デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

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遅くなりまして
本当にごめんなさい ‍♂️
こんな時間に上げてしまいましたがどうか読んで下さいますと幸いです


二十三話 《真の闇》

日が傾いてきた頃、古都にあるとある飲食店にて八人の人間とデジモンが店を出ようとしていた。それを見送るのはテリアモンとロップモン、この店の従業員だ。もうすぐディナータイムの仕込みがあるためマクラモンは来れなかったが、替わりにテリアモンにあるものを渡していた。それは忍者が姿を眩ませる為に使う煙玉のようなものだった。

テリアモンはそれを目の前にいたアサヒに差し出す。

 

「これ、アルバイト代だってー」

「あの…これなんですか?」

「それは緊急クッションだね。落下しそうになった時にこれを思いっきり握って下に投げるとクッションになるんだ」

「わぁ…!ありがとうございます!」

「だけどそれ弾力あり過ぎて販売中止になったヤツだったはずじゃ…?」

 

ロップモンが不安げにそう呟く。えっ、とアサヒが顔を引攣らせ、窓から奥にいるマクラモンへと目を向ける。すると彼はこちらに気付いたようでいつも通りに無表情のまま顔をこちらに向けると、親指を立てた。いわゆるサムズアップである。


「…………(ぐっ)」

「モーマンタイだってー」

「問題だらけじゃないですかぁ!?」

 

テリアモンの通訳等無くてもわかるようになったのか、少し涙目になりながらもアサヒは悲鳴に近い叫びを上げる。賄いを作ってくれたのはありがたいがこれは流石に…。タツヤはそのやり取りを見ながらも苦笑いしていた。

 

 

店を出て宿へと戻ったタツヤ達は大部屋で寛いでいた。だが一人、ミキだけはアサヒと兼用の部屋で何やら作業をする為に篭ってしまった。何をしているんだろう、と思ったのだがタツヤは彼女が才羽 ユキオ博士の遺品を調べているのではないかと何となく察している。自分も何か手伝えるのではないか、そう思ったが専門の知識を必要とする作業に自分がいても邪魔になるだけだろうと思い留まった。

夕方となり、そろそろ宿の夕食の時間に差し掛かる頃、ミキは大部屋へとやって来た。ちなみにタツヤ達は城太郎が現実世界から持ってきたトランプやUWEIと言うカードゲームで遊んでいた。ちなみに一番負けているのはカケモンである。

 

「沢渡 アサヒ、立向居 城太郎。これを」

 

ミキはアサヒと城太郎の前に立つと両手からあるものを手渡す。それは記憶にも新しい、プロトデジヴァイスだった。

 

「これって、デジヴァイスじゃねぇか」

「どうしてこれを…?」

「これからの旅にこれは必要になると判断したから使えるように調整した。私達がもしも離れ離れになる可能性もある。その場合、連絡を取るための手段が必要」

「ほー」

「た、たしかにそうですね。ありがとうございます、才羽さん」

「サンキューな!」

 

ミキに礼を言うアサヒと城太郎。その事に少し照れながらも別に、と素っ気なく返してしまうミキ。

彼女も大分変わって来た。少なくとも転校初日から考えると大分感情が見え隠れして来たようにも思える。それは彼女の父が望んでいたことのように思えて自然とタツヤの頰が緩む。そんな空間に腹の音が響く。それは誰のものかわからなかったが、そういえば夕食の準備はできているのだったと思い返す。

タツヤ達は食堂へ移動しようと部屋を出ようとする。だが一人、城太郎は窓の端にふと目が行く。


「ん?」

 

気になって窓の近くを見るとそこには昼間見たデジモンが路地裏を歩いていた。そう、迷子のタツヤ達を一緒に探してくれた(実際には迷子になったのは城太郎だが)デジモンだ。そういやアイツに礼を言ってなかったな。

そう思った城太郎は部屋を飛び出す。そして前を進むタツヤ達を追い越し、振り返った。


「悪りぃ、ちょっと出てくるわ!」

「あ、ちょっと!城太郎!」

「大丈夫だって、すぐ帰ってくるから!飯残しとけよー!」

 

そう言って足早に宿を出て行く城太郎。一体どうしたんだろうか、とタツヤは思ったがそこは城太郎。いつものようになんの心配も無く帰ってくるだろう。

しかし、どうも今のタツヤは胸騒ぎが止まらない。何か嫌な予感が…そう思って止まないのだ。


「大丈夫かな…」

 

「おーい!お前、昼の奴だろ!」

「っ!お前は…」

 

人通りの無い路地裏を駆け回り、五分程して城太郎は目当てのデジモンを見かけた。目玉が全身に付いている黒い鎧を身に纏ったデジモンは声をかけられ少し驚きながらも振り返る。そんな彼になんの疑問も浮かべず、城太郎は笑顔で彼の前に立つ。

 

「昼間はサンキューな!お陰でアイツら見つけられたけどよ、礼言ってなかったから宿出てきちまったぜ!」

「あ、いや…」

 

実に清々しいまでの笑顔で城太郎は彼に喋りかける。今まで散々走ったのにここまで余裕なのは単純に体力バカなだけなのだが、目の前のデジモンは少々引いていた。それは城太郎の勢いのせいでもあり、何故か慣れていないと言う印象を抱かせる。一時は驚いたが、そのデジモンは息を吐き落ち着く。


「…大した事はしていない。一応オレも古都を守る者、十闘士の一人だ。礼を言われる等…」

「え、お前十闘士なのか!?アグニモンと同じで!?マジかよラッキー!」

「アグニモンを知っているのか」


他の十闘士と会えた事で興奮している城太郎とは別にそのデジモンは目を見開く。まさかアグニモンと知り合いだとは思わなかった。そういえば昼過ぎに兄弟子とその連れが来たと街を歩いていたアグニモンにそう言われた事を思い出す。おそらく目の前の人間がその連れなのだろう。

 

「あ、そういや名前言ってなかったな。俺は…」

「もうすぐ日が沈む。暗くならないうちに帰るといい。お前の仲間が待っているだろう。それに」

「それに、ワタシのような悪いデジモンと遭遇してしまうぞ」

 

親切心から城太郎を返そうとするが、第三者の声が鳴り響く。その瞬間、そのデジモンは両腕から曲がった血のように赤い剣を出すと辺りを警戒する。…全く気配がしなかった。会話に夢中になっていたからか?いや、違う。単純に今の声の主の実力が高いからだ。

 

「久しぶりだなぁ、ダスクモン」

 

今度はちゃんとした方向から声が聞こえて来た。そこは建物の影…薄暗くて見え辛いが誰かが立っているのが確認できる。影に隠れたデジモンはコツコツと足音を鳴らしながらこちら側へと歩いて来た。

影から出たそのデジモンの姿はまるで山羊の悪魔のような見た目をしていた。そして居心地が悪くなるような雰囲気と重圧を感じる。まるでこれはバルバモンの時のような…いや、それよりはまだマシだが、似たような気分になった。

 

「貴様は…?」

「フン。わからなくて当然か。…ワタシだよ、グルルモンだ」

「何…!?」

 

ダスクモンと呼ばれたデジモンは先程と比べ物にならない程の驚きで頭が一杯になった。と、同時に先程以上の警戒心を抱く。警戒されている山羊のデジモンは笑いながら余裕な態度を崩さない。

 

「と言っても、今のワタシはメフィスモンとなった。以後、そちらの名前で呼ぶといい」

「メフィスモンだと…?貴様、なぜここに!古都を追放された筈では」

「戻って来たのだよ。ワタシは力を蓄え今度こそ…闇のスピリットを手に入れるためになぁ!」

 

途端、豹変したようにデジモン…メフィスモンは手から黒い光弾を放つ。ダスクモンは城太郎を庇い、咄嗟に剣で防ぐが次々と放たれる光弾に顔を歪ませる。強い、少なくとも今の自分よりも実力が上の相手であると認識させられた。

そしてダスクモンは光弾を受け止めながらも城太郎に目を向ける。

 

「ぐっ!人間、逃げろ!そしてこの事を他の闘士に…!」

「で、でもよ…」

「させると思うか、来い!イビルモン達よ!」

 

光弾を放つ腕とは別の腕を上空に向けるメフィスモン 。すると紫色の魔法陣が現れそこから次々と何かが出てくる。それは小悪魔型のデジモン、イビルモン。イビルモン達はダスクモンの視界を塞ぐとすぐさま背後にいる城太郎を囲んでしまった。

 

「「「ゲゲゲ…!」」」

「うぉ!?なんだこいつら!」

「今逃げられては都合が悪い。まぁ、時間の問題と言う点もあるが…」

「しまった…!」

「さて、ダスクモン。十闘士の後継者であるお前はなんの関係のない小僧一人を見殺しにはできまい。それが例え、呪われた闇の闘士のお前と言えど、な」

 

メフィスモン の言葉に一瞬動揺の色を浮かべるダスクモン。城太郎もそれに気付いたのか彼の変化に疑問を浮かべる。だが次の瞬間、メフィスモンはその一瞬の隙を突いてダスクモンの前に現れると彼の腹部に光弾を当て、気絶させてしまう。

 

「がっ…!?」

「クク、殺しはせんよ。ただ眠ってもらうだけだ。儀式に必要だからな」

「おいヤギヤロウ!そいつを離せ!離しやがれこのヤロ…」

「そいつの口を塞いでおけ。ついでに手足もな」

「ゲゲ!」

 

魔術のようなものでダスクモンを浮かばせたメフィスモンはイビルモン達にそう命令する。城太郎は騒ぐがイビルモン達の手で口を塞がれ、縄で手足を拘束されてしまう。そして担がれるとどこかに移動させられるような感覚に陥る。もがき続けるが、城太郎を助けに来てくれる者は誰もいない。

日が暮れると同時に、路地裏から誰もいなくなっていた。

 

 

「ジョータロー遅いね」

「そうだね、確かに城太郎にしては遅い…」

 

夕食を終え、部屋で寛いでいたカケモンがそう言う。既に暗くなっていると言うのに城太郎は未だに帰ってこない。すぐと言っていたからすぐに帰ってくるはずなのに、とタツヤは今までの経験からどこか嫌な予感が収まらない。そんなタツヤを見かねたのか、アサヒはある提案をした。

 

「じゃ、じゃあデジヴァイスを使えばいいと思います。せっかくもらったんだし、使ってみましょう」

「うん。早速使う」

 

プロトデジヴァイスを使うと言う提案にミキも頷く。流石にこの時間まで帰ってこないのはおかしいし、それにミキとしては調整したプロトデジヴァイスがちゃんと使えるか試してみたい気持ちもある。

ミキは自分のプロトデジヴァイスを取り出すと城太郎の持つプロトデジヴァイスへ向けて発信する。しかしコールをかけても出る様子は無い。一度切るとミキは今度は《MAP》を起動した。どうやらバルバモンが仕掛けていた発信機を元に互いの位置を確認する機能を付けていたようだ。ミキは画面を除くと、首を傾げる。

 

「?おかしい」

「どうしたの?」

「立向居 城太郎の反応が宿周辺に無い」

 

その言葉にタツヤだけでは無くハックモンとギルモンも反応する。すぐに戻ると言った城太郎が近場に居ないというこの状況、何かトラブルがあったと考えるのが正しいだろう。

 

「まさか、ジョータローの身に何かあったのか?」

「探すか?」

「ああ。念のためにアグニモンにも連絡を…」

 

ハックモンとギルモンは互いに顔を合わせ、意見が一致すると立ち上がる。

が、その瞬間窓の外から嫌な気配を感じ振り向く二人。同時に窓を開けると、宿から離れた上空に怪しい光を放つ魔法陣が浮かんでいることが確認できる。何かが起こっている、そう思ったハックモンとギルモン、そしてタツヤ達は宿を飛び出していった。

 

 

 

「………冷てぇ」

 

顔に何かが当たり、ぼやける視界と思考のまま城太郎は目を開ける。何度か瞬きして見えたのは闇だった。正確には暗闇だろう、おそらく暗い場所に連れてこられたのだ。気を失う前の記憶からその答えに辿り着くと、縛られた手足で地面に転がされている事に気付く。

 

「気付いたか?」

「うぉ!?…な、なんだ。お前かよ」

 

少し目が慣れたと思った矢先、背後から声が聞こえて来た。声を上げて驚き上手く体を反転させ声の主の方向を見ると、そこにはダスクモンが立っていた。いや、違った。ダスクモンは十字架のようなものに拘束されていたのだ。それはあちこちから電流を流して彼を弱らせているようだった。

ダスクモンは城太郎が起きた事に軽く息を吐くと、拘束されたまま頭を下げた。

 

「すまない。お前を巻き込んでしまった」

「あー、謝んなよ。お前の見た目で謝られるとなんか違和感しかねぇ。あれだ、シュールってやつだ」

「そ、そうなのか?」

 

謝られたというのにいつもの調子で返す城太郎にダスクモンは調子を崩される。本当だったら責められてもおかしく無い状況なのに何故か気を使われたような気がした。

そして訪れる静寂。元から口数が少ないのかダスクモンは黙ってしまった。だが城太郎はそれに耐えられなくなってしまった城太郎は話題を振る。それはメフィスモンと名乗ったデジモンが言っていた事。

 

「なぁ、お前ってさ、呪われてんのか?」

「っ、それは…」

「…言いたくねぇならいいけどよ、なんか気になっちまって」

 

どうやら禁句のようなものだった様で、明らかに動揺したダスクモンに珍しく城太郎はそう言った。知りたいが教えてくれるかはダスクモン次第だ。無理に聞く必要は無いだろう。

ダスクモンは再び黙る。やっぱりダメだったかと、城太郎はここがどこか目が慣れるまで待とうと思っていたのだがその前にダスクモンは口を開く。それは重々しく、どこか不安を含んでいるようだった。

 

 

 

伝説の十闘士、その後継者の話をしよう。

古来より古都を守護する者達、そして世界の均衡や秩序を乱す者から世界を守る者達の事を十闘士の後継者と呼んだ。

十闘士たるエンシェントデジモン達の力と意思が宿ったスピリットを継承する為には条件がある。

一つは一定の実力を持っている事。

もう一つはスピリットに宿る十闘士の意思が認める正しい心を持っている事だ。

この二つが揃っている事で初めてスピリットを受け継ぎ、十闘士へと特殊な進化を果たすことが出来る。

 

しかし、ここである問題が生じる事がある。それはスピリットの力、その属性の力に呑まれるという事だ。実力、精神共に認められたとしても、それがいつまでも続くとは限らない。デジモンは生きているのだ。死に行くまでに力が衰える事も心変わりする事もありえる。

大きすぎる力が暴走を起こすか、それとも精神を歪ませてしまうか。それが十闘士を継ぐ者にとって唯一と言ってもいい程の障害である。前者はまだ他の十闘士が止める事が出来るが、精神は止めようが無かった。

精神の変質、思考の異常化、発狂。その症状が現れてはもはや手遅れなのだ。そして過去に精神を呑まれた闘士の属性は闇、つまり歴代の“ダスクモン”であった。罪の無いデジモンを襲い、街を破壊する…それが何十、何百年もの間、この古都で繰り返し起こって来た。

 

故に、ダスクモン…闇の闘士は呪われていると古都のデジモン達から言われている。ダスクモンを避け、なるべく距離を取り関わりを持たないようにすることは彼らにとっての暗黙の了解なのだ。

そしてそれは、ここにいるダスクモンもまた同じ。呪われた闇の闘士、何年も前から聞いていた存在になってしまった、選ばれてしまった彼もまた闇の闘士なのだ。

 

 

「……オレは、オレは自分が怖いんだ。いつか闇の力に呑まれて、オレがオレじゃ無くなってしまうんじゃないか。守るべき古都を襲ってしまうんじゃないか。…オレの大事な人達を失ってしまうんじゃないか、そう考えると…」

 

ダスクモンは思い浮かべる。まだスピリットに選ばれなかった頃を、まだ無邪気で兄弟とも呼べるデジモンと暮らしたあの日々を。十闘士に純粋に憧れていた日々の事を。

だがもう戻れない。いつか自分は闇に呑まれるかもしれない。自分を見失い、牙を向けるかもしれないその恐怖に、いつも悩まされている。

同時に何故自分は選ばれたのだろうか、そう何度も考えて来た。何故闇なのか、何故ダスクモンだったのか。何故アイツとは真逆だったのか。

 

ダスクモンはそこまで考えた後、自虐的に笑い目を伏せる。何故こんな事を話してしまったのだろうか。アグニモンの客に、今日ここに来たばかりの人間に何を、とそこまで考えて…今まで黙っていた城太郎が口を開いた。

 

「…オレはさ。エキスパートなんだよ」

「エキス、パート?」

「ああ、なんでもやれるエキスパート。それが俺なんだよ。今の俺で、変わった俺だ」

 

思い出すのはタツヤと最初に会って喋ったあの日。あの日あの時間から今の立向居 城太郎が生まれたと言ってもいいだろう。それぐらい感慨深い日だったのだ。

同時に許せない事があるとすれば、あの日から毎日のように接していたタツヤの事を、タツヤの事情を知らずにいた事だ。両親が居ない事も、タツヤが周りの子供と違っている事も、ただ“そういうもの”だと思っていた自分が許せない。最近事情を聞いた城太郎はそう度々思っていた。

そんな心情とは裏腹に、城太郎は普段見せないような落ち着きがある表情でダスクモンを見る。

 

「変わる事は別に悪い事ばっかじゃねぇと思うぜ。お前だって変われるはずだろ。進化とかそんなんじゃなくてこう…なんか、気持ちがっつーかよ」

 

俺でも変われたんだ、お前だって出来るだろ。と、城太郎はいつものように笑う。ダスクモンは黙って聞いていたが彼の言いたいことがわかったような気がした。

 

「とにかく、お前だって十闘士なんだろ?だったらもうちょっと胸張れよ。少なくとも十闘士に憧れてた頃のお前には張れるだろ」

 

何故か下の弟や妹達、もしくは昔の自分を見ているようで放って置けなかった。このままでは何かに押しつぶされそうな、そんな気さえしたからだ。

ダスクモンは城太郎の顔を見て、胸にあったしこりが少し無くなったように感じた。そして礼を言おうとした矢先、彼らの間に記憶に新しい声が響き渡る。

 

「くだらない戯言はもう終わったかな?こちらとしては唾を吐きたいのを我慢して待っているのだがねぇ」

「ッ、メフィスモン!」

 

闇に紛れて現れたのは山羊の悪魔、メフィスモン。その後ろには複数のイビルモン…いや、後ろだけではなくダスクモンと城太郎を囲んでいた。城太郎はある程度慣れて来た目と先程から感じたある臭いでこの場所が何処なのか察する。ここはゴミの廃棄場だ。おそらく地下にあるのだろう、こもった空気が充満している。

 

 

「さぁ、始めようか。真の闇の後継者が誕生する偉大な儀式を…!」

 

 

 

古都は混乱の渦の中にいた。突如空中に現れた巨大な魔法陣、そこから現れたイビルモンを始めとする悪魔や堕天使型のデジモンが群で現れ街を襲撃しているのだ。その中にはデビモン、デビドラモンなども混ざっており、街にいるデジモン達を襲い始めた。夜という事もあり、暗闇の中で襲ってくるイビルモン達にデジモン達は逃げ惑っている。

 

「ギルガメッシュスライサー!」

「レインストリーム!」

「「「ぎゃあああああああ!!!」」」

 

だがそんな彼らにも希望があった。空から襲ってくるデジモン達をその技で倒す者…この街の守護者である十闘士がいるのだから。

風の闘士、シューツモンと水の闘士、ラーナモン、そしてその後ろからやってくるのは鋼の闘士、メルキューレモンだ。三人の闘士が来たことにより、周りのデジモン達は喜びの歓声を上げる。

シューツモンとラーナモンが襲ってくるデジモン達に攻撃する中、敵の攻撃を両腕のイロニーの盾で跳ね返しながらメルキューレモンは周りにいるデジモン達に呼びかけた。

 

「聞け!戦えない者は古都中央にある塔へ避難しろ!腕に自信のある者は我々と共に戦うのだ!」

「あーん、もう!こいつら多すぎ!シューツモンはともかくアタシはこういうの苦手なのにー!」

「何言ってるの。貴方もビースト形態になれば…」

「それだとアタシのイメージ崩れるの!アイドル路線でやってるのにあの姿になれないでしょ!?」

「あ…そう」

「やれやれ、ラーナモンにも困ったものである…なっ!」

 

仕方がない、と思いながらもメルキューレモンはデビモンの攻撃を躱し蹴りを入れる。正直、水の闘士の姿は古都の住民なら殆ど知っているのでラーナモンの抵抗はあまり意味をなさない。

そんな三人の闘士に続くように古都のデジモン達が次々と集まってくる。そして迫ってくるイビルモンの群れに向かって一斉に攻撃を仕掛けた。

 

 

「こっちだ!落ち着いて避難するんだ!」

「ブリッツモン!こっちの救助は終わったぞ!ブリザーモン達ももうすぐこっちへ来る!」

 

古都にある宿のあるエリアの避難誘導をしていた雷の闘士、ブリッツモンに土の闘士であるギガスモンがやってくる。崩れた建物の中にいたデジモン達を避難場所へ行かせた彼らは度々やってくるデビドラモンを倒しながらも別の場所で活動している仲間を待っていた。

 

「一体この街で何が起きているんだ…!」

「…闇の力を持つデジモンが馬鹿みたいに来る原因があるなら、もしかすると」

「まさかダスクモンの仕業だと言うのか?馬鹿を言え!アイツはオレ達の仲間だ!」

「しかしよぉ、歴代の闇の闘士は呪われてんじゃねぇか」

「アイツは違う!アイツがそんな事…」

「おーい、ブリッツモーーーン!!」

 

ギガスモンに非難の声を上げるブリッツモンに遠くから声がかけられる。氷の闘士、ブリザーモンに木の闘士、アルボルモンだ。

その二人を見て昂ぶっていた気を鎮めるブリッツモン。だがおかしい、別のエリアにいたのは彼らを含めてもう一人居たはずだ。そう思っているとブリザーモンは慌てた様子でブリッツモン達の元へとやってくる。

 

「ぶ、ブリッツモン、ど、どうしよう…!」

「落ち着け、何があったんだ!?」

「それが、ヴォルフモンが…急にどこかに行っちゃって…」

「なんだと!?」

「おいマジかよ。なんで止めなかった!」

「だって、ボクもアルボルモンも足遅いし…」

「急がば回れ。回ったけども追いつかない」

「「ちょっと黙ってろ!!」」

 

その場で回るアルボルモンに怒鳴るブリッツモンとギガスモン。同じ十闘士としてみれば彼が何の考えもなしに何処かへ行くとは考えられない。あるとすれば他に助けを求めるデジモン達の所へ行ったか、それとも…。

考えても仕方がない。ブリッツモンはそう思い再び別の場所へと急ごうと他の三人に言うと走り出した。今すべき事はまだある。一番に考えるのはデジモン達の救助だ。彼ら四人の闘士は別のエリアへと走り出した。

 

 

メフィスモン…進化前の姿をグルルモン。彼はかつてこの古都に住むデジモンの一体だった。その強さは同じ成熟期でも群を抜いており、同世代で敵う者は誰一人としていなかった。

そんなグルルモンはいつしか傲慢になり、今よりもさらに強くなろうと言う欲も彼の中に芽生えてきたのだ。故に、彼は十闘士…特に闇の闘士へとなろうとした。元々闇の力に魅せられていたのもあり、その目に狂気を孕んでいたこともある。実力、そして精神力共に自分は闇の闘士にふさわしい、そう思っていたのだ。

 

だが選ばれたのはグルルモンではなく、候補の中でもとりわけ小さなデジモンだった。

ありえない、何かの間違いだ、悪い冗談だ!

グルルモンは何度も選定のやり直しを追求したがそれをスピリットが許すはずも無い。逆上したグルルモンはそのデジモンの息の根を止めようとしたが、それは当時の十闘士達に止められてしまい未遂に終わる。

そのままグルルモンは古都を追放された。しかし、彼は諦めていなかったのだ。いつか力を蓄え復讐しに来ると。その闇のスピリットを奪ってやると。その小さなデジモン…ツカイモンに鋭い眼光を飛ばして…。

 

 

 

「グアアアアアアアアアッ!!?」

「フハハハハ!いい声で鳴くなぁ、ダスクモン!もっと聞かせてくれよ!」

 

ダスクモンを拘束している十字架を中心に魔法陣が展開されている。拘束されたダスクモンは苦痛により叫びを上げ、メフィスモンはそれを歪んだ表情で見ていた。

そこから少し離れた場所で城太郎はやめろ、と叫び続けていたが拘束されているため動けずにいる。そうしていると、ダスクモンの胸から何かが現れメフィスモンの手の上に移動する。それは翼で身を隠すような格好をした怪鳥の像だった。それを見たメフィスモンは満足そうに笑う。

 

「ククク、まずはビーストスピリットか」

「おい山羊野郎!さっきから何やってんだ!?」

「見てわからないか?ダスクモンからスピリットを抜き取っているのだ。まずはビースト、そして残ったヒューマンスピリットを奪えば…ワタシこそが闇の継承者、いや、七大魔王を超えた存在になれる!」

 

狂気がこもった笑い声がこだまする。その事に背筋がヒヤリと寒くなるが城太郎から見てメフィスモンは滑稽に見えた。バルバモンに会った事のある者なら誰だって思うだろう、今のメフィスモンが闇のスピリットを手にしても七大魔王を超える事も、ましてやその域に達する事自体が不可能だと。

だがメフィスモンは狂信的にそう思い込んでいたのだ。おそらく何か言ったとしても聞く耳を持たないだろう。

メフィスモンは未だに苦しんでいるダスクモンに向けて再び手を向けようとする。しかし、その一瞬…その隙をついてメフィスモンの頭に何かが当たった。それは何の変哲のない石。不意を突かれたメフィスモンは石が来た方向に目を向ける。

 

「っ、誰だ!?ワタシに石を投げつけたのは!?」

「なんだよ、そんな顔もできんじゃねぇか」

 

そこにいたのは先程まで四肢を縛られていた城太郎。何、とメフィスモンとその近くにいたイビルモンも動揺を隠せない。

 

「驚いたか?俺は縄抜けのエキスパートなんだよ」

「き、貴様ァ…!」

 

城太郎はずっとメフィスモンの隙を伺っていた。元々縄抜けの方法は身につけているため今までずっと待っていたのだ。そして隙を突いて石を投げた。

メフィスモンは周りにいるイビルモン達に指示を出すと城太郎は近くに落ちていた鉄棒を拾い、近付いてきたイビルモンを薙ぎ払う。体格の小さいイビルモンにそれは有効のようで上手く城太郎に手を出せないでいた。そして城太郎はイビルモンの包囲網を突破してダスクモンの目の前へと辿り着く。

 

「な、何をしている…!早く逃げろ、今なら…!」

 

未だ電流で苦しむダスクモンがそう言うが城太郎は棒を手にしメフィスモン達に対峙する。すぐに逃げれば城太郎だけでも助かるかもしれない、それなのに逃げない。ダスクモンは何故だ、と痛々しくも叫ぶ。

 

「俺が今逃げたら、“俺”じゃ無くなるからだ」

 

そう答える城太郎の腕は微かに震えていた。冷静に考えれば人間がデジモンに、しかも完全体に勝てるわけがない。それは城太郎も重々承知の筈だ。

では何故逃げないのか?

 

「お前を置いて逃げたらエキスパートを二度と名乗れねぇ。それどころか、“立向居 城太郎”じゃ無くなっちまう!」

 

変わった彼が、今いる彼が、この城太郎が、それを許さない。いや、なによりも彼はダスクモンの事をほっとけないだけだった。だったらやる事は一つ。

アイツだったら、城太郎にとってのヒーローなら、こうする筈だ。敵わなくても、何度だって立ち上がるだろう。

なら俺は、

 

「俺は…どんな困難にも立ち向かう、エキスパートだ!」

 

走り出した城太郎はイビルモン達の急所に棒を突き出し、メフィスモンへと向かって行く。成熟期としては弱い部類に入るイビルモン達は城太郎を捉えられずにいる。だが、それは時間の問題だった。イビルモン達はその群という長所を使い城太郎を包囲。だんだんと近付き最終的に彼の手足をイビルモン達は拘束していた。

 

「ぐ、この…!離せェェェェ!」

「手間を掛けさせるな。もういい、まずお前から、」

 

 

死ね。

 

 

そう言うと同時にメフィスモンは手を城太郎に向ける。そして集まる光…城太郎を殺すつもりだ。

ダスクモンはその光景をただ見ているだけしかできなかった。それと同時に込み上げてくるのは怒りと情けなさ。メフィスモンに対する怒り、そして自分に対する怒り、不甲斐なさ。人間の子供が戦っているのに何もできない自分に激しい怒りと悔やみ。

そして願った。力が欲しいと、この状況を覆したいと、彼を…城太郎を助けたいと。

変わる事に恐怖している場合では無い、今の自分を越えなければならない。

だからオレは、

 

 

 

変わらなければならない!

 

 

 

「闇のスピリットよ、オレに応えてくれェェェ!!」

 

 

 

叫びがこだまする。

…瞬間、ダスクモンの胸から黒い光が溢れ出す。その光はダスクモンの胸から離れ彼の目の前で彼を模した像に変化する。だがそれは一瞬だった。その像の表面がひび割れ、弾けると中から別の像が出てきた。それは黒い獅子を象った像…その像は再び光へ戻るとダスクモンの中へと戻っていく。

 

そして次の瞬間、ダスクモンは拘束されていた十字架を破壊し、目にも留まらぬ速さで城太郎を拘束しているイビルモンをなぎ払い彼を救出。城太郎を抱えてメフィスモンから距離を取るダスクモン…だが、驚くべき事にその姿は以前の彼と違っていた。

 

「ば、馬鹿な…!なんだその姿は!?ダスクモン、貴様何をした!?」

「何も…していないさ。オレはただ、変わっただけだ」

 

振り返る彼は鋭い視線を動揺するメフィスモンに向ける。以前のような奇妙な鎧から黒い獅子を模した鎧に変化した彼は既にダスクモンでは無い。

彼の名は––––

 

「我が名はレーベモン。オレこそが本当の…真の闇の闘士だ!」

 

 

レーベモンと名乗った彼に城太郎は笑みを浮かべ、スッゲェと叫ぶ。と、次の瞬間、地鳴りのような音が響き渡るとその場の天井がひび割れる。そしてそこから、城太郎にとって見慣れたデジモンが現れた。

 

「ででーーーーーーん!あ、ジョータロー見つけたよーーー!」

「カケモン!」

 

そう、それはver.エグザにアップグレードしたカケモンだった。その背にはタツヤが乗っている。タツヤは城太郎の持つプロトデジヴァイスの反応を頼りにやってきたのだ。

タツヤは城太郎、と大声を上げると着地したカケモンから降りて城太郎の所へ走り…いつもの如く彼の頭を鷲掴みにした。

 

「すぐ戻るって言ったよね、何してるのさ…!」

「いだだだだ、ワリィ、ワリィって!」

「まったく……心配するこっちの身になってよ」

「っ、へへ!」

 

手を離し城太郎から顔を背けたタツヤに城太郎は笑う。やっぱりそうだ、お前なら来てくれると、そう思った。それでこそタツヤだ、俺の親友だ。

そうしていると、今度はカケモンが空けた穴からある二体がやって来る。一体はアグニモンがビーストスピリットで進化したヴリトラモンとその足に捕まっている狼を模したスーツを身に纏うデジモンだ。その二体は地上に降り立つとレーベモンに驚いた様子で話しかける。

 

「お前、まさか…」

「ダスクモン、なのか」

「ああ。今のオレはレーベモンだ。…ようやく、オレもお前に追い付いたよ」

 

レーベモンがそう言ったのは光の闘士、ヴォルフモン。彼はその言葉に目を丸くしたがすぐに笑みを浮かべると、首謀者である悪魔へと視線を移す。それはタツヤ達も同じようで、敵意を向けながらメフィスモンをにらんだ。

 

「おのれ、おのれおのれおのれぇ!!よくもワタシの儀式を邪魔してくれたな!それにレーベモンだと?小賢しい!すぐに貴様らを倒しスピリットを手に入れてやる!!」

 

メフィスモンは怒り心頭に頭を掻き毟ると周りにいるイビルモン達にやれ、と命令した。襲いかかってくるイビルモン達、ヴリトラモンとヴォルフモンは腕にある遠距離用の武器で交戦しその間にタツヤと城太郎はカケモンに連れられて離れた場所に移動する。

レーベモンはその間を潜り抜けると、メフィスモンへといつのまにか持っていた槍を突き出し戦いだした。カケモンは二人を移動し終えたあと、真っ直ぐに戦場へと駆けつける。

 

 

「セットアップ、オメガモン!」

「アップグレード! カケモン ver.オメガ!!」

「ヴリトラモン スライドエヴォリューション! アグニモン!」

 

 

地下にいるため戦いにくいと思ったのか、タツヤはカケモンをver.オメガへと変え、それに応じるようにヴリトラモンもアグニモンへと姿を変える。ウェポンΩの剣撃とアグニモンの炎を纏った体術、ヴォルフモンの光剣・リヒト・シュベーアトは次々とイビルモン達を倒していく。

 

 

「ドラゴニックブレイブッ!!」

「バーニングサラマンダー!!」

「リヒト・ズィーガー!!」

「「「ゲゲェェェェェェェ!?」」」

 

 

それぞれの必殺技でイビルモン達を全て薙ぎ払う三体。この場に残っているのは後はメフィスモンのみ。

一方のメフィスモンはレーベモンに追い詰められていた。冷静さを失った事による隙が大きく影響しているようだ。それを後押しするようにイビルモン達が倒されると一度体勢を立て直そうとカケモンが空けた穴に向かって飛び始める。

 

 

「セットアップ、アルフォースブイドラモン!」

「アップグレード! カケモン ver.アルフォース!!」

「ヴォルフモン スライドエヴォリューション! ガルムモン!」

 

 

しかし、それはver.アルフォースとなったカケモンと四足歩行の獣型デジモン、ガルムモンとなったヴォルフモンに阻まれる。カケモンは高速でメフィスモンの周りを飛び、アルフォースアローで攻撃、ガルムモンも壁を高速で駆け上がると背中のブレードで切り裂いていた。

メフィスモンは二体の攻撃を同時に受け、地面へと落下する。そして膝を着きながらも立ち上がろうとしたが、その首に槍が突きつけられる。

 

「もうよせメフィスモン。大人しく捕まって罪を償え」

「お前には前科があるが、ここで捕まれば命までは取らない。素直に投降しろ」

 

レーベモンとガルムモンがメフィスモンの前に立つ。もう戦う力も残っていないだろう、正直ここで負けを認めてくれれば、というのはせめてもの良心だった。追放されたとはいえ元は古都の住民。心を入れ替えればまだ…そう思っていたのだ。

だがメフィスモンはそれを同情していると勘違いしたのか歯を食いしばると槍を払いのけ、距離を取る。

 

「バカに、バカにするなぁぁぁあああ!!ワタシは、オレはッ!闇を統べる王になるデジモンだ!!貴様らなんぞに、負けはせんのだぁぁああああ!!」

 

狂ったように叫ぶメフィスモンの手には闇のビーストスピリット。レーベモンは彼が何をしようとしているか気付き、よせと静止させようとするが時すでに遅し。

メフィスモンはビーストスピリットを自らの胸に押し込むと苦しそうにうめき声を上げる。そして次の瞬間、彼から闇の瘴気が溢れ出しデジタマの形を形成すると、それは巨大化。まるでキメラモンが誕生した時のような光景に城太郎が寒気を感じると、デジタマは弾け飛んだ。

 

「グゲエエエエエエエエエ!!!」

「まさか…スピリットを無理矢理取り込んだのか!?」

「アグニモン、あれは一体…?」

「…あの姿はベルグモン。闇のビーストスピリットで進化したデジモンだ」

 

目の前で羽を広げる巨大な怪鳥…ベルグモン。本来なら選ばれたデジモンしか進化することができないのだが、メフィスモンの執念かそれを可能にしたようだ。だが咆哮を上げるベルグモンは狂ったように辺りを見渡すと手当たり次第に口から炎を吐き出す。

スピリットに選ばれていない者がその力を使う。それは紛れも無い自滅だ。その力はメフィスモンを受け入れる筈もなく、彼は力に呑まれる。既にメフィスモンは一匹の獣となっていた。

 

「ぐっ、最早奴に正気は無い!全員で倒すぞ!」

「ああ!」

「わかった!」

「まかせて!」

 

アグニモンのセリフに各々が答えると行動を開始する。カケモンは飛び上がりアルフォースアローで攻撃を、アグニモンは遠距離から炎を飛ばす。ガルムモンは口からソーラーレーザーで攻撃し、レーベモンは隙ができたところから槍で切り裂いていた。

攻撃はそれなりに効いているようだったが決定打になっていない。ベルグモンはその羽を羽ばたかせると四体を吹き飛ばす。そして一箇所に集まったところで、その口から再び炎を吐き出した。

 

「「「ぐあああああああ!!」」」

「グゲエエエエエエ!!!」

 

叫びが聞こえ、勝利を確信したかのように吠えるベルグモン。だがしかし、その光景を見ていたタツヤと城太郎の目は揺るがない何故なら、まだ諦めていなかったからだ。

土埃が舞い、そして晴れるとそこにはスフィンクスのような盾を持ち、カケモン達から炎を防いだレーベモンの姿があった。ベルグモンは驚きのあまり大きな隙ができると、四体は飛び上がった。

 

「セットアップ、ジエスモン!」

「アップグレード! カケモン ver.ジエス!!」

 

三度姿を変えたカケモンとレーベモンはそれぞれアグニモンと人型に戻ったヴォルフモンの肩を踏み台に一気に近づく。そしてそれぞれの槍をベルグモンに突きつけた。

 

「グゲエエエエエ!!?」

「さぁ、トドメと行こうぜ!」

「ああ…これで終わらせよう!」

 

カケモンの言葉にレーベモンは頷く。それはアグニモン達も同様のようだ。四体は着地すると痛みでもがくベルグモンへと走っていく。ヴォルフモンは左腕のアームにエネルギーを込めて解き放ち、アグニモンは飛び上がると腹部目掛けて勢いよく回転し出す。

 

「リヒト・クーゲル!!」

「サラマンダー…ブレイク!!」

 

強力なレーザーと旋風脚が当たり、ベルグモンは天井近くまで浮かび上がる。苦悶の表情を浮かべる怪鳥だがまだ終わっていない。カケモンは壁を駆け上がるとアト、ルネ、ポルを呼び出し二体が当てた場所へと無双の攻撃を喰らわせる。

 

「武槍乱舞ゥ!!だりゃりゃりゃ!!!」

「グ、ゲェェェェェェェ!!」

 

巨大な相手だからなのか、カケモンはいつも以上の無数の突きを浴びせる。天井を背に受けたためにベルグモンは何度も天井に体をぶつけた。心なしか天井がひび割れたように思える。

 

「最後は譲るぜ、レーベモン!」

 

カケモンは攻撃が終わると、体を丸め下へと落下。その時に言ったセリフにレーベモンは確かに頷くと全身に力を込める。

するとどうだろうか…彼の上半身が膨れ上がり、胸にある獅子の鎧の口にエネルギーが溜まり出した。そして照準をベルグモンに合わせると、その力を一気に解放した。

 

 

「エントリヒ・メテオール!!!」

 

 

放たれた黄金の光はベルグモンに直撃。あまりの威力に天井は崩壊し、ベルグモンは外へと投げ出された。廃棄場内も崩れ始め、カケモンはタツヤと城太郎を回収し外へと出る。他の三体も同様に空いた穴から出ると、消えかかっているベルグモンに目を向けた。

 

「グゲェェェ…」

「オレも…もしかしたら奴みたいになっていたのかもしれないな」

「レーベモン…」

 

呟いたレーベモンの肩にヴォルフモンが手を置く。自分と奴に違いがあるとすれば、それはきっかけをくれた者と支えてくれた、信じてくれた者がいた事だろう。それだけは彼にもわかる気がした。

ベルグモンが完全に消滅するとそこに闇のビーストスピリットが残り、レーベモンの元へ一人でに移動する。そしてつい先ほどのように形を変えると、ヒューマンスピリットとはまた違う黒い獅子のような形になり彼の胸に吸い込まれていく。

 

「………オレは、変われたんだろうか」

「ああ、勿論だ」

「帰ろう。オレ達の街へ」

 

アグニモンとヴォルフモンは自分に目を向けると遠くからおーい、と声が聞こえる。走ってくるのは城太郎、その後ろからはタツヤとカケモンの姿があった。

ああ、そうだ。彼にも礼を言わなければな、と考えたところでレーベモンはそういえばまともな自己紹介をしていないことに気付いた。色んな事もあり、彼の名前がジョータローだという事は知っているが、それと話は別だ。

だからこそ今度はこちらから名乗ろう。あの時自信を持って言えなかった自分の事を。

さっきと変わった自分の事を。

胸を張って、大きな声で、

 

オレは闇の闘士なのだと。


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