デジタルモンスター Missing warriors 作:タカトモン
タツヤ達はまばゆい光に視界を遮られていた。思わず腕で顔を覆わなければならないほどの光は数秒続くと、次第に収まっていく。なんだったのか、タツヤはぼやける目を何度か瞬きしながら開けると、ふとある変化が起きていた。
光り輝くものが壁にある一つのプロトタイプのデジヴァイスに吸い込まれていく。それはカプセルにあったデジコード…プロトデジヴァイスの画面に吸い寄せられる。そしてそれを取り込んだプロトデジヴァイスは小刻みに動き出すと浮かび上がり、タツヤ達の間をすり抜けるように部屋から出て行った。
「デジヴァイス…どうして…?」
「後を追うぞ!」
困惑するミキを尻目にハックモンはそう言うとプロトデジヴァイスを追いかけ部屋を出る。それにつられてタツヤ達も部屋を出るとすぐさま近くの部屋…タツヤ達が探索した部屋へと向かった。
部屋の入り口にはハックモンが立っており、中を覗いている。その顔は驚愕で震えていた。後から来たタツヤ達も部屋の中を見た。するとどうだろうか…部屋の中にあった大量のカプセル、正確に言えばデジコードがデジヴァイスへと吸い込まれていくではないか。
「デジコードが…!」
「なんだ、どうなってんだこれ!?」
ハックモンが狼狽え、ワレモンは困惑の叫びを上げる。それは異常な光景なのだろう。デジモンであるハックモンとワレモンがこれを見て表情を変えているとなると相当な事態だ。
一方、プロトデジヴァイスはその部屋にあったデジコードを全て取り込むと、自らを中心にデジコードで構成された繭…いや、デジタマを作り出す。そのデジタマはだんだんと大きくなり、研究所の天井を突き破ろうとする。このままでは研究所どころか洞窟さえも崩れかねない。ハックモンは全員に洞窟の外へと走るように叫んだ。
だが一人、出口とは逆の方向に走る者がいた。
「ミキッ!?」
「そっちじゃないよ!こっちだよぉ!」
タツヤとカケモンの叫びが響く。そう、ミキはただ一人、出口とは逆方向…先程いた部屋へと走っていた。だが揺れが激しいのかミキは途中で足をくじいてしまう。起き上がろうとするミキ、だがその頭上に天井の一部が落ちてくる。
「あっ…」
判断が遅れ動けなかった。一瞬、ほんの一瞬気をとられただけで目の前に瓦礫が落ちてくる。スローモーションのように思えるそれは自分に危害を加えるのだと、そう確信し目を瞑る。痛みは一瞬、もしくは少しの間続くと思い目を瞑った。
しかし、ミキを襲ったのは痛みでは無く誰かに抱きとめられる感覚だった。
瓦礫が目の前を埋める。天井は既に崩れ、研究所のある洞窟は小刻みに振動を放っていた。そして目の前の瓦礫の山を見つめる事数秒、つい先ほど起こった自体を飲み込んだアサヒと城太郎は叫んでいた。
「浪川君!才羽さん!」
「タツヤァ!クッソォ…!」
「落ち着けお前達!一旦ここを離れるぞ!」
タツヤとミキ、二人が瓦礫の奥に取り残されている。二人は助けようとするが、それより先にハックモンが静止させる。このままでは今自分達のいる場所も危険だ、すぐに研究所もといこの洞窟から出なくてはならない。アサヒと城太郎はハックモンと瓦礫の山を交互に見ながらも顔を顰めて出口へと進む。冷静な判断を求めた結果だが、納得いかないのも事実だ。そしてそれは二人だけではなかった。
「タツヤ…ミキ…」
「お前も行くぞ、バカケモン!」
カケモンは振り返りながらもワレモンに連れられ出口へと進む。その際ギルモンもカケモンについて行ったのだが、その時一瞬デジタマを見る。微弱だが鼓動を感じる…なにかが生まれようとしていると感じさせた。ギルモンはそう思いながらもカケモンの後を追い研究所を後にする。
デジコードで構成されたデジタマは鼓動を放つ。何かに呼ばれるように、デジタマは天井を突き破り浮上して行った。
「うっ…?」
「ミキ、気が付いた?」
ぼやけた視界を数回瞬きする。靄のかかった頭を上体を起こしながら振ると今置かれている状況を確認した。崩れた天井によってできた瓦礫の山は出入り口を塞いでいる。今いる場所はデジヴァイスがあった奥の部屋。そして目の前にいるのはタツヤ一人、気を失う前の状況から察するに閉じ込められたのだろう。そう考えると勝手な行動を取り、タツヤを巻き込んでしまったことに罪悪感を感じた。
彼に謝ろうとするミキだったが、ふとタツヤの方を見て目を見開く。彼の腕からは少しだが傷が出来ていたのだ。そこには持ち物の中にあった包帯で応急処置が施されていたが、少量の血が滲んでいる。
「タツヤ、その傷…!」
「ああ、掠っただけだよ。それよりミキが無事で良かった」
「…ごめん、なさい」
罪悪感がさらに上乗せされる。巻き込んだ上に怪我をさせてしまった。その事に胸が痛くなり、無意識に目を背けてしまうミキ。タツヤ本人としては言葉通りミキの無事を案じていたのだが、逆に気を使わせてしまった事にちょっとした後悔をしていた。
気まずい雰囲気から十数秒、その場の空気を壊したのはタツヤだった。
「ねぇ、なんでミキはあの時研究所に戻ったの?」
「………博士の、日記」
「才羽博士の?それって、部屋にあったっけ?」
「デスクの奥。そこに博士は日記を仕舞っていた。多分、大事もの…だと思う」
そうだ、ミキはそれが気掛かりだったのだ。デジタマが巨大化し、研究所が崩れそうになるのではとそう思ったミキの脳裏に浮かんだのが才羽博士の日記だった。なぜそれなのかはわからない。だが、取りに行かなければとそう思ったのだ。頭では無く心で、思考では無く反射で行動をとってしまった。何故そうなってしまったのかわからない、でも足は勝手に動いてしまったのだ。
ミキの話を聞き、タツヤはそっかと頷くとミキに手を差し伸べる。
「じゃあ探さなきゃね」
「え?」
「探したいんでしょ?才羽博士の日記が大事で、取りに行きたいからミキは戻ったんだよ。だったら尚更、探しに行かなきゃ」
そう言われて目を見開いた。タツヤは自分を責めず、日記を探そうと言うのだ。
浪川 タツヤはそう言う人間なのだ。自分よりも他人を優先させる。誰かの気持ちを尊重させる、誰かの想いを尊う人間。かつての自分が出来なかった事を、誰かにさせたくないから。
ミキはタツヤに何か言おうとしたが、口を開かず頷くとタツヤの手を取る。そして日記を探すと同時にこの部屋に非常用の出口のようなものが無いか探す事にした。外ではハックモン達が自分達を助けるために行動しているとは思うが、ただ待ってるだけじゃダメだ。そう思いながらも二人は行動し始めた。
一方、洞窟から出たハックモン達はある程度洞窟から距離を取っていた。洞窟の崩壊を警戒しての行動だが、アサヒに城太郎、そしてカケモンはあまり離れたがらない。中に残された二人を助け出したいと、居ても立っても居られないいられないのだろう。ハックモンとワレモンはそんな三人を落ち付けようとするが、その前に新たなる状況の変化が訪れた。
少し離れた場所…恐らく研究所のあった位置からあるものが出てくる。それは研究所で見たデジタマ…それが宙へ浮かび上がり、中で見た時よりもさらに巨大になっていた。そして驚くべき事に、距離があるにも関わらずデジタマからの鼓動が聞こえてきた。
鼓動が高まっていく。何かが生まれようとしているのだ。その事にハックモン達はゴクリと飲み込むと次の瞬間、デジコードで構成されたデジタマは弾け飛び、中にいたそれは姿を現した。
それは歪な存在だった。二対四枚の翼を持ち、四本の腕を持つデジモン。これだけならまともなのだろう。だが問題なのはその部位(パーツ)だ。羽は天使のような純白なものと竜のようなものが一対ずつ、腕も悪魔のようなものが二本と昆虫、骨のようなものが一本ずつ。足は獣、胴体と尾は竜、頭部は昆虫。一貫性の無いその姿はまさに合成獣(キメラ)だった。
「ぐ、グうウううuuウ…!!」
「なんだよ、なんだよこのグロいのは!?」
「これは…!」
「…よもや再び目にするとは思わなかったな」
呻き声を上げるそのデジモンに思わず血の気が引き、ワレモンが悲鳴のように声を上げる。それはアサヒ達も同じようで、声には出さないが鳥肌が止まらないようだ。ハックモンに関しては見覚えがあるようで、同じく見覚えのあるギルモンも小声で呟いた。
その怪物とも言えるデジモンは呻き声から咆哮へ変えると、すぐ近くの森に視線を向けて動き出す。そして森の木々をなんの目的もなくその腕で薙ぎ払い始めた。
「なんだよありゃあ、急に暴れ出しやがった…」
「あれは…キメラモンだ」
「キメラモン?」
「何体ものデジモンの体の一部を合成して作られたデジモンだ。過去にその存在を確認したことがある。恐らく、あの研究所にあったデジコードがデジヴァイスに吸収され誕生した可能性が高い。プロトタイプとは言え、デジコードを吸収しデジモンを生み出すとはな」
そう言うハックモンの額からは冷や汗が流れていた。キメラモン…世代的には完全体に値するが個体によっては究極体級に匹敵されると過去のデータに記述されていた。それをプロトデジヴァイスが作り出した事に驚きもするが納得もする。
完成品であるデジヴァイスの機能を考えると、ありえない話ではない。タツヤの持つデジヴァイスは自分達ロイヤルナイツの、“A”の持つものは宿敵である七大魔王の力をそれぞれカケモンとモスドラモンに”掛け合わせる“機能を持っていると推測は立てていた。だがデジコードを取り込み新たにデジモンを誕生させるとは予想外だ。
キメラモンに理性は無く、このままでは近くの集落を襲う可能性がある。野放しにはできない、そう思ったハックモンは残ったアサヒ達に指示を出す。
「奴を遠くへ行かせるわけにはいかない。ギルモン、アサヒ達と一緒にタツヤとミキを救出してくれ!オレは奴の元へ行く!」
「承知し…わかった〜」
時々見せた雰囲気が一瞬出たが、ギルモンの了承を得るとハックモンはキメラモンの所へ駆け出した。今の状況で出来ることは限られているが、何もしないわけにはいかない。
ギルモンはアサヒ達を連れてキメラモンの出てきた場所へと移動する事にした。洞窟へ一度戻るとなると崩壊の可能性があるが、キメラモンの出てきた場所は研究所のすぐ上だ。ならばそっちの方が近い上に安全だろう。
アサヒと城太郎、カケモンとワレモンは互いに顔を合わせると、ギルモンの後を追って走り出した。
場面は変わって研究室の一室。ここではタツヤとミキはそれぞれの行動をとっていた。一人は出口を探すため、もう一人は日記を探すため。だが前者はいくら探しても見つからず、部屋の中で無事だったパソコンや資料、三機の残ったプロトデジヴァイスを回収してミキの方へ。それに対して後者はデスクの一番下の引き出しのさらに奥にあった日記を取り出し、それを大切に抱きしめていた。
「こっちはダメだったよ。ミキは……見つかったみたいだね」
「うん」
返事を返したミキの顔は綻んでいた。まるで才羽博士にまた会えたような安心感がそこにある。その様子を見たタツヤは安心すると同時に近くにあるベットへと座る。そしてふと、ある質問をした。
「ねぇ、才羽博士ってどんな人だったの?」
「?日本人、性別男性、年齢45歳、配偶者無し…」
「あ、そうじゃ無くて。どんな性格とか、どんな雰囲気だったとかなんだけど…」
淡々とミキの語る内容と求めていた回答が違い思わず割り込むタツヤ。こう言った時に機械的になるのが人工知能であった彼女の名残なのだろう。だがそれを受け止めつつタツヤの言われた通り、ミキは覚えている博士の人物像を思い浮かべる。
「博士は…子供のように笑う人だった。実験が成功しても、失敗しても、次を目指して笑う人。私が新しいことを覚えると、自分の事みたいに喜ぶ人…」
「そっか、明るい人だったんだね」
「うん。明るい人。それに諦めない人だった。研究が行き詰まった時も、それを乗り越えようと必死だった」
息を吐くように才羽博士の事を語るミキ。彼女がこんなに楽しそうに、しかも饒舌に語るのは初めてなのかもしれない。それはまるで…。そう思ったタツヤだったが、ふとミキの口は閉じた。
「ミキ…?どうかしたの?」
「博士は…博士は、殺された。あの日、バルバモンに…」
「バルバモン…!?」
思わぬ名前に驚くタツヤ。バルバモン…七大魔王の一体にして、ミキを従わせていた張本人。そうだ、今まで疑問に思いながらも言い出せなかった事を思い出す。それは、何故彼女がバルバモンに従っていたのか。それが今明らかになるかもしれない。
「ミキ…無理なら言わなくていい。けど出来るなら聞かせてくれないかな。バルバモンと、才羽博士のこと」
「……わかった。タツヤには、話すと約束してたから」
現実世界でカケモンと一緒に行ったファミレスでの事だ。今はダメだがいつか必ず話すと、そう約束した。ならばそれは今なのだろう。締め付けられる胸を押さえてミキは語り出した。
約三ヶ月前、その日の博士はおかしかった。まるで気付いてはいけないものに気付いてしまい、頭を押さえて何度も唸る。そして日記を書き、いつものようにデスクの奥へと仕舞うと、警報が鳴った。それは侵入者が研究所へとやってきた合図。最初博士は慌てたが、決心したような顔をして博士は部屋を出て行く。その際、まだ機械の体だったミキに一言、ごめんね、と言った。
出て行った数分後、部屋の外では高熱反応と同時に一つの生体反応が消えていた。
次に入って来たのはバルバモンだった。バルバモンは自分と当時すぐ近くにあった生身の身体(ボディ)を見て笑う。そう、使えるものを、駒を見つけた時の顔だ。すぐさまバルバモンは人工知能を鉄の身体から生身の身体に移植し始めた。だがこれが間違いだった。まだ調整が済んでいなかった事により、ミキは名前以外のほとんどを忘れてしまった。自分がどう言った存在なのか、ここが一体何処なのか、そして…博士の事も。
その後、彼女はバルバモンの操り人形となった。そしてコードネーム “D”の名を与えられ、タツヤ達の通う学校へと転入する事となる。
与えられた指示の内容は恐ろしく雑だった。というのも、“手頃な人間を捕まえてゲートを開く場所におびき出す”。それだけだ。当時の彼女はその事に疑問を抱かず、指示に従おうとした。
しかしそれはすぐに達成される事となる。
そう、タツヤとカケモンの出会いだ。学校に来た初日、隣の席になり行動を共にしていたタツヤを誘導し…そしてカケモンと接触した。偶然にもそれはバルバモンの思惑通り、もしくはそれ以上の結果となった事により新たな指示、“タツヤとカケモンの監視”が下ったのだ。
「そして私はタツヤとカケモンを観察して、適当なタイミングでデジモンを送る合図を出していた」
「そっか…やたらと僕達の近くでデジモンが現れると思ったから、不思議だったんだ」
「…………」
「あ、別に責めてるわけじゃないよ!?」
無意識に溢れた言葉にタツヤは慌ててしまう。目の前の彼女の顔はお世辞にも良いとは言えず、罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
タツヤは話を変えようと才羽博士とバルバモンの関係を聞いたが、ミキは首を横に振る。わからないと言う事だろう。流石にそこまでは知らないか、とミキにありがとうと一言告げるとタツヤは彼女から聞ける話はもう無いかと考えていた。だがもう何も聞けるような事は無い。
あるとすれば…
「ミキ」
「?何?」
「…才羽博士は、君にとってどんな人だった?」
その一言にミキは無言で返した。彼女にとっても難しい質問なのだろう。少なくとも悪い感情は無いはずだ。むしろその逆だろう。質問に答えられるほどの知識は無いのかもしれない。だがたどたどしくも彼女は口を開く。
「博士は、尊敬できる人。デジヴァイスを作って、とても難しい研究をして、それで…」
「自分を作ってくれて?」
「…うん」
「そっか。でも、そうだね……僕が博士なら、ミキに“父親”って言って欲しかったかな」
「父、親?」
タツヤの一言に目を丸くする。確かに人工知能とその創造者、関係的にそう言えなくも無いだろう。だが父親と、その言葉を耳にし彼女の胸にストン、と何かが落ちたような感覚があった。
(あっ…)
そして同時に思い出す。あれはバルバモンがアサヒを人質に取った日の夜、バルバモンにコードネームで呼ばれた時の事だ。
[私の名前は才羽 美希(ミキ)。才羽 ユキオ博士の娘…“D”じゃ、ない!]
(そうだ。私はあの時、バルバモンにそう言った。今まで忘れていたけど、確かに…)
何かが自分の中で弾けてそう反射的に叫んだと記憶している。今まで思い出せなかった博士の記憶の断片がそう駆り立てたのかもしれない。その言葉は無意識に、ミキの心と身体に変化をもたらしたのだろう。
「さっき、バルバモンが来る前に日記に何か書いたって言ったよね?」
「う、うん。あっ…」
「だったら…。…やっぱり、ほらここ」
ミキの腕の中にあった日記を借り、タツヤはページをめくる。そして一番最後にあったページを見て微笑むと、彼女に開いて渡した。
ミキは受け取った日記を見て、言葉を失った。そこに書いてあったのは才羽博士が最後に残した数行の言葉。遺言とも言える言葉だ。
〔バルバモンがここへやって来る。私は恐らく死ぬのだろう。しかし、私の夢は終わらない。希望はまだ残っている。〕
〔だが心残りが一つ。君を残していく事だ。どうか許してほしい。可能であれば自らの手で新たな体を調整し、この閉ざされた研究所から出て外の世界を感じてほしい〕
〔私の娘、愛すべき子、才羽 美希(ミキ)。どうか、幸せになって欲しい。それが私の…父親としての最期の願いだ〕
「……才羽博士は、最後までミキの事を大事にしてたんだね」
視界が歪む、彼の声が遠くから聞こえるように感じる。汚したく無いのに、目から溢れる液体が日記に零れ落ちる。胸から溢れ出る感情は涙に、すすり泣くような声となり、止まる事を知らない。背中をさすられる感覚があった。タツヤが自分を慰めようとしてくれているのだろう。だが今は逆効果のように感じられた。
互いに互いを想っていた。それだけで満たされていく。この胸にある鼓動は、嬉しさで動いているのだろう。
ミキが泣いたのはこれで二度目。だがしかし、この瞬間に流れる涙は…心地よさがあった。
と、そんな時、
「〜〜〜〜、ぷはっ!あ、いた〜!」
「「ぎ、ギルモン!?」」
目の前の天井から爪を突き出し、頭をひょっこりと出したのは記憶にも新しいギルモンだった。どうやら上から掘って来たのだろう。ちなみに、他の四人は周りの瓦礫の撤去をしているのだがこれは別の話。
「俺は撤去作業のエキスパートどぅああああああああああ!!」
「お、重たいですぅ〜!」
「ぜー、ぜー…!」
「おらへばってんじゃねぇぞ!根性見せろゴラァ!!次だ次ィ!!」
ギルモンは天井から逆さに顔を出したまま二人を見て首を傾げる。タツヤがミキの背中をさすり、ミキは日記を見て泣いている状況。側から見れば何かあったようにも思える図である。少なくとも彼らのクラスメイトの女子達が騒ぎ出すレベルで。
ギルモンの視線に耐えられなくなったのかタツヤとミキは互いに距離を取る。タツヤは顔を背け、ミキは涙を袖で拭いていた。そしてタツヤは咳払いをする。
「ん゛ん゛!ギルモン、助けに来てくれたの?」
「そうだよ〜。ところで今何してたの?」
「なんでもないよ。ほんと、うん」
「グシャあぁアアaaaaアアアあアa!!」
「流石に、キツイか…!」
ハックモンは顔を苦痛で歪ませていた。
十分ほど前、森を衝動の赴くままに破壊するキメラモンを追っていたハックモン。途中で洞窟に入る前にいたジャングルモジャモンやゲコモンなどのデジモン達がその餌食となっていた。その事に歯が砕けるほど歯軋りしたハックモンはキメラモンの死角からベビーフレイム、フィフスラッシュで攻撃。自分に気を引かせる事で、遠くへ行かせない算段だった。
最初の内は気付かれず、周りを警戒させる事で足止めをしていたハックモンだったが、途中で気付いたキメラモンはハックモンを発見。その事に身の危険を感じたハックモンはジエスモンへワープ進化しようとするがその前にキメラモンの怒涛の攻撃が始まる。まともに当たりはしなかったが体力を奪われ、尚且つワープ進化する隙を作る事が出来ないハックモンは焦りを感じていた。世代による差を埋めることは難しい。このままではやられるのは時間の内だ。そう思った矢先、
「うらああああああ!!」
「ぐウウu!?」
空高くから槍を持ったデジモン、カケモン ver.ジエスがキメラモンの頭部目掛けて攻撃を仕掛けて来た。反射的にキメラモンは悪魔の腕…デビモンの両腕を使いランサーJの攻撃を防ぐとカケモンを押し返す。押し返されたカケモンは空中で回転すると、ハックモンの前へと着地した。
「っと、待たせたな!」
「カケモン!と言うことは、タツヤとミキは救出出来たと言うことか!」
「見ての通りだ。それよりアンタは下がってな」
こちらに目もくれずランサーJを構えるカケモン。それほど目の前の敵が脅威だと判断したのだろう。気の緩みが一切無い。対するキメラモンは新たな敵を標的にし、今にも襲いかかりそうな雰囲気だ。ハックモンは二体の様子を確認すると、タツヤ達と合流すべくカケモンとキメラモンの前から去った。
そして、互いに動かなかった二体のデジモンは木が倒れた瞬間に動き出す。
「行くぜェェェ!!」
「ぎシャあああaaア!!」
ランサーJから繰り出される高速の突きは的確にキメラモンの急所に向けられたが、それはデビモンの両腕と片方ずつのクワガーモンとスカルグレイモンの腕に防がれる。何発か胴に当たったが、強化されたグレイモンの皮膚を通すことは無かった。舌打ちしたカケモンは一度距離を取り、森の中へと侵入。ハックモンと同じく死角からの攻撃を仕掛けようとするが、キメラモンは先程の戦いから学習したのか、その背にある四枚の翼で飛び上がる。
「グruru…ぎシゃあああ!!」
「うぉ!?マジか!?」
エンジェモンとエアドラモンの翼で空中での移動が可能となったキメラモンはその口から熱線弾、ヒートバイパーを森に向かい放ち始める。それは無差別のようで、カケモンを誘き出す為の布石だった。カケモンはその事に気付いたが、あえてその挑発に乗る事にする。地面から助走をつけて跳び上がると、カケモンはキメラモンの正面へ移動。必殺の一撃を放つ。
「舞槍乱舞ッ!!!」
「グシゃあ!!」
「がっ…!?」
アト、ルネ、ポルを呼び出し繰り出した舞槍乱舞は呆気なくガルルモンの脚によって無効化されてしまう。呼び出された三体は消え、キメラモンは追い討ちをかけるようにモノクロモンの尻尾でカケモンをそのまま薙ぎ払う。攻撃を受けたカケモンは意識が朦朧としながらも空中で吹き飛ばされた中でキメラモンを睨みつけていた。
そしてその光景を見る者達がいた。救出されたタツヤとミキ、それにアサヒ達である。タツヤは救出された後、急いでカケモンをアップグレードさせ、遅れながらも後を追っていた最中だった。だが目の前の光景はカケモンがキメラモンにやられている姿。その事に狼狽える一同。
「カケちゃん!」
「ヤベェぞおい!」
「タツヤァ!なんとかしろ!」
「…わかった。これを使う!」
タツヤの手には《X EVOL.》から具現化されたエグザモンのカードがあった。正直、このアップグレードは力加減が極端になってしまう為使用を控えていたのだが、今はそんな場合じゃ無い。ここで使うべきだと、タツヤはカード裏のUGコードをデジヴァイスに読み取らせる。
「セットアップ、エグザモン!」
デジヴァイスから放たれた光は空中にいるカケモンに向かう。光に包まれたカケモンは形成を逆転させる姿へと変わっていく。
0と1で構成された空間でカケモンは通常時の姿に戻り兜を上へ投げる。そしてその身を竜の姿へと成長させると兜を被り、飛来した鎧がカケモンに身に付けられる。兜に付いた追加パーツがセットされると立体的なバイザーが口元に形成され、背後からサテライトEが正面をXに切り裂き背中に装着。そして自らの名を高らかに宣言する。
「アップグレード! カケモン ver.エグザ!!」
空中でver.エグザへとアップグレードしたカケモンは体勢を立て直すとキメラモンに向かって突き進む。途中、ヒートバイパーが何発か放たれるがそれはシールドモードのサテライトEによって防がれる。そして距離が0となった。
「グぅ!?」
「ここからが本番だよー!!」
サテライトEごとキメラモンへ突っ込んだカケモンはそのまま頭突きをする。カブテリモンの頭部が強固とはいえ、出力がどのアップグレードよりも上なver.エグザの頭突きはひとたまりもない。よろめいたキメラモンを見たカケモンはサテライトEをブーメランモードにするとキメラモンに投げつけ全身を攻撃。怯んだ隙を見て今度はブースターモードへ変えたサテライトEを装着してキメラモンに体当たりをし、自分ごと上空へと昇っていく。
「どっかーーーーーーーーーーん!!!」
「ぐうウuうウウuuuう!?」
強烈な負荷によってキメラモンは呻き声を上げる。だが途中で負荷が無くなると同時に目の前のカケモンもいなくなっていた事に気付く。周りを見渡すキメラモン…既に雲の上にいるこの状況で逃げられる、もしくは隠れる場所があるとしたら二つ。一つは雲の下、もう一つは…
「スターダストスレイヤー!!!」
自分の更に上。紅いオーラを纏ったカケモンがやってくる。撃墜しようとするが、偶然か必然か、カケモンの背後にあった太陽に目を奪われ一瞬動きが止まってしまう。…それが命取りだった。カケモンのスターダストスレイヤーはキメラモンに当たり、狂気の合成獣は爆発四散する。その際、核となったプロトデジヴァイスが粉々になった感触をカケモンはその身をもって知った。カケモンはそのまま力を抜いたが、勢いは止まる事を知らない。静止できないカケモンは絶叫しながらもタツヤ達のいる森の地面に頭から突っ込んで行った。
キメラモン撃破から一時間ほど経過した。地面に突っ込んだカケモンはワレモンが元に戻しテンプレの如く暴行を加えられていた。キメラモンの燃やした木々はなんとか鎮火が完了し、現在休息を取っている。その中でハックモンが戦闘の途中で気になっていた事を話していた。
キメラモンから、もっと言えば起動したプロトデジヴァイスからバルバモンの力を薄っすらと感じたと言うのだ。それを聞いたタツヤとミキは顔を見合わせる。そして研究所での話をし、仮説を立てた。研究所に残っていた暗黒の力、バルバモンの力の残留のようなものがあり、それがプロトデジヴァイスに入り込みキメラモンを作り出したと言う仮説だ。まさかここでもバルバモンの影響があったとはとハックモンは頭を押さえていた事にタツヤ達は苦笑いを隠せないでいた。
更に十数分後、崩れた研究所近くでタツヤとミキはあるものを作っていた。それは墓…才羽博士の墓だ。遺体は既に無く、気休め程度でしか無いが無いよりマシだろうとタツヤが提案したのだ。簡易的なものだが手を土だらけにしたタツヤとミキは互いを見て満足げに頷く。
「…才羽博士、今のミキを見てくれてるかな」
「わからない。けど、私は博士の願いと意思を…夢を継ぐと決めたから。だから見ていて欲しい気持ちはある」
ミキは研究所にあった資料とパソコン、日記を持って行くことにしたらしい。才羽博士の夢が何かはまだわからない、日記を読む事でその内容がわかるかもしれない。それに加えてパソコンや資料を見ればより詳しいものも知ることが出来るだろう。デジヴァイスについて書かれていたらタツヤとカケモンをサポートする事も出来るかもしれない。そういう意味を込めて、ミキは博士の意思を継ぐ事にしたらしい。
ふと、ミキはタツヤの顔を見る。同時に胸が苦しくなる。まただ、この苦しみは一体なんだ。こういう事でしか、誰かに手を伸ばし続け、助け続ける事でしか人間らしい表情をする事ができない彼に同情しているのか?
違う。断じて違う。人間として破綻している彼だが、そんな事では無いと言える。悲しみはたしかにあるが、それでは無い。胸の鼓動が早くうっすらと顔の体温が上がる。いつも無表情な彼女の変化に気付く者はほとんどいないだろう。だからこそ彼女がこの胸の苦しみを、感情の正体を知るのはもう少し先の話。少なくとも今は、
才羽 ミキはその感情の名を知らない。
遠くからハックモンの声が聞こえる。どうやら出発するようだ。声を聞いた二人は振り返り、すぐに行くとタツヤは声を上げる。そしてすぐさま土埃を落とすとミキに向かって笑いかける。
「さ、戻ろう。みんなの所へ」
「…うん」
タツヤとミキは待っているハックモン達の元へと戻っていく。だがミキは一瞬振り返る。そこにはいない、振り返る事にもこれから言う言葉にも意味がないのかもしれない。だけど、どうしてもこれだけは言いたかった。
「行ってきます、––––––––お父さん」
風が吹いた。彼女の紫の髪が揺れる。まるで彼女の言葉に答えるように…。
ミキは再び前を向くと、タツヤの跡を追う。
才羽 ミキは、前へと進んでいった。
「そういえばミキはあの時なんで泣いてたの〜?タツヤも背中に手を回してたよね?」
「な、泣いてた!?才羽さん本当です…あ、たしかに目がちょっと赤いです!それにせ、背中に手を…手を!?」
「お、なんだ!?おまえなんかやったのか!?痴情のもつれか!?いいぜ相談に乗ってやる!何せ俺は恋愛のエキスパー、いででで!!」
「いや、違うから!?何もやってないから!?」
「タツヤ、ミキを泣かせたらダメだよ!」
「カケモンまで…!?ミキも何か言って!」
「……優しかった(背中をさすってくれて)」
「それ一番誤解されやすいやつ!!」
「あ、あううう…」
「タツヤー、沢渡目ぇ回したぞ。あと手を頭から話してくださいお願いします」
「アサヒー!?」
「うるせぇ!喧しいぞテメェら!!」
「…どう収拾つけるんだ」
「ボクわかんな〜い」
騒がしいながらも彼らは次の目的地に向かって歩き出す。それは彼ららしくもある旅の一コマ。戦い終わりの日常とも言えるワンシーン。
デジタルワールド滞在七日目の出来事である。