまったく伝えられていなかったのだから。
「必要ないからよ」
イヴは何の迷いもなく淡々とそう告げる。
「ほぅ?必要ないとは?」
ジョセフはイヴの真意を問い質す。
「そうね。結論から言えば、この度、学院で開催される『社交舞踏会』を中止になどさせない。このまま学院側には何も通達はせず…もちろん貴方達デルタにも通達せず、私達、特務分室単独で密かに連中を迎え討つわ」
ヒューっと、ジョセフは口笛を吹く。
「貴方の言う通り、今回の敵組織の仕掛けは、急進派の中核――第二団≪地位≫が直接動いているわ。これは、その者を捕らえ、敵組織の尻尾を掴む絶好の機会…逃す手はないわよね?」
「まぁ、第二団≪地位≫の連中が直接動いてくれるっちゅうのは、そんなにないですからね。捕らえることに成功したら、連中に対する手詰まり感を打破できるでしょうしな。ていうか実際、帝国も連邦も手詰まってますし」
「ふふっ、そうでしょう?」
「しかし、行事真っ最中の学院内で迎え討つとは…なかなかリスキーなことしますねー。まぁ、連中の動きの急な変化、一刻の猶予もないというのはわかりますけど」
ジョセフは、この強気なイヴの行動に表向きは感心していた。
そう、表向きは。
「長い帝国史の中、常に社会の裏側で暗躍し続けてきた最悪のテロリスト集団、天の智慧研究会…表向きは『優れた魔術師によつ世界支配』という思想を掲げてるけど…彼らがもっと大きくて、より最悪なものを狙っているのは、諸状況により間違いないわ。そして、件の組織の目的に関して唯一、明らかになっている言葉は…禁忌教典」
「ああ、連中がバカの一丁覚えに言っているやつですね?」
「ごく最近、貴方も知っているかもしれないけど、かの組織はその動きを変えたわ。何が切っ掛けとなったかは調査中だけど…その裏でひそかに推し進めていた、禁忌教典とやらに関わる計画のフェーズが次の段階に移ったのは間違いないわね。このまま連中の思惑通りに事が運べば、確実に取り返しのつかない事態になる。情報が欲しい…最早、私達には一刻の猶予もないの」
「まぁ、お宅の言い分はわかります。実際、連中が禁忌教典を手にしたら、手に負えない事態も想像できますし、それは連邦としても避けたい…だからこそ、共同で今回の暗殺計画では共同で対処に当たった方がいいのでは?」
「それはできないわ。今回の作戦は目立たないよう、少数で密かに迎え討つのだから。貴方達と共同で対処したら密かに任務を遂行できないわ」
「おおぅ、言ってくれますね…まぁ、特務分室の連中とは違い、ちとカウボーイじみてるところは否定しませんけど」
デルタの場合、特務分室に比べれば確かに少々派手に作戦を遂行するところはある。
そういった意味では、なんとしても秘密裏に事を済ませたい帝国政府、帝国軍は連邦軍、デルタとの共同作戦には難色を示していたのだろう。
「帝国政府も、軍も、すでにその方針で了承済み。最後まで難色を示されていた女王陛下も最終的に承認…ふふっ、実に賢明な方で助かるわ」
その時、いかにも『そうなることがわかっていた』と言わんばかりに策士気取りな笑みを浮かべるイヴの姿に。
「……エグいな……」
ジョセフは苦笑いでそう言った。
イヴの実家のイグナイト公爵家は、帝国古参の大貴族であり、かつ、数多くの優れた魔導士を輩出した帝国魔導武門の棟梁だ。その当主は帝国最高決定機関たる円卓会にも席を持ち、大きな力と発言権を持っているのだ。その家の力を使えば……
この家のことだ、女王陛下が首を縦に振らなければいけない状況を作ったのだろう。
イヴは何も応じず、含み笑いをするばかりだが、ほぼ間違いないだろう。
敏腕として国内外に勇名高き女王陛下とて全能ではない。今の女王は帝国と冷戦状態にあるレザリア王国との国境問題・外交軋轢の対処と、連邦との水面下での、外交面の主導権争いに忙殺されている。国内で蠢く虫を抑えるまで手が回らないのだ。
しかも、この件は決して女王に対する裏切り行為ではなく、王家と帝国への忠誠心の延長線上にあるともいえる。時に黙殺せざるを得ないこともあるのだろう。
「ふむ…≪星≫さんは?この作戦はどうなんです?納得してはるんですか?」
顎に手を当て、ジョセフはアルベルトに問う。
アルベルトはしばらくの間、口を堅く閉ざし……
「納得はしていない。だが、その作戦の有益性は認める。ならば任務を遂行するだけだ」
やがて、氷のように、淡々とそう返した。
「ですよねえ。与えられた条件で、やるのが兵士の務めですからね」
「………」
押し黙るアルベルトにジョセフはわかりきっていたかのようにそう言う。
「しかし、≪魔術師≫さん。この作戦、
「ええそう、この作戦は最高機密よ。でも、
「さいで……」
そうじゃないと、今後共同でやっていく時、情報を共有していなかったら話にならない。
「そいで、随分と自信がおありなようで、勝機はあるんです?」
ジョセフはそう聞くと。
「あるわ」
イヴは、きっぱりと断言した。
「ふーん……」
ジョセフはその人の心を覗き込むように、イヴを見る。
ジョセフとアルベルト、イヴの間にしばしの沈黙が流れる。
やがて、しばらくして。
「……了解、了解」
ジョセフは、両手を少し大げさに広げ、そう言った。
「まぁ、そこまで言うなら、今回は静観といきますよ。ま、入ったところで騒ぎになっちゃ、連邦と帝国の間で揉めますし、それだけは面倒ですし。それに、これ、マクシミリアン大佐にも伝えているでしょう?」
「ふふ、話がわかる子で助かるわ。それに貴方の言う通り、彼には伝えているわ」
「でしょうね」
ジョセフはそう言うと、くるりと踵を返した。
「まぁ、お手並み拝見、といきましょうかね。≪魔術師≫イヴさん?」
ジョセフは挑発するような言葉を言い、去って行く。
「あぁ、でも……」
ジョセフはなにか言い忘れたかのように思い出し、再び、アルベルトとイヴに振り返る。
「もし、状況が動かざるを得ない状態になったら、その時は――」
――回想を終え、一時間前を彷徨っていたジョセフの意識が、現在に帰還する。
(まぁ、最近はデルタが活躍しているからな。特務分室や帝国政府にとっちゃ、ここで手柄を上げて、連邦との外交的な主導権争いで優位に立ちたい。ていうのもあるんやけど……)
ジョセフは正直、かなり不安であった。
(彼女はかなり自信があったが、そんなに上手くいくようなもんじゃない。それに彼女…なんか、かなり功を焦っているようにも見えたのは気のせいか?)
だが、こうして上との話がこの作戦にはデルタを原則、介入させないということが決まっている以上、そうするしかない。
まぁ、大人しくその話を聞くつもりはないのはジョセフもそうだし、マクシミリアンも同じだろう。秘密裏に行動し、なんやかんや言いつけて動くしかない。
イヴは今、自分の掌の上で特務分室、デルタ、天の智慧研究会を踊らせているつもりだろうが。
(逆に自分が踊らされていなければいいんだがな)
「ジョセフ?」
考えるのを止めて、ウェンディを見ると、自分の右腕をグイグイと引っ張っていた。
「そろそろ帰りますわよ?明々後日までわたくしをエスコートしてくれるのでしょう?」
「ほいほーい、んじゃ帰りますかね~」
ジョセフがそう言うと、ウェンディはグイグイと引っ張るように歩いて行く。
「いや、そんなに引っ張らんくても、逃げへんから」
そう言いながら、ジョセフはウェンディを見て一抹の不安を抱えていた。
もし、今回の作戦でこいつが巻き込まれるようなことが起こったら――
その不安がジョセフの心にまとわりついていた。
(本当に何事もなければいいのだが……)
今は祈ることしかできなかった。
さて、第二章の修正をしながら、進めましょうかね。
というわけで、第二章の修正をしながら進めます。