デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

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十七話 《龍の谷の騒動》

デジタルワールド滞在三日目、朝早く緑の里を出て今は昼頃。現在、タツヤ達は肌を焼くような日差しを受けて歩いていた。既に周りには木々は無い。森を抜けて歩くこの場所は言うなれば岩場。竜の谷に向かうルートの1番の近道らしいのだが…かれこれ二時間は歩いていた。こう言った状況に慣れているハックモンやワレモン、体力馬鹿の城太郎はまだしもカケモンやアサヒは肩で息をしながら歩いている。

水分補給をし小まめな休憩をとっているが、二人にとっては辛いのだろう。もしかすれば谷に着くのが少し遅れるのではないか、そう思い始めたハックモンだった。

 

「はぁ、はぁ…」

「沢渡さん、平気?休もうか?」

「い、いえ。ちょっと前に休みましたし、まだいけます…」

「ボ、ボクは休みたいよぅ…」

「バカ言ってんじゃねぇ、置いてくぞバカ」

 

そう言うワレモンの言葉に覇気は篭っていない。少しだけだが彼も疲れを感じているのだろう。いつもならもう少しうるさく、尚且つカケモンに暴力を振るっている筈だ。みんな疲れているのだろう、タツヤはここで休憩しようと口を開きかけるが、その前にハックモンが警戒態勢に入る。

 

「…っ!お前達、気をつけろ!向こうから何者かがこちらに向かってくる!」

「もしかして敵…?」

「嘘だろ、まだ昼食ってねぇのに!」

 

ミキと城太郎が狼狽え、タツヤはデジヴァイスを手に取る。そしてハックモンが向いている方見ると、高速で一体のデジモンがやってきた。

一言で言い表せばそれは竜型のデジモンだ。アルフォースブイドラモンとは違って、本来の意味でのドラゴンの姿に近い姿に青い肌、そして巨大な翼を持つそのデジモンは高速でこちらへやってくると目の前で静止。三メートルを超える巨体のデジモンはハックモンの姿を視界へ入れると、驚く事に頭を垂れた。

 

「何…?」

「ジエスモン殿…いえ、ハックモン殿とお見受けします。ワタシの名はウイングドラモン。エグザモン様に使える者の一体で御座います」

「エグザモンの…なるほど、遣いの者か」

「左様で」

 

聞き慣れない名前があったが目の前にいるデジモン、ウイングドラモンは敵では無いらしい。しかも話の内容から察するに、ロイヤルナイツの同胞…エグザモンというデジモンの部下だと言う。

少し経つとハックモンとウイングドラモンの会話は終わっていた。曰く、ウイングドラモンは竜の谷にいる監視がこちらに近付いてくる影を確認し、その正体を突き止めるために飛んできたと言う。その途中、ハックモンの姿を目にし、主であるエグザモンの話から聞いたジエスモンの成長期の姿に瓜二つだった為、丁寧な対応をしたらしい。

竜の谷までかなりの距離があるのにも関わらず、自分達の位置を把握できた事に驚愕するタツヤ達。そんな彼らに少し笑いながらもウイングドラモンは口を開く。

 

「ここにあなた方が来たということは、エグザモン様に何かご用があってのことでしょう。宜しければワタシが竜の谷まで送って差し上げましょう」

「い、いいんですか!?」

「ええ。エグザモン様と同じ、ロイヤルナイツのハックモン殿とそのお連れの方です。お連れしても問題ないでしょう」

「ああ、助かる。その善意に甘えさせてもらおう」

「やったぁ!」

 

ウイングドラモンの申し出にアサヒとカケモンが食いつく。よっぽど疲れていたのだろう…カケモンなんて飛び上がるほど歓喜していた。うるせぇ、とワレモンが吠えるが彼も内心助かったと思っているのだった。

ウイングドラモンはタツヤ達を左右の手でそれぞれ二人ずつ、男女に分けて掴む。その際、カケモン達三人はデジヴァイスの中に入れた。どうやらウイングドラモンの片手で持てるのは今の人数が限界らしい。振り下ろされては大変だ、というタツヤの気遣いにカケモンとワレモンは感謝するが…何故かハックモンだけ憐れんだ目でこちらを見ていた。何故だろう、と思いながらもタツヤ達を掴んだウイングドラモンはふわりと浮かび上がる。

 

「では、行きますよ」

「あ、宜しくお願いしm」

 

タツヤの言葉は最後まで届かなかった。なぜならウイングドラモンの移動速度…そのスピードがタツヤ達の予想を遥かに超えていたからだ。例えるならミサイルの先端に縛られたまま打ち出されたような…そんなスピードで。

 

「きゃあああああああああああああ!?」

「うっわなんだこれえええええええ!?」

「っ!?……!!?」

『言い忘れたが…ウイングドラモンの飛行速度はマッハ20を超える程だ。まぁ…今はそこまで早くないが、耐えてくれ」

「それ、早、く、言って…!欲しかった…!!」

 

デジヴァイスの中からハックモンがそう言ってくる。だからあんな目で見てきたのか…タツヤは途切れそうになる意識をなんとか引き戻しながらもそう言う。周りの景色が線に見えるほどの速度の中、タツヤ達…というか城太郎とアサヒは絶叫しながらも竜の谷へ向かって行った。

 

 

「奴らめ、竜の谷へ向かいおったか」

 

とある場所、研究施設のような場所でバルバモンはそう呟いた。

…奴らはエグザモンに会うためにそこへ向かっているのだろう。その意図は何にせよ、今の自分達の計画に何の支障はない。むしろ好都合だった。

タツヤ達がそこに向かう事を確認したバルバモンは笑みを浮かべる。

 

「まぁ良い。前からあそこは目障りじゃったからのぅ。トカゲどもを狩るいい機会じゃ」

 

どれ、あそこに何を送り込むかのぉ、と言うとバルバモンは声を出して笑い始める。

今…竜の谷に危機が迫っていた。

 

 

ウイングドラモンに連れられ十数分、タツヤ達はある岩場の上に降ろされていた。

 

「め、飯食ってなくてよかった…」

「あうあう、あううう…」

「あの速度…ジェットコースターの平均速度の……約六倍」

「あ、そうなんだ…」

「も、申し訳ない、あれでも遅くしたのですが…」

「大丈夫ですよ。ちょっと驚いたけど…」

 

城太郎が、アサヒが、さらにはミキが青い顔をしている中、少々冷や汗をかきながらもタツヤは申し訳なさそうにしているウイングドラモンのフォローをしていた。なんでこいつだけこんなピンピンしてんだ、とデジヴァイスから出てきたワレモンが心の中で突っ込む。だがそれと同時に思い出した…そういやこいつジイさんの孫だったわ、と。何気に彼の血筋の一片を見たワレモンであった。

そんな中、ハックモンは岩場の下を向き、口を開く。

 

「それよりもお前達。着いたぞ…ここが竜の谷だ」

 

タツヤ達は同じく岩場の下を覗くと、その光景に驚かされた。

そこは深い谷底だった。まるでとてつもなく巨大なドリルで開けられた穴のような…そんな場所だ。直径数十キロあるその場所の岩の壁には所々穴があり、様々なデジモンがそこで暮らしていた。おそらく巣穴なのだろう…中には緑の里で見たエアドラモンが数体行き来している。他にも、アグモン、ティラノモン、コアドラモンなどと言ったデジモンも暮らしていた。

さらに周りにはここほどではないが、いくつかの谷も見えた。緑の里とは違った、しかし同じように暮らしているデジモン達の集落にタツヤ達は言葉を失っている。と、そこへウイングドラモンはご案内します、と今度は藁編んだ足場のようなものを持って来るとタツヤ達をそこへ乗せる。そして両端の紐を持つと浮遊し谷底へと降りて行った。おそらく先ほどの行為を反省してやった事だろう、彼の気遣いが感じられる。

 

「すごいね…ここ、いろんなデジモンがいるんだ」

「ええ。と言っても、それは竜帝であるエグザモン様の統治があってこそですが」

「だが…昨日の緑の里を襲った者達は違った。そうだろう?」

「…お恥ずかしい限りです。その件に関しましては、降りてからお話いたします」

 

そう顔を伏せるウイングドラモンから何かあったのだろうと言う雰囲気が発せられていた。

そうこうしているうちに、タツヤ達は谷底へと降りる。するとウイングドラモンは地面に降り、膝を着くと頭を垂れながら口を開いた。

 

「エグザモン様、ハックモン殿をお連れしました」

 

そう言うウイングドラモンの目の前には誰も居ない。もしかして透明なデジモンなのか…などと城太郎が言い出し頭に手刀を叩き込むタツヤ。だがおかしい、本当に目の前には誰もない。あるとすればとてつもなく大きな竜の像のみ。

しかし、

 

「グルルルルルルルル…!」

 

その竜の像が突然唸り出した。よく見ればその像は視線をこちらに向けており、尚且つ体のあらゆる場所が動いている。まるで生きているように…いや、実際生きているのだ、このデジモンは。そして今まで像だと思っていたものが動き出しタツヤ達は谷を見た時以上に驚いていた。

 

「「でけえええええええ!?」」

「あ、あわ、あわわわわわ…!?」

「この大きさ、あり得ない。とてつもないデータ量の塊…!」

「うん。今まで見たデジモンの中でも、飛び抜けて大きい」

「わあああああああ…!」

 

城太郎とワレモンは叫び、アサヒは混乱、ミキも混乱しているが少し違ったベクトルで混乱していた。タツヤは叫びを上げないながらも驚愕し、カケモンはアルフォースブイドラモンを見た時と似たリアクションをする。

色褪せた深紅の鱗に雄々しい角。今は閉じているがその巨大な体に比例するかのように存在する巨大な翼。片腕に槍…アンブロジウスを構えこちらを鋭い眼差しで見るこのデジモンこそ、ロイヤルナイツの一体、竜の頂点に立つ”竜帝“。

その名は……エグザモンである。

 

 

 

「久しいな、エグザモン。…見ないうちに縮んだが、それは“奴”の仕業か?」

「これ縮んでたのかよ!?」

 

ハックモンの驚きの発言にワレモンは思わず叫ぶ。それもそのはずだ、エグザモンの大きさは現実世界にある下手なビルよりも大きい。それが縮んだ、と言われると…叫ばずにはいられない。それはタツヤ達も思ったのか、誰もワレモンを止める素ぶりをしなかった。

そうしていると、エグザモンは低く唸りハックモンと会話する。

 

「グルル」

「やはりか。今の貴方の状態は“奴”の…」

「グルルルル。グル」

「ああ。だがまだ戦える状態でないようだな。…そうか、だからあのメガドラモン達は…」

「グルル…」

「そう気を落とす事はない。結果的に被害は最小限に収まった。後日使者を送り謝罪する方がいいだろう」

 

唸りと会話、それを交互に繰り返すエグザモンとハックモン。エグザモンが言うには、緑の里を襲撃したメガドラモン達は力を奪われたエグザモンの制御下を離れた者達らしい。追いかけようにも今の竜の谷の状態ではすぐに対処できず、今に至るとエグザモンは語る。

そしてその光景を見るタツヤ達。…正直ポツンと立っているだけで居心地悪いタツヤ達なのだが、その中で城太郎がタツヤに声をかける。

 

「なぁタツヤ、アイツが何言ってるかわかるか?」

「わからないよ。ミキと沢渡さんは…わかるわけないか」

「………うん」

「え、えっと、すごく困ってるようには見えますけど…」

 

長い間を取って返事をしたミキは理解しようとしたが失敗したのだろう。その次のアサヒに関しては、意味はわからないがその雰囲気だけは感じ取れたらしい。後にわかるのだが、エグザモンの言葉は種族の関係上で完全体以上の竜型のデジモンか同胞であるロイヤルナイツにしかわからないとハックモンは語る。

そうしていると、ウイングドラモンは苦笑いしながらタツヤ達の方を向き口を開いた。

 

「そちらのお嬢さんの言う通り、エグザモン様は嘆いておられます。この半年の間、竜の谷に住むデジモンのごく一部が…エグザモン様に反旗を翻そうとしたのです」

「反旗を…って、どうして…」

「エグザモンが力を失ったから。そして、エグザモンの統治に不満を持ったから…理由としてはそれが上がる」

 

顎に手を当て口を開くミキ。その発言にタツヤ達は彼女に目線を集めると、それに呼応するようにウイングドラモンは頷く。

 

「ええ、その通りです。エグザモン様が力を失い、我こそはと竜帝の地位を狙った者と自由を手にしようとした者が手を組んだのです。と言っても、すぐに制圧したので問題ありませんが」

「自由をって、エグザモンはそんなに悪いやつなのか?」

「いいえ。エグザモン様は秩序のある統治を行っておられました。暴走しやすい竜型のデジモン達を抑制し、他のデジモン達に危害が及ば無いように、そして我々の自由のために何百年と言う間統治しておられるのです」

 

何百年と言う言葉にタツヤ達は息を呑む。そんな長い年月の間エグザモンはこの場で統治していたのかと、驚きを隠せない。それを見たウイングドラモンはエグザモンを見ると、敬意を込めた眼差しで今も会話をしているエグザモンに目を向ける。

 

「秩序の無い自由などただの混沌に過ぎぬ…それがエグザモン様の口癖なのです」

「エグザモンさん…優しい方なんですね」

「ええ。ワタシもそう思います」

 

アサヒのその言葉にウイングドラモンは振り返ると、微笑んだ。まるで自分の事のように喜ぶその姿を見て、タツヤ達はエグザモンと言うデジモンを見れた気がした。

 

 

十分後、エグザモンとの会話を終わらせたハックモンは難しい顔をしながらもタツヤ達の元へ帰ってきた。彼のその表情を見て、タツヤはハックモンに訪ねる。

 

「ねぇ、さっき何話してたの?」

「ああ……色々とな」

 

そう言うハックモンにその内容を聞こうとするタツヤだが、その前にウイングドラモンが遮るようにタツヤ達の前へ出る。そしてお食事を用意しましたと一言。空腹だったカケモンとワレモン、城太郎、ついでにミキはウイングドラモンへとついて行く。その先で聞けばいいか、と思いながらもタツヤはアサヒと一緒に彼らの後を追う。

…その時、エグザモンがある人物を見つめていた事は誰も知り得なかった。

 

 

「まずわかった事は三つ。オレ達ロイヤルナイツが敗れた日から半年経っていると言うことがまず一つ。そして、あの日からデジタルワールドに何の異変も起こっていないと言う事が二つだ」

 

少し離れた一室の中、石を削ったようなテーブルと椅子に座るタツヤ達にハックモンは口を開く。この二つの情報は緑の里で聞いた情報と照らし合わせて導き出した答えだ。

しかし前者はまだ理解できる。だが後者の情報に疑問が尽きない。バルバモンが“奴”を使役、あるいは協力している筈ならなぜこの半年で何も動きが無かったのだろうか?もしかすると別の理由があるのでは…と考えたがハックモンは思考を止める。今はタツヤ達と情報を共有する事が先だ。この考えは後でもできる。そう考え直してハックモンは再び口を開く。

 

「そして最後に…現在生き残っているロイヤルナイツの同胞が確認できた」

「え、わかったの!?」

「ああ。エグザモンが半年前に離脱する時、確認したらしい。そして…あの場にいた同胞の中で離脱を確認できなかった者はデュナスモン、ロードナイトモン、クレニアムモン、スレイプモン、ドゥフトモン。そして……オメガモンだ」

「オメガモン?それって…」

「カケモンの、最初の姿の…」

 

カケモンとタツヤは互いに目を合わせる。そうだ、オメガモンはカケモンが最初にアップグレードした時の姿に使ったカードのデジモンだ。今まで気にならなかったが、まさかロイヤルナイツだとは思わなかった…タツヤとカケモンは改めて驚く。そんな彼らにハックモンは珍しく目を丸くさせると呆れを含んだ言葉を漏らす。

 

「まさか、知らずに使っていたのか…?」

「だって誰も教えて……もしかしてワレモン知ってた?」

「あ?…あー、ワリィ、言ってなかったわ」

「言ってよ…」

 

後頭部を掻きながらも悪い悪いと言うワレモンに思わずタツヤは肩の力を抜いてしまった。それを見かけたハックモンは咳払いすると、話を元に戻す。

 

「だがこれで残りの同胞がいる事を確認できた。希望はまだある事が証明された……我々は来るべき戦いの時に向けて各地にいる同胞にコンタクトを取り、バルバモン達のいるダークエリアへと向かう。それでいいな?」

「うん、それでいいと思う。経路に関してはハックモンに任せるよ。あとは…」

「はいはい、お待ちどうさん!今朝採れたての新鮮な肉の盛り合わせだよ!」

 

ハックモンの言葉を遮ったのはコック帽を被った赤い恐竜のデジモン…ティラノモンだった。彼はその手に持った大きな皿を石で削られたテーブルに置く。皿の上には発言通り焼きたての肉…しかも骨つき肉が山のように盛り付けてあった。

 

「はい、たんと食いな!」

「わぁ…!お肉いっぱいだねぇ!いただきまーす!」

「「いただきまーす!!」」

「いただきます」

「……まぁ食事の後でもいいか」

「そ、そうですね。浪川君も食べましょう?」

「あ、うん。………ちょっと待って今朝採りたてって何?獲りたてじゃなくて?というかこれ何の肉?」

 

会話そっちのけで肉を食べ始めるカケモンとワレモン、城太郎。それに続くようにミキも手を合わせて肉を手に取った。その光景に呆れながらもハックモンも食事をとる。アサヒも空腹だったため、タツヤに食べるように言うが…タツヤ本人は色々と突っ込んでいた。そもそも目の前の骨つき肉は何肉なのか…それをティラノモンに聞こうとする。

が、それよりも前に部屋の外から咆哮が響き渡ってきた。

 

「ふぁ、ふぁんだ!?」

「只事では、無さそうだな」

「僕達も行こう!」

「うん!」

 

肉を頬張りながら驚く城太郎にハックモンがそう答える。どうやらそのようで、近くにいたティラノモンは慌てて部屋の奥へと走って行ってしまった。その事にタツヤは気を引き締めカケモンと共に部屋の外へ、エグザモンのいる場所へと走り出す。残されたハックモン達も二人の後を追って席を立つ。…その中で一人、骨つき肉を両手にしていたのは城太郎だけだった。

 

 

エグザモンのいる谷の最下層へ着いたタツヤ達。そこではエグザモンとウイングドラモンが顔を顰めて話し合っていた。そんな彼らにハックモンは声をかける。

 

「エグザモン、何があった!?」

「グルルルルルル…!!」

「なんだと、マンモンの群れだと!?馬鹿な、あり得ん!」

 

ハックモンが驚きの声を上げる。タツヤ達は聞き慣れないデジモンの名前に首を傾げていると、ウイングドラモンがタツヤ達に近づき説明し始める。

マンモン…現実世界で言えばマンモスの姿をしたデジモンは古代のデジタルワールドに存在していたデジモンだ。しかし現在のマンモンの数は片手で数えられる程度、進化過程にマンモンになるデジモンも決して多くはない。しかし現在竜の谷のすぐ近くに群れで現れたのだ。その数は約80頭…現在ではあり得ない数である。それに加えて不可解なのは、竜の谷の監視の目を掻い潜って谷の直ぐそばに現れたのだ。まるで、魔法でも使ったかのように…。

その説明を受けると、アサヒはボソリと呟く。

 

「あの、もしかしてそれって…」

「バルバモン…」

「ああ、あのクソジジイならあり得るぜ」

 

続けてミキとワレモンもそう言い出す。たしかに、七大魔王であるバルバモンならば可能かもしれない。だがどうして?どうやってマンモンの群れを揃えた?…狙いは自分達なのか?数々の疑問が浮かび上がるがこうしている場合じゃない。現在竜の谷の完全体デジモンが対処しているが、その数はたった十数体…数の差がありすぎる。ならばエグザモンが出れば、そう言いかけた城太郎だがウイングドラモンは首を横に振った。

 

「いいえ、できないのです。エグザモン様は先の戦いで力とその力を制御する機能の大半を奪われました。半年経った今でも調整が終わっておらず、このまま戦われると…この竜の谷に住む多くのデジモン達が犠牲となるでしょう」

「そんな…」

「なら僕達が…」

「グルルルル!」

 

タツヤが言いかけた時、エグザモンはこちらを見て唸る。何かを伝えようとしているのか、タツヤ達…いや、カケモンへと目を合わせた。

 

「エグザモン?」

「グルルルル…」

「なんで止めるの?今上でみんな困ってるんでしょ?」

「グルルル」

「なんでって、よくわかんないよ。ただみんなを助けなきゃって、思ったから」

「グルルルル…グルル」

「カケモン、お前…まさか」

 

エグザモンと普通に会話しているカケモンに驚きを隠せないハックモンに気付かず、カケモンはエグザモンに言われた事…問われた事に頭を悩ます。

 

–––––小さき者よ、貴様は何故戦うのだ?

–––––それは責任感か?それとも義務か?

–––––ワレはそれが知りたい…答えよ

 

問われた事にカケモンは兜ごと頭を抑えながら考える。戦う事を難しく考える事はなかった。誰かが困っているから、友達が困っているから、時と場合でそれは違ってくる。だからこそ、今のこの状況も…単純に、ただその心に思った事を口にした。

 

「だって、行かなかったら…きっと後悔するから」

「………」

 

ハックモンから聞かされた、不思議な力を持つデジモン…興味が無いと言えば嘘になる。だがしかし、それでも試したかった。はたして、デジタルワールドを救うに値するのか?自分達ロイヤルナイツの力を振るうに値するのか?

 

–––––貴様もまた、自由を求める竜なのだな

 

答えは得た。目の前のデジモンは己の為ではなく、誰かの自由の為に戦う者なのだと。それもまた、一つの竜の形だ。

エグザモンはその巨体を傾かせ、指をタツヤ達の前に突き出す。

 

「グルルル」

「タツヤ、デジヴァイス出して!」

「…わかった」

 

カケモンに言われるままにタツヤはデジヴァイスを取り出しエグザモンの前に翳す。それを確認すると、エグザモンはその指先…正確には爪でデジヴァイスの画面に軽く触る。すると、何かが欠けたような感覚にほんの少し顔を歪ませながらもエグザモンは指を引いた。

タツヤはそれを見てすぐに画面を確認する。そして《X EVOL.》を開くと、そこにはエグザモンのアイコンが新たに追加されていた。それを見てタツヤはカケモンへと目を向ける。

 

「カケモン!」

「うん!」

 

 

「セットアップ、エグザモン!」

 

 

《X EVOL.》からエグザモンのカードを具現化させ、裏のUGコードを読み取ると、タツヤはカケモンにデジヴァイスを向けて光を放つ。そして光を浴びたカケモンは更なる力を手に入れる。

 

頭にある兜を上に放り投げると、カケモンの体は新たな変化を遂げた。ver.アルフォースより頭一つ分以上大きい体格に加え、腕よりも脚が発達しているという、竜人ではなく竜と言った方が合っている姿へと変わる。そして兜を被ると背後のエグザモンの幻影から鎧が飛び出す。深紅の鱗を模した鎧は手足と胴体の最低限の場所に装着され、今度は兜の上に竜の顔を模したパーツが追加される。まるでエグザモンの角を簡略させた兜の口元から立体的なバイザーが装着されると、最後に幻影から斧のような二つのパーツ…サテライトEが飛来し目の前を切り裂き、背中に装着され翼のような形へと変形。咆哮を上げ、誕生した竜はこう名乗り出した。

 

 

「アップグレード! カケモン ver.エグザ!!」

 

 

今までとは違ったカケモンのアップグレードにタツヤ達は驚愕する。だがそんな事はつゆ知らず、カケモンは空を見上げるとウイングモードのサテライトEを広げ最下層から飛び上がってしまう。その速度はver.アルフォースに匹敵する程で…既にカケモンの姿は見えなくなってしまった。

 

「カケモン!?」

「あんの野郎!オレらを置いてくんじゃねぇ!」

「追いかけます、ワタシに捕まってください!」

 

そう言ってウイングドラモンはタツヤ達を掴むと今度はゆっくり目に飛び上がる。最初の事を考慮した為か、タツヤ達の負荷は無いが今はこの速度がもどかしい。戦場へと行くタツヤ達を目に、エグザモンは静かに目を閉じた。

 

 

一方、竜の谷のすぐそばの荒野。ここではマンモンの群れと竜の谷のデジモン達が戦っていた。竜の谷のデジモン達は皆戦慣れしている事もあってか、マンモンの一体や二体を相手にするのはどうとでもなる。だが、数が多すぎるのだ。役五、六倍の数をこの少数で倒しきるのには無理がある。現在なんとか半数まで減らせたが…それでもこちらの体力も底を尽き始めていた。このままではやられる、と一体のサイバードラモンが思っていた、その瞬間だった。

 

「ズバズバするよ!!」

 

上空から子供のような声が聞こえると、目の前に二振りの斧を持ったデジモンが降りてくる。驚くべき事に、そのデジモンは着地と同時に前方にいたマンモンの一体を斧で両断したのだ。その事に驚きつつも、サイバードラモンは目の前のデジモンに声をかける。

 

「お、おい。お前は一体…」

「んー?ボクはボクだよ?カケモンだよ?」

「いや、そうじゃなくて…」

「オジさん達休んでて、後はボクがやるから!」

「オジさん言うな!?じゃなくておい!」

 

そのデジモン…カケモンver.エグザはアックスモードにしたサテライトEを一つに合わせ変形させる。ブーメランモードになったサテライトEをカケモンは今も戦っている他のマンモン達に向かって投げ飛ばす。すると、サテライトEはマンモン達を次々と切り裂き竜の谷のデジモン達に有利な状況を作り出していく。だがそんな中、一体のマンモンが真横からカケモンに突進してくる。だがカケモンはマンモンの鋭い牙を掴み突進をピタリと止めた。

 

「ブモッ!?」

「もー、あっち行ってて!」

「ブモオオオオオッ!?」

 

マンモンを遠くへと投げ飛ばすカケモン、だがさらに前後から二体のマンモンが突進してくる。機動力が低い今の状態だと確実に潰される、そう思ったサイバードラモンは逃げろと叫ぶが、杞憂に終わる。帰ってきたサテライトEは背後のマンモンを切り裂くとカケモンの手元に戻り、新たに変形する。盾の形、シールドモードに変形したサテライトEを手にしたカケモンは前方のマンモンの突進を受け止めるとそのままマンモンを押し返す。

 

「よいしょーーーー!!」

「ブモォ!?」

「うーん、もっと暴れたいなぁ。そうだ!」

 

カケモンはそういうとサテライトEを二つに分離させる。そして宙に浮いたサテライトEは筒状に変形すると最初と同じようにカケモンの背中に装着された。ブースターモードとなったサテライトEを背に、カケモンは独特の構えをする。それは…クラウチングスタートと同じ構えだった。

 

「位置について、よーい……––––––ドッカーーーーーーンッ!!」

 

そう言うとカケモンは目の前にいた三体のマンモンと共に消えていた。いや違う、進んだのだ。ただ真っ直ぐ、一直線に。その証拠に目の前にカケモンが進んだであろう地面が抉れて出来た一本の線が地平線まで伸びていた。この数秒後に、ウイングドラモンに連れられてタツヤ達が来たのは別の話。

 

 

「「「ブモオオオオオッッ!?」」」

「あはははははは、きもちーねーーーー!!」

 

三体のマンモンを頭で押し出すように真っ直ぐ飛ぶカケモンは笑っていた。風を切る感覚が自分が自由だと言う事を実感しているからだ。途中山を数箇所貫通したが今の彼に自覚はない。有り余る力をまるで制御出来ていない、ある意味では暴走状態なのだから。

 

「あれ?行きすぎちゃったかな?うーん、回れ右ー!」

 

元いた場所からだいぶ離れていた事に気付いたカケモンはカーブをつけてUターン。既に三体いた筈のマンモンが一体だけになっていたが、それもまた気付いていない。途中にあった湖を真ん中から切り裂き、カケモンは竜の谷へと戻って行った。

 

 

「ブレイズソニックブレス!」

「イレイズクロー!!」

「クソ、あのバカケモンどこ行きやがった!?」

 

竜の谷の戦場ではウイングドラモンが参戦し、何体かのサイバードラモンと一緒に戦っていた。その離れた場所でワレモンはどこにいるかわからないカケモンにキレている。まぁまぁと宥めながらも、タツヤ達もどこにいるのかわからないカケモンに不安は募るばかり。だがそんな時…ふと空から何か音が聴こえてきた。それはまるで隕石でも落ちるような…

タツヤ達はもしかしてと見上げ、そして絶叫した。

 

 

「「「に、逃げろおおおおおお!!!」」」

「あはは!スターダストスレイヤー!!!」

 

 

隕石のように上空からやってきたカケモンは周りに紅いオーラを纏い戦場へと接近してくる。幸い、ここにいた竜型のデジモンは皆機動力が高い為、タツヤ達の叫びにすぐに対応できた。そう、それ以外…残った十数体のマンモン達はカケモンの突進から逃れる事が出来ず、消し飛んだ。

轟音が響き渡り、頭上から砕けた岩のかけらが降り注ぐ中、ウイングドラモンに守られていたタツヤ達はそっとカケモンが落ちてきた場所を見る。するとそこには、大きなクレーターができており…その中心にカケモンが上半身ごと頭を突っ込んで埋まっていた。

 

「むーーーー!!(出られないーーーー!)」

「こ、こ、このアホンダラああああ!!?」

 

バタバタと暴れるカケモンの足にワレモンは冷や汗をかきながらも走り出し飛び膝蹴りを食らわせる。そしていつものごとく元の姿に戻ったカケモンは、目を回していた。ワレモンがそんなカケモンに構わず往復ビンタしている中、タツヤは怒られるんじゃ無いかと恐る恐るウイングドラモン達の方を見ると…何故か全員咆哮を上げている。しかも間違っていなければ、それは勝ち鬨を上げるようなそんな感じに聞こえた。

ああ、いいんだ、と思いながらもタツヤはカケモンの方を見る。今回もまた、厄介な力を手に入れてしまったようだ。タツヤは丁度鳴った腹の音を聞きドッと疲れる。とにかく今は、肉を食べたいタツヤなのだった。

 

 


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