ロクでなし魔術講師ととある特殊部隊員   作:藤氏

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第九巻に突入だにゃあ!


第9章
98話


 今から、約一年前。

 

 マサチューセッツ州ボストンにて。

 

 その日は雨が降っていた、寒い日のこと。

 

 軍服を着ていた人が佇んでいた。

 

 傘も差さないで、少年はずっと何かを見下ろしたまま、佇んでいる。

 

 少年が見下ろしていた先には墓がある。

 

 その墓はその少年の母だった。

 

 アルザーノ帝国からアメリカ連邦に移住して以降、女手一つで育てた最愛の母は、ニューヨークの同時多発テロで死んだ。

 

 少年の手には三角形に折り畳まれた星条旗がある。

 

「…………」

 

 少年は、何も言わずただただ墓を見下ろし、佇んでいる。

 

「……ジョセフ」

 

 ふと、背後から老人の声が聞こえたので、ジョセフは振り返る。

 

 その老人は、顔に傷がついており、今は一線を退いているものの、その目を見た者は足がすくむ程の目つき。

 

 その老人は、かつての奉神戦争で、海外遠征軍の騎兵隊を率いており、『連邦の狂犬』と呼ばれた男。

 

「ジョセフ。こっちだ」

 

 その老人はジョセフに手を招く仕草をする。

 

 老人に手を招かれた少年――連邦陸軍第七軍第十二歩兵師団第八大隊所属のジョセフ=スペンサーはそれに応じるかのように、老人のもとに向かう。

 

 彼の特徴的なオッドアイは…ものすごく暗い雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

「――というわけで。本日の『黒魔術学』の授業は…『ドッジボール』にする!」

 

 ボールを抱えたグレンが、魔術学院の中庭に集めた四十人近い生徒達を前に、いきなりそんなことを宣言する。

 

(どうしてこうなった……?)

 

 毎度毎度の突拍子もない展開に、生徒達はもう呆れ顔で絶句するしかない。

 

「はっはっは!もうコートは作ってある!さぁ、お前ら!じゃんけんで二チームに分かれろ!負けたチームは今日一日、勝ったチームの奴隷じゃ――っ!」

 

「ちょ、ちょっと、待ってくださいっ!」

 

 ご丁寧な白線でコートが描かれた芝生を踏みながら、システィーナが猛抗議する。

 

「なんで、『黒魔術学』の授業で『ドッジボール』しなきゃいけないんですか!?私達は忙しいんですっ!こんな風に遊んでないで、ちゃんと真面目に授業を――」

 

(あーあ、システィーナは真面目だなぁ)

 

「ふっ!わかっちゃいねえなぁ、白猫めっ!」

 

 すると、グレンが、ずびしっ!と、システィーナの鼻先へ指を突きつけた。

 

「お前は『ドッジボール』を舐めているな!?知らないのか!?『ドッジボール』には、魔術の運用に必要な全ての要素が詰まっているんだぞ!?」

 

「えっ!?」

 

 まるで初耳なシスティーナが驚愕に目を瞬かせる。

 

「いいか?まず、ボールを投げることで鍛えられる『肩の強さ』!ボールの軌道を見定めることで培われる『動体視力』!そして、ボールを避けることで得られる『反射神経』!わかったか!?『ドッジボール』とは魔術そのものと言っても過言ではない!少なくとも連邦はな!」

 

「た、確かに……ッ!?」

 

「……おい」

 

 あまりにもグレンが自信満々に言い放つから、システィーナが一瞬、欺されかけて(ジョセフはさりげなく突っ込むが)……

 

「……って、≪どれも全然・魔術に・関係ないじゃない≫――ッ!?」

 

「ぎゃあああああああああああ――ッ!?」

 

 システィーナの叫んだ【ゲイル・ブロウ】が、いつものようにグレンを、空高く吹き飛ばすのであった。

 

「……ったく、相変わらずだなぁ、うちの先生は」

 

 そんな様子を遠巻きに眺めながら、大柄な男子生徒、カッシュが呟く。

 

「はぁ…先生が時折、突拍子もないことをやり始めるのはいつものことですが…今回ばかりは、いつにも増してわけがわかりませんわね」

 

 ツインテールのお嬢様、ウェンディも肩を竦めるしかない。

 

「そうですね…グレン先生は、一見、意味不明でも、必ずなんらかの意味がある…そんな授業を行う御方だと思っていたのですが……」

 

「……さ、さすがに『ドッジボール』と『魔術』は関係ない…よね……?」

 

 モデル体型の少女テレサに、小柄な眼鏡っ娘リンも、これに関しては困惑を隠せない。

 

「……まぁ、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない?というわけで、先生の背後に音を立てずに近付いて…死ねぇええええええええええええええぃッ!」

 

 そんな困惑と呆れの中、オッドアイの少年ジョセフがあっけらかんとそう言い、そして、ボールを拾い投げる。

 

「背中痛ァアアアアアアアアアアアアア――ッ!?」

 

 そのボールはグレンの背中にクリティカルヒット。

 

「ふん…なんのつもりか知らないけど、今回ばかりはごめん被るね」

 

 そして、一同から少し離れた場所で、いかにも不機嫌そうに眉間に皺を寄せる眼鏡の少年ギイブルが、忌々しそうに眼鏡を押し上げ、吐き捨てるのであった。

 

「今、僕達は忙しいんだ。こんな風に遊んでいる場合じゃ――」

 

「……だからこそ、だと思うよ。ギイブル君」

 

 だが、そんなギイブルへ、優しく諭すような言葉がかけられる。

 

 生徒達の視線が、その発言者へと集まる。

 

 その綿毛のような金髪は風に揺れ、午後の陽光をきらきらと跳ね散らしていた。

 

「確かに、もうすぐ前期末試験…皆、寝る暇も惜しんで一生懸命、勉強してる…でも…最近、皆、根を詰めすぎて、ちょっと疲れちゃってるよね?」

 

 そこには、慈しむようにい穏やかな笑みを浮かべたルミアが佇んでいた。

 

「先生は、そんな私達の息抜きのために、この時間を作ってくれたんじゃないかな?」

 

 その澄んだ海色の瞳が、どこまでもグレンに対する信頼に満ちていたから……

 

「うーん…確かに、最近、クラスの雰囲気、どっかギスギスしてたしなぁ……」

 

「あはは、ただ単に、授業するのサボって遊びたいだけかもしれないけどね」

 

 クラスの生徒達は、仕方なしと言った感じで、それなりに納得したようであった。

 

「……まぁ、たまには息抜きも必要ですわね」

 

「やれやれ、だ」

 

 生徒達は観念したように苦笑いしながら、コートに向かうのであったが――

 

「それよりも、なんかすごい光景が広がっているんだけど……」

 

 生徒達が視線を向けるコート上では――

 

「殺ってやろうやないかいッ!」

 

「殺れよ、この野郎!玩具かそれッ!?」

 

「殺ってやるから、道具(拳銃)持ってこいや、この野郎ッ!」

 

 なぜか、グレンとジョセフがお互いに物騒なことを言い合っている光景がそこにあった。

 

 あんたら、一体、何があった……?

 

 そんな光景を生徒達はただ眺めているしかなかった。

 

 

 

 

 そして…そんなこんなで。

 

 しばらくの間、中庭に楽しげな歓声が木霊し続ける。

 

 

 

「ふふんっ!覚悟ですわ、ルミア!えいっ!」

 

「甘いよっ!ウェンディ!」

 

「おおおっ!ルミアちゃん、ナイス回避!よっしゃ、こっちパス!パス!」

 

 生徒達が、連日の勉強疲れの鬱憤を晴らすように、夢中でドッジボールに興じている。

 

「フン。こっちのチームが劣勢ですが。…どうするんです?先生」

 

 乗り気じゃなかったギイブルも、次第に雰囲気に当てられ、熱中し始めて。

 

「あ、リィエルにボールが渡っ…やっば……」

 

「えい」

 

「どぎゃああああああああああああああああああああああ――ッ!?」

 

「うわぁあああああああああ――ッ!?先生が、吹っ飛んだ――ッ!?」

 

 そんな、笑い声の絶えない、いつもの光景の中で――

 

(あはは、楽しいな……)

 

 自身も皆と一緒に遊びながら、ルミアは満面の喜色を湛え、心からそう思うのであった。

 

 

(……こんな日が…ずっと続けばいいのに……)

 

 

「ちょッ!?ウェンディ!?ウチ狙い過ぎや!」

 

「うるさいですわね!日頃の恨みですわ!」

 

「おいちゃん、何をしたのか身に覚えがありませーんッ!」

 

「むっきぃいいいいいいい――ッ!」

 

 一方、その頃。

 

 何度も投げているのに、一向に当たらないジョセフに、ウェンディはムキになってボールが来てはジョセフに投げているのであった。

 

 

 

 

 

「――そうか、わかった。その情報は、彼からのリークなんやな」

 

 帝国南部の都市、フェジテから時差で約五時間遅れている、連邦首都ワシントン.D.Cにて。

 

 これからホワイトハウスに向かう車中の中で、備え付きの受話器から一報を聞いた軍服姿の中年の男性がそこにいた。

 

 陸軍長官であるルイス=サザーランドは、現在帝国各地で行われている天の智慧研究会……『急進派』をメインターゲットにした掃討作戦の結果の報告を受けている。

 

 帝国軍と合同で行っているこの作戦は、陸軍第一特殊部隊デルタ分遣隊の一般部隊百名のみならず、連邦陸軍特殊部隊群第十特殊部隊グループ、第十九特殊部隊グループ、第二十特殊部隊グループの約四千五百名と、大規模な戦力で行っている。

 

 また、この他にも、Nevy SEALsや特殊戦開発グループなどの海軍の特殊部隊、海兵隊の武装偵察中隊などが今回の参加している。

 

 先の社交舞踏会で捉えた≪魔の右手≫から得られた情報によりある程度組織の情報――特に『急進派』の――が割れていた。今回、連邦軍がこんな大規模な戦力をアルザーノ帝国に差し向けたのは情報が割れている今のうちに一気に片をつけたいという意向があったからである。

 

 例え、『急進派』という一つの派閥だったとしても、これを壊滅させただけでもかなり事態は前進する。

 

 今、受けた報告は着々と『急進派』を掃討しているという報告と。

 

「フェジテに同時多発テロの首謀者がいるんやな?よーしよしよし、ようやったで」

 

 ルイスはその一方を聞くと、顔を綻ばせた。

 

 連邦が陸海軍、海兵隊総出で血眼になって探していた人物の所在がある男のリークで割れたのである。

 

「どうするかって?そうやなー……」

 

 受話器の向こう側にいる部下に、ルイスは声を数段、低くしこう言った。

 

「遭遇次第、奴を…ラザール=アスティールを捕縛、もしくは…殺せ……」

 

 

 

 

 

 フェジテの街に、夜の帳が訪れる。

 

 そのフェジテの人気のない路地裏の一角で、二人の男がそこにいた。

 

 一人は、黒のロングコートに、黒を基調とした軍服、ベレー帽、黒い手袋という、連邦陸軍の衣装で。

 

 もう一人は、山高帽、リボンタイに手袋、フロックコートという、紳士然とした衣装で。

 

 その二人は互いに背を向けているが…二人の間から発せられる雰囲気は常人なら足がすくむというレベルの雰囲気だ。

 

「――それで?貴方はルミア=ティンジェル…エルミアナ王女の身柄を預かるためにフィーベル邸に行くと……」

 

 連邦軍の男は、男がフェジテに来た目的について問う。

 

「……そうだ」

 

 男は淀んだ、しかし、狂気が宿っている眼でそう答える。

 

「今、未曽有の危機に陥っているこのフェジテを救うために、僕が『正義』を執行するために…彼女の力は必要なんだ」

 

「はっ…フェジテを救うため?システィーナとレオスの結婚騒動ではあれだけの民間人を巻き込んでよく言えるな」

 

 連邦軍の男は、オッドアイの眼を半眼にして呟く。

 

「あれは必要経費だよ。君の両腕も…ね」

 

 男はどこ吹く風で、平気にそう言い放つ。

 

「……そうかい」

 

 一瞬、殺気を発そうとしたが、抑える連邦軍の男。

 

「ただ、あそこは貴方を見たら、歓迎はしないでしょう。≪戦車≫は問答無用で斬りかかってくる」

 

「……”読んでいるよ”」

 

 男はくっくっと笑いながら言う。

 

「……そう」

 

 連邦軍の男はそう言い。

 

「今回はウチ等はお宅の行動に口を挟むつもりもない。だからといって帝国宮廷魔導士団の動きを止めるつもりもない」

 

「くくく……」

 

「ま、精々気をつけなさいな。またグレン=レーダスに吹っ飛ばされないようにな」

 

 連邦軍の男はそう言い、拳銃を構える。

 

 もちろん、男に対してではない。

 

 連邦軍の男の視線の先には複数の人影がチラホラといた。

 

 男の方にも、同じようにいる。

 

「やれやれ、どうやら話してくれる時間も与えないらしいね、彼らは」

 

「そのようですね」

 

 二人は肩を竦める。

 

「まぁ、僕はこれで失礼するよ。そろそろ、このフェジテに蔓延っている悪どもに対し、『正義』を執行しないといけないからね」

 

 男はそう言い、人工精霊を顕現し離脱する。

 

「……ったく、相変わらずわけのわからない奴」

 

 離脱する男…ジャティス=ロウファンを見、ため息を漏らすジョセフ。

 

「こいつら片付けて、領事館に戻るとするか……」

 

 ジョセフの前後に迫る複数の黒影。

 

 黒影の正体は、黒い外套に身を包んだ年齢不詳、性別不明の人間達だ。

 

 全員が全員、フードを目深に被り、顔には白い仮面をつけている。

 

 そして、各々の手には、短剣、鎌、鉤爪など、様々な武器が握られている。

 

 その得物の意匠は――どこかリィエルの大剣に似ていた。

 

「その格好に、統一性のない得物…≪隠す爪≫…天の智慧研究会の暗殺部隊『掃除屋』か。やれやれ、これはジャティスの言う事は本当かもな」

 

「シャアアアアアアア――ッ!」

 

 肩を竦めるジョセフへ、前方の掃除屋が三人、獣のように俊敏な挙動で襲いかかる。

 

 それは恐ろしく高度に卓越した連携であった。

 

 誰に対処しても、残る二人に仕留められる――掃除屋の対魔術師用、暗殺先陣だ。

 

「まぁ、この人数ならなんとかできるけど」

 

 ジョセフはまったく動じることなく呟き――

 

 鎌が、短剣が、鉤爪が、ぎらりと禍々しく光って、ジョセフへ肉薄し――

 

 刹那、銃声が三発鳴り響いた。

 

 掃除屋の三人はジョセフの前で倒れる。それぞれの額には穴が開いており、そこから血が流れている。

 

 続けて、背後から二人、掃除屋がジョセフの背中に襲いかかってくるが――

 

 ジョセフは瞬時にトマホークを二振り展開し、振り返りざまに先頭の掃除屋の喉を掻き斬る。

 

 ブシャアアッ!と血飛沫を盛大に上げて倒れる掃除屋。

 

 ジョセフはそれを無視して二人目の鉤爪を頭を右に傾けてかわし、すれ違いざまに、首を切り落とす。

 

 首と胴体が離れたところから、血が盛大に噴き地面を赤一色に染める。

 

「さぁて…と」

 

 ジョセフは大鎌を展開し、残りの掃除屋と対峙する。

 

「こりゃ、長い一日になりそうだ」

 

 ジョセフはそう言いながら、大鎌を構え――

 

「さぁ、紳士淑女の皆さん!顔はわからないけど…天使とダンスだ!」

 

 ジョセフが高々とそう言うと同時に、掃除屋達は一斉にお襲いかかり――

 

 路地裏の一角で激しい戦いが繰り広げられるのであった。

 

 それからしばらく時間が経ってからの、丁度、日付が変わった直後の午前0時。

 

 その前後にはフィーベル邸ではリィエルが重傷を負い、ルミアがジャティスに攫われ――

 

 それからしばらく経った後、別の場所では、アルフォネア邸が真っ二つに割れ――世界から消滅するなど、真夜中に大きな動きがあった。

 

 

 

 

 そして――大破したアルフォネア邸から少し離れた、小高い丘の上にて。

 

 セリカを倒した白鎧とローブを組み合わせた古風な聖騎士装束を纏う壮年の美丈夫――ラザールが、その場所へ足を運ぶと。

 

 そこには、二人の男が手筈通り、ラザールの合流を待っていた。

 

「へへっ…首尾はどうっすか?ラザールさんよぉ」

 

 二人の男の片割れ…いかにもなチンピラ風の男が楽しげに聞いてくる。

 

「グレン=レーダスは逃した。だが、セリカ=アルフォネアは始末した」

 

 ラザールは、事実を淡々と男に返す。

 

「ふん…あれほどの手駒を消費してまで、この一手、指す必要があったのか?」

 

 二人の男の片割れ…深海より昏い闇を纏うダークコートの男がぼそりと呟く。

 

「何者かの手によって、ルミア=ティンジェルが攫われた以上、グレン=レーダス、セリカ=アルフォネアは、その行方を追い、必ずやフェジテ中の魔術的捜索に動くだろう。そうなれば、今回の計画への連中の盤面介入は最早、必至。それとも…かの第七階梯は最後まで我々の計画に気付かぬほど愚鈍か?」

 

「ないな。元より然程、隠蔽力の高い計画ではない…彼奴らがフェジテ中の捜索に動けば、その過程で必ず我々の計画を嗅ぎつける」

 

「ならば、先手を打って、潰す。それが最善手だ」

 

「さっすが、ラザールさん!あの阿婆擦れババァさえいなけりゃ、もうこっちのもんだよなぁ!?ぎゃはははははははははは――っ!」

 

 大賛同したチンピラ風の男が、いかにも軽薄そうなバカ笑いを上げるが……

 

「だが、ラザール。貴様はグレン=レーダスを逃した。奴を甘く見るな。あの男は何をしでかすかわからん。…藪蛇にならなければいいがな」

 

 ダークコートの男は、冷ややかに警告するのみであった。

 

「はぁ?ンだぁ?ラザールさんに盾突くのかぁ?てめぇは黙ってろや、負け犬」

 

「……やけに噛みつくな」

 

「あぁ?こうして戻って来れたからいいもんだが、てめぇ、忘れたとは言わさねえぞ?」

 

 たちまちチンピラ風の男とダークコートの男の間の空気が張り詰め、悲鳴を上げる。

 

 次の瞬間、殺し合いに発展しかねない、そんな一触即発状態だったが……

 

「やめよ、貴殿等を戻したのは、そのような下らぬ小競り合いのためではない」

 

 ラザールの介入に、チンピラ風の男は舌打ちして引き下がるのであった。

 

「さて、我々は計画の次の段階に移るぞ」

 

「そりゃいいんだがよ…だが、どうすんだ?肝心のルミアちゃん、誰かに攫われちまったんだろ?もし、フェジテから逃げちまったら…意味なくね?」

 

「どこで掴んだか、水面下で我々の計画の妨害に動く者もいる…恐らくは、ルミア=ティンジェルを攫った下手人と連邦軍だろうが」

 

 だが、そんなチンピラ風の男と、ダークコートの男の言葉に。

 

「仔細ない」

 

 ラザールは、懐から小さな鍵のような物を取り出して見せ、そう断言した。

 

「成る程…『鍵』か。ついに決意はしたということか」

 

「……そうだ。いずれにせよ、我らの計画が成れば、ルミア=ティンジェルは死ぬ…遅かれ早かれ、確実に。そして――我々は『現状維持派』との戦いに勝利するのだ……」

 

 そして。

 

 ラザール達が動き出す――

 

「さぁ、始めよう。天なる智慧の栄光のため、そして――我等が大導師様のために」

 

 

 

 

 こうして。

 

 後に、フェジテ最悪の三日間と呼ばれる大騒乱の、幕が開くのであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はネブラスカ州です。

人工193万人。州都はリンカーン。主な都市にオマハ、リンカーンです。

愛称はトウモロコシの皮をむく人の州です(長い)。37番目に加入しました。

アメリカ合衆国を構成する50州の中で唯一、州議会が一院制であります。

ネブラスカとは古代オトー語、オマハ語の(どれもインディアンの言語)で州内を流れるプラット川に因み「静水」を意味しています。

畜産と農業が盛んな州です。

中心都市オマハはオマハ牛として知られ、全米垂涎の銘柄牛だとか。

ユニオン・パシフィック鉄道の拠点であり、本社もここに置かれています。

そのオマハ以外は正直ど田舎であり、全人口の過半数がオマハとその近郊に住んでいるなど、一極集中がひどい州の代表としてよく取り沙汰されています。


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