デジタルモンスター Missing warriors 作:タカトモン
ハックモンは頭を抱えていた。
理由は二つ。一つはオロチモンが復活した原因についてだ。ノワールの話ではオロチモンが現れる前日になにかが落ちたような音、地鳴りが村中に伝わったと言う。これだけの情報からだと、何者かがオロチモンの封印を解いたのかと言う事しかわからない。
だが、そうなると一体何者が解いたのか?伝説とはいえ、神の如き力を持つデジモンが施した封印を並大抵のデジモンが解けるとは思えない。
それに理由も謎だ。オロチモンを解放するメリットがあるのか?昔暴れたデジモンを手懐けるつもりだったのか、それとも…。
と、ここまでは真面目な悩みだ。
そして頭を抱えるもう一つの理由はと言うと、
「あ、あの!」
「?どうしたの?」
オロチモンの洞窟から村を出たタツヤ達は村で一晩過ごす準備をしていた。本来であれば村で少し休憩しつつ夕方頃に防人の砦に着く予定だったのだが、オロチモンの件もあり大幅に時間が過ぎてしまったのだ。それに捕まっていたアサヒとブランも休憩が必要だろうと言う意見もあったため、一夜を過ごすこととなった。
そんな中で、薪拾いをしていたカケモンにブランが声をかけていた。
「ワタシ、シスタモン ブランって言うです!ブランって呼んでくださいです!」
「うん、わかった!ボクはね、カケモンって言うんだ」
少し緊張した様子のブランに対していつも通りの対応をするカケモン。だがカケモンの名前を聞いた瞬間、ブランは熱でもあるかのように顔を赤くさせカケモンの名前を呟く。
「カケモン、様…」
「?違うよ?カケモンだよ?様はいら」
「好きな食べ物はなんですか!?ワタシでも採れるものですか?さっきの凛々しい姿ってまたなれますか!?あ、別に今も可愛くてギャップがあっていいですけど。あ、それとワタシ成長期ですけど大丈夫ですか!?」
「ちょ、ちょっとブラン!!」
カケモンに詰め寄るように次々と言葉を並べるブランに遠目から見ていた姉のノワールは焦り気味に近づいた。それもそのはずだろう、生まれて来てからずっと見てきたブランが見たことのないような表情をして初対面のデジモンに詰め寄っているのだ。焦らずにはいられないだろう。
そんなブランの様子に若干引きながらもカケモンは一番最初の質問に律儀に答える。
「え、えっとぉ…好きな食べ物はドーナツだよ??」
「ドーナツ!?どこで採れるですか!?ちょっと探してきますです!」
「ブラァァァァァアアン!?」
そう言って森にダッシュするブラン。それに対し一瞬遅れて駆け出し、アメフト選手顔負けのタックルを彼女の腰に当てるノワール。両者とも地面にうつ伏せに倒れたが、ブランは腰に抱きつく自分の姉を引きづりながらも再び歩き続けた。
「止めないでくださいです姉様っ!ワタシは愛に生きるって決めたんです!」
「何言ってんのアンタ!?それより師匠探す方が大事でしょ!?」
成熟期と成長期の差は何処へやら、ノワールの正論を無視しブランは前へと進み続ける。
…ここまで来れば大体察せるだろうが、どうやらブランはカケモンに恋をしてしまったようだ。しかも一目惚れで。
洞窟でカケモンに抱えられた時がきっかけのようで、それ以来こうなのだ。
「どーしたんだろ?あいたっ!?」
「お前アホか!?あんなのどう見てもお前に…」
「コラぁぁぁぁ!カケモン様を虐めるなです!!」
「うわ早っ!?」
ブランの行為に首を傾げるカケモンにいつも通りに拳を振るうワレモン。だがそれを見たブランは進行方向をワレモンに変更してブランを振り切り走り出す。何気に自分の槍を持っている所から結構怒っているのだろう。ワレモンは叫びを上げながらも逃げ出した。
「なんか、ますます賑やかになったね」
「あ、あはは…」
「?彼女の行動がよくわからない」
「うちの、うちの妹が壊れたぁぁぁあ…!」
「面白いね〜」
何人かは苦笑い気味に、一人は疑問を浮かべ、一人は嘆き、一人は面白がる。こんなカオスな光景を見て、一行の責任者とも言えるハックモンは頭を抱えずにはいられなかった。気の所為で無ければ、胃も痛い。だがまだその程度でいられる。
「俺…名付けのエキスパートじゃなかったのかなー」
ただ一人、未だ放心状態の城太郎がいたからというのも記載しておこう。
一晩明けてデジタルワールド滞在十一日目となった今日。タツヤ達はシスタモン姉妹と共に防人の砦に向かっていた。何故彼女達がいるのかと言えば、理由は二つ。
一つはハックモンと彼女達の師匠についてだ。タツヤ達と姉妹の旅の共通点はその師匠の探索というのも含まれている。行方を探すシスタモン姉妹とハックモンの利害は一致しているからだ。
そしてもう一つはブランが離れたく無いとワガママを言ったからだろう。その訳は上述した通りなので省くがよっぽど離れたく無いのか、彼女はカケモンを抱き上げながら移動している。カケモン本人はまんざらでもなさそうだが、ワレモンの目が痛いのは余談である。
恋というのは人だけではなくデジモンも変えるようだ。
歩く事約二時間、霧掛かった森を抜けたタツヤ達の目の前には巨大な壁がそびえ立っていた。横を向いても地平線まで続く巨大な壁、現実世界で言えば万里の長城のような見た目をしている。だが大きさはこちらの方が数倍上だった。まさに防人の砦と言える場所だろう。途中城太郎が空から来たらどうするのかと問われたが、それに対し特殊な結界を張っているから問題ないと答えた。
少し場所を移動し、一番警備が敷かれている場所、すなわち砦の責任者であるデジモンが居そうな場所に着いたタツヤ達。大きな門の前では姿形が同じだが色が白と黒で分かれているデジモン、ポーンチェスモンが門番をしていた。そして門に近づくタツヤ達に気付くと門番の二体は彼らに向けて槍を構える。
「待て貴様ら、何者だ!」
「オレはハックモンと言う。ここの主人であるマグナモンに拝見したい」
この手のやり取りに慣れているハックモンは動じず答える。そしてその名前を聞いたポーンチェスモン達は槍を引いてヒソヒソと話し始めた。
「ハックモン…?たしか…ロイヤルナイツの…」
「どうする?」
門番の立ち位置にいるためか判断がつかないポーンチェスモン達。そして数秒立つと一体が門をくぐり中へと入っていった。どうやら直接聞きに行ったらしい。さらに数分が経過した時、門は開かれた。
中はレンガで作られた無骨な場所だった。守るための拠点というのもあるためか、華やかさは一切存在しない。そしてなによりも気になるのが、周りにいるデジモンだった。ハックモンが言うにはここにいるデジモンはポーンチェスモン系統のデジモンのみらしい。だが、今通路に見えるのはそれとは全く違うデジモン達だった。しかもそのデジモン達は大半が負傷している。大小の差はあれど、その光景は見て痛々しかった。
ハックモンはおかしいと思いながらも道案内するポーンチェスモンに負傷しているデジモン達の事を聞こうとした。だがその前に前を歩くポーンチェスモンは立ち止まりその場で膝を着いく。同時に気付いた、目の前から歩いてくる同胞の姿に。
目の前に現れたデジモンは鎧を着た竜人のような姿をしていた。全身を黄金であっただろう鎧を纏うデジモンはハックモンを見下ろしている。
「マグナモン…」
「生きていたか、ジエスモン…いや、今はハックモンか。それに…」
「………」
「なんのつもりかは知らんが、よくもそんな格好でいられるな」
そのデジモン…マグナモンはハックモンの後ろにいるギルモンを見ると、仮面の奥で不快そうにそう言った。なんのことかさっぱりわからないがあまりいい雰囲気ではなさそうだとタツヤ達は少し緊張している。
そうしていると彼は今度はタツヤ達を見て一息つくと彼らから背を向けた。
「ワタシに話があるのだろう?付いてくるがいい。…ただし、部外者が来ることは許さん」
そう言って歩き出すマグナモン。どうやらタツヤ達が来ることを快く思っていないらしい。一方、ハックモンはタツヤ達に申し訳なさそうな表情で言ってくる、と告げ彼に着いていった。
一体今のはなんだったのか、タツヤ達は二人の背中を眺めているのだった。
…ただ一人、ギルモンを除いて。
「カカカ、随分と戦ったようじゃの。モスドラモンよ」
「…ふン。質が低い者たちばかりだったがナ」
ダークエリア、デジタルワールドで言う地獄に当たる場所でとある魔王は愉快そうに笑っていた。その魔王…バルバモンは目の前にいる二人のデジモンと人間を見て愉快そうに目を細める。
バルバモンに答えたのは蛾のような羽を持つ竜のデジモン、モスドラモン。彼は不快そうに鼻を鳴らすと近くに腰をかける。その言葉には偽りはなく、今の彼の実力では並大抵のデジモンを相手にするには物足りなくなって来たのだ。
そしてもう一人、顔に火傷の跡を持つ人間、“A”はポケットに手を入れながらもバルバモンへと問いかける。
「それで、俺たちを呼んだのはそれなりの理由があるんだろう?」
「話が早くて助かるわい。…今から“防人の砦”を攻める。付いてくるがよい」
「…それだけの為に呼んだのか?」
「カカカ、まさか!…あそこには例のデジモンと人間がいるぞ」
「っ!」
「ほウ、あの時ノ…」
バルバモンの言葉の意味がわかったのか、“A”は顔を歪めモスドラモンはここに来て初めて笑みを浮かべる。表情は対極にある二人ではあるが脳裏に浮かぶのはある人間とデジモンの二人組。過去何度か戦った事のある彼らにとってもはや因縁のようなものを感じていた。
故に、彼らがバルバモンに返す言葉は既に決まっていたのだ。
「んだよ、あのマグナモンってやつ!ムカつく野郎だな!」
「ワレモン、ちょっと抑えて」
砦の中の待合室ではワレモンがイラつきを隠そうともせず、悪態をついていた。それは部屋の前にいるポーンチェスモンにも聞こえるほどの声量で、思わずタツヤもワレモンを咎める。
「だけどよ、ワレモンの言うことわかるぜ。なんか感じ悪いっつーかよ」
「たしかに、これまでの他のロイヤルナイツと比べると友好的ではない」
「えっと、そう言う方なんですよ、きっと…」
「カケモン様、あーん」
「むー、ボク一人でも食べられるよー」
「アンタ達なにしてんのよ…」
ワレモンに同意する城太郎とミキ、フォローしようとするも言葉尻が弱くなるアサヒ。会話に関係なくドーナツを食べさせようとするブランとそれに呆れるノワールと反応は様々だ。たしかに、先ほどのマグナモンの態度は友好的とは言い難いが、それだけで彼を決めつける訳にはいかない。だからこそ、タツヤは先程から黙って座っているギルモンに目を向けた。
「…ねぇ、ギルモン。ギルモンなら何か知ってるんじゃないの?」
「ん〜?どうして?」
「いや、ハックモンから何か聞いてたりしないかなって」
正直その言葉の裏には半分ほど探りを入れている。これまでのギルモンというデジモンはどこか表と裏がある印象を受けていた。幼いような言動もあればそれと真逆の晩年の戦士のような面も見える。共に旅する仲間ではあるものの、彼にはまだ何かあるようでならないのだ。故に、タツヤは期待も込めてそう言ったのだ。
「……マグナモンは変わっちゃったんだよ。ほんのちょっとだけね」
目を瞑り、ギルモンはそう呟く。その雰囲気はいつも見る幼いものとも、戦士のようなものとも違った。まるで、何かを振り返るような、そんな雰囲気だ。
マグナモンはロイヤルナイツ結成初期にいた、所謂最古参の一体である。まだイグドラシルが現れなかった頃から活動している彼はプライドは高いが、今のように共に戦う者には敬意を評し、また信頼していたのだ。それはロイヤルナイツのメンバーが増え、イグドラシルが現れてからも変わりはしなかった。
…だがある時、事件は起きた。
あるロイヤルナイツの一員がイグドラシルの命を破り、消えるはずだった村を…デジモンの命を救った事がきっかけだった。そのデジモンはマグナモンの盟友であり、イグドラシルのミッションを完璧にこなしていたデジモン。
だからこそマグナモンにはわからなかった。何故そんな真似をしたのか、何故そうする必要があったのか。
その時からマグナモンは誰も信用できなくなってしまった。同胞にも、自分の部下にさえも、気を許す事は無くただ己の使命を全うする。そんな存在となったのだ。
「それで、このワタシに協力しろと?」
「ああ。今の状況では、より多くのデジモンの力が必要となる」
マグナモンは背を向け、ハックモンの話を聞いていた。自分がこれまでなにをしてきたのかは勿論、タツヤとカケモン達との出会い、そして敵の情報などを事細やかにだ。その話を聞いていながらもマグナモンはハックモンの方を一瞥もせずただ背を向けていた。
それはロイヤルナイツに加わってから見てきたマグナモンその者であり、今更動じることのないハックモンは協力を持ち掛けている。そして沈黙すること数秒、マグナモンは会話を始めてやっとこちらを見た。
…だがその表情は良いとは言えず、むしろハックモンを見下している。
「貴様には失望したぞ、ハックモン。力を奪われた事は我々の失態とは言え、なんも関係のないデジモンに…よりにもよって人間の子供の手を借りてきた貴様にはな」
腕を組んだマグナモンはそう言うと近くにあった椅子へと座り込む。余程立腹しているのか、少々乱暴気味に座った為椅子が軋む音が聞こえた。それに対してハックモンは顔を曇らせながらも反論を始める。
「……だが、それしか方法は無かった。それに彼ら自身も覚悟をしてここにいる」
「だからと言って無関係な者を戦わせていい理由になるのか。貴様はロイヤルナイツとしての誇りを忘れたのか!?」
「忘れてなどいない!だが、」
「くどいぞ、ハックモン!これ以上話す事などない!」
感情に任せて立つマグナモン。語気が荒くなっていることからこれ以上は会話が出来そうにない。彼が落ち着いてからまた説得するべきだと、そう判断した瞬間だった。
部屋の扉が勢いよく開かれ、そちらに二人の視線が移動する。そこにいたのは白い鎧を纏ったポーンチェスモン。余程慌てて来たのか、息が上がっていた。
「ま、マグナモン様!大変です!」
「馬鹿者!用が終わるまで入るなと…」
「しかし、一大事なのです!」
怒鳴るマグナモンに萎縮しながらもポーンチェスモンは口を開く。緊急事態、と言う言葉が脳裏に浮かび二人は何か嫌な予感めいたものを感じる。それは予想よりもはるかに上の…最悪の事態だった。
「七大魔王が、バルバモンが大軍を引き連れて現れました!」
砦の一番上、灯台に当たる場所に移動したハックモンとマグナモンはそこから特殊な装置で遠くから迫る大勢のデジモンの軍勢を見ていた。そしてその中にはロイヤルナイツの宿敵とも言える七大魔王の一体、バルバモンの存在も確認できた。
そこまでならまだいい、問題はその軍勢に混ざるデジモンについてだった。
「馬鹿な、あの中には古代デジタルワールドに栄えたデジモンが何体かいるぞ…!」
「やはり、竜の谷のマンモン達は奴の…」
マグナモンが言う通り、バルバモンの軍団の中には古代のデジタルワールドに存在した、今はその数が限りなく少ないはずのデジモンが存在した。ハックモンもそれを確認し、確信する。
以前、竜の谷での戦いの時に対峙したマンモン、それが今バルバモンの率いる軍勢の中にも混ざっているのだ。同時にあの戦いを引きお起こしたのはバルバモンだと理解し、ギリッと牙を噛みしめる。
そしてそんなハックモンの様子はいざ知らず、マグナモンは報告の時からついて来たポーンチェスモンに命令を下す。
「全戦闘員に告ぐ!これより我らは七大魔王、バルバモンの率いる軍団を迎え撃つ!総員戦闘準備せよ!」
「ハッ!」
「待てマグナモン!今この砦には負傷しているデジモンが大勢いる!それでも迎え撃つつもりか!?」
ハックモンの言う通り、今の砦の中には負傷中のデジモンが大勢いた。彼らはとある理由で住んでいる場所を無くし、この防人の砦に保護を頼んできたのだが、道中で強力なデジモンに襲われた事もあり、今も動けない者も多い。
そんな彼らがいる中で戦闘を始めたらどうなるか?…少なくともタダでは済まないだろう。下手をすれば命を落とす、そう予測できる。特にバルバモンが直に率いる軍団だ、砦そのものも無傷ではいられない。
マグナモンはそう指摘されて、目を瞑った。心なしか握った拳が震えているようにも見える。そしてマグナモンの返答は以前変わりないものだった。
「…無論だ。ここは“防人の砦”、ここで引けば壁は崩れ、被害は広がる」
「だからと言って非戦闘員を見捨てるつもりか!?」
「我々が戦わずして誰が戦う!?今失う命とこれから失われる命!どちらが重いか貴様もわかるはずだろう!?」
「だが…」
「やめてよ」
感情的に言い合うハックモンとマグナモンの間にこの場にはいない誰かが口を挟む。そのデジモン…カケモンは少し息を切らしながらもその目は二人から離さない。後から続くタツヤ達も今の状況を理解したのか、息を飲んでいた。
「カケモン…」
「やめてよ、こんなのおかしいよ!二人は仲間なんでしょ?なんでこんな所で言い争わなきゃいけないの!?」
先ほどの会話を聞いていたのか、カケモンは二人に向かってそう叫ぶ。まだ知識や精神が幼いカケモンにとって至極当然だが、今の状況で争っている暇はない。それに聞き間違いでなければマグナモンはここにいるデジモンを犠牲にしようとしていた。それがカケモンにとって耐えられるものでは無かったのだ。
「お前には関係のない事だ」
「関係あるよ!ボクはハックモンの仲間なんだ!それにボクはここにいるんだ、放ってなんかいられないよ!」
冷たく突き放すように言うマグナモンに食い下がらずカケモンは抗議する。ここまで維持を張るカケモンは見た事がないとワレモンは後に語った。
カケモンとしても不思議だった、何故これまで感情的になれるのか。この胸の引っ掛かりは一体何か、わからないのだ。
まるで自分ではない誰かが、口を動かしているような…そんな気がしてならない。
そして、
「だからどうした!これはロイヤルナイツと七大魔王の戦いだ!なんの関係もないお前が出しゃばっていい問題ではない!」
「…ふざけるな」
カケモンの中で何かが動いた。
止まっていた歯車が動くような感覚、浮遊感で意識が飛ぶ感覚に陥る。同時にカケモンの変化にその場にいる者達は全員呑まれていた。それもそのはずだろう、目の前にいたカケモンがまるで別人のように錯覚したのだから。
「お前が守りたいのは自分の誇りか?立場か?違うだろう。お前はそんなものの為に騎士になったのか?」
口を開くカケモンであろうデジモンは一歩、マグナモンに近づく。その声色、雰囲気はギルモンとはまた違った変化を感じる。あれは表と裏を自ら返しているのに対して、これではまるで逆転だ。カケモンと言う面とは別の面が入れ替わったかのように思える。
そしてサイズの合っていないカブトの間から覗く目はしっかりとマグナモンの目を見据えた。
「自分を見失うなッ!!」
一喝。
ただの一言にマグナモンは動揺を隠せていない。何故ただのデジモンからこんな威圧感を感じるのか、理解できないでいた。
……いや、だがこれはどこかで、どこかで感じた事が、
「思い出せ、マグナモン。お前の本当に守りたいものはなんだ?」
そう問われたマグナモンは目を丸くする。そうだ、これはどこかで…誰かに同じ事を問われた。そしてそれを確認する前に、カケモンは夢が覚めたかのように瞬きすると周りをキョロキョロと見渡す。既に元のカケモンへと戻ったかのようだ。
「あ、れ…?みんなどうしたの?」
「カケモン…お前今の…?」
「?」
何も覚えていないのか首を傾げるカケモン。だが周りはそれどころではないのだ。特にハックモンにギルモン、マグナモンは。
ハックモンは推測が確信へと近づく事に驚きを隠せず、
ギルモンは表情は変わらずとも真実へと近づく事を確信し、
そしてマグナモンは、カケモンにあるデジモンの面影を見ていた。
甦るのは過去の記憶。絶対的存在の命を破り、自ら守護するエリアを手放した盟友との…二人で話した最後の記憶。
…そうだ、その時同じ事を聞かれた。だがその時は答えられなかった。いや、しなかったのだろう。その代わり答えが欲しかった。何故お前ほどの騎士がこんな事をしたのか、その理由が。
結果としては奴は答えず、去り際に奴はオレに一言だけ残していった。
“生命(イノチ)は、そこにあるだけで美しい”
わからなかった、彼の言っている事が。
求めている答えではない事に、苛立ちさえ覚えた。
しかしそれが答えだとすれば、それが自分に伝えたかったものなのだとすれば
既にオレは、答えを得ていたのだ。
「…ポーンチェスモン」
「は、ハッ!」
「命令の訂正だ。この砦にいる負傷者を連れ地下のシェルターに移動せよ。完全体クラス以上の者は移動中の護衛を任せる」
今まで会話に入って来なかったポーンチェスモンにそう告げる。内容は先程と打って変わり逃走全てに労力を費やすもの。
「で、ですが…バルバモン達は…」
「オレが出る」
その一言にポーンチェスモンは言葉を失った。同時にハックモンから無謀だ、と言われたがそれを無視してマグナモンはタツヤの前へと立つ。
「…人間。デジヴァイスとやらを出せ」
「え、」
「早くしろ」
言われた通りにタツヤはデジヴァイスを取り出しマグナモンの前へと出す。そして指を突き出しデジヴァイスに触れると、不快そうに顔を歪める。話には聞いていたが、予想よりも上の不快感らしい。
マグナモンは指を離し外へと繋がる窓へと歩み、近づいた所で振り返った。目線の先にはカケモンがこちらを見つめている。
「……後を頼んだ」
そう言ってマグナモンは浮かび上がると砦から出て全速力でバルバモンのいる軍勢の元へ移動する。途中マグナモンを呼ぶ声が聞こえたが、彼は止まらない。
ただ真っ直ぐ、進んでいった。
防人の砦から数キロ先、バルバモン率いる軍勢は周りの木々などをなぎ倒しながらも進軍していた。成熟期ではデビモンやダークティラノモン、タンクモン。その他野生に生きるデジモンがその先頭に立っていた。闘争本能に身を任せ、唸りを上げる獣そのもの。
そして先頭を進んでいたモノクロモンは前方に凄まじい気配を感じた。それに連なるように他のデジモン達も空を見上げる。
「プラズマシュゥゥゥゥウト!!!」
「「「ぎゃあああああああああ!!?」」」
上空から流星群のように降り注ぐミサイル。前方にいたほとんどのデジモン達はそれに呑まれ消滅していた。残ったデジモン達は突然の奇襲に驚きながらも上空を見上げる。
…そこにいたのはロイヤルナイツの一人、マグナモン。彼は静かに見下ろしていた。それに対して後方にいたバルバモンは笑いながらも皮肉混じりに問いかける。
「カカカカッ!来おったか、マグナモン。だが意外じゃのぉ、お主一人か?守りの要とは聞いて呆れるのぉ」
「なんとでも言え」
嫌に頭が冴えている。こんな感覚は何十年ぶりだろうか、あるいは…。思考を一旦中断しマグナモンは一息つくと、両腕を構え己を狙う数多のデジモン達に向けて叫ぶ。
「––––来いッ!」
「焦るな、ゆっくりでいい!列を崩すな!」
「西門封鎖完了しました!」
「上空に異常なし!」
マグナモンが飛び去ってからの砦のデジモン達の行動は早かった。彼の指示通り、この砦にいいる非戦闘員と負傷者はポーンチェスモンやナイトチェスモンに誘導、運ばれて移動している。その際緊急時の指揮官であるキングチェスモンとクイーンチェスモンが命令を下しているのだが、叫ぶの手腕は見事なものだった。マグナモンの指導の元か、あるいは彼ら自身のものなのかは不明だがその手際のいい誘導で既に8割のデジモン達がシェルターへと避難している。
「…僕達も行こう」
「うん…」
タツヤの言葉に力なく頷くカケモン。本当であればマグナモンの加勢に行きたいのだがそれに待ったをかけたのはハックモンだった。今から行ったとしても、あの数、そして実力からしても足手まといになるのが関の山だからだ。
だがそれ以前に、マグナモンに頼むと言われたのだ。この砦を、デジモン達の事を、頼むと言ってくれた。ならば応えるしかないだろう、それが今できるカケモンの精一杯だった。
ハックモンもまたロイヤルナイツだ。だが先程見せたあのマグナモンの顔を見て察してしまった。全てを引き受ける男の顔だった。故にハックモンは加勢ではなく、他のデジモン達の護衛に周った。そうでなければ、あの騎士に対する侮辱になってしまう。
このまま順調に避難が終わる、そう思ったその時…
すぐ近くの壁に穴が空く。土煙が舞い、状況がわからないが近くにいたデジモン達はそれぞれ構え、警戒する。そして土煙の中で影が揺らいだ。
「久しぶりだな、抜け殻」
その影の声を聞いてタツヤは思い出したくないものを思い出してしまったような顔をする。忘れない、忘れられない声、敗北の記憶。そうだ、目の前にいるのは…!
「“A”…!」
「モスドラモンッ!」
タツヤとカケモンの警戒した声が響く。土煙が晴れ、現れたのは一人の人間とデジモン。フードを被り顔半分に火傷の痕が痛々しく残る少年、“A”。そしてその隣にはカケモンと過去に二度戦ったデジモン、モスドラモンがいる。いや、それだけではない。彼らの後ろには決して少なくない数のデジモン達が控えていた。
「久しぶりだナ。…見ないうちに力を付けたと見えル。さァ、戦いを始めようカ!」
「君と戦ってる場合じゃ無いのに…!」
嬉々としてカケモンに語りかけるモスドラモンだがカケモンは焦りも含めてそう返す。壁が壊された事で避難していたデジモン達は混乱し、一部では列が乱れているのだ。
だがそんな事はどうでもいいと言わんばかりに“A”はデジヴァイスを起動させる。《X EVOL.》から出てきたカードは、またもタツヤ達の知らないものだった。
「セットアップ、ベルフェモン」
強靭な肉体を持った黒山羊のデジモンのカードをスキャンしモスドラモンへと向ける。黒い光を受けたモスドラモンは更なる力を手に入れた。
0と1で構成された空間にて魔王、ベルフェモンの幻影を吸い込んだモスドラモンはその口から糸を吐く。そして繭の状態になるとそのまま巨大化。現段階で一番大きな繭に成長すると、爆発するように弾け飛ぶ。
…そこには怠惰の悪魔がいた。
山羊にに似た4本の角、鋭く変質した蛾の羽、何よりも目立つのは身体中に巻かれる無数の鎖。腕にメリケンサック状に加工された爪を振り回しその悪魔は名乗りあげる。
「アップグレード モスドラモン モデル・スロウス…!」
敵の新しい姿に動揺するタツヤとカケモン。そしてそれに呼応するかのようにモスドラモンの背後にいたデジモン達は砦の中に侵入してくる。同時に警戒していた砦を守るデジモン達は応戦しに駆け出していった。
こんな事をしている場合じゃない、カケモンはそう思いながらも引けないでいた。ここで引けばモスドラモンは暴れるだろう。奴の実力は並大抵のデジモンでは歯が立たない。だとすれば、自分達がやるしかないのだと。
タツヤと目を合わせ、カケモンは前へと一歩進む。そしてデジヴァイスの《X EVOL.》を起動させると一枚のカードを取り出した。
「セットアップ!エグザモン!」
「アップグレード!カケモン ver.エグザ!」
カケモン ver.エグザへとアップグレードしたカケモンは目の前で笑うモスドラモンに向き合う。体格差はほぼ互角だ。
サテライトEをブースターモードにして構えるカケモン。対してその羽を広げ、同じく構えるモスドラモン。
そして二つの巨体が…ぶつかり合った。
「どっかーーーーーーーーん!!!」
「グォォオオオオオオオオオオオ!!!」
嵐のように続いた敵の攻撃により膝を付く。
バルバモンとその配下のデジモン達による攻撃は休む事なくマグナモンに降り注がれていた。いかにマグナモンが防御面に優れていても現在は力を奪われている。それに加え軍団の中にはデスモンと言う七大魔王とは違う別の魔王型デジモンの存在も見られた。
その事実はある意味では幸運だったのかもしれない。ここで留めておけば、足止め出来れば良かった。
「カカカカカカッ!!無様よのぉ!力を奪われ、鎧も輝きを失った、お主にはもう勝ち目がないぞ」
「…それはどうかな」
笑うバルバモンに不敵にそう応えるマグナモン。たしかに今の自分は力を奪われ、身に纏う鎧はひび割れ満身創痍という言葉が正しい状態だ。それに加えバルバモンは砦に別働隊を向かわせている、と言うことは既に理解していた。その上での余裕の笑みだろう。
それを知っていたからこそマグナモンは砦で迎え撃つつもりだった。だが、今となってはそんな事は問題では無い。
(今のオレがコレを放てば…タダでは済まないだろうな)
コレは自らも滅ぼしかね無い危険性がある故に封印していた。しかし、それを使わねばならない。使わなければ、この先にいる部下は、デジモン達はどうなる?
やらなければ、オレはオレを許せない。同胞にも、盟友にも、顔向けが出来ない。
何よりも…彼の守りたい者達がいて、引ける筈が無かった。
「な、何…!!」
バルバモンの目の前で膨大なエネルギーが集まっていく。輝きを失った鎧は元の黄金に、いや…それ以上に輝いていく。周りのデジモン達が焦りだすがもう遅い。
マグナモンには迷いが無かった。自分が倒れても、その意思を繋ぐ者が現れると…そう思ったからだ。
今なら分かる、何故奴がイグドラシルの命に逆らったのか。あの時言った言葉の意味が。
そして何よりも、
–––––オレは信じると決めた。
「エクストリィィィム…ジハァァァァァァッドッッッ!!!」
カケモンとモスドラモンの戦いは一進一退の一言だった。パワー、体格はほぼ互角であり、アックスモードやブーメランモードにしたサテライトEの攻撃はモスドラモンの持つ無数の鎖の鞭で弾かれ、逆に爪や腕に巻き付いて攻撃力を上げたモスドラモンの拳はシールドモードのサテライトEに弾かれている。
互いに引くことのないこの状況。だがそれはカケモンの背後から鳴り響く爆発によって終わりを告げた。
「ッ!?」
「爆発…!?あそこは、確か…!」
振り向くカケモンとタツヤの顔は焦っていた。今起きた爆発の方向はシェルターの近くだ。途中までしかわからないが、今も負傷しているデジモン達はあそこにいる。それだけではなく避難誘導を手伝っていたアサヒ達もそこにいるのだ。二人は何か嫌な予感がしたのか、目の前の敵を気にせずシェルターへと走る。が、先回りしたモスドラモンが行く手を阻む。
「どこに行く気ダ!オれとの戦いはまだ終わっていなイ!」
「どっ、けぇぇぇぇぇ!!」
ブースターモードのサテライトEを背に突撃するカケモン。だがそれに合わせてかモスドラモンはカケモンを真正面から押さえ込もうとする。自然と互いの手を押し合う状態になった二体。が、その心情は互いに違っていた。早く行かねばならないカケモンと引き留めて決着を着けたいモスドラモン。
しかしこのぶつかりは長くは続かなかった。この状況を壊したのはカケモン、焦り故かそれとも本能か…彼は頭を大きく後ろに背けると……モスドラモンの頭に打ち込んだ。あまりの威力にモスドラモン、そしてカケモンもふらつき両者共に背中から倒れる。
「ッ…!」
「モスドラモン、立て!」
「ぐ、うぅ…!」
「立って、カケモン!!」
“A“とタツヤは互いのパートナーに声をかける。片方はプライドの為、もう片方は待っている仲間達の為。カケモンとモスドラモンは膝を突きながらも揺れる視界を押さえ立ち上がろうとする。
そして…立ち上がったのはカケモンだった。
「ぉぉおおおお!!!」
叫び上げ近くにいたタツヤを腕で掴み今出せる全速力でシェルターへと向かうカケモン。速度がいつもより遅いことから消耗が激しいのだろう。それはモスドラモンも同じらしく、数秒遅れて立ち上がった彼は元の姿に戻っていた。
コレはおそらくは敗北なのだろう。”A“はモスドラモンの元へと歩き、隣へと立つ。カケモンが去ってから何も話さない彼をただじっと見ていた。
「…ク、はハ、くはははははははハ!!」
だが意外にもモスドラモンは笑っていた。面白げに、狂ったように笑うモスドラモンに”A“は何も言わずただモスドラモンと、カケモン達が去っていった場所を見つめる。その目には、黒く深い闇が写り込んでいた。
「そうダ。それでこソ、オれノ…」
飛んでいたカケモンはシェルター近くまで来ると減速し地面へと不時着していた。タツヤを傷付けないように背中から落ちたカケモンは限界だったのか元の姿へと戻ってしまう。
「か、カケモン!大丈夫?」
「う、ん…。ちょっと疲れたけど、まだ戦えるよ…」
駆け寄ったタツヤの腕の中でカケモンは力なく笑う。言葉通り彼の疲労は溜まっていたが、まだ戦闘はできるようだ。これまでの旅でスタミナがある程度鍛えられたのかカケモンは立ち上がる。
現在シェルター前では完全体のビショップチェスモンとルークチェスモン率いる部隊が防衛戦をしていた。対するは仮面をつけた悪魔、ネオデビモン率いる軍団。フェレスモン、イビルモン、レアモンなどが混ざり合う軍団に立ち向かうナイトチェスモンとポーンチェスモン達。それに混じってシスタモン姉妹と何故か城太郎もシェルター前でジョイ棒で戦っていた。それほど追い詰められているのかポーンチェスモン達はジリジリと後退している。
タツヤとカケモンはそれを目の当たりにして自然と互いに目が合う。カケモンには酷なことかもしれない。だが、今は戦わなければいけないのだ。
「やろうカケモン。マグナモンが託してくれた、この力で!」
「うん…!」
デジヴァイスの《X EVOL.》を起動し新しく表示されたアイコンを押す。目の前に現れたカードに描かれていたのは黄金の鎧を身に纏う騎士、マグナモン。
「セットアップ、マグナモン!」
タツヤはUGコードを読み取りカケモンへとデジヴァイスを向ける。放たれた光はカケモンへと当たり、彼に更なる変化をもたらす。
0と1で構成された空間でカケモンは自らのカブトを上へと投げるとカケモンの身体は成長する。と言っても、成長した身体はver.ジエスよりも頭一つほど小さく小柄だった。そしてカケモンはツノが収納されたカブトを被ると背後のマグナモンの幻影から飛来してきた所々に青いラインの入った重厚な黄金の鎧を両手両足、胴体と腰に身に纏う。さらに頭部に同色のパーツが装着されるとバイザーが口元を覆う。そして目の前に十字型の身の丈程の大きさの盾…シールダーMが現れると掴み取り、傾けて前へと押し出す。歪なXの字に割れた空間を突き破る彼の名は、
「アップグレード! カケモン ver.マグナ!!」
新たな姿、ver.マグナへとアップグレードしたカケモンを見てタツヤは驚く。守りの要と言われていたマグナモンの力を使っている為、もしかしたらと思ったが…まさか武器が盾になるとは思わなかった。今の状況だと守る事に徹底することになるだろう。そう思っていた矢先、カケモンに気付いた数体のイビルモンがこちらへと飛んでくる。
「くたばれチビィ!」
イビルモンの内の一体が歪んだ笑みを浮かべ襲いかかる。確かに今のカケモンはどのアップグレードよりも小柄だが、イビルモンよりは小さくはないだろう。タツヤはカケモンに手に持つシールダーMで防ぐように言おうとした。
だが、
「…だぁぁぁぁぁれがチビだゴラァアアアア!!!」
怒りを含んだその叫び声と共に、カケモンはシールダーMを全力で振りかざしイビルモン達に向かってフルスイングしていた。攻撃されたイビルモン達は叫び声を上げる暇も無く自分達の味方の居る場所に勢い良く吹き飛ばされる。それがきっかけとなったのか、戦場にいた全ての者たちは一斉にカケモンに視線が集まった。
「今豆粒ドチビって言ったの誰だ、ああん!?早く出てこいさもねぇと纏めてはっ倒すぞ!!」
「な、なんだあいつ?」
「かまわねぇ、やっちまえ!」
突然の乱入者に敵のデジモン達は一斉にカケモンへと襲いかかる。中でもフェレスモンは遠距離の攻撃を放っている…が、それらは全てシールダーMの前では無力。飛び道具は全て弾かれカケモンに一切のダメージは無い。
その事に驚く敵の一瞬の隙に、カケモンはなんとシールダーMを敵陣の真上へと投げ飛ばした。何故自らの武器を手放す行為に出たのか、敵デジモン達の目線がシールダーMに集中する中、カケモンは両腰の鎧のパーツを90度回転させる。するとそのパーツは変形、中から合計二丁のガトリングガンが出現しカケモンはそれをシールダーMに向けて放つ。放たれた弾丸はシールダーMに弾かれ下にいる敵デジモン達に降り注いだ。
「うらああああああああああ!!!」
「「「ぎゃぁぁぁぁああああ!!?」」」
「あ、アイツ…持ってる武器と真逆の戦い方してるぞ…」
「うん、そうだね…」
呆然としているワレモンの呟きにいつのまにか来たタツヤも一緒にそう言う。確かに、あのままの見た目だと防御特化のように見えたのだが、いろんな意味で裏切られた気分だ。と、そんな会話を遠くからどうやって聞いていたのかカケモンが答える。
「あぁ?攻撃は最大の防御って言うだろ?」
「「「だとしても盾を投げるなよ!!」」」
「カケモン様、ワイルドでステキですぅ」
城太郎、ワレモン、ノワールの心からの叫びの隣でブランは顔を赤くしながらそう呟く。もう色々と盲目である。
三人の叫び何処へやら、カケモンはガトリングガンを収納するとシールダーMを回収。迫り来るデジモン達を腕にある盾と言う名の鈍器を振り回し沈黙させる。その乱戦の中、指揮官であるネオデビモンは闇討ちの如く現れ背後にギルティクロウを突き刺そうとするがそれもシールダーMに弾かれ逆に吹き飛ばされてしまう。
指揮官がやられた事に動揺し動きが止まるデジモン達を無視し、カケモンは両肩のパーツを変形させる。現れたのは左右合計四門のバズーカ。それを敵に向かって放ち、着弾した場所は火柱で包まれた。
ネオデビモンは打ち込まれた箇所を手で押さえながらも震えが止まらないでいた。砦のデジモン達との戦いで少数の死者は出たものの、自分の率いるデジモンは50は超えていたはずだ。だがそれでも目の前のデジモン一人に追い詰められている。その事実に恐怖し指揮官としての命令を下す。
「て、撤退だ!コイツに勝てるわけが無い!」
「ち、チクショオ!」
「覚えてやがれ!!」
捨て台詞を次々と吐き捨て撤退していく敵デジモン達。だがそれは目の前にいる黄金の戦士が許さない。負傷し動けないデジモン達を狙ったのだ、だとすれば返り討ちにあう覚悟くらいはしてもらう。
カケモンはシールダーMの底を前に向け両腕で構える。
「逃すと思ってんのかド腐れ共が」
腕のパーツがシールダーMとドッキングすると、先端が変形し左右に分かれたレールガンとなりエネルギーをチャージ。更に両腰と両肩のガトリングガンとバズーカを展開し脚部から出た杭が体を固定。頭部パーツから現れたスコープで逃走するデジモン達をロックオンする。
「フル、ブラストォ…エクストリーマァァアア!!!」
チャージされたレールガンの砲撃が放たれ、それと同時にガトリングガンとバズーカも連続で発射される。無数の砲撃は着弾し、大地を揺るがす。その凄まじい攻撃の数々はまさに嵐、中にいるデジモン達の声が響き渡る。が、それは次第にそれは収まっていき…爆煙が晴れたそこには荒れた大地が広がるだけだった。
「ミッション完了…だ……」
そう呟いたカケモンは元の姿に戻りながら前のめりに倒れる。モスドラモンとの戦闘との連戦もあり、体力が尽きたのだろう。視界が黒く染まる中、自分の名を呼ぶ声を最後に聞きカケモンは意識を失った。
「……むにゃ?」
「カケモン!」
「カケちゃん、大丈夫ですか!?」
「カケモン様!よかったです!」
思い瞼を上げて、カケモンは目を冷ます。周りから自分の安否を確かめる声が響き少し揺れる頭を押さえて起き上がった。既に日は落ち、外には闇が広がっていた。どうやら随分と長く眠っていたらしい。外傷が少なかったため、デジヴァイスでほぼ回復した後は外で寝かされていたのだ。余談だがカケモンはブランに膝枕されていたのは余談である。
カケモンはそうなんだ、と納得するがただ一つだけ、聞いていないことがあった。
「ねぇ…マグナモンは?」
そう行った瞬間、周囲の空気が変わった。ある者は顔を背け、ある者は目を瞑る。その光景に首を傾げたカケモンだったが、彼の目の前にハックモンがやって来る。そしてそのままカケモンの肩を掴むと、ゆっくりと言い聞かせるように語りかけた。
「…彼は、バルバモンとの戦闘で重傷を負った。治療のために、砦から遠く離れた場所に行っている。会うのは難しいだろうが、心配はいらない」
嘘だった。
ハックモンは自分が言ったことに罪悪感を感じながらも平静な顔を保ちカケモンを見つめる。…あの後、砦の中にいたデジモンが全て倒された、あるいは撤退したのを確認したポーンチェスモン達は急いでマグナモンがいる戦場へと向かった。だがそこには何もなく、あるのは巨大なクレーターのみ。そこで同伴していたハックモンは悟ってしまった。マグナモンは禁じられた技を使ったのだと。
バルバモンはまだ生きているだろう、そう簡単には死なない事は分かっている。だが姿を見せないマグナモンは…。
主人を失ったポーンチェスモン達は動揺があったものの、砦を守るのが我々の使命だと宣言しマグナモンの意思を継ぐ意思を見せた。もうこの砦は大丈夫だろう。
カケモンはそっかぁ、と呟くと窓の外を見る。空には彼と同じく黄金に輝く月と、散らばる星々。マグナモンもこの空を見てるのかなぁ、と思い無意識に呟く。
「また、会えるといいなぁ」
顔を合わせたのはたったの数分。しかしカケモンは彼の事を悪いデジモンだとは一切思わなかった。それは彼の本質を見抜いたのか、それとも…。
月の明かりは優しく夜を照らしていた。