デジタルモンスター Missing warriors   作:タカトモン

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四話 《もう一つのデジヴァイス》

 

六月も終わりに差し掛かり太陽が沈むのが遅くなる頃、学校帰りのタツヤはつい先程別れたアサヒに手を振り帰路に立っていた。二日前に起こったプールでのシードラモンとの戦いからアサヒはタツヤ達とよく交流している。特にカケモンとは仲が良いようで、アサヒの持つ弁当のおかずやお菓子を餌付けしていた。

そんな新しい日常が始まった初めての金曜日の夜に、デジヴァイスの中にいるワレモンが声をかける。

 

『おい、タツヤァ。今度は町に連れてけよ』

「町に?急にどうしたのワレモン?」

『急じゃねぇよ。お前、明日はガッコーいかねぇんだろ?ガッコー見るのも飽きてきたしな。現実世界にいるのに他のとこ見ねぇのもったいねぇし』

『むにゃ…何話してるのぉ?』

ワレモンとの会話の途中で、寝ていたカケモンが目を覚ます。昼休みに昼食を食べた後に寝ていた彼は目を摩りながら眠たげに起き上がった。そんな彼はタツヤからつい先程の会話の内容を聞くと眠気が飛び、キラキラとした目で画面越しにタツヤへと詰め寄る。

 

『ボクもっ!ボクも行きたい!この前面白いのいっぱい見たから行きたい!』

「…うん、わかった。じゃあ明日は町に行こうか」

『やったぁ!』

 

ここ数日はデジモンも見ないし良いだろうと了承した。普段外出はしないタツヤだが、デジモンの二人に町を見せてあげたいと思い、いつぶりかの外出をする事にする。デジヴァイスの中で飛び跳ねてるカケモンにうるせぇ、と頭を叩くワレモンを咎めながらもタツヤは歩みを止めなかった。

 

 

翌日、昼食を家で済ませ出かけたタツヤ達。その際、祖父である源光に将棋の本のお使いを頼まれたので本屋に寄ることも忘れない。そして着いたのはタツヤ達が住む○○町の中でも発展したショッピングモールだった。都心に近いこともあり、品揃えが豊富な事からタツヤと源光もよく買い物や備品を買うときに利用している。人で溢れかえる中で、タツヤ達は移動しながら会話していた。

 

『いっぱい人がいるねぇ』

『町だから集まるのは当然だろうな。って言っても多すぎな気もするけどな』

「今日は休日だからね。いつもより混んでるんだよ」

 

土曜日は特にね、と付け加えるタツヤ。外の景色が見えるよう胸のポケットに入れたデジヴァイスからワレモンの声がへー、と聞こえた。カケモンに関しては最早遊園地に来ていた子供そのものだ。時々あれは何、これは何、と聞かれるほど楽しそうにはしゃいでいる。

 

『…しっかし、デジタルワールドに無いものばっかだなぁ』

「そう言えばなんで二人はあの森にいたの?」

『あ?ンなのたまたまだ、たまたま。オレは当てもなくデジタルワールドブラブラしてただけだ』

 

所謂旅人か何かかな、とタツヤは思った。ワレモンが言うにはデジタルワールドは現実世界と違って文明がある地域が少ないらしい。大きな街や集落が転々とあるらしいが、半分以上は自然の中で生活しているとか。

その説明もあり納得しかけるタツヤだが、ワレモンの言葉にふと違和感を覚える。

 

「おれはって、カケモンは違うの?」

『コイツは途中で拾っただけだ。なーんも知らない世間知らずだったからな』

「そうなの、カケモン?」

『うん。なんかね、よく覚えてないの』

 

いつのまにか話を聞いていたカケモンがそう答えた。よく覚えてないというのはワレモンと会った時だろうか、と考えながらも人の波の中を進んで行く。時々人に当たりながらも軽く謝罪しながら進んでいった。

 

 

あれから3時間程経っただろうか。時間を感じさせない程カケモンとワレモンの好奇心、そして質問攻めにあったタツヤ。途中出店のアイスを人数分買って(店員に変な目で見られたが)三人で食べながら休憩したりした。そして家を出るときに源光に言われたお使いの事もあり、今は本屋に居た。そして目当ての本を持ちレジへと移動しようとした矢先、声を掛けられる。何かデジャヴを感じながら振り返ると、そこには転校生、才羽 ミキがいた。

 

「浪川 タツヤ」

「あれ、才羽さん?どうした…の?」

 

タツヤの視線はまず彼女の手元に移る。両手一杯に持っているのは全て本だった。しかもその全てが厚く、そして中学生が読む事はまず無い哲学の本や科学的な理論の書かれた本ばかり。その事を追求しようと視線を上げるが、またある事に気がついた。それは、休日であるにも関わらずミキの服装がタツヤの通う中学の制服な事にだ。

 

「あの、その格好は一体…?」

「?服は着るもの」

「いやそうなんだろうけど、私服は?」

「持ってない」

「え!?」

 

店の中で思わず大声を出してしまった。少し周りを見渡すが他の客は気に留めて居ないようだ。再び正面へ顔を向けるとミキは首を傾げて居た。

 

「…何かおかしい?」

「えっと…今時私服持ってない中学生いないと思うよ…?」

「そう、なの?」

 

またもや傾げる彼女は手に持った本の山をタツヤに渡す。意外と重いなと思っていると彼女はすぐ近くにあったファッション雑誌を手に取りパラパラとページを捲っていた。

もしかしたら家庭の事情で何かあるのでは、とタツヤが謝ろうとした矢先、ミキは急にタツヤから離れると近くの化粧室に入り込んだ。そして10秒立って出てきた彼女は激変していた。

 

「どう?」

 

軽く手を広げたミキはタツヤに声をかける。今の彼女の服装は薄い紫色の肩を露出したトップスに首には黒いチョーカー、腰にはデニムのショートパンツをベルトで留め、足には黒いニーハイと濃い紫の低いヒールを履いていた。まるでさっきの雑誌から切り出したかのようなミキの格好に一瞬呆けたが、すぐに頭を振る。

 

「いや、どうって…ここ本屋…」

「どう?」

「だから……っていうか制服は?」

「どう?」

「……大変似合ってます」

 

本屋でどうやって着替えたのか、その服をどこから持ってきたのか、さっきまで着ていた制服はどこにやったのか、色々聞きたかったが彼女からの重圧にタツヤは折れた。そしてタツヤに渡していた本の山を軽々と受け取ると、隠れていた胸ポケットのデジヴァイスからカケモンが声をかける。

 

『あ、君、前に森で会った!』

「あなたは…」

『ボク、カケモン!えっと、名前なんていうの…?』

「才羽 ミキ」

『さい…?ミキだね!よろしく!』

「よろしく…?」

 

またもや首を傾げるミキ。何気にカケモンと出会ったあの時以来面識が無かったと実感する。今日はよく首を傾げるなぁ、と思いながらもタツヤは別の話題を振った。

 

「その本、全部買うの?」

「買う」

『そんなの読んで面白いのか?』

「面白い?…違う、これを読むことに意味がある」

「よくはわからないけど、凄いんだね、才羽さんは」

「凄い…?」

「だってそれ高校生とか大学生とかが読むレベルの本だよ。凄いなぁ、僕なんかより全然頭いいよ」

「…っ」

 

彼女の言葉の意味は分からなかったが、心から思った事を言う。自分の読む本といえば大体は学校の教科書くらいだ。他の事に興味がないのもあるし、趣味も持たないタツヤにとってはそれが普通だった。

一方のミキは、今まで見せなかった表情を見せていた。大きく目を見開いて、閉じていた口元を少し開けている。驚いているような表情のミキは、頭の中に浮かぶタツヤのフレーズを繰り返し響かせていた。どこかで、どこかでそれを聞いたような…そして彼女は無意識に呟く。

 

「はか…」

「おい」

 

その途中、ミキの後ろから声をかける男がいた。全身黒一色、パーカーで顔を隠しているその男に気付いたミキは振り返り、硬直する。タツヤからは見えていないが、ミキは先程の表情とは違った様子で驚いていた。タツヤはいつまで経っても動かないミキを不思議がったが、今立っている場所の本に用があると思い謝罪して本棚から遠ざかる。

 

「すみません。今退きます」

「違う。俺が用があるのは本じゃない。…お前だ」

 

男はタツヤに向けて指を向ける。え、と不思議がるタツヤに男は腕を下ろしポケットを探る。そして取り出したモノを見てタツヤは息を呑んだ。それは黒いスマートフォンだった。ただ、その裏に書かれているものが問題だったのだ。藍色に描かれた《DIGIVICE》と言う文字。そう、そこにあったのはタツヤの持つものと同型のデジヴァイスだった。

 

「外に、出てもらおうか」

 

 

男に言われるまま出てきたタツヤとミキ。本来なら呼ばれたのは自分だけだったので来なくていいと言ったタツヤだったが、ミキは着いて行くと一点張り。その事に折れたタツヤは彼女も連れて外に出ていたのだ。

男に連れられてやってきたのはショッピングモールのすぐそばにある運動場。既に夕陽が落ちかけているので人は数えるほどしかいない。タツヤは警戒しながらも声を掛ける。

 

「あの。貴方は一体誰何ですか?それになんでデジヴァイスを…」

「出てこい、モスドラモン」

男はタツヤの言葉を無視しながらデジヴァイスを取り出す。そしてそこから出てきたのは、紛れも無いデジモンだった。

カケモンとワレモンより頭一つ程大きく、深緑の鱗で覆われた竜のような姿で、背中にはまるで目のような模様がついた蛾のような羽が生えていた。ギロリとその鋭い黄色い目でこちらを見ると、タツヤのデジヴァイスからカケモンとワレモンが出てくる。その際カケモンはワレモンの背中に隠れていた。

 

「デジモン!?」

「テメェ、何者だ!?」

「弱者は黙っていロ」

「んだとぉ!?」

 

激昂するワレモンを横目にタツヤは《ANALYZER》を起動させ目の前のモスドラモンと呼ばれたデジモンをスキャンしようとした。しかしその前に男は自らのデジヴァイスの《X EVOL.》を起動させる。そして画面に移されたアイコンの一つを押すと、一枚のカードが現れた。描かれていたのは巨大な羽と鋭い牙を持ったまるで悪魔そのもののようなデジモン、デーモン。男はカードの裏にあるUGコードを読み取る。

 

「セットアップ、デーモン」

 

男はデジヴァイスをモスドラモンに向けて、黒い光を放つ。それを受けたモスドラモンは変化を始めた。

 

0と1で構成された空間でモスドラモンは半透明に具現化されたデーモンを口から吸い込む。すると今度は口から白い糸を吐き出し体を覆った。糸で構成された繭は次第に巨大化していき、途中で弾け飛ぶ。

…そこに現れたのは憤怒の悪魔。

巨大な二本の角、太い尻尾と鋭い爪、強靭な肉体を持ち蛾と蝙蝠のような二対四枚の羽で風を起こし、口から炎を立ち昇させた。

 

「アップグレード モスドラモン モデル・ラース…!」

 

モスドラモン モデル・ラースが姿を表すとタツヤ達は動揺を隠せないでいる。デジヴァイスもそうだったが、その使い方まで同じ事に驚いた。そうしていると、モスドラモンはイントネーションが少々変わった口調でカケモンに話し掛ける。

 

「進化!?いや、違う。ありゃあ、まるで…」

「カケモンと同じ…」

「どうしタ、戦わないのカ?」

「え、ぼ、ボク?」

「…君達が誰かは知らないけど、僕達には戦う理由は無いんだ。このまま帰らせてもらうよ」

 

そう、タツヤの言う通り理由はないのだ。タツヤもカケモンも戦う時は常に身の危険か誰かの危険があった場合だけ。こうやって意思疎通ができるのであれば戦う必要は無い。

そうやって帰ろうと歩き出した瞬間、

 

「ならば、理由を作ってやろう」

 

モスドラモンの口から紅蓮の炎が吐き出される。吐き出された先にいたのは、ミキだった。

 

「……!」

「才羽さん!」

 

タツヤが叫ぶ。その一瞬前にミキは後ろに飛んで炎を避けた。炎は芝生を燃やし直ぐに消える。…あの一瞬で避けなければ確実に当たっていた、そう思えるほど的確だった。

 

「戦わないのなら俺達はこのままそいつを狙い続ける。そうでなくとも、別の人間を狙うがな」

「やめろっ!」

「どうだ、戦う気になったか?」

 

男の瞳がフード越しに見えた。人が傷付く事にまるで動じてない、それと同時に人を憎んでいるような矛盾を生じた赤い目をしている。それに言いようがない寒気を感じたタツヤはデジヴァイスを取り出した。

 

「セットアップ、オメガモン!」

「アップグレード! カケモン ver.オメガ!!」

 

瞬時にカケモンがver.オメガになる。カケモンは一気にモスドラモンに近づきウェポンΩの剣を展開し斬りかかった。しかしその一撃は避けられそのまま距離を取られる。カケモンは敵意をむき出しにしながらタツヤ達を庇うようにウェポンΩを構えた。

 

「よくもミキを…!許さない!」

「…貴様の弱点は三ツ」

 

モスドラモンは呟くと同時に走り出す。カケモンは慌ててウェポンΩの刀身を折り畳み銃口を向けるが既にモスドラモンの姿は消えていた。

 

「一ツ、その武器は剣と銃を両立できなイ。遠距離戦か近距離戦、どちらかに偏る事ダ」

「がっ…!?」

 

背後から声が聞こえると同時に背中を蹴り飛ばされる。あの一瞬で、目を離した隙に背後に回られた事に驚きながらも体勢を整えるカケモン。そして、カケモンが目にしたのは先程までいた場所、背後のタツヤ達に向けて爪を突き付けていた。

 

「タツヤッ!」

「二ツ、パートナーの人間が無能。こちらのように戦場を把握し一定の距離、立ち回りを常に思考しないと今のように後手に回ル」

 

一方、現在のカケモンの背後には男はおらず、この場から離れた観戦席の近くに立っていた。モスドラモンはタツヤ達に向けていた爪を引くと再び正面へと走り出す。

今度は攻撃を当てようとしたカケモンだったが、この位置では万が一外れた場合タツヤ達に当たる事に気付き一瞬戸惑った。その戸惑った隙にモスドラモンはカケモンの鳩尾に拳を叩き込み、瞬時に顎に向けてアッパー。空中に浮かび上がったカケモンに向けて尻尾を叩き込んだ。

 

「ぐあああ!!」

「カケモン!」

「…この程度カ」

 

飛ばされたカケモンを横目に、モスドラモンはタツヤを攻撃せずわざわざ見過ごしていた。完全に相手の実力が上だ、ワレモンは今までの戦闘で圧倒的な実力差を実感する。カケモンは揺れる頭を揺さぶりウェポンΩを構える。このままではやられる、一気に片をつけなければならない、その一心だった。

するとそれを見たのか男はデジヴァイスから新たなカードを呼び出す。

 

「あのヤロウ、まさか…!」

「セットアップ、リヴァイアモン」

 

コードを読み取るとデジヴァイスから光が漏れモスドラモンに当たる。

すると再びモスドラモンは元の姿に戻り、0と1の空間であるデジモンの幻影を吸い込む。それは巨大な赤いワニに似たデジモン、リヴァイアモン。モスドラモンは再び繭に包まれると今度は先程より一回り大きくなり弾け飛ぶ。

現れたのは嫉妬の悪魔。

先程とは違い赤い鱗に覆われ、腹部には巨大な口、体の所々には鋭い牙のついた小さな口が付いていた。そして、蛾のような羽が突風を起こすと身体中の口から雄叫びを上げる。

 

「アップグレード モスドラモン モデル・エンヴィー…!」

 

モデル・エンヴィーへとなったモスドラモンは今にも技を放ちそうなカケモンに向き合う。カケモンは何か仕掛けてくる前にと、既にチャージしていたエネルギーを解放させた。

 

「コキュートスハウリングッ!!!」

 

撃ち抜かれた氷の弾丸はまっすぐモスドラモンに向かって進む。モスドラモンはそれを避けようとはせずにただそこに立つ。それを見たタツヤは決まった、と勝利を確信したかのように思えた。

だが…

 

 

「ロスト・ザ・エンヴィー!」

 

 

腹部の口が開かれ氷の弾丸は着弾する前にその中へと吸い込まれる。そしてモスドラモンの体が一瞬膨れ上がると、身体中の口から冷気を漏らしていた。そう、モスドラモンは相手の技をエネルギーごと喰らい無力化させたのだ。

 

「そして三ツ、戦闘の経験不足。他がどうであレ、これが一番致命的ダ」

「そんな…」

 

この光景を見てタツヤは膝をつきそうになった。今までのデジモンとは違う、力も技も戦略も上回っている相手に目の前が真っ暗になりそうになる。その光景を見た男は興味を無くしたかのようにモスドラモンをモデル・ラースへと戻した。

 

「やれ、モスドラモン」

 

その一言でモスドラモンは口に紅蓮の炎を貯め始めた。膨大な熱量が溢れ出し、全てを焼き尽くすような、そんな錯覚をさせられる。嫌な予感がしたタツヤは逃げろ、とカケモンに向け叫ぶ。

しかし既に遅かった。

 

 

「ラース・インフェルノ…!!!」

 

 

放たれた巨大な炎は芝生を灰に変えながらカケモンに向かう。そのスピードはカケモンの回避するにもその速度すら上回っていた。咄嗟にマントで身を隠したカケモンだがその威力を殺す事なく炎は大爆発を起こす。

 

「ぐああああああ!!?」

「カケモン!」

「ッ!」

 

土煙が晴れて、中心に元の姿に戻ったカケモンが横たわっていた。全身ボロボロの姿で気を失っているようだ。

そんなカケモンにタツヤが駆け寄りミキが表情を崩す中、一人モスドラモンへと走る者がいた。

 

「てぇぇんめぇぇぇ!!」

「弱者ガ、無駄なことヲ…!?」

 

ワレモンは腕にスプリットオーラを纏いモスドラモンに殴りかかった。なんの力のないデジモンの攻撃に避ける必要は無かったのだろう、モスドラモンそれを受ける。

だが、食らった瞬間モスドラモンは元の姿へと戻っていた。それを見て男は薄く笑いながらも観戦席から降りてくる。

 

「ほう…。面白い力を持ったデジモンもいるようだな」

「テメェら、今度はオレ様が相手だ!!あのバカと同じだと思うなよ、お前らはオレがぶっ潰す!」

 

歯をむき出しに男とモスドラモンに威嚇するワレモン。実力差など関係無い、死んでもかまわねぇ、今のカケモンを見たせいか理性など吹き飛んでしまっていた。そして今のうちにカケモンを連れて逃げろ、と頭の片隅でそう願う。

だがワレモンのその決意は無駄に終わった。

 

「いや、今日はここまでだ」

「あア」

 

男とモスドラモンは興味を無くしたかのようにワレモン達から背を向ける。その光景にカケモンを抱き上げたタツヤは思わず声を荒あげた。

 

「待て…!お前は、お前達はなんなんだ!」

 

その一言に男は立ち止まった。そして振り返ると同時に強風が吹き荒れる。その影響でフードがめくれ、男の素顔が露わになった。

…病的なまでの白い髪、フードの奥から見えた赤い目、そして何より目立つのは顔の右側を覆う火傷の痕。

 

 

「“A”。今はそう名乗っておこう」

「オれはモスドラモン。いずれ強者の頂に立つ者ダ」

 

 

再び正面を向く。もう彼らには去っていく様を見届けるしか無いだろう。タツヤはカケモンを抱きしめる腕が強くなる。

 

これが、タツヤとカケモンの初めての敗北だった。

 

 


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