第一ステージをクリアしたジェイドたちは、第二ステージへと足を踏み入れた。
そこに広がるのは漆黒の闇であり、無数の隕石群が辺りに漂う。
ステージ名は宇宙ステージ(デブリ宙域)。
遮蔽物が多いこのフィールドでは、ガンプラの性能のみならず、正確な空間把握能力と高い操縦技術が求められる場所である。
「うわ、なにこの岩!スッゴい邪魔!」
「確かにこれでは高速で移動することも、攻撃を命中させることも難しいかも知れませんね」
モモが明らかにげんなりするなか、ジェイドの態度は至って普通だ。
現状を再認識し、ただ事実を語っているに過ぎない。
そんなジェイドにモモは訝しげに話しかける。
「大丈夫なの?ケモミミ・ドックは大きいし動きづらいと思うけど」
「おお!私を心配してくださるのですか!このジェイド、その言葉だけで力が湧いてきます」
モニター越しに深々と頭を下げるジェイド。
「あ~!そーゆーことじゃなくてぇ!」
「分かっておりますよ。たとえどのような場所で、どのようなガンプラに乗っていたとしても、やりようはいくらでもあります。私のやるべきことに変わりはありません」
「はぁ~……」
きっぱりいい放つ目の前の男を見て、モモはガックリ項垂れながら安心のような、諦めのような心情でため息を突く。
「そりゃそうだよね。わたしも自分のやんなきゃいけないことくらいわかってるから。一生懸命頑張ろう!」
「その通りです。私も全身全霊をかけて……」
ジェイドが言いかけたとき、ディスプレイに『ステージ2』の文字が浮かぶ。
「よーし!気合い入れていくよ!」
ついに始まった戦いの合図に二人はいっそう気を引き締める。
ただジェイドは一人『あなたのケモミミを愛でて見せます!』と言いたかったのを邪魔され、少しだけしょんぼりするのであった。
気合い十分に前に進むものの視界にあるのは岩ばかり。
敵の機体も確認出来ぬまま暗礁宙域も中程ぐらいまで来てしまった。
「敵全然見えないんだけど、どこにいるんだろう?」
「これだけの遮蔽物がありますからね。これほど移動しているにも関わらず見つからないのは、恐らく何処かで待ち伏せているのでしょう」
息を潜め、獲物が来るのをじっと待つ。
消極的な戦いかただが、このフィールドではかなり有効だ。
奇襲で大事なのは先手を取ること。
いかに相手を早く捕捉できるかが重要となってくる。
当然、移動していれば発見されやすいし、じっと隠れていれば見つかりにくい。
その点で考えれば動きまわるジェイドたちが不利だ。
だが、ジェイドたちに隠れ潜むのは性に合わない。
ガンプラバトルに重要なのは、自分のスタイルを貫くこと。
この二人のスタイルはと言えば、ジェイドにとってのケモミミ、モモにとっての可愛らしさである。
「も~!隠れてないで出てこ~い!」
じたばた暴れるモモカプル。
非常に愛らしいが、あまりよろしくない行動だ。
「まぁまぁモモ様、もう少しじっくり探し……!」
その時、ジェイドのケモミミがビクリと動き、異常を知らせる。
「モモ様!下がって下さい!」
言葉と同時にケモミミ・ドックはその姿を変えていく。
左右のクローアームは胴体下部へ、頭部はせり上がり、胴体へ収納されていた部分が露出する。
頭部は左腕のシールドとなり、収納されていた細身の胴体と巨大な鉤爪になっている右腕が現れる。
そして新たな頭部が出てきたことで、そのシルエットは
これがケモミミ・ドックのもうひとつの姿、MS形態だ。
シールドとなった元頭部を前面に構えながら、モモカプルを庇うように立ちふさがる。
「え!前から高エネルギー反応!」
「KM3フィールド全開!」
迫り来るエネルギーの奔流を前にして、万全の状態で立ち向かうジェイド。
そして到来した衝撃は、二人のの想像を絶するほどの威力を持っていた。
「きゃ~!」
「くっ!」
シールドのケモミミから発生しているKM3フィールドは、ケモミミ・ドックの機体前方をすっぽりと覆い巨大ビームをなんとか防いでいる。
当然その後ろに隠れているモモカプルにも被害はない。
だが、モモは突然の出来事に気が動転し、ジェイドもまた、予想以上の威力に舌を巻く。
しばらくするとビームはその威力を徐々に弱めていき最後には何事もなかったように消えた。
どうやら敵機からの攻撃が止まってくれたようだ。
しかし、安心してもいられない。
即座にジェイドはKM3フィールドを解除し、シールドのケモミミを攻撃された方向へと向け、エネルギーを収束させていく。
「モモ様!急ぎこの場を離れます!私の攻撃後、MA形態になったケモミミ・ドックへ掴まってください!」
「わ、わかった!」
ジェイドにいつものマイペースさがない。
その余裕のなさが、モモにも伝わり素直に返事をする。
モモの了解の言葉を聞いた瞬間、ケモミミが唸りをあげる。
「拡散KM3粒子砲、発射!」
瞬間、ケモミミ・ドックは数条の光の線を迸らせた。
その結果、周囲にあったデブリが粉々に砕けちり辺りにその残骸を撒き散らす。
かなりの視界不良と粉塵による電波障害によって、目の前すらよく見えないし、レーダーもきかない。
だが、さすがにケモミミ・ドックの巨体を見失うことはなく、モモカプルは急ぎ大きな機体にしがみつく。
それを確認したジェイドはブースターを目一杯吹かし、この場から離脱する。
敵の一体は超長距離からの射撃にて獲物を狙うスナイパータイプだ。
ひとところに留まるなど愚の骨頂。
ただ解せないのは、視認できない場所からどうやってこちらの場所をつかんだか。
「……先程攻撃した時、デブリとは違う何かの手応えを感じたような……」
ジェイドは一人呟きながら違和感の元は何か考える。
その"何か"がヒントになるかもしれない。
ほんとはあの場を調べたいが、そうもいかない。
だからジェイドは思索を続けるのだ。
その行き着く先は結局ケモミミに行き着くのだが。
それはそれとして、今は一刻も早くここを離れなければと、慌ただしく移動するジェイドたちであった。
「仕留めたか?」
青いガンプラから落ち着いた声がする。
それはガンプラ自体が巨大なビームキャノンとなり、デブリのひとつに固定された異様な機体だ。
「いや、どうやら防ぎきったようだぜ。ふざけたナリしたわりに案外やるな」
相方の質問に嬉しそうに答える男のガンプラは赤い。
こちらも負けず劣らずの異様さで、左右の肩から腕がとにかくデカイ。
「……索敵は慎重に行えよ。その機体、メリクリウスパワードの完成度は高いが、ダイバーが大雑把なお前じゃな。あぁ心配だ」
「わ~ってるって。バトルに手抜きも油断もしねーよ。それにおまえさんのヴァイエイトシャープが、次こそ仕留めるって信じてっからよ」
ニカっと笑う赤いガンプラ、メリクリウスパワードのダイバー。
それを見てやれやれといった感じで肩を竦める青いガンプラ、ヴァイエイトシャープのダイバー。
彼らがジェイドたちの対戦相手であり、先程の長距離砲撃を仕掛けたのも当然彼らだ。
初撃で落とすつもりがアテが外れてしまったわけだ。
それからしばらくは、注意深くジェイドたちを探したが姿を表す気配がない。
周囲の警戒はしつつも、会話に花を咲かせている。
「さて、奴さんはどうでるかね。俺としちゃあ、潔く突っ込んで来てくれっと嬉しいが」
「ないな。砲撃を受けてからの行動に無駄がない。勝つつもりなら、慎重にことを進めるはずだ」
「ちぇ、つまらんね。俺ぁもっと激しいドンパチがしたいんだが」
「ふん、相変わらず暑苦しいやつだ。だいたい、あの砲撃を見て突っ込んでくるのはただのバカだぞ、来るはずがない」
「お、それいっちゃう?んじゃあこう返そうか。"バカは来る!"」
キリッと決める男に、苦笑いが返される。
遊んでないでしっかりやれと、言おうとしたとき状況が動いた。
レーダーに感あり。
しかもいつの間にか目視できる付近まで反応が迫っていた。
「あぁ!どういうこった!俺のばらまいといたセンサーにゃあ、さっきまで何も反応なかったぞ!」
「落ち着け。事実敵はそこまで来ているんだ。ならば見つけて撃ち落とす、それだけだ」
「だがよ、ここまで近づかれてんのに見えねぇってのはおかしくねぇか?」
レーダーを見る限り正面から来ているのはわかる。
だが、それだけだ。
見渡す限りのデブリが辺りを漂っているに過ぎない。
もし、ハイパージャマーやミラージュコロイドといった身を隠すシステムを搭載しているなら、レーダーに捕捉されることもなく、近づくことができただろう。
それが余計に二人を混乱させていた。
だが、ヴァイエイトシャープのダイバーはふと違和感に気付く。
「?あのデブリ……おかしくないか?」
「あ?そういや、何かだんだんデカくなってるような……」
「!」
直後、先程の長距離砲撃を敢行したヴァイエイトシャープが熱を帯始める。
怪しいデブリに狙いを定め、その大経口ビームキャノンが火を吹いた。
だんだん大きく……いや、近づいてきていたデブリはビームキャノンの直撃を受け粉々にに砕け散る。
そして出てくる二つの影。
「わたしたち、こそこそ隠れるのは性に合わないから!」
「正々堂々、正面から参りました」
『岩と一緒に!』
岩から飛び出し通信越しにハモる二人の声。
それを聞いたもう二人は開いた口が塞がらない。
呆けたのは一瞬、すぐさま大きな笑い声が辺りに響き渡る。
「アッハッハッ!マジで来るのかよ!噂をすればなんとやらってか、なぁ相棒!」
「うるさい黙れ。無駄にでかい声でバカ笑いするな、アホ」
「ヘイヘイ、まぁそれはそれとして……」
先程とはうって変わり、トーンを落とした声でジェイドたちに問いかける。
「一つ解せねぇのは、俺のプラネイトサーチャーをどうやってすり抜けてきたかってことだ」
プラネイトサーチャーは、メリクリウスパワードに装備された広域探査兵装だ。
かなりの広範囲を索敵できるので、長距離砲撃戦法の彼らは重宝している。
ただ、だいぶ広範囲をカバーしていて、穴がないわけではない。
しかし、全く引っ掛かることなく自分達のところまでたどり着くのはどうにも不思議でならない。
そう思っての問いかけだった。
自分の情報を軽々しくさらすはずがないので、まともな答えなど期待はしていなかった。
だが、ジェイドは答える。
「ケモミミです」
「は?」
「ケモミミの導きに従ったまでです」
その答えに場が沈黙に支配される。
いつも彼の言動を聞いているモモですら、呆れているのだ。
初めて言葉を交わす者に、彼の癖の強さを理解しろというのは酷と言うものだろう。
「まぁ、補足いたしますと、砲撃予測地点と、砲撃された場所とその後に見つけた探査機の位置から、最も効率的な設置場所を割出し避けて来たということです」
「じゃあそう言ってよ!」
モモが思わず突っ込む。
「アッハッハッ、アイツ、マジヤベーわ!楽しいな、相棒!」
「……向こうも向こうで苦労しているんだな」
さっきまでの緊張感は何処へやら、ついに会い見えた4機のガンプラが今激突する。