ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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第二章の改変終了しました。

というわけで、改めて進めていきますよ。


64話

 アルザーノ帝国魔術学院の伝統行事である『社交舞踏会』に乗じてのルミア暗殺。それを阻止するために、特務分室が単独で行事真っ最中に迎え討とうとしていた、その一方――

 

 アメリカ連邦首都、ワシントンDC。

 

 この首都は連邦が独立を達成した数年後に、それまで事実上の首都であったメリーランド州アナポリスから、特定の州に権力が集中するのを防ぐために、建設された計画都市である。

 

 連邦第二の都市であるニューヨークに比べれば、規模も人口も明らかに小規模であり、帝国首都、帝都オルランドと比べても、かなり小規模なこの都市は、昨今、急速に国際的に台頭しつつある連邦の政治を司ってる都市であり、連邦政府直属の自治体であり、ホワイト・ハウス、連邦議会議事堂など、連邦政府の本部が置かれているなど、国際的に強大な政治的影響力を持つ都市でもあった。

 

 ホワイト・ハウスや連邦議会議事堂の他にも、ワシントン記念塔、ワシントン大聖堂、アイゼンハワー行政府ビル、連邦議会図書館、ジョージタウン大学など、新古典主義、ゴシック様式、近代建築、帝国様式やジョージタウン大学のようにロマネスク様式とゴシック・リヴァイヴァル建築が融合した建築物があるなど、様々な建築様式がまるで連邦が多民族国家であることを表すかのように、DCには建てられていた。

 

 ペンシルベニア大通りに面しているホワイト・ハウスは、連邦大統領が居住し、執務を行う官邸・公邸の建物で、アルザーノ帝国ならばフェルドラド宮殿に相当する建物である。そして、連邦政府の中枢でもある。

 

 エグゼクティブ・レジデンス、ウェスト・ウィング、イースト・ウィング、アイゼンハワー行政府ビル、そして4つの庭であるローズ・ガーデン、ジャクリーン・ケネディ・ガーデン、北庭、南庭を指して『ホワイトハウス・コンプレックス』と呼ばれているが、そのほかにもラファイエット公園など所謂、『大統領公園』という広大な広さを誇る公園が敷地内に存在している。

 

 その中で、ウェストウィングは「オーバルオフィス」と呼ばれる大統領執務室をはじめ、閣議室、国家安全保障会議室のほか、副大統領、首席補佐官、大統領補佐官、報道官、法律顧問、上級顧問などの上級スタッフのオフィスが入るなどまさに連邦政府の中枢を担っている場所である。

 

 そして、国家安全保障会議室で複数の人物が会していた。

 

 長テーブルを囲む形で座っており、扉に向かって奥に座っているのは大統領でその右に副大統領、左に大統領補佐官、が座っている。その他にも、陸軍長官、海軍長官などがこの場にそれぞれが対面するように座っている。

 

「さて…全員揃ったということで…まずはドビン海軍長官、なにやら北セルフォード大陸で一悶着あったらしいね?まずは、そちらの状況を説明してもらおうか」

 

 上質なスーツに身を包み、中肉中背の紳士的な相貌をしていた男が、同じ上質なスーツに身を包んでいた、痩せ型の男に説明を促す。

 

 この紳士的な男――アメリカ連邦第14代大統領であるフランクリン=ポークは連邦軍の軍人から、下院議員、上院議員を経て選出されたニューハンプシャー州選出の大統領である。

 

「はい、それでは簡潔に説明させていただきます。先日、アルザーノ帝国に派遣されている第三艦隊とレザリア王国所属の少数の艦艇との間で帝国西海岸沖で武力衝突が発生しました」

 

 連邦海軍第22代海軍長官、ジェイムズ=コクラン=ドビン――軍人出身ではなく弁護士出身の男がそう説明すると、場はまたかという雰囲気になった。

 

 連邦海軍とレザリア王国艦艇との衝突はこれが初めてではなく、海軍が帝国に定期的に艦隊を派遣するようになってからちょくちょく起きている事案であった。

 

「演習中、艦隊に異常接近してくる艦艇を視認、発行信号機で応答を試みたところ、先頭の艦艇が戦艦『ワイオミング』に攻撃、それを受けて第三艦隊各艦艇も反撃。全ての敵艦艇を撃沈、大破させ、撃退しました。こちらの損害はありません。つまり、『ワイオミング』も損害無しです」

 

「まーたか。連中、あんなにウチ等にボコられたのに、まだ懲りもしないでやるなぁ」

 

 ジェイムズが一通り説明すると、向かい席にいた陸軍長官がぼやく。

 

「……この事案の後、レザリア王国には外交ルートを通して、抗議いたしました。以上です」

 

 ジェイムズが陸軍長官に対し、渋面した後、そう締めくくる。

 

「ご苦労。さて、陸軍の方はどうなのかね?」

 

「陸軍には今のところ、大きな事案は発生しておりません。帝国に派遣されているデルタ分遣隊からは、件の組織、天の智慧研究会の掃討作戦も順調に進んでいるとの事です」

 

「順調に掃討されているとは言うが、ニューヨークの同時多発テロの主犯はまだ捕獲・殺害は出来ていないのだろう?」

 

 淡々と答えた陸軍長官、ルイス=サザーランド――こちらは軍人出身――に、ジェイムスがそう言う。

 

 伝統的に陸軍と海軍の仲はかなり悪い。連邦が世界屈指の経済力を持っても限られている陸軍と海軍の軍事予算の奪い合いは今も続いているためか、会議で嫌味や皮肉などが交わされるのは日常茶飯事だった。

 

 因みに、海兵隊は海軍寄りではあるが、大統領の親衛隊的な性格もあるので、予算の奪い合いにはそこまで神経を尖らせていなかった。それでも陸軍とはやはり仲が悪いのだが。

 

 そんな嫌味にも似たジェイムズの言葉にルイスは軽く笑いながら。

 

「そりゃ、主犯は連中の幹部やさかい。そんな奴がいちいち前に出しゃばってくるほど、バカじゃない。連中の本丸を探し出さないと、無理やろな。しかし、それは帝国ももちろん、ウチも、そして海軍も見つけ出せてないやろ?当然、中央情報局もな」

 

 ルイスがそう言うと、ジェイムスは押し黙る。

 

「まぁ、それはそうと…実は、ここに来る前、少し気になる情報が入ってきまして……」

 

 ルイスのそのいつになく真剣な言葉に、全員が固唾を呑んで続きのを待つ。

 

「気になる情報とは一体、何なのかね?」

 

 大統領は、続けるように促す。

 

「帝国のカンターレ地方の南東部に位置するリキアン第七駐屯基地はご存知ですかな?」

 

「リキアン第七駐屯基地…いや、場所は知らないが……」

 

「そこは帝国の隣国レザリアとの国境も近く、辺境地方から中央へ流れていく魔獣を食い止める防波堤の役割を果たしている帝国軍の基地です。そこには帝国東部カンターレ方面軍・第三師団第八辺境警備隊という、帝国軍の中では有数の精鋭部隊がいます」

 

「成る程。で、それがどうしたのかね?」

 

「昨夜、リキアン第七駐屯基地が地図上から完全に消滅しました」

 

「……は?」

 

 あまりにも淡々と告げるルイスの言葉に、大統領をはじめ、全員固まった。

 

「地図上から消滅したとは、どういうことかね?」

 

 今、ルイス以外、この場にいる者達は最悪のことを想定していた。

 

 つまり、レザリア王国がアルザーノ帝国に侵攻したということである。

 

「情報によりますと、第八辺境警備隊は数人の魔導士らしき集団と交戦、壊滅したということです。下手人は、恐らく天の智慧研究会と思われます」

 

「天の智慧研究会だとッ!?連中がそんなところで何をしていたというのだ?」

 

「不明です。ただ、その後、帝国南部の都市フェジテ方面に向かっていきました」

 

 まるで理解できないと言わんばかしに、両手を大きく広げてアピールしながらそう言う。

 

 まぁ、理解できないと思っているのは、この場にいる全員も同じなのだが。

 

「なお、フェジテに在籍しているデルタから天の智慧研究会の一部が暴走し、ルミア=ティンジェル…エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女の暗殺を計画しているという報告もありました。これを受けて、デルタにはいつでも迎撃できるように通知させておきました」

 

「そ、そうか…となると、特務分室との共同での対処になるのかね?」

 

「いえ、デルタ単独です」

 

「?それは何故なんだね?」

 

「特務分室もこの計画を把握していますが、連中から単独で対処する旨がありまして……」

 

「どういうつもりなんだ?」

 

「不明です。しかし、帝国政府はこれを了承。不本意ながらこちらも単独で動かざるを得なくなりました」

 

「そうか……」

 

 そこまでいってしまっては、こちらも強引にやるわけにはいかない。

 

「しかし、またエルミアナ王女か……」

 

 大統領はため息を吐き、最近、件の組織が引き起こす事件の中心人物の名前を出す。

 

「確か、彼女は異能者だったよな?」

 

「はい、大統領。彼女は『感応増幅能力』です」

 

 大統領の言葉を答えたのは、右隣に腰かけている副大統領だった。

 

「『感応増幅能力』、か…しかし、理解に苦しむな」

 

 大統領は背もたれに寄りかかりながらそう呟く。

 

「確かに、異能、『感応増幅能力』は稀な能力なのだが…彼の組織ならいくらでも他を当たれるはずだ。なのに、なぜ連中はそこまで王女に拘るのか…おまけに生死を問わないとは一体……」

 

 大統領の疑問はこの場にいる誰もが思っていたことだった。

 

 普通ならば彼女が駄目ならば、他を当たるのも難しいことではないのに、天の智慧研究会は何がなんでも彼女を狙っている。

 

 そこまで狙う理由はなんなのか。

 

 強いて考えられるのはエルミアナ王女が『感応増幅能力』ではないもの…それを天の智慧研究会が喉から手が出るほど欲しい何かが彼女にはある。それしか考えられない。

 

 だが、それは一体、なんなのか…皆目見当がつかなかった。

 

「一体、王女に何があるというのだ?『感応増幅能力』を超える何かとは一体何なのだ?」

 

 大統領の疑問に答えられる者はこの場にはいなかった。

 

 

 

 

 

「――以上、特務分室がルミア暗殺計画を阻止する大まかな内容ですが、どうします、大佐?」

 

 アルベルトとイヴと会ったその夜。

 

 ジョセフは自室で無線機を通してマクシミリアンに報告していた。

 

『こちらも動かないわけにはいかないからな…はぁ、やれやれ、あのお姫様には参っちゃうよ……』

 

 大佐はイヴの今回の行動にため息を吐くしかないようだった。

 

「学院の行事真っ最中に密かに迎え討つ…確かに≪魔術師≫さんの能力ならできなくはないでしょうが…≪星≫、≪隠者≫、≪法皇≫、それに≪戦車≫も≪愚者≫もいるから…しかし――」

 

『俺もなぁ、そんな簡単に事が済めばいいのだが…相手が相手だからな…そんな簡単にいくとは思えん』

 

「ですよね。しかし、締め出されてしまった以上、強引にも行くわけにもいかないですし……」

 

 はぁ、と。お互いため息を吐く。

 

『まぁ、あれだこうやって悩んでも仕方がない。明日の夜、ブリーフィングを行う。場所は例の場所だ。≪ジョージア≫、≪コネチカット≫、≪ノースカロライナ≫、≪サウスカロライナ≫にも俺から伝える。その時に作戦を考えよう』

 

「了解です。にしても今回の『社交舞踏会』、嫌な予感がします」

 

『ああ、確かにこのタイミングでの外部の指揮者の招聘、並びに編曲。そしてお前がそれを聴いた時の違和感…最悪な事態が起きてもおかしくないな……』

 

「凶器なんて、その気になればそこら中にありますからね」

 

 ジョセフは今日の放課後に聴いたあの違和感満載で気味悪い演奏を思い出す。

 

「とりあえず、明日の夜、いつもの場所ですね?了解です」

 

『ああ。んじゃ、切るぞ』

 

 大佐はそう言って通信を切った。

 

 ジョセフも通信機を置き、ベッドに向かう。

 

「………」

 

 さて、どうしたものか。

 

 ジョセフは自分達が蚊帳の外に出されてしまったこの複雑な気持ちを抱きながら、眠りにつくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 




短いけど、ここまで。

ほとんどおっさん達の戯れる回になってもうた(笑)

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