デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

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二十四話 《オタクと少女と逆鱗 》

デジタルワールド滞在九日目…と言いたいところだが、この日はあえて省略して記載しておこう。

メフィスモンが起こした事件はこの日の朝には既に終結しており、召喚されたデジモン達も十闘士を筆頭としたデジモン達が全て倒していた。首謀者も倒したことにより、残りの後始末は十闘士がやる事となった。誘拐された城太郎と夜中に戦ったカケモンは部屋に入るなり爆睡、事件が終わるまで避難していたアサヒとミキもまたベットで睡眠をとる事となった。

 

余談なのだが、今回でレーベモン…元ダスクモンは事情を知らない他の十闘士に大いに驚かれたとか。その後、過去の文献からレーベモンの姿は本当の意味で後継者にふさわしい姿であると判明し、レーベモン達は大変喜んだ。おそらく力に呑まれることも無くなった事に喜びの表情が浮かぶのが目に見えてわかる。

 

そして今回被害にあった建物は少なくなく、本日は殆どの店が休業。昼になってその事を知った観光を楽しみにしていた彼らは大いに落胆していた。しかし最低限の携帯食や旅に必要な物などはその数少ない店で調達出来たので旅路に特に心配は無かった。

こうして九日目は終わり、翌日…デジタルワールド滞在十日目の朝。古都を離れる時が来たのだ。

 

 

 

「今回は君達三人に助けられた。古都のデジモン達を代表して感謝する。ありがとう」

「いいって事よ!あでっ」

「調子に乗らない」

 

アグニモンに元気よく返事をした城太郎の頭部を叩くタツヤ。一方のカケモンはどういたしまして、とやんわりながらも割と丁寧に返事をしていた。

現在タツヤ達がいるのは古都の港…通称ホエーモン港。タツヤ達はここでホエーモンというデジモンが引く船に乗って次の目的地までいく予定なのだ。あと十分ほどで初便というところでタツヤ達の目の前には十闘士が勢ぞろいしていた。

 

「君達がいなければ古都は最悪壊滅したかもしれないんだ。オレ達はそれだけ感謝している」

「そう、なのかな?」

「ああ、もっと自分を誇れ。お前達はそれだけの事を成し遂げたんだ」

 

アグニモンとヴォルフモンの言葉に照れくさくなりながらもタツヤはありがとうと一言言う。それとは別にレーベモンも城太郎に視線を合わせ、手を差し出してきた。

 

「ジョータロー、お前が居てくれて本当に良かった。お前のお陰でオレは変われたよ」

「おう!また遊びに来るからそん時は俺は今よりさらに上のエキスパートになってるからな!お前も頑張れよ」

「ああ」

 

体格差があるが手を握り返す城太郎。そんな彼を見てレーベモンは嬉しそうに返事をする。

ちなみにだが、今の城太郎のの背中には一本の棒が背負われている。実はこれはレーベモンの個人的なプレゼントなのだ。イビルモン達に立ち向かった城太郎の姿に何かを感じたのか、あるいは護身のためなのか。わざわざ趣味で鍛治をやっている土の闘士、グロットモンから手頃な武器を譲って貰ったものらしい。クロンデジゾイド製なので何気に丈夫だ。

城太郎はこれをとても気に入っており、背負っている。ミキによって棒をデータ化し、プロトデジヴァイスから自在に取り出せるのだが男のロマンがどうとかで今の形に収まったようだ。

 

 

「元気でねーーーー!!」

「またなーーーーー!!」

「ありがとうございましたーーー!!」

「じゃ〜〜〜〜ね〜〜〜〜〜!」

 

ホエーモンの引く船の上で十闘士達に手を振るタツヤ達。彼らもそれに答えるように手を振っていたが、既に見えなくなっていた。現在の時刻はまだ10時頃だろう。軽い朝食は済ませたので後は目的地に着くまで船に揺られて待つだけだ。

だがここで大きな問題ができてしまった。それは船に乗る上で必ず巡り合ってしまう光景。避けては通れないもの。

 

 

「うぷっ、おえええぇ…!なんだこりゃ、ぎぼぢわるいいい…!」

「ワレモンしっかりして!ワレモォォオン!」

「理解不能…理解不能…」

「さ、才羽さん、大丈夫ですか?お水持って来ますか?」

 

 

そう、船酔いである。

現在船の上ではワレモンとミキがぐったりとよろけており、それぞれカケモンとワレモンが介抱している。どうやら二人は船に乗る事が初めてらしく、船酔いと言うものを経験した事がないようだ。そんな二人を見かねたハックモンは船の責任者のハンギョモンに酔い止めの薬を貰って来ている。

タツヤとギルモンは苦笑いしながらもその光景を見ていた。

 

「た、大変そうだね二人とも」

「そうだね〜。でもカケモンは船酔いしないね〜」

「そうだね、前に乗った事あるのかな?」

「さぁ?…そういえばボク達カケモンの事そんなに知らないよね?」

 

え、とギルモンの言葉に疑問符を浮かべるタツヤ。そんな事はない、と一瞬思ったが思い返してみれば確かにそうだ。カケモンはどこから来たのか、ワレモンと出会う前は何をしていたのか、何故アップグレードという変化が出来るのか、まだわからない事が多すぎる。

そしてタツヤはふとある事を思い出す。それはまだカケモンとワレモンと出会って間も無い頃…《ANALYZER》で調べたカケモンを調べた時の事だ。

 

(あの時、カケモンのデータが何も表示されなかった。いや、というより欠けてるみたいに…)

 

(不具合だと思ったけど、カケモン以外を調べてもデータは問題なく出て来た。なんでカケモンだけ…?)

 

何かの間違いか、それともこれが正常なのか。タツヤは過去を振り返りカケモンの疑問の一つに触れる。ふと、彼の手はポケットに、デジヴァイスのあるポケットに手を伸ばしていた。そしてそれを掴み《ANALYZER》を起動させ、カケモンをカメラに写す。

 

 

表示されたデータは、あの時と何も変わっていなかった。

 

 

 

「「着いたーーーー!!」」

「うるせぇぞバカども…」

 

昼頃、ホエーモンの引く船は新たな大地に到着する。今までと同じように木々が生えているが、全体的に暗い印象を受ける。季節で例えるならあちらが夏でこちらが秋といったところか。

どうやらここで降りるのはタツヤ達だけのようだ。好奇心故かカケモンと城太郎は到着早々大声を上げ、ワレモンはそれに文句を言う。が、その声にいつもの覇気は無い。まだ船酔いの影響が残っているのだろう。それはミキも同じようでまだフラついていた。

 

「ミキ、平気?少し休む?」

「問題無い、進む…」

「…わかった。途中で辛かったら言うんだよ?」

「うん…」

 

「………」

 

タツヤとミキの会話の中、彼らを見る者が一人。この地に着いて一言も喋らない者…そう、アサヒだった。アサヒは彼らの様子を見て複雑そうな顔をすると溜息を吐いた。その溜息に含まれているものは何か、それは追い追い説明するとしよう。

 

「青春、と言うものか」

「何言ってるのハックモン?」

 

 

昼食を取りタツヤ達は森の中を進み出す。ハックモンが言う今度の目的地はここから近い”守り人の砦“と言う場所らしい。その名の通り巨大な砦がある場所を連想させたタツヤ達にハックモンは付け足すように言う。

そこはロイヤルナイツの生き残りが守護する場所だと。曰く、砦の向こう側からは年に数回凶暴なデジモンが周期的にやって来る為に作られた場所で、その昔七大魔王やそれに近い力を持つデジモン達がやって来た事もあった為、そこの守護をそのデジモンがやっていたらしいのだ。砦を超えた先にはデジモン達の村が、その先…海を渡った先には古都があるためにある意味重要拠点だと言われている。

 

そんな場所を任されているロイヤルナイツはどんなデジモンなのだろうか。カケモンはそれが気になってハックモンに尋ねると彼は苦笑いしながらも呟く。

 

「奴は堅物だな。二重の意味でだが」

「?硬いの?」

「ああ。っと、どうやら森を抜けるようだな」

 

遠目から見て木々の間から小屋のようなものが見えてきた。おそらく近くの村に着いたのだろう。案外早かったね、とタツヤはハックモンに言うが、何故か彼の顔は先程の顔とは違い訝しげな表情を浮かべる。

 

「ハックモン、どうしたの?」

「…村に気配が無い。いや、どちらかと言うと気配を消しているのか?ただ事ではなさそうだ、気をつけろ」

 

ハックモンのその言葉にタツヤ達は驚き顔を硬ばらせる。彼が警戒していると言うことは村に何かあったと見ていいだろう。タツヤ達は先程とは変わって一箇所に纏まりながらゆっくりと進んで行く。

周りを警戒しながらも歩き続けるタツヤ達。途中何者かに襲われる、と言うことは無く無事に村に踏み込む。

それと同時に呆然としてしまった。

 

「っ、村が…!」

「ボロボロ…です…」

 

遠くからでは分からなかったが、アサヒの言うように村の建物は殆どが廃墟となっていた。まだ奥の方に残っている家が何軒かあるが、それでも酷い有様だ。

ハックモンとギルモンは血相を変え、残っている家の内一番大きい家へと急ぐ。おそらくそこが村長の家なのだろう。何があったのか確認しなければならないのだ。

 

「すまない!ここを開けてくれないだろうか!オレ達は旅の者だ、ここで何があったか知りたい!」

 

家へと着いたハックモンは扉を何度も叩き声を張る。タツヤ達も遅れながらハックモンとギルモンの元へ辿り着いた。

しかし中からは返事は無く、ただハックモンの声が響くだけだった。

 

「中に誰もいねぇんじゃねぇか?」

「いや、中に確かに気配はする」

「でもハックモン、他の人の家に来た時はチャイムを鳴らすんだっておジイちゃん言ってたよ?」

「いや、この手の扉にチャイムは…」

 

 

「……ハックモンですってぇええ!!」

「ぐふっ!?」

 

 

ワレモンとカケモンの言葉に返していたハックモンは急に開けられた扉に吹き飛ばされる。ハックモン、とタツヤ達は吹き飛ばされたハックモンを見て、次に急に開いた扉に目を向ける。

そこにいたのは高校生程の人間…いや、デジモンだった。猫を象った黒いクロブークを被り、同じく黒い修道女の服を着たそのデジモンは銀色の髪をなびかせて吹き飛んだハックモンの元へと大股で近づく。その顔は少なくとも穏やかでは無かった。

 

「ハックモン…アンタ本当にハックモンなの!?何で退化してるのよ!っていうか今までどこほっつき歩いてたの!?心配させ…違った、アタシ達に迷惑かけてんじゃないわよ!!」

「の、ノワ…!くるし…!?」

「え、っと…」

「ハックモンの知り合いか?」

 

首を絞められ持ち上げられているハックモンに目を丸くするタツヤ達。今まで苦労人や真面目と言った言葉が似合うハックモンがまるで鬼嫁か何かに問い詰められているような光景に驚いている。

そして城太郎の質問に目の前のデジモンの拘束を逃れたハックモンは大きく深呼吸し、まあな、と答える。

 

「彼女の名はシスタモン ノワール。オレの…ある意味、師の一人だ」

 

 

 

シスタモン ノワール。

彼女はデジモンの中でも珍しい“姉妹”がいるデジモンである。本来デジモンは生殖行為はせず、親や兄弟などの概念は基本存在しない。あったとしてもそれは村での上下関係や親分と子分などと言った関係に使われるものだ。

しかし彼女には“姉妹”がいたのだ。それがどう言う経由でできたのかは不明だが、昔彼女は妹とともに路頭に迷っていた所をあるデジモンに拾われる。それはロイヤルナイツの一体であり、後に彼女達とまだ未熟であったハックモンの師となるデジモンだった。

 

彼女は妹とともにロイヤルナイツを目指すハックモンにそれぞれ戦闘訓練と身の回りの世話をした。それは師の命でもあり、何もする事がない故の退屈凌ぎだったのかもしれない。だがハックモンはそれを乗り越え、試練を超え等々ロイヤルナイツ…ジエスモンへと進化したのだ。

 

 

「…その後、オレは師匠とノワール達とは別行動でデジタルワールドを周り、ロイヤルナイツとしての使命を果たしていた」

「………痛くないの?」

「かなり痛い」

 

ミキがそう言うとハックモンは素直に即答する。彼の両頬は赤く腫れあがっていたのだ。

あの後、感情が爆発したノワールが往復ビンタした事が原因だった。ノワールはハックモンの言葉にもう一回やって欲しいのと目を細めていたが、言われた本人は目が泳いでいる。そんなハックモンにため息をつきながらもノワールは背後にある家の方へと向かう。

 

「立ち話をする気は無いわ。中に入って話すわよ」

「…その前に、ブランはどこにいる?」

「……」

 

ノワールは何も言わずに歩く。表情は見えないが彼女の雰囲気はさっきと違って落ち着いている。いや、そうせざるを得ない状況なのだろう。ハックモンは察したのか何も言わず着いていく。タツヤ達もそれに続いて後を追った。

 

 

「…アンタ達の旅の目的はわかったわ。でも残念だけどアタシ達も師匠を探している途中だったのよ」

「…その途中でこの村に着いたと?」

「そう言うことね」

 

ここまでのタツヤ達の旅の経由、そして現在のハックモンの状況などを聞いて、椅子に座り足を組むノワールは目を瞑っていた。情報の整理をしているのだろう、ただでさえ大ごとになりそうな上に七大魔王絡みになってきたのだ、考える事は多いのだろう。

 

「オレからも聞きたい。何故師匠と離れた?それに、」

「師匠に関してはわからないわよ。あの日…ロイヤルナイツが壊滅したあの日に師匠がアタシ達に手紙を送ったのよ。調べる事が出来たから暫く留守にする、って。あの時は突然の事で驚いたわよ。弱体化した師匠は長くは戦えない、それなのに一人でデジタルワールドを周るなんて、てね」

「そしてお前達は師匠を探し始めた、と」

 

そうなるわね、とノワールは腕組みをしながら返答する。彼らの会話を聞き、傍観しているタツヤだったが、なぜか彼は彼女に違和感を感じていた。感情を抑えているような、ありのままの自分でいないような…自分を無理やり落ち着かせているような、そんな気がしたのだ。

 

「では次にだが、何故この村には他にデジモンがいない?いや、それより何故君は一人なのだ?」

「…アタシしかデジモンがいないからよ」

「…ノワール、いい加減にしろ!オレが欲しい答えは…」

 

感情が高ぶったハックモンはいつもの冷静さを捨て叫ぶ。

 

 

と、次の瞬間…家の外で聞き覚えのある悲鳴が響いた。

 

「きゃぁぁああああ!!」

「ッ、なんだ!?」

「今の…沢渡さんの声!?」

「何ですって!?」

 

タツヤは立ち上がり外へと駆け出す。それ以外も遅れながらもタツヤの後を追った。そんな中でノワールはハックモンに怒鳴り散らすように言葉を投げかける。

 

「どういう事よハックモン!家の中に全員いたんじゃないの!?何で外にいるのよ!!」

「話に夢中で気が付かなかった!クソ、オレも鈍ったものだ…!」

 

ハックモンは吐き捨てるようにそう言うと悲鳴が響いた場所へとたどり着く。

そこには先に出たタツヤ達、地面に膝をつくミキとワレモン。

そして、濃い霧の向こう側で蠢く異形の影だった。

 

 

 

 

沢渡 アサヒ。

 

古武術の道場で生まれた彼女は誰に似たのか不明だが、比較的温厚であり、同時に自分を出せない性格をしていた。彼女の父と母、そして兄の側を離れず、他の誰かと関わりを持たず、視線を合わせる事にどこか苦手意識を持つ彼女は当然家族に心配される。

 

だが彼女はそんな家族の気持ちを、なんとなくだが察していた。それは幼い彼女にとって衝撃的な事だったのだ。

…家族に迷惑をかけている。自分はいい子ではないのだ。自分はいらない子なのだ。

そう思ってしまった瞬間から行動は早かった。

彼女は家出したのだ。

と言っても、当時の彼女は小学一年生。感情的になって飛び出したアサヒは行く当てもなく、ただひたすらに走るだけ。結果的に彼女は近くにある公園のベンチで座り込んでいた。

 

時間が経つ、日が暮れる、周りから人が消えていく。不安と悲しさは彼女の中で大きくなる。次第に彼女の目からは大粒の涙が溢れていく。もうこのままなのではないか、ひとりぼっちになってしまうのではないか?

家族が来てくれないのではないか?

 

 

“ねぇ、どうして泣いてるの?”

 

 

 

夢を見ていたようだ。少し懐かしい、出会いの記憶を少し引きずりながらもアサヒは目を開けた。気を失っていたようで、彼女は何があったのかをぼんやりとした頭で思い出し、立ち上がる。

そして周りを見るとここは洞窟の中だと確認した。おそらく自分を連れ去ったあのデジモンの住処なのだろう。そうわかった瞬間、アサヒは表情を曇らせた。

 

「あの、大丈夫です?」

「ひゃ!?」

 

背後から声をかけられたアサヒはその場で飛び上がり振り返る。自分だけしかいないと思っていたが、そうではないようだ。

そこにいたのは、少女の姿をしたデジモンだった。白い服に同じく白いウサギの被り物をしたデジモン…その顔を見てアサヒはどこかで見たような、と思っているとそのデジモンは申し訳なさそうに謝罪する。

 

「えっと…ごめんなさいです。驚かせちゃいましたよね?」

「あ、い、いえ…てっきり私一人だけだと思ってたから…」

 

アサヒは動悸を抑えながらもそのデジモンを見る。同時に冷静になったのか、目の前のデジモンに話しかけようとした。ここはどこか、彼女は何故ここにいるのか。

が、その前に口を開いたのは目の前のデジモンだった。

 

「あの、貴方も…オロチモンに連れ去られたですか?」

「オロチモン…?」

「はい。首が八つある大蛇のデジモンです。…ワタシも連れてこられたのでもしかしたらと思ったのです…」

 

そう言われ気を失う前の光景を思い出す。そうだ、彼女の言う特徴のデジモンに捕まって…。

アサヒは恐怖が蘇ったのかぶるりと震える。それを心配したのか目の前のデジモンは話を変えようとしたのか、アサヒの目の前に近づくと自らの胸に手を当てて口を開いた。

 

 

「ワタシはシスタモン ブラン。ブランと呼んでくださいです!」

 

 

 

この村にはとある言い伝えがあった。何百何千、それこそ十闘士伝説と同じくらい前から伝わるものが。

酒と見目麗しいデジモンを好み、気に入らないデジモンを容赦なく殺す残虐なデジモン…オロチモンがとある神の如きデジモンに封印されたと言う言い伝えだ。村のデジモン達は代々その伝説を聞いて育ち、オロチモンが封印されていると言うとある洞窟…かつてオロチモンが住処にしていた洞窟へ近付くなと言われてきた。

 

だが数日前の事だ。普段通り生活していたデジモン達は何かが地面に落ちたような地響きを感じ、一時的に混乱した。だがそれはすぐに止み、気の所為かとその時は思った。

だが、

 

 

「その次の日、村に伝説と同じ特徴を持ったデジモンが…オロチモンが現れ村を襲った、と」

「そうよ。その時たまたま立ち寄ったアタシとブランはオロチモンに戦いを挑んだけど…敵わなかった。そのせいで少なくない数の村のデジモン達が犠牲に…それにブランまで攫われて…!」

 

一度家に戻ったタツヤ達はノワールの話を聞いていた。この村に何があったのか、あのデジモンは何者なのか、それを話してくれたのだ。彼女は生き残ったデジモンを別の村に逃がし自分は妹を…ブランを助けるためにただ一人この村に残った。

だがオロチモンの住処に行こうにも霧が邪魔をして進めず、対策を練っていた所でタツヤ達が来たらしい。最初の焦りはそう言うことかとハックモンは納得し、目の前で拳を握るノワールに向け口を開く。

 

「ノワール、オレ達もヤツを倒す事に協力しよう。ブランは大切な妹分だ。それにアサヒも今やオレ達の仲間。放っておくわけにはいかない」

「そうだね〜。早く二人共助けよ〜」

「…ありがとう、ハックモン」

「兎に角善は急げだ。そうでないと…タツヤが持たん」

 

そう言いチラリと部屋の一点に目を向ける。そこには窓の外を見るタツヤ…その少し離れた場所に残りの四人が機嫌を伺う様にしていた。

実は、アサヒが連れ去られて一番に助けようとしたのはタツヤだったのだ。いつもの冷静さは何処へ行ったのか、オロチモンの去った霧の向こうへ一人走って行こうとした。だがとっさに城太郎に抑えられ未遂となったのだが、あのまま行けばどうなっていたかはわからない。

故に今の彼は不満を持ちながらもこの場にいた。早く助けに行きたいと、そう目に見える雰囲気を出している彼に城太郎達は小声で話し合う。

 

「な、なぁ、なんかタツヤピリピリしてねぇか?」

「タツヤ、ちょっと怖いよぅ…」

「あれじゃねぇか?前に沢渡が攫われた時の事があるから、余計気が立ってんだろ」

「…私のせい」

「ミキのせいじゃないよっ。あの時はえっとー…」

「お前何も思い浮かばねぇのに慰めようとすんなよ」

「今のアイツはあんま刺激しないほうがいいな…」

「うん…」

 

 

「話、終わった?」

 

 

今まで会話に参加、それどころか口を開いていなかったタツヤがこちらを見る。その顔はいつも通り…とは言えず、能面のように表情が消えていた。その事にカケモン達どころかこの中で一番タツヤを知っている城太郎までもが息を呑んだ。

こんなタツヤは見たことが無い。いつも怒らせていると自覚している城太郎でさえもこんな顔はさせた事は無いほどにだ。

 

「あ、ああ。だが焦るな。冷静さを失えば逆に彼女に危険が…」

「僕は冷静だよ。びっくりするほどね。それに急ぐことは大事だよ。そのデジモン…オロチモンだっけ?見目麗しいデジモンを好むんだったら沢渡さんもノワールの妹さんも危険だよ。それこそ時間が掛かればかかるほどね」

「でもアサヒのいる場所がわからないよ?霧が濃いし…」

「カケモン 、大丈夫だよ。沢渡さんはデジヴァイスを持ってる。城太郎の時と同じで場所がわかる筈だよ。だよね、ミキ?」

「う、うん…」

 

異様な雰囲気のタツヤに押され気味になりながらもミキは頷く。そう、アサヒはプロトデジヴァイスを持っている。もしかしたら、と確認したところ機能は問題なく、アサヒのいる大体の場所は特定できていた。

それを確認するとタツヤはありがとうと一言告げ外を見る。

 

内心では焦っているのだ。アサヒは以前バルバモンに連れ去られている。その時は自分も突然の事や情緒的な問題もあった為に直ぐに行動出来なかったが今は違う。場所も敵もわかる、自分もすぐに動ける。

今も彼女は囚われている…自分の意思とは言え危険の伴うデジタルワールドに来た彼女に万が一の事があってはいけない。彼女には帰るべき場所が、家族がいる。彼女だけじゃなく城太郎やミキもそうだ。

だからこそ、タツヤは胸に渦巻く感情を押し込んで、ただ一つの事を考える。

 

「絶対、助けるんだ…!」

 

 

 

「じゃあ、ブランちゃんもオロチモンに連れてこられたんですか?」

「はいです。でも驚いたです。ジエスモン…じゃなくてハックモンのお仲間さんだったなんて…」

 

一方、オロチモンの住処の洞窟ではアサヒとブランは岩場で話をしていた。どうやら今オロチモンは食事の様で洞窟の別の場所にいるらしい。今の内に逃げれば、とそうアサヒは行ったのだが現在オロチモンのいる場所は洞窟の入り口、対して二人がいる場所は洞窟の一番奥だと言う。出口が一本しか無いこの場所では逃げ場はなく、ブランにしても武器を取り上げられているので戦う事が出来ないのだ。

 

「今は待った方がいいです。ハックモンと姉様が助けに来てくれます」

「そうですね。きっと…浪川君達が来てくれます」

 

そういうアサヒの言葉に迷いは無かった。胸の奥に恐怖はある、だが不安は無い。タツヤ達はきっと来てくれる。そう信じているのだ。

そんなアサヒの表情からブランは笑顔で口を開く。

 

「信じてるですね。そのナミカワって人」

「………はい。多分、誰よりも信じてるんだと思います」

 

そう言ったアサヒの言葉に興味を持ったのかブランは話を聞きたそうに彼女を見た。キラキラとした目を見て女の子だなぁと思いながらもアサヒは目を瞑る。

思い出すのは過去の光景…先程まで見た夢の続き。

 

 

泣いていた自分に声を掛けたのは小学校のクラスメイトの男の子だった。今まで話した事の無かった彼は自分の隣に座ると泣いちゃダメだよ、と言いながら涙を拭ってくれた。それどころか何があったのか聞いてきたのだ。

本来なら人見知りする彼女だがその時は気持ちが高ぶっていたのだろう。自分の胸の内を、不安を、彼に話したのだ。

すると彼は何故か自分の事を話し始めた。自分の名前の事、家族の事、そして両親が遠い国に行っている事も。

 

正直両親が側にいない事にアサヒは動揺した。祖父は居てくれるらしいが自分ならとても耐えられない。だからこそ聞いた、平気なのかと。

すると彼は平気じゃないと言った。だが同時に大丈夫だとも言った。両親に会えないのは寂しいが、二人は自分を想ってくれている。この名前が、この心がそれを証明してくれているのだ。

 

“だから君も、もっとお父さんとお母さんと話してみようよ。そしたら君にも見つかるかもしれないよ、君にできるなにかが”

 

“だって自分の子供を大切にしない人なんてどこにもいないんだから!”

 

 

結果的に言うと彼女はそこから少しだが前へと進んだのだ。彼と話した後家へと帰り、叱られながらも家族と話をした。そして一部だが家の手伝いもし始めたのだ。何もやらない自分から少しずつ変わっていくために。

次の日に学校で彼を見つけた。…その時からかもしれない。彼から目を離せなくなったのは。彼の姿を目で追い始めたのは。いつからか不安定な様子になった彼に胸を締め付けられる様になったのは。

 

 

「じゃあその人はアサヒさんの白馬の王子さまですね」

「は、白…!?は、はいぃぃ…」

「…いいなぁ。ワタシにも王子さま来てくれないかなぁ」

 

ブランの言葉にアサヒの頭は沸騰する。ぼひゅっ、と音を立てながら顔を真っ赤にする彼女を横目にブランも要望を呟く。理想ではあるけど、カッコよくて、強くて、優しい素敵な王子さまが来ないかなぁ、と。

 

 

「仲が良い事は良き事かな」「デュフフフフフ!美少女二人の絡み合いたまりませんぞぉ!」「あー、たまらんお」「おおお、お主らやるねぇ」「ブランたん、いいよぉ」「(*´д`*)ハァハァ」「お、やりますねぇ。いいですねぇ!」「ヤバない?マジでヤバない?」

 

 

少女二人の作り出した柔らかな空気は下賎な者の声でかき消される。洞窟の奥から光る8対のやめ目が此方を見ていた。アサヒは凝縮し、ブランは彼女の前へと庇うように出る。そしてボソリ、とオロチモンと呟いた。

奥から出てきたデジモンを見たアサヒは脳裏にヤマタノオロチという蛇の怪物を思い浮かべた。それもそのはず、目の前のデジモンは伝承にあるヤマタノオロチそのものと言える姿をしていた。だが少しイメージと違ったのか、一本以外の蛇の首以外が機械的な所と、その口調が色々とおかしかったのだ。

 

「何をしに来たですか?」

「何を、か。」「いやー、ちょっと新しいコレクションの確認に来たんでつよ、セッシャ達」

「コレクション…?」

 

何を言っているのか分からず一度呟くブラン。同時にアサヒもその言葉の意味を考え、そして絶句した。オロチモンはそんな二人の事を放って別の首が話し出す。

 

「あー、オレの趣味だお」「かかか、可愛いデジモンを集めてコレクションするのが、おお、オレの趣味だねぇ」「君デジモンじゃないけど可愛いから連れてきたんだぁ」

 

呆気らかんと言った様子でオロチモンは語る。曰く、封印から解放されたのはいいものの、近くの村には自分の好みのデジモンが居らず腹いせに暴れたと。曰く、その時いたブランを気に入り連れ去ったと。

それを聞いたブラン、そしてアサヒはそんな事ができるオロチモンに嫌悪の表情を見せる。特にアサヒはブランの後ろから前へと出て目の前の怪物を睨みつける。

 

「貴方は、そんな理由で村を襲ったんですか!?それにブランちゃんまで…!ふざけないでください!貴方…最低です!」

「(´・ω・)」「言いますねぇ!生意気言いますねぇ!」「あ?コイツコレクションの癖に生意気じゃね?やっちゃってよくね?」

 

アサヒの怒りの言葉に逆上したような様子のオロチモン。8本ある内の一本の首がアサヒを捉えると彼女の目の前に近付き、口を開く。

ブランは庇おうとするが、一瞬遅かった。オロチモンの口からピンクの息のようなものが出てアサヒを包み込む。アサヒさん、と悲鳴混じりで叫ぶブラン。

 

それとほぼ同時だった。彼らのいる洞窟の壁が破壊されたのは。

 

 

「「「うわああああああああ!!?」」」

 

 

絶叫と共にオロチモン並に大きな竜型のデジモンが壁を壊し目の前へと到着する。その事にブランはもちろんオロチモンも取り乱した。

 

「な、何です!?」

「何だ?」「敵襲でござる!敵襲でござるー!?」

 

喚く一本の首を放って残りのオロチモンの首は敵であろうデジモンを見る。そのデジモン…カケモン ver.エグザは両腕から一緒に来ていたタツヤ達を下ろしオロチモンを睨みつける。

そう、あまりにもタツヤが急ぐ為、彼らは現在機動力があるver.エグザでアサヒのいる反応の場所に一気に来たのだ。だが悲しい事に途中の木々や岩を壊す衝撃は消せず、腕の中にいた者たちは少なからずダメージを受けていた。

 

「いったぁ…!あ、ブラン!」

「姉様!それにハックモンも!」

「無事かブラン…っ!?」

 

ブランの様子を見て安堵するノワールとハックモン。だがカケモンは見てしまった、ブランの膝下で倒れるアサヒの姿を。心なしか顔が赤く息が荒くなっているようにも感じる。

 

「貴様、アサヒに何をした!?」

「あー、ちょーっとオレの技を出しただけだぞー」「くくく、苦しいのは最初だけだからねぇ」「アサヒたんっていうんだぁ。いいねぇ。コレクションの名前は覚えないとねぇ」

 

オロチモンから発せられた言葉にハックモンやギルモン、それにノワールも理解した。それどころか城太郎やミキ、カケモンまでにもだ。同時に先ほどのブラン達同様嫌悪の表情を浮かべる。だがそんなことは露知らず、オロチモンはその視線をミキへと向けた。その視線は欲望を含み嫌悪感を感じる。

 

「(*´Д`*)」「そっちの子もいいですねぇ!コレクションにしちゃいますかねぇ!」「ニンゲンパナくない?マジパナくない?」

「っ!?」

 

思わず自分を抱きしめるように腕を抱くミキ。それもそのはずだ、自分もそういうモノと見られていい気はしない。他の者も仲間や友達をそういう風に見られた事に怒っている。

 

–––––だからこそ気付いていなかった。

 

 

「くだらない…」

 

 

ただ一人、静かに感情を昂らせていた事に。

ただ一人、オロチモンに目を向けずにいた事に。

ただ一人、なにかをされたであろうアサヒを見つめていた事に。

 

 

「た、タツヤ?」

「なに?今なんと言った若造」

「くだらないって言ったんだよ。そんな馬鹿みたいな理由で村のデジモン達を襲った?沢渡さんを攫った?それに今度はミキまで?ハハ…本当にふざけてる」

 

城太郎が震えた声で呼んだ事に気付かない。いや、それ以前にここに来てアサヒの事を見てから既に周りの会話を聞いているようで聞いていなかった。ただ情報だけが頭に残り、それ以外は消えていく。

 

タツヤの中で何かが切れ、燃え上がり、煮え立っていく。これが純粋な怒りなのだという事を理解し、同時に問題が起きた。

タツヤはこの感情を制御しきれない。十年近く激しい怒りを表に出さなかった為に彼はそのぶつけ方を、表現の仕方を知らないのだ。

だがらこそ、今の彼は清々しいほどに、

 

 

「本当、––––––笑わせてくれるよ」

 

 

笑っていた。

その笑みを見た瞬間、タツヤを知る者達から鳥肌が立ち始めた。清々しいまでの笑み、だがその瞳の奥から見えるものは今まで見ることのなかったもの、それにゾッとしてしまったのだ。

タツヤはそんなものは知らないとばかりにデジヴァイスを手に取った。

 

「セットアップ、オメガモン」

「アップグレード!カケモン ver.オメガ!」

 

洞窟の中では巨体で行動するのに無理があると判断したのだろう、タツヤはカケモンをver.オメガへと変える事を選択した。一方のカケモンはタツヤの変化に動揺しながらもオロチモンへとウェポンΩの弾丸を打ち込む…と見せかけてカウンター気味にブランとアサヒの元へ飛ぶ。そして二人を両手で抱えるとオロチモンから離れた位置に着地し、二人を守るように光弾を放ち始めた。

 

オロチモンはその尻尾と首で光弾を弾く。そして今度は剣で戦い始めたカケモンと尾が変形した刃で交戦するが、その時オロチモンの首の内の一本が見てしまったのだ。戦っている間に自らのコレクションを奪おうとする盗人達の姿を。その首の一本は強欲だったのか、戦いよりもそちらの方を取り戻そうとしアサヒ達の元へ向かうハックモン達の元へ首を伸ばす。

その事に気付いたのかハックモンにギルモン、ノワールが戦闘態勢に入る。それに加え城太郎までもが先日貰ったクロンデジゾイド製の棒を構えた。

が、それは横から来たタツヤに取られ、

 

「伸びろ」

「あぐぅぅ!?」

「「「四号ゥゥゥ!?」」」

 

迫るオロチモンの首の眉間に深く突き刺さった。余談だがこの棒は伸縮を声一つで変えることが出来る。今タツヤが伸ばした長さはこの棒が出す最長の長さだった。その証拠にオロチモンの眉間は深く深くめり込んでいる上にビタンビタンともがき苦しんでいる。

 

「いっでぇぇぇぇええぇぇええええ!!?思い切りあたったったぁぁぁっぁあ!!」

「痛みは首一本分だけ…?…そうか、繋がってる所にやればいいのか」

「た、タツヤ…」

「縮め」

 

城太郎はタツヤに棒を返す用に言おうとしたがその前にタツヤは棒を元の長さに戻す。返してくれるのか、と一瞬目を輝かせた城太郎。だが現実は非情だ、タツヤは棒を構え直すと狙いをオロチモンの胴体へと変え……呟き始めた。

 

 

「伸びろ縮め伸びろ縮め伸びろ縮め伸びろ縮め伸びろ縮め伸びろ縮め伸びろ縮め」

「「「あんぎゃああああああああああああああ!!!?」」」

「やめろタツヤァァァアア!?敵だけどなんか可哀想になってくる!?あと俺のジョイ棒返してくれェェェェェェェ!!」

「え、これそんな名前なの?うわダサいね、センス現実世界に置いてきた?」

 

無表情で息継ぎをせず呟くタツヤに叫ぶオロチモンと城太郎。俺の見せ場なのに俺の武器勝手に使わないでくれよと言うニュアンスが伝わって来るがタツヤはそんな事はお構い無しに毒を吐く。そしてそれがとどめとなったのか、城太郎は膝から崩れ落ちた。

 

「そ、そんなにダサいのか…?」

「カケモン 、とどめお願い」

「あ、はい」

 

背後で膝を着く城太郎を無視し支持を出す。カケモンもカケモンで今のタツヤに怯えているのか返事が早かった。カケモンはウェポンΩの砲台を胴体を連続で攻撃されグッタリしているオロチモンに向ける。正直オロチモンがした事は許さないがなんか少し可哀想になって来たがそれはそれ。カケモンはキッチリととどめを刺す。

 

「……こ、コキュートスハウリング!」

「「「もうちょっとやる気出せよォォォ!!」」」

 

断末魔にしてももう少しいいのは無かったのかと言いたいが死人に口無し、オロチモンは全身を氷漬けにされ、そして粉々になった。

それを見届けたタツヤは怒りの矛先が居なくなったと同時に内側にあった怒りを鎮め足早にアサヒの元へと向かう。既に意識は取り戻したのか、アサヒはハックモン達に囲まれながらも静かに座っていた。

 

「沢渡さん、大丈…」

「えーい」

 

彼女の目の前に来た瞬間、タツヤは心配していた本人に押し倒された。そう、押し倒されたのである。今までのアサヒはこんな事をする筈がない、予想外の行動にタツヤは頭が真っ白になる。それは周りも同様で固まってしまった。

 

「えへへぇ、浪川くんでしゅ。今日もかっこいいでしゅねぇ」

「さ、沢渡…さん?」

 

髪から覗く焦点が合ってない目でアサヒはタツヤのマウントを取り、彼の手首を掴んで離さないでいる。その様子に混乱したタツヤは彼女の異常な様子に少し口元を痙攣らせる。同時に彼女から何故か酒の臭いがする事に気付いた。

ちなみにだがオロチモンが放った技が酒ブレスと言う技だと言う事は後で知る事になる。

 

「違いましゅよぉ!アサヒでしゅよぉ!沢渡さんって呼ばないでくだしゃい!」

「え、いやでも…」

「タツヤ、大丈夫?」

「ミキ、ごめん。沢渡さんをどかしてもらってもいたたたた!?」

 

固まっていた周りの中で唯一動けたミキがタツヤに助け船を出すが、それと同時にタツヤの頰に痛みが走る。その痛みの正体は頰を膨らませてタツヤの頰をつねるアサヒだった。何故か拗ねた様子でタツヤを見ている。

その様子を見て助けようとしたミキだったが、何故か胸に違和感のようなものを感じる。より具体的に言えばモヤっとしたのだ。

 

「……?」

「ちょっ!沢渡さん、つねるのやめ…」

「ふーん、しゃいばさんはミキでわたしは沢渡さんなんでしゅか。ふーん」

 

今度は両方の手でタツヤの頰をつねるアサヒ。タツヤはミキに助けを求めようにも彼女は何故かその場で立ち尽くしてしまった。もしかしたらもう少しこのままかも、と覚悟した所でタツヤの両頬は解放される。それと同時にアサヒは俯いてしまった。

 

「ずるいでしゅ。しゃいばさんだけ、わたしだって名前で呼んで欲しいんでしゅ…」

「沢渡さん…?」

「だって、だって、わたしは…私…は…?」

 

何か呟いていたアサヒは顔を上げる。その顔は先程と違い、いつもの彼女と同じものだった。キョトンとした表情で周りを見渡し最後に下を、タツヤの方を向く。そして数秒、ワナワナと体が震え出し先程以上に顔を赤くさせると、タツヤの上から飛び降りるとペコペコと頭を下げ始めた。どうやら技の効果、というより良いが覚めたのだろう。

 

「すすすすみません、すみません!?重かったですよね、と言うよりつねってすみません赤くなってますし冷やさないと、お水、お水はどこに…」

「…あはは」

 

オロオロとするアサヒを見て思わず笑ってしまう。それはオロチモンに向けたものと違って自然なもの。赤くなったり青くなったりするアサヒの顔を見て少し可笑しくなったようだ。

 

「な、なんで笑ってるんですか?」

「ご、ごめん。ちょっと可笑しくって…」

 

少し不満げに言う彼女に笑いながらも謝るとタツヤは立つ。そして一息つくと、アサヒに手を伸ばした。

 

「さぁ、早くここから出よう…アサヒ」

 

その一言にアサヒは髪に隠れた目を大きく見開く。そして自然と笑みがこぼれ先程と違う意味で顔を赤くする。

アサヒはその手を強く握る。まるで幼い頃のように、その手を取ってくれたタツヤを見つめていた。

 

いつだって彼は自分を助けてくれた、あの時だって、今この瞬間だって。

いつかは儚く消えてしまうかもしれない、でもこの感情を否定する事なんてできはしない。

あの時から…いや、この一瞬でさえも、

 

 

「…はいっ、タツヤ君!」

 

 

沢渡 アサヒは恋をしている。

 

 

 

「ジョータロー、あれをどう見る?」

「あー、多分仲間外れは嫌だったんだろうなーって感じに思ってんじゃね?」

「タツヤ鈍いね〜」

「………」

「ミキどうしたの?」

「さっきから動かねぇなコイツ」

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