USA!USA!ならわかるが…
「ほら、こっちだ。早くしろよ。」
「きゃあっ!?」
突き飛ばされてシスティーナは硬く冷たい床に倒れ伏した。
「な、何するのよっ!?」
システィーナの両手は背中で、黒魔【マジック・ローブ】によって生み出された魔力の紐によって縛り上げられている。そのため一度倒れてしまえば立つこともままならない。
システィーナは床に寝そべったまま、顔だけ動かしてチンピラ風の男――ジンをにらみ上げる。ジンは芋虫のように床で悶えるシスティーナの姿を、舐めるような目で楽しげに見下ろしていた。
ここは魔術実験室。昨日、この部屋でなんらかの結界構築実験が行われたらしい。床には鶏の血で描かれた五芒星がある。血の結界の中心に倒れ込んだシスティーナの姿はまるで悪魔崇拝の儀式に捧げられた生贄のようだった。
「こんな所に私を連れてきて……一体、私をどうする気!?」
内心の不安と恐怖をかみ殺すように、システィーナはジンへと食ってかかる。
「ん?決まってるだろ?ヒマだし、まだ時間あるし、お前使って一発抜いとこうかなと思って。」
「な――」
「せっかく、なかなかの上玉見つけたんだ。暇な時間に喰っとかねーと勿体ないだろ?ククク……」
まるで昼食の予定でも答えるかのような、あっさりした返答にシスティーナは一瞬、言葉を失った。下品極まりない言い回しだったが、その言葉の意味がわからないほど、システィーナは子供ではない。背筋を、怖気が駆け上がった。
「あ、貴方……何、言って……」
「いやー、オレってお前みたいな乳臭いガキ結構、好みなのよ?ロリコンって奴?ぎゃはは、捕まっちゃうなー。」
青ざめるシスティーナをよそに、ジンは愉快に笑った。
「うーん、でも、お前くらいの女に欲情すんのって本当にロリコンって言うんかいな?一応、ケッコンとかできる年齢なんだろ?どう思う?」
「ふざけないでッ!わ、私はフィーベル家の娘よ!私に手を出したら……お父様が黙っていないんだから!」
「うわー、怖ーい。でも、関係ねーな。つーかフィーベル家って何?偉いの?」
「きゃ――」
フィーベルのなをまったく意に介さず、ジンはシスティーナを組み敷いた。
身動きは封じられ、悔しいが何一つ抵抗できない。
今のシスティーナはまさしく悪魔に捧げられた生贄そのものだ。
「……好きにすればいいわ。」
システィーナが怒りの灯った声色で静かに言い、自分を組み敷くジンをにらみ上げた。
「お?」
「私を慰み者にしたいなら好きにすればいいわ。だけど、覚えておきなさい。貴方だけは……必ず殺してやる。今は無理でも…いずれ地の果てまで貴方を追いかけて殺してやるわ。この屈辱を晴らしてやる…フィーベルの名に懸けて。」
「……」
死神の鎌のように鋭い眼に、ジンはしばらくの間、射竦められたかのように沈黙して。
「ぎゃははははははははははは――ッ!」
突然、爆発したように大笑いを始めた。
「な、何が、おかしいの!?」
「ひゃははははっ!いや、だってさ――」
大笑いのあまり、目尻に浮かんだ涙を拭いながらジンは言った。
「実はオレ、ルミアちゃんみたいな奴は嬲っても面白く思わねーんだ。」
「は?」
前後の噛み合わない言葉にシスティーナは困惑する。
「ルミアちゃんって一見か弱ーい女の子に見えるが、ありゃ、常時覚悟しているタイプの人間だ。そーゆー奴はどんな苦痛を与えられようが、辱めを受けようが、決して心は折らねえ。それこそくたばるまでな。オレにはわかる。」
なぜ、そんなことがわかるのか。
その理由を問えば、あまりにもおぞましい答えが返ってきそうで聞きたくない。
「だが、お前は別だ。」
「なんですって……!?」
「お前は一見強がって見せちゃいるが…脆いね。自分の弱さに必死に仮面つけて隠しているだけのお子様さ。オレはお前みたいなチョロい女を壊すのが一番楽しいんだ。だって、メッチャ美味い酒もフタが開かなきゃムカつくだけだろ?」
「――くッ!」
あまりにも屈辱的な物言いに、システィーナの頭に血が上る。
「私が貴方に屈するとでも……?」
「ああ、屈するね。多分、割とあっさり。」
「ふざけないで!私は誇り高きフィーベルの――」
「はいはい、じゃー、どこまで保つかなー?」
ばり、と。ジンは何の迷いもなくシスティーナの着る制服の胸元に手をかけ、それを引き裂いた。白い下着に包まれた胸と肌が露になる。
「……え?……ぁ。」
掠れた声がシスティーナの喉奥から絞り出される。肌がひやりとした外気にさらされ、いよいよこれから自分がどのような末路を辿ることになるのか、強く実感する。
じわりと。だが、もう誤魔化し様もなく致命的な恐怖と嫌悪が心の中で醸造される。
「……ぅ、ぁ。」
「ひゅーッ!胸は謙虚だが綺麗な肌じゃん!うわ、やっべ勃ってきた……おや?どうしたのー?なんか急に押し黙っちゃってさー、元気ないよー?」
負ける者か。屈するものか。私は誇り高きフィーベルの娘だ。魔術師にとって肉体などしょせん、ただの消耗品ではないか。唇を震わせながら自分自身に言い聞かせる。
だが、そんなシスティーナの理性とは裏腹に、口は勝手に違う言葉を紡ぐ。
「……あ、あの……」
「ん?何?」
「……やめて……ください……」
その一言が出てしまった瞬間、もうどうしようもなかった。これから我が身を汚されてしまうのだという悲嘆に、初めては本当に好きになった人に捧げたかったという密かな夢の理不尽な終焉に、システィーナは涙をぼろぼろと溢れさせ、身体を震わせていた。
「あ、あの……お願いします……それだけは……それだけはやめて…許して……」
「ぎゃははははは――ッ!落ちんの早過ぎだろ、お前!ひゃははははッ!」
ひとしきり笑ってから、冷酷な目でジンは泣きじゃくるシスティーナを見下ろした。
「悪いがそりゃできねえ相談だ…ここまで来ちゃ引っ込みつかねーよ。」
「……やだ……やだぁ…お父様ぁ…お母様ぁ…助けて…誰か助けて……」
「うけけ、お前、最っ高!てなわけでいただきまーす!」
「嫌……嫌ぁああああああ――ッ!」
ジンの手が必死に身じろぎするシスティーナの肌に伸びて行った、その時だった。
ズパァン。
扉の方から銃声のような音がした。
「は?」
ジンは、突然、自分の左肩から襲った衝撃の後、なぜかだらりとぶら下がっている左腕を動かしてみる。しかし、左腕は動かない。次の瞬間、左肩から燃え上がるように湧き上がった灼熱の感覚が来る。
よく見ると、肩から赤い液体がとめどなく流れていく。ジンは自分の身に何が起きたのかしばらく理解できなかった。そして、遅れてくるように激しい痛みが襲ってくる。
「い、痛ぇええええええええッ!痛い、痛い、痛い!――っ!」
これまでの表情はどこに行ったのか、ジンは泣き叫ぶように悲鳴を上げ、転げ落ちるようにシスティーナから離れる。
「……え?」
システィーナも突然のことで何が起きたのか理解できず、呆然としている。
「な、何だよっ!?一体、どこから撃ってきやがった!?」
『ご堪能したかな?サル。』
多分、撃った本人の声がする方にシスティーナは向く。そこには全身黒ずくめの…声からして男が銃のような物を構えて立っていた。
その銃の狙いはジンに向けられている。ジンはその男を見た瞬間、完全に恐怖に飲み込まれたような青ざめた顔をして男を見ていた。
「な、何でだよ……何でテメェがここにいるんだよ!?聞いてねえぞ!?三流講師だけじゃなかったのかよッ!どうなってんだ、チクショウッ!」
『そりゃ、わざわざお宅に知らせる必要なんてないからな。なんだ?それとも俺がお空に「これからアルザーノ帝国魔術学院に来ます」って書くと思っていたのか?』
「く、クソったれがぁあああッ!」
痺れを切らしたジンが黒ずくめの男に指を向けた。
「だ、だめ……逃げて!」
銃は一発撃つと、銃口から再装填しなければいけない。対してジンは一節詠唱で黒魔【ライトニング・ピアス】を起動できる相手に敵うわけがない。なぜジンがこの男に対してあそこまで恐れおののいているのか、システィーナは理解できなかったが、銃が黒魔【ライトニング・ピアス】に対抗はできない。
「もう遅ぇよッ!」
それに対し、男は狙いをジンに向けたまま、動かない。
「≪ズド≫…――」
ズパァン。
瞬時に呪文が完成し、ジンの指先から迸る電光が男を情け容赦なく――
「……は?」
黒魔【ライトニング・ピアス】は起動しなかった。
ジンの手の平にはコインぐらいの小さな穴が空いていた。
「ぎゃぁあああああッ!手がッ!手がぁああああああッ!」
男は二発目をジンが呪文詠唱すると同時に発射していた。
「嘘!?」
システィーナは、男が銃を連射していたことに驚いていた。システィーナが銃では魔術に勝てないと思ったのは、銃―ライフル銃は、一発発射したら再装填しなければいけないからで、その再装填は時間がかかるからである。
なのに男は再装填せずに、続け様に二発目を撃ったのである。どんな仕組みでそうなってるのか、わからないが、連射できる以上、どんなに切り詰めたとしても、一節詠唱しなければ【ライトニング・ピアス】を起動できないジンにとってはかなり分が悪かった。
ジンが怯んだすきに、男は一気に距離を詰め――
「ガ……ッ!」
ジンの顔面に思いっきり銃床で殴りつけた。顔面にもろに食らったジンはその衝撃で吹っ飛び、気絶した。
1話空けて、州の紹介始めますよ~。
今回は、多分知らない人はいないであろうニューヨーク州です。
人口1980万人。州都はオールバニ。主な都市にニューヨークシティ、バッファロー、ロチェスター、シラキューズ、オールバニ、ユーティカ、ビンガムトン。
愛称はエンパイア・ステートです。
独立13州の1つで、11番目に加入しました。
言わずとしれた世界一の都で、国連本部があるニューヨーク市、マンハッタン、ウォール街、そして最近はトランプ・タワーがあることで知られています。
元々はイングランドの植民地ではなく、オランダの植民地、「ニューアムステルダム」として入植された地でした。英蘭戦争の結果、オランダはイングランドに敗れ、ニューアムステルダムはニューヨーク植民地としてイングランドに割譲されました。
面積は案外広く、カナダ国境のナイアガラ滝周辺までがニューヨーク州であり、自然にも恵まれ畜産や酪農も盛んです(決して金融だけではない)。ニューヨークのほかに、製粉と鉄鋼で栄えたバッファロー、光学の首都という異名を持つロチェスター(セロックスの創業地、ボシュロム、イーストマンコダックの本社がある)があります。昔は人口も一番多かったが今は4番目であり、寒冷地で寒波の被害が多く、物価や税金が他の州より高いという理由で、人口が伸び悩んでいます。(皆安い所に行くからね、仕方がないね)
以上!