デジタルモンスター Missing warriors 作:タカトモン
工場での戦闘から約一時間、物語は何度目かのタツヤの自宅の自室から始まる。
そこには部屋の主人のタツヤ、カケモンにワレモン、アサヒ。そしてつい先程会ったハックモンがいた。椅子にはタツヤ、ベッドの上にはいつもの二体、そしてアサヒ。床に置かれた座布団の上にはハックモンが座っている。そんな中、好意を持つ男性であるタツヤの部屋に来たアサヒは…
(浪川君のお部屋…!ドキドキします…!)
などと少し顔を赤くしていた。横からは大丈夫?、とカケモンが話しかけているがまったく耳に入っていない。そうしていると、タツヤはワレモンの側に近寄り、ボソボソと耳打ちした。
「ねぇワレモン、今更だけどロイヤルナイツって何…?」
「あ?まぁ簡単に言えばデジタルワールド最強の究極体集団だ」
曰く、全て聖騎士型デジモンであり、ネットワークセキュリティの守護神、最終防衛ラインとも呼ばれている。デジタルワールドに危機や秩序の乱れが起こる時に現れ、その元凶を排除するのが役目だそうだ。ただし、中には他のデジモンの事を一切顧みず行動する者もいるようでその存在には他のデジモンからも賛否両論と言った所だ。
そしてワレモンが聞いた話だが、殆どのロイヤルナイツはデジタルワールドの各エリアを守護している筈。だが彼が立ち寄ったエリアにはロイヤルナイツが不在。噂によれば強大な敵に倒され、全滅したと言われている。
タツヤは一応納得すると、再び正面に姿勢を正した。
「さて、ではオレの…オレ達ロイヤルナイツの現状について話そう」
ハックモンはそう言い重い口を開ける。それは彼がジエスモンとして経験した約半年前の出来事だった。
「まず最初に言わなければならないのはオレ達は少なくとも全滅はしていない。オレ達はとある敵との戦いに敗れ、力を奪われた状態でいる」
「力を、奪われた?」
「ああ。その敵は最初はオレとオレの師匠と戦っていたんだが、次第に追い詰められてしまってな。結果的に一人を除いたロイヤルナイツ全員で戦った」
「おいおい、それで全滅かよ!?その敵ってのはなんなんだ?まさか噂に聞く、七大魔王って奴らか?」
また知らない用語が出てきて首を傾げるタツヤ。名前からして良いデジモンではない事がわかるがワレモンの顔からして危険な相手だと察する。それに対してハックモンは、首を横に振った。
「…わからない」
「わからない?でも、ハックモンさんは見たんですよね?」
「ああ。しかし…認識出来なかったんだ。奴の姿、攻撃方法、世代…全てが分からなかった」
奇妙、不気味、それらを踏まえて正体不明(アンノウン)の敵を思い出したのかハックモンの顔は険しくなっていく。悔しさか、それとも恐怖か。どちらにせよ敗北したという結果に彼は苦しんでいた。そんな彼を見ていたワレモンはマジかよ、と呟く。相当驚いているのだろう、まさか敗北するどころかこういった表情をしているロイヤルナイツを目の前で見てしまったのだから。
「…話を戻そう。オレ達ロイヤルナイツは奴に傷をつけられず無力化され、力を奪われた。その証拠に、オレはジエスモンとして数分間しか戦えない」
「そっか、だからその姿なんだね」
簡単に言えばエネルギーの節約、と言った所か。ジエスモンとしての姿を維持するには膨大なエネルギーが必要か、もしくは戦闘行為に必要なのか。どちらにせよ今のハックモンとしての姿であれば負担もエネルギーの消費も少なく活動できるのであろう。そう思っていると、まだ解決していない疑問を想い浮かばせる。
「あれ?でもなんで現実世界に?もしかして偶然ゲートが開いたとか?」
「いや違う。力を奪われたオレ達の他に、殿になった同胞が放った攻撃が時空を歪ませオレともう一人がこの現実世界へと飛ばされたのだ」
脳裏に浮かぶのはいつもその出来事だったのだ。殿を務めた彼の後ろ姿を思い出す。力を奪われ、何もできなかった自分達を逃がすために彼は最後まで戦った。今考えればあの時の時空の歪みは彼が意図的に起こしたものだろう。
思い出す…傷付き、地に伏した自分達の目の前に背を向けて立つ彼の姿を。たとえ彼が、他の同胞から反逆者と罵られようとも、神と呼ばれる存在の命に背いた罪人だったとしても、その背中はデジタルワールドを…デジモンを守る誇り高き騎士だったのだ。
その瞬間に浸っていると、ワレモンはケッ、と悪態をつく。
「そんで半年もおめおめと暮らしてたってわけか、情けねぇ」
「ちょ、ちょっとワレモン…!」
「いい。事実には変わらない。だが…希望ならある」
「希望、ですか?」
「ああ。デジタルゲートは究極体級のデジモンの力であれば開くことができる。今のオレは力を奪われているが…」
「もう一人のロイヤルナイツと一緒なら開けるかもしれない、って?」
今度は肯定するように縦に頷く。そうだ、まだいるのだ、現実世界へとやってきたロイヤルナイツが。だが彼がどこにいるのかはわからない。ロイヤルナイツ同士の通信は今は使えない事もあり、探すのに苦労しそうだ。
どうやって探そうかと難儀していると、部屋の外からノックされ源光が中へと入ってきた。
「はいはい。難しい話はそこまでにして、夕飯にしよう」
「はーい!」
「ありがとう、おじいちゃん」
「あ、ありがとうございます。お夕飯頂いちゃって」
「今日の飯なんだー?」
「ビーフシチューだよ」
ぞろぞろとリビングへと移動するタツヤ達。ポツン、と一人残されたハックモンに源光は君も一緒に来なさい、と声を掛けた。彼はわかったと言うと同じく部屋を出る。だが、その最中に彼はタツヤとカケモンから目を離さないでいた。
(デジヴァイスとは一体何か、カケモンのあの変化は一体何か……もし奴の手の者だとしても、彼らから悪意を感じられない)
(だとしたら…今一番に警戒すべきなのは、もう一つのデジヴァイスを持つ者達。“A”とモスドラモンか…)
(どちらにせよ、彼を探さねば…!一刻も早くデジタルワールドに戻り状況を…)
「「「いただきまーす」」」
「いっ、いただきますっ」
「いただきます…」
いつのまにかリビングへと来て椅子に座っていたハックモンはタツヤ達につられて一言発した。そして器用にスプーンを掴むと、皿に盛りつけられたビーフシチューを掬い口へと運んだ。
「……ッッッ!!?」
瞬間、未知の衝撃が彼を襲った。
暖かく、そして濃厚なスープと同時によく染み込んだ野菜が口の中でホロホロと崩れ、味が広がっていく。
ハックモンは無意識に二口目を口へと運んでいた。今度はビーフシチューの由来と言うべき牛肉。口へと入れた途端、肉はホロホロと崩れ落ち彼を驚かせた。彼にとっては肉は硬く、口の中で噛みしめるものだった。そう、だった、だ。今彼が口の中に入れた肉はそれとは全くの別物。ハックモンにとっては未知のものだったのだ。
故に彼は牛肉を必死に味わおうと、嚙みしめようとした。だがそれは叶わず牛肉は溶けてなくなり、しかし味は口全体へと広がる。ゴクリ、と呑み込み胃へと運ぶ。
…言葉にできなかった。できないがそこには感動だけが残った。
「し、失礼だが、ご老人。名前を伺っても…?」
「ん?ああ、私は浪川 源光。源光と呼んで構わんよ」
「……源光殿と呼ばせて頂きたい…!」
現実世界へとやって来て食べて来たのは木の実や川魚、コンビニの廃棄処分予定の弁当など。そのせいなのかわからないが…修行中に共に行動していた姉妹の手料理を退けて源光の料理はハックモンに多大な感動を与えた。
これが、ロイヤルナイツの一人が老人の料理に堕ちた瞬間である。
翌朝、
「おーい、タツヤ!昨日ラブレター貰ったんだってな!いやー、幼馴染としては春が来たお前を祝いたくてさー。学校中に広めちまったぜ☆」
「今すぐ撤回してこい、このバカ」
小学校からの付き合いがある立向居 城太郎の一言でタツヤは朝から不機嫌だった。どうりで朝から自分を見る目がおかしかった、と納得する。もっと言うと、自分のクラスの男子が殺気立ってる事が何よりの証拠だ。と言うかいつ見てたんだコイツは、とついには眉間を押さえるタツヤに彼は空気を読まず話し出す。
「おいおい、照れんなって。お前とは小学校からの付き合いだけどよ、ラブレターなんて貰ったの初めてじゃん?だから恋のエキスパートである俺が一肌脱ごうって」
「今すぐ撤回してこい」
「いだだだだだだ!?」
とうとう物理的に手を出してしまうタツヤ。彼の手は城太郎の顔に伸び、力の限り鷲掴む……所謂アイアンクローをしていた。ギブギブと机をタップする城太郎だがそれでも手を離さないタツヤ。一分程経過しただろうか、タツヤは掴む手を離し城太郎を解放する。解放された彼は魂が抜けたように体を白くさせていたが、タツヤが早くしろと言いたげな目で睨む。その事に気付き、一瞬で元の色に戻ると城太郎は体を180度回転させ走り出していた。
「行ってきまァァァァァァァァッす!!!」
「まったく、いつまで経ってもうるさいんだよな」
「あ、あはは…」
一連の行動を見ていたアサヒは苦笑い。そしてその光景をデジヴァイス越しに見ていたカケモン達は…若干引いていた。
『……タツヤを怒らせたらやばいな』
『う、うん…』
「よし、あと残り3クラス!予鈴がなるまであと五分弱、急げ俺!!俺は誤報を伝えるのだってエキスパートの筈だぜ!!」
「立向居 城太郎」
「お?」
タツヤに言われた通り、各クラスに伝えた内容を訂正して周る城太郎。その背後から声を掛けられる。相手は転校生、才羽 ミキ。
「お前……あー、転校生の……サンバ?」
「才羽 ミキ」
「そう、才羽だ!なんだ、俺に用か?今俺忙しいから後で…」
「どうして浪川 タツヤに関わるの?」
その一言を耳にした城太郎は不思議そうな顔をする。理解しているのか、それとも質問の内容が簡潔にし過ぎたか。後者であると推測した彼女は再び城太郎に問い掛ける。
「彼はあなたに好意的じゃない。それにあなたの行為も彼にとっては迷惑。なのに何故関わるの?それが意味のない事だとわかっている筈なのに」
「お前…もしかして俺に妬いてr」
「質問に答えて」
巫山戯ていると思ったのか、いつもの顔で若干苛つきを含み再び問いかけた。一方の城太郎はうーん、あー、などと唸りながらも答えを探る。そして十秒が経過、城太郎は唸り声をやめ、正々堂々と言った表情で腰に手を当て答えた。
「アイツを知ってるからだ。小学校の頃のアイツを知ってるから俺はアイツに関わってる…から?」
「…?答えとしては不適切」
「かもな。でもそれが俺の中での一番理由らしい理由なんだよ」
あまり口にするのは得意じゃ無い、どちらかといえば行動派な彼は自分で言ってしっくりした。その答えでは無い答えに何を思ったのかミキは口を閉ざしたまま。城太郎は不満なのだろうかと思いながらも自分も急いでる事を思い出した。そしてそれを踏まえてミキへ話しかける。
「つー訳で俺は他のクラスを周るから後は…ってあれ?」
喋っている途中で彼女は自分のクラスへと戻って行った。なんだったんだ…?と思いながらも城太郎は自分のすべき事を思い出す。座右の銘は有言実行の彼はまだ訂正してないクラスへと行こうとして…
それと同時に、チャイムが鳴った。
「うっそだぁあああああ!!」
一方、タツヤの自宅ではハックモンが源光の手伝いをしていた。手伝いと言っても源光の趣味の一つである家庭菜園で作った野菜の収穫なので彼は初めは断ったのだが、ハックモンがどうしてもと名乗り出たのだ。よっぽど昨晩の衝撃が忘れられないのか、源光に懐いていた。
それでいいのかロイヤルナイツ。
「ハックモン君、そっちのナスはもう少し後で収穫しよう。夏頃の方が今よりもっと美味しくなるよ」
「心得た」
と、こんな感じで過ごしていた。しかし彼もロイヤルナイツ、デジタルワールドの守護の一角を担っていた者だ。収穫と同時に彼は今までの事を整理していた。そしてまだ解決していない疑問がある事に気付く。
(カケモン…それにワレモンか…。オレがデジタルワールドを旅していた頃には彼らの同族は見かけなかった)
(新種のデジモンか?それとも他のデジモンの亜種か…どちらにせよ、まだ見た事の無いデジモンであるのは確かだ)
(だが、カケモン…彼はどこかで…)
廊下から叫び声が響いて十数分が経過した。タツヤのいるクラスは次の授業があるので全員が移動の準備をしている。その中で早めに準備を終えたタツヤとアサヒは教室を出ようとした。その間、アサヒは朝から…もっと言えば前から気になっていた事を話し出す。
「あの、浪川くん。立向居君とはなんであんな態度なんですか?」
「なんでって…そりゃあ毎回あんな感じで接してくれば誰だってそうなるよ」
「そうなんですか…?」
困ったものだ、といった表情でため息をつくタツヤ。今まで似たような事を繰り返して来たのだろう、その背中に苦労人という文字が浮かび上がるような幻覚が一瞬だけ見えた気がした。それに続いてタツヤはまた口を開く。
「そうだよ、毎日毎日学校で僕にちょっかい出してくる。そのあと僕が遇らうんだけど、それでもまた繰り返すんだ。毎回頭が痛くなるよ…」
「でも…」
アサヒは下から覗き見るようにタツヤの顔に視線を向ける。赤い彼女の髪から覗く透き通った緑の目はちゃんとタツヤの顔を映し出す。
「浪川くん、ちょっと嬉しそうですよ?」
「え?」
アサヒの言葉にタツヤは思わず持っていた教科書を落とす。そして反射的に口を覆った。手が触れた口元の感触を確かめる。そして気付いた、僅かに…本当に僅かに口角が上がっていたのだ。軽くショックを受けているタツヤにあわあわしながらもアサヒは落ちた教科書を手に取りタツヤへと渡す。感謝の言葉を述べ、タツヤは同様しながら歩き出した。
「い、行こう、沢渡さん!次移動教室だよ!」
「あ、はいっ」
足早に教室を出る二人。そして、それを見ていた者が一人。タツヤの隣、すぐ側で会話を聞いていたミキは教科書を手に取り立ち上がる。その思考は先程から変わらない、理解不能という言葉で支配されていた。
(やっぱり、私にはわからない…)
ここに来て、いや、浪川 タツヤに接触してからそればかりだ。その事に多少の不快感を感じながらも彼女は思考を止めない。そしてこれからもタツヤと接触を続けるのだろう。ミキはほとんど生徒が居なくなった教室から出る。その答えを、その場に残したまま。
立向居 城太郎は小学校低学年まで所謂悪戯っ子というべき子供だった。周りに構って欲しくて、誰かと一緒に居たくて、誰かと遊びたくて、いつもそんな行動原理の為にイタズラを繰り返して居た。
そしてある日、とうとうイタズラで人を傷つけてしまったのだ。彼はその事に戸惑い、対処の仕方がわからずクラスから孤立してしまった。誰からも構われず、ただ一人で過ごす孤独な日々、そんなある日、
初めて浪川 タツヤが話しかけて来た。
「そうやってイタズラすると友達居なくなっちゃうよ?」
「うるせぇやい!そんなの俺の勝手だろ!」
思わずそう強く言ってしまう。もっと言葉があったはずなのに、城太郎はそう言ってしまった。そしてタツヤも離れていく…そう思ったが、予想に反してタツヤは彼の隣に座る。
「…みんなのとこ、行かないのかよ。なんでここにいるんだよ」
「そんなの、僕の勝手だよ」
「…そっか」
何故か安心してしまった。同い年の筈なのに、彼は自分を慰めているようなそんな感じがしたのだ。タツヤは外で遊ぶ同級生を見る。そこには、何故か寂しさと要望が含まれた視線を向けて居た。
「立向居君はさ、将来何になりたい?」
「将来?」
「そうだよ、夢とかなりたい職業とか」
答えられなかった。イタズラばかりの自分にそんなものはなかったのだ。
なのに、
「そっか、僕と一緒だね」
彼はそれをすんなりと受け取った。意外だった、彼のような人間は夢を持っているのだと、幼い頃の彼は思って居たからだ。なのに彼はそれを恥じる素振りもせず言った。
「でもきっとすぐ見つかるよ」
「…そうか?」
「うん。それに、もしも迷いそうな時があったら」
「…ち向居ー!そっちに行ったぞー!」
「…っ!おう!」
過去から現在へと引き戻される。目の前に来たサッカーボールを受け止めそのまま相手ゴールへ向かってドリブル。その際何人かのディフェンスからボールを守り抜き、流れるようにシュート。ボールはキーパーの手の間をすり抜けそのままネットへと吸い込まれる。それと同時に自分のチームから歓声が上がり、今日の体育の授業はこれで終わった。
「やっぱすげぇよ、立向居!この調子で次の練習試合も頼むな!」
「へへっ、おう!俺はなんといってもエキスパートだからな!」
「またそれかよ。…ん?」
更衣室に向かって歩いてると急に揺れを感じる。地震か、と身構える生徒達。どうせ直ぐに治るだろうと考えた学生が殆どだが揺れは収まらない。
と、次の瞬間、先程までいたサッカーグラウンドからドリルが生えて来た。
「「「うわあああああ!!?」」」
「み、みんな、逃げろ!逃げるんだー!」
突然の事に混乱する生徒を体育教師は校舎に急げと誘導する。地面を突き破って来たドリル…いや、その下から出て来た巨大なモグラのような生物は逃げ惑う生徒を見るとそちらへ向かって歩き出す。頭部と背中が紫でそれ以外が白、手足の先にも小型のドリルがついたモグラの目に写ったのは、城太郎だった。
「グルルル!!」
「うおっ!?こっち来たぁ!?」
城太郎は他の生徒達と同じように校舎へ入ろうとするが、その避難経路の前にモグラはサッカーボールのカゴを器用にも鼻先についたドリルを引っ掛け投げ飛ばす。目の前に落ちてきたその一瞬、足が止まった城太郎へモグラは接近、このまま行けば校舎に入った生徒にも危害が及ぶ。そう思い別の場所へ移動しようとするが…。
モグラの顔に散らばっていたサッカーボールが当たる。ここにはもう城太郎とモグラしか居ないはず、一体誰が…。そう思いボールの出所に視線を向けた。
「城太郎、今のうちに逃げて!」
「タツヤ…?」
「こっちだ!こっちに来い!!」
「グルルル…!」
制服を着て尚且つ上履きを履いたままのタツヤはモグラの注意を逸らす。《ANALYZER》を使った所、あれはドリモゲモンというらしい。
授業が終わり教室へ戻ろうとした矢先外にデジモンが現れたのでアサヒに避難誘導を頼み、急いでやってきた彼は息を切らしながらもまたもやボールを蹴る。その効果のおかげか、ドリモゲモンは城太郎からタツヤへとターゲットを変更した。それを確認するとタツヤはドリモゲモンから背を向け走り出す。
ついた先は野球部の使うグラウンド。ついさっきまでいたサッカーグラウンドからそれなりに離れており、今の時間は人が居ない。それを確認したタツヤはデジヴァイスからカケモンを出した。
「ここなら…。カケモン、行こう!」
「う、うん!」
「セットアップ、オメガモン!」
やや緊張気味のカケモンと目を合わせタツヤは《X EVOL.》を起動させる。そしてUG コードを読み取りカケモンへ光を浴びせた。
0と1の存在する空間でカケモンは兜を上へと投げ自らの体を強靭なものに変える。飛来した灰色の鎧とともに兜を装着すると飛び上がり純白のマントとウェポンΩを装着し口元のバイザーを閉じた。そして着地し正面をXに切り裂くと自らの名乗りをあげる。
「アップグレード! カケモン ver.オメガ!!」
カケモンver.オメガはウェポンΩの刃を展開してドリモゲモンの真正面を切り裂こうとする。一方のドリモゲモンは鼻先のドリルを回転させ刃をはじき返した。その打ち合いを数回繰り返した所で、ドリモゲモンは前脚のドリルを回転させ土をカケモン目掛けて飛ばす。反射的にカケモンは左肩のマントで土を防いだが、その一瞬、視界を制限されたカケモンにドリモゲモンはドリルを突き刺した。
「ぐああぁ!」
「頑張れ、カケモン!」
地面へと倒れるカケモンにタツヤは叫ぶ。カケモンは直ぐに体勢を整え再びドリモゲモンへと攻撃を再開した。このままじゃジリ貧だ、タツヤはどうすればいい、と自分に問いかける。すると背後から声が聞こえた。
「なんだよ、アレ…?」
「城太郎…!?」
目の前の事に集中しすぎて気付かなかったが、背後には城太郎が立って居た。逃げるように言ったのだが心配でついて着たのだろう。今戦ってるドリモゲモン、そしてカケモンを見てそう呟いた。城太郎は冷静になって考える。この前のプールの水竜ももしかして…関係しているのか。思わず城太郎はタツヤの肩を掴んだ。
「おい、タツヤ。アイツら一体なんなんだ?最近お前の様子が変わってたけど、もしかして…」
「城太郎…」
「危ない!」
カケモンが叫び声を上げタツヤ達を抱き抱え跳ぶ。タツヤは抱き抱えられながらも先程の場所を見ると、ドリモゲモンのドリルが地面を抉っていた光景を目にする。カケモンは二人を下ろしドリモゲモンの方に走り出した。が、ドリモゲモンの姿はどこにも無い。まさか逃げたのか、そう思ったカケモンは一歩踏み出す…それと同時に足元からドリモゲモンのドリルがカケモンを襲った。
逃げたのでは無く、ドリルを使って地中に潜ったのだろう。カケモンは穴に向かって砲撃を放つがそれに意味はない。今度は別に場所に移動しようと再び一歩踏み出すが、先程同様の結果となる。
「カケモン!クソ、アイツの動きを止めなきゃ…!」
「…タツヤ、アイツに隙が出来ればなんとかなるんだな?」
「え?そう、だけど……まさか!?」
「そのまさかだ!」
そう言った城太郎は走り出していた。彼には策があるのだろう、色々な部活の助っ人として駆り出された彼は意外と頭が切れるのだ。だがタツヤは彼を止めようと手を伸ばす。しかし、伸ばされた手は逆に城太郎に掴まれた。
「安心しろよ。俺は…」
それは立向居 城太郎が今の彼である為の原点。悪戯でしか自分を出せなかった不器用で自信の無い自分を変えた一言。
『それに、もしも迷いそうな時があったら、』
だからこそ、見ていて欲しい。
変わった自分を、これからの自分を。
こんな俺でも変われたんだと、だからお前だって変われるんだと、お前だって夢を見つけられるんだと、そう伝えたい。
一番の“親友”に向けて最高の笑顔で振り返る。
何故なら俺は…
『…一つに決めないで、色んな事ができる“エキスパート”になればいいんだよ』
「俺はチャンスを作る、エキスパートだっ!」
タツヤの手を離し城太郎は走り出す。見たところドリモゲモンはカケモンの足音を感知して攻撃しているようだ。そして厄介なのは鼻先のドリル。あれがある限りドリモゲモンは攻撃と潜るという行為をやめないのだろう。城太郎はそこまで理解すると一直線にある物を引っ張り出す。それは野球の練習で使われる防球ネット。城太郎は力の限り引っ張り出しカケモンのいるグランドにいくつもそれを倒した。こっちだ、と息切れながらもカケモンに呼びかけると彼は城太郎の意図を理解して跳躍し、ネットの上へと着地。そしてすぐさま全力で真上へと跳んだ。
「グルルルル!?」
「よっしゃあ!」
城太郎の読み通り、ドリモゲモンは地表へとドリルを出して攻撃してきた。だが先程とは違い、そこにはネットがある。一つだけなら問題ないが複数となると…鼻先のドリルに乱雑に巻き付き混乱する。それを確認すると城太郎はタツヤの方へ振り向く。気が抜けたような顔をしたタツヤはすぐさま気を引き締めると最近手にした力を使い出した。
「セットアップ、ジエスモン!」
ジエスモンのカードを読み取りカケモンへと光を放つ。するとカケモンは一瞬で元の姿に戻り再び変化を始めた。
細身の肉体に成長し変形した兜を装着。手足胴体へと鎧が装着されると飛び上がり腰に赤いマントを、後頭部に刃がついたコードを装着。飛来した短剣を手に取り着地、正面を交差するように切り裂く。
「アップグレード!カケモン ver.ジエス!!」
ver.ジエスとなったカケモンは身動きができないドリモゲモンを引っ張り出し乱暴に放り投げる。ドスン、と大きな音を上げた先にいるドリモゲモンはひっくり返り、再び自由を奪われた。
「さっきは世話になっちまったからな。今度はオレがやってやるよ!」
そう言って既に後頭部のパーツと短剣を合体させたランサーJを手にし、カケモンはver.オメガよりもさらに上へと飛び上がる。そしてドリモゲモンの真下へと落下しながらアト、ルネ、ポルを具現化させ構えを取った。
「武槍乱舞ゥ!!!」
「グルゥゥゥ!!」
瞬きの間に繰り出される無双の突きにドリモゲモンは断末魔を上げる。そしてカケモンが着地する頃には、ドリモゲモンは既に粒子となり消えて言った。
「へへ、やったぜ…ぶへらっ!!?」
振り返ったカケモンの胸にいつのまにか出てきたワレモンのドロップキックが決まる。
そして始まるいつもの流れ…それを横目で見ながらも、タツヤは目の前に来た城太郎に目を向けた。そして彼はゆっくりと腕を上げ、親指を立てタツヤに向かい真っ直ぐ突き出す。その事にタツヤは呆れを半分含ませながらも笑い、その手にポン、と手を添えたのだった。
その後、アサヒにも伝えた通りに城太郎にデジモンの事を伝えた。プールで見た水竜、もといシードラモンもデジモンだと教えられ驚いたがすぐに納得。こういうところは呑み込みが早いのである。
そして、
「お前何かと詰めが甘いからさ、こういう時人手いるだろ?女子の沢渡にばっかやらせるのもアレだしな。つーわけで俺もお前らの手伝いをするって事でよろしく!」
「…ダメって言ってもやるんだよね?」
「あったりまえだろ?なんたって俺は…」
いつもと変わらない顔で、いつもと変わらない笑顔で、城太郎はタツヤを見る。そしてタツヤは再確認した。彼は自分の“いつも”に欠かせない一人なんだと。
何がどうであれ、彼は初めての親友なのだと。
「なんでもやれるエキスパートだからな!」