だがしかし、このままいきます(笑)
――一方、その頃。夜気に包まれた学院会館、その屋根の上にて。
「……そうか。了解した。…だが…、…わかった。此方はそのように計らおう」
通信魔術でイヴの報告を受けたアルベルトが、淡々と応じていた。
「……イヴちゃんはなんと?」
早速、バーナードが、通信を切ったアルベルトに問いかける。
「イヴが、ザイードと黒幕を捕えたそうだ」
「ほう?…ふむ、やはりか」
「ここまでは…アルベルトさんとバーナードさんの推測通りですね」
特に驚いた風もなく、バーナードとクリストフが相槌を打つ。
「推測と言える程、大層なものではない。詰め戦戯盤と一緒だ」
「敵の戦力と計画を、此方が順当に潰したんじゃ。まぁ、そうなるじゃろうて」
「……ザイードを裏で操っていた黒幕の存在…それも二人が予見した通り、本当にいたんですね…イヴさんはそれに関する情報を僕らには伏せていた……」
どこか残念そうにクリストフが呟く。
「まぁ、いるじゃろ。いなきゃおかしいわい。敵が本当にあの戦力数なら、どう考えても一手足らんしのう。冷静な戦術眼があれば、あんな状況で仕掛けてはこんよ」
「イヴの真意を問い詰めるのは後回しだ」
アルベルトが冷徹な思考で、次に自分らが為すべきことに意識を向ける。
「俺達は、確保した敵を口封じに来るかもしれない新たな敵に、外で備えろとの事だ」
「……ん?三人共か?わしらの内、誰か一人くらいイヴちゃんの所に回した方が、確実じゃないかの?」
「”貴方達の助けは要らない”、”外を守れ”…奴はその一点張りだ」
「かぁ~~っ!イヴちゃんのやつめ、ほんっとうに手柄が欲しいんじゃな!?帝国軍に引き渡すまで、自分一人でやったという手柄が!」
「……どうします?アルベルトさん、バーナードさん」
「是非も無い。俺達の中では、百騎長のイヴが一番上の軍階だ。緊急特例条項に引っかからない限り、上官の命令は絶対。それが軍隊というものだ」
「軍階ねぇ…ああ、そうじゃなぁ、まったくもって、ままならんもんじゃのう……」
そんなことぼやいて頭を掻き、ため息を吐くバーナードを……
「貴方がままならないのは貴方自身が悪いんですからね?出世を嫌がって軍規違反を繰り返し、自分の戦果を他人に譲ってまで、今の十騎長の座にしがみついて……」
クリストフが呆れたようなジト目で睨む。
「だ、だって、千騎長とか将校ポジになっちゃたら、現場や前線に出られないじゃん!?イヴちゃん見る限り、百騎長ですら面倒臭いってのに!?」
「まったく…貴方って人は……」
バーナードがしどろもどろ弁解し、クリストフが呆れたように肩を落とす。
そんな二人の騒ぎを尻目に、アルベルトが空を見る。
その胸に去来するのは、かつて目に焼き付けた尊い光景…グレンのクラスの生徒達が南の島で楽しげに戯れていた、あの光景だ。
(……何事もなく、これで終わってくれればいいのだが……)
夜空の月は、やはりそんなアルベルトに応えることはなかった。
飛び出したジョセフは、魔術学院に向かうため、路肩に停めてあるジープに向けて駆ける。
そして、ドアを開け、運転席に飛び乗ると。
「おい、ジョセフ!お前、どこに向かうんだ!?」
ようやく追いついたフランクが息を切らしながら、ジョセフに問い詰める。
後には、三人も追いつく。
「……最初からだったんです」
「……は?」
ジョセフの言葉にフランクは意味が分からないとばかりに首を傾げる。
「≪魔の右手≫は最初から会場に、先生と王女の前にいたんです。指揮者として」
「な――ッ!?」
「≪魔の右手≫は本来、指揮者として務めることになった、学院の生徒を何らかの方法で負傷させ、自分を外部の指揮者として招聘させたんです。そして、曲のアレンジを提案したのは、そこに魔術的な仕掛けを施すため」
「魔術的な仕掛けを施すためって…いや、待て。確か≪愚者≫はザイードはクライトス校の学生に扮している少年だって――」
「その少年は、偽物です。恐らく、彼は何らかの方法で操られているんでしょう。一般のクライトス学院の生徒です」
「なんだって……ッ!?」
ザイール少年は偽物だという事に、一同は目を見開く。
「でも、なぜ?何のために?」
「≪魔術師≫の索敵に引っかからせるためでしょう。≪魔術師≫から自分の気を逸らせるために」
「だがよ、仮に指揮者だとしても、どうやって王女を暗殺するんだ?まさか、ご丁寧に王女達に近づいて刺すのか?」
この疑問は、誰もが思っていたことだ。指揮者から中央舞台まで距離がある。そんなところまでわざわざ近付こうものなら、かなり不審に思われても仕方ない。
「……だから≪魔の右手≫なんです」
「はい?」
「姉さん。指揮棒って右手と左手、どっちで持ちます?」
「え?確か…大体の人は右手で持つけど……」
ジョセフの問いかけに、ダーシャが要領を得ないような感じで答える。
「≪魔の右手≫はどんな感じに仕掛けているのかわかりませんが、あの指揮棒で、会場の出席者全員の精神を弄って暗殺していると思います。でないと、あんな暗殺できませんよ」
「ちょ、ちょっと待てよ」
ジョセフの推測にティムが疑問に思ったことを話す。
「確かに、その説だと今までの説明がつく。だが、会場には大勢の出席者がいるんだぞ?どうやって、大勢の人間に精神系魔術をかけるんだ?」
確かに、指揮棒を使って精神系魔術をかけ、暗殺の瞬間の記憶を空白することができるなら、≪魔の右手≫はなんだってできる。会場のど真ん中でナイフで滅多刺ししようが、絞殺しようが、撲殺しようが、なんだってできる。
だが、あんな大勢に魔術をかけるとしたら、魔力が足りるのだろうか?
いくら第二団≪地位≫でも、あの大勢の出席者にかけるのは魔力的にかなりの負担になるのは間違いない。
「楽奏団です」
「楽奏団?」
フランクが鸚鵡返しに問う。
「あんな大勢の人間にかけるならともかく、楽奏団を傀儡にし、そこから奏でる楽器を通せばどうなります?」
「どうなるって……」
「目で見れば五つの階段、瞑れば八つの階段」
ジョセフはエレノアの助言を引き出し、くすねた楽譜をダーシャに渡す。
因みに、ダーシャもピアノを弾けるので楽譜は読める。
「目で見れば五つの階段、瞑れば八つの階段…まさか……ッ!?」
ダーシャはその意味を理解したのか、戦慄した表情になる。
「そうです、姉さん。これらは楽譜のことを言ってるんです。五つの階段は五線譜、八つの階段は音階のことを表しているんです。つまり、目で見れば、五つの階段。瞑れば、八つの階段…つまり――」
「……音楽か……ッ!?」
フランクがピンときて、にわかに信じられない表情で言う。
ジョセフはそれを頷き、続ける。
「音楽は人の心を動かすことがあります。とはいっても、我を失うほどではありません。しかし、これに魔術的な仕掛けを施したら、人の精神を乗っ取ることなど造作もありません」
「そんこと――」
「それに今日の社交舞踏会で使われる曲は、交響曲シルフィード第一番から第七番。『シルフ・ワルツ』第一番から第七番です。≪魔の右手≫が第八番を外したのは、シルフ・ワルツの原曲、『大いなる風霊の舞』の言い伝えで、第八番を踊らないと、我を失った狂戦士になるからです。それで、外したのでしょう。『演奏が難しいから』という尤もらしい理由をつけて」
「なんてことだ……」
ジョセフの≪魔の右手≫の暗殺の手口の推測を聞いたフランクは顔を青ざめながら言葉が出てこなかった。
「おい…ちょっと待てよ…お前、確か、第八番を踊らないと我を失った狂戦士になると言ったな?」
直後、ティムがジョセフに問う。
顔を真っ青にしながら。
「はい、そうですが……」
「それってよ…つまり――」
ジョセフはそう答えるが、途中で気づき、青ざめる。
他の三人も何かを察したのだろう、青ざめていた。
「――≪魔の右手≫はそいつらに王女を殺させるつもりなんじゃないか?」
沈黙。
ただひたすら沈黙が流れる。
やがてしばしの沈黙が流れた後――
「ジョセフ、車を出せ!おい、お前ら、乗って学院に向かうぞ!急げッ!」
フランクが切迫した様子で矢継ぎ早に指示を出す。
それを受けて、全員が一斉にジープに飛び乗る。
ジョセフはイグニッションにキーをさし、エンジンをかける。
「大佐、≪魔の右手≫の暗殺手段がわかりました。これから、学院の突入の許可を要請します」
フランクは助手席で、マクシミリアンに許可を要請する。
『許可する。直ちに学院に突入し、≪魔の右手≫ザイードを確保、もしくは始末しろ。なお、会場内にいる外交官だが、一分前に通信が途切れた。映像もだ』
「了解。五分で現場に到着、突入します」
フランクが通信を切ると同時に、ジョセフはアクセルを強く踏む。
それと同時にジープはエンジン音を街中に響かせながら、魔術学院に向かって行った。
「ジョセフ、通信回路のハッキングが出来た。これで繋がるはずだ。≪隠者≫にも≪法皇≫にもな」
「サンクス、ホッチ」
ホッチンズがハッキングを完了した旨を聞いたジョセフは、その前に、グレンに警告しようとする。
「先生、ジョセフです。今すぐ演奏を中止させてください!≪魔の右手≫は音楽でルミアを暗殺するつもりです!」
ジョセフはグレンに警告するが――
「先生?先生!?返事を下さいッ!先生!?応答してくださいッ!先生ッ!クソったれッ!」
グレンからの反応はなかった。
一方、学生会館の屋根の上では。
「ふぅ…なんか、無事に終わってくれそうな雰囲気じゃの……」
「そうですね。僕の結界にも敵の反応はありません」
「しかし、ずっと思ってたんじゃが、この舞踏会、本当に良い演奏じゃったなぁ」
「ええ、是非、間近で聞いてみたい…僕もそう思っていました」
聞こえてきたフィナーレ・ダンスの演奏に、バーナードとクリストフが息を吐く。
と、その時。
学生会館の外壁を蹴り上がってきたリィエルが、一際強く壁を蹴って夜空へ飛び上がり、一同の頭上でくるりと回転し、一同の真ん中に、すたっと降り立った。
「ん。来た」
その姿はすでに燕尾服の美少年姿ではなく、宮廷魔導士団の礼服姿だ。
その細い肩には、高速錬成した大剣が、軽々と担がれていた。
「おお、リィエル。お疲れさん、頑張ったのう!偉いぞ!」
まるで可愛い孫を褒めるように、わしわしとリィエルの頭をなでるバーナード。
「ついさっき、イヴがそこはもういいから、今度はこっちにいろって言ってた。だから、急いで着替えて、こっちに来た」
いつものように眠たげな無表情でそう語るが、リィエルはどこか不服そうだ。
「おや、珍しくご機嫌ナナメのようじゃな?リィエル」
「……ルミアの、ろーべで?…もっと見たかったのに」
「わははは、そりゃ残念じゃったなぁ!なに、もうすぐ終わりじゃから我慢な!」
「……むぅ」
そっぽを向いて、ぷくぅと頬を膨らませるリィエルであった。
「てか、グレ坊のやつがマジで羨ましいわ。さっき遠見の魔術で中の様子をに盗み見したんじゃが…流石アリシアちゃんの娘、すっげぇ美人じゃったぞ…ふっ…やっぱ前言撤回、あやつが軍を抜けたの急に許せなくなってきたわ…後で一発殴る」
「あはは、バーナードさんったら。そうですね、その時は僕も手伝います」
「真面目にやれ、二人共。任務はまだ終わりではない」
と、アルベルトが微かに眉を顰めながら釘を刺すが……
談笑するバーナードにも、クリストフにも、一片の隙も見当たらない。
表面上とは裏腹に、バーナードもクリストフも未だ常在戦場、臨戦態勢なのだ。
二人とも心のどこかで感じているのだろう…まだ、終わりではない、と。
無論、アルベルトも同じだ。
その時。
「あれは……?」
ふと、クリストフは夜空に浮かぶ黒い影を見つけた。
その黒い影は鳥の形に見えるが、羽根が羽ばたいていない。
まるで無機質な機械…いや、機械だった。
その物体はブゥーン、とやや低音を発しながら、学院の周りを周回しているかのように飛んでいる。
クリストフはそれに見覚えがあった。
「あれは…連邦軍の……?」
「ん~、あれは、確かドローンとかいうやつじゃないかの?となると、デルタの連中かの?」
バーナードもクリストフにつられるかのように見上げ、ドローンと認識する。
「今まで静かだったのに、ここで動きましたね」
「ふーむ…今更動くとは、これは連中、何か掴んだな……」
もうすぐ終わりなのはデルタも知っているはずだ。
それなのにここに来てのドローンを使っての偵察。
何の理由もなく、動く連中ではないことは特務分室の面々は知っていた。
つまり、まだ終わりではことを表しているのだが。
(しかし…事実として敵の気配はもう微塵もない。今更、何かを仕掛けてくる気配もない。真逆、本当に是で終わりなのか?だとしたら、何故、デルタは今、動いた?)
デルタの行動が気になるが、ここまで何事もないと、アルベルトとてそう判断せざるを得ない。
そんな釈然としない気分を抱えながら、アルベルトは懐中時計を取り出し、時間を確認する。イヴと定期的に行う簡易報告の時間が来たのだ。
「此方≪星≫だ。≪魔術師≫聞こえるか?応答せよ。現在時刻一一〇〇時点において周辺警邏領域に連邦軍のドローンを発見した。其方の指示通り≪戦車≫とも合流。繰り返す、周辺警邏領域に連邦軍のドローンを発見した。≪戦車≫とも合流。…其方の様子はどうだ?デルタからなにか伝達はあるか?情報を求む」
アルベルトはイヴと直通の宝石型の通信魔導器を耳に当て、淡々と報告する。
だが――
「……イヴ?聞こえているのか?返事をしろ」
だが、アルベルトがいくら待っても。
通信魔導器から、イヴの応答が返ってくることは――なかった。
アルベルトは怪訝そうに眉を顰め――
その時、通信魔導器からノイズが発し――
『……ツ。……し……よ、繰り返す…し、…きなら、応…せよ』
ところどころで途切れているが声が聞こえてくる。
イヴではない。ノイズが酷いが、男の声だ。
やがて、ノイズが収まるにつれ――
『こちら、デルタ分遣隊≪マサチューセッツ≫。≪星≫、≪隠者≫、≪法皇≫、誰でもいい。応答せよ。繰り返す、応答せよ。こちら、デルタ分遣隊≪マサチューセッツ≫』
その声の正体は、『黒い悪魔』…ジョセフ=スペンサーだった。
「デルタじゃと!?一体、どうやってこの通信回線に入ったんじゃ!?」
バーナードが驚きの声を上げる。
「……こちら、≪星≫のアルベルト。『黒い悪魔』、何があった?何故、貴様らのドローンが飛んでいる?」
アルベルトは、淡々と応答し、真意を問いかける。
『ああ、良かった…貴方が操られていたらどうしようかと…もう、絶望的になってたわ』
「……操られていたら?どういうことだ?」
操られていたら。この言葉に違和感をかんじたアルベルトが怪訝に問う。
『≪星≫さん。状況は最悪なことになってるで。まだ終わりじゃない。これから連中仕掛けてくるで』
「どういうことだ?話せ、『黒い悪魔』」
アルベルトは淡々とジョセフに説明を促した。
今回はミネソタ州です。
人口は558万人。州都はセントポール。主な都市にツインシティーズ(ミネアポリスとセントポールの愛称)、ロチェスター、ダルースです。
愛称は北極星の州です。32番目に加入しました。
社会と政治の方向が比較的多様なことで知られ、市民の意識は高く、投票率も高いです。
健康管理で評価され、識字率も高いです。
住民の大半は北欧とドイツから移民してきた人々の子孫であり、スカンディナヴィア系アメリカ人文化の中心としても知られます。
近年は民族も多様化し、アジア系、アフリカ系、ラテン系の移民が増えて、ヨーロッパ系住民および元々のインディアンと混じり合っています。
全米屈指の穀倉地帯です。
それゆえ田舎州のイメージもありますが、ミネアポリス&セントポールのツインシティーズがあります(日本だと札幌のような存在で想像よりも大都市)。
北欧人が入植拠点にしていた地で、製粉や乳製品などの食品工業が栄え、かつてノースウェスト航空がハブを置いていました。
ミネアとは水のことで、湖が非常に多いです。
一方で、ミネソタは合衆国の冷蔵庫(いや、冷凍庫……)と言われ、冬場は氷点下20度に達することも珍しくないです…冷凍庫じゃねえか……
そのため、ミネアポリスでは室内にいながら市街地を自由に往来できるスカイウェイが発達しています。