風邪で二日間ダウンしてました……
微熱と高熱を彷徨う辛さよ……
「な、なんとか間に合ったぜ……」
結局、動き始めた列車の窓ガラスをぶち破って列車内に飛び込むという、ダイナミック乗車を果たしてしまったグレン。
「でも、この公共物破損…まーた、始末書と減給だよなぁ…ちくしょう……」
もうさめざめと泣くしかないようであった。
まぁ、器物損壊罪で逮捕されないだけ、まだマシかと……
「ん。迷子になるグレンが悪い」
「お前のせいじゃ、ボケェエエエエエエエエエエエエエエええええええ――ッ!?」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり――ッ!
「……ものすごく痛い」
そんなこんなで。
とりあえず、グレン達はどこか腰を落ち着ける場所を探そうと、列車内を歩き始めた。
袖振り合うも多生の縁…その流れでエルザもご一緒することになる。
グレン達は列車の進行方向…前方車両の方へと向かって、列車内を歩いて行く。
「なんか…どうやら、うちのリィエルが随分と世話になっちまったみてぇだな」
歩きながら、グレン達とエルザは互いの自己紹介や身の上話などで盛り上がっている。
「あんがとな、エルザ」
「いえいえ、困ったときはお互い様です。ええと…レーン先生でしたよね?リィエルさん、落第退学を回避するために、遠路はるばる留学だなんて大変ですね……」
「ほぼ自業自得だがな」
エルザがグレンを『レーン』と呼ぶ。女となったグレンの対外的な名前は、グレンが1秒で考えた『レーン=グレダス』なのだ。無論、グレンが提案した瞬間、それでいいのかと、その場の誰もが総ツッコミしたのは言うまでもない。
「あれ?…でも、リィエルさん、先ほどまで貴女のことを『グレン』と……」
「え!?あ、それ、ただのニックネームだから、気にスルナ!(このアホ!)」
ぐりぐりぐり……
「……痛い」
そんな温い談笑を交わしつつ、グレン達は列車にをさまよう。
車両は基本的に、コンパートメントタイプ…一つの車両が複数の個室に区切られており、列車の進行方向に向かって左側に向かって個室が並び、右側に通路がある――連邦ではニューヨークからシカゴなど、長距離運行ではよく使われている車両――…そんな構造であった。どの個室もほぼ満席状態で、エルザを含む六人が、一緒に座れる余裕はない。
流石にこれから到着までの数時間、揃って立ちっぱなしはきつい。
グレン達は席を探して、さらに、前方車両へ……
すると。
「お、…おお!これは……ッ!?」
やがて、これまでのコンパートメントタイプ車両から一変して、車両全体が一つの空間となっている開放的なオープンサロンタイプ車両に遭遇した。
特筆すべきことは、通常、オープンサロンタイプ車両は、中央の通路を挟んで左右に座席が配置されるものだが……
「座席が車両の左端にしかないとか、初めて見たぜ…これがブルジョワ……」
グレンが感嘆するとおり、車両の右側は完全にがら空きであり、客室内はとても広々としている。そして、広く空いた右側の空間は、カフェテーブルや調度品などがあり、行き交うお嬢様達のちょっとした社交場と化しているのであった。
(……まぁ連邦だったら、こんなのちょっと高い料金払えば乗れるんやけど)
この車両に対し、ジョセフは特に何とも思っていなかった。
「さっすが、お嬢様用の列車だな…こんな贅沢な車両の使い方してんの他にねーよ」
口笛をひゅうと鳴らしながら、グレンは物珍しげに辺りを見回した。
「連邦では、こんなのちょっと高い額払えば、乗れますよ?先生」
「こんなのって…マジでお前んとこ何なの……?」
ジョセフの淡々とした言葉に、グレンは思わず頬を引きつる。
最早、彼の話から聞くに、連邦がキチガイ国家、チート国家にしか思えなくなっているんだが。
幸いオープンサロンタイプ車両は、席にも充分な余裕があった。
あまりにも不自然なほどに。
こんなに空いているのに、どうしてあの生徒達はコンパートメントタイプの車両にすし詰めになっているのか?ジョセフはこれは何かあると感づいた。
「まぁ、いいや!よっし、お前ら!どっかそこら辺の一角に、適当に座ろうぜ!」
一方、この状態に何の疑問も持たないグレンは、嬉々として、一同にそう促すが……
「あ…その、グレ…ええと…レーン先生……」
エルザが申し訳なさそうに、おずおずとグレンへと話しかけていた。
「この車両はその…私達は使えないんです…すみません……」
「……へ?そりゃ一体、どういう……?」
エルザの妙な台詞に、グレンが間抜けな声を上げた…その時である。
「お待ちなさい、そこの方々!」
「ん?」
グレン達の周囲を、少女達の集団が取り囲んでいた。
全員、聖リリィ魔術女学院の制服に折り目正しくきっちりと身を包んでおり、良家出身者特有の堅苦しく居丈高なオーラを全身から放っている。
その集団の先頭には、一際高貴なお嬢様オーラを放つ(多分、ウェンディの三倍ぐらい)美少女が佇んでいた。豪奢な金髪を立てロールにし、いかにも高級品っぽい煌びやかな細剣をその細腰に佩いている。
そんなやけに目立つ縦ロールのお嬢様が、取り巻きの女子生徒集団を引き連れながら、しずしずとグレン達の前に歩み寄ってきた。
(うわぁ…こりゃ、面倒臭ぇぞ……)
「な、なんだぁ……?」
「見かけない顔ですわね、貴女達。黒百合会の方々…でもなさそうですが」
縦ロールお嬢様が、値踏みするようにグレン達を流し見る。
「なんだか、立ち居振る舞いに、うちの学院に相応しくない田舎臭さが滲み出ていますが…まぁ、今は不問にして差し上げましょう」
髪をふわさと掻き上げる縦ロールお嬢様。
仄かに漂う香水の香りは、無粋なグレンでも一嗅ぎでわかる高級品だ。
「それよりも、貴女達…今、そこの席に入ろうとしていたみたいですが…この車両がわたくし達、白百合会のもだと知ってのことでしょうか?」
「……はい?白百合?」
思わず間の抜けた声を上げてしまうグレン。
(あぁ、そういうことか…だから、不自然なまでに空いていたのね……)
この縦ロールお嬢様の言葉で全てを察したジョセフ。
「いや…ここの車両って自由席じゃなかったっけ?指定席だったか……?」
グレンは手元の切符で、自由席車両を確認する。だが、間違いは見当たらない。
「うーん…やっぱ、俺達、別に間違っちゃいねえぞ?」
「先生、そういう問題ではないかと……」
「ん?どういうことだ?」
「……『俺』…?貴女、なんだか殿方みたいな言葉遣いですのね…下品な」
まぁ、そりゃ『男』ですからねぇ。今は(アルフォネア教授のおかけで)『女』ですけど。
そんなグレン達の事情など露知らず、表情に微かな嫌悪を滲ませ、縦ロールお嬢様が言葉を続け……
「それはともかく。自由席だろうが、指定席だろうが、そんなもの関係ありませんわ」
胸を反らして高圧的にそう宣言していた。
「ここの車両は、わたくし達のものです。勝手に居座ろうなどとはこのわたくしが許しませんわ。即刻、この車両から立ち去りなさい。ルールは守るべきものです」
(……うん、とりあえず遵法精神身につけてから出直してこい)
ジョセフ、心の中でそう突っ込む。
「いーやいや、待て待て!ルール破ってんのはどっちだ!?」
流石にぎょっとして、グレンが反論する。
「いっくらお嬢様用っつっても、この鉄道列車は一応、公共機関だろ!?だったら切符さえ買えば、自由席は誰だって自由に座っていいに決まってんだろ!?」
「はぁ…居るんですのよね…伝統と規律を蔑ろにし、自分だけのルールを押し通そうとする無粋で下劣な輩が……」
(それは自分らのことを言っているんだろうか?)
ジョセフ、このアホお嬢様、特大ブーメランを放ちやがった。と心の中で思う。
「どっちが自分ルールだ!?いい加減にしろや、てめぇ!?」
呆れたようにため息を吐く縦ロールお嬢様に、グレンが至極真っ当に突っ込むと。
「貴女ッ!どこの馬の骨か知りませんけど、フランシーヌ様になんて言葉遣いを!?」
「お下がりくださいませ、フランシーヌ様!私達がこの不埒な輩を、しっかりと教育しておきますがゆえに!」
取り巻きの少女達が、グレン達を取り押さえようと、じりじりと動き始める。まるでフランシーヌという少女のためならば、命をも投げださんばかりの鬼気迫る表情だ。
(教育って、彼女らは何様の心算なのだろうか?)
ジョセフ、この学院の生徒達、大丈夫なのだろうか?と心の中で思う。
「な…なあにこれ……?」
少女達の、なんとも形容しがたい異様な雰囲気にグレンが気圧されていると……
「はっ!相変わらずダセェことしてんなぁ!白百合会の連中はよぉ!」
そこに、新たな少女達の集団が現れた。
いかにも高貴で折り目正しい縦ロールお嬢様の集団とは違い、新たな集団を構成する少女達は、何というか…微妙に制服を着崩し、流行のアクセサリーなどで身を飾り、髪などを染め、どこか垢ぬけた…というか、チャラい雰囲気が漂っている。
その新たな集団のリーダー格らしい先頭の少女は、腰まで届く長い黒髪と、鋭い切れ長の瞳が特徴的な、随分と男前な美少女だ。鋲付き手袋を嵌めた両手を腰に当て、皮肉で不敵な笑いを浮かべ、縦ロールお嬢様の集団を睥睨していた。
「コレット!黒百合会の貴女達がどうしてここに!?この車両はわたくし達の――」
「はっ!知らねえな、フランシーヌ!てめぇらが勝手に決めたルールなんざな!」
フランシーヌと呼ばれた縦ロールお嬢様と、コレットと呼ばれた不良お嬢様が、まるで親の仇でも見つけたかのような形相で、睨み合い、火花を散らし合う。
「座席ぐらいでケチケチすんなよ、なぁ、フランシーヌ」
「育ちが知れますわね、コレット。そうやっていつも貴女は、我が校の伝統と規律を蔑ろにする…貴女方、黒百合会は、我が校の恥ですわ!」
「なーにが伝統と規律だ!ああ?今時、座席の優先権?くっだらねえ!」
「座席の伝統は、先達の方々が各交流会派閥同士の余計な軋轢を回避するために作り上げた、尊いものですわ!それを侮辱するのは、わたくし達の先達へ対する――」
なんだろ。
(えーと、フランシーヌっていうやつが滅茶苦茶で、コレットというやつがまともに――)
「はん、バカらしいね!それで、そうやっていちいち座席を巡って喧嘩してんじゃやってられないぜ!だから、アタシ達は自由に勝手に座る!何者にも指図はさせねえし、文句も言わせねえ!そこが自由席だろうが、指定席だろうがな!」
――と、思っていた時期が、私にはありました。
ジョセフは、がくりと頭を傾ける。
「いや、それは駄目だろ!?」
思わず律儀に突っ込んでしまうグレン。
だが、そんなグレンのツッコミも虚しく、フランシーヌを先頭とする集団と、コレットを先頭とする集団は、激しい言い争いと共に、一触触発の雰囲気に包まれていく。
「ったく、なんなんだよ、こいつら……」
グレンはもう、呆れたようにその騒ぎを眺めるしかない。
と、その時だ。
「あの…二人とも…今日はもう、その辺にしてくれない…かな?」
今にも互いへ相手に飛びかからんばかりのフランシーヌとコレットの間に、エルザがそっと割り込んで入っていた。
「お、おい……ッ!?」
グレンがぎょっとする。
図書室の片隅で一人静かに本でも開いてそうなあのエルザが、まさかこんな激しい剣幕の二人の間に、躊躇いなく入るとは夢にも思わなかったのだ。
「なんですって!?」
「ああっ!?なんか言ったか、こら!?」
案の定、たちまちフランシーヌとコレットに睨み付けられるエルザ。
十代のうら若い少女とは思えないその凄みと剣幕に、普通の少女なら竦んで震え上がるであろうこと請け合いだが……
「フランシーヌさん…この人達…アルザーノ帝国魔術学院からやってきた留学生と臨時講師の方で…その…長旅で疲れてるだろうから、何とかここの席、使わせてくれないかな…?もちろん、私はいいですから……」
だが、意外にもエルザは引かない。二人を真っ直ぐ見つめて言葉を続ける。
「コレットさんもその…今日は喧嘩はやめてくれないかな…?留学生の人達が迷惑するから……」
エルザの口調は遠慮がちではあるが、おどおどはしていない。
(この娘……)
こう見えて、案外、芯が強い少女なのかもしれない。
だが――
「うるっせぇなっ!どっちつかずのやつが、指図してんじゃねえよっ!?」
「これは、私達の問題なのです!部外者は引っ込んでくださいましっ!」
すっかり頭に血が上っているコレットとフランシーヌに、エルザの言葉は届かない。
どんっ!二人は同時に、間に割って入ったエルザを突き飛ばしていた。
「……っ!?」
突き飛ばされたエルザが、後ろによろめく。
不幸にも、エルザはその弾みで誰かのつま先に偶然、踵をひっかけたらしい。
エルザの身体が、そのまま後ろへ、ぐらり、とバランスを崩して……
「あっ…ッ!?ご、ごめんあそば――」
「や、やっば、やりすぎ――」
フランシーヌとコレットが、慌ててエルザへ手を伸ばすが、もう遅い。
「おいっ!?お前ら、何やって――」
声を荒げるグレンの位置からも、エルザは遠過ぎて、フォローは間に合わない。
(クソッ!移動日からこれって、マジでふざけんなよッ!?)
ジョセフは飛びかかるようにエルザに向かうが、間に合うかどうかわからない。
後ろに倒れていくエルザの後頭部が、座席の手すりを目がけて落ちていって……
激突する――その瞬間。
「きゃ!?」
倒れかけたエルザを、背後からしっかりと支えた者がいた。
……リィエルだった。そのまるで瞬間移動のようなリィエルの動きに気付けた者は、恐らく、グレン達を除いて誰もいなかっただろう。
「……大丈夫?えーと、…エルザ…だっけ?」
「あ…うん…私は大丈夫……」
「そう。…なら、いい」
それでもうエルザには興味は失ったと言わんばかりに、リィエルがエルザから離れ、定位置…システィーナとルミアの背後に隠れるような場所に戻っていく。
エルザはそんな素っ気ないリィエルの背中を、目を瞬かせ、意外そうに見送る。
その一方で……
「ほっ……」
「ふぅ……」
フランシーヌが安堵したような息を吐き、コレットが額の冷や汗を拭う。
「アンタら、危ないやろっ!もし、彼女が後頭部を打って意識不明になったらどないすんねんッ!?」
ジョセフがたまらずフランシーヌとコレットに声を荒げる。それに対し、二人は何も言い返すこともできないのか、押し黙る。
やがて、二人は危うくエルザに怪我をさせかけた気まずさを誤魔化すように……
「と、とにかくですわ!コレット!これ以上、我が校の規律と伝統を侮辱するなら、容赦しません!今、この場で、このわたくし自ら貴女を処断いたします!」
フランシーヌが右手で細剣を抜き放ち、左手を前に構えて呪文詠唱の体勢に入り……
「ほ、ほう?やんのか?こら。…いいぜ?ここで決着をつけるかぁ……?」
対するコレットは鋲付き手袋を嵌めた両手を拳闘の型に構え、相手の懐へ一気に飛び込む体勢に入り……
「フランシーヌ様、お守りいたしますわっ!」
「コレット姐さんっ!助太刀するわっ!」
周囲の取り巻き達も、臨戦態勢に入っていき……
場に再び、一触触発のぴりぴりとした空気が張り詰めていった。
「ったく、こいつらは…さて、どうしたもんかね……?」
再び振り出しに戻ってしまった状況に、グレンが痛くなる頭を押さえていると。
「どうも」
どこか、気の抜けた声が、グレン達に投げかけられる。
いつの間にか、グレンの傍らに少女が立っていた。長い灰色の髪をお下げにした、無表情の美少女だ。やはり、聖リリィ魔術女学院の制服に身を包んでいる。
「ど、どうも……?」
「いや、私、不本意ながら、あの縦ロールなフランシーヌお嬢様付きの侍女をやっております、ジニーと申します。以後お見知りおきを」
「ふ、不本意なながらって……」
滅茶苦茶に棒読みで無気力で抑揚のない挨拶を、淡々としてくる少女ジニー。
これまた、リィエルとは違ったタイプの不思議ちゃんだなとジョセフは思っていた。
「えーと、貴女達、留学生と臨時講師の方でしたっけ?」
「あ、ああ…そうだが……?」
「いや、すみませんね。初めての方はさぞかし面食らったでしょう」
やれやれ、とばかりに肩を竦めるジニー(無表情)。
「はぁ…うちのガッコの世間知らずなバカお嬢と、なんちゃってファッション不良娘がとんだご迷惑をおかけしました。実はですね…ああやって、白百合会(笑)とか、黒百合会(笑)とか、女子グループ同士で、ずぅ~~っとアホな小競り合いやってるのが、うちの学校の伝統でして…派閥抗争(爆笑)っていう構造に酔っ払っているというか」
「は、はぁ……?」
「主の評価ズタボロやな……」
「……笑えますよね?所詮、大人達に守られたあんな狭っ苦しいコミュニティの中で、何を支配者気取りで偉そうに粋がっちゃてんだが…ぷっ、思春期乙」
淡々とした毒舌とは裏腹に、ジニーの言葉にはまったく感情が乗っていなかった。
「さて…私達、これから黒百合会の連中と一悶着ありそうですが…貴女達、巻き込まれたくなかったら、後方車両の方に行くといいですよ。そこなら派閥フリーですから」
「そ、そうなのか…?あんがとな……」
戸惑うグレンに、こくりとジニーが頷いた、その時だった。
「ちょっと、ジニーッ!何やっているのです!?いつものようにわたくしのフォローを頼みますわッ!」
フランシーヌがそんなキンキン声を、ジニーに投げかけた瞬間。
「はっ!只今、参りますっ!お嬢様!」
唐突に別人のように豹変したジニーが、フランシーヌの側に一瞬で駆け寄る。
「前衛はお任せください、お嬢様!この不肖ジニー、あのような悪辣な輩共に、お嬢様には指一本たりとも触れさせませんゆえに!」
まるで、戦乙女のような凛とした気迫を纏い、ジニーがフランシーヌに寄り添う。
(……大変やな)
そんなジニーの様子をジョセフは苦笑いで眺めていた。
なんだろう、凄い他人事とは思えなかったからだ(まぁ、ツインテールお嬢様のほうが、縦ロールお嬢様と比べたら断然、マトモなのだが)。
「流石、先祖代々、我が家に仕えてくれている執事家の娘にて、我が心の友ですわ!貴女がわたくしに仕えてくださっていること、光栄に思いますわ!」
「勿体なきお言葉」
多分、アイツがここに入ったらとんでもないことになっていただろうな~。
「はっ!来たなぁ~ッ!?ジニーッ!このフランシーヌの忠犬がぁ――ッ!?今日こそ、お前をぶっ潰してやらぁ――ッ!」
待ってましたとばかりに拳を構えて、突進してくるコレット。
戦いの歓喜にぎらぎらとした目が、空間に黒線を引き――
「下がれ、コレット!この下郎め!私はフランシーヌお嬢様の盾であり剣!この私がいる限り、貴女の悪辣なる牙がお嬢様に届くことは決してないっ!」
ジニーが、身のこなし軽くそれを迎え撃ち――
真空を裂く音と、乾いた衝撃音。
コレットが猛然と振るった拳打の一閃を、ジニーが鞘付きの短剣で受け止める。
「く……ッ!?」
「ちぃいいいッ!?」
裂帛の気迫に、びりびりと震える空気。
どちらも学生にしては中々の技量だ。かなりの鍛錬を積んでいるように見える。身体能力を強化する白魔【フィジカル・ブースト】も、かなり上手に使いこなしている。
そして、その激突を切っ掛けに。
両陣営の取り巻き達が、左手を構えて一斉に呪文を唱え始め――
「逃げますか……」
「た、退散んんんんんんんんんんんんん――ッ!?」
「ひゃっ!」「きゃあああ――っ!?」「うわわわ……」「……?」
ジョセフは付き合ってられんとばかりに、退散し、グレンは慌てて、背中にエルザを背負い、左右の両脇にシスティーナとルミアを抱え、リィエルの後ろ襟首を咥えてぶら下げ、その場から脱兎のごとく退散する。
飛び交う攻性呪文の炸裂音と少女達の悲鳴と怒声を、背中に浴びながら……
(あっれーっ!?なんか、ボクが想像していた、キャッキャウフフな花の女子校と違うみたーいっ!?ナンデーっ!?)
グレンは先行きの不安を禁じ得なかったのであった。
ここいらで良かろう。