デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

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十二話 《込められた願い》

眠るという行為に不便さを覚える。“この体”は不便なもので、食事と睡眠を必要としているので正直効率が悪いのだが、嫌いではなかった。

特に、睡眠中に見る夢は何故か安らぐ…

 

 

[っ、やった…?成功だ!はは、安心したら…腰が抜けてしまったよ…。得意分野じゃ無いから成功するかヒヤヒヤしていたんだ]

 

いつも見るのは同じ人物に関する夢。暗めの紫の髪に目の下の濃い隈が目立つが子供のようにはしゃぐ大人の夢。

 

[初めまして、そして生まれてきてくれてありがとう!私は■■ ■■■。君の■■■…いや、この場合■かな?]

 

場面も飛び飛び、どこか聞こえない箇所もあるが、目の前の彼が自分に話しかけ、微笑んできているのはわかる。

 

[やぁ、■■。今日は何を学習しているんだい?…え、もう大学生レベルの知識を!?凄いなぁ、私なんかより全然頭いいよ。まさかこれほどまでとはね]

 

その姿はまるで子の成長を見守る親のようで、でもやはり子供のようで、なぜか懐かしいと言う不思議な感覚に包まれる。

 

[■■、今日はいい知らせだ!君に■ができるぞ!これでここよりも外に出られる!君に本当の■■を見せてあげられるんだ!]

 

本当に、幸せだと思える光景。それは彼にとっても、自分にとっても。しかし、それは眠っている間だけのものだ。何故なら…

 

 

[ああ、そうだ。君の名前を決めないとね…]

 

 

夢は、覚めたら忘れてしまうものなのだから。

 

 

 

「––––––“D”、何を黙っておる」

 

声をかけられ、現実へと戻される。ここはどこかの場所にあるビルの一室。所々埃を被っており、掃除が何ヶ月もされていない事が確認できた。

そんな中、ミキはバルバモンに対しなんでもありません、と答えると先ほどの思考を切り離す。

 

「…まぁ良い。それよりお主は隣にいる小娘を見張っておれ。逃げ出してもお主なら取り押さえることもできよう」

「…はい」

 

無感情に、無気力に頷くミキ。その姿はいつもの彼女と比べて一層感情が無い、まるで人形のようだ。そして彼女は命令を実行する為に歩き出す。今中にいるであろうアサヒのいる部屋の扉を開いた。

 

 

タツヤの自宅、リビングでは源光とハックモン、ワレモン、城太郎がいた。彼らの顔はお世辞にもいいとは言えず、むしろ暗い。そんな中で源光は言った。タツヤの両親の事を話す、と。

 

「タツヤの、両親?」

「おい、ジイさん。アイツがああなってんのはそれが原因なのか?」

「…そうじゃの。原因かはともかく、今のタツヤがああなっとるのはそれが関係してるの」

 

ワレモンの問いに静かに答える源光。その目には、悲しみが漂っていた。ハックモンはそれを見てただ事では無いと感じ、姿勢を正す。残りの二人もそれに続くように身構えた。

 

 

…あの子の両親、浪川 タツキと浪川 マヤは医者と音楽家での。海外の満足に治療を受けれない人や心に傷を負った人の傷を癒す為に世界中で活動していたんじゃ。

二人はタツヤが小学生になるまで一緒にいたんじゃが、それ以降は私にタツヤ預けてまた仕事に出掛けての。一年の殆どを海外で過ごす事が多く、日本に帰って過ごす時間は一ヶ月ほどじゃった。初めはタツヤも寂しさがあったんじゃが、二人がどんな仕事をしているか興味を持っての。二人の事を知ってから毎日目を輝かせてたよ。私の趣味に興味を持って三日坊主で終わってしまった毎日が嘘のようにね。

…やっぱり意外じゃったかの?今のタツヤと比べるとその時は好奇心旺盛だったんじゃよ。

 

タツヤは両親が世界中で色んな人を助けていると知ってからよく私に二人がどんな活動をしているか聞かされたよ。まるでヒーローに憧れる子供そのものじゃった。

そんなある日、私はタツヤを連れて両親がいる国へ旅行に出かけたんじゃ。タツヤの将来のためになると思っての。二人もその事に賛成してくれて会いに来てくれる事を楽しみにしとった。

空港について、直ぐに二人はタツヤに会いにわざわざ来てくれた。じゃが、それがいけなかったんじゃ。

 

 

…………テロじゃよ。両親がいた国は治安が悪くての、じゃがその時は沈静化しておったから気が緩んでいたんじゃ。…今になっても悔やまれるわい。

タツヤは、目の前で両親が殺される瞬間を見てしまったんじゃよ。

 

私はタツヤを守ろうと必死だった。犯人はすぐに捕まって、二人はすぐさまその国の病院に運び込まれたが…手遅れじゃった。二人は息を引き取り、遺体は日本へと送られ埋葬されたんじゃが、問題はタツヤじゃった。

目の前で両親が死ぬ瞬間を見てしまったタツヤは、精神的なショックを受けてしまっての。帰国してからも数日間寝込む事が多く、そうでなくても魘される事が続いたんじゃ。そんなある日、タツヤは寝込むことも魘される事も無くなって安心した矢先、ある変化が起こってしまったんだよ。

 

…タツヤは、両親に関する事を忘れてしまったんじゃ。

 

全てでは無いんじゃが、自分に両親がいたという事以外、二人の顔も声も何もかも全部忘れてしまった…。

医者に聞いたところによると、やはり原因は両親の死じゃった。私はそれを知って数ヶ月タツヤに学校を休ませて、二人の事を思い出させようとしたが無駄に終わってしまっての。……そうじゃよ城太郎君、六年前、君達が小学二年生の時じゃ。その時の休みは家庭の事情と言っておったがこれが真実じゃよ。

 

…それからじゃった、タツヤは何に対しても興味をなくし、関心もなくただ毎日を過ごす…そう言った事を繰り返すようになってしまった。心の中にあった両親の想いも、思い出も、憧れさえも、全て無くなってしまったんじゃ。心の支えとも言える物を失った…結果、今のナニカが欠けたタツヤに繋がってしまったんじゃよ。

 

 

源光の話を聞き三人は口を閉ざしてしまっている。今まで接してきたタツヤは何かズレのようなものを感じた。最初は気になっていたが、それがタツヤという人間なのだろうと思って放っておいてしまったのだが…。源光の話を聞いてタツヤという人間の印象が変わってしまった。

 

「だとすれば、タツヤを今晩学校に行かせるわけにはいかないな。彼は今…精神的にも危うい状態だ」

「んじゃあ、俺が代わりに行く。代役のエキスパート…になれるかわかんねぇけどな」

「そうだな、後時間は…1時間くらいか」

 

時計は既に23時を回っていた。時の流れは早いもので既に日は落ちている。余談だが城太郎は親に友達の家に泊まると伝えており、アサヒの両親に関しては源光が連絡を入れていた。流石に拉致されたとは言えず、家に泊まると伝えただけだったのだが…受話器の奥で叫ぶアサヒの父親が荒ぶっていたことは完全に無視していた。

ハックモン達がそう会話を交える中、源光は先ほどとは違い穏やかな口調で口を開く。それは今までの話からは考えられない事だった。

 

「いいや、タツヤは来る。自分でアサヒちゃん達を助けに行くよ」

「は!?おいおいジイさん何言ってんだよ!?」

 

源光の言葉にワレモンは過剰に反応する。城太郎も声に出さないが驚きで目を見開いていた。一方のハックモンは源光の発言に疑問を持つ。

 

(…達?)

「そのままの意味じゃよ。タツヤは自分の意思で助けに行く」

「んなの、無理に決まってんじゃねぇか!今のアイツがどんな状態か、話したろ!?」

「ああ、聞いたよ」

「それでも、タツヤが来るっていうのか?」

 

激昂するワレモンに対して、静かに城太郎は尋ねる。対する源光は頷き、来ると一言。そして、彼は確信を持ってこう続けた。

 

「あの子が”タツヤ“だからじゃよ」

 

 

 

「うん、わかった」

 

カケモンの言葉にタツヤは一瞬思考を停止させる。確か自分は戦う事を、カケモン達に会った事を拒絶した筈だ。なのに、カケモンは迷わずに返答。その行為に思わず項垂れていた頭を上げてカケモンの方を向く。カケモンはズレた兜を直しながらも、じっとタツヤを見ていた。そこには、いつもと同じで…少し違っていた顔をするカケモン。

 

「タツヤは今まで頑張ってたから、休んでて。今度はボクが頑張る」

 

そう言ってカケモンは少し笑うと、カケモンは振り返り部屋から出ようとした。だがタツヤは見てしまった…カケモンの腕が、微かに震えている事に。我慢をした、させてしまった…タツヤはカケモンに声をかけようとするが、その前にカケモンは扉の前に止まる。そして振り向かずにタツヤに一言告げた。

 

「待っててね、すぐにアサヒを連れて帰って来るから」

 

カケモンは扉を開くと部屋から出て行く。…本気で行くつもりだ。無茶だと思った、確認したことが無いが、カケモンがアップグレードするには自分がデジヴァイスを使わなければならない。なのに、カケモンは自分の意思で行くと言った。それは自殺行為でしか無い…格上の相手に他にも部下がいるという状況、戦えるのは今の所カケモンのみ。しかしそれは自分がいればの話だ。

止められなかった、タツヤはその事に悔やむ。頭を押さえて再び俯く。誰も居なくなった部屋の中、タツヤは一人呟いた。

 

「僕は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う」

「…目が覚めた?」

 

とあるビルの中、アサヒは冷たい床で目を覚ます。ぼんやりする頭に聞き覚えのある声が聞こえてきた。目の前にいるのはクラスメイトの才羽 ミキ。その事を理解するのに数秒、そして何故今この場所にいるのか、どんな状況にいるのか…それを理解してアサヒは一気に目を覚ます。

 

「さ、才羽さん…!私、私をどうするつもりなんですか…!?」

「…あなたは人質。浪川 タツヤからデジヴァイスと交換する為の材料。…大人しくバルバモンに従って」

 

アサヒはその言葉に顔を青くする。捕まっているという今の状況もそうだが、自分のせいでタツヤに迷惑をかけている事に罪悪感を感じていた。同時に気を失う前の会話でミキがスパイだという事に警戒するが、今のミキの表情を見て警戒心は直ぐに解ける。

 

「才羽さん…なにか辛い事でもあったんですか?」

「え?」

 

聞かれたミキは豆鉄砲を食らったような顔をし驚きで目を丸くする。そして元の表情に戻ると考え出す。

たしかに、ミキは今まで感じたことのない感覚に困惑していた。元々、学校に通うようになってからそう言った感覚が多くなっていたが、ここ最近はそれが気になってきている。そして思わず、ミキは口を開いた。

 

「私は…私は、バルバモンに情報を流して、その結果、浪川 タツヤやカケモン達が傷付く事で…胸に痛みを感じてきた。特に痛むのは、あの時…浪川 タツヤと話したあの時…」

 

タツヤに存在そのものに意味が無いと言ったあの時、ミキは何故そう言ったのかわからなかった。ただ、タツヤを遠ざける言葉を言わなければと思ったから、そう無意識に思ったからそう言ったのだ。今でも何故そう言ったのかわからない。

一体、何故…

 

「それって、後悔してるんじゃ無いですか…?」

「後、悔?」

「はい。そう思ったんです……情報を渡して傷付く事に、才羽さんは罪悪感を感じて、後悔しているんだと思うんです」

 

そう言われて、ミキは困惑した。仮に彼女の言うことが事実だとして、何故罪悪感などと言うものがあったのだろう。元々自分はバルバモンの命令であの学校へ潜入していたに過ぎない。

だがもしも、その間に彼らに情が芽生えたとしたら…?

 

「そんな、意味の無い事なのに…」

「…そんな事無いと思います」

「…なんでそう言えるの?」

「だって、感情や心に意味なんて必要無いと思うんです。何かを感じて想う事に、理由や意味なんていらない。ただそこにあるだけでいいんだと思います」

 

ミキは口を閉ざす。今日何度目かの驚き…今まで彼女は何に対しても意味があるかどうか考えて行動してきた。だがアサヒが言うには、今のミキの心にあるモノに意味を求めなくていい。そう言ってきたのだ。

…信じられなかった。そんな事、今まで考えもしなかった。その事に衝撃を受けミキは無意識にアサヒに問いかけていた。

 

「あなたは……なんでそうしていられるの?怖いとは思わないの?助けが来るかわからないのに、どうなるかわからないのに」

 

浪川 タツヤは来ないのに、そう言ってミキは近くにあった椅子へと座る。そうだ、彼は来ない、来るはずがない。自分は初めから裏切っていて、自分は彼を否定した。心は折れ、存在を否定されて、彼は戦うことなどできはしない。別の誰かが来るのだろう、彼女を助けるためにデジヴァイスを持って。

だがしかし、ミキの予想に反して…アサヒは全く別の答えを出した。

 

「怖い、です。正直、怖くて泣きたいくらいです。でも…助けに来てくれます。浪川君は、絶対に」

「……彼は来ない。来るはずがない。彼はもう…」

「来ますよ。浪川君は心が折られて、挫折してしまっても」

 

 

「だって、浪川君は…“タツヤ”なんですから」

 

 

 

 

才羽ミキは信じられないものを見ていた。時刻は0時、場所は学校の屋上。

ミキの近くにはバルバモン、デビモン、そして縄で拘束されてるアサヒ。対して向こう側にいるのはハックモン、城太郎、ワレモンにカケモン。

そして–––––

 

 

 

「あの子の父親の名前は私が付けたんだよ。龍のように勇ましく強い子になるように、輝く未来があるように、龍輝(タツキ)とね」

 

「小学一年生の時に、浪川君と初めて会った時に言ってたんです。自分の名前はお父さんとお母さんから少しずつ貰ったって」

 

「あの子が生まれた時、タツキはマヤさんと名前を一字ずつ分け合って龍弥(タツヤ)と名付けたんじゃ」

 

「お父さんはおじいちゃんと同じ願いを込めたって言ってました。でも、それとは別の願いも込められてるって、言ってたんです」

 

「いつか挫折してしまっても、何度でも立ち上がれるように」

 

「大きな壁があっても、その前に立っていられるように」

 

 

「「苦しくても、辛くても、立ち続けていられるように」」

 

 

「その願いがある限り、あの子は助けに行くよ。なぜならあの子は…」

 

「だからきっと来てくれます。私達を今まで助けてくれたから、今度だって。だって彼は…」

 

 

 

 

「浪川…タツヤ…?」

「やぁ、二人とも、助けに来たよ」

 

目の前にいる、いる筈が無いと思っていた人物に目を丸くする。あの時起こった出来事は、間違いなく彼を精神的に追い詰めた。なのに彼は、多少は辛そうな顔をしているが、今目の前に立っている。その事に意外そうな顔をしているのはミキだけでは無い。

 

「ほぅ?意外じゃの、あれだけ言われた後で来るとは思わんかったわい」

「…正直、迷ったよ。僕がここに来て意味があるのか、何ができるのかって」

 

バルバモンの言葉に目を瞑り語る。そう、タツヤは迷っていたのだ。カケモンがタツヤに待つように言ったあの時、扉の向こう側に行ったあの後、ずっと考えていた。自分が行ってどうなるのか、意味があるかどうか。しかし、タツヤは再び目を開けると、あっけらかんと答えた。

 

「考えない事にしたよ、そんな事。僕は二人を助けたいから、そう思ったから来た」

「二人?それはこの娘と、“D”の事かの」

「そうだよ」

 

肯定するタツヤ。その事に珍しく眉に皺を寄せるバルバモンは疑問を抱く。何故目の前の子供は“D”を助けようとするのか、今まで騙してきたに等しい相手を何故庇うのか、理解ができなかった。

 

「わかっとるのか、それとも馬鹿なのか…。お前さん、“D”が何をしたのか忘れて…」

「忘れてなんかいないさ。才羽さんが何をやったのか、全部分かってる」

 

迷い無く、真っ直ぐバルバモンの目を見て答えるタツヤ。ますますわからない、相手が精神的に狂っているのか、それともこれが人間の子供というものか…正直気味が悪い。そう思い始めたバルバモンはミキへと目配せする。

交渉材料を連れて目的のものを回収しろという事なのだろう。ミキは頷き、拘束されたアサヒを連れ歩き出す。そして丁度バルバモンとタツヤ達がいる真ん中に来ると、立ち止まった。どうやらこの場所で受け渡しを行うらしい。

タツヤはハックモンと目を合わせるとデジヴァイスを持って同じく歩き出す。一歩、また一歩と近づき…目的の場所に辿り着いた。

 

「………」

「浪川君…」

「ごめん、沢渡さん。少し待ってて。ちょっと才羽さんに言いたいことがあるんだ」

「…私?」

「君が放課後に言ってたこと訂正しようかなって思って、さ」

 

アサヒに一言言ってタツヤはミキを見る。アサヒは彼の表情を見て無言で頷くとじっと二人を見守るように視線を送った。その事にタツヤは心の内で感謝を伝えながらも、口を開く。

 

「僕には夢も目標も無い、人として欠けた存在、それは認めるよ。でも、僕にだってやりたい事がある」

 

ミキが言っていた事に嘘はない。タツヤは人としては歪な存在、人間として成立するかあやふやなのだろう。それでも、空っぽのタツヤに残っている物があった。

 

「“困っている誰かを助けたい”、それが初めてカケモン達に会った時に思った事なんだ」

「…それが、何?」

「それが僕の忘れてた願いなんだと思う。子供の頃に無くした、僕自身のカケラ、原典だよ」

 

森での出来事、カケモンのあの時の姿を見て思った事、感じた事に心が高鳴った。それはどこか懐かしい、子供の頃の自分が求めたもの。夢と呼ぶほどではないものの、夢見ていた頃のすべての始まり。それが答えだった。

 

「両親が僕に込めた願い、僕自身の願い。僕がやりたい事は、その二つを叶え続ける事。だから僕はここにいるし、二人とも助けたい」

「わからない、わからない!自分が何を言っているかわかっているの!?私はアナタ達を…!それが意味のない事だと言っているのに…」

「そうだね。意味が無いのかもしれない」

 

タツヤの記憶の中で初めて声を荒げる。たしかに彼女はバルバモンに自分たちの情報を流した結果、デジモンが送られて関係の無い人や自分達にも被害が及んだ。その事実は変わらない。その上で助けると言った。結局は自分勝手な行為であり、タツヤのエゴなのだろう。

だとしても、

 

 

「泣いてた君が、嘘だとは思えなかったんだ」

 

才羽 ユキオの本を渡した時、初めて才羽 ミキという少女を見れた気がした。あの時の顔を見て、ほっとけないと思ったのだ。それと同時に、何故か自分と近いものを感じていた。

 

「それに、君も僕と同じなんじゃ無いかって、そう思ったんだ。才羽さんにもあるんじゃ無いかな?忘れてしまった事や、誰かの願いが」

 

タツヤの言う事に、身に覚えがあった。それはいつも見て、忘れてしまう夢の事。それと同時に頭のモヤが広がる。ノイズが頭の中で繰り返し流れ、消えて行く。広がったモヤは鮮明に、ノイズは記憶の中の言葉を露わに。その先にある、夢の続きへと繋がる記憶。

そして–––––

 

「戯言を。ほれ、“D”。さっさとこっちへ渡さぬか」

 

バルバモンの言葉にミキは反応する。バルバモンは相変わらず自らを“D“と呼び、命令していた。ミキは拘束されてるアサヒを彼に渡し、逆に彼からデジヴァイスを受け取る。チラリ、とタツヤの方を見た。彼は動じる事無く、ただ真っ直ぐミキを見つめる。

互いに一歩引くと振り返り、元の位置へと一歩ずつ歩いて行く。

 

「カカ…そうじゃ、それで良い。よくやった”D“」

「違う…」

 

今この一瞬でも、ミキは何度も何度も再生していた。夢の中の、いや、自分が忘れてしまっていた記憶を。始まりの記憶、自分の大切な記憶…彼の言う通り、誰かに願われた記憶。全てを思い出し、欠けていた本来の自分の記憶(メモリー)を修復して行く。

引き金を引いたのはバルバモンだ。“D”、そう呼んだ事により一番最初の彼女が彼女たり得る記憶を呼び覚ましてしまった。

 

「私は、私の名前は」

 

 

ああ、そうだ。君の名前を決めないとね。

 

そうだなぁ、君に沢山友達が出来るように

 

君がこの広い世界を見渡せるように

 

君の未来が、“美”しく“希“望で満ち溢れるものであるように

 

 

そう、君の名前は–––

 

 

「私の名前は才羽 美希(ミキ)。才羽 ユキオ博士の娘…“D”じゃ、ない!」

 

ミキは急に振り返り、タツヤのいる方向へ振り向き走り出す。その行動は誰も予想しなかったのもあり全員の行動が一瞬遅れた。だが一瞬早く行動したのは、バルバモンだ。彼は指を鳴らすと隣のデビモン、そしてどこからともなく現れた、体が白い事以外デビモンと瓜二つなデジモンがミキの元へ向かう。

だが、その一瞬前にハックモンは飛び出し、その全身を輝かせる。

 

 

「ハックモン、ワープ進化!––––ジエスモンッ!!」

 

 

その身をタツヤの持つカードとほぼ同じ…体がくすんではいる状態のジエスモンへと一気に進化すると、二体のデジモンをなぎ払い、今にも攻撃を仕掛けてきそうなバルバモンへ剣を振るう。しかしバルバモンも手に持つ杖でその一撃を受け止めた。

 

「チィィィ!“D”め、裏切りおって!行き場のないおのれを拾ってやった恩を忘れたか!?」

「よく言う。デジヴァイスを手に入れれば彼女は用済み、この場でオレ達諸共始末するつもりだったんだろう」

 

ハックモン…いや、ジエスモンは見当はついていたのだ。バルバモンというデジモンは素直に交渉の場に出て来て取引に応じるデジモンではないと。バルバモンであれば、デジヴァイスを手に入れた瞬間、隠れている部下に自分達を始末させる。そう考えていた。タツヤ達を守りながら七大魔王の一体とその部下を相手にするには今の自分では力不足。戦力的にも状況的にもこちらが不利だった。

だからこそ、今の状況に感謝していた。今ならばカケモンが戦える、この状況を打開できる。

 

「タツヤ、カケモン!バルバモンはオレが引き受ける!その二体はお前達が倒せ!」

 

ジエスモンはそう言うとバルバモンと共に上空へと飛び上がる。そして響き始める衝撃音、二体の究極体の戦いが繰り広げられていた。

タツヤはアサヒの縄を解き、その背後に剣道部から無断で借りた竹刀を構える城太郎が辺りを警戒する。

すると、こちらへとやってきたミキはタツヤに何も言わずデジヴァイスを渡した。ありがとう、と感謝の言葉を述べて受け取るとタツヤは《ANALYZER》を起動。吹き飛ばされた後、帰ってきた二体のデジモン、デビモンとアイスデビモンのデータを読み取った。

 

「ぐぅ…!ロイヤルナイツめ、よくも…」

「兄者、怒るのは最もだが、バルバモン様の命に従い奴らを始末せねば」

「そうだな、アイスデビモン」

 

二人は兄弟か何かだろうか。タツヤはそう思いながらも焦りと不安を感じていた。今までは一対一で戦ってきたカケモンだが今は二体。四人と二体が身を寄せ合うこの状況を乗り越えられるか心配だった。

自然とデジヴァイスを持つ手が震える。緊張か、それとも恐怖か。震えを抑えるように片腕を押さえていると、震える手を誰かが握った。ふと視線を落とす。握ってくれたのは、カケモンだった。カケモンは兜の奥から自分を見上げて震えた声で話しかける。

 

「大丈夫だよ、ボクがいる。ボクが君の足りないものを埋めるから。だから–––…一緒に戦って?」

「…はは、これじゃあ、あの時と逆だね」

 

コカトリモンとの戦いに自分が言った言葉、それをカケモンが覚えていた。それを自分に言い返されると、何故だかとてもおかしく感じる。しかし…

「行こう、カケモン!ここからもう一度、変わるんだ!」

「うん!」

 

 

もう震えは止まっていた。

 

 

「セットアップ、オメガモン!」

 

 

カード裏のUGコードを読み取り、前へ駆け出したカケモンへとデジヴァイスを向ける。光が放出され学校の屋上を照らすとカケモンは姿を変えていた。

灰色の鎧を身に纏い、左肩にマントを、右腕にウェポンΩを手に取った騎士。タツヤがほんの少しだが前に進み、変わったキッカケの姿。騎士は襲いかかる二体に光弾を撃ち込み名乗り上げる。

彼の名は、

 

 

「アップグレード! カケモン ver.オメガ!!」

 

 

撃たれた二体の内、デビモンはすぐさま体勢を立て直しその鋭い爪、デスクロウを突き立てる。カケモンはそれをマントで受け流すと後ろ蹴りでデビモンを攻撃。次にやってきたアイスデビモンは再び光弾で牽制していた。

今の状況、二体と言う自分の経験したことのない戦闘でタツヤ達を守れるかわからない。だとすれば答えは一つ。

 

「しぃぃぃねぇぇぇぇぇええ!!」

「…コキュートスハウリングッ!!」

 

二体の内、一体を早急に倒す事。幸いデビモンの方は命令で動かない限り、感情的で頭に血が上りやすい性格のようだ。足蹴りにされ、彼のプライドに傷をつけたのか怒りをぶつけるように襲いかかる彼に氷の弾丸をぶつける。そして開くのは氷でできた大輪の花…デビモンは叫びを上げることなく散っていった。

 

「兄者!?おのれ…!」

「次は、お前だ!」

 

アイスデビモンのフロストクローとウェポンΩの刃がぶつかる。それと同時に爪に触れた部分がどんどん凍りついていく。やはりアイスデビモンの名の通り、氷を操るのだろう。加えてスピードもある。一度距離をとったがあらゆる角度からその爪を掠めて来てカケモンの全身を凍らし始めた。身動きが取れず、正面からアイスデビモンが迫る。

 

「ぐっ…!」

「カケちゃん!」

「カケモン、踏ん張れ!」

「カケモン…!」

「カケモン、負けたら承知しねぇぞ!」

「––––頑張れ、カケモォォォォォォン!!」

 

 

「…うぁああああああ!!」

「何っ!?」

 

 

声援を受け、カケモンは銃口から出た炎を身に纏うと凍った場所が一気に蒸発。驚くアイスデビモンの顎に目掛けて膝蹴り。そのまま上空へと浮かび上がると、カケモンはコキュートスハウリングを放った。瞬間、全身が凍りつき氷の塊が出来上がる。だがしかし、相手は氷の悪魔…すぐに氷塊はひび割れ、アイスデビモンは内側から氷を砕き上半身が自由となった。

 

「バカめ、氷の化身であるこのワタシに通用すると思ったか!」

「ああ、思っていないさ。だけど」

 

目の前には、竜人の幻影を纏ったカケモンの姿。

構えるのは炎の剣。

今のアイスデビモンは下半身が固定され身動きが取れない状態でいる。極め付けに未だに背にある羽は自由に動かせないでいた。

つまりは、詰みの状態だ。その事に気付きアイスデビモンはその白い肌を青褪める。

 

「–––––これで当てられる」

「しまっ…!」

「ドラゴニックブレイブゥゥゥゥ!!!」

 

炎の剣が横に一線、アイスデビモンは断末魔を空へ響かせると粒子となり散っていった。カケモンはそのまま着地。同時にワレモンの蹴りが背中へと炸裂し元のカケモンへと戻っていた。それに数秒遅れてジエスモンも戻り、ハックモンへと退化する。

 

「よくやったぜ、カケモン!」

「いった!?痛いよワレモォン…」

「ジエス…じゃなかった。ハックモン、バルバモンは?」

「…逃げられた。だが問題はない。ある程度消耗した様子だったからな。しばらくはこちらに干渉することはないだろう」

 

カケモンとワレモンのいつもの光景を見ながらもハックモンは答える。本人も細かいが傷が付いていることから相当な戦闘だったのだろう。

そうしていると、タツヤの視界の端に気まずそうなミキが写る。

 

「才羽さん…」

「浪川 タツヤ。私は…」

「ちょっと遅れちゃったけど、言いたかった事があるんだ」

 

タツヤはそう言って手をミキの目の前に差し出す。キョトン、と言う顔でタツヤの顔と手を交互に見る。対するタツヤは、笑ってこう言った。

 

「僕と、僕達と、友達になってくれないかな」

 

アサヒも城太郎も、カケモン達だって、こちらを見て笑っている。今までやってきた事は消えない。だがそれでも、彼らは自分を受け入れてくれようとしている。ミキはその事に胸が苦しくなる、だがそれはなぜか心地がいいと感じる自分がいた。

ミキはゆっくりと口を開ける。その行動に意味が無くても…自分に込められた願いと、何より自分の意思で選んだ、短い台詞を言う。

 

 

「…うん!」

 

 

ある意味、才羽 ミキはここから始まる。込められた願いと、初めての自分の意思と共に。そして本人は気づいていないかもしれないが、今の彼女は生まれて初めて…笑っていた。

タツヤの手を取り笑い合う彼らを、満天の夜空が祝福しているようだった。

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