ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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67話

 ……その深夜。

 

 ジョセフはコートを着込んだ軍服姿でフェジテの某所――南地区の繁華街へ足を運んでいた。

 

 途中で客引きにしつこく付きまとわれたが、それを振り切り路地裏に入る。

 

(アメリカ人は金持ちと思われてるからまぁ、しつこいことや…っと、着いた、着いた……)

 

 人通りがまったくない路地裏の奥にひっそりとバーがあり、そこでジョセフは足を止める。

 

 ここはあまり人目につかない所にあり、知る人ぞ知るバーである――

 

 ――表向きは、であるが。

 

 しばらくそこでたたずんでいると、店の扉の前で立っていた、スーツ姿の見るからに屈強そうな男がこちらに来た。

 

 その男はジョセフの前に立ちはだかる。

 

 そして、ジョセフは。

 

「……ポトマック」

 

 そう男に向けて呟くと、男は踵を返し、ジョセフはその男についていくようにバーの中に入る。

 

 店内は石造りの建物とは裏腹に、木造で出来ており、灯かりも木造の雰囲気に合わせるように灯しており、非常に落ち着いた雰囲気なバーだった。

 

 このバーは連邦政府が買収した物件であり、そこをバーとして改装し、経営していた。そこで客を呼び込み、その売り上げはデルタの活動資金に回される。

 

 因みに、ここの店員もさっきのドアマンも連邦政府の職員である。

 

 ジョセフは男についていくようにカウンターを過ぎ奥にあるいくつかの部屋のところへ向かう。

 

 やがて、男が立ち止まり、ジョセフに向かって、この部屋だと言わんばかしに顎を向け、また扉の方へ向かって行った。

 

 そして、その扉を開け、部屋の中へ入る。

 

 木の香りがする、六、七名ぐらい入る部屋に、すでに三名ほどの先着者がいた。その人物達は――

 

「よう!ジョセフ!」

 

 その一人――二十代前半の長身で筋骨隆々、年齢以上の精気に溢れ、肌が黒い――日焼けではなく、元から――男が、ジョセフの姿を見るなり手を上げて、にぃっと陽気に笑いながら、ジョセフの元に向かってくる。陽気なお兄さんっていう顔立ちで、親しみが持ちやすい愛嬌がある。

 

「ひさしぶりやなぁ!元気にしておったか!?ん!?」

 

「まぁ、このとおりですよ。ナンバー4、≪ジョージア≫のフランク」

 

 そう言うと、ジョセフとフランクはお互いハイタッチしながら、ハグをする。

 

 連邦では身内や親友、軍の仲間などにはこうやってハグするのが一般的だ。決してアッチの趣味はない。

 

 ジョセフと同じ陸軍特殊部隊の制服に身を包むその青年は、連邦陸軍第1特殊部隊デルタ分遣隊、ナンバー4≪ジョージア≫のフランク=クリントン。デルタの中では近距離戦が得意で、レザリア王国との戦争でも北部戦線でかなり活躍した歴戦の強者。

 

 身体能力がデルタの中では一番高く、それを活かした近距離戦では彼の右に出る者はいない。そして、まだデルタに入ったばかりのジョセフの近距離戦の師匠でもあり、兄貴分的な存在だった。

 

「おお、ジョセフ!お前、両腕が生えてるやんけ。あの時に失ったんじゃなかったのか?」

 

 別の一人――席にどかりと腰かけている青年が笑いながら冗談を飛ばしてきた。フランクと同い年でジョセフと同じ身長の、肩幅が広く、いかにも屈強そうな身体が特徴の野心的な青年だ。常に余裕を持った瞳とポーカーフェイスが印象的で、味方にしてみれば頼りになり、敵にしてみれば強敵だと思わせるその風貌をもつ青年は……

 

「そうそう、ウェストポイントで、腕を生やされたんよ。メスとか使われてな。まぁ、皮膚はウーツ鋼で出来てるけど」

 

 ジョセフは苦笑いでそう返しながら、その青年と力強く握手する。

 

「あいでででででででででで――ッ!?ちょ、もうちょっと力緩めてくだんもし!?」

 

「しかも、プロテインまで投与したせいか、力加減がますます苦手になってもうてな」

 

「わ、わかった!わかった!悪かったから、力緩めてくれ!ジョセフ」

 

「まったく、まぁ、このとおり義手になってるんや。ナンバー8≪サウスカロライナ≫ティムさんよ」

 

 手を離し、痛そうにブンブンとふるティムに対し、ジョセフはそう言う。

 

 ジョセフとフランクと同じくデルタのナンバー8≪サウスカロライナ≫のティム=スコット。その屈強な体格を駆使して、軽機関銃などの重火器を使っての援護を得意とする、こちらも歴戦の強者だった。

 

 とくに近距離戦を得意とするフランクとはかなり相性が良く、北部戦線では二人はコンビを組み、敵を悉く粉砕していた。

 

「……なにやってんですかね?貴方は……」

 

 そう呆れながら一人の少年がテーブルに置いてある通信機をセットしている。

 

 三人目――ジョセフとは歳が一つ、二つ上の、端整な顔に眼鏡をかけているいかにもインテリで常に冷静沈着な物腰の少年だった。

 

「まぁ、いつのことですよ、ナンバー12≪ノースカロライナ≫ホッチンズ」

 

「……ふん」

 

 デルタのナンバー12≪ノースカロライナ≫、ホッチンズ=ブルメンソール。いかにも無愛想なこの少年だが、ハッキング能力が高く、どんなセキュリティシステムも突破してしまう凄腕のハッカーである。彼のハッキング能力なしでは成し得なかった作戦もあり、同じくハッキング能力があるガルシアとはライバル関係にある。

 

「で?姉さんは?」

 

 一通り挨拶した後、あと一人いないことに気が付く。

 

「ああ、それならな――」

 

 フランクがそう言おうとした瞬間。

 

「じょぉ~~~~せぇ~~~~~ふッ!」

 

「むぐっ!?」

 

 ジョセフの前に突然現れ、突然、ジョセフの顔を自分の胸に押しつけ、がっちりホールドする。

 

 目鼻が整っていて、腰まで届く長い黒髪に、小麦色の肌。そして、女性的で、豊満なスタイルな二十歳ぐらいの美人な女性。

 

 その女性はジョセフの顔を何の躊躇いもなく、重く柔らかに実る双丘の中へ埋没させていく。

 

「ちょ!?姉さん!?離して!苦しい!苦しいからッ!」

 

「いいじゃない、いいじゃない!私達の仲なんだから!」

 

 ジョセフは必死にもがくが、女性はがっちりとホールドして抱きしめる。

 

「ええい!とりあえず離しいや!鬱陶しいッ!」

 

「なーんだ、つれないなぁ~」

 

 ジョセフから手を離すと、ジョセフはすぐさま飛び下がる。

 

 その女性の名は、ダーシャ=クリシュナ。南方の亜大陸に一族のルーツを持つ彼女はデルタのナンバー5≪コネチカット≫であり、ジョセフの姉貴的な存在である。

 

 彼女はその豊満な肢体を使って男性を虜にし、そこから情報を引き出す、情報収集のエキスパートだった。因みに、一線は超えていない。

 

 その情報収集のお陰で、天の智慧研究会の協力者から情報を引き出し、それに基づいて、連中のセーフハウスを強襲して掃討していった。

 

 最近、デルタが帝国宮廷魔導士団よりも手柄を上げているのは彼女の情報収集が大きな要因であった。

 

「でも、無事でよかったわ~。両腕を失ったジョセフを見た時、一体、どうなるのかと……」

 

 ダーシャは当時の≪天使の塵≫騒動でジョセフが重傷になったことを思い出し、安堵したような表情でそう言う。

 

「……まぁ、それは…心配かけてすんません……」

 

 ジョセフは当時のことを思い出し、気まずそうに謝る。

 

「まぁ、あの時、大泣きしていたからな~。落ち着かせるのに苦労したで」

 

 フランクも当時を思い出したのか、そう言う。

 

「まぁ、あの状況だとそうせざるを得なかったのはわかるし、結果的にこうして五人揃ってやっていけるんやさかい。気を取り直していくで」

 

「まぁ…そうやな…その…本当にすまなかった……」

 

 あの時、一時の迷いがなかったら、心配かけずに済んだのに、そう思うと、ジョセフは罪悪感を覚えてしまうのであった。

 

「……よし、これで繋がるはず」

 

 そうこうしているうちに、ホッチンズがセットを完了し、ある人物に呼びかける。

 

 すると。

 

『あ、あー、あー。全員聞こえるか?よし聞こえるな』

 

 通信機からナンバー1≪デラウェア≫のマクシミリアンの声が聞こえてくる。

 

 すると、ジョセフ達はそれぞれ席に腰かけていく。

 

「サー。聞こえてます」

 

 フランクがマクシミリアンに答えるように、答える。

 

『よし、それじゃあ本題に入るぞ』

 

 こうして、マクシミリアンの音頭で会議は始まった。

 

 ルミア暗殺計画に関係する、天の智慧研究会の迎撃作戦である。

 

『それでは始めるぞ。まずは状況の説明から入る。諸君らも知っていると思うが、件の組織、天の智慧研究会は、サイネリア島での一件以来、ルミア=ティンジェル…エルミアナ王女から手を引いくように活動を潜ませた。原因は不明だが、連中の計画が次の段階に移ったとみられる。その後の連中の動向だが、帝国宮廷魔導士団所属、≪隠者≫と≪法皇≫と共同であたっていた≪ペンシルヴァニア≫、≪メリーランド≫、≪ロードアイランド≫からの情報によると、どうやら天の智慧研究会はサイネリア島で起きる前後に二つの派閥に分かれていたらしい』

 

 マクシミリアンはそこで一旦、言葉を区切った。

 

『一つは古参のメンバーを中心とした王女を生きたまま確保を是とする「現状肯定派」、もう一つは新参のメンバーを中心とした王女の殺害を是とする「急進派」。両者は新たな方針を一旦は合意したものの、一部の「急進派」は反発。暴走し、今回の王女の暗殺を計画したということだ』

 

「となると、今回は組織全体の意向ではなく、ごく一部の『急進派』の独断専行、ということですか?」

 

 マクシミリアンの状況説明に、フランクは問う。

 

『そうなるな。だから敵側はあくまで「暗殺」に拘る動きをしてくるだろう。下手人を明らかにするような行動をしたら、組織の意向を逆らったとして「急進派」全体の粛清につながる。それは避けたいはずだ。となると、証拠が残らぬよう、密かに動かざるを得ないはずだ』

 

「それで、任務は?どう動きます?」

 

 今度はジョセフが問う。

 

『今回の任務は、明後日行われるアルザーノ帝国魔術学院の社交舞踏会に乗じて、王女の暗殺を狙う敵の組織の企てを阻止、連中の首謀者の拘束だ』

 

「敵戦力は?」

 

 今度はティムが問う。

 

『第二団≪地位≫が一名。恐らくこいつが今回の首謀者だと思われる。それに従う第一団≪門≫が三名…総勢四名だ。一方、特務分室の連中は、≪魔術師≫イヴをはじめ、≪隠者≫、≪星≫、≪法皇≫、≪戦車≫…そして、元・宮廷魔導士団特務分室の≪愚者≫計六名。何も問題なければ連中だけで十二分に対処可能だ』

 

 問題なければ対処可能。その言葉にジョセフ達五名が反応する。

 

「大佐は、今回の特務分室の作戦には何か問題が起きるということですか?」

 

 ダーシャがマクシミリアンの言葉の真意を問う。

 

『特務分室の室長は、例外的に無関係の人間に手を出せないと思っているらしいが…今回の首謀者、第二団の外道魔術師は二つ名と名前が判明している。≪魔の右手≫のザイード。これが今回の首謀者だ』

 

「うっわ、≪魔の右手≫ってそれだけで凄い嫌な予感がするわ」

 

 二つ名を聞き、フランクが呻く。

 

『フランクの言う通りだ。彼は主にパレードや演説場、そして今回の社交舞踏会のようなパーティー会場など、大勢の人間の前で、誰も気付かないうちに標的を仕留めるという暗殺特化の外道魔術師。今回の場所にはうってつけの人物というわけだ。直接的な殺害方法は刺殺、絞殺、撲殺…なぜか様々なパターンがあって一定しない。これまで≪魔の右手≫に何人もの帝国政府の要人が、ありとあらゆる護衛や警備も虚しく殺されている』

 

「うへぇ、厄介過ぎやろ……」

 

 ティムがうんざりしたような表情で呟く。

 

「その暗殺は一対一の密室で行われているんですか?」

 

 ホッチンズは当時の暗殺状況を確認するかのように問う。

 

『いや、会場のど真ん中で、だ』

 

 その時、全員が、ん?と怪訝な顔をした。

 

「ど真ん中で暗殺されたのに、誰も気付かなかったんですか?」

 

 ダーシャが怪訝そうにそう尋ねる。

 

 これはダーシャだけではなく、ジョセフもフランクもティムもホッチンズも疑問に思っていたことだ。

 

 刺殺はともかく、絞殺や撲殺で気付かずに会場の真ん中で暗殺されてるなんておかしいのだ。

 

『おかしいの思うのはお前らだけではなく、ここにいる俺らも同じ思いだ。そこで、当時の状況を知っていると思われる関係者に探りを入れてみたが、誰も「気付いたら標的の死体ができていた」そうだ』

 

「そんなことってあります?」

 

 ホッチンズは信じられないとばかりにそう言う。

 

『ただ、全員に共通しているのが暗殺の前後の記憶があやふやになっているということだ』

 

「つまり、何らかの精神操作系の魔術が敵にかけられていたというのは?」

 

 フランクはそう推測する。

 

「それもあり得るかもしれないけど、大勢の人達にいちいちかけていくの?一遍は流石に難しいわよ?」

 

 それをダーシャが現実的ではないと言う。

 

 とはいえ、関係者が口を揃えて言うのは、『気が付いたら標的は死んでいた』のだ。しかも、関係者は前後の記憶があやふやになっているときた。

 

(くそ、暗殺方法がわからない)

 

 ザイードの暗殺方法が謎に包まれていては対策の立てようがない。

 

「大佐、今回はどのような作戦で行くんです?」

 

 ジョセフは、マクシミリアンに作戦を聞く。

 

『作戦は、学院に突入、首謀者を無力化、確保することだ。とはいえ、これはまず、一つの前提条件と一つの問題がある』

 

 マクシミリアンは作戦内容をざっと説明し、前提条件と問題点を説明していく。

 

『まず前提条件は、誰にも気付かれずに阻止・確保しなければならないことだ。関係者に見つかったら、連邦軍が学院の敷地に侵入したと大騒ぎになる。その間に敵を取り逃がす恐れもある。そうなったら色々と面倒なことになる。そして、問題点は…特務分室の室長であるイヴ=イグナイトの眷属秘呪【イーラの炎】をどうやってかいくぐるか、だ』

 

 そう、この作戦の問題点は、敵ではなく味方であるはずのイブ=イグナイトの眷属秘呪をかいくぐらないと、学院に潜入できないのである。

 

『【イーラの炎】。一定領域内の人間の負の感情――特に、殺意・悪意を炎の揺らめきとして視覚化し、察知・特定する索敵魔術。誰かを害するとき、殺意・悪意を抱かずしてそれを実行することはできない。どんなに機械のように殺気を抑えることに長けた暗殺者も、いざその呼吸前、必ず殺意が漏れる…彼女はその殺意を逃さない。彼女はそれを社交舞踏会の会場に張りめぐらすだろう。それと、眷属秘呪【第七園】もな』

 

 その時、面倒だなとその場にいた全員が思った。

 

 眷属秘呪とは固有魔術の一種であり、魂の魔術特性を術式に組み込む固有魔術とは異なり、血中マナ特性――即ち、魔力特性を組み込む魔術である。その特性上、大抵一大限りの固有魔術とは異なり、その血族が先祖代々伝え、発展させていくことが可能な秘術だ。

 

 そして、イヴのイグナイト家が代々伝える眷属秘呪【第七園】とは、予め指定した領域内における炎熱系魔術の起動『五工程』を全て省略出来るようにする、という図抜けた代物。要は領域内の敵を、精神集中も魔力操作も呪文詠唱もなく、炎を手足の一部のように自在に操って焼いてしまうことが可能なのだ。無論、【第七園】を構築するにはかなりの手間隙をかけなければいけないし、炎熱系の魔術に限られる。魔力消費も激しい。

 

 だが、一度構築されてしまえば、領域内にいるイヴの魔術起動速度を凌駕する人物はこの世にいない。

 

 彼女の領域外から狙撃銃でザイードを無力化するにも大勢の中から特定しなければならないから至難の業だし、なにより騒ぎになる可能性が高い。

 

 銃を使っての無力化など連邦軍の仕業しか考えないし、連邦軍の存在がバレてしまう。

 

 つまり、会場の中に潜り込み、標的を無力化するしかない。しかもイヴの【イーラの炎】をかいくぐりながら。

 

 どこからどう考えても無茶苦茶な作戦にしかならない。

 

『連中は、デルタが来ることは想定していないだろうから、【第七園】の犠牲になることはなくても、【イーラの炎】に探知されてしまう。そうなったら、今後のことで面倒臭いことになるし、連携が乱れる恐れもある。彼の組織の前でそういう醜態は晒したくない。つまり、そのまま会場に潜入するのは不可能ということだ』

 

 おそらく、面倒というのは、デルタの手柄にしたくない帝国政府と帝国軍になんやかんや言われることだろう。連中は自分達の手で手柄を上げ、帝国と連邦の外交の主導権争いで優位に立ちたいから。

 

 正直、こういうのはうんざりだと思った。そんなもん現場の連中に言われても知らねえよと。

 

 だが、それはマクシミリアンも同じ思いだった。だが、帝国政府や帝国軍に配慮するように国防総省からの命令があるし、そうせざるを得ないのだ。連邦は帝国をレザリア王国の最前線基地にしたいという思惑がある。帝国に『特別な関係』と言ってはいるが、本当はレザリア王国の影響が自分達に直接及ばないようにしようというのが連邦の思惑だった。

 

「そのまま潜入できないならどうするんです?」

 

 フランクはマクシミリアンに問う。確かに潜入できなければ話にならない。

 

『デルタが介入せざるを得ない状況を作り出す』

 

「?」

 

 どういう意味なのか?五人はお互い顔を見合わせる。

 

『というのも、連中は≪魔の右手≫がどのような方法で暗殺しているのか、把握できていない状況だ。いや、彼女は把握しなくても大丈夫とおも思っているらしいが』

 

「把握しなくても大丈夫って…それ大丈夫なんですか?」

 

『まぁ、彼女が俺の部下だったら回し蹴りするだろうな』

 

 でしょうね。と全員思った。

 

 デルタは敵の暗殺方法や過去の行動を分析して、作戦を立てる。例え眷属秘呪で会場をカバーできるとは言っても、敵はそれを逆手に取ってくるかもしれないし、無効化されるおそれもあるのだ。

 

 要するに、過信は禁物ということだ。

 

 イヴのように【第七園】、【イーラの炎】の領域内にいるから、暗殺方法なんか知らなくとも行ける。というのは、デルタは愚か、連邦軍でも州軍のどの部隊もやらない。もし、敵がその領域の影響を受けないやり方できたら、何の備えも、もしくは不十分な状態で対処しなければいけなくなる。

 

 対策できるところを過信で対策を怠ったら、それはただの怠慢であり、戦場では死に直結する。

 

 特務分室室長、執行官ナンバー1≪魔術師≫イブ=イグナイト。今、デルタの中での彼女の評価は『有能だが自信過剰で最弱』という評価になっていた。

 

『話を戻すが、連中は王女を≪魔術師≫の領域内に留めておき、数名は外で敵を迎え討つつもりなのだろう。だが、さっきも言った通り、暗殺方法がまったくわからない。もしかしたら、彼女の領域の影響が及ばないところから自分の手を汚さずに殺るかもしれん。そこでだ。諸君には、というか≪ペンシルヴァニア≫、≪メリーランド≫、≪ロードアイランド≫以外、ガルシアもだが、≪魔の右手≫の暗殺方法を調べてほしい』

 

「≪魔の右手≫の暗殺方法ですか?」

 

『そうだ。奴の暗殺方法が知ることができれば、介入できる口実ができる。後でなんやかんや言っても、暗殺方法がわかったから、動かざるを得ない状況だったため、動いたって言えるしな。いけ好かないが≪魔術師≫に教える見返りにデルタを入れさせることもできるかもしれん』

 

 たしかにいけ好かないが、そうやるしかない。

 

 敵が手段を選ばないで暗殺するのと同様、デルタも手段を選ばないつもりでいかなくてはいけない。

 

『俺達は帝都で関係者にこれとなく探りを入れながら調査を進める。お前らはフェジテで関係者を探し出し、探りを入れろ。ホッチ、お前はドローンで上空からフェジテ全域を調べろ。怪しい連中がいないか調べるんだ。ジョセフ、お前は学院で何か怪しい動きがないか調べてくれ』

 

「了解」

 

「まぁ、やりましょうかね」

 

「そうですね。相手は闇雲にやって勝てる相手ではないし」

 

「フェジテの全域なんて朝飯前ですよ」

 

 フランク、ティム、ダーシャ、ホッチンズが口々にそう言う。

 

「それやったら、早速、報告いいですか?」

 

「「「「へ?」」」」

 

 ジョセフがあの演奏の違和感と指揮者のことを思い出し、報告しようとした途端、四人が目を点にして固まる。

 

『何?何かあったのか?』

 

「些細な事ですが、社交舞踏会で演奏する楽奏団の指揮者なんですが、学院の生徒の指揮者が数日前に怪我を負い、至急、外部の指揮者が招聘されたんです」

 

「怪我?まぁこの時期に怪我は珍しくないが、外部の指揮者がどうしたんだ?」

 

「その指揮者はあと数日後に社交舞踏会が始まるのに、突然、曲のアレンジを提案してきたんです」

 

『アレンジ?数日前に?』

 

 マクシミリアンだけではなく、ジョセフ以外全員が首を傾げる。

 

 曲のアレンジは珍しいものではないが、それだったら、一ヶ月前とかならまだしも、数日前に突然のアレンジの提案なんてするか?

 

「それに、今回の社交舞踏会で使う曲はシルフ・ワルツで使う『交響曲シルフィード第一番から第七番』なんです」

 

『?おい、ちょっと待て。第一番から第七番まで?あれって確か、第八番もあったよな?第八番はどうした?』

 

「第八番はアレンジが間に合わなかったらしく、演奏されないらしいんです」

 

「演奏されないって……」

 

「おい、ジョセフ、それ……」

 

『なんか、臭いな……』

 

 数日前の外部の指揮者の招聘、そして突然のアレンジの提案。不自然と言えば、不自然なことだった。

 

『ジョセフ、その楽譜とかはあるのか?』

 

「はい、こっそりくすねてきました。ここにあります」

 

 ジョセフはそう言いながら、鞄から楽譜を取り出した。

 

『よし、いいぞ。それをガルシアにデータ化して送ってくれ。ガルシア、ジョセフから送られてきた楽譜の解析を頼む』

 

『はいはい、了解しました』

 

『よし、それではしばらく一休みしてから、行動を開始してほしい。時間はかかるだろうが、当日、王女が暗殺される前に≪魔の右手≫の手口を白日の下に晒すぞ』

 

「「「「了解」」」」

 

 マクシミリアンの指示に全員が了承し、席を立ち上がる。

 

 こうして作戦会議の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スンスンスンスン……」

 

「……あの、姉さん?」

 

「ジョセフから知らない女の人の匂いがする……」

 

「……はぁ?」

 

 姉さん、それウチの幼馴染の匂いや……。

 

 

 

 

 




こんなもんかな?

キャラ一遍に出していくスタイル(笑)
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