「・・・・・・なぁ天。いつまでこうしてるつもりだ・・・」
鬱蒼と生い茂る木々の中、綺麗な声で鳴いている鳥以外の気配を感じず、何も起こらない決めつけた零が、気だるげな声で話かける。
「・・・?何をだ?」
「だから・・・いつまでこんな所を歩くつもりなんだよ・・・。走れ、めんどくせぇ」
天、轟鬼、紫で行った飲み会。
協力することにした天は、先ず紫の言われた通りの場所、もとい自分が目指していた街、いや、都に歩を進めていたのである。
『都には行くのはそもそもの予定だったが・・・どうして、都
紫にその事を天が問うと、顔に特有の胡散臭い笑みを浮かべながらも答えた。
『最近、都に結構強い妖が現れたって言う噂を聞いたの。ふふっまぁ私が行ってもいいのだけどもねぇ?』
『ぬぬ?そんな噂どこで聞いたんじゃお主?』
轟鬼がそう言うと、紫は少し哀愁を込めた顔で口を開く。
『友達が、ね』
あまり触れられたく無い内容なのだろう。いやそんなことよりも。
『お前・・・友達いたんだな。てっきり居ないとばかり思ってたぞ』
言った瞬間、天の目の前の空間が
中は生気が感じられる大量の目が、俺を見ていた。
やがて、その中から紫の白い、貴婦人が付けているような白い手袋が、力強く握られ、拳の形を形成し出てくる。
慌てる気持ちを抑え、冷静に見極め上体を後ろに倒すことでこともなげに避ける。
紫の拳は空を切り、悔しそうに手を振り回しじたばたする。
やがて、その空間は元のように端と端がくっつき、何も無かったかのようになる。
『なるほどね・・・ふむふむ。今のがスキマって訳か。そして、それを自由に操ることが出来るから』
『スキマ妖怪、とな。かかっ、強いのぅ』
能力としては、かなり強い部類だろう。
弱かった訳では無い。単純に、天との経験の差が、実戦の差があり過ぎるだけなのだ。
『〜〜〜ッッッ!!!』
完全な不意打ちを潰された紫が、言いが耐えのない恥辱に身を震わせる。
この後謝り、
ちょっとしたトラブルを思い出し、クスッと笑う天と、その反面、そんな大事な時に寝てた零は今も尚眠そうに――いや、飽きているだけか、と天は決めつけた。
「その気持ちも分かるけど、少しはゆっくり行かせてくれ」
「・・・ちっ、まあいい」
寝る、と一言だけ残して零の気配が少し収まる。
そんな様子に天は呆れつつもその心意気にほんのちょっと同意し、肩を少しすくませる程度に済ませた。
実のところ、轟鬼と紫の2人と別れた時が少し肌寒い日の出だったが、既にその太陽は散々と照りつけている。
もっとも、この木々の中ではほんの少しだけしか日が入らないが。
(それにしても・・・いつまで続くんだ・・・?)
流石に飽きてきた天は、いっその事零が言っていたように走るか・・・と考えてきた時。
ふと視線を感じ、少し鋭くなった目線をずらすと・・・。
「・・・キューン」
見たことが無い、クルっとした目、中々目立つ橙色、しんなりとした尻尾をもった狐がいた。
・・・体がほっそりと、さらに小さいことから子狐であると思う。
森の中に1匹ぽつんと、こちらを見ている。
しかし・・・何ともまぁ・・・。
「可愛「うまそうだな」っておい、何言ってんだ」
いつの間にか起きていた零が、中々嫌なことを言う。
天は食う食われる以前の問題に、動物が好きだ。
・・・もちろん美味い動物も好きだが。
「にしても・・・なんでこんな所に狐が?痕跡とかは見なかったし・・・何より気配を感じなかったぞ・・・」
狐をジィーっと見ながらも考える天。
一方狐は微動だにせず、時折その愛くるしい目をぱちくりさせている。
試しに一歩踏み出すも、怯えはしているが逃げない。
変に思った天は、狐のすぐ側に向かう。
「・・・なるほど、そういうことか・・・」
狐は罠にかかっていた。
恐らく、人間が仕掛けたであろう罠は、狐の細い足に深く食い込み、辺りに乾いた血があることから、結構前に逃げようとし、諦めたのか、と天は分析する。
「・・・・・・キュゥ・・・」
可哀想だ、と感じた天は零を抜き、その刀身を素早く振り抜き、狐を拘束していた罠を斬る。
「キュゥ!」
狐は鳴き声を上げつつその場から離れ、天の元へ近ずいてくる。
しかし、傷が深かったのかフラフラしており、とても安全感が無い。
だが、一緒懸命近ずいてきて、足に頭を擦り寄せてくる狐を、天は刀をしまい、両手に掲げる。
「もう罠にかかるなよ?次は助けてやれねぇからな」
そういい狐を地面におろし、首辺りを撫でる。
心地よさそうにする狐。
さて、そろそろ行こうかと天が思ったとき。
「クックッ・・・おい、天。あの狐を見ろ」
「?」
零の言葉に従い狐を見るも、特に変わったことも無く、こちらを見ている。
「・・・特に何ともないが・・・。どうかしたか?零」
「ハァー・・・。物分りが悪ぃな。あの狐、お前について来いって言ってんだよ。ほら、早く行きやがれ」
驚くもつかの間、狐はキュゥとひと鳴きして、草の中を進んでいく。
「ほら、早く行け」
初めての事に戸惑いながらも、天は狐の後を追う。
自分で言っといてあれだが、狐は怪我をしていたはずだ。それはさっき確認したし、俺によってくるとき、フラフラしていた。
なのに今はどうだ?
地面を縫うように走り、挙句の果て後ろにいる俺を見る余裕すらある。
少し危惧し考え、どうするのかを決めようとしたその時、キツネが急に止まる。
遅れて止まると、狐はどこからか葉っぱを取り出し、口に咥え、そのまま空中に放り投げた。
そして自分も飛び跳ねて一回転し、頭に葉っぱを乗せて着地する――
ポンッ!!!
すると、なんということだろう。
今まで何ともなかった、ただの森だった場所が無くなり、狐の石像がのった岩柱が並び、更にその奥に木で作られた建築物があるではないか。
そして唐突に増える目の前にいる狐――だったものと同じ気配がする。
「・・・・・・」
空いた口が塞がらない、というのはこんな時に言うのだろうか。
目の前にいたはずの狐の子は、今やあどけない少女の姿になっている。
狐の子、と断言出来るのは、キツネ色の耳としっぽがあったからだ。
少女は凛とした、しかしまだ少女を感じさせるあどけない声で俺に向かってこう言い放つ。
「ようこそ、キツネの里へ!私の命の恩人さん!」
これが、キツネとの初めての出会いだった。
遅れてごめんなさい!
という訳で始まりました、キツネの里編。
ま、楽しんでくれたら嬉しいなぁ。更新早くなるなぁ・・・