デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

3 / 25
三話 《プールの中の水龍》

既に日が沈み、街に灯りが付き始めた頃、タツヤは自室の椅子に座りデジヴァイスを弄っていた。デジモンを収納する力、そしてカケモンをパワーアップさせたこのアイテムは見た目と大まかな機能は一般のスマートフォンと一緒だ。しかし、一部の機能は未知の領域だ、しかし同時に気付く。自分はデジモンについて何も知らない。タツヤはワレモンにデジモン、そして彼らの住む世界について聞いていた。ちなみにカケモンはベットでドーナツを頬張ってる。

「いいか、まずオレたちデジモンはデジタルワールドに住んでる。デジタルワールドは地面も空も何もかもがデータで出来てんだ」

「じゃあワレモン達も?」

「あたりめぇだ」

 

その言葉でデジモン達のいる世界はある意味で電子的な、例えるならインターネットやゲームの中の世界、そしてデジモンはその中に住む生命体のような物だと解釈た。だが、そうだと人間である自分、そしてカケモン達が互いの世界に行き来できるのだろうか。やっぱりデータで構成されているだけで、別々の世界として両立しているのだろうか。と考えているとふと疑問が浮かんだ。今日襲ってきたコカトリモンはどうやって現実世界に来たのだろうか、と。

 

「そういえば、あの時のデジモンってどうやってこっちの世界に来たんだろう…。倉庫の時のあの渦が開いたのかな?」

「さあな。だけど珍しい事じゃないぜ?どこかの地域じゃ神隠しなんてもんがあるらしいからよ。たまにゲートが開いたんならそれはそれで納得だ」

 

ワレモン曰く、ここ数年の間に森や集落、はたまたある程度栄えた街で姿を消すデジモンがいるそうだ。デジタルワールドを転々と旅していた彼が聞いた話なので信憑性がある。だがもし仮にそうだとして現実世界に迷い込んだのならニュースに何かしら出ているはずだ。最近に関しては電子機器のトラブルが目立つ程度で収まっているのはおかしい。

 

「そんで?あと聞きたいことは?」

 

思考の最中にワレモンが話しかけてくる。普段口が悪いが根はいいのか、聞いたことをちゃんと返してくれる。最初に会った時はカケモンを虐めているようにしか見えなかったが実際は仲がいいのだろう。そう出会った当初の事を思い出すと、ふとある単語を思い出した。

 

「そういえば…進化って何?前にカケモンに言ってたやつ」

「進化ってのは一種の成長みたいなもんだ。デジモンには世代ってのがあって今の世代より上に成長することを進化するって言う」

「へぇ。じゃあカケモンのも進化なの?」

「……しらね。アイツのアレはなんか違うんだよな。まぁ、世の中にはアーマー進化とか言うマイナーなのがあるらしいけどちげぇと思うし。つーか、あのカードにあったオメガモンっていやぁ…」

 

今度はワレモンが思考の海に沈みかけた。だがワレモンの横目にベットの上のカケモンが映る。幸せそうにドーナツを頬張る姿…普通なら微笑ましいのだが今のワレモンにはどこか癇に障ったらしい。ワレモンはズンズンとベットに移動すると、カケモンの兜に拳を下ろした。

 

「ってテメェは何のほほんとしてんだクソがァァ!!」

「いった!?だ、だってドーナツ…」

「だってじゃねぇオレにもよこしやがれ!」

「やぁぁぁぁぁぁぁ…」

 

これもいつものことだろう。タツヤは苦笑いしながらもデジヴァイスを操作する。そしてまだ弄っていなかった《ANALYZER》と言うアプリを起動させた。画面に何が映るか、少々身構えていたが実際に出たのはカメラの画面とほぼ同じもの。それ以外に変化は見られない。

 

「…あれ?」

 

思わず気が抜けて間の抜けた声が漏れる。タツヤは失敗かなと思いながらもそのカメラをワレモンの方に向けた。ちょっとした好奇心で写真を撮ろうと思ったのだろう、特に考えずに行動する。

…するとどうだろうか、カメラはワレモンをスキャンし始めた。そして一瞬で画面にはワレモンに関するデータが浮かび上がる。

 

ワレモン

世代:成長期

タイプ:獣型

属性:ウィルス種

必殺技:スプリットオーラ

群れる事を好まない一匹狼の気質を持つデジモン。不用意に近く者には容赦なく暴行を加える。だが自分の気に入った相手、同格であると思った相手には寛容になる。必殺技は食らった相手の技のエネルギーや威力などの何かしらを半減させる『スプリットオーラ』。

 

その説明文が表示され、横にスライドするとワレモンのステータスと思われるグラフが表示してあった。ワレモンの事に少々関心もあったがまさかこんな機能があるとは思わなかった、とタツヤは驚く。

もしかすると今後現れるかもしれないデジモンにも役立つかもしれない。そう思って今半ベソをかきながら叩かれてるカケモンに標準を合わせる。すると先程と同じようにデータが表示された…しかしそれはどことなくおかしかった。

 

カケモン

世代:成■期

タイプ:■■■型

属性:ワクチン・データ種

必殺技:???

NO DATA

 

そう、これだけしか無かった。カケモンに関するステータスも必殺技も無ければ何故か一部欠けている部分もある。何か不具合があるのだろうかと思いながらもタツヤはアプリを終了させた。もう遅い時間だ、一学生である自分は明日も学校があるため寝る事にする。

 

 

 

翌朝、タツヤはデジヴァイスにカケモンとワレモンを入れて学校に来ていた。もしかしたら昨日のようにデジモンがどこかにやってくるかもしれない。その可能性があるのであれば対処できるのは自分とカケモンだ。それに加えワレモンが学校に興味を持ったようなので連れてきた。まぁ、いつまでも家にいるよりは気分転換した方がいいと思い連れてきたのだ。

タツヤはデジヴァイス越しに教室の風景を見る二人に薄く微笑むと自分の席に座る。そして一時限目の教科の確認をすると目の前に誰かがやってきた。また城太郎かと見上げると、そこにいたのは転校生、才羽 ミキだった。

 

「えっと……才羽、さん?」

「浪川 タツヤ。私はあなたに興味がある」

 

ピタリ、と教室の騒音が止んだ。男子達の他愛ない会話も、女子の姦しいおしゃべりもその一言で全てが終わる。全ての元凶であるミキは固まっているタツヤがおかしいのか、それとも静まり返った教室に疑問を持ったのか首を不思議そうに傾けた。

そして数秒、時は動き出す。

 

「え、どう言う事?」

「まさかあの二人そう言う関係…」

「そういえば転校初日に学校案内してたんだって!」

「なんだって、それは本当かい!?」

「浪川さん、本当に裏切ったんですか!?」

「おのれ浪川ァァァァァァァァ!!!」

「 絶 対 に ゆ゛る゛ざ ん゛! 」

「よく無いなそう言うの……」

 

噂好きな女子の会話、中学二年になってそういう会話に敏感になった男子、さらには単純に嫉妬に狂う者までで始めた。

…いや、おかしいなんかシャーペンとか竹刀とか出してきたこれマジだ何か言わないと僕ヤバイ、と思考を高速で巡らせタツヤは弁解しようとする。

 

「え、えっ、ちょっと待ってよ、僕と才羽さんはそんな関係じゃっ」

「言い訳は校舎裏で聞こうか」

「なに、痛みは一瞬だ」

「君は絶版だぁ」

「いや、何するの。何する気なの!?」

「「「これも全部、浪川 タツヤってやつのせいだ」」」

「本当に何をしたって言うんだよ!?」

 

いつのまにか窓際にまで追い詰められるタツヤ、しかし幸運な事にチャイムが鳴り担任の教師が入ってくる。それと同時に座れー、と教壇に上がった、ホームルームが始まる合図だ。タツヤに迫ってきた生徒はゾロゾロと席に戻る。誰かが舌打ちをした気がしたがそれは気のせいでは無いだろう。ミキもいつのまにか自分の席に座っていた。

そしてホームルームが始まった……ただこの中でもタツヤに対する視線は止んでいない。好奇と嫉妬の視線の中、ただ一人、別の視線でタツヤを見る者がいた。

 

「……………」

 

彼女の名前は沢渡 アサヒ。今説明できるのは彼女がタツヤと同じ少学校出身で今までずっと地味にタツヤと同じクラスであった事とタツヤに淡い思いを抱いている事だけだ。派手さは無く、落ち着いた赤みがかった茶髪の前髪が両目を隠しているのが特徴的だが癖っ毛なのか頭部から一本毛が跳ねている、言わばアホ毛が今は軽く揺れていた。

 

(な、浪川君が才羽さんとそういう関係……ど、どうしましょう…これじゃ授業に集中できませんっ。でも、才羽さんの関係も気になるし、本当にそう言う関係だったら…。あわわ、し、しっかりするんです私!あくまでも噂ですっ!さっきだって浪川君が違うって言ってました!たった二日で進展なんてないんですっ!…私なんて……私なんて、うぅ…)

 

自宅だったらベットで暴れているかもしれない、そう言った感じに心の内で動揺しているが彼女はポーカーフェイスを保ちながらタツヤを見ていた。何気にどこからか飛んでくるシャーペンの芯を避けているタツヤ。多分昼にはすぐに教室から出るんだろうなぁと思いながらもホームルームが過ぎていった。

 

 

四時限目が終わった後、本日は職員会議がある影響で午前授業であるため帰宅する者、部活に行く者等別れる中、タツヤは授業を終えた後直ぐに教室から出ていた。と言っても直ぐに帰った訳ではなく屋上に場所を移動しているだけだ。というのもデジヴァイスにいたカケモン達が空腹を訴えたからである。今日は時間があるし家に帰る前に昼食にしても構わないだろうと思い、購買からカレーパンを買いカケモン達と食べていた。

 

「これなんか昨日のカレーに似てるね!」

「カレーパンだからね。パンの中にカレーが入ってるんだよ」

「ほー。でも中に入れる必要あんのか?」

「それは作った人に言って欲しいかな」

 

身も蓋もない事を言うワレモンに軽く苦笑いしながらもタツヤは一口齧る。デジタルワールドには無かったものとは言えそう言ってしまえるワレモンが凄かった。と、思っているとどこからか声が聞こえる。おそらく直ぐ下の階の廊下からだろう。その声は聞き慣れたものだった。

 

「ターーーーツーーーーヤーーーー!」

「うわ、城太郎が呼んでる。ごめん、ちょっと待ってて」

 

タツヤは面倒になったと言う顔で屋上から下の階へ降りる。毎度の事ながら城太郎は自分に絡み過ぎじゃないかとは思ったが放っておくと他の生徒に迷惑がかかるし自分が対処するしかないのだ。タツヤは階段を降りて直ぐに城太郎を見つけると、彼に向かって歩み寄った。

 

「おーう、タツヤ。探したぜ!」

「なんなのさ今度は。また名所巡り?」

「ふっふー、そうであってそうじゃないんだよなーこれが」

 

ドヤ顔で話す城太郎に少し疑問と呆れを持ちながらも聞き返す。

 

「で、何?」

「プール清掃だよ!六月終わるしプール開きあるだろ?さっき先生に頼まれちまってさー。まぁ俺プール清掃のエキスパートだし?けど、まだ数が足りてなくてよ…」

「それで手伝えって?」

「まーな!お前どうせ暇だろ?」

 

バンバンと背中を叩いて来る城太郎。彼の性格上悪気が無いとは言え言い方というものがあるだろう。タツヤは若干呆れながらもわかったよと顔を縦に降る。よっしゃぁ、と肩を組んで来る城太郎。こんなんでも自分の中の日常なのだとタツヤは再認識した。

 

 

一方その頃屋上では、ワレモンがカレーパンの最期の一口を終え下の景色を見る。そこでは野球やサッカー、テニスなどそれぞれの部活に興じていた。見慣れない行為、見慣れない光景にワレモンは興味を惹かれながら鉄格子に捕まっている。

 

「ガッコーてのは色々あんだな。棒で玉打ったり玉蹴ったりして楽しいのか?つか玉多いな。おいカケモン、お前どう思う……」

 

まだカレーパンを食べているはずのカケモンに声をかける。だが一向に返事が返ってこない。どこかデジャブを感じながらも振り返ると、そこには誰も居なかった。律儀にカレーパンの袋をゴミ袋の中に入れている事から食べきったのだろう。ワレモンは昨日の事もあり血が上っていた。それと同時にタツヤが戻ってくる。

 

「ア・イ・ツ…!」

「ゴメン二人とも待っ」

「タツヤァ!バカケモン探しに行くぞ!アイツぶっ飛ばす!」

「え?」

 

「いい匂いー…」

カケモンは廊下をうろついていた。というのもカレーパンを食べ終えた彼はふと何かの匂いを嗅ぎつけて無意識に移動してしまったのだ。タツヤが城太郎の元に行った矢先に移動し、今彼は城太郎がいたさらに下、パソコン室に来ていた。ここの通りは今は人通りが無くカケモンが移動しても問題は無かったのだ。

カケモンはパソコン室の扉を開くと奥へと進む。そして一つの机に置いてあったもの……大福を手に持つ。タツヤの家には無かったものに興味を持ちカケモンは大福を口の中に頬張る。……だがその瞬間見てしまったのだ。とある女子生徒が自分の開けた扉から入って来たのを。

「もぐっ!?」

「あわわ…!」

 

驚きのあまりカケモンは大福を喉に詰まらせる。そして白目を向いて真後ろに倒れた。それを見た女子生徒…沢渡 アサヒは未知の生物に驚きながらも詰まらせたカケモンに駆け寄る。

 

「し、しっかりして下さい〜!」

 

アサヒはカケモンの上体を起こし背中をバンバンと叩く。混乱しているのもあり、少しパニックになっている。だがそのおかげでカケモンは大福を口から放出し息を吹き返す。出てきた大福は一度空中に飛び出したが重力に従って再びカケモンの口に入り今度は詰まらず胃に入った。ゲホゲホと咳き込みながらカケモンは涙目でアサヒに礼を言う。

 

「あ、ありがと…」

「どういたしまして…」

 

礼を言われたのですぐに答えたのだが、冷静になってみる。目の前にいる存在は未知の生物だ。ぬいぐるみだとかロボットじゃ無い正真正銘の生物。その事実にまた混乱しかけるがカケモンが呟いた一言で我に返った。

 

「あれ、ワレモンどこ?タツヤもいない?」

「われ?…ってタツヤって浪川君の事ですか?」

「タツヤはタツヤだよ?さっきご飯食べてたの」

「浪川君の知り合い…?」

 

未知の生物は自分のよく知る人物の知り合いだった。その事に驚くアサヒ。中学に入ってからタツヤとの交流がほぼ無くなったとはいえ、その事に驚かない方が無理がある。何故、どうしてと疑問が尽きないが自分のスカートが引っ張られる感覚に現実に戻された。

 

「ねぇ、タツヤどこ?早く行かないとワレモンに怒られちゃう…」

「な、泣かないで!私も一緒に探しますから!」

「ホント!?ありがと!」

「はい。あ、私は沢渡 アサヒです。アサヒって呼んでください」

「ボク、カケモン!」

「カケモン、か。カケちゃんって呼んでいいですか?」

「いいよ!」

 

まるで年下の子供を相手に話しかけられているような、そんな感覚を覚えるアサヒ。既に彼女には未知の感覚は無く、ただタツヤに会った時に話を聞こうと決める。とりあえずタツヤがどこにいるかは小学校からの付き合いが長い立向居 城太郎に聞いてみようと、彼がいそうな場所を探し出した。

その際、カケモンを隠すようにいらないダンボールを被せるのを忘れずに。

 

 

タツヤはカケモンを探していた。自分が屋上に戻るタイミングとカケモンがいなくなったタイミングはそうズレていない。カケモンの足ではそう遠くは移動していないと考え今はついさっきいた階を探している。もしカケモンが誰かに見つかれば大変な事になる、そう考えていると背後から声をかけられた。

 

「浪川 タツヤ」

「あっ、才羽さん!えっと、……カケモン、見なかった?ほらこの前の」

 

背後にいたミキにこっそりと小声で聞いた。カケモン達の事を知ってる者と言えば自分と祖父、それに彼女だけ。周りにいる生徒に気付かれないように配慮したが、どうやら成果はあったようだ。ミキはプールのある方向に指を指す。

 

「向こうに、沢渡 アサヒと一緒に居た」

「沢渡さんと…ってなんで?」

 

何故カケモンが他の人間といるのか、もしかしたら見つかったのか。色々な疑問が浮かび上がるがタツヤはありがとうと一言言ってその場から立ち去ろうとする。しかし、その前にミキが一言呟いた。

 

「あなたは彼と何をしたいの」

「何をって…」

「カケモンがいる限りあなたは戦いに巻き込まれる。それはあなたが望んでいる事じゃない。そんな事に意味はない」

 

まるで周りの人間が居なくなったかのように、彼女の言葉が耳に届く。たしかに、タツヤの知る中で戦いの中にはデジモン…というよりカケモンがいた。偶然か必然か、襲ってきたデジモン達はカケモンに関わっている。ミキの言う通りなのかもしれない。戦いたいから戦うわけでも無く、タツヤはただその場の成り行きで戦った…いや、戦わせたのかもしれない。戦いそのものを望んで無いのだ。

だがそれでも、

 

「確かに望んでいないよ。でも…」

「………」

「僕もカケモンもその時が来れば戦うんだと思う。理由はわからないけど、多分」

 

戦う事は望んではいない。だけどあの時確かに戦っていた。何故そうなったかは覚えていない、だけど少なくともその時タツヤとカケモンは戦ったのだ。それは紛れも無い事実…だとすればちゃんとした理由はあるのだろう。もし時間があるのならそれを知る為の時間が欲しいと思っている。

ミキに答えた後、タツヤはプールへと走っていく。その背中が見えなくなるまで見つめた後、ミキは何処かへと去っていた。

 

 

プールでは体操着に着替えた生徒が水を抜いて露わになったプールの底をブラシで磨いている。意外と体力がいるこの行為に何人もの生徒が腕を止めるが一人、うらららとプールを縦横無尽にブラシで駆け抜ける男、立向居 城太郎がいた。体力どうなってんだよと思いながらも、一部の生徒達は城太郎を見て手を休めている。

 

「アイツ、よくあんなに動けるよな」

「さすが体力馬鹿。いろんな部活の助っ人に来る自称エキスパートだな」

「キシャアア」

「うん、キシャアアだな」

 

城太郎に呆れて怪物みたいな声をあげる者まで出てきた。

……いや何かおかしい。ふと思った男子生徒達は声の聞こえた上を見上げる。するとそこには……巨大な化け物がいた。青い肌に顔に外骨格のようなものを付けた水竜のような化け物。いつに間にか現れた生物に男子生徒達は叫び声を上げる。そして叫びを聞いて周りの生徒たちもその存在に気付き叫びが連鎖する。次々と逃げる生徒達の中、城太郎は周りの変化に気付かずに一人ゴシゴシと磨いていた。ある意味大物である。

おそらく掃除に飽きてふざけ始めたんだろうと思いながら一度顔を見上げると誰もおらず、代わりに巨大な水竜が目の前にいた。

 

「ん?どうしたんだってなんじゃありゃああああ!?ま、まさかネッs」

 

セリフを言い切る前に城太郎は滑りに足を取られ後頭部を強打する。そして彼は気を失った。

そんな中、一部始終を見ていた者達がいた。…アサヒとカケモンだ。アサヒは城太郎がタツヤの居場所を知っていると思い来てみたのだが、まさかこんな事になっているとは思わなかった。カケモンは兜の下で焦りながらもアサヒの袖を引っ張る。

 

「あ、アサヒッ!逃げよう!」

「待って、まだ立向居君がいます!」

 

アサヒは髪に隠れた目からプールにいる城太郎を見つける。しかし彼は気を失っており、すぐ近くには水竜がいる。危険な状態だ、このままでは怪我じゃ済まないだろう。

 

「い、行かないと…」

 

震えた足でカケモンは進もうとする。だが進めない、恐怖が体を硬直する、勇気が出せないからだ。そしてそれを見かけたアサヒは…

 

「カケちゃんはここで待っててください!」

「えっ!?アサヒ!」

 

カケモンに言い聞かせ、アサヒはプールへと足を踏み入れた。自分だって怖い、おそらく足は震えているだろう。それでも…いつも自分の心の中にいる彼ならそうするだろうと思ったのだ。過去に、自分にしてくれたように。

アサヒはプールサイドにあった塩素剤を水竜に向かって投げつける。最初の一個は外れたが二個三個と水竜に当たる。それによって水竜の視線はアサヒに移った。

そして城太郎から遠ざけるように走り出したが、予想外な事に水竜はその口から氷の矢をアサヒ目掛けて吐き出す。きゃあ、と驚き頭を抱えてしゃがみこむアサヒ。そして正面を見ると氷の矢が水道を凍らせていた。当たればそうなっていた事実にアサヒは腰が抜けてしまう。そして恐る恐る振り返ると、水竜は次の矢を口から出す最中だった。

 

 

ああ、もう自分はおしまいなんだ、とアサヒは目を瞑る。まだやりたい事もあったのに、短い人生だったなと、諦めていた。そして氷の矢は放たれる。

…せめて、最後に彼に会いたかったな…

そう思った矢先、何かが自分を引っ張り上げ抱きかかえられた。そしてゴロゴロとアスファルトを転がる。アサヒは突然の事に閉じた目を再び開くと、そこには先程まで願っていた彼がいた。

 

「沢渡さん大丈夫!?」

「な、浪川君…?」

 

彼…タツヤはアサヒの肩を掴み安否を確認する。その際他人と目を合わす事が苦手な為伸ばしていた前髪から彼女の瞳が露わになった。先程までの恐怖が今になってやってきたのかその色素の薄い緑の目からは涙が溢れ落ちてくる。それと同時に遠くからアサヒー、とカケモンが走って来てアサヒへと抱きつく。心配だったのだろう、カケモンは両目と鼻から色々と垂れ流していた。それを見てタツヤはデジヴァイスを取り出し立ち上がる。

 

「早くここから逃げて、後は僕達がやるから」

「で、でも」

「大丈夫だよ、僕らはアイツには負けたりしない。カケモン、行こう!」

「うん。アイツ、アサヒを虐めたんだ…許さない!」

 

涙を振り払いカケモンも前へと踏み出す。相手への恐怖より親切にしてくれたアサヒを傷つけられた事による怒りが強いのだろう。その怒りに反応してデジヴァイスは起動した。

 

「セットアップ、オメガモン!」

 

《X EVOL.》からカードを具現化し、カメラでコードを読み込む。そしてカケモンへと向けられた光は更なる変化をもたらした。

体を強靭なものに成長させ、灰色の鎧を身に纏い純白のマントを左肩に纏う。そして小型の大砲と剣を合わせた武器、ウェポンΩを右手に掴み口元をバイザーで覆うその姿はまるで騎士。正面を切り裂くと彼は名乗り上げた。

 

「アップグレード! カケモン ver.オメガ!!」

 

アップグレードしたカケモンを横目にタツヤは《ANALYZER》を起動して水竜を調べる。水竜はシードラモンというデジモンらしい。アイスアローという必殺技と水や氷の技を使う事が判明した。タツヤは被害を出さないように接近戦で戦うように指示するとカケモンの変化に驚いたアサヒをプールサイドの隅へ移動させプールの底へ移動する。そして城太郎の元へと向かう。

 

「コイツ、すばしっこい…!」

「キシャアアアアア!」

「グッ!?」

 

一方カケモンは苦戦を強いられていた。水はほとんど無いとはいえシードラモンが有利な場所だ、プールにあるわずかな水場の上で滑りカケモンの攻撃を避け攻撃を仕掛けている。カケモンは被害を出さないように剣を使って戦っているが一太刀も食らわせていない。そうしていると、カケモンの一瞬の隙をついてシードラモンはカケモンの体に巻きついた。

その締め付けはカケモンを苦しめるには十分過ぎた。初めは抵抗したカケモンだったが次第に抵抗は薄れていきウェポンΩをその手から離してしまう。シードラモンはトドメにアイスアローを吐き出そうとするが、その前に目に異物が入り込む。……それはアサヒの投げた塩素剤だった。まだ手に握っていたそれをシードラモン目掛けて投げつけたのだ。

 

「アサ、ヒ…!」

「カケちゃん頑張って!」

「カケモン、上に投げるんだ!そこなら何もない!」

 

城太郎を救出したタツヤの言葉にカケモンは頷く。先ほどの異物のせいか締め付ける力が弱くなったシードラモンの尻尾を掴みカケモンは上空へ敵を投げ飛ばす。

空なら壊れる物は何も無い、思う存分やれる。ウェポンΩを再び手に持ち剣を収納し大砲を構えた。大砲の銃口から冷気が漏れ出し、カケモンの背後に獣の幻影が現れる。そして力を貯め終えると一気に解放させた。

 

 

「コキュートスハウリングッ!!!」

 

 

ウェポンΩから放たれた冷気の弾丸がシードラモンへと放たれる。シードラモンは空中でアイスアローを連発させるが意味は無く、着弾。シードラモンを中心にまるで花が咲いたかのように巨大な氷の塊が現れると、粉々に砕け散った。まるで雪のように降り注ぐそれにアサヒはキレイ、と声を漏らす。

…このままなら綺麗な終わり方なのだろうがまだ終わっていなかった。タツヤのデジヴァイスからワレモンが出てくると一直線にカケモンへとダッシュ。そしてスプリットオーラを足に纏うとカケモンの鳩尾に蹴り込んでいた。

 

「どっせい!!」

「あぐっ」

 

そしていつもの如くカケモンは元の姿に戻りプールの底へと落ちる。イタタ、と頭をさするカケモンの目の前にワレモンが現れ、まるで般若のような表情でカケモンの兜を掴み揺さぶると怒りに任せて叫んでいた。

 

「まーたーおーまーえーはぁあああああ!!」

「わ、ワレモンくるじいょ、なんかでちゃう…」

「ストップ、ワレモンストップ!」

「か、カケちゃぁぁぁん!?」

 

 

プールから撤退したタツヤ達(ちなみに城太郎は置いて来た、そこまで重症じゃ無いし)。その際アサヒからカケモンや先ほどの怪物、シードラモンの事を色々と問い詰められた。最初はごまかそうとしたが、こういう時に押しが強くなる彼女に負けたタツヤは自分が知る事を話し始める。ここ数日の事、デジモンの事、デジタルワールドの事。全て話し終えたタツヤはどうか内密に、とアサヒにお願いしようとするが、

 

「わ、私も手伝えると思うんですっ!生徒の避難くらいはできますよ!」

「いや、でも…」

「私、浪川君とカケちゃんを応援したいんです!」

 

アサヒは自ら協力者を名乗り出た。その行為の裏には、タツヤが無理をしないように見守るというアサヒの想いがあるのだがそれは残念ながらタツヤに伝わらない。ここ数時間でカケモンと仲良くなったんだなと思い、危険な時はすぐ逃げる事を条件に了承した。タツヤは何気に断れない性格をしていたのだったのだ。

しかし、カケモンとアサヒはまた一緒に居られる事に喜び抱き合って居た所を見て、まあいいかと開き直った。

 

 

 

 

「…あれが、例のデジモンか」

 

 

 

 

翌日、学校は謎の水竜の事で持ちきりだった。学校の職員達は何かの見間違い、子供の戯言だと相手にしなかったがプールにいた生徒は多数いたのだ。水竜の、シードラモンの事が広まるのは必然だった。

そしてカケモンの事は知られて居ない。というのもあの時いたのはタツヤとアサヒ、そして気絶した城太郎だけだったからだ。

ちなみにだが城太郎はと言うと、

 

「ありゃ間違いないな、真・学校七不思議の一つ『プール開きの水竜』だ!プール開きを急かすように生徒を脅す妖怪に違いねぇ!」

「うん、不思議でもなんでもないね。妖怪って言ってるし」

 

などと言っていた。ポジティブな発言はいつも通りだが今回は七不思議と来たか。タツヤは机の上に乗って話す城太郎を見て溜息をつく。そんな彼の後ろでアサヒはクスリ、と笑っていた。




おはようございます!
タカトモンです

毎週に上げるのは少し遅いですかね?
上げられないことはないのですが都合もあり一週間に一回にしております

そして今回登場したアサヒというキャラクターですが友人の押し売りで入っております笑笑
なので少し優遇されてるところもあるかもしれませんが一応ヒロインとして考えているのはミキです笑
これからいろんなことが明かされていきますがまだまだ謎は残していくつもりなのでよろしくお願いします
ここから10話ほどはミキは空気です

それではまた一週間後に

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。