ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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91話

 

 ――一方、その頃北セルフォード大陸から大洋を跨って向かい側の大陸にて。

 

 アメリカ連邦東海岸、ノースカロライナ州フォードブラッグ。

 

 ノースカロライナ州にあるこの軍事施設は五万人以上の職員が在籍する世界最大の軍事施設であり、連邦陸軍第十八空挺軍団司令部、第八十二空挺師団、第十八砲兵旅団の他、連邦陸軍特殊作戦コマンド隷下の連邦陸軍特殊作戦群が配属されている。

 

 連邦特殊作戦軍隷下のサブコマンドの一つであり、ジョセフが所属している第1特殊部隊デルタ分遣隊や海軍特殊戦開発グループなどの”特殊任務部隊”を運用している統合特殊作戦コマンドも、この世界最大の軍事施設に配属されている。

 

 特殊任務部隊とは、デルタや海軍特殊戦開発グループのように活動内容や存在そのものが黙秘される部隊の総称ある。連邦陸軍特殊部隊群やネイビー・シールズなど、場合によっては世間にもにも知られている部隊、”特殊作戦部隊”と違い、特殊任務部隊の大部分の活動は”公には否認されるべき地域”で行われており、それにはデルタが現在行っている天の智慧研究会の壊滅作戦などの対テロ作戦、襲撃行動、偵察活動、秘密諜報活動などを従事している。

 

 統合特殊作戦コマンドが配属されている施設の一角に、片手にピザを持ちながら複数のモニターとにらめっこしている二十代の金髪の女性がそこにいた。

 

 一見、美人であるが、いかにもどうでもいい感じの服装に、眼鏡をかけているその姿はザ・ズボラ女子である。

 

 その女性――ガルシアは今、ジョセフから頼まれたアルザーノ帝国にある聖リリィ魔術女学院学院長、マリアンヌとその生徒であるエルザ=ヴィ―リフの身元調査をしていた。

 

「うーん、いやぁ、流石ねー。マリアンヌという女。うまい具合にぼかしている所はぼかしているね~」

 

 ガルシアはマリアンヌの調査をしたところ、彼女は元は魔導省の官僚でその後、何をやらかしたのかわからないが聖リリィ魔術女学院の学院長になっているという経歴を見つける。

 

 と、ここまでは良かったのだが、マリアンヌが魔導省で何をしていたのか、もしくは学院長で学院に何をしているのか、そこが妙にぼかされており、あと一歩のところで詰まっていた。

 

「妙にぼかしているということは、必ず何かがあるんだよね~。こういう時は……」

 

 画面を眺めながら、何かを思い出したのか、ガルシアは途端に悪戯っ子が悪戯する直前にする顔になり、調査を再開する。

 

 それから、数分後。

 

「よーし、遂にここまで来ました~♪」

 

 ガルシアはしてやったりとした顔で、画面を眺める。

 

 そこには一体どうやったのか、今まで出てこなかったマリアンヌの経歴がずらーーーっと、表示されていた。

 

「さーて、さて…うっわ、これはまぁ、性悪女なこって……」

 

 ガルシアはそれを見て、半ば信じられないような目で画面を見る。

 

 そして、もう一方の画面には、エルザの経歴が表示されていた。

 

 ガルシアは、マリアンヌとエルザの経歴をそれぞれ穴が開くほど、交互に見やる。

 

 すると――

 

「……これは…なるほどね…マリアンヌが≪戦車≫に短期留学をオファーした理由がわかったわ」

 

 途端、ガルシアの表情に緊張感が走り、画面横に添え付けられていた通信機を取り出し、ジョセフに連絡する。

 

「これが本当なら…≪戦車≫は――」

 

 ガルシアはそう呟きながら、ジョセフに連絡するのであった。

 

 

 

 

「さぁて…お二方はどこに行ったのかなぁ?」

 

 ジョセフは学生街でリィエルとエルザを探していた。

 

 グレン達の送別パーティーも、宴もたけなわを迎えたのだが、リィエルとエルザが帰ってこないため、皆で手分けして探すことにしたのだ。

 

 ジョセフは一人で学生街の一角、二人がいそうなところを片端から探したが、未だ見つかっていない。

 

「ここにも、いない、か……」

 

 あらかた探したジョセフは、一旦足を止める。

 

(それにしても…どこに行ったんだ?)

 

 最初は最後の時間だから、散歩しながら話とかしていたのだろうと、ジョセフもグレンも思っていた。

 

 だが、いくらなんでも遅すぎる。

 

 元より、マイペースなリィエルだが、今はエルザがついている。せっかくの送別パーティーが開かれている状況で、そう勝手な真似をするとは考えにくいし…なによりいくら仲が良いからって、ずっと散歩するわけにはいかない。どこかで区切りをつけて、戻らないといけないだろう。

 

「まさか…な……」

 

 ジョセフは以前から感じていた胸騒ぎを覚えながら、嫌な予感を感じていると。

 

 途端、ポケットから、通信機から着信音が鳴る。

 

 ジョセフはポケットから通信機を取り出し、通信に出る。おそらく、ガルシアからだ。

 

「ガルシア?」

 

『ジョセフ、マリアンヌとエルザ=ヴィ―リフの調査が終わったわ』

 

 通信機から聞こえるガルシアの声は、重大な発見をしたかのような声だった。

 

「何かわかった?」

 

『ええ、それはそれはもう…まずエルザの方から。彼女は前期の途中で聖リリィ魔術女学院に編入されているわ』

 

「ああ、それはコレットから聞いたな。えらい中途半端な時期だなと思っていたけど」

 

『実は彼女はその前は軍学校に在籍していたんだけど、その軍学校を突然、退学しているの』

 

「退学?軍学校って帝国軍のだろ?なぜ?」

 

『さぁ?そこまではわからないわ』

 

 エルザの突然の軍学校の退学。その行動にジョセフは理解できないように困惑し、ガルシアも同様な声で返す。

 

 軍学校は軍人を志す者がそこで、軍の基礎知識や、基礎体力など軍に入る前につけておくことを目的とした教育機関である。

 

 軍は程度の差はあれ、上官の命令は絶対、上下関係などは民間に比べたら厳しいところはあるし、有事には真っ先に戦場に駆り出され命を落とすこともある危険な職である。だが、自分の命に代えても国、国民を守る軍人はこれも程度の差はあれ、世間からは経緯を払われるし(虐殺など自国民を弾圧している場合は逆だが)、政府からの手厚い保障もなされているのが一般的である。

 

 ましてや、アルザーノ帝国軍は世界有数の軍事組織なのだから、かなり手厚い保障はなされているはずである。

 

「ガルシア。エルザの家族構成は?」

 

『えーと、父親と母親の三人家族。父は東方の出身みたいね。東方から帝国に来て、居場所を与えてくれた女王陛下に忠誠を誓い、帝国で軍人となり、剣を振るっていたみたいね。奥さんとは帝国で娶ったみたい』

 

「ほう?」

 

『父の方は、後に肺の病を患って、日に日に衰えていったんだけど、それでも活躍していたらしいよ』

 

「エルザはその父を尊敬し、やがて病の身である父の重責を背負いたくなり、軍学校に入ったと?」

 

『多分、そうでしょうね。仕事もそうだけど、家庭でもかなりの家族想いだったみたい』

 

 そんな彼女がなぜ軍学校を辞めて聖リリィ魔術女学院なんかに?

 

 ジョセフはそこがいまいち理解できなかった。

 

「それで、エルザの両親は今どうしてる?」

 

『それが、約二年前に亡くなってるの。二人とも斬り殺されていたらしいわ。検死結果がでている。手口から暗殺者に殺されたみたい』

 

「暗殺者か……」

 

『相当恨まれていたらしいわよ。というのも、彼は天の智慧研究会に多大な被害を与え続けていたの。恐らく件の組織の報復ね。暗殺者は二人を殺害した後、家を放火して逃走』

 

「エルザは?」

 

『彼女はその後、周辺の住民によって救出されたわ。両親の遺体に取りすがっていたから、目の前で両親を殺されたのでしょうね。貴方と同じように……』

 

「……マジか…なんてこった……」

 

 ジョセフはそれを聞いて、悲痛な表情をした。

 

 ジョセフと同じ、彼女もまたあの狂気の集団により、家族を奪われていたのだ。

 

「……で、その暗殺者は?」

 

 ふつふつと沸いてくる怒りを押し殺して、ジョセフは暗殺者の名を問う。

 

『目撃者によると…暗殺者は少女ね』

 

「少女?」

 

『燃え盛るような腰まで届くほど長く赤い髪、そして手には大剣を持っていたそうよ』

 

「!」

 

 それを聞いた瞬間、ジョセフは顔を強張らせる。

 

 赤い髪に、大剣……

 

『その名前は…イルシア=レイフォード』

 

「!」

 

 ジョセフはイルシアの名前を聞いた瞬間、さらに強張らせる。

 

 イルシア=レイフォードは天の智慧研究会に所属し、天才錬金術師であった兄シオンと行動を共にしていたライネルに殺害された暗殺者。

 

「……まさか」

 

 ジョセフは、この時エルザに対して感じていた違和感の正体を突き止めた。

 

 リィエルは『Project:Revive Life』で唯一成功した魔造人間である。

 

 そして、リィエルの基になっているのは…イルシア。

 

「今までなぜエルザはコミュ障のリィエルに接近してたのか、気になってはいたが、まさか……?」

 

 信じられない。信じられないが、エルザは目の前で両親をイルシアに殺されている。当然、復讐心を抱かないはずがない。

 

 そして、エルザはイルシアがもうすでにこの世にいないということを知らない。

 

 そして、リィエルは姿形もイルシアに似ている。

 

 もし、エルサがリィエルをイルシアと勘違いしていたら?

 

「まさか…リィエルを…殺害するため…?そのために、親交を深め、油断させて二人で散歩したのも…リィエルを……?」

 

『……恐らくは』

 

 なんてこった。

 

 エルザの狙いに気付いたジョセフはふと、ここである疑問を持つ。

 

「せやけど、ガルシア。となると、エルザは数ヶ月前からリィエルに『復讐』するために、聖リリィ魔術女学院に編入したのか?でも、それって……」

 

 そう、いくらなんでも非現実的過ぎる。

 

 それならば、アルザーノ帝国魔術学院に編入すればいい話で、そっちのほうがリィエルと接触すればいい話なのだ。

 

 それに、今回のリィエルの短期留学の背景は国軍省と反国軍省はとの利権争いによってリィエルが退学危機に陥った時になぜか聖リリィ魔術女学院からオファーが来たという話である。

 

 国軍省と反国軍省派との利権争いに乗じてリィエルを招くにしても、エルザにそんな力はあるとは思えない。

 

 つまり…これはエルザだけでは不可能な案件である。

 

(今回の案件…エルザだけでは成し得ない事なら…黒幕は一体誰だ?)

 

 エルザにリィエルをイルシアだと嘘をついて唆した人物。

 

 ジョセフはその黒幕が誰なのか薄々わかっていた。

 

 今回の国軍省と反国軍省の利権争いに乗じ、リィエルに短期留学のオファーを出した人物。

 

 オファーを出せて、且つ、エルザという女子生徒にリィエルを狙うように唆した人物など一人しかいない。

 

 それは、ジョセフはおろか、グレンも、システィーナも、ルミアも、リィエルも顔を合わせている人物。

 

 リィエルを狙う動機はわからないが、そこまでしてリィエルを狙っている黒幕は――

 

「ガルシア…ここの学院長であるマリアンヌは何者だ?」

 

『そう…貴方の思っている通りだと思うわ。マリアンヌはご存知の通り、聖リリィ魔術女学院の学院長だけど、実は魔導省の官僚だったの…表向きは』

 

「…………」

 

『表向きはそうだけど、いやぁ、この人、とんでもない女よ。実は彼女は――』

 

 ジョセフはガルシアのマリアンヌに関する報告を黙って聞き続ける。

 

 そして――

 

「……わかった。そこまでわかればええわ」

 

『今から助けに行くの?当ては?』

 

「当てなら大丈夫やで。ここから脱出するには一つしかないからな…ただ、少々気付くのが遅かった。これから長い長い夜が始まるで」

 

『了解。ご武運を』

 

「うぃ」

 

 ジョセフは短く返し、通信を切ると――

 

 そのまま、駅前広場の方向に向かって行った。

 

 

 

 鉄道駅前広場にて。

 

「はぁー…はぁー…や、やった……」

 

 鞘に納めた刀を杖代わりに、震える膝を叱咤して立つエルザが満足そうに呻く。

 

 エルザの背後には鮮血をまき散らし、糸が切れた人形のように、倒れ伏しているリィエルの姿がある。

 

 エルザは送別パーティーの最中、リィエルを連れ出し、鉄道駅前広場に着いてしばらくリィエルと話をした途端、刀を召喚し、リィエルを攻撃。リィエルをイルシアだと思ったエルザは両親の仇、そしてリィエルを倒すことによって、自分の人生を始めると言い、攻撃を開始していた。

 

 リィエルも応戦し、途中、エルザを追い詰めるが、なにせ初めて自分から関わってできた友人である。

 

 エルザを斬らず、話をしたいと言ったが、エルザが再び攻撃を開始し、現在に至る。

 

「……勝った…終わった…これで…やっと、私の人生が…始まる……」

 

 そう。これで終わりだ。ようやく過去に決着がついた。

 

 イルシアという許されがたい重犯罪者を下すことと引き替えに、自分は再び父のような軍人になるという夢を目指す…元より、そういう約束だったのだ。

 

 そう、終わりだ。全てが終わり…そして、始まるのだ。

 

「……イルシア…安心しなさい…殺してはいないわ……」

 

 激情のあまり、殺してしまうかもしれない勢いで振り抜いてしまったが――なぜか、いざその瞬間、エルザの手が縮こまったのだ。

 

 ゆえに浅かった。エルザの刀はリィエルの右脇腹から左肩にかけて斬り裂いたが…即座に死に至るような外傷ではない。

 

「そうよ…貴女は、法の下の裁きを受け、罪を……」

 

 エルザが背後を振り返る。

 

 血だまりの中に倒れ伏すリィエルを訣別するように睨み付ける――が。

 

 どくん。

 

 血塗れのリィエルの姿を見た瞬間――エルザの心臓が一つ、大きく跳ね上がった。

 

「あ、れ……?」

 

 途端、ぐらぐらとエルザの視界が歪みだす。動悸が激しくなり、呼気が過呼吸となる。

 

 身体から、みるみるうちに力が抜けていき…不意に猛烈な嘔吐感に襲われて……

 

「――ぉお、おえぇ…げほっ!ごほっ!あぐ――」

 

 エルザは地面に突っ伏して、胃の中の全てを吐き出していた。

 

「……なん…で…?どう…して……?」

 

 信じられない、と。エルザは震える自分の両手を呆然と見つめる。

 

 思わず目頭が熱くなり、ぼろぼろと悔し涙を零してしまう。

 

「わ、わたしは…イルシアに勝って…過去を…『炎の記憶』に…打ち克った…はず…じゃ…ッ!でないと…私は…何の、ために……ッ!?」

 

 駄目だ。気分が悪い。頭が痛い。寒気と吐き気が酷い。

 

 全身が瘧のようにがたがたと震え、がちがち歯が鳴って止まらない。

 

「それはな、アンタが斬ってもうたのは、イルシア=レイフォードじゃなくて、リィエル=レイフォードだからや。つまり、まったく無関係の人間を斬ってもうたからや。だから、『炎の記憶』に打ち克てない」

 

 不意に、背後から声が聞こえた。

 

 エルザはこの声に聞き覚えがあった。

 

 このやけになまりがある言い方、なまりから連邦で話されている言葉。

 

 振り返るとそこには、聖リリィ魔術女学院の制服を着た少女が佇んでいる。

 

 腰まで届く茶髪に、金目銀目のオッドアイ。

 

 その少女は銃らしき物を両手で構えて、佇んでいる。

 

「な……」

 

 なんで貴女がここにいるの?

 

 エルザはその少女――ジョセフィーヌに対し、驚愕の表情で見ていた。

 

 

 

 

 

 






ここらでよかろう。
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