ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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今回で八章ラストです。


97話

 

 

 こうして、不意にリィエルを襲った一連の騒動が幕を閉じた。

 

 マリアンヌは列車強盗と営利誘拐の罪で、緊急逮捕。彼女に従った女子生徒達には、マリアンヌから思考を極端にしてしまう洗脳魔術を使われたような痕跡もあり、多少の情状酌量の余地が認められ、一時的な停学・謹慎処分となるに留まった。

 

 だが、今回、マリアンヌに与した女子生徒達が抱えていた心の問題は紛れもなく事実であり、それを誘因させる閉塞感が覆う校風も、今回の件で問題視されることになる。よって、中央から新たな学院長が派遣就任し、その閉鎖性の高い校風の改善に取り組むことも決定。全ては丸く収まる運びとなるのであった。

 

 無論、釈然としない部分もあった。マリアンヌが口にした『蒼天十字団』について。

 

 事件後、国軍省が厳しく追及・糾弾するも、魔導省のトップクラスの高官達は、マリアンヌとの関係と『蒼天十字団』の存在を完全に否定。帝国宮廷魔導士団が、血眼になって『蒼天十字団』の痕跡を探したが、結局、空振りに終わる。発狂してしまったマリアンヌからは、自白の魔術を使用しても、裏付けに足る新たな情報を得られずじまい。

 

 結局、マリアンヌの言が事実だったのか、あるいはただの虚言だったのか――

 

 真相は闇の中へと葬られることになった。

 

 だが、いずれにせよ、事の発端がリィエルの無理矢理過ぎる『落第退学』処分だったことは厳然たる事実であり、反国軍省派のアルザーノ帝国魔術学院内における発言力は、大きく減衰。リィエルが短期留学を成功させたことにより、『落第退学』の口実も消滅。

 

 さらに、表には出てこなかったが、反国軍省派、特に魔導省はマリアンヌが連邦の国民に危害を加えたとして、『今度、また同じことをしたら、お前ら破滅だぞ』と連邦政府から脅しを受ける羽目に遭う始末。

 

 ルミア直近の護衛は、引き続き、リィエルが担当する運びとなるのであった。

 

 そして――

 

 

 

 ある晴れた空の下。

 

 聖リリィ魔術女学院敷地内の、鉄道列車駅構内にて。

 

 がしゃんがしゃんと機関音を立て、煙突から煙を上げながら、ゆっくりと新し蒸気機関車が駅構内に入ってくる。途端、辺りを微かな石炭の煙の臭いが漂い始める。

 

 そして、そんな列車の昇降口の前に…人だかりが出来ていた。

 

 グレン達と、二年次月組の生徒達の面々である。

 

 本日は、ついにグレン達が、アルザーノ帝国魔術学院へと帰還する日。

 

 月組の生徒達は全員総出で、その見送りに来ていたのであった。

 

「うう…レーン先生…とうとうお別れですね……」

 

「お疲れ様です。短い間でしたが、今まで大変お世話になりました」

 

「なぁ、先生。その…なんつーか…アタシ、アンタと会えて良かったよ」

 

 フランシーヌ、ジニー、コレットが、クラスの女子生徒達を代表して、代わる代わるグレンへ握手を求め、別れの挨拶を口にしていく。

 

「システィーナもルミアもな。…アンタらとやり合うの、ケッコー、楽しかったぜ?」

 

「こちらこそ…って言っていいのかしら?」

 

「あはは…うん、私達も素敵な思い出ができたよ。ありがとう」

 

 システィーナもルミアも朗らかに笑っている。

 

 ごくごく短い間ではあったが…彼女達の間には確かに友情があったのだ。

 

「はぁ…ウチはお前らを止めるのに苦労したわ…もう、システィーナとルミアに対してあんなことするの初めてやで」

 

「あはは……」

 

「う…その…ごめんなさい……」

 

 ジョセフがジト目でそう言うと、申し訳なさそうな顔をするルミアとシスティーナ。

 

「というわけで、記念に皆――」

 

「「「「それだけはやめてぇえええええ――ッ!?」」」」

 

 慌ててジョセフの固有魔術【熱盛】を止めるシスティーナとルミア、フランシーヌとコレット。

 

「……で、でも、確かに、貴女達とはよく喧嘩したけど…こうしていざお別れとなるとなんだか、寂しいものね……」

 

「そうですわね……」

 

 システィーナがしみじみと言い、フランシーヌが頷く。

 

 すると、コレットがこんなことを言い始めた。

 

「なぁ、システィーナにルミア。それと、ジョセフィーヌ。いつか私も、お前らの学校…アルザーノ帝国魔術学院へ留学してもいいかな?」

 

「!」

 

「なんつーか…興味出てきたんだよ。レーン先生やお前らが、普段過ごしている学校がどんなところなのか…見てみたいんだ」

 

「おーっほっほっほ!コレットにしては名案ですわねッ!そうですね、その時はわたくしと、ジニーもご一緒させていただきますわっ!」

 

「うへぇ…面倒臭いなぁ……」

 

 コレットの提案に、フランシーヌが高飛車に笑い、ジニーが無表情でぼやく。

 

「お、それいいな!いつでもいいから来てみ!」

 

「あははっ!それいいわね!」

 

「うん、その時は皆で歓迎するね!」

 

 ジョセフはそれに賛同し、システィーナとルミアも、楽しそうに笑うが……

 

「それに…ほら、あれだ……」(照れ)

 

 コレットが、グレンの左腕に組み付き……

 

「そちらの学院へ行けば…その…また、レーン先生とも会えますし……?」(赤面)

 

 フランシーヌが、グレンの右腕に組み付き……

 

「その…いつになるのか、正直わかんねーけどさ、先生……」

 

「どうか、待っててくださいまし……」

 

「お、おう……」

 

 二人に熱っぽく迫られるグレンは、脂汗を垂らしながら頬を引きつらせるしかない。

 

「あははっ!やっぱ、来なくていいかも!」

 

「うん、その時は皆で塩を撒くね!」

 

 ……なんていうか、システィーナとルミアの楽しそうな笑顔が、とても怖いのだ。

 

「お前ら、ほんっとうに相変わらずやな……」

 

「はぁ…貴女達、ほんっとうに、最後までブレませんね……」

 

 我関せずなジョセフとジニーも、呆れ顔で肩を竦めていた。

 

「と、と、とにかくだっ!」

 

 このままだと、何かが致命的に危ないので、グレンは二人を振りほどく。

 

「お前ら、今回の一件、本当に世話になったな!礼を言うぜ!」

 

「ん…みんな、ありがとう……」

 

 グレンの背後に隠れるように佇むリィエルも、ぼそりとお礼を呟く。

 

「なんかよくわからないけど…みんなのおかげで、退学にならなくていいみたい」

 

 そして、グレンはそんなリィエルの頭に、ぽんと手をのせた。

 

「お前も、今回は本当によく頑張ったぞ…褒めてやろう」

 

「ん……」

 

 リィエルは、グレンが頭をわしわしと撫でるに任せていた。

 

「わたし…グレンが心配しなくていいように、一生懸命頑張ったから……」

 

 眠たげに細められた目ではあるが、リィエルはどこかとても嬉しそうだった。

 

 そんな、満更でもないリィエルの様子に……

 

「むむむ……」

 

 眼鏡をかけた少女…エルザが、どこか不機嫌そうに頬を膨らませ、ぐい、とリィエルの腕を取り、グレンからリィエルを引きはがす。

 

「……エルザ?…どうしたの?」

 

 リィエルは、自分の腕に組み付いてくるエルザを、きょとんと見つめる。

 

「……なんでもないよ……」

 

 エルザは微かに頬を赤らめさせ、ぷい、とそっぽを向いた。

 

 そして、エルザはなんとも複雑な表情で、グレンを睨む……

 

「「……?」」

 

 リィエルとグレンは、そんなエルザの様子に、不思議そうに首を傾げ……

 

 システィーナやルミア、ジョセフ、フランシーヌ、コレット、ジニーといった周囲の女子生徒達は何かを察したように、無言でにやにやとしているのであった。

 

 そんなこんなで、時間はあっという間に過ぎ、別れの時は近付いてくる。

 

「そろそろ、出発の時間だな…じゃあな、お前ら!」

 

「ほな、またな~」

 

「また、いつか会いましょう!」

 

「ええ、お達者で!」

 

「元気でな!」

 

 最後に互いに別れを告げて……

 

 グレン達は荷物を提げて、列車に乗り込んでいく。

 

「リィエル!」

 

 最後に列車へ乗り込もうとしたリィエルを、エルザが呼び止めた。

 

 くるりと、顔だけ振り返るリィエルに、エルザが叫ぶ。

 

「本当に、ありがとう、リィエル!私…強くなるから!」

 

「……エルザ?」

 

「私、もっと、もっと、強くなって…いつか、貴女と一緒に肩を並べて戦えるようになるから…ッ!だから……ッ!?」

 

 必死に訴えるような表情のエルザに。

 

 リィエルはほんの少しだけ、口元を笑みの形にして。

 

「……待ってる」

 

 ぼそりと、短く呟かれたリィエルの言葉に。

 

「また…いつか、会おう。…エルザ」

 

「……ッ!?…うんっ!」

 

 エルザは目尻に微かに涙を浮かべ、向日葵のように笑うのであった。

 

 

 

 ――そして。

 

「……それにしても、なんだか土産話がすごい増えましたねぇ」

 

「ああ、そうだな」

 

 行きと同じように、個室席の一つを占拠したグレン達。

 

 ジョセフとグレンは窓際の席で頬杖をついて、外を流れる牧歌的な風景をゆっくりと眺めながら、言う。

 

 ちらり、とグレンが、周囲を流し見れば。

 

 向かい合う対面の席に並んでジョセフと共に腰かけるシスティーナとルミアが、互いに肩を貸し合うように、静かな寝息を立てている。

 

 そして、リィエルは、グレンの隣の席で丸くなり、グレンの膝を枕代わりに、やはり深い眠りについていた。

 

 何か、楽しい夢でも見ているのだろうか。

 

 ぐっすりと眠るリィエルは、ほんの少しだけ笑みを浮かべていた。

 

「……リィエル、本当によくやったと思います」

 

「……まぁ、本当に、よく頑張ったよ、お前……」

 

 グレンが眠りこけるリィエルの頭に、優しく手をのせる。

 

「ん……」

 

 寝ぼけているのか、あるいは無意識の行動なのか…リィエルは、そんなグレンの手へ頭をすり寄せるように、寝返りを打った。

 

「さて、と……」

 

 ジョセフは旅行鞄から、一冊の本を取り出す。

 

「その本はなんだ?」

 

「連邦の旅行記です。今はルイジアナ州のところなんですよ」

 

 ジョセフはそう言うと、栞がさしているページを開く。

 

「さぁて…と、なら俺も」

 

 帝都までの暇つぶしに、グレンは旅行鞄から一冊の本を取り出す。

 

 ここに来る時は読みそびれてしまったその本は…『メルガリウスの魔法使い』だ。

 

「……たまには悪くないだろ」

 

 窓の外を流れる牧歌的な風景を尻目に。

 

 グレンとジョセフはしばしの時を、それぞれの物語の中で過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 ――数日後。

 

「あの…ウェンディさん?その手は何かな?」

 

「ふふふ…貴方をわたくし好みに――」

 

「うん、とりあえず髪の毛一本ブチらせろ、アホお嬢」

 

 

 

 




八章終わりましたよ~

次から九巻に突入だにゃあ!
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