デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

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十話 《悪夢 再び》

コンクリートジャングル…その名の通り、コンクリートで囲まれたこのジャングルに似た空間で人々は忙しなく歩いていた。出勤、通学、はたまた買い物か、それぞれの都合で移動する人の波…それを見る者がここに一人。決して波の中に身を投げず、壁に背を預ける彼は人混みをアリの群れの様に見る。そしてふと、彼の持つスマートフォン…否、デジヴァイスから着信音が鳴り響き彼は通話ボタンを押す。

 

「…何の用だ」

《カカッ、そう気を荒げるでない。お前さんにとってはいい知らせじゃ》

 

嗄れた声で電話の相手は彼に話しかける。どこかつかみ所のない様な相手にイラつきながらも彼は耳を傾けた。

 

《“D”からの報告での、例のデジモンが新たな力を手に入れたようじゃ》

「ヤツか」

『ほウ、ではまた行くとするカ』

 

今度はどこかイントネーションがおかしい声が聞こえる。彼の隣には誰もおらず、通話越しからの声とも違う。彼の持つデジヴァイスから直接聞こえてきたのだ。

 

《せいぜい気をつける事じゃな。傲慢が過ぎれば痛い目を見るぞ》

「ふん、バカな事を言う」

 

彼はパーカーに着いてあるフードを被り壁から背を話す。そしてポケットの中からあるものを取り出した。それはとあるデジモンの顎…赤く鋭利な顎の先端は粒子となって消えかかっている。彼はそれを興味無さげに道端に捨てると声の主に最後に一言声を掛けた。

 

「次に連絡する時はもっと歯応えのあるデジモンの情報を持ってくることだな…“G”」

 

そう言って彼…“A”は通話を終了しデジヴァイスをしまう。そのまま彼は人の波の中に消えていった。

 

 

 

「今日の授業はここまで。最後に配ったプリントの提出は夏休み明けに回収するからじっくり考えるように」

 

6時限目の授業、その終わり。ベルが鳴り教師が荷物を纏めるとそのまま退室していった。それと同時に騒がしくなる教室、これからホームルームがあると言うのに中には他のクラスに行く者もいる。

そんな中で浪川 タツヤはこっそりとデジヴァイスにいるワレモンと会話していた。ちなみにカケモンは昼寝中だ。

 

『ZZZZ…』

『人間ってメンドクセー事やるんだな』

「はは、まあね。学校だし。でも…どうしよ」

「何が?」

 

ワレモンに苦笑い気味で答えていると隣から声を掛けられた。もう最近では慣れて来たため驚かないタツヤは彼女…才羽 ミキに返答する。

 

「いや、さっきのプリントの事でね」

「提出は夏休み明けの筈。今考えるのは早い」

「そうなんだけど…」

 

そのプリントの内容が問題だ。その内容とは進路、もしくは自分の将来就きたい職業、夢など。少なくとも一つ書けばいいのだが今彼は中学ニ年生。具体的なものをいくつか書かないと後で職員室に呼ばれると言った始末にならなくもないのだ。タツヤは真面目な方なので全て埋めるつもりではいるが、こういったものは苦手としている。すると、再びタツヤに話しかける者が現れた。

 

「あの、浪川君。それに才羽さんもどうしたんですか?」

「ああ、沢渡さん。実はね…」

「おーい、タツヤァー!お前さっきのプリント何書いたー!?」

 

アサヒが声を掛けた数秒後に城太郎が教室に入ってくる。これからホームルームだと言うのに何をやってるんだかと呆れているタツヤだが、何気にこの場にデジモンを知るメンバーが揃った事にちょっとした驚きがあった。

 

 

ホームルームは無事に終わり、放課後。夏休みまであと一週間ほどだと言うのに生徒達はいつもと変わらず部活に会話といつも通り過ごしている。だがここで、いつもとは違う状況に戸惑うタツヤがいた。

 

「何この状況…」

「そいやぁ、まともに自己紹介してなかったな。俺は立向居 城太郎!この学校一のエキスパートだ!」

「わ、私は沢渡 アサヒです。同じクラスですけど、話す機会ありませんでしたよね…」

「才羽 ミキ」

 

机を合わせて自己紹介をする三人。そういえばこうやって全員集まるのは初めてだったと今更ながら気付いていた。デジヴァイスの中にいるワレモンもなんか豪華だな、と言っている。そうしていると、城太郎がついさっきまで聞きそびれていたことを再びタツヤに問い掛けた。

 

「それでよ、タツヤ。お前さっき配られたプリントなんて書いた?」

「いや、さっき配られたばかりでしょ。書いてるわけ無いよ」

「俺は書いたぞ、ほら」

 

そう言って出されたプリントに目を通すタツヤ。それに伴ってアサヒと、目線だけプリントに目を向けるミキも確認する。第一候補…そこには大きな文字でデカデカとエキスパートと書いてあった。いつも通りなのかバカなのか、タツヤは頭を押さえる。

 

「エキスパートって…。これ進路か将来の夢を書くものだよ。もっと具体的に書かないと」

「そうだっけか?あー、進路は考えてねぇや。スポーツ推薦があればその高校行くけど」

「スポーツ推薦、ですか?…立向居君は何部でしたっけ?」

「帰宅部」

「バカでしょ」

 

遠慮なく言うタツヤにそうか?と首を傾げる城太郎。気をとりなおして、タツヤは今度は隣にいるアサヒに話題を振った。

 

「沢渡さんは?やっぱり進学するの?」

「はい、私はこのまま近くにある高校に行こうと思います。家から遠いと、お父さんが心配するので…」

「ああ…そうだね」

 

思い出すのは獅子の如く激昂したアサヒの父…そしてそれを手刀で沈める母の夜空。予測可能な事態になるなと、内心思いながらも今度はミキに声をかける。

 

「それで才羽さんは?転校してきたばっかりだから、まだ考えて無い?」

「私、は…」

「だー!?お前ら進路進路ってウルセェよ、親か!?これ夢も書いていいんだろ!?じゃあ夢の話しようぜ、夢のある話をよ!?」

 

ミキが言い淀んでいると、城太郎が噴火した様に声を上げた。まだ教室にいる生徒はうるせぇと文句を言うがそれだけで落ち着く。たしかに城太郎の言うことももっともだ。このプリントには進路の他にも夢も書いていいと書いてある。ならば彼の言うことも正しい。

 

「そう言う城太郎は?何か夢があるの?」

「俺か?俺は親父がやってる何でも屋を継ぐ事が夢だな!つっても母ちゃんは高校までは行けーって言うからすぐにはできねぇんだけどな…」

 

実際には城太郎の実家は何でも屋ではなく、自転車屋だ。だが、彼の家は父と母、そして城太郎と弟と妹達の合計七人家族なので自営業で家計を支えるのは難しい。なので五年ほど前から自転車以外にも、壊れた機械の修理や探偵がやる様な浮気調査までやっているのだ。城太郎の父親が器用と言うレベルでは済まされないのは源光と同じなのだろう。

 

「大変なんですね…。でもちゃんと高校は行かないとダメですよ?」

「そういえば沢渡さんは道場を継ぐの?」

「あ、いえ。兄が継ぐことになってるんです。今は留学中なんですけど、戻ったらすぐに」

「ほー。んじゃあ、沢渡の夢ってなんだ?」

「えっと…せ、専業主婦、がいいなぁって…」

「「へー」」

 

揃って関心するタツヤと城太郎。だがしかし、専業主婦と言った時のアサヒの目線がチラチラとタツヤを見ていたことには誰も気付いていなかった。余談だが、彼女の兄…沢渡 太陽は大学生で父親にも負けず劣らずアサヒを大事に思っている。現在留学中だがもしも帰国し、タツヤとの関係がバレたとすると…どうしようもなく面倒な事になるだろう。

そうしていると、ふと城太郎が一向に自分の事を喋っていないタツヤに気付いた。

 

「あれ?さっきからタツヤ聞いてばっかで進路も夢も言って無いな」

「そういえば…。浪川は進路はどうするんですか?やっぱり進学ですか?」

「………」

 

アサヒは城太郎に同意するようにタツヤに疑問を投げかける。一方のミキも言葉に発していないが視線をタツヤの方に向けた。以前、彼に興味があると言っていた事もあり関心を向けている。そして聞かれたタツヤはと言うと、少し口元に手を当て考え…口を開いた。

 

「そうだね、やっぱり進学かな。そしてそのまま大学、就職…って感じで」

「はー?お前なんつードライな人生設計してんだよ!もっと夢持てって!」

「…持てたら、良かったんだけどね」

 

そう言ったタツヤは少し寂しそうに笑う。その行為に三人は口を閉ざす。今のタツヤはいつもと違い、なんとなく劣等感と自虐の様なものを感じた。

 

 

その後、四人はタツヤの家に行く事になった。ミキには以前きて欲しいと言ったし、アサヒも行きたそうにしている。城太郎に関しては小学生の時以来なので少し浮かれていた。道中他愛のない会話をして校門を出る…その直後、ゾクッ、と冷たい視線を感じ辺りを見回すタツヤ。そして見つけてしまった…自分とカケモンの中での最悪の思い出の相手が。

 

「お前…!」

「なんだ?タツヤの知り合いか?」

 

城太郎がタツヤと校門の壁にもたれ掛かっていた人物を交互に見る。アサヒも目を瞬きさせ首を傾げていたが…もう一人、ミキは顔を強張らせていた。それに気付く事なく、タツヤは目の前の黒ずくめの男に冷や汗を垂らしながらも叫ぶ。

 

「なんでここにいる…“A”!」

「…久しぶりだな」

 

 

 

校門にいた“A”は付いて来い、と一言告げるとすぐに歩き出していた。前に似た状況…タツヤは後ろの三人を帰そうとするがただならぬ様子に首を縦に振らず、結果的に付いていく事に。そしてその間、タツヤは目の前の男が以前戦ったもう一つのデジヴァイスを持つ男であり、カケモンを倒したデジモンと行動を共にする男だと説明していた。

 

移動する事十数分、タツヤ達は人気の少ない河川敷に来ていた。夕方という事もあり人通りがあまりなく、尚且つ建造物がない事で思い切り暴れる。その状況にホッと息を吐くと、”A“は振り返り、被っていたフードを取った。そして火傷に爛れた顔をほんの少し歪ませ口を開く。

 

「聞いたぞ、新しい力を手に入れたんだってな」

「…!どこでそれを」

「答える必要は無い。さぁ、始めようか」

 

この事を知るのは片手で数えられる人間だけだ。どこかで見ていたのか?そもそも聞いたと言うのは誰から…そう思考していたが”A“はタツヤを無視しデジヴァイスからドラゴンと蛾が合わさった様なデジモン…モスドラモンを呼び出す。それを見てタツヤもデジヴァイスの中からカケモン(ワレモンに叩き起こされた)を呼び出した。

 

「カケモン!」

「う、うん!」

「モスドラモン」

「あア」

 

タツヤと“A”は互いにデジヴァイスの《X EVOL.》を起動させカードを具現化させる。タツヤはアルフォースブイドラモンの、”A“は花魁の様な格好をした異形の右手を持つデジモン…リリスモンのカードを手にコードをスキャンした。

 

 

「セットアップ、アルフォースブイドラモン!」

「セットアップ、リリスモン」

 

 

互いのデジヴァイスから互いのパートナーへと光が放出され変化をもたらす。

カケモンは0と1の空間で兜を上へ投げ、強靭な体へと成長させる。変形した兜を被り腰にバックラーU、胴体と四肢にVを象った青い鎧を装着しマフラーを付け、飛び上がると口のバイザーを閉じ着地。そして正面を交差させる様に振り抜くと、高らかに名乗り上げた。

 

 

「アップグレード! カケモン ver.アルフォース!!」

 

 

一方、モスドラモンもカケモンと同じ空間で半透明になったリリスモンを吸い込むと、口から白い糸を放出。そして身に纏い繭の様になると巨大化、そのまま破裂すると以前見せなかった、新たなモスドラモンの姿が露わとなる。全体的に紫がかった鱗に黒い羽織を身に纏い、羽は以前の二つより巨大化していた。両手は金色の爪に変わり、頭部には同色の角が生える。そして禍々しい鱗粉を撒き散らし、色欲の悪魔は新たなる名を名乗った。

 

 

「アップグレード モスドラモン モデル・ラスト…!!」

 

 

アップグレードしたカケモンとモスドラモンは互いに牽制し合い動かない。以前なら萎縮していたカケモンも経験を積み精神的に成長している証拠だ。それを見ていたアサヒ達、それにデジヴァイスから出てきたワレモンは以前見た時と別の姿に驚いていた。

 

「野郎、まだあんなの隠してたのか!?」

「浪川君が言ってたデジモン…カケちゃんと同じ…!」

「…!」

「おいお前ら!ここから離れるぞ!」

 

アサヒとミキ、そしてワレモンに呼びかける城太郎。その場にいた戦えない者達は城太郎の言う通り二体から離れ出す。それは“A”も同じだった……モスドラモンは首を鳴らすと挑発するようにカケモンに手招きした。

 

「さテ、あれからどれほど強くなったかカ…試すとしよウ」

「今度の様には行かない…このボクがお前を倒してみせる!」

 

ポーズを決めてモスドラモンに指差すとカケモンは高速で走り出した。それにやや遅れて対応するモスドラモンだが、背中にある蛾の羽を羽ばたかせ空中へと浮遊。それを追いかける様にカケモンは飛び上がり蹴りを食らわす…そうしようとしたが、とっさに後ろへ下がった。するとどうだろうか…羽ばたいた瞬間に散った鱗粉が地面に触れるとその場が腐食し出す。一歩踏み込めば自分も餌食になっていただろう。

 

「地面が…!」

「このは鱗粉、そして爪のナザルクローは全てを腐り落とス。貴様の体に擦りさえすれバ、一瞬で終わるだろウ」

「擦りさえすれば、ねっ!」

 

そう言ってカケモンはバックラーUからエネルギーを腕に纏いアルフォース・アローを具現化させ飛ぶ。その事にバカメ、とモスドラモンはさらに鱗粉を撒き散らす。…しかし、その鱗粉は広がらず、逆に急速に上昇していく。どう言う事ダ、とモスドラモンは周りを見渡すと、カケモンが自分の周りを高速で回転し、竜巻を作っていた。それに乗って鱗粉は上昇していたのだ。

それに気づきモスドラモンは鱗粉を撒き散らさず、自らの手で攻撃しようとするがカケモンはアルフォース・アローで距離を開けながら攻撃を開始し接近を許さない。

 

「グッ!?この形態とは相性が悪いカ…」

「変えるぞ。セットアップ、リヴァイアモン」

 

多少のダメージを負ったモスドラモンに“A”は新たな光を射出する。

半透明のリヴァイアモンを吸い込み糸を吐き出し繭になるモスドラモン。そして巨大化した繭は四散し、中から赤い鱗に身体中に口を持った姿へと変貌したモスドラモンが出てくる。

 

 

「アップグレード、モスドラモン モデル・エンヴィー…!」

 

 

モデル・エンヴィーへとアップグレードしたモスドラモンは地面へ盛大な音を立てながら着地すると、自分に向けて放たれた光の矢をその全身の口で次々と吸い込み始めた。それを見かけたカケモンは地面に降り、タツヤへと目配せする。

 

「いくら撃ってもダメみたいだね。ならこっちも!タツヤ!」

「わかった!セットアップ、ジエスモン!」

「アップグレード! カケモン ver.ジエス!!」

 

瞬時にカケモンはver.ジエスへとアップグレードすると手に持った短剣を逆手に持ちモスドラモンへと接近する。そして始まる四方八方からの攻撃…今のモスドラモンはその巨大な体故に動きに対応しきれていない。全身にある牙で短剣を防御するが何度かその刃の餌食になっている。

 

「オラオラァ!トロいぜ!」

「調子ニ…乗るナ!!」

「うぉっ!?」

 

モスドラモンは短剣を腕の牙で噛み、掴み取るとカケモンを地面へと叩きつける。肺にある空気が全て出て行く様な感覚に陥るが、カケモンは意識を保ちながらも残った片方の短剣で掴まれている口の周りを攻撃し始めた。

 

「テメェ、離しやがれ!」

「ヌゥウウウウウウウウウ!!」

「おわあああああああ!?」

 

力任せに放り投げられるカケモン。そのまま川へと投げられ中に沈んで行った。が、すぐに飛び上がるとカケモンはランサーJを手にしてモスドラモンへと再び攻撃をし出す。そしてそれを見ていたアサヒは安堵の息を吐く。

 

「カケちゃん…!」

「チッ、“D”の報告不足か。新たな形態は二つあったのか。使えない…」

「“D“…?誰だ、それ?」

「………」

「君は、君達はなんでそんな目が出来るんだ。なんでそんなに…」

「黙れ。抜け殻風情が」

 

いつのまにか近くにいた”A“に質問をして、そう返された。それを言った彼はどこか嫌な物を見るような目でタツヤを見つめていたのだ。タツヤは身に覚えのない事に困惑し…そして胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

 

「抜け殻…?」

「なんだ、自覚していないのか?なら余計にタチが悪い…」

「なんだ…なんの話をしているんだ!?」

 

行き場の無い焦りにタツヤは叫ぶ。その光景を見て、アサヒ達は目を見開いた。今まで冷静だったタツヤのこんな姿を見て驚いたのだろう。そして問いかけられた“A”はどこ吹く風と言った様子で答えた。

 

「知りたければ俺たちを倒すといい。勿論、できたらの話だがな、…セットアップ、デーモン」

「っ、カケモン!こっちも行こう!セットアップ、オメガモン!」

 

互いに一番最初に戦った形態のカードをスキャンする。デジヴァイスから放たれた光は槍と牙を打ち合っていたカケモンとモスドラモンに当たり、距離を取る二人。そして光を纏ったまま、再び互いに接近した。

 

 

「アップグレード モスドラモン モデル・ラース…!」

「アップグレード! カケモン ver.オメガ!!」

 

 

ウェポンΩと赤く鋭い爪がガキン、と音を立ててぶつかる。その衝撃で草や水面が波打たれ、タツヤ達も顔を腕で隠す。そんな中、モスドラモンはカケモンの姿を見てフン、と鼻で笑った。

 

「フン、よりによってソレカ」

「何…?」

「その形態は今までの形態と違イ、パワー、スピード、テクニック…あらゆる物が平凡ダ。面白みが無イ。ソレニ…」

 

 

「お前はその姿で敗北しタ!」

「っ!?」

 

モスドラモンは爪を使いウェポンΩの刃を受け流しカケモンの腹部に膝蹴りを打ち込む。さらに追い討ちをかけるように頭突き、ウェポンΩを持つ右手を攻撃した。その衝撃で右手から武器を手放すカケモン…トドメと言わんばかりに口に紅蓮の炎を溜める。

しかし…

 

「フ…。…ッ!?」

「オレを、あの時と同じだと思うなっ!」

 

カケモンは残った左腕でモスドラモンの顎に拳を打ち上げる。今までマークしていなかった左腕からの攻撃に虚を突かれたモスドラモンは思わず後退。それに追い討ちをかけるようにカケモンは蹴りと拳を腹部と顔に打ち込み、地面に落ちたウェポンΩを拾い上げるとゼロ距離でモスドラモンの腹部に弾丸を複数打ち込んだ。

 

モスドラモンは焦り、後ろに大きく飛ぶ。そして打ち込まれた腹部に手を当てると、口の端を歪ませた。…笑ったのだ。モスドラモンはカケモンとの勝負で初めて笑った。だがそれは一瞬。モスドラモンは紅蓮の炎を再び集め始める。対するカケモンもウェポンΩの銃口から炎を出し剣に纏わせた。

 

 

「ラース・インフェルノッ!!!」

「ドラゴニックブレイブッ!!!」

 

 

煉獄の炎の塊を吐き出すモスドラモン、そして竜人の幻影を纏いながら走り出すカケモン。炎の塊と炎を纏った剣がぶつかり、辺りは爆風に包まれる。カケモン、とタツヤの叫び声もかき消され、土煙が辺り一面に広がった。息を呑み見守る事数秒……土煙が晴れ、カケモンとモスドラモンのいた位置を見つめる。

そこで立っていたのは…モスドラモンだった。カケモンは元の姿に戻り倒れている。

 

「勝ったか。さぁトドメだ、モスドラモン」

「……いヤ、勝ってなどいなイ」

 

“A”がモスドラモンにそう言うが、本人は否定する。何?、と“A”が言った瞬間、モスドラモンはその場で膝をついた。それに加え元の姿に戻り肩を上下させて呼吸している。

 

「モスドラモン…!?」

「侮っていた様ダ…オれが膝を着くとはナ…!」

 

初めて”A“の動揺する顔を目にする。その間にタツヤ達はカケモンの方に駆け寄り抱きかかえた。傷の具合は前回より軽度だが気絶しているようだ。タツヤはすぐさまデジヴァイスにカケモンを入れ、モスドラモンの前にワレモンが立ちはだかる。だが、“A”もモスドラモンも既に戦う意思は見せていない。

 

「撤収だ。今のお前でもトドメを刺すことは容易いが…それはお前が許さないだろうしな」

「当たり前ダ。…そこの人間」

「…何?」

「そいつが目覚めたら伝えておケ。今度こそ必ず仕留めるト」

 

タツヤにそう言ってモスドラモンはデジヴァイスの中に入る。カケモンと同じく傷を癒すためだろう。”A“はタツヤの方を一瞥するとフードを被り歩き出した。今の状況は前の時と同じ、敗北だ。だがしかし…開いた実力は確実に埋まっていた。それと同時に、タツヤは次は本気で来るのだと、そう感じる。

そんな中…ただ一人、思い詰めた顔をする者が一人。

 

「………私の、せい…?」

 

その言葉は、小さすぎて誰にも届く事が無かった。

 


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