デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

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二十二話 《最古の伝説》

川の流れが夜の雰囲気を醸し出している。静けさの中で水が流れる音が心地よさを奏でていた。だがそんな夜は終わりを告げる。空間が歪み一体のデジモンが現れた。老人の姿をした魔王型のデジモン…バルバモンである。バルバモンは川へと進み近くにあったある物を拾い上げる。それは葉を何重にも重ねて作ったような繭のようなもの。彼はそれを乱雑に破くと中からとあるものを取り出した。

 

「あの、クソガキ共が…!!」

 

同時に悪態をつく。今バルバモンの手の中にあるものは小型の発信機。以前、才羽 ユキオの研究所へ行った時に隙をついてデジヴァイスに入れていたものだ。だが今はここにある。と言うことはこれの存在がバレたのだろう。

才羽研究所を後にしたミキは試したいことと称してタツヤの持つデジヴァイスの一部を分解したのだ。その時見つけたのがこの発信機。今まで的確にタツヤ達の場所を把握できた理由があるはずと睨んだミキの予想が的中していたのだ。そして葉を包んだのはハックモンだった。近くにあった川へと投げ込み、自分たちの居場所を誤認させる事を発案した。

 

「……まぁ良い。いずれ会う時は来よう」

 

発信機を握り潰し、冷静になった頭でそう思考するバルバモン。何も感情的になる必要はない。全ては計画の内、多少の誤差は修正すればいいだろう。

バルバモンは再び空間を歪ませ、その中へと入る。行き先は自分の城とも言えるダークエリアだ。

 

「“A”とモスドラモンを待つとするかの。いつまでも遊んでいて、困ったもんじゃわい」

 

カカカ、とバルバモンの笑い声がこだました。空間の歪みが閉じるその時まで不気味に続く笑い声。暗闇の中、魔王の一体は姿を消した。

 

 

デジモンワールド滞在八日目、森の整備された一本道を通っているタツヤ達、主にハックモンとギルモン以外は浮き足立っていた。これから目的地である古都へと着く。今まで村や集落などしか訪れなかったタツヤ達は初めての異世界の都市、文化に好奇心が抑えられないのだろう。それはカケモンとワレモンも一緒のようだった。

そして歩き続けて数分、森の影が減っていき木漏れ日が溢れ出す。

森を抜けた先には、

 

「見えたぞ。あそこだ」

「いつ見てもおっきぃね〜」

 

目の前には平野があり、歩いて五分ほどにある場所には高い塀と巨大な門、そして左右には門番である二体のケンタルモンが立っている。だがそれ以上に目を引いたのはさらに奥にある…おそらく都市の中心にあるであろう、とても高い塔。現実世界にあるどの塔よりも大きいのではと思ってしまうそれの迫力に、タツヤ達は感嘆の息を漏らす。

 

「近くで見るとすごいね。昔の外国にある街みたいだ」

「素敵です…!中はどんな風になっているんでしょうね!」

「これあれだな。壺とか割るとどっかでアイテムあるやつだよな!」

「器物損害。そんな事をすれば逮捕される」

「ワレモン、ワレモン!美味しそうなものあるかな?」

「さぁな。オレはこう言った街とかには今まで来なかったからしらねぇよ」

 

次々と出てくる感想は全て古都へと向けられている。現在見える古都の外見はレンガで積まれた広い壁、まるでバベルの塔のような見掛けの塔などとRPGに出てきそうなものだ。古代のローマなどが該当しそうな古都に旅行に来たような気分となったタツヤ達は自然と高揚している。

タツヤ達は少々早足気味で古都の門へと進む。早く入り街並みを見てみたいと言った所だろう。だがそんな中、壁の上から何者かが飛び越えてきた。そのデジモン…黄色い毛をした猿のようなデジモンは同じく城壁から出てきた数体のエンジェモンに追いかけられているようだ。

 

「キキィィイイイイ!!そこを退けぇ!」

「「…っ!」」

 

追いかけられている途中、タツヤ達の前へとやってくる。必死な形相でこちらに走るそのデジモン、ハヌモンの前にハックモンとギルモンが警戒態勢で前に立つ。

…だが、その前にハヌモンの背後から業火がやってきた。まるでそれは炎を纏った巨大な拳。

 

「バーニングッ、サラマンダーッッ!!」

「ぎぎゃあああああああ!?」

 

背中に業火を受けたハヌモンは悲鳴を上げながら倒れる。気絶しているようだ…追ってきたエンジェモン達はハヌモンを縄で縛り付けるとハヌモンを連行し門へと飛んで行った。

それを眺めていたタツヤ達の前に人影が現れる。見上げるとそこには先ほどの業火を放ったと思われるデジモンが立っていた。金色の髪に仮面、全身を覆う赤い鎧と腰に“火”と言う字に似た紋章が刻まれているバックルをしているデジモンだ。

 

「危ない所だったな、君達怪我はないか?」

「あ、はい。ありがとうございます…」

「それは良かった。…ん?もしや君、いや貴方は…」

 

そのデジモンはタツヤ達の安否を確認すると、近くにいたハックモンに目を向ける。等のハックモンもそのデジモンに見覚えがあるのか目を丸くしていた。

 

 

「…なるほど、事情はわかった。それならオレも協力しよう」

「ありがたい。協力感謝する、アグニモン」

 

古都の門の前、そのデジモン…アグニモンはハックモンと話していた。なんでも彼はハックモンの師匠の弟子、つまりはハックモンの弟弟子らしい。かなり前に会ったきり音沙汰も無かったため、久しぶりの再会のようだ。

彼はこの古都を纏め上げるデジモンの内の一体のようで、主に警備等を担当しているらしい。そんな彼にハックモンは今置かれている状況を説明し、現在の旅の目的を話し終えたところだ。

そうしていると、アグニモンの口から驚きの言葉が出てきた。それはハックモンの探し求めている情報だ。

 

「そうだ。一月ほど前に師匠がここへと訪ねてきたぞ」

「何っ、師匠がか!?本当か!?」

「ああ。なんでも貴方を探しながらデジタルワールド中を巡っているらしい。今起きている状況をもう一度洗い直しているようだったぞ」

「そうか…」

 

それは安堵と悔しさが入り混じっているため息にも似た一言だった。自分の師の安否の確認とそれに間に合わなかったと言う二つの感情が混ざっている。だがそれと同時に師匠らしいと言う考えに至った。彼の師は行動派だ、一つの場所に留まる事はほとんどない。

するとアグニモンは追加の情報を思い出したかのように伝えた。

 

「ああ、それともう一つ。つい先日にあの姉妹もここへ来たぞ。と言っても直ぐに海を渡ってしまったが」

「あの二人が?…ちょっと待て、師匠と一緒じゃなかったのか?」

「そのようだ。むしろ師匠を探しに来たみたいだったぞ。それに貴方の行方も聞かれた」

「……なんて事だ。間が悪い」

 

ハックモンは思わず頭に手を当てため息をついた。前々から苦労人気質なのを感じていたのだが、これは同情せずにはいられないだろう。後数日早ければ、何かが変わったのかもしれない。

そんなハックモンを見かねてアグニモンは彼の肩に手を置く。

 

「気を落とすな、ハックモン。ホエーモン港の次の出航は二日後、ここで十分に休むといい。勿論、君達もだ。それと宿はオレが手配しよう」

「そこまで気を使わなくとも…」

「いや、ハックモンの旅の仲間ならオレの身内も同然だ。それに古都に来た者をもてなすのも伝説の十闘士の後継者の仕事だからな」

 

胸をドンと叩き誇らしげにそう言うアグニモン。宿の手配をしてくれるとは気前がいいな、とワレモンが茶化し気味に発言するも苦笑いで返される。とりあえずタツヤ達は古都に入る許可が降り、同時に宿も手に入った。

 

 

街に入り数分歩いた場所、そこにあったデジモンの文字、デジ文字で神聖なる宿・ピッコロと書かれた宿へとタツヤ達は入っていた。その宿は木造であったが、その質は中々のものだ。そこに泊まっている客も品があり、結構高めの宿のように感じられる。アグニモンが気をきかせてくれたのだろう。

宿主であるピッコロモンから大部屋と二人部屋の鍵を受け取り大部屋へと入っていた。大部屋にはタツヤ達男子が、二人部屋にはミキとアサヒが使う予定だ。そんな中、カケモンは宿に来る前に聞いていた会話の中で気になった事をハックモンに尋ねる。

 

「ねぇねぇ、ハックモン。伝説の十闘士って何?」

「ん?ああ、そうだな。ちょうどいい機会だから話をしようか」

 

カケモンの疑問に答えるようにハックモンは口を開く。周りにいたタツヤ達も興味があるのかベットや椅子に座りだした。そして語り出した、それは彼らにとっても無関係ではない話。

 

「今から話すのはこの世界、デジタルワールドの最古の歴史…十闘士伝説だ」

 

 

 

 

昔々、まだデジタルワールドができたばかりの頃…世界は争いで満ちていた。人型に近い見た目をしたヒューマンタイプのデジモンと獣の姿をしたビーストタイプのデジモンが派遣を争っていたのだ。終わらない戦い、永遠に続くと思われていた古代のデジタルワールド…そこにある天使型のデジモンが現れる。

その名はルーチェモン。

彼はデジタルワールドに降臨するとその力を使い、争っていたデジモン達を鎮めた。その後、ルーチェモンはデジモン達を統治し古代デジタルワールドにしばらくの平和が訪れる事となる。

 

…だが平和は続かなかった。古代デジタルワールドを統治し数年経ったある時、ルーチェモンは豹変したのだ。彼は堕天し、光と闇を操る力を手にし強力なデジモンに進化。そして古代デジタルワールドをその強大な力を使って独裁的に支配し始めた。

 

だがそれを見かけた神の如き力を持ったデジモンが正しい心を持つ十体のデジモンを選び、それぞれに自らの持つ十の属性の力を与えた。そしてその十体のデジモン達を究極体を超えた存在へと進化させたのだ。

 

エンシェントグレイモン

エンシェントガルルモン

エンシェントメガテリウモン

エンシェントイリスモン

エンシェントビートモン

エンシェントボルケーモン

エンシェントトロイアモン

エンシェントマーメイモン

エンシェントワイズモン

エンシェントスフィンクモン

 

この十体は人型、獣型の枠を超え協力し合いルーチェモンを倒し、古代デジタルワールドを救った。そしてこの十体のデジモンは後に古都を作り上げ、天災となったルーチェモンを倒したことにより“十闘士”と呼ばれるようになった。

それから長い年月が経ち十闘士は自らの寿命を悟ると、自身の力と意思を宿したアイテム、“スピリット”を作り出し、新たに十闘士の後継者にふさわしいと思ったデジモンにそれを渡し新たなる十闘士に進化させた。またルーチェモンのようなデジモンが現れるかもしれない、その時に自分たちの力がまた必要になるだろうと思ったからだ。

 

こうしてスピリットは受け継がれていき、十闘士もまた受け継がれてきた。この伝説こそこのデジタルワールドの最古の伝説、十闘士伝説だ。

 

 

 

「…この伝説はデジタルワールド中で知れ渡っている伝説でな。アグニモンは十闘士の一体、エンシェントグレイモンの後継者。炎のアグニモンだ」

「「「へー」」」

 

ハックモンの話を聞いてタツヤ達人間とカケモン、旅をしていたのであまりそういう話を聞いていなかったワレモンは感心していた。世界を救ったデジモン達の後継者、だからあんなにも彼は誇らしげにしていたのだろう。

 

「そしてこのルーチェモンこそ、七大魔王の最初の一体だと言われている」

「え、七大魔王って最初から七人いたわけじゃないんですか?」

「ああ。ルーチェモンが倒された後、デジタルワールドに何度か強力な暗黒の力を持つデジモンが現れてな。そのデジモン達は全て魔王型であった事もあり七大魔王と呼ばれるようになったのだ」

「それに七大魔王は倒したとしても周期的に別個体が現れる事があるからね。複数体の魔王が同時にいる事も珍しくないんだよ〜」

 

ハックモンの説明に合わせるように発言するギルモン。そして直後に、ってハックモンが教えてくれたんだ〜、とお決まりのように付け加える。ハックモンも一々反応するのが面倒になったのかもはや何も言わない。

 

「…まぁ、この伝説から七大魔王と十闘士、もとい平和を願うデジモン達の戦いが始まった」

「へぇー、すごいんだねっ」

「ああ。そして古代には今はもう絶滅してしまった強大な力を持つデジモンも何体かいたらしい。オレが知っているのは、ロイヤルナイツの始祖とも言われているイン…」

「なぁー、もう話はいいからよ!街に出ようぜ!なんか面白そうなのスッゲーありそうだぜ!」

 

ハックモンを遮り城太郎はタツヤ達にそう言う。もう話に飽きたのか、それとも興味が外に向けられたのか、それとも両方か。タツヤは城太郎に呆れの視線を向けたが理解できなくも無い。好奇心旺盛な城太郎でなくても、街は気になってしまうだろう。

そうなると善は急げだ。古都に来るのが初めてなタツヤ達は荷物を置いて宿から出る。しかし街の方へと足を運ぶ前にハックモンが待ったをかけた。

 

「待てお前達。オレは少しギルモンと話す事があってな。別行動をしたいのだがいいか?」

「ギルモンと?わかったよ、いつ合流する?」

「そうだな…昼頃に、向こうにある噴水で待ち合わせをしよう。合流した後は昼食を適当な場所で取るか」

 

ハックモンの提案に頷くタツヤ。そしてハックモンはギルモンと目を合わせると街の方へと歩いていく。また後でねー、とギルモンが手を振り、それに振り返すカケモンを横目にタツヤは残った面子を見る。

 

「じゃあ僕達も行こっか」

「おいタツヤ。行くのはいいけどよ、ちっとばかし人数多くねぇか?」

「え、そうかな?」

「あたりめぇだろ。それにお前ら人間だしよ。嫌でも目立っちまうぜ」

「そうなの…?」

「そうなんだよ」

 

ワレモンの発言に首を傾げるミキ。だが少し納得する。たしかにここはデジタルワールド、デジモン達のいる世界だ。そこに人間が、しかも都市にいるとなるとかなり目立つだろう。

現に今も遠目からいくつもの視線を感じる。せめて人数を半分にしないと居心地が悪いだろう。それに街は広い事もあり、一纏りで行動するより多くのものを見られる筈だ。

じゃあ、とワレモンの提案に乗ろうとしたタツヤの前に城太郎がやけに高いテンションのままあるものを出した。

それは割り箸だった。割り箸を六本、右手で握るこのスタイル…どこかで見かけたと思ったら、これはクジだ。

 

「だったらこれの出番だな!こう言う時の為に作っといたぜ☆」

「いつの間に…」

「面白そうだね!ボクも引きたい!」

「そ、そうですね!」

「……………うん」

 

純粋に楽しむ様子を見せるカケモン。そしてそれとは別になぜかアサヒとミキは変に力が入っていた。まぁ、アサヒに関しては大体わかるとして、ミキに関しては今までの無表情から若干の変化が見受けられる程度だが。

アサヒはタツヤと同じ組になる事を望み、ミキはカケモンと一緒に周りたいと思いながらも、何故かタツヤの方に視線が行っていた。

タツヤ達は割り箸に手を伸ばし掴む。やり直しが効かない一度きりの勝負(一部での認識)だ。

 

「「「せーのっ!」」」

 

 

「それで、貴方はどう思った」

 

多数のデジモンの間をすり抜けながら、ハックモンとギルモンは街を歩いていた。互いに目は合わせない、だが彼らの会話は成立している。声はさほど大きくないが、その声は他のデジモンには聞こえず、逆に彼らの間で成立していた。

問いかけられたギルモンはとぼけたように首を傾げながらも片目を瞑る。視線は前に、決してハックモンの方に向けない。そんな彼の雰囲気は度々見せる異様なもの。まるで晩年の戦士のような気配はタツヤ達の知る彼とはまた違っていた。

 

「どう…とは一体何に対して言っている?」

「彼に対してだ。貴方も気付いているのだろう?彼の、カケモンの異常性を」

「ふむ…面白いデジモンではあるな。我々のまだ知らぬ新種のデジモンやもしれぬ。いやはや、長く生きてみるものだ」

「…オレは真剣なのだが?」

 

そう言うハックモンの目は細く、少しの苛つきを含んだものへと変わっていた。そうだ、わざわざギルモンと話す為にタツヤ達と別行動をとったのだ。だがとうのギルモンはこの様子。基本的に真面目なハックモンとしては素直に質問に答えて欲しい様子。

それを見て軽く笑うとギルモンは謝罪を込めて口を開く。

 

「ふふふ、冗談だ。半分だけだがな」

「もう半分はなんなのだ…」

「それは気にする事では無かろう。さて、カケモンについてだが…其方と同意見だ。この目で見たカケモンはデジモンとして純粋であり、同時にデジモンとして異常でもある」

 

答えたギルモンにふざけた様子は見られない。やっとか、と心の中でため息を吐くハックモンは再び前を見る。

カケモンは二人から見て異常だった。進化とも違う変化…アップグレートもそうだが、彼の知識や今までの言動についてもだ。

第一にカケモンはデジモンならば常識である事をほとんど知らない。デジタマの事や進化の世代、そしてロイヤルナイツや七大魔王の事など。それ以外の知識に関してはまだわからないが、それは成長期までなら殆どは知っている筈の事だ。同世代であるはずのワレモンが知っていてカケモンがなぜか知らない、それが気になってしょうがない。

 

「…貴方に言い忘れていたが、カケモンはエグザモンと意思疎通が、会話が成立していた」

「っ、なんと。それは…」

 

第二に、竜の谷でのエグザモンとの会話。本来ならばエグザモンと会話、意思疎通ができるのは完全体以上の竜型のデジモンか、同胞であるロイヤルナイツ、もしくはそれに相当する実力を持ったデジモンのみ。だがカケモンはそのどれも当てはまっていない。いや、爬虫類系の見た目をしているから竜系と言う項目は当てはまりそうだが、それでも完全体ではない。

なのにカケモンは寸分違わずエグザモンの言葉を、意思を理解した。それが有り得ないのだ。有りえる筈のない事、しかしそれは目の前で実際に起こった事。

 

「ますます分からん。彼は一体何者か、いやだが…」

「違和感を感じる、か?」

「…其方も感じたか?」

「ああ」

 

そして第三に、カケモンの違和感だ。その見た目は爬虫類系の成長期、成熟期のデジモンに通じるものがある。しかし、これはあくまでもハックモンとギルモンが感じた事、いや、おそらく今までカケモンに会ってきたロイヤルナイツが全員感じた事があったのだ。

 

何処かで、見たことがある。

 

そう思えるのは彼らだけかもしれない微々たるものだが、気になってしょうがないのだ。そう、どこか棘のようなものが刺さったかのような…。

 

「…その事に関しては今はなんとも言えぬだろう。これからの旅の中でわかればいい話だ」

「ああ。…バルバモンとその一味、正体不明の敵。そして」

「“A”と名乗る人間とモスドラモンと言うデジモンか」

 

今一番に考えなければいけないのは敵であるバルバモン達、そして自分達ロイヤルナイツを壊滅状態に追い込んだ謎の敵。バルバモンの目的はデジタルワールドを手に入れる事であると予想は立てられるが、後者は違う。姿形、技や大きさ、世代さえもわからないあの敵。なんの目的があるのか、何者なのか、バルバモンとの繋がりはあるのか。そして何より、離脱を確認できなかった他の同胞の詳細も知らなければならない。

 

それに加え、“A”とモスドラモンだ。この二人はバルバモンの言動から察するにバルバモン側に立つ者だろう。”A“に関しては偽名を使っていると言う情報しか分からないが、モスドラモンは別だ。デジヴァイスを使ってアップグレートするハックモン達の知らない種類のデジモン…カケモンと共通点が二点ほどある。

これからの旅で間違いなく戦闘になるだろう。その中で何か情報を集めなければならない、そう思うハックモンの顔は険しい。

 

「何かが、何かがデジタルワールドで起ころうとしている…。なんとしても止めなければならない」

「ハックモン、肩の力を緩めるといい。其方に悪い所があるとすれば、その硬くなりがちな頭だ。力を入れるなとは言わぬが、今は休むがいい。アグニモンにも休めと言われただろう」

「だが、…いや、そうだな。師匠にも以前そう言われたことがあったな」

「そうであろう。…あ、美味しそうなお肉だ〜。二つちょーだ〜い」

「あいよぉ!」

 

ギルモンはタツヤ達にいつも見せてる様子に戻ると、近くにあったバードラモンの肉屋へと行く。やれやれ、と力の抜けた笑みを浮かべるハックモン。

だが、彼はふとある一つの失敗に気が付いた。そう、根本的な失敗、ここ…古都の街において致命的な失敗。

 

「ハックモン、どうしたの〜?」

 

肉を二つその手に持って来たギルモン。二つで240BIT。お手軽サイズのその肉は成長期のデジモンでも買えるお手軽なものだ。

そう、BITを払えば買えるのだ。

BITと言う通過があれば買えるのだ。

BITを持っていれば買えるのだ。

BITを払えれば、買えるのだ。

払える事が出来れば、買える。

 

 

「アイツらに…BIT渡し損ねた」

「…………あぁ」

 

 

 

アサヒは街の様子を見つつも、心の何処かで残念な気持ちが確かにある事を感じていた。現在彼女はワレモンとミキと共に街の周りを歩いている。周りには絶えず商人や店の従業員らしきデジモン達の声が鳴り響いていた。アサヒはそれはそれで興味深いと感じつつも、やはり気落ちはしている。

理由は簡単、タツヤと別の組になったからだろう。要するにクジ運が無かったと言うわけだ。それはミキも同じようで、いつもの彼女の無表情からさらに一段階下の雰囲気を醸し出している。それとは裏腹にワレモンは目に見えてはいないが結構はしゃいでいた。こう言った街に来た事がない彼にとって珍しいものばかりなのだろう。

 

「うっおー…!ヤベェ、熱気がヤベェぜ…!」

「ワレちゃん楽しそうですね」

「うん。……………沢渡 アサヒ」

「何ですか?」

「タツヤと一緒じゃなくて、残念?」

「はぇっ!?そ、そそそ、それはあの…!」

「私は、多分残念に思ってる」

「そ、それ、どう言う」

「そこのお姉さん方、ちょっと寄っていかないかい?」

 

ミキの意味深な発言に動揺するアサヒ。聞き返そうとしたが、その前に誰かに話しかけられる。アサヒとミキ、そして先行していたワレモンは声があった方を見ると、そこには大きな傘の下で、水晶をテーブルの上において椅子に座るデジモンがいた。

 

「あの、私達、ですか?」

「そうそう、君達の事だよ。ああ、ボクはウィザーモン。趣味で占いをやってる者だよ」

 

そう言うデジモン…ウィザーモンは笑う。ボロボロの尖った帽子から覗くその顔はどこか胡散臭いが、悪いデジモンでは無さそうだと三人は感じる。アサヒ達は占い、と言うジャンルに興味を持ったのか、ウィザーモンのいるテーブルに近づく。その際ワレモンが確認したのだが、デジ文字で無料、と書かれた立て掛けも目にした。

 

「ご覧の通り趣味で占いをやっててね。お代は結構だから占わせてくれないかな?」

「そう言う事なら…」

「んで、お前何占うんだよ?今日の運勢とかか?」

「そうだね、その時によるかな。と言っても基本的に二択なんだよ。右を選ぶか左を選ぶか、やるかやらないか、とかね。それは今日の出来事だったり、明日の運勢だったり……あと恋愛の事とかだったり」

「お願いします!占ってください!」

「おいマジか!?」

 

恋愛と言う単語が出た瞬間に手を差し出したアサヒ。思わず驚くワレモンだが、彼の背後ではミキが少し興味ありげな顔をしていた事に気付いていない。ウィザーモンは喜んで、と一言言うと、水晶を手に持ってアサヒ、ミキ、ワレモン、そして三人を全体的に水晶越しに見ると一息つく。

 

「ふぅ、なるほどね」

「え、もう終わったんですか?」

「まぁね。そうだね、まず君だけど…近いうちに気になる人と距離が近くなるよ」

「本当ですか!?」

「本当さ。君の選択肢は勇気を持って一歩踏み出すか、しないかだね。ああ、この解釈はどう捉えても構わないよ」

 

ウィザーモンの言葉に頬をほんのりと赤くするアサヒ。それを横目にウィザーモンは次にミキを見る。

 

「君は…今日中に新たな自分を見つける事になるね」

「新たな、自分…?」

「そう。選択肢はやるかやらないか、それだけさ。そして…」

 

ウィザーモンはちらりとワレモンを見るが、すぐさま視線をそらす。その事に首を傾げるワレモンだが彼に構わずウィザーモンは告げる。

 

「君達三人はこの後ちょっとしたトラブルに巻き込まれるね。選択肢は待つか、待たないか。こんなもんだね」

「待つか…」

「待たないか?」

「おいテメェ、オレ個人の占いってのはねぇのか?それとも占えなかったか?あぁ?」

 

喧嘩腰にワレモンはウィザーモンを睨みつける。どうやら彼の態度が気に食わなかったのだろう。アサヒは止めようとするが、その前にウィザーモンはワレモンを見つめる。

 

「そう、だね。君に関しては…」

「オレに関しては?」

「………一を取るか、全をとるか。いや違うな進むか、留まるか。これも違う……君の選択肢は…」

 

 

「––––大切なものを失うか…自分の全てを失うか、だね」

 

「そこのお嬢さーん!最近手に入れたこのアクセサリーはいかがかな?現実世界じゃ流行ってるよー?旦那に似合ってると思うし、付けてみる?…おっ!チョーイイネ!サイコー!」

「よってらっしゃいみてらっしゃい!この洗剤はヌメモンの滑りもあっという間に落とすウチの新商品だよー!今なら二個まとめて500BITだ!早いもん勝ちだぞー!」

「薬はいらんかねー。毒に麻痺、火傷と言った状態異常によく聞く薬が売ってあるよー。子供にも優しいカプセル型が人気だよー」

「セントラルシティに本店を構えるダイコンデパートがついに古都にも支店を出すよー!開店してから一月の間はなーんと商品全部30%引き!こりゃ並ぶっきゃ無い!」

「古今東西の肉を食いたいならウチがオススメだ!今朝入荷した新鮮な霜降り肉もあるぜ!酒の飲み放題も付いてるし、夜は焼肉っしょー!」


周りから様々な声が聞こえる。まるで商店街みたいだ、とタツヤは周りを見渡しながら歩いていた。前を進むのはカケモンと城太郎。二人とも完全に田舎から都会に来たお上りさん状態と化している。まぁ、気持ちはわかるけど、とタツヤは目を逸らす。

逸らした先には肉屋があった。骨つき肉がドッサリと置かれてある店の前ではベーダモンが声を張り上げている。ふと、その横に目を向けると、そこには写真立てに入った一枚の写真があった。

写っていたのはパルモンと呼ばれるデジモンが持つ骨つき肉と……その背後にある地面から突き出ている骨つき肉だった。

 

「……新鮮な肉ってそう言う事!?」

「うわっ!?た、タツヤ、どうしたの…?」

「あ、いや、前に思った疑問がようやく解けただけだよ…。……あれ、城太郎は?」

「…あれぇ?」

 

竜の谷で疑問に思っていた事が解消されたタツヤ。だがそれと同時に城太郎がどこにもいない事に気付く。近くにいたカケモンも首を傾げていた。まさかはぐれたんじゃ…タツヤがそう思い焦るが、その前に少し離れた場所から彼を呼ぶ聞き慣れた声が響く。

 

「おっ、タツヤ!ここにいたのか!いやぁ、探してぜ。やっぱ俺は迷子を探すエキスパートォオオオオオオ!?」

「どっちが、迷子だ…!」

 

近付いてきた城太郎におそらく過去最高の力で彼の頭を掴み力を入れる。大半が城太郎にイラついたというのもあるが、そこにほんの少しの心配したんだぞ、と言う感情があるはずだ、多分。カケモンはもう既に慣れたのかジョータローいつも通りだねっ、と普通にしていた。慣れとは恐ろしい。

だがそんな城太郎の背後に黒い影が現れる。それは全身に眼球を取り付けたような黒い鎧を身に纏ったデジモンだ。そのデジモンは自分達より高い視線からこちらを見下ろしている。

 

「………」

「あ、えっと…何か様、ですか?」

「ああ、そいつさっき会ったんだよ。お前ら探すの手伝ってくれたいい奴だぜだからいい加減離してくれマジ痛い」

「そうなんだ。ありがとう、ウチの馬鹿をここに連れてきてくれて」

「いや…大した事じゃない。次は気をつけろ」

 

そう言うとそのデジモンは振り向き何処かへと去っていく。そして去って行った後に気付いた。先程のデジモンが来た瞬間、周りのデジモン達の声が消えたのだ。何故、と思うタツヤについさっき見ていた肉屋のベーダモンが慌てた様子でタツヤ達に話しかける。


「お、おいあんたら!何ともないか?何もされてないか!?」

「な、無いけど…どうしたの?」

「い、いや…なんでもない。何でも…」

 

そう言ってベーダモンは自分の店へと帰っていく。一体なんだったのか、タツヤは今まで握ったままだった城太郎の頭を離す。異様な雰囲気…一気に様子が変わったデジモン達にも疑問は尽きないが、今のデジモンは一体なんだったのだろう。

タツヤはそう思いつつも、ハッ、とデジヴァイスを取り出し時間を確認する。既に正午を過ぎていた。明確には言っていないが昼頃に集まろうとハックモンが言っていた事を思い出すタツヤはカケモンと城太郎に声をかける。今のやりとりで時間を取ってしまった事もあり、急ぎ目にタツヤ達は噴水のある場所へと走って行った。

 

 

噴水のある場所へと着くと、そこにハックモンとギルモンが近くにいることが確認できた。少し待たせてしまっただろうか、そう思いながらもタツヤは二人に謝罪した。

 

「ごめん二人とも、待った?」

「全然待って無いよ〜。さっきぶり〜」

「ああ。対して時間は経っていない。それより…ワレモン達は一緒じゃ無いのか?」

 

ハックモンのその言葉に目を丸くする。そして周りを見渡すタツヤ。噴水の周りにはアサヒもミキも、ワレモンさえもいない。まさか遅れてくるのか、と思ったがワレモンはともかくアサヒとミキが時間を守らないとは考えられない。

道に迷ったんじゃ無いのか、手分けして探した方がいいんじゃ無いのか。そう思ったタツヤ達だったが、そんな彼らの耳にガヤガヤとデジモン達が一箇所に集まっている音が耳に入ってくる。タツヤ達はそれが気になったのか、そのデジモン達が集まっている場所へと近づく。だがデジモン達が密集し過ぎて中学生男子であるタツヤと城太郎、成長期であるカケモン達は奥がどうなっているか全く見えない。仕方なくタツヤ達はデジモン達の間を掻き分けて前へと進む。途中で何度か硬い何かにぶつかったが、めげずに前へと進む。

そしてタツヤの進んだ先にあったのは…

 

 

「い、いらっひゃっ!いらっしゃいませ!た、ただ今ランチタイム実施中れす!」

 

 

そこに居たのはプラカードを持つメイドさんだった。白いカチューシャ、白と黒のシンプルな色合いの服装、見えそうで見えない絶妙な長さのミニスカート、白いハイソックスがスカートをなおの事引き立たせる。いや、そうじゃない、メイドはメイドでもその服を着ている人物が問題だった。

普段は前髪で隠れている前髪を花の装飾が付いた髪留めで片目だけ露出しているが、目の前にいるのは紛れもなくアサヒだ。

 

「さ、沢渡…さん?」

「ひゃい!何名様で………な、なななななななな、浪川君!?」

 

タツヤの存在に気付いたアサヒは物凄く慌てながらも自らの格好をプラカードで必死に隠そうとする。悲しい努力だ…絶対隠しきれていないだろう。

 

「おぉぉぉぉーー!!メイド服じゃねぇかーー!!」

「わぁ…!アサヒかわいいねっ!」

「…何がどうなっているかわからないが、とりあえず似合っているな」

「だね〜」

 

次々とデジモン達の波から出てくるカケモン達。口々にそう言われてアサヒは熟れたトマトのように顔を赤くする。なんかこのままだとアサヒが可愛そうになると感じたのか、タツヤはアサヒの元へ近付くと、彼女の肩を掴む。その行為に肩を大きく震わせたアサヒ、目の前には真剣なタツヤの顔があった。

 

「沢渡さん…」

「にゃ、にゃみかわくん…」

「(他のデジモンの邪魔になるし)誰も居ない場所に行こう。今の沢渡さん(の状況)を知りたいんだ」

「……………はうっ」

「沢渡ーーーーーーーー!?」

「「「アサヒぃぃぃ!?」」」

「沢渡さん!?」

 

限界が来たのかアサヒは頭から蒸気を吹き出してその場で気を失った。完全にタツヤの一言がトドメだったが今は何も言わない方がいいだろう。虚しくも、タツヤ達の叫びはその場に響き渡った。

 

 

遡る事30分前、まだハックモンとギルモンが噴水近くに着く前にワレモン達はその場に来ていた。というのも、ウィザーモンの占いの内容を聞いたワレモンがその内容を理解できずに逆ギレ。早足で集合場所に着いた事が原因だった。

アサヒとミキはワレモンを宥めようとするがそれでも彼の怒りは収まらない。そしてワレモンは怒りのまま近くの飲食店へと突入。入るなり注文し、いつもの三倍のペースと量で料理を食べ始めたのだ。遅れて店へと入ったアサヒとミキはそのまま流れで食事を取る。他のメンバーが来る前に食べていいのかと思いながらも二人は昼食を取った。

そう、タツヤ達を”待たずに”。

 

「……………」

「店長がー、働かザル者食うべからずだってー」

「…ダジャレ、ですか?」


目の前で無表情の猿のようなデジモン、マクラモンがじっとこちらを見てくる。その足元にいるテリアモンは彼の言いたい事を翻訳したのか、絶賛現実逃避中のアサヒにそう言う。

食事の後、アサヒ達は会計をしようとした。しようとしたのだ。だがここは異世界、デジタルワールド。日本円が使えるはずもなかったのだ。その事に気付いたアサヒはワレモンにお金は!?と聞いたがカネってなんだ?と聞き返される。つまり彼女達は無銭飲食してしまったと言うわけなのだ。

そしてこの場面へと戻る。

 

「まぁ、今からランチタイム始まるし、今日シフト入る予定のピヨモンも休みになったから丁度いい、のかもね」

「不幸中の幸いってやつだねー」

 

色や角の数以外テリアモンとそっくりなデジモン、ロップモンはテリアモンと顔を合わせてねー、と声も合わせた。床に正座しているアサヒ達は悟る。あ、これ働かされるパターンだ、と。ワレモンは勢いで来て注文したからか、しょうがねぇと諦めがついており、ミキも結局はいつもの量を食べていたので割とやる気だった。アサヒも少々の不安を秘めながらも覚悟を決めたように前を向いた。

 

「わかりました……私達、働きます!」

 

 

「…そしてミキはアサヒと一緒に自分の力で服変えて働き始めたって訳だ。アサヒは接客無理だから宣伝で外に出しといた訳…オラテリアモン!五番テーブル空いたぞ、片付けろ!ロップモンは二番テーブルに三人前だ、すぐ持ってけ」

「うん、僕としてはなんでワレモンがこんなに威張ってる方が不思議だよ」

 

飲食店内、タツヤ達はテーブルの一角に座り、ワレモンの説明を受けていた。すぐそばには気絶したアサヒがメイド服のまま倒れている。

あの後、気絶したアサヒを運びタツヤ達は飲食店へと移動。そしてワレモンの説明を受けたと言う訳だ。原因の元になったワレモンは最初はテリアモン達と同じく料理を運んでいたのだが、途中で何故か指示を出す側へと変わっていた。だが驚くべき事に、その作業効率は通常よりも何倍も良くなっていたのだ。メイド服を来た珍しい人間であるアサヒを広告に出したお陰で普段の五倍近くの来客にもかかわらず人数的に同じなのに店を回している。

 

「いやー、ワレモンパイセンぱないねー」

「…………」

「店長もやりやすいって言ってるよ」

「いや、言って無いよね。ジェスチャーだけだよね」

 

テリアモンとロップモンの呟きに言葉を挟まずにはいられないタツヤ。厨房で包丁を握る手とは逆に手で親指を立てるマクラモンは全く表情が変わっていなかった。

そんなタツヤの前へミキがやってくる。

 

「タツヤ、勝手な行動をしてごめんなさい」

「いや、別にいいけど…なんでチャイナ服?」

「本で書いてあった。従業員の服装と言ったらメイド服とチャイナ服は鉄板だって」

「うん、何読んだのかな。凄く気になるけど聞かない事にするよ」

 

そう言って首を傾げるミキ。彼女の格好は一言で言ったらチャイナ服だった。紫をメインとしたその服装はアサヒのメイド服と比べて露出度が高い方だ。特にスリットが深い為、彼女の細く白い足がほぼ露出している。一本結びにしていた髪も両サイドで三つ編みにしている為普段と印象が変わってくる。

そんなミキは少しの間口を閉じると、タツヤに向かって問いかける。

 

「タツヤ。この服の感想が欲しい」

「え?服の?」

「正確にはこの服を着た私の感想」

「…………そうだね。凄く似合ってるよ。ミキは元が良いって言うか、可愛いから、そう言う服とか凄く似合うと思うよ。沢渡さんも同じだけどね。僕じゃこんな事しか言えないや」

「…そう」

 

タツヤのその一言を聞いたミキは彼から顔を背けると直ぐにその場を離れる。何か気に触る事言ってしまったのか、そう不安になるタツヤだがそんな彼に現在サラダを頬張っている城太郎が視線を向ける。

いやそんなわきゃねぇだろ寧ろ喜んでるわアレ、と含んだ視線を送っているが全く気づかないタツヤ。その言葉の通り、ミキはタツヤから見えない角度で機嫌が良くなっていた。目に見えるほどの上機嫌なオーラはタツヤには見えていないのだろうかと思ってしまう程だ。

 

ここに来る前のウィザーモンの占いの内二つが的中している。一つは言わずもがな、もう一つは既にミキ自身にも感じられていた。この格好が…普段とは別の格好をする事が楽しいと感じ始めている。チャイナ服もそうだが、アサヒの着ているメイド服にも興味を持ち始めたミキは知らず知らずの内にコスプレが趣味になり始めている事は完全な余談だ。

 

「人間ってあんな格好するのねー」

「案外可愛いな…」

「燃え…いや、萌えだな!」

「何言ってんだアンタ一体」

「だーかーらー!アタシは好きであんなオバさん見たいな姿になったわけじゃないんだからー!」

「わーかった!わかったって!オメェさん騒ぎ過ぎだ!他の客の迷惑だろうが!」

「ふーむ、ラーナモンの愚痴も困ったものであるな」

「地震雷火事親父。親父じゃないけど注意しよう」

 

周りの客のデジモン達も人間が珍しいのかミキに視線を向けている。一部では全身が燃えてるデジモンがなんか呟いてたり、半魚人っぽいデジモンを中心に騒いでいたりと店内は賑わっていた。

 


「……………」

「みんなお疲れ様、今日の売り上げは過去最高だった、って店長言ってるよー」

「いやだからジェスチャー…なにそれなにかの儀式でも始めるの?」

 

奇妙な踊りを踊るマクラモンに突っ込むタツヤ。ランチタイムを過ぎた後、アサヒ達は無銭飲食の分以上の働きをし、テーブルにへたり込んでいた。指示を出していたワレモンと途中気絶していたアサヒでさえもかなりの疲れがあるのだろう。タツヤは三人にお疲れ様と一言声をかけた。

そしてマクラモンは再び奇妙な踊りをするとロップモンは翻訳する。どうやら店長オススメの料理を出してくれるようだ。所謂賄いだろう。タツヤ達全員の分もあるそうだ。なんでも最近知った人間界の料理らしい。その事にタツヤ達の顔が明るくなる。マクラモンの気遣いもそうだが、実は彼等は空腹だったのだ。一部サイドメニューをつまんでいた程度の彼等にとっては有難い事だった。

そして待つ事数分、タツヤ達の前に料理が置かれる。

 

「………なあにこれぇ」

 

それを言ったのは誰だっただろうか。置かれたものに対して開口一番そう言ってしまう。

皿の中にあったのは真っ白いライスとルーがかけてあるカレーだった。そう、それが一番近いだろう。ライスはまだいい。だが問題があるのはルーだった。色が赤く、さらに紅く、ひたすら緋く、そして赫い。まるでマグマを連想させるようなそれに思考が飛び、その香りを嗅ぎ、意識も飛びかける。本能的に察した、これ生命の危機レベルにやばいものだ、と。

 

「店長辛いの好きなんだー」

「…同情するよ」

 

ケラケラと笑うテリアモンと対照的に顔を伏せるロップモン。二人は他の仕事もあるためその場から去る。カレーを出されて数秒、タツヤ達はスプーンを手に取る。出されたものを食べないと言うのは料理人に失礼に値する、食べるしか道は無さそうだ。なるべくライスを多目に、ルーを少なめにするのは最後の悪あがきだろう。タツヤ達は一斉にスプーンを口の中へ運んだ。

 

「あばばばばばばばば…!」

「ホワチャー!ホワタタタ!アター!ホーイ!」

「mf,gkg?jdke///’hfl’m@;j¥…」
「うぼぁぁぁぁっ!?」

「ヒー…!ヒー…!ヒーヒー…ひでぶっ!!」

「ハブルボッシャアアアアアア!?」

「カフッ…!な、何十年ぶりだ…ここまで追い詰められたのは久しぶりだ…」

 

そこからは阿鼻叫喚だった。一人は奇声を発し、一人は椅子の上でもがき、一人は頭から煙を出しながらバグり、一人は断末魔を上げ、一人は爆散したかのような声を響かせ、一人はトラックにでも跳ねられたかのような絶叫を上げ、一人は燃え尽きる寸前だ。尻尾のあるカケモン達を見ると全員尻尾が痙攣している、それほどまでに辛い。どうしようもなく辛い。絶望的に辛い。でも美味いのは流石料理人。

美味いのはいいがこれを完食できるのだろうか、ギルモンは比較的クリアな思考をする。正直デジタマに五、六回戻る覚悟で挑まないと皿を空に出来ない。息が荒くなりながらも、二口目へと移行する。

しかし、その時ギルモンは見てしまった。この中で、絶叫もしくは奇声を上げていないただ一人の人物を、その存在を。

 


「うん、スパイシーで美味しいね」

「「ばっ、馬鹿なぁぁぁ!?」」

 

 

ギルモンと意識を取り戻したハックモンは驚愕する。それもそのはず、目の前にいるタツヤの表情は晴れやかで、尚且つ皿の中のカレーは既に半分以下になっていたのだ。

そう、タツヤは辛い物に強いのだ。と言うより好物だと言えるだろう。だがそれは常人を遥かに超えた辛い物への耐久力があってこそだ。

以前カケモンとワレモンと一緒に食べていたカレー。実はタツヤのだけ源光特製の激辛カレーだ。カケモン達のは源光用に作ったもの、中辛の物だった。

 

タツヤは皿の中のカレーを食べ終わり、物足りなさを感じていた。街の徘徊の疲れとアサヒ達の仕事が終わるまでの間に何も食べなかったせいで余計空腹なのだ。タツヤはふと自分に視線が集まっているのに気付く。その目は助けを求めている目だった。具体的に言うと、カレー辛すぎて食べられないという感じで。その事にちょっとした苦笑いと冷や汗をかくと、タツヤは彼等に助け舟を出した。


「あはは……ねぇ、これ食べてもいいかな?」

「「「是非!」」」

 

タツヤの一言に即答した七人は自らの皿を差し出す。その事に笑いつつも、タツヤは内心焦る。どうしよう、こんなに食べられるかな、と。いや、そうだけどそうじゃないと言いたいところだが誰も何も言ってはくれないだろう。タツヤは覚悟を決めて、差し出された皿にスプーンを入れた。

 

 

 

「さぁ、準備は整った」

 

湿気と薄暗さが目立つ古都のある場所で、とあるデジモンが立っていた。その顔に浮かぶのは憎悪、そして深い欲望。同時に愉しみにしているのだ。この古都に復讐できる瞬間を。

 

 

「待っていろ、ダスクモン…!」

 

 

山羊の顔をした悪魔は、酷く歪んだ顔で…嗤っていた。

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