ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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暇つぶしのはずが、はまってしまっている…何故だ!?


6話

「あー、ここかー。いや、皆、勉強熱心ゴクローサマ!頑張れ若人!」

 

 突然、現れた謎の二人組に教室全体がざわめき始めた。

 

「あ、君達の先生はね。今、ちょっと取り込んでるのさ。だから、オレ達が代わりにやって来たっつーこと。よろしく!」

 

「ちょっと……貴方達、一体何者なんですか?」

 

 正義感の強いシスティーナが席を立ち、二人の前まで歩み寄ると臆せず言い放つ。

 

「ここはアルザーノ帝国魔術学院です。部外者は立ち入り禁止ですよ?そもそもどうやって学院に入ったんですか?」

 

「おいおい、質問は一つずつにしてくれよ?オレ、君達みたいに学がねーんだからさ!」

 

「……っ!」

 

 このチンピラ風の男はどうにも調子が狂う。システィーナは苦い顔で沈黙した。

 

「まず、オレ達の正体ね。テロリストってやつかな?要は女王陛下サマにケンカ売る怖ーいお兄サン達ってワケ。あ、あと前は連邦にもケンカ売ってたかなー?」

 

「は?」

 

「で、ココに入った方法。あの弱っちくて可哀想な守衛サンをブッ殺して、あの厄介な結界をブッ壊して、そんでお邪魔させていただいたのさ?どう?オーケイ?」

 

 クラス中のどよめきが強くなる。

 

「ふ、ふざけないで下さい!真面目に答えて!」

 

 肩を怒らせて、システィーナが叫んだ。

 

「大マジなんだけどなぁ~。」

 

 チンピラ風の男はおどけて、大仰に両手を開いた。

 

「この学院で守衛を務めている方は戦闘訓練を受けた魔術師です!貴方達みたいな人にそう簡単にやられるわけないし、この学院の結界は超一流と呼ばれる魔術師にだって破ることはできないんですよ!?」

 

「あー、そうなの?天下に名高い魔術学院もたいしたことねーのな。がっかりだわー。」

 

「……あまりそのようなふざけた態度を取るようなら、こちらにも考えがありますよ?」

 

「え?何?何?どんな考え?教えて?教えて?」

 

「……っ!貴方達を気絶させて、警備官に引き渡します!それが嫌なら早くこの学院から出て行って…」

 

「きゃー、ボク達、捕まっちゃうの!?いやーん!」

 

 一向に出て行く気配を見せない二人に、システィーナは覚悟を決めた。

 

「警告はしましたからね?」

 

 魔力を練る。呼吸法と精神集中で、マナ・バイオリズムを制御する。

 

 そして、指先を男に向け――黒魔【ショック・ボルト】の呪文を唱えた。

 

「≪雷精の――≫」

 

「≪ズドン≫」

 

 だが、チンピラ風の男が唱えたふざけた呪文の方が圧倒的に早く完成していた。

 

 システィーナの目には男の指が一瞬、光ったようにしか見えなかった。

 

 まるで、ジョセフが来て初日に見せた連邦版【ショック・ボルト】と同じ感じだった。

 

 だが、同時に耳元を空気が切り裂かれる音が駆け抜け、背後の壁を何かが穿ったような音が響いた。

 

「……え?」

 

「≪ズドン≫≪ズドン≫≪ズドン≫」

 

 さらに三閃。システィーナの首を、腰を、肩を、光の光線が掠めて走る。

 

「う――」

 

 一歩も動けなかったシスティーナの全身から一気に汗が噴出した。

 

 恐る恐る振り返る。背後の壁には小さなコインのような穴が、いくつも空いている。連邦版【ショック・ボルト】とは違い、完全に貫通しているらしい。穴の向こう側が見えた。

 

 この恐るべき貫通力。システィーナはもちろん、その様子を見ていたクラスの全員が男の放った呪文の正体を悟った。

 

「そんな……まさか……い、今の術は……【ライトニング・ピアス】!?」

 

 黒魔【ライトニング・ピアス】。

 

 指さした相手を一閃の雷光で刺し穿つ、軍用の攻性呪文だ。見かけは【ショック・ボルト】とそう大差はない。だが、その威力、弾速、貫通力、射程距離は桁外れであり、分厚い板金鎧すら余裕で撃ち抜いてしまうほどだ。術に内包されている電流量も【ショック・ボルト】とは比較にすらならず、なんの魔術的防御も持たない普通の人間ならば、触れただけで感電死するだろう。そのシンプルな外見からは想像もつかない恐るべき殺戮の術。かつて、戦場から弓や銃はおろか鎧の存在価値すら奪った術だった。

 

 因みにある国は、存在価値のなくなった銃を徹底的に改良し、世界最強の軍隊を持つ国として君臨しているが、それは少し後の話。

 

「ど、どうして……そんな危険な術を……?」

 

 自然と足が震えてくる。膝から力が抜け、その場にぺたんと座り込んでしまう。

 

「し、しかも…そんなに短く切り詰めた一節詠唱で、連続起動なんて……」

 

 一見ふざけていはいるが、チンピラ男の術行使が、どれだけの超絶技巧の上に成り立つ物なのか、魔術の薫陶を受けた者ならば誰だって理解できる。

 

 その時、生徒達の誰もが悟っていた。この男には決して勝てない。戦力が違い過ぎる。 

 

 今、クラスにいる生徒達が束になって一斉にかかった所で、この男には到底敵わない。魔術師として、それだけ両者の力量差は懸絶していたのだ。

 

「まさか……貴方達、本当に…」

 

「だーから言ってるでしょ?テロリストだって。この学院はオレ達が占拠しましたー、君達は人質です、大人しくしててねー?あ、そうそう、逆らう奴は今のうちに逆らっておいてね?ブッ殺すから。」

 

 逆らう者などいるわけない。【ライトニング・ピアス】は軍用魔術――軍に所属する魔導士が使用する戦争用の魔術だ。軍用魔術には軍用魔術でしか対抗できない。生徒達の中に軍用魔術を使える者などいない。学士生に過ぎない生徒達に軍用魔術を教えることは許されていないのだ。魔術師としては未熟な生徒達が知るには、軍用魔術は殺傷能力が高過ぎるのである。

 

 学士生が取得している攻性呪文は、せいぜい相手を気絶させる【ショック。ボルト】、目を眩ませる【フラッシュ・ライト】、突風で相手を吹き飛ばす【ゲイル・ブロウ】など、殺傷能力が低い術ばかりだ。

 

 黒魔【ライトニング・ピアス】を一節詠唱で起動できる相手に、そんな初等魔術で立ち向かうなど、それこそ銃を構えた相手に水鉄砲を撃つようなものだ。システィーナが今、こうして生きているのは……このチンピラ風の男の単なる気まぐれの結果に過ぎない。

 

 そして、パニックは遅れてやってくる。

 

「う、うわぁあああああああああッ!?」

 

「きゃぁあああああああああああッ!?」

 

 教室中が狂乱の渦に巻き込まれそうになった瞬間。

 

「うるせぇ、黙れ、ガキ共。殺すぞ?」

 

 一堂に指を向けた男の恫喝一つがそれらを瞬時に打ち消した。何人もの人間を殺した者だけが放てる本物の殺気に、耐性のない生徒達は沈黙と共に震え上がるしかない。

 

「おー、良い子、良い子。やっぱ、教室では静かにしないとなー。」

 

 誰も彼もが動けない中、チンピラ男は一人陽気にからからと笑った。

 

「でさ、オレ、良い子ちゃんのキミ達に、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

 

 男は怯えてうつむくクラスの生徒達を見回しながら言った。

 

「こんなかでさ、ルミアちゃんって女の子いるかな?いたら手をあげてー?もしくは知っている人は教えてー?」

 

 しん、と。クラス中が静まり返る。

 

「……ルミア?」

 

「…な、なんでルミアが……?」

 

 ひそひそと、押し殺したような囁きが、あちこちから漏れる。

 

 なぜ、ルミアの名前がここで出てくるのか?クラス中を困惑が走る。

 

 そして名前が出たせいで、何人かの生徒の視線が無意識に動いてしまっていたらしい。

 

「あー、なるほど。ルミアちゃんはこの辺にいるのかー?うーん、どの子かなぁ?」

 

 それを目ざとく拾ったチンピラ男はルミアが座る一角に歩み寄ってくる。

 

「ルミアちゃんは君かなぁ?」

 

 ルミアの二つ後ろに座る小柄な女子生徒――リンに、男がのぞき込むように顔を近づける。

 

「ち…違います…」

 

「じゃ、誰がルミアちゃんか知ってる?」

 

「し、知りません…」

 

「ふうん?……本当に?オレ、嘘つき嫌いなのよね……?」

 

 蛇ににらまれた蛙とはまさにこのことだ。リンは恐怖のあまり涙を流して震えていた。

 

 その時、システィーナはルミアへ密かに目配せをしていた。そうしなければ、何かを決意したように拳を握り固めたルミアが、今にも立って名乗り出てしまいそうだったからだ。

 

(だめよ、ルミア。きっと殺されるわ。)

 

(でも……ッ!)

 

(いいから、貴女はじっとしてて!)

 

 視線と首振りだけで言葉を交わし、笑う膝を叱咤して、システィーナが立ち上がった。

 

「あ、貴方達、ルミアって子をどうする気なの?」

 

「ん?」

 

 再び自分に突っかかってきた少女を見て、チンピラ男が面白そうに笑った。

 

「お前、ルミアちゃんを知っているの?それともお前がルミアちゃんなの?」

 

「私の質問に答えなさい!貴方達の目的は一体、何!?」

 

「ウゼェよ、お前。」

 

 今までのへらへらとした表情から一転、突如、男は蛇のような冷酷な顔になった。

 

「うん、お前からにすっか。」

 

「……え?」

 

 男はなんの迷いもなく、システィーナの頭に向けて――

 

「私がルミアです。」

 

 その時、ルミアが席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソったれ!」

 

 その頃ジョセフは、東館の向かい側、西館の方から二人組の男が入ってくるのを見た。その直後、四発の【ライトニング・ピアス】がシスティーナの周りを掠めるように放たれた。

 

「着弾した位置には…ッ!クソッ、ウェンディ!」

 

 確か、システィーナの後ろの席にはウェンディ、カッシュ達がいたはずだ。

 

(ウェンディは無事なのか!?カッシュやセシルは!?クソ、クソ、クソッ!)

 

 今すぐにでも教室に突入したい…だが――

 

(いや、あいつらを殺るには、完全装備じゃないとダメだ。だがそうなると…)

 

 学生が完全装備で突入したら、確実に怪しまれる。そうなったら、面倒なことになる。下手したら正体がバレる恐れがある。

 

(冷静になれ、ジョセフ。今突入したらマズい…)

 

 それからしばらくした後、一人の少女がダークコートの男に連れて行かれると扉はそこで閉められた。

 

(ティンジェル!?連中一体何をするつもりだ?)

 

 一人で考えても仕方がない、ジョセフはポーチから一枚の羽根を取り出した。その羽根を軽く振ると、羽根は光出し、マイク付きヘッドホンのようなものが出てきた。この羽根は、一種の容器であり、これを物にかざすと、その物を収容してくれる魔動器だ。収容した物は軽く振るといつでも出せる。

 

 マイク付きヘッドフォンみたいな物は連邦軍が正式採用している通信機であり、これにより、遠方の味方と通信することができる。この通信機ができたことで、レザリア王国との戦争では優位に戦いを進めることができた。

 

 ジョセフが通信機を頭に掛けて、起動するとしばらくして女性の声が聞こえてきた。

 

『はいはーい、今暇で、暇で死にそうなガルシアさんですよ~。なんのご用件かなぁ?ジョセフ君?』

 

 その女性――ガルシア=エンフィールドは、眠そうに用件を尋ねてきた。

 

 デルタは、現在五十人の隊員が所属しており、それぞれにナンバーと州の名前が割り当てられている。例えばジョセフの場合、ナンバー6『マサチューセッツ』だが、これはマサチューセッツ州が6番目に連邦に加入したためである。

 

 そして、その隊員を援護するのがガルシア等のオペレータである。ガルシアのように特定の人物の調査をしたり、もう一人いるが、隠しカメラで映し出された人物の表情を見て、心理的に分析してくれたりする。

 

「問題発生だ、ガルシア。今アルザーノ帝国魔術学院に男二人が侵入してきた。おそらくテロリスト…天の智慧研究会だ。」

 

『うわ…あのロクでもない連中が出張って来たってこと?』

 

「残念ながらそうだ。敵戦力は確認しただけで二人。二‐二教室を占拠し、生徒を人質に取っている。数は約五十人、内、一人は敵の一人に連れて行かれた。」

 

『かなり人質取られてるんだね。でも、魔術学院は帝国では最高の魔導セキュリティが築かれているんでしょう?こんなあっさり突破されるん?』

 

「そのことでだが、多分学院内もしくは元学院関係者の中に裏切り者がいる。何故なら、今日は魔術学会で主な教授や講師は出払っている。ウチのクラスは、授業が遅れていたから、例外的に授業があったわけだが…そこを突くように来やがった。内部の事情に詳しくないと出来ないぞこんなこと。」

 

『確かに内通者がいないとできないわね…セキュリティも敵さんに完全に掌握されているみたい。で、誰を調べてほしいワケ?』

 

「ヒューイ=ルイセンっていう人物を調べてほしい。2組の前担任で、約2ヶ月前に退職した講師や。それと、ルミア=ティンジェルについても調べてほしい。連中が何故、彼女を狙っているか知りたい。」

 

『了解。取り敢えず調べてみる。分かったら連絡する。』

 

「頼むで、通信アウト。」

 

 通信を終えたジョセフは再び2組の教室を見る。すると、今度はチンピラ男が銀髪の少女を連れ出していた。

 

「フィーベルッ!?クソッ、あれはマズい!」

 

 標的でもない人質を連れ出す。しかも男が女を連れ出すということは大抵ロクでもない。あのチンピラ男が、システィーナに対してやることはジョセフは簡単に予想できた。

 

 すると校舎内に、一人の人物がいた。ジョセフはその人物を見て安心する。

 

「グレン先生、生きていたか…システィーナは彼に任せるとして、こちらは教室内のクラスの連中の無事を確認しようか。」

 

 迷っている時間はない。直感でそう判断し、ジョセフは動く。ポーチから1枚の真っ黒な羽根を取り出す。その羽根を今までの小振りではなく、大振りで振る。

 

 そこには黒いコートを羽織り、黒いマスクで口と鼻を覆い、黒いシルクハット等全身黒ずくめの服装をしたジョセフがいた。

 

『…状況開始。まずは2組の教室だ。』

 

 ジョセフは2組の教室に向かった。

 

 

 

 

 




続けて2話投稿。
シルクハットはアサシンクリード・シンジゲードのジェイコブ・フライが被っているものだと思ってください。

今回は、コネチカット州です。

人口は360万人。首都はハートフォード。主な都市はハートフォード、ブリッジポート、スタンフォード、ニューロンドン。
愛称は、憲法の州です。
独立13州の一つであり、5番目に加入しました。

ニューヨークとボストンに挟まれ商工業がそこそこ盛んという、日本でいう山口県みたいな立場の州で、沿岸と内陸にそこそこな規模を持つ都市が点在しています。
ハートフォードは、保険業発祥の地であるほか、ニューヘイブンには名門エール大学が構えています。面積は全米で3番目に狭いですが、それでも岩手県と福島県の間というから、いかにアメリカが大きい国かが窺えるでしょう。富裕層が多く住み、平均所得は2番目に高いです。

以上!

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