デジタルモンスター Missing warriors 作:タカトモン
朝、朝食を済ませ学校に持っていく荷物を確認するタツヤは考え事をしていた。心ここにあらず、と言った言葉がしっくりとくる今の状況…彼は数日前の事を思い出す。それは、カケモンとモスドラモンの2度目の戦闘の合間に言った、“A”の言葉。
(抜け殻…か)
その言葉を繰り返すよう度に、胸の奥が苦しくなる。その言葉の意味を追求しようとしても、タツヤは無意識にそれを拒絶してしまっていた。故に、ここ数日のタツヤはモヤモヤと心の何処かにある引っ掛かりが取れないでいる。そうしていると、源光がタツヤに声を掛けてきた。
「おや、どうしたんだい、タツヤ」
「なんでも無いよ。それよりおじいちゃん…それ何?」
タツヤの目の前には、大量の本を抱えた源光の姿があった。しかも内容はほぼ全て科学関係のもの…ふと、以前本屋で会ったミキの事を思い出す。皮肉にも、その日が“A”と出会った最初の時だった事に内心複雑になった。そんな様子を悟らせないように、タツヤはいつものように振る舞う。
「まさかと思うけど、また趣味増えたの?」
「まぁそう言う事じゃよ。タツヤも読んでみるかい?」
「はは…。ん?」
源光の持つ本の中にタツヤはあるものを見つけた。タツヤはすぐにその本を抜き出し表紙を見る。そして、その著者の名前を見て、驚きを含んだ声を出した。
「これ…」
時は少し進み、学校、タツヤのいるクラスの中では生徒達が浮かれていた。それもそのはず、あと数日すれば夏休みが始まる。遊びの予定や旅行の予定などを言い合う生徒達、だがその中で静かに座っている者が一人。才羽 ミキは何をする訳でもなく、ただそこで本を読んでいる。しかしその様子はいつも通りとは言えず、どちらかと言えば何かの気を紛らわすように本を読んでいるように思えた。するとそこへ、隣の席の住人が声をかける。
「才羽さん」
「あ…。浪川、タツヤ?」
珍しく反応が遅れるミキ。タツヤはそれを見て意外そうな顔をしたがそれは一瞬。いつもの顔に戻り、タツヤは席に着く。それと同時に鞄の中に手を入れた。
「ごめんね、ちょっと聞きたいことがあって」
「…何?」
「この人なんだけど」
そう言って差し出されたのは一冊の本。表題は『電子と遺伝子の未来』、そこには一人の著者と思われる中年男性が写っていた。濃い紫の癖のある髪に少々目の隈が気になるが、その顔は子供のように希望に満ちているような印象を受ける。そしてその横には彼の名前が大きく書かれていた。
その名前は、”才羽 ユキオ“。彼はミキと同じ名字を持つ男だった。
「この人、才羽さんのお父さん?それとも親戚の人かな?おじいちゃんが買ってきた本にあったんだけど、気になっちゃって」
「……………」
「才羽さん?」
本を受け取り見つめるミキ。瞳が震え、唇も同様に震えている。すると彼女は俯き出す。それに不安を覚えタツヤは顔を覗き込む…するとミキは、両目から涙を流していた。
「ちょ、どうしたの才羽さん!?どうして…」
「わから、ない。わからないけど、胸が苦しい…」
両目からポロポロと涙を零し、ミキは本を抱きしめる。…理解出来なかった。ミキはこれまで経験したことのない事に混乱しながらも、今の状態に嫌悪感がない事に驚く。いや、むしろこれは…
すると、タツヤとミキを見ていた一人の女子生徒がこちらに指を向けて声を上げた。
「あー、浪川君が才羽さん泣かしたー!」
「「「何ぃぃぃ!?」」」
「泣かしたって、え?マジで?そういう意味で?」
「うわっ、痴情の絡れってやつ?」
「最近沢渡ちゃんともそういう関係だって噂だったから、もしかしたら…」
「ちょ、ちょっと待って!?なんでそんな事になってるの!?」
タツヤは自分の潔白を証明しようと女子生徒同士の会話の中に入ろうとしたが、既に手遅れだった。タツヤのクラスにいる男子達から殺意のこもった視線を感じると、彼らはありとあらゆる鈍器、殺傷力があるものを手にし迫ってくる。
「俺に質問するな」
「イライラするんだよぉ…!」
「大体わかった。俺がお前の絶望だ」
「抵抗するなよ、時間の無駄だ」
「ムッコロ」
「ムッコロして、いいってさ…」
「Are you ready ?」
「「「さぁ、お前の罪を数えろ」」」
「話聞いてよ!?」
悲痛な叫びも虚しく、嫉妬に狂った彼らはタツヤに襲い掛かる。当然タツヤは背を向け逃げ出し、男子生徒達との鬼ごっこが始まった。
約十分後、鬼ごっこが落ち着きホームルームまであと少しという時、デジヴァイスから声を掛けられる。それはいつもなら家で源光の手伝いをしているハックモンだった。
『すまないタツヤ。放課後に彼女…才羽 ミキと話をさせてくれないか?』
「え、ハックモン?いつの間に…」
『コイツ出かけるときについてきたんだぜ?おまけに黙ってろって言うしよ』
『うんうん』
同じくデジヴァイスからワレモンと既に前回の傷が完治したカケモンが説明する。珍しい、と思いながらもタツヤはハックモンの要求に承諾する事にした。
放課後、タツヤはミキに話があると言い、一緒に屋上について来てもらった。その際、アサヒと城太郎にも話を聞いて欲しいと頼んだのだが、来たのはアサヒのみ。城太郎は他の部活の助っ人に行っていた。
屋上に着き一息つくと、ミキはタツヤを見つめる。濃い紫の瞳がタツヤを写していた。
「それで、話って?」
「あ、えっと。それは僕じゃなくて…」
『オレだ』
デジヴァイスからハックモンが出てくる。赤いマントを揺らし、屋上に降り立つと彼はミキの目の前に立った。
「あなたは…」
「オレはハックモン。こうして会うのは初めてか?それとも…顔だけは知っていたのか?」
その言葉にタツヤとアサヒ、デジヴァイスにいる二体は頭に疑問符を浮かべる。ハックモンの言った言葉には少し引っ掛かりを感じた。しかも彼の表情はミキを警戒しているような、そんな印象を持つ。そんな事は露知らず、ハックモンは口を開く。
「君にいくつか聞きたいことがある。この前、街にドクグモンが現れたあの日、オレは君の姿を見た。あの時何をしていた?」
「え?才羽さん…あの時にいたの?」
「それは…」
「それに以前、タツヤに旧校舎に何かあると話したそうだな。あの日の夜、オレ達は実際に行ってみたがそこには同胞が、アルフォースブイドラモンがいた。…これは偶然か?」
ハックモンの問いかけに何かを言いかけるがすぐに口を閉じるミキ。タツヤ達もハックモンの言った内容に相違ないようで口を挟めないようだ。その行為に拍車をかけるようにハックモンは続け様に口を開いた。
「それだけじゃ無い。タツヤから聞いた話だが、タツヤとカケモンが出会った時は君が転校してきた日で、しかもタツヤと一緒にデジタルワールドへ行き、戻ってきた。偶然にしては出来すぎている」
「待ってください!ハックモンさんはさっきからなんで才羽さんを疑ってるようなことを言ってるんですか?それじゃあ、まるで…」
「そう捉えてもらってもいい。どの道、彼女が来てから、デジモンが異常な程現実世界に現れている事に変わりは無い」
アサヒの質問に肯定の意思を示すハックモン。その事に内心怒りをぶつけそうになるも、彼の鋭い眼光に押し止まってしまう。再びハックモンはミキの方を向くと、もう一度訪ねた。
「どうなんだ、才羽 ミキ。君は…“A”の仲間で、デジモンをこの世界に送り込んでいるんじゃないのか?」
「………」
「––––––カカカッ!それは半分正解で、半分不正解じゃのぅ。そやつは“A”に通じておるが、デジモンを送り出す力は持っとらんよ」
突如、どこからか嗄れた老人の声が響いた。それは今まで聞いたことのないほどの邪悪さと悪意を感じ思わず鳥肌が立つタツヤ達。そして反射的にタツヤ、アサヒ、ハックモンはミキの真後ろを見つめた。瞬間、彼女の背後の空間が歪み、タツヤとハックモンに見覚えがあるものが出現する。それは七色の穴、デジタルワールドへと通じる門…デジタルゲート。二人はそれを見て目を見開くが、ハックモンは次の瞬間、今までになく険しい顔を露わにする。
「貴様は…!!」
「久しいの、ロイヤルナイツの若造」
ハックモンが顔を顰める一瞬前、ゲートから出てきた一体のデジモンが姿を見せる。魔法使いのような杖を持ち、同じく魔法使いのようなローブを身に纏った仮面をつけた老人のようなデジモン。その背からは悪魔のような羽を生やし、地面に降り立つ。そしてすぐ近くにいるミキは今までにないほど顔を青ざめさせゆっくりと振り向いた。
「な、浪川君…!」
「ハックモン、アイツは一体…」
今までと格が違う、次元が違う相手の雰囲気にアサヒは恐怖し無意識にタツヤの手を取る。そして自分も呑まれそうになるが、それをグッと耐え、か細い声でハックモンへと声をかけた。一方のハックモンは苦虫を噛み潰したような顔をさせ、ゆっくりと口を開く。
「奴の名はバルバモン…七大魔王の一体だ」
『七大魔王』。いつかの会話の中でワレモンの発言の中にそう言う単語があったことを思い出すタツヤ。そして自然と自分の持つデジヴァイスに手が伸びる。が、途中で伸ばされた手は止まった。ポケットの中にあるデジヴァイスが震えていたのだ。それはついてあるバイブ機能ではなく、デジヴァイスの中にいるカケモン、そして驚く事にワレモンが震えているのがその理由だった。
「タツヤ、アサヒを連れてすぐに逃げるんだ。奴はお前達が敵う相手では無い」
「けど…」
「カカ、賢明な判断じゃわい。だが安心せい、ワシは戦いに来た訳では無い」
ハックモンの言葉に戸惑うタツヤだが、一方のバルバモンは少し笑うと安心するようにこちらへと話しかける。だがその言葉にタツヤ達は安心というものを覚えない。一番身近な老人である源光と比べ物にならないほどの嫌悪感を感じながらもタツヤ達は身構える。
「“D”が世話になったからのう、その礼をしに来たんじゃよ」
「…っ」
「それって…“A”が言ってた…」
バルバモンがミキの肩に手を添える。その事にビクリ、と肩を震わせるミキだがそれはすぐに収まり大人しくなった。そしてバルバモンの言った“D”という名前に最近刻まれた記憶を呼び覚ます。それが正しければ、才羽 ミキ=“D“が成立してしまう。つまりは…
「そうじゃ。こやつはワシが送り出したスパイのようなものじゃ…貴様らを監視する為の、な」
「彼女を通して、オレ達の動向を探っていたのか!?」
「カカカッ。ああ、そうじゃ。それとお前さん達…ワシばかり見ていていいのかのぅ?」
「きゃあ!」
「「っ!?」」
タツヤの手にあった温もりが一瞬で消え去る。それと同時に聞こえる、アサヒの悲鳴。タツヤとハックモンは振り返ると、そこにはアサヒを拘束する一体のデジモンがいつに間にかそこにいた。全身が黒く異様に長い腕、そして何より悪魔を彷彿させるような姿のデジモン…後に調べた結果、このデジモンはデビモンというらしい。デビモンは気を失っているアサヒをその手に掴みバルバモンの元へ降り立つ。
「沢渡さん!」
『アサヒ!』
「バルバモン、貴様!」
「おっと、そう焦るでない。なぁに、危害は加えんよ。…ワシの言うことを聞いてくれるならのぉ」
ニヤリ、と嫌な笑みを浮かべるバルバモン。
…目の前のバルバモンにばかり気を取られていたので気付かなかった。自らの不甲斐なさに怒りを感じハックモンはギリ、と歯を噛み締めるが、アサヒの命がかかっているので大人しく要求を飲む事にする。
「…聞こう」
「そこの小僧…浪川 タツヤ、だったかいのう?そやつが持つデジヴァイスを渡して貰うとするかの」
「デジヴァイスを…?」
「何が狙いだ?」
「さぁ、なんでかいのぅ?」
バルバモンは“強欲”の異名を持つデジモンだ。もしかしたらデジヴァイスそのものに価値があるのか…。しかし、それなら“A”の持つものでもいいのではないだろうか。もしくは、デジヴァイスの中で眠るアルフォースブイドラモンが目的なのか?ハックモンは思考を続けながらもゆっくりと問いかける。
「お前が彼女をこの学校に送り出した理由は…この為か?」
「どう捉えるかは貴様の勝手じゃ。じゃがの、“D”が貴様らを監視し、情報を流し、ワシにデジモンを送り出す合図を送ったのは真実じゃ。つまりは…そう思う事が普通なんじゃないかのぉ?」
小馬鹿にするようにこちらへと話すバルバモン。より正確に言えばタツヤに向かって言っているように感じる。そして当のタツヤ本人は内心動揺を抑えるのが難しくなってきた。バルバモンの登場、ミキのスパイであった事実、そして捕まっているアサヒ。これらの要素が今のタツヤの焦りを促しているようにも思える。だがタツヤは、焦りを無視しながらも一歩踏みしめた。
「才羽さん…君は、本当に…」
「…浪川 タツヤ。貴方には興味があった。でも、貴方を観察して結論に至った」
静かにそう呟くミキ。今の彼女の顔は俯いているので表情は見えはしないが、微かに声が震えているような気がした。だが震えを感じさせないほどにミキは次々と口を開く。
「同世代に比べると貴方の行動は機械的すぎる。毎日同じ事を繰り返す、気味の悪いほど正確に私は貴方が歪な存在だと感じた」
再び動揺、同時に胸の奥に鈍い痛みが込み上げてくる。…聞きたくない。生まれて初めてそう感じたタツヤは無意識に耳を塞ごうとしたが、腕がうまく上がらない。拒むことは許されない、そんな気がした。
「何をするわけでも無く、外部からの干渉でしか感情を出さない、出せない。自発的に行動できず、変化をもたらす事のない存在」
否定したかった。次第に口の中は乾き、口元がガチガチと震えだす。デジヴァイスの中で二人が何かを叫んでいるように思えるが、目も耳もミキからそらす事が出来ない。今の自分はどうしようもなく、情けなく見えるのだろう。否定をしようとして声がやっと口からこぼれた。
「ち、違う…」
「関心がある訳でもなく、向上心もない。生きるという行為の為に動く機械、人形。それが人間を演じているように思えた」
––––––やめて
––––––もういい、たくさんだ
––––––そんな事、誰よりも分かっている
動機が早まり、呼吸が荒くなる。汗が吹き出し、焦点が定まらない。立つのもやっとに思える今の状況で目の前の彼女が俯いていた顔を上げる。その顔はいつもと同じ無表情。感情のかけらもないような、その顔に心臓が掴まれるような感覚に襲われる。
耳を塞ぎたい、目を逸らしたい、この場から逃げ出したい。それでも目を反らせない、この現実。
ああ、本当に、そんな事…
「浪川 タツヤ。貴方の存在に…意味は無い」
誰にも、言って欲しくはなかったのに
タツヤはまるで糸が切れたかのようにその場で膝をつく。その事にハックモンとデジヴァイスにいた二人は動揺した。
「タツヤ…!?」
『タツヤ!?どうしたの、タツヤ!?』
『おい!しっかりしろタツヤ!?』
「カカカカカッ!すまんのぅ、教育が足りんかったわい。まぁ、考える時間も必要じゃからのぅ。今夜の0時、この場所で答えを聞こうかの」
「待て!」
バルバモンはそう言ってゲートの中を潜る。それに続くようにデビモンもアサヒを連れて中へ。ハックモンは追いかけようと思ったが、追いつけばアサヒに何か危害を加える可能性がある。それを考えれば今は何もする事が出来ない。ハックモンは手を強く握りその光景を見る事しかできなかった。
そして最後に残ったのはミキ。彼女はゲートの前に進むとその場で立ち止まる。そして数秒、彼女は再び歩き出しゲートの中へと入っていった。
「タツヤッ!!」
「ジョータロー、来たのか」
バルバモン達が去った後、ハックモンはタツヤを強引に自宅へと運び、策を講じることにした。その際、一応城太郎にも連絡は入れておいたのだ。関係が無いわけではなく、実際友人であるアサヒが連れ去られたのだ…秘密にすると余計に心配させる事になる。現に城太郎は焦りながらも扉を開けて入ってきた。しかしここにはタツヤの姿は無い。
「落ち着け、ジョータロー。タツヤは自室だ。…今はオレ達が干渉するべきでは無い」
「どういう事だよ、アイツどうしちまったんだ…」
頭を乱雑に掻き乱し、ソファへと座る城太郎。そんな中でもハックモンは考えていた。なぜバルバモンがデジヴァイスを求めるのか、いやそれ以前になぜミキを送り込んだのか、その目的は何か。だがそれを押しつぶすように、今の彼の頭の中はタツヤの謎の変化でいっぱいだった。そうしていると、ワレモンが源光を連れてやってくる。彼の顔はいつもの穏やかな顔ではなく、少々険しいものだった。
「源光殿…」
「ハックモン君、タツヤの事はワレモン君に聞いたよ。…今はそっとしておいてくれないかの」
「それよりジイさん。タツヤに何があったんだよ?あんなの、普通じゃねぇ。あんたなら知ってるだろ」
自分よりも長く一緒にいる源光なら知っている、そう踏んだワレモンは源光に訊ねる。それはハックモンも、ソファに座る城太郎も気になっている事だ。源光はそう聞かれゆっくりと目を閉じ数秒、再び目を開くとその瞳には覚悟の光が灯っていた。
「…そうだね。話しておこうか。タツヤの事、タツヤの…両親の事を」
タツヤの自室、日が落ち始め夕日が露わになる頃…部屋は薄っすらと暗くなっていた。中には二人、椅子に力無く座るタツヤとそれを心配そうに見守るカケモンの姿が確認できる。項垂れて座るタツヤにカケモンは声をかけようと思ったのだが、何度も躊躇してしまっていた。だがこのままじゃ何も変わらない、カケモンは意を決してタツヤに声をかける。
「た、タツヤ…」
「カケモン、僕はね…何をしても夢中になれないんだ」
突然、タツヤは口を開きカケモンに話掛けた。いや、“話”をしているのだろうか?それはむしろ独り言のようにも聞こえ、感情がこもっていない。
「いつからだろ……遊ぼうと思っても、勉強しようと思っても、テレビを見ようと思っても、僕は本当の意味で楽しいって、面白いって思えたことが無いんだ」
興味も関心もない、彼女の言っていた通り、自分にはそう言った心がすっぽりと抜けている。中身が無いのだ。上辺だけで、口先だけで満足だと言うフリをしていた。
「抜け殻…そう、”A“の言った通りだ。僕は人としてあるはずの中身が何もない、ただの抜け殻」
今朝からずっと頭の隅にあった言葉を思い出す。そうだ、彼はこの事を言っていたのかもしれない。中身のない、外面だけで振る舞っている自分を見抜いていたのかもしれなかった。
「目標もない、望みも無い…夢も無い。ただ生きるだけの存在。ただ同じことを繰り返すだけの人形。それが僕なんだ」
決められた時間、動作、日常。ずっとそれを繰り返してきた自分は機械と変わりない。果たしてこれは生きていると言えるのだろうか?人間として、“浪川 タツヤ”として成立しているのだろうか?存在する意味があるのだろうか?
いや、していないからこそ彼女は…
「勘違いしていたよ。同じ事を繰り返すだけの毎日が、カケモンと出会って変わったと思ったんだ」
でも、肝心なところが変わってなかった。そう呟く自分は今どんな顔をしているのだろうか。嫌悪感で一杯になる、結局はカケモン達と出会って、環境が変わって、自分も変われたと錯覚していたに過ぎなかった。
そんな事、あるわけ無いのに…
「僕は何も変わって無い。今まで戦ってきたのだって、それを誤魔化すためだったんだ」
戦う事で、非日常の中にいる事で抜け出せたと思っていた。でも実際は、何も変わってはいない。
嫌になる…今だってミキがスパイであると告げられたのに、“悲しみも何も感じない”自分に。アサヒが連れ去られたのに”怒りさえ湧き上がらない“自分の心に。
「タツヤ」
「ごめん、カケモン…」
再びカケモンが呼びかける。今度は独り言ではなく、ちゃんと彼に対して言葉を投げかけた。アサヒを助けに行こう、彼ならそう言うのだろう。だが今の自分に何ができる?敵は素直にアサヒを解放する保証がどこにある?それ以前に…自分が行く必要があるのか、そう考えてしまった。
そう思うと、自然と口が開く。これを言うと戻れない。そう思いながらも、もう止まらない。彼の口から溢れた言葉は、
「僕はもう、戦えない」
拒絶を露わにしていた。
お久しぶりです
投稿が遅くなり申し訳ないです