ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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81話

 ……グレンとジョセフが女体化するという珍事から、ややあって。

 

 リィエル、ルミア、システィーナ、ジョセフ(もちろん、書類上の名前は別名だが)の聖リリィ魔術女学院への短期留学は決定した。

 

 グレンも臨時の女性教師として、聖リリィ魔術女学院へ派遣される運びとなった。

 

「まぁ、後のことは任せろ」

 

 グレンが抜けたクラスの担任講師は、一時的にセリカが代理で務めることになり……

 

 グレン達は早速、アルザーノ帝国魔術学院のあるフェジテを発つこととなった。

 

 帝国北部イテリア地方と、フェジテのある帝国南部ヨクシャ―地方を南北に結ぶ、アールグ街道。それを、グレン達は、街道の一定区間ごとに設けられたステージと呼ばれる停車駅ごとに、駅馬車を乗り継ぎながら北上していく。

 

「しっかし、最近、俺達、フェジテの外に出ること多いな……」

 

 馬車の中にて。窓の外の光景を眺めながら、グレンは誰へともなくぼやく。

 

 馬車内は、座席が向かい合うように配置されている。グレンは窓際の席、リィエルはその斜向かいの席に、ちょこんと膝を抱えるように腰掛けている。

 

「ふぁ…眠ぅ…引きこもりてぇ……」

 

 欠伸をかきながら、そんあことをぼやくグレンのその出で立ちは、いつものシャツにズボン、クラバットをだらしなく着崩し、講師用ローブを両肩に引っかける…といったものだ。女体化の影響で長く伸びてしまった髪こそ適当な紐で、ポニーテールに括ってあるものの、服装自体はいつものグレンとまったく変わらない。

 

 ザ・ズボラ女子。今のグレンは正にそれを体現していた。

 

『ふふっ、先生も女性用の衣服やお化粧で、もっとおめかししてみたらどうです?せっかく別嬪さんなのに、もったいないですよ?』

 

 ルミアはそう言ってからかうが、グレンもこればかりは譲れなかった。

 

(その一線越えたら、何か戻ってこれなくなる気がするしな……)

 

 因みに、ジョセフの方は……

 

『待ちなさいッ!せっかくですから、このわたくしの素晴らしい――』

 

『いやぁああああああ――ッ!?誰かウェンディを止めてぇええええ――ッ!?』

 

『うふふふ、ジョセフさんは背格好がどちらかというと私に近いので――』

 

『テレサさんまで何言ってるんですかねぇ!?ちょ!?誰かこの二人を止めて、止めてぇええええええええええ――ッ!?』

 

 ジョセフはものすごいオーラで迫ってくるウェンディとテレサから逃れるため、涙目で助けを求め…阿鼻叫喚の悲鳴を響き渡らせていた。

 

 そんな、いつも通りのなグレンとは裏腹に、リィエルはいつものアルザーノ帝国魔術学院の制服ではなかった。修道服にも似た華やかなワンピースに、ベレー帽…聖リリィ魔術女学院の制服姿だ。

 

 馬車の屋根上にある二階席で、陽光を感じながら風景を楽しんでいるシスティーナとルミア、まだ帝都に着いていないのに、ぐったりしているジョセフも、すでにその制服を着用している。いつもと違う制服は、普段の少女達とはまた違った魅力を見事に引き立てていた。

 

 

 

 

「それにしても…こうして余所の学校の制服を着るのって何か新鮮な気分ね」

 

「ふふっ…とっても似合ってるよ、システィ」

 

「ルミアこそ。うちのクラスの男子達が今のルミアをみたらきっと――」

 

「……うぅ…めっちゃスース―するぅ……」

 

「あはは…ジョセフ君も似合ってるよ」

 

「むむっ、こうして見ると、貴方かなりの美人ね」

 

 スカートの裾を握りしめて、恥ずかしそうにしている女体化したジョセフを、まじまじと見つめるルミアとシスティーナ。

 

「うぅ…そんな見んといてや……」

 

 ものすごく恥ずかしそうに、そう言うジョセフ。

 

(やだ…これはこれで可愛いわ……)

 

 そのあまりにも恥ずかしそうにするジョセフにシスティーナは内心そう思っていた。

 

 因みに、ジョセフは今、薄化粧をしている。

 

 ジョセフを取り押さえたウェンディとテレサがどちらがやるのかということで、カードゲームで決めようとしたのだが、結果はウェンディが全敗するという天才的な能力を遺憾なく発揮したため、テレサが薄化粧とかそういうおめかしをジョセフにしていたのだ。

 

 あの状況ではテレサにやらせた方が最善であったのかもしれない。

 

 スカートの中はスパッツを履いており、制服も今までのように着崩してはない状態。

 

 そして、元々、女顔であったため、薄化粧でも、いや、薄化粧だからこそ、美しさを最大限に引き出していた。これで街の中に出かけたら、かなりの確率で声がかかる、そういうレベルだった。

 

「はぁ…マジで死ぬかと思ったわ…あの二人、めっちゃ目が怖かったもん……」

 

 先日のことを思い出したのか、ジョセフは身をぶるぶると震わせながら、当時の様子を思い出す。

 

 片や、生きのいい獲物を捕らえた狩人のような目で――

 

 片や、相変わらずニコニコ笑顔だったが目がまったく笑っていない状態で――

 

 ジョセフはあの場面ほど、女は怖いと思ったことはなかった。

 

(まぁ、それはそうとして……)

 

 ジョセフは思考を切り替えるように、一階の馬車内に目を向ける。

 

 会話が弾んで賑やかな馬車屋根上の二階席とは裏腹に、馬車内は実に静かなものだった。

 

(まぁ、行く前のリィエルの顔を見た限り、落ち込んでいるからな……)

 

 別に、短期留学で落ち込んでいるわけじゃない。むしろ、グレン達を巻き込んでしまったことに対する罪悪感とかそういうものからきているものだと思う。

 

(……まぁ、ここは先生に任せるとしましょう)

 

 風になびく髪を押さえながら、ジョセフは空を眺めていた。

 

 

 

 

 途中、宿駅で宿泊しつつ旅を続け、フェジテを発って四日目の朝。

 

 一行は、アルザーノ帝国首都、帝都オルランドへと辿り着く。

 

 フェジテもそれなりに発展した大都市だが、やはり、帝都オルランドの発展ぶりはそれ以上だ。大時計塔、サンシャイン凱旋門、聖バルディア大聖堂、サンタローズ大通り、フェルドラド宮殿、帝国博物館、王立公園、アルザーノ帝国大学…朝霧に包まれた帝都は、とても雄々しく、美しかった。

 

 グレン達は早速、ハンサム馬車を拾って、帝都の北側にあるライツェル・クルス鉄道駅へと移動し、鉄道列車の切符を五人分、購入した。

 

 このライツェル・クルス鉄道駅の五番線ホームから、帝都より北西、湖水地方リリタニアにある聖リリィ魔術女学院直通の鉄道列車が発着しているのだ。

 

 鉄道列車…フェジテがある南部ヨクシャ―地方では、まだ当分先の話だが、帝都オルランドのある北部イテリア地方では、この蒸気機関による鉄道列車が、イテリアの主要都市間にある程度、整備され、運用されているのである。

 

 連邦では、民主主義という帝国とは違う政治体制のため、大統領選や上下院同時に行われる選挙などを円滑に行えるよう、連邦全土の州都など主要都市間全てに開通させていたり、最近では、ニューヨーク市内で世界初の地下鉄が開通されるなど、鉄道の整備は盛んであった。

 

「ええと…ここが、五番線ホーム…列車の出発は十一時…今は十時五十分だから…うん、ぴったりね!」

 

 元気一杯なシスティーナを先頭に、グレン達が駅のホームへと姿を現す。

 

 途端、無骨な汽笛が耳をくすぐり、煙、鉄と油、微かに香る石炭の臭いが鼻をつくが――そこは、まるで美しい花が咲き誇る花壇のように、華やかだった。

 

 なぜなら、その五番線ホームには、聖リリィ魔術女学院の制服に身を包んだ少女達が大勢たむろしていたのだ。いかにも洗練されたお嬢様達が、ホームのそこかしこで、きゃぴきゃぴ姦しく会話に華を咲かせている。

 

(うわぁ、なんだろう…ウェンディをかなり高飛車にさせたような人がうじゃうじゃいるような、いないような……)

 

 ジョセフは、アルザーノ帝国魔術学院にいる、少々高飛車なスーパー・ウルトラ・天然ドジッ娘幼馴染を例えにしながら、その雰囲気に圧倒されている。

 

「驚いた?あの子達、私達の留学先の聖リリィ魔術女学院の生徒達よ?」

 

 そんなジョセフと同じく雰囲気に気圧されているルミアへ、システィーナが得意げに説明を始める。

 

「基本、聖リリィ魔術女学院は全寮制なんだけど、先日まで学期の中間短期休暇だったらしくてね。きっと、実家に帰っていた生徒達が、連休明けの明日からまた再び学院に通うため、こうしてこの鉄道列車に――」

 

 と、その時であった。

 

 システィーナの解説に被せるように、一際大きく汽笛が鳴り響き――

 

 駅のホーム内に、蒸気機関車が力強い機関音を立てながら、十を超える車両を線路に沿って牽引しながら、ゆっくりとシスティーナ達の前に姿を現した。

 

 黒鉄で形作られた重厚なその造形。頭部の煙突から大量の煙を吐き出すその雄姿。

 

 そんな機関車の姿に圧倒されたシスティーナとルミアが、感動と感慨に目を丸くしながら、それを見つめている。

 

「そうか。お前ら、機関車(これ)見るの初めてだもんな」

 

 一方のジョセフは、連邦では当然の如く走っているので、そこまで驚くことなく二人に言う。

 

 まぁ、今の連邦の蒸気機関車の中には『11パーミルの上り坂を3300トンの貨物を引っ張りつつ時速100キロスオーバーで巡航』というアホ(というかキチガイ)なスペックを要求してできた機関車が走っているのを考えれば、この機関車はジョセフにとっては非常に可愛らしいものだった。

 

「ふ、不思議ねぇ…魔術もなしに、こんな鉄の塊が地を走るなんて……」

 

「うん、魔術の恩恵を受けられない人達の英知の結晶だよね…人は魔術に頼らずとも、ここまで出来るんだって…すごいね……」

 

「まぁ、割り切ってしまえば何でも出来るんだよ…キチガイなやつも作れるし……」

 

「き、キチガイって……」

 

「例えば、『11パーミルの上り坂を3300トンの貨物を引っ張りつつ時速100キロスオーバーで巡航』できる機関車が連邦では走っているからな……」

 

「……何なのよ、その規格外な機関車は……」

 

 なんでそんな化物を走らせているのよ、連邦(あなたたち)は。

 

 ジョセフから連邦で走っている機関車を聞かされると、システィーナは脂汗を垂らしながら頬を引きつっていた。

 

 その一方で……

 

「あー、うっせぇー、煙てぇー…誰だ、ンなもん発明しくさったアホは…近所迷惑だろ…コンチクショウ……」

 

 システィーナ達の後を、ずりずり旅行用スーツケースを引きずって、とぼとぼ歩いてくるグレンには、何の感慨もデリカシーもなかった。

 

「はぁ…もう、先生と一緒に遠出すると、いつも台無しなんだから……」

 

 システィーナはもう、呆れたようにため息を吐くしかない。

 

「んなこたぁ、どうでもいい!そろそろ乗車するぞ?忘れ物すんなよ!?」

 

 グレンが設置されたタラップを踏んで、客室の脇の乗車口から車内へ入ろうとする……

 

 ……と、ジョセフは、何か足りないと気付く。気付いてしまった。

 

「あの…皆さん?何か忘れてません?」

 

「あ?なんだ?忘れ物なんてないぞ?」

 

「……リィエルはどこ行きました?」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 

 

 同時刻。ライツェル・クロス鉄道駅構内のどこかで。

 

「…………」

 

 リィエルは手に旅行用スーツケースを提げ、一人ぽつんと立っていた。

 

 目の前を流れる人々の雑踏をまるで他人事のように、眺めている。

 

 リィエルはぼけっとしながら、自分の置かれている状況を改めて確認する。

 

(どこをどう見ても、わたし一人。…グレンも、ルミアも、システィーナも、ジョセフもいない)

 

 リィエルは、こんな状況を的確に表す言葉を知っている。そう、これは……

 

(迷子だ。…グレンと、ルミアと、システィーナと、ジョセフが)

 

 困った。一体、どうしてこんなことになってしまったのだろう?

 

 グレン達と一緒に移動中、わたしはただ立ち止まって、駅構内にあった苺タルトの屋台を眺めていただけなのに…原因はいくら考えてもわからない。

 

(ん…迷子のグレンと、ルミアと、システィーナと、ジョセフを早く探してあげないと……)

 

 だけど、グレン達はどこへ行ったのだろう?

 

 こんなに、大勢の人間の中で一人でいると…なぜか、段々と不安になってくる。

 

 以前は一人でいても、全然、平気だったのに……

 

(……ん。まぁいい…適当に探す。駅構内を全部探せば問題ない)

 

 もし、迷子になったらその場から動くなとグレンに口酸っぱく言われていたが、それも問題ない。だって、今、迷子になっているのはグレン達なのだから。

 

 リィエルが、グレン達のいる五番線ホームとはまったく関係ない明後日の方向へ、勝手に歩き出そうとした…その時である。

 

 リィエルはふと、背後から忍び寄る何者かの気配を感じ――

 

「あ、あの……」

 

 その何者か…うら若い少女は眼鏡を外しながら、リィエルに話しかけてきて――

 

「――ッ!?」

 

 それは、まさに一瞬の出来事であった。

 

 突如、発条が爆ぜたようにリィエルがその場で回転しながら、同時に大剣を高速錬成し――背後から近付いていた何者かの首筋へ、鋭く突きつけていたのである。

 

 誰の目にも止まらない、止める暇さえない、刹那の早業。

 

 つい半瞬前まで、ぼけっとしていた眠そうな迷子の姿はどこへやら。完全に臨戦態勢のリィエルが、その背後の何者かを、不倶戴天の敵のように睨み付ける――

 

「ひゃあっ!?」

 

 驚いたのは、リィエルに背後から近付いていたその少女だ。

 

 突然のリィエルの暴挙、突きつけられた大剣に、その少女は外しかけていた眼鏡を思わずかけ直しながら、その場で、ぴんと背筋を伸ばして硬直してしまう。

 

「……?」

 

 ……すると。

 

 険しいリィエルの表情は、途端、眠たげで興味なさげな緩んだものになり……

 

「……間違えた」

 

 錬成した大剣を、舞い散る光の粒子へと解除しつつ、少女に背を向ける。

 

 何事かと硬直する周囲の空気をまったく無視して、リィエルが歩き始める。

 

 そんなリィエルの背中に――

 

「……あ、…あのっ!ま、待ってくださいっ!」

 

 件の眼鏡の少女が、出会い頭にあのような狼藉を受けて尚、再び声をかけていた。

 

「ええと、貴女…そっちは、五番線じゃ…ないですよっ!そ、そろそろ五番線に行かないと、列車が出発してしまいますよっ!?」

 

 その言葉に、リィエルがくるりと振り返る。

 

「ん…?あなた、知ってるの?わたしが乗る列車」

 

「……え?いえ、その…貴女のその制服…私達の学院のものですよね…?だったら、私達と同じ五番線なのでは……?」

 

「よくわからない。忘れた」

 

 リィエルはその少女の姿を改めて、まじまじと見つめる。

 

 聖リリィ魔術女学院の制服に身を包んだ、全体的に華奢で小柄な線の細い少女だ。緩く波打つ柔らかな亜麻色の髪をセミショートにし、眼鏡をかけている。分厚い本を両手で抱えているような姿がなんとも似合いそうな少女だ。

 

 その長めの前髪と野暮ったい眼鏡が、少女の素顔を衆目から隠してしまっているが、それでもその少女の目鼻、顔立ちが相当に美しく整ったものであろうことは一目瞭然だ。

 

 やはり、聖リリィ魔術女学院の生徒のご多分に漏れず、この少女も良家の出身なのだろう。少々地味な印象だが、身に纏う清楚さや気品は隠しきれないほど滲み出ていた。

 

「あの…私、エルザと申します」

 

 エルザと名乗った少女が、リィエルへ、ぺこりと礼儀正しく頭を下げる。

 

「その…もう列車が出発する時間なのに、貴女が全然違う場所へ行こうとしていたので気になってしまって…余計なお世話だったでしょうか?」

 

「……別に」

 

 エルザに興味がないのだろう。リィエルの反応は実に素っ気ない。

 

「わたしは、グレンと、ルミアと、システィーナと、ジョセフを探さないといけないから」

 

「お連れの方がいるんですね?…あ、ひょっとして、貴女、迷子に……?」

 

 エルザが悪戯っぽく微笑んで、問いかけるが……

 

「違う。迷子はグレン達の方」

 

 どーん、と。不思議な圧力を纏って、リィエルが無表情に断言する。

 

「……そ、そうなんですか…ま、まぁ…そういうことにしておきますね……」

 

 エルザは曖昧に笑うしかなかった。

 

「ところで、そのグレンさん達も…聖リリィ魔術女学院の関係者なのですか?」

 

「ん。…今から、皆で、聖リリィ…ええと…そこに行く予定」

 

「でしたら、もう時間も押してますし…五番線ホームの方へ行ってみませんか?皆さん、きっとそこに居らっしゃると思いますよ?」

 

「……一理ある。でも、五番線って…どこ?」

 

「あはは、大丈夫ですよ。私がちゃんと案内しますから」

 

 朗らかに笑うエルザ。

 

 リィエルはしばらくの間、そんなエルザの顔を、不思議そうにじっと見つめて……

 

「……ふふっ、さ、行きましょう?」

 

 エルザは朗らかに笑いながら、リィエルの手を取り、引いて歩き始めた。

 

 リィエルは握られた手をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

「もうっ!リィエル!どこへ行ってたのよ!?心配したんだからっ!」

 

「……よかった、間に合って」

 

「ホント、世話の焼けるやつ……」

 

 エルザに導かれて五番線ホームにやって来たリィエル。その姿を見つけるや否や、システィーナとルミアが駆け寄り、ジョセフはそれを遠巻きに見て、ほっと安堵の息を吐くのであった。

 

「どうも、ありがとうございます。ええと……」

 

 そして、ジョセフが見知らぬ少女へリィエルを連れてきたお礼を言う。

 

「……私、エルザと申します。見ての通り聖リリィ魔術女学院の生徒です。ええと…リィエルさん?この子が道に迷っていたみたいなので、ここへ案内したんです」

 

「そうなんだ…ありがとう、エルザさん」

 

 丁寧なエルザにシスティーナが微笑んだ。

 

「私はシスティーナ。こちらの子がルミアで、こちらがジョセフィーヌよ」

 

 ジョセフィーヌ。ここまでジョセフという名前が便利だったとは思わなかった。そう、ジョセフは男性名詞だし、それを女性名詞、つまり、ジョセフィーヌに変えただけである。

 

「はじめまして、エルザさん」

 

「どうも。改めて、リィエルを案内してもらってありがとうございます。私達はアルザーノ帝国魔術学院からの留学生で……」

 

「ふふっ…お互い挨拶は後回しにして、まずは列車に乗車しませんか?」

 

 そんなエルザの言葉を肯定するように、列車出発を告げる鐘が辺りに鳴り響き…汽笛が鳴り始めた。

 

「ん、もうこんな時間か」

 

「わ、本当!もうこんな時間だわ!エルザさんの言うとおりね!」

 

 システィーナ達は慌てて、タラップを踏んで、列車内へ乗り込んでいく。

 

 そして、それを最後に、駅員が乗降口の扉を閉めるのであった。

 

「ふぅ…なんだかんだで結構、ぎりぎりだったわね……」

 

「まったくや。まぁ、なんとかなったわ」

 

 システィーナとジョセフがいつの間にかかいていた額の冷や汗を、そっと拭いた。

 

「皆、無事に列車に乗れて良かったね、システィ」

 

「ええ、ほんと一時はどうなることかと思ったけど……」

 

 すると、システィーナはリィエルが妙にきょろきょろしていることに気付く。

 

「どうしたの?リィエル」

 

「……グレンは?」

 

「……あ」

 

「先生?先生なら、さっきリィエルを捜しに行って…って、……あ」

 

 ジョセフとシスティーナとルミアが、ようやく気付いて真っ青になった…その時だ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!」

 

 遠くから雄叫びが聞こえてくる。

 

 閉じられた乗車口の窓越しに列車の外を見れば……

 

 グレンが、鬼気迫る表情で猛然と列車に向かってダッシュしてきていた。

 

「はいはいはいはいっ!こうなる気がしてましたよっ!ド畜生ぉおおお――ッ!」

 

「せ、先生――っ!?は、早く、早くッ!」

 

「リィエルは戻ってきましたよっ!急いで下さいっ!」

 

「あかんっ!これ、そろそろ出発するでっ!?」

 

 だが、そんなシスティーナとルミアとジョセフの言葉も虚しく。

 

 グレンの目の前で…列車が無慈悲に機関音を立てて、ゆっくりと動き出す……

 

 グレンの姿がゆっくりと後方へと流れていく……

 

「ええええ――っ!?ちょ…嘘でしょ!?」

 

「せ、先生ぇ――っ!?」

 

「ちょちょちょちょちょちょちょ!?マジで、冗談抜きでヤバいって……っ!」

 

「ちっくしょぉおおおおお――ッ!?≪我・秘めたる力を・解放せん≫――ッ!」

 

 グレンが白魔【フィジカル・ブースト】の呪文を叫び、魔力を全開放する。

 

 ほんの一瞬だけ、限界を超えて身体能力を超強化して――超加速。

 

「間・に・合・えぇえええええぁあああああああああああああああああああ――ッ!」

 

 ばっ!走り始めた列車に向かって、グレンが空高く跳躍するのであった――

 

 

 

 






ここいらでよかろう
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