デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

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十三話 《普通を教えて》

バルバモンの事件、アサヒとミキの救出から約六時間後、タツヤ達は朝食を取っていた。と言っても、朝練があるからと言って城太郎は一時間ほど前から登校しているのでここにいる学生はタツヤとアサヒ、ミキのみ。帰宅部なのに朝練ってなんだよ、とタツヤは思っていたが他の部活の助っ人に行ったのならば納得が行く。

タツヤは中まで火が通ったソーセージを咀嚼して飲み込むとずっと気になっていた事を話し始めた。

 

「そういえば、才羽さんってどこに住んでたの?前から気になってたけど」

「この近くのマンション。バルバモンの命令を受けていた時の拠点はそこだった」

 

都市部に近いマンションの一室、そこが今まで彼女がいた場所らしい。と言っても寝て食事をするだけの空間なので部屋らしい部屋では無かったようだが。どうやってバルバモンがそこを手配したのか気になるが、今の彼女は帰る家が無い状態だ。

ではどうするか、そう考えていると向かい側の源光が口を開く。

 

「じゃあここに住むかい?部屋ならいくつか空きがあるからそこを使ってもいいよ」

「えっ!?」

「でも…」

「僕は構わないよ。才羽さんが迷惑じゃなければ全然」

「…じゃあ」

「あ、あの!私の家にも空いてる部屋があります!浪川君のお家くらい広いですから、ウチにしませんか、是非!?それに女の子が男の子の家に住むなんてダメです、はい!」

 

いつのまにか立ち上がり力説してくるアサヒ。たしかにアサヒの言う事に一理ある。子供といえどタツヤ達は中学生、男女の違いが出て互いを意識する年頃だ。保護者がいるとしても同じ屋根の下で暮らすと言うのは色々と危険だろう。

……というのは建前で本当の所、ミキがタツヤと急接近する事を防いで起きたかった。ただでさえ美少女のミキと席が隣同士であるのに、家まで同じとなると何が起こるかわからない。どこぞのラブコメのようにラッキースケベを起こす気なのでは、とアサヒは自宅の本棚にある漫画の内容を思い浮かべて内心心が穏やかでは無かった。

 

だが実際には、タツヤ本人はアサヒの言葉を聞いてそれもそうだな、と思い始めていた。タツヤが普通の男子中学生なら下心を隠しながらも首を縦に降るのだろうが、タツヤの場合それが無い。正確には無いというより、薄いと言った方が合っている。精神的にも欲求的にも、今までの彼の経緯からそう言ったものに関心が薄いので今の発言でもタツヤはピクリとも反応しなかった。

 

「それもそうか、なら…」

「えー!?ボク、ミキと一緒がいい!一緒にすーみーたーいー!」

「カケモン?」

「暴れんな馬鹿野郎、米飛ぶんだよ!!」

 

カケモンが座布団を高く積んだ椅子の上で抗議する。その際、ワレモンの顔に米粒がいくつか飛び、彼は怒り出す。カケモンの兜に拳が叩き込まれる所を見てタツヤは意外そうな顔でカケモンを見ていた。ここまでカケモンがなにかを主張するのは珍しい、何か理由があるのではとタツヤは疑問を口にする。

 

「カケモン、才羽さんと一緒がいいの?」

「うん。ボクはミキと一緒がいい!」

「で、でも…」

「私も、できたらここに住まわせてほしい」

「あ、あうう…」

 

ミキも賛同し、流れ的にここに住む事に決定しかけていた。アサヒはそれに抵抗しようとするも、目を回して困っている。必死に阻止しようとする姿に、なぜか頑張れと言いたくなるが、何も言わぬが花と言った所だろう。彼らを傍観しているワレモンはボソリと呟く。

 

「なんでアイツ必死なんだ?」

「おジイちゃん、おかわり!」

「はいはい。青春だねぇ」

「…………」

 

カケモンの出された茶碗に米を盛り付ける源光の顔はにこやかだった。

それとは逆にハックモンは箸を使い食事をしているが、今の会話が頭に入ってこない。今頭にあるのは、数時間前のバルバモンの戦闘の時の事。ジエスモンへと再び進化したハックモンがバルバモンと戦っていた時の会話だ。

 

 

それは上空での会話、両腕の剣とバルバモンの杖がぶつかり拮抗している時の会話。忌々しげにジエスモンを見るバルバモンはミキの裏切りもあり苛立ちを隠そうともしていない。

 

「力を奪われた分際でやりおるわい!!」

「それは、貴様も同じだろう!!」

 

それと同時に離れる二体。ジエスモンの言った言葉に図星だったのか、バルバモンは少しの焦りを見せる。そうだ、七大魔王ともあろうデジモンがこんな回りくどい事をしていた理由としては説明がつく。デジヴァイスが欲しいのなら自分で取りに行けばいいはずだ。それだけの力は十分にある。だがそうしなかったのには意図があるはず、それに加えて今の状況がもう一つの理由になっていた。

 

「以前の貴様であれば、力を奪われた今のオレなど一瞬で倒せるだろう。だがどうだ?オレはまだ生きているぞ?」

「黙れ小僧が!」

「貴様も同じじゃないのか?オレ達ロイヤルナイツと同じく、力を奪われているんじゃないのか!?」

 

段々と口調が荒れ始めるジエスモン。それは真実を知りたいと言うロイヤルナイツとしての自分と戦闘が長引けば命はないと焦る自分が混じり合っている証拠だった。悟られないようにポーカーフェイスを保ちバルバモンを見据える。

対してバルバモンは落ち着きを取り戻したのか顎の髭をさすり思考、そして笑った。

 

「カカ…答えると思うてか?」

「ああ、愚問だったな。だから、倒してから聞くとしようっ!」

 

残り時間は1分を切った。今の状態なら暫くは表に出られないだろうがそれでもここで倒す必要がある。後になってまた干渉される可能性と自らの使命のためにもここで…。

再び剣と杖がぶつかる…その直前下でアイスデビモンの断末魔が両者の耳に入る。そして二体は見下ろし、バルバモンが舌打ちをした。

 

「チッ、やられたか。所詮は成熟期、小間使い程度にしか役立たんのぅ」

「さぁ、どうする。このまま続けるか?オレはそれでも構わんぞ?」

 

威勢だ。残り40秒を切った今では良くて相討ちだろう。だがそうだとしても下のカケモンにバルバモンの相手は勤まらない。ここで倒すしか無い、そう思っていた矢先、バルバモンは杖を下ろした。

 

「…カカカ、やせ我慢もここまで来れば滑稽じゃわい。いいじゃろう、ここは引いてやろう」

 

どうやら自分の状態を見抜かれていたらしい。それを知ったのはいつの時点でか、ジエスモンは冷や汗を垂らしながらも目の前でゲートを開くバルバモンをひと睨みする。その事をあざ笑うとバルバモンはゲートを通って消えていった。

 

 

「まだ、その時ではないからのう」

 

 

一言、そんな意味深な言葉を残して。

 

故にハックモンは悩んでいた。バルバモンは何を考え行動したのか、何故ミキを送り込んだのか、何故デジヴァイスを求めるのか。再び現れた謎にハックモンは悩まされる。

 

(奴は何を考えているんだ…)

 

味噌汁を啜るハックモンはチラリ、と机に置かれたデジヴァイスを見る。時間にしておよそ六日後、同胞であるアルフォースブイドラモンが目を覚ます予定だ。今までの出来事を話し、今後の事を相談しよう。ハックモンは今日の朝食も美味かった、と源光に伝え食器を片付けに行った。

 

 

朝食を済ませて、タツヤ達は登校していた。時刻的に十分に余裕を持って出たため特に急ぐ事もなくタツヤ達は雑談しながら歩いている。内容は、夏休みについてだ。

 

「土日挟んで学校行ったら夏休みだね」

「そうですね。そういえば、浪川君は休みの間何をしているんですか?」

「宿題、かな。というかそれくらいしかやることないし。沢渡さんは?」

「私は道場のお手伝いですね。夏になると門下生の人達の合宿もありますし、人手が足りなくなるんです」

「そっか。でも僕達、中学生にしては変わった休暇の過ごし方してるね。普通なら遊びに行く予定があると思うし」

「あはは…そうですね」

 

髪を少し弄り、苦笑いするアサヒ。タツヤに関してはいつもの事だが、自分は道場の師範の娘、家業の手伝いをするのは構わ無いが、実の所門下生達の視線が苦手なのだ。

アサヒは気付いていないが、彼女の実家である道場の夏と冬にある合宿は実の所人気だった。理由としては毎回手伝いをするアサヒにあった。アサヒは前髪で顔が見えにくいが世間一般でいう美少女の部類に入る。例えるならミキが綺麗系なら彼女は可愛い系と行った所だ。そんな少女が毎回手伝いに来ているとなるとモチベーションも上がる。ついでに言えば自分のいいところを見せたいと思うのが小、中学生男子と言うもの。父である師範の目が黒い内はダメだがいつか…そう思っている男子も少なくない。

そんな中、一人黙って会話を聞いていたミキはボソリ、と呟く。

 

「普通…」

「?才羽さん、どうしたんですか?」

「…普通って、」

 

そう言いかけた時、三人は足を止める。場所は既に学校の目の前に来ていた。しかし、おかしな事に今の時間でこの辺りの通学路に人がいる事はあまり無い。なのに今現在では生徒があちらこちらで見える。しかも男子生徒が多い。それに加えチラチラとこちらを伺っているようにも思えた。

 

「おかしいな…朝って、こんなに人多かったっけ?」

「いえ、そんなはずは…」

「……あれ」

 

アサヒにも確認を取って異常なこの光景を確認すると、ミキが校門を指差す。二人は指された校門を見ると、そこではここと同じように居るはずのない生徒達がいた。これもまた男子生徒だ。

まるで検問のように、生徒達を見て顔を判断しながら通しているようだ。良く見ればそこに居るのはタツヤのクラスの男子生徒がほぼ全員居る。何をしているんだろう、と思いながらも自分も校門を通ろうとした。したのだが、男子生徒達に道を塞がれてしまう。

 

「み、みんな、どうしたの?」

「「「…………」」」

 

聞いてみたが全員俯き、表情を見せない。そこにちょっとした恐怖を感じたタツヤは同時に嫌な予感がした。すると、端にいたタツヤのクラスの留学生、ビル・D・ドライバー(彼女募集中)が本場の発音である言葉を呟く。

 

「…………Are you ready?」

「「「できてるよ」」」

「「「浪川タツヤぁぁぁああああ!!!」」」

 

それと同時に校門にいた同級生、並びに近くにいた男子生徒達が一斉に襲いかかってきた。手には竹刀にバットなど色々と危ないものばかり。タツヤは予感が的中したことを内心悔やみながらも逃げ始めた。

 

「ちょおおおおおおお!?」

「死んでもらえないかなぁ…!?」

「お前はいいよなぁ、女子にモテて。俺なんて…!」

「兄貴、アイツが眩しいよ…」

「お前は俺の心を滾らせた!」

「おばあちゃんが言っていた。女を侍らす男は塵になって消えろってな」

「モテないクラスは助け合いでしょ!」

「日野ォ!」

「ダディヴァナザン、ドゥナディディイドゥドヴァダリナンディス!?」

「………(じー)」

「オンドゥルルラギッタンディスカー!?」

 

タツヤと同じクラスの剣崎 和也(彼女募集中)は遠くの壁からこちらを見ていた三年生の先輩に向かって良く聞き取れない事を叫ぶ。それ以外の生徒はタツヤを死に物狂いで追いかけていた。

後にタツヤは語る…彼らはある意味、バルバモンよりも威圧感と恐怖がハンパなかった、と。そして取り残されたアサヒとミキはポカンとしながらもその光景を見ていた。

 

「なんなんですか、あれ…?」

「わからない」

 

 

時刻は昼休み、結局タツヤは彼らから逃げ切り教室へ避難。周りの男子生徒に睨まれながらも授業を受け屋上へと来ていた。小休憩の時間でも狙われていたタツヤはため息を深くつく。

 

「ひ、酷い目にあった…」

『タツヤ大丈夫?』

「なんとかね…」

 

カケモンにそう返すタツヤ。ちなみにだが、こうなった原因は城太郎にあった。今朝の野球部の朝練の時、うっかり自分がタツヤの家から来たのを話してしまったのだ。それに加え、『アイツ、沢渡と才羽と一緒に登校して来るぜー』と言ってしまい、野球部にいるある特殊な人種が聞き耳を立ててしまった。その後、そのある意味特殊な人種、モテない勢の男子は同類達にそれぞれ連絡。今朝の騒ぎへと繋がりという訳だ。

タツヤは後で城太郎にお灸をすえる、と穏やかではない事を呟きながら買ってきたパンを食べようとした。だがその前に、タツヤの真後ろからキィ、とドアの開く音が。またか、とタツヤは身構えるが、そこにいたのはミキだった。

 

「浪川 タツヤ。少し、いい?」

「どうしたの才羽さん?」

 

胸を撫で下ろしミキに訊ねるタツヤ。そういえば屋上に来るのは昨日ぶりだっけ、と思いながらもミキの話を聞こうとした。

 

「私は、私は普通の学生が一般的にどう過ごしているのかわからない」

「どうって、部活したり勉強したりじゃないの?」

「それは平日。私が言っているのは、休日の過ごし方。私はそれを知らない」

 

知らない、と言われてタツヤは首を傾げる。前から思っていたが、彼女は転校前はどこでどう過ごしていたのだろう、そもそも何故バルバモンの命令に従っていたのだろうと。だがそんな疑問はミキに届かず、彼女はだから、と意を決したように口を開く。

 

 

「私に普通を教えて」

 

 

 

 

翌日、本格的な夏を感じ始めた浪川家の玄関では、源光が箒を使い掃除をしていた。見た目に似合わず体力もある源光だが、夏の暑さには敵わず額から汗を垂らしている。そして肩に掛けていた手拭いを使って汗を拭き取り独り言のように呟く。

 

「いやぁ、暑いねぇ。さすが夏」

「こ、こんにちは!」

 

玄関からつい最近聞いた声が聞こえてくる。視線を向けると、そこには涼しさと動きやすさを両立させた私服を着たアサヒがそこにいた。やや緊張気味な彼女の姿を見た源光はニッコリと笑い彼女の元へ寄る。

 

「おや、アサヒちゃんじゃないか。昨日ぶりだね。どうしたんだい?」

「あ、えっと、たまたま、そう!たまたま近くを通りかかったので遊びに来ちゃいました!」

「ああ、そうかい。でも…」

 

源光は気まずそうにポリポリと頬を掻く。おそらく彼女はタツヤに会いに来たのだろう。昨日の様子からミキがこの家で暮らすという事に抵抗があったのは間違いない。タツヤに気があるんだろうな、と少し微笑ましくも思うが、今の状況はとても言いにくかった。

 

「でも、どうされたんですか?」

「今タツヤ達は出掛けていてね。今家には私とハックモン君しかいないんじゃよ」

「そうなんですか?…ということは、才羽さんも?」

「ああ。今日はショッピングモールでデートするらしくての」

「そうなん…はい?」

「今頃ミキちゃんの服でも買っているんじゃないかな………」

 

そう源光が言い終わる前に、アサヒは目の前から消失。そして視線を横に向けると、タツヤ達が出かけた方向…ショッピングモールのある方向へと走って行った。

それを見て源光はふぅ、と息をつくと再び掃除を再開する。

 

「青春だねぇ」

 

まだ彼の息子、タツヤの父が学生だった頃を思い出す。何故か似たような光景を見た気がするが、源光は父子だな、どこか悟った顔をしていた。…それが自分に向けられた最大のブーメランとも気付かずに。

 

 

 

「……………」

「……………」

 

ショッピングモールのとある場所。ここは若い女性に人気のあるアパレルショップの一つ、ちょうど中学生辺りが良く利用する店だ。そんな場所でタツヤとミキは二人並んで棒立ちになっていた。タツヤはこう行った場所に異性と来るという事が無く、ミキも外出するときは大抵本屋なので経験がない。

昨日ミキに普通を教えて、と言われたものの、早速困ってしまう。今朝、源光に出掛けるなら服を買って来なさいと現金を預かって来たものの、タツヤには色々耐えられなかった。

 

「さ、才羽さん、僕、外に出てるから。気にいるものがあったら気にせず買っていいよ」

「ダメ」

 

店の外に出ようとするタツヤの腕が掴まれる。振り向くとミキがフルフルと首を横に振っていた。…彼女も心細いのだろう。こう行った場所で一人になるということに焦りを若干感じミキはタツヤを引き留めていた。

そしてそんな彼らを店の外の壁からそっと見る者…アサヒも焦っていた。

 

「あわわ…!本当にデートしてます…。しかも浪川君と手を繋いでるし、羨ましい…」

 

距離があり、会話の内容が聞こえない事も相まって、アサヒにはタツヤとミキがいい雰囲気になっているように見えていた。それを見て嫉妬心が芽生え始めるアサヒだが、今入ってどうなるかなんて分からずただ傍観している。

そうしていると、タツヤが一つの服を手にとってミキに見せて来た。

 

「これ、とかどうかな?カケモンと選んでみたんだけど」

『ミキはなんでも似合いそうだけど、これが一番いいと思ったんだ!』

「…ありがとう」

 

タツヤとデジヴァイスの中のカケモンに礼を言うミキ。しかしその顔は嬉しさとは別に、申し訳なさのようなものが見え隠れしていた。

 

「どうしたの?もしかして気に入らなかった?」

「違う。私に気を使わなくていい。私に私服は必要ない」

「それってどういう…」

「そのままの意味」

 

そう言った彼女を見て彼は彼女と初めて休日で会った時のことを思い出す。そう、あの時のミキの格好は制服だった。加えて私服を持っていないと答えていたと記憶している。そうなると彼女にも何か理由があるのだろうか、とタツヤは考えたが、もうひと押ししてみる事に。

 

「でも、これ才羽さんにきっと似合うと思うよ?おじいちゃんもその為に行ってこいって言ったんだし、遠慮しないで買っちゃおうよ」

「似合う…?機能性的には問題は無い…。なら……買う」

『やったぁ!』

 

カケモンが喜びミキも薄っすらと微笑む。その事に安心を覚えたタツヤは店員に話しかけ会計を済ませようとする。

一方のアサヒはますます焦っていた。実際は三人なのだが、ますますいい雰囲気のように見えてきたアサヒは混乱している。前髪で見えない目がグルグルと回っているくらいに。

 

「あわわわわわわ…」

「ん?あれ、お前沢渡じゃn」

「わーーー!?」

 

突然背後から声をかけられるアサヒは大声を出して後ろにいた相手、城太郎の口を塞ぐ。なんでこんな所に、と思ったが今日は休日。城太郎だって出掛けることがあるに違いないと結論付けた。

城太郎はそんなアサヒを無視して彼女が見ていた先を確認し、悟った。

 

「ふぁぶほぼ、ほうひふはへは(なるほど、そういう訳か)」

「た、立向居君、頼みますから黙っててください…!絶対、絶対気付かれちゃダメです…!」

「ふぁんひんひろ、ふぉへはひほふほへひふふぁーほは!(安心しろ、俺は尾行のエキスパートだ!)」

「だから黙ってください!」

 

 

次にタツヤ達(ついでにアサヒと城太郎)が来たのはゲームセンターだった。ここではクレームゲームやシューティングゲームなど様々なゲームで遊んでいる子供達がいる。ここなら安心だな、とタツヤは内心ホッとしながらもミキに声をかけた。

 

「才羽さん、どれがやりたい?こう言うのやった事ないけど、難しくなければできるよ」

「じゃあ…あれ」

 

ミキが指したのは一般的なゲーム。既存の曲に合わせて太鼓のような機械に鉢を当ててリズミカルに演奏するゲーム、太鼓マスターHIBIKIだった。これなら使い方がわかるし簡単だ、とタツヤは硬貨を入れ、2Pモードに設定し鉢を手に取る。説明を予め聞いていたミキも真似をするように手に鉢を取った。そしてゲームが始まる。

 

「あ、これ意外と難しい…。…!?」

「リズムは覚えた。タイミング、叩くスピードも問題ない。いける」

『ミキスゴーい!」

 

チラリ、とミキの方を見ると、彼女はブツブツと呟きながらも正確に、そして一瞬のブレも無く太鼓を叩いていた。まるで機械のように正確で、見ているこっちの手が止まりそうだった。カケモンもデジヴァイス越しに驚いている。

それは彼等を尾行していたアサヒ達にも言えていた。

 

「あれ、どうやったらあんな風に叩けるんですか…?」

「バカな、ゲーセンのエキスパートである俺より上手、だと…?」

 

嫉妬心が収まり、逆に感心してるアサヒの隣で膝と手を突き放心している城太郎。すると彼らの前に、一匹のデジモンが通りかかる。

 

「あ?お前ら何やってんだ?」

「ワレちゃん!なんでここに…」

「なんか寝てたらバカケモン達に置いてかれちまってよ。暇だし散歩してたんだよ」

 

ワレモンの言うように、彼は爆睡していたらタツヤ達において行かれていたのだ。最初は腹を立てたのだがワレモンは直ぐにダンボールを被り外出。街を散策していたと言うわけだ。そんなワレモンは少し離れた場所にいるタツヤ達を見つける。

が、

 

「あ?あれタツヤじゃねぇか。おー…、くぺっ!?」

「ワレちゃん、ダメです。絶対に行っちゃダメです。暇なら私達と探偵ごっこしましょう」

 

首根っこを掴まれアサヒの前に強制的に体を向けられるワレモン。何すんだ、と文句を言い掛けるワレモンだったが、急に黙ってしまう。見てしまったのだ、アサヒの前髪に隠れた…光の無い目を。

 

「いいですか、ワレちゃんはぬいぐるみです。ちょっと目つきが悪いけどぬいぐるみなんです。だから喋らないし動かないのは当たり前です。だからワレちゃん、私の言いたい事…わかりますよね?」

「………ッ」

「いい子です。ほら、立向居君も起きてください、もう移動しちゃいますよ」

「俺より…エキスパート…」

 

蛇に睨まれた蛙、という言葉がよく似合うこの状況。もう色々と吹っ切れてしまったアサヒは高速で首を縦に振るワレモンと城太郎を片手に掴み移動しだす。後にワレモンは語る……アイツのオヤジの片鱗を見た、と。

 

 

次にタツヤ達が来たのはファミレスだった。もう昼が過ぎている事もあり昼食にするつもりらしい。タツヤは手に持った荷物を影にデジヴァイスからカケモンを出す。こうすればカケモンも見えないし、一緒に食事ができるだろう。そう思ってタツヤはメニューを開く。

 

「お腹空いたね、二人とも何食べる?」

「えっとねぇ、ボクオムライス!」

「わかった。才羽さんは?」

「……ここからここ」

 

凍りついた。タツヤ達のいる席限定で空気が凍りついてしまったのだ。今何やら女子中学生らしからぬ事を言ったような気がするが気のせいだろうか、と思ったタツヤだがしっかりとミキはメニューに書かれた商品を指差している。本気なのか、と思いながらも遠慮しなくていいと言ったのは自分なのでそれを了承する事にした。

 

あれから40分ほど経過。目の前には何枚もの空いた皿が置かれていたこれのほぼ全てが目の前の少女が平らげたなど誰も思うまい。パスタ、ハンバーグ、ピザ、etc…、それが全て無くなってしまったのだ。タツヤは凄いものを見てしまったと思いながらもお冷やを飲む。ちなみに後ろの席にいるアサヒ達も驚きで食事どころではなかった。

そうして時間は過ぎ、タツヤは次の場所に行こうとするが、その前にミキは口を開く。

 

「浪川 タツヤ。私は貴方に伝えなくてはならないことがある」

「「え?」」

 

急な事にタツヤと、聞き耳を立てていたアサヒが反応する。アサヒは声を出してしまった事に気付き急いで口を手で覆う。どうやら気付かれてはいないようだが、向かい側の席の城太郎と隣のワレモンにどうした?と言った顔をされてしまった。今のセリフ、アサヒの中ではまるでこれから告白でもするようなセリフだったので今日の中で一番驚いてしまったのだ。

そんな事はつゆ知らず、ミキは続けて言葉を発する。

 

「でも、まだその時じゃない。今の私ではわからない事が多すぎる。…あの時、こんな私に友達になろうと言ってくれて嬉しかったのはわかる。だからこそ、本当に言うべきなのかわからない。だから、言える時まで待ってて」

「そっか……。うん、わかったよ」

 

タツヤは真剣なミキの目を見て頷く。彼女の中でちゃんと言えるように整理がついたら聞こう。そう思ったのだ。ミキはありがとう、と答えると気が抜けたのか肩の力が抜け落ちる。後ろではまるで告白を受け入れたような反応をしたタツヤに動揺を隠せない少女がいたのだが、それはまた別の話。

するとタツヤは今までの穏やかな雰囲気から一変、真面目な顔へと切り替わりミキの顔を見る。そこには、ミキの時とは違った決意が込められていた。

 

「じゃあ僕も、才羽さんに言っておく事があるから言うね」

「?何…?」

 

 

「僕は夏休みの間、デジタルワールドに行くよ」

 

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